説明

レーダ装置

【課題】低速走行時に走査角度範囲を広角化しても、車載用レーダ装置の冷却効率の低下を防止する。
【解決手段】車両レーダ装置において、所定の走査角度範囲で単位角度ごとにレーダ信号を送受信するレーダ送受信機と、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、第1の走査角度範囲内で第1の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記第1の走査角度範囲より広い第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出する目標物体検出手段とを備えることにより、低速走行時に広角を走査しても信号処理量を低減できるので、信号処理装置の温度上昇を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるレーダ装置に関し、特に、車両の走行状態に応じて目標物体を検出する角度範囲を切り替えるレーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載したレーダ装置を用いて先行車両を検出し、所定の車間距離で追従走行する車両制御システムが知られている。かかるシステムにおいては、自車線上の先行車両を追従対象として検出するが、隣接車線から割り込む車両があると、追従対象が変化する。追従対象の変化に迅速に対応するためには、ある程度早い時点で近隣の車両を検出することが望まれる。よって、レーダ装置は左右方向に一定程度広がりのある範囲を走査する。
【0003】
走査すべき左右方向の幅を一定としたとき、その幅に対応する走査角度範囲は検出しようとする目標物体までの距離に応じて変化する。例えば、遠距離にある車両を検出しようとする場合には、走査角度範囲は相対的に狭角になり、反対に、近距離にある車両を検出しようとする場合には、走査角度範囲は相対的に広角になる。
【0004】
一方、追従対象となる先行車両までの距離は、自車両の走行速度により変化する。例えば、自車両が高速走行中は、遠距離の先行車両を追従対象として、広い車間距離を保つ制御が行われる。反対に、例えば渋滞時の低速走行中は、近距離の先行車両を追従対象として、狭い車間距離を保つ制御が行われる。
【0005】
こうしたことから、自車両の走行速度に応じて走査角度範囲を変更することで、左右方向における一定範囲内で追従対象を検出する方法が提案されている。かかるレーダ装置の例が、特許文献1に記載されている。
【特許文献1】特開2003−248055号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
機械走査方式のレーダ装置の場合、アンテナを回動させながらレーダ信号を送受信することで所望の走査確度範囲を走査する。よって、アンテナの回動角度範囲を変化させることで、走査角度範囲を変化することができる。
【0007】
ここで、機械走査方式のレーダ装置は、所定の単位角度ごとに送受信信号を処理し、目標物体からの反射信号を検出する。そして、反射信号が得られた単位角度に基づいて、目標物体の方位角等を検出する。
【0008】
すると、低速走行時に走査角度範囲を広角化するためにアンテナの回動角度範囲を広角化すると、それにつれて信号処理を行う単位角度の数が増加するので、信号処理装置の負荷が大きくなり、回路素子の温度が上昇する。この点、車載用レーダ装置はフロントグリル内などの走行風を受ける箇所に設置され、走行風を利用して冷却される。しかし、低速走行時には走行風が少なくなるので、冷却効率が低下する。すると、信号処理装置の誤動作や回路素子の損傷のおそれがある。かといって、冷却用のファンなどを設けることは、設置スペースやコストの制約から困難である。
【0009】
そこで、上記問題に鑑みてなされた本発明の目的は、低速走行時に走査角度範囲を広角化しても、冷却効率の低下を防止する車載用レーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面におけるレーダ装置は、車両に搭載されるレーダ装置であって、所定の走査角度範囲内で単位角度ごとにレーダ信号を送受信するレーダ送受信機と、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、第1の走査角度範囲内で第1の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記第1の走査角度範囲より広い第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出する目標物体検出手段とを有することを特徴とする。
【0011】
上記側面の好ましい態様によれば、前記レーダ送受信機は、前記第1、第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度ごとにレーダ信号を送受信し、前記目標物体検出手段は、前記第2の走査角度範囲内では、前記第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出することを特徴とする。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の第2の側面におけるレーダ装置は、車両に搭載されるレーダ装置であって、前記車両の走行速度が第1の速度のときには、第1の走査角度範囲内でレーダ信号を送受信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記第1の走査角度範囲より広い第2の走査角度範囲内でレーダ信号を送受信するレーダ送受信機と、前記第1、第2の走査角度範囲内で送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出する目標物体検出手段とを有し、前記走行速度が前記第1の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を第1の電力、前記走行速度が前記第2の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を前記第1の電力より小さい第2の電力に変化させる送信電力制御手段をさらに有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
上記第1の側面によれば、目標物体検出手段は、高速走行するときの狭角な走査角度範囲内では小さい単位角度、低速走行するときの広角な走査角度範囲内では広い単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出するので、広角な走査角度範囲における信号処理量を減らすことができ、走行風が少ない低速走行時であってもレーダ装置の温度上昇を抑制できる。また、低速走行時には近距離の目標物体を検出するので、大きい単位角度ごとに送受信信号を処理したとしても、目標物体の反射断面積の単位量あたりに処理される反射信号の数は遠距離の場合と変わらない。よって、目標物体の検出精度低下を防止できる。
【0014】
上記の好ましい態様によれば、前記レーダ送受信機は、前記第1、第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度ごとにレーダ信号を送受信するので、走査角度範囲ごとにレーダ信号を送受信する角度単位を変更することなく、同じ制御動作でレーダ信号を送受信できる。そして、前記目標物体検出手段は、前記第2の走査角度範囲内では、前記第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出するので、信号処理量を低減でき、レーダ装置の温度上昇を抑制できる。
【0015】
上記第2の側面によれば、送信電力制御手段は、前記走行速度が前記第1の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を第1の電力、前記走行速度が前記第2の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を前記第1の電力より小さい第2の電力に変化させるので、低速走行するときに検出範囲を広角化しても、レーダ信号の送受信にかかる消費電力を削減することでレーダ装置の温度上昇を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0017】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。レーダ装置10は、車両1の前部フロントグリル内に搭載され、車両1のフロントグリルに設けられるレドームを透過してレーダ信号を送受信し、車両前方の走査角度範囲αをレーダ信号で走査する。レーダ装置10が先行車両を検出すると、先行車両の情報は車両1の車両制御システム(図示省略)に供給される。そして、車両制御システムが車両1を加減速することで、車両1は所定の車間距離で先行車両に追従走行する。
【0018】
また、レーダ装置10は、フロントグリルを介して走行風を受けるように設置される。よって、レーダ装置10が動作することでその内部の信号処理装置の温度が上昇しても、走行風により冷却される。
【0019】
図2は、レーダ装置10の走査角度範囲を示す平面図である。レーダ装置10は、先行車両や割り込み車両を検出するために、左右方向に一定の幅W(例えば平均的な車線幅+1〜2メートル)の範囲を走査する。ここで、車両1が高速走行するときは、遠距離の先行車両2aや割り込み車両3aを検出する。このとき、前記一定幅Wは走査角度範囲βに対応する。よって、レーダ装置10は、比較的狭い走査角度範囲β内で目標物体を検出する。一方、車両1が低速走行するとき(例えば渋滞時)は、近距離の先行車両2bや割り込み車両3bを検出する。このとき、前記一定幅Wは走査角度範囲αに対応する。よって、レーダ装置10は、比較的広い走査角度範囲α内で目標物体を検出する。
【0020】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。レーダ装置10は、アンテナ12を回動させることで図1に示した走査角度範囲α内をレーダ信号で走査する、機械走査方式のレーダ装置である。レーダ装置10は、アンテナ12を駆動させるモータ30とモータ30の駆動回路28とを備えるとともにアンテナ12にレーダ信号を送受信させて送受信信号の周波数差を有するビート信号を生成するレーダ送受信機10aと、ビート信号を処理して目標物体を検出する信号処理装置14とを有する。
【0021】
まず、レーダ信号送受信機10aの各部について説明する。アンテナ12には、レーダ信号を送信する送信アンテナ素子12Tと、物体により反射された反射信号を受信する受信アンテナ素子12Rとが設けられる。送信アンテナ素子12Tは、アンテナパターンに応じたビーム幅のレーダ信号を形成して、アンテナ12の前方に送出する。
【0022】
モータ30は、不図示のクランクによりアンテナ12と連結され、アンテナ12を走査角度範囲α内で往復して回動させる。このとき、駆動回路28は、信号処理装置14からの指示信号に応答してモータ30に駆動信号を入力する。また、エンコーダ32は、アンテナ12の回動角度に対応したパルス信号を信号処理装置14に入力する。このパルス信号から、アンテナ12の回動角度が検出される。
【0023】
変調信号生成部16は、信号処理装置14からの指示信号に応答して、三角波状の周波数変調信号を生成し、電圧制御発振器(VCO)18に入力する。するとVCO18は、三角波の上昇区間で周波数が漸増し、三角波の下降区間で周波数が漸減する周波数変調が施されたミリ波長の送信信号Stを出力する。そして分配器20が送信信号Stを電力分配し、その一部Stを送信電力増幅器40に入力する。そして、送信電力増幅器40は、送信信号Stを増幅して送信用アンテナ素子12Tに出力する。
【0024】
送信電力増幅器40は、FETを能動素子とする多段アンプ40aを備える。各アンプは、ソースに入力された信号を、ゲート電圧、ドレイン電圧により増幅してドレインから出力することで、送信信号Stを多段式に増幅する。また、送信電力増幅器40は、信号処理装置14からの指示信号に応答して送信電力を制御する。具体的には、送信電力増幅器40は、後段のアンプへのドレイン電圧を接断する機能を備え、ドレイン電圧を接断することで送信電力を増減させる。
【0025】
ミキサ22は、受信信号Srと、電力分配された送信信号Stの一部とを混合して、送信信号Stと受信信号Srの周波数差に対応する周波数のビート信号Sbを生成する。そしてA/D変換器24がビート信号Sbをサンプリングしてデジタルデータに変換する。
【0026】
デジタルデータは、信号処理装置14に取り込まれる。また、信号処理装置14には、車両1の車速センサが取得した走行速度が入力される。
【0027】
ここで、信号処理装置14の構成について説明する。信号処理装置14は、ビート信号Sbのデジタルデータに対し高速フーリエ変換(FFT)処理を実行するためのDSP(Digital Signal Processor)などの演算処理装置を有する。この演算処理装置が、FFT手段14aに対応する。さらに、信号処理装置14は、CPU(Central Processing Unit)と、CPUが実行する各種処理プログラムや制御プログラムが格納されたROM(Read Only Memory)と、CPUが各種データを一時的に格納するRAM(Random Access Memory)とを有する周知のマイクロコンピュータを有する。そして、このマイクロコンピュータがレーダ送受信機10aの制御と、FFTされたビート信号の処理を行う。すなわち、変調信号生成部16に対する周波数変調の指示や送信電力増幅器40に対する送信電力増減の指示を行う送受信制御手段14b、車両の走行速度を検出する走行速度検出手段14c、及び、ビート信号を処理して前記目標物体を検出する目標物体検出手段14dは、それぞれの動作手順を記述したプログラムと、それに従って動作するCPUにより構成される。ここで、目標物体検出手段14dは、目標物体の方位角、相対速度、相対距離を検出する。
【0028】
検出されたこれらの情報は、図示を省略する車両側の制御装置に出力される。車両側の制御装置は、目標物体の情報に基づいて車両1のブレーキやスロットルといった各種アクチュエータを制御し、車両1を先行車両に追従走行させる。
【0029】
ここで、図4〜図6を用いて、レーダ装置10の動作について説明する。なお、説明の便宜上、まずレーダ装置10が走査角度範囲αを走査する場合に限定して、レーダ装置10の基本動作を説明する。
【0030】
図4(A)は、送信信号Stの時間に対する周波数変化を説明する図である。変調信号生成部16は周波数fmの三角波状の周波数変調信号生成し、VCO18がこれに従って周波数変調した送信信号Stを生成するので、送信信号Stの周波数は、周期1/fm、周波数偏移幅ΔF(中心周波数f0)で直線的な上昇と下降とを反復する。以下では、周波数が上昇する期間UPをアップ期間、周波数が下降する期間DNをダウン期間という。
【0031】
図4(B)は、アンテナ12の回動角度と、送信信号Stの周波数変化の対応関係を示す図である。アンテナ12が角度範囲αを往復して回動するとき(レーダ装置10の前方正面を0度とする)、単位角度θにつき1対のアップ期間とダウン期間とが対応するように、アンテナ12の回動と送信信号Stの周波数変調が同期される。そして、目標物体が存在する単位角度においては、アンテナ12により反射信号が受信される。
【0032】
以下では、1対のアップ期間とダウン期間での送受信信号を総称して1本のビームという。よって、レーダ装置10は、単位角度θごとに、1本のビームを得る。
【0033】
図5は、目標物体からの反射信号を受信したときの受信信号Srと送信信号Stとの対応関係を示す図である。各信号について、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)を示す。実線で示す送信信号Stの周波数に対し、破線で示す受信信号Srの周波数は、目標物体との相対距離による遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラ効果による周波数偏移ΔDを受ける。その結果、アップ期間では周波数fu、ダウン期間では周波数fdの周波数差が生じる。
【0034】
よって、両者を混合して得られるビート信号Sbの周波数は、図5の下段に示すように変化する。すなわち、1本のビームを処理することで、1対のアップ期間のビート信号の周波数fuと、ダウン期間のビート信号の周波数fdが得られる。そして、これらの周波数からは、次の公知の数式により、目標物体の相対速度Vと相対距離Rが得られる。ただし、fuはアップ期間のビート信号の周波数、fdはダウン期間のビート信号の周波数であり、Cは光速、fmは三角波の周波数、f0は送信信号Stの中心周波数、ΔFは周波数偏移幅である。
【0035】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm)
V=C・(fd−fu)/(4・f0)
図4、図5で示したように、レーダ装置10は、走査角度範囲αを走査することで、目標物体が存在する単位角度においては目標物体の相対速度と相対距離とを反映した周波数の反射信号を受信する。そして、目標物体が存在する単位角度においては、他の単位角度より強いレベルの受信信号が得られる。
【0036】
よって、信号処理装置14は、走査角度範囲α内の単位角度ごとのビームから生成されるビート信号を解析することで、その強度の分布から目標物体が存在する方位角を求めることができ、周波数からは目標物体の相対距離、相対速度を求めることができる。
【0037】
図6は、信号処理装置14の基本的な動作手順を示すフローチャート図である。図6の手順は、レーダ送受信機10aが走査角度範囲αをレーダ信号により1回走査するごとに実行される。
【0038】
送受信制御手段14bは、変調信号生成部16に変調信号の出力を指示し、レーダ送受信機10aにレーダ信号を送信させる(S10)。
【0039】
そして、FFT手段14aは、ビームごとのビート信号に対しFFT(高速フーリエ変換)処理を行い、アップ期間、ダウン期間ごとに周波数スペクトラムを検出する(S20)。
【0040】
そして、目標物体検出手段14dが、走査角度範囲αにおいて信号レベルが極大値を形成する角度を目標物体の方位角として検出する(S30)。そして、目標物体検出手段14dは、アップ期間で検出した方位角とダウン期間で検出した方位角とが近似するビート信号の対を対応付けする(S40)。そして、対応付けされたビート信号のアップ期間の周波数とダウン期間の周波数を用いて、目標物体の相対速度、相対距離を求める(S50)。そして、検出結果の履歴接続に基づいて出力可否を判断し(S60)、出力可と判断した目標物体の情報を車両側の制御システムに出力する(S70)。
【0041】
ここで、上述したレーダ装置10の基本的な動作に基づき、本実施形態におけるレーダ装置10の動作について説明する。
【0042】
レーダ装置10は、車両1の追従対象を検出するために走査を行うが、図2で示したように、追従対象となる先行車両の距離と走査角度範囲は、車両1の走行速度により異なる。すなわち、車両1が高速走行するときは、遠距離の先行車両や割り込み車両を検出するために比較的狭い走査角度範囲β内で目標物体を検出し、一方、車両1が低速走行するとき(例えば渋滞時)は、近距離の先行車両や割り込み車両を検出するために、比較的広い走査角度範囲α内で目標物体を検出する。
【0043】
このとき、信号処理装置14が走査角度範囲αの全ビームに対し上述した処理を行うと、処理負荷の増加に伴い回路素子の温度が上昇する。レーダ装置10は、車両1の走行風により冷却されるが、低速走行時には走行風が少ないため、冷却効率が悪くなる。すると、信号処理装置14が誤動作したり、回路素子が損傷したりする。よって、本実施形態では、低速走行時には信号処理装置14の処理負荷を軽減させることにより温度上昇を抑え、かかる問題を解決する。
【0044】
図7は、本実施形態の第1の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図7の手順は、図6で示した手順S20からS50を代替するものである。また、図8は、信号処理装置14が処理するビームを示す図である。図8には、単位角度θごとのビームが実線または点線で示される。
【0045】
まず、図7に示すように、走行速度検出手段14bは、車両1の走行速度を車速センサから取得する(S12)。そして、走行速度が基準値以上、すなわち高速走行のときには(S14のYES)、FFT手段14aは、走査角度範囲β内のビームに対して、FFT処理を行う(S20a)。そして、目標物体検出手段14dは、走査角度範囲β内で方位角検出処理(S30a)、ビート信号周波数の対応付け(S40a)、及び、相対距離・相対速度検出処理(S50a)を行う。このとき、図8に示すように、走査角度範囲β内の単位角度θごとの全ビームbm_βに対して、これらの処理を行う。
【0046】
一方、走行速度が基準値未満、すなわち低速走行のときには(S14のNO)、FFT手段14aは、走査角度範囲α内のビームに対して、FFT処理を行う(S20b)。そして、目標物体検出手段14dは、走査角度範囲α内で方位角検出処理(S30b)、ビート信号周波数の対応付け(S40b)、及び、相対距離・相対速度検出処理(S50b)を行う。このとき、図8に示すように、走査角度範囲α内の単位角度2θごとのビームbm_α(実線で表示)に対して、これらの処理を行う。すなわち、ビーム本数を間引いて処理を行う。
【0047】
すなわち、第1の実施例では、高速走行時、低速走行時ともに、レーダ装置10は、走査角度範囲αの全単位角度においてビームを送受信し、信号処理装置14が処理するときに上記手順に従い処理するビーム本数を変化させる。そうすることで、広い走査角度範囲α内で目標物体を検出する際に、信号処理装置14の処理負荷を軽減できる。よって、低速走行時に走行風が少ない場合であっても、信号処理装置14の温度上昇を抑えることができ、冷却効率が低下することによる誤動作や損傷を防ぐことができる。
【0048】
また、低速走行時には近距離の目標物体Tαを検出するので、大きい単位角度(2θ)ごとに送受信信号を処理したとしても、目標物体の反射断面積の単位量あたりに処理される反射信号の数は、遠距離にある同サイズの目標物体Tβの場合と変わらない。よって、目標物体の検出精度低下を防止できる。
【0049】
なお、変調信号生成部16が変調信号の周期を走行速度に応じて変化させることで、高速走行時には走査角度範囲βにおいて単位角度θごとにビームを送受信し、低速走行時には走査角度範囲αにおいて単位角度2θごとにビームを送受信してもよい。その場合でも、結果的に信号処理装置14の処理負荷を軽減できるので、上記同様の作用効果を奏することができる。
【0050】
なお、第1の実施例において、走査角度範囲α内で目標物体を検出するときのビームの間引き方は、全体として信号処理装置14の処理負荷が低減できれば上記の例に限られない。例えば、3θごと、4θごとであってもよい。さらに、上記の説明では、走行速度を2段階に分け、2つの走査角度範囲を対応付けているが、3段階以上に分けることも可能である。さらに、走行速度に応じて走査角度範囲とビーム処理を行う角度単位を動的に変更するような演算を信号処理装置14に実行させることも可能である。
【0051】
次に、本実施形態における第2の実施例を説明する。第2の実施例では、レーダ装置10は、送信電力を低下させることにより、低速走行時に広角を走査するときのレーダ送受信機10aの温度上昇を抑える。そうすることで、レーダ送受信機10aの回路部品や、近接する信号処理装置14が熱による影響で誤動作したり、損傷したりすることを回避できる。さらに、近年、米国においていわゆるFCC(連邦通信委員会)法規により低速走行時や停車時の送信電力が一定以下に規制されているが、第2の実施例によればかかる規制に適合した制御を行うことが可能となる。
【0052】
図9は、本実施形態の第2の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。図9の手順は、図6で示した手順S10からS50を代替するものである。また、図10は、送信電力増幅器40の詳細な構成を説明する図である。図11は、送信電力増幅器40の特性を示す図である。
【0053】
まず、図9に示すように、走行速度検出手段14cが、車両1の走行速度を車速センサから取得する(S7a)。そして、走行速度が基準値以上、すなわち高速走行のときには(S8のYES)、送受信制御手段14bは、送信電力を所期の電力にするように送信電力増幅器40を制御して、レーダ信号を送受信する(S10a)。このとき、走査角度範囲αの全単位角度ごとにビームを送受信する。
【0054】
そして、FFT手段14aは、走査角度範囲β内のビームに対して、FFT処理を行う(S20a)。そして、目標物体検出手段14dは、走査角度範囲β内で方位角検出処理(S30a)、ビート信号周波数の対応付け(S40a)、及び、相対距離・相対速度検出処理(S50a)を行う。
【0055】
一方、走行速度が基準値未満、すなわち低速走行のときには(S8のNO)、送受信制御手段14bは、送信電力を低下させるように送信電力増幅器40を制御して(S9)、走査角度範囲αの全単位角度ごとにレーダ信号を送受信する(S10b)。
【0056】
そして、FFT手段14aは、走査角度範囲α内のビームに対して、FFT処理を行う(S20b)。そして、目標物体検出手段14dは、走査角度範囲α内で方位角検出処理(S30b)、ビート信号周波数の対応付け(S40b)、及び、相対距離・相対速度検出処理(S50b)を行う。
【0057】
このときの送信電力増幅器40の動作を図10、図11を用いて説明する。まず、図10に示すように、送信電力増幅器40は、車載電源から電源供給を受けて定電圧を出力し、多段アンプ40aの各ドレインにドレイン電圧DVを供給するドレイン電圧供給回路41と、多段アンプ40aの最終段のアンプへのドレイン電圧供給を接断可能なスイッチSWとを有する。スイッチSWは、信号処理装置14の送受信制御手段14bが生成する指示信号Con_Sに応答して開閉される。また、多段アンプ40aの各ゲートには、信号処理装置14からゲート電圧GVが印加される。
【0058】
図11(A)は、多段アンプ40aのすべてのアンプに対して印加されるゲート電圧GVに対する送信信号Stのレベル変化の一例を示す。図示するように、ゲート電圧GVがtGVを超えると、送信信号Stが一定レベルSLで飽和状態となり安定する。よって、信号処理装置14からのゲート電圧GVは、tGVを超える値に設定される。
【0059】
また、図11(B)は、多段アンプ40aのすべてのアンプに対して印加されるドレイン電圧DVに対する送信信号Stのレベル変化の一例を示す。実線で示すパターンと点線で示すパターンは、各アンプのゲート幅が異なる場合を示す。図示するように、ドレイン電圧DVがtDVを超えると、いずれのパターンでも送信信号Stが一定レベルSLで飽和状態となり安定する。よって、ドレイン電圧供給回路41は、tGVを超えるドレイン電圧DVを多段アンプ40aのすべてのアンプに対し印加する。
【0060】
送受信制御手段14bからの指示信号Con_Sに応答してスイッチSWが閉じているときは、上記のようなドレイン電圧DVとゲート電圧GVとが印加されることにより、多段アンプ40aは送信信号Stを一定レベルSLまで増幅されてアンテナ素子12Tに出力する。すなわち、送信電力増幅器40は、送信電力を所期の電力になるように制御する。
【0061】
一方、指示信号Con_Sに応答してスイッチSWが開放されると、最終段のアンプへのドレイン電圧がオフされる。しかし、送信信号Stはミリ波長の高周波であるので、漏れ電力が最終段のアンプを通過して送信信号Stとして出力される。その場合の送信信号Stのレベル変化が、図11(B)において矢印PLが指し示す実線で表される。このように、送信電力が減衰するので、結果として送信電力を低減する制御が実行される。
【0062】
なお、前段のアンプでドレイン電流の出力が飽和状態に達する構成であれば、後段のどのアンプのドレイン電圧をオフにするかは任意に決定できる。
【0063】
このように、第2の実施例によれば、送信電力を低下させることにより、低速走行時に広角を走査するときの電力消費量を低減でき、レーダ装置10の温度上昇を抑えることが可能となる。また、上記のような送信電力増幅器40の構成によれば、例えば、送信信号の出力経路を複数にして、それぞれの経路に増幅率が異なるアンプを設ける構成よりも回路規模を小型化できる。
【0064】
なお、第2の実施例において、走行速度に基づいて送信電力増幅器40を制御する送受信制御手段14bと、これに応答して送信電力を変化させる送信電力増幅器40とが、「送信電力制御手段」に対応する。
【0065】
上述したとおり、本実施形態によれば、車両が低速走行するときに広角な走査角度範囲で走査を行う際に、レーダ装置10の温度上昇を抑えることができる。よって、レーダ装置10の誤動作や回路部品の損傷を回避できる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】レーダ装置10の走査角度範囲を示す平面図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の構成を説明する図である。
【図4】送信信号Stの変調周期とアンテナ12の回動動作Stの関係を示す図である。
【図5】目標物体からの反射信号を受信したときの受信信号Srと送信信号Stとの対応関係を示す図である。
【図6】信号処理装置14の基本的な動作手順を示すフローチャート図である。
【図7】本実施形態の第1の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【図8】信号処理装置14が処理するビームを示す図である。
【図9】本実施形態の第2の実施例における信号処理装置14の動作手順を示すフローチャート図である。
【図10】送信電力増幅器40の詳細な構成を説明する図である。
【図11】送信電力増幅器40の特性を説明する図である。
【符号の説明】
【0067】
10:レーダ装置、10a:レーダ送受信機、14:信号処理装置、14b:送受信制御手段、14c:目標物体検出手段、40:送信電力増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるレーダ装置において、
所定の走査角度範囲内で単位角度ごとにレーダ信号を送受信するレーダ送受信機と、
前記車両の走行速度が第1の速度のときには、第1の走査角度範囲内で第1の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記第1の走査角度範囲より広い第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度より広い第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出する目標物体検出手段とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記レーダ送受信機は、前記第1、第2の走査角度範囲内で前記第1の単位角度ごとにレーダ信号を送受信し、
前記目標物体検出手段は、前記第2の走査角度範囲内では、前記第2の単位角度ごとに送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
車両に搭載されるレーダ装置において、
前記車両の走行速度が第1の速度のときには、第1の走査角度範囲内でレーダ信号を送受信し、前記走行速度が前記第1の速度より遅い第2の速度のときには、前記第1の走査角度範囲より広い第2の走査角度範囲内でレーダ信号を送受信するレーダ送受信機と、
前記第1、第2の走査角度範囲内で送受信されたレーダ信号に基づいて目標物体を検出する目標物体検出手段とを有し、
前記走行速度が前記第1の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を第1の電力、前記走行速度が前記第2の速度のときに前記レーダ信号の送信電力を前記第1の電力より小さい第2の電力に変化させる送信電力制御手段をさらに有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかにおいて、
前記レーダ送受信機は、所定のビーム幅のレーダ信号を送受信するとともに指向方向が可変のアンテナを有し、前記アンテナが回動するときに前記第1、第2の走査角度範囲内で前記レーダ信号を送受信することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記車両の走行風により冷却されることを特徴とする前記レーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−38731(P2010−38731A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−202084(P2008−202084)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】