説明

レーダ装置

【課題】陸や物標からのエコーを残し、雨雪反射のみを良好に抑圧することができるレーダ装置を提供する。
【解決手段】レーダ装置は、区間判定部11を備える。区間判定部11は、受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、所定の距離範囲内の受信データを抽出し、当該抽出された受信データに基づいて、当該距離範囲が「陸/物標区間」であるか「雨雪/ノイズ区間」であるかを判定する。このレーダ装置は、受信データに含まれる雨雪反射を、雨雪反射除去閾値に基づいて抑圧するように構成される。内部データ根拠閾値算出部14は、「雨雪/ノイズ区間」であると判定された距離範囲についてのみ、当該距離範囲内の受信データに基づいて、当該距離範囲に対する雨雪反射除去閾値としての内部データ根拠閾値を求める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーダ装置において雨雪反射を抑圧するための構成に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置においては、物標や陸からのエコー(反射波)のほか、波からのエコー(海面反射)や、雨や雪からのエコー(雨雪反射)がアンテナで受信される。そこで、このような不要な反射波(クラッタ)を除去する技術が各種提案されている。特に雨雪反射は、自船位置からの距離だけでなく、天候により受信データの信号レベルが大きく変動するため抑圧が困難であり、従来から雨雪反射の抑圧技術が各種提案されている。例えば船舶機器レーダにおいては、雨雪反射を抑圧する手法として、レンジ方向の微分処理(FTC:Fast Time Constant)や、LOG/CFAR(一定誤警報率:Constant False Alarm Rate)などが知られている。
【0003】
一方、特許文献1は、入力信号を所定の閾値(クランプレベル)でクランプし、相関処理を施すことによりランダム性の高い信号(雨雪反射等)を取り除き、物標からの反射信号のみを抽出する構成を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−243842号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、FTC処理では、比較的雨量が少なくて周波数成分が高くなるような雨雪反射を除去することが難しい。逆に、LOG/CFAR処理では、雨量が多くて雨雪反射が強くなった場合、雨雪反射とともに陸エコーも消してしまう問題がある。また、特許文献1の構成では、入力信号をクランプするための閾値が不適切な場合には、雨雪反射を適切に除去することができない場合もあると考えられる。
【0006】
即ち、従来のレーダ装置では、雨雪反射抑圧が十分ではない場合や、雨雪反射以外のエコーを消してしまう場合があった。
【0007】
本願発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、陸や物標からのエコーを残し、雨雪反射のみを良好に抑圧することができるレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0009】
本発明の観点によれば、以下の構成のレーダ装置が提供される。即ち、このレーダ装置は、判定部を備える。前記判定部は、受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、所定の距離範囲内の受信データを抽出し、当該抽出された受信データを用いて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定する。
【0010】
これにより、距離範囲ごとに、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かに応じて、雨雪反射除去の処理を異ならせることができる。従って、距離範囲ごとに適切な雨雪反射除去を行うことができるので、陸や物標からのエコーを残しつつ雨雪反射を良好に抑圧することができる。
【0011】
上記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記判定部は、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルを階級値として累積度数を求め、前記累積度数の所定範囲に対応する前記階級値の幅が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定する。
【0012】
即ち、雨雪反射の信号レベルは、変動の幅が小さい傾向があるため、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が狭くなる。一方、陸や物標からのエコーは、幅広い信号レベルの範囲で検出されるため、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が広くなる。従って、ある距離範囲内の受信データについて、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0013】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記判定部は、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルの最大値と最小値を求め、前記最大値と最小値との差が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定する。
【0014】
即ち、雨雪反射の信号レベルは、変動の幅が小さい傾向があるため、信号レベルの最大値と最小値との差は比較的小さくなる。一方、距離範囲内に陸や物標からのエコーがある部分と無い部分とがある場合、信号レベルの最大値と最小値との差は大きくなる。従って、ある距離範囲内の受信データについて、信号レベルの最大値と最小値との差が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0015】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記判定部は、所定の雨量に対応する雨量レベルをレーダ方程式に基づいて算出するとともに、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルが前記雨量レベルを超える受信データの数を求め、前記雨量レベルを超える前記受信データの数が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定する。
【0016】
即ち、所定の信号レベル以上の雨雪反射が一定数以上検出されることは考えにくい。一方、距離範囲内に大きな陸等がある場合は、所定の信号レベル以上のエコーが連続して検出され得る。従って、所定の雨量レベル以上の信号レベルを示す受信データの数が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0017】
前記のレーダ装置においては、以下のように構成されることが好ましい。即ち、このレーダ装置は、受信データに含まれる雨雪反射を、閾値に基づいて抑圧するように構成される。また、当該レーダ装置は、前記所定の距離範囲ごとに前記閾値を決定する閾値出力部を備える。また、前記閾値出力部は、内部データ根拠閾値算出部を備える。前記内部データ根拠閾値算出部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的であると判定された距離範囲内の受信データに基づいて、当該距離範囲に対する前記閾値としての内部データ根拠閾値を求める。
【0018】
即ち、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲については、当該距離範囲内の受信データに基づいて、当該受信データに含まれる雨雪反射を抑圧するための閾値を適切に算出することができる。
【0019】
前記のレーダ装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記閾値出力部は、閾値補間部を備える。前記閾値補間部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的でないと判定された前記距離範囲についての前記閾値を求める。また、前記閾値補間部は、前記閾値を求めようとする前記距離範囲に隣接した他の距離範囲であって、かつ雨雪反射又はホワイトノイズが支配的であると判定された距離範囲についての内部データ根拠閾値に基づいて、前記閾値を決定する。
【0020】
即ち、雨雪反射を抑圧するための閾値を、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲内の受信データに基づいて算出するのは難しい。この点、本発明のように構成することにより、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲についての閾値を、当該距離範囲内の受信データを用いることなく、隣接する他の距離範囲についての閾値から求めることができる。従って、不適切なデータに基づいた閾値の算出を防止できるため、当該距離範囲において、陸や物標からのエコーは残しつつ、雨雪反射のみを良好に抑圧することができる。
【0021】
前記のレーダ装置は、以下のように構成されることが好ましい。即ち、前記閾値出力部は、閾値決定部を備える。前記閾値決定部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的でないと判定された距離範囲について、レーダ方程式に基づいて算出された雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を前記閾値として採用する。
【0022】
即ち、雨雪反射を抑圧するための閾値を、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲内の受信データに基づいて算出するのは難しい。この点、本発明のように構成することにより、内部データ根拠閾値が算出された距離範囲が隣接していない場合であっても、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲について閾値を決定することができる。また、雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を閾値として用いることにより、陸や物標からのエコーを確実に残すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態に係るレーダ装置の主要構成を示すブロック図。
【図2】雨雪反射抑圧部におけるデータフロー図。
【図3】ヒストグラム総和値カーブの概念図。
【図4】距離範囲内の最大値と最小値との差を説明する図。
【図5】一定雨量レベル曲線の例を示す図。
【図6】距離方向及び方位方向に隣接する距離範囲を説明する模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る船舶用レーダ装置の主要構成を示すブロック図である。なお、本実施形態では船舶用のレーダ装置として説明するが、本発明のレーダ装置の用途が船舶用に限られるものではない。
【0025】
本実施形態のレーダ装置が備えるレーダアンテナ1は、鋭い指向性を持った放射信号(パルス状電波)を放射可能であるとともに、自装置周囲にある陸や物標からのエコー(反射信号)を受信するように構成されている。また、レーダアンテナ1は、所定の回転周期で水平面内で回転しながら、前記信号の送受信を繰り返し行うように構成されている。
【0026】
表示器8は、CRT、LCD等であり、グラフィック表示可能なラスタスキャン式の表示装置として構成されている。
【0027】
ここで、放射信号を放射してからエコーが返ってくるまでに掛かる時間は、レーダアンテナ1から陸又は物標までの距離に比例する。従って、放射信号を放射してから受信信号を受信するまでの時間を動径R、当該信号の送受信を行ったときのアンテナ角度を偏角θとすることにより、陸又は物標の位置をレーダアンテナ1を中心とした極座標系で取得することができる。この極座標系で取得された陸又は物標の位置を平面上にプロットすることにより、レーダ映像を得ることができる。本実施形態のレーダ装置は、前記レーダ映像を前記表示器8に表示することにより、自装置周囲の陸又は物標の様子を確認できるように構成したものである。
【0028】
なお、レーダアンテナ1は、陸や物標からのエコー以外にも、雨や雪からのエコー(以下、雨雪反射という)を受信する。また、当該レーダアンテナ1が受信した信号にはホワイトノイズが含まれる。従って、仮にレーダアンテナ1で受信した信号を表示器8にそのまま表示する構成とすると、陸や物標とともに雨雪反射等もプロットされたレーダ映像が表示されてしまう。なお本明細書では、雨雪反射及びホワイトノイズをまとめて「雨雪反射等」と称する場合がある。
【0029】
本実施形態のレーダ装置は、このような雨雪反射等を抑圧するための雨雪反射抑圧部10を備えており、陸及び物標の位置のみを表示器8に表示することが可能に構成されている。これにより、レーダ装置のオペレータは、雨天時等においても陸及び物標を容易に認識することができる。なお、前記雨雪反射等を抑圧するための構成については後に詳述する。
【0030】
次に、各構成について詳しく説明する。
【0031】
受信回路2は、レーダアンテナ1が受信した信号を検波して増幅し、A/D変換部3に出力する。A/D変換部3は、このアナログ型式の受信信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータ(受信データ)に変換する。ここで、前記受信データが示す値は、レーダアンテナ1が受信した信号の強度(信号レベル)に対応している。A/D変換部3は、前記受信データをスイープメモリ4に出力する。
【0032】
スイープメモリ4は、前記受信データを1スイープ分リアルタイムで記憶することができるバッファである。ここで、「スイープ」とは、放射信号を放射してから次の放射信号を放射するまでの一連の動作をいい、「1スイープ分の受信データ」とは、放射信号を放射した後、次の放射信号を放射するまでの期間にサンプリングされたデータ系列をいう。バッファであるスイープメモリ4は、A/D変換部から受信データが新たに書き込まれると、次のスイープによって当該受信データが上書きされてしまう前に、雨雪反射抑圧部10に対して受信データを順次出力する。
【0033】
雨雪反射抑圧部10は、CPU、RAM、ROMなどのハードウェアと、前記ROMに記憶されたプログラム等のソフトェアと、から構成される。そして、雨雪反射抑圧部10は、前記ハードウェアとソフトウェアとが協働することにより、後述の区間判定部(判定部)11、閾値出力部12等として機能するように構成されている。雨雪反射抑圧部10は、スイープメモリ4から順次入力される受信データからなる受信データ群に対して、所定の統計処理を行うことにより、雨雪反射及びホワイトノイズを除去するための閾値である雨雪反射除去閾値を決定する(詳細は後述)。
【0034】
また、雨雪反射抑圧部10は、利得制御部13としても機能する。利得制御部13には、前記雨雪反射除去閾値と、スイープメモリ4からの受信データと、が入力される。利得制御部13は、入力された受信データの信号レベルが雨雪反射除去閾値以上の場合は、受信データをそのまま画像メモリ7に出力する。一方、受信データの信号レベルが雨雪反射除去閾値未満の場合、利得制御部13は、例えば信号レベルの値をゼロとして画像メモリ7に出力する。これにより、雨雪反射等を除去した受信データが画像メモリ7に出力される。なお、このように雨雪反射等を除去された受信データのことを、特に「雨雪反射除去済みデータ」と称することがある。
【0035】
前記画像メモリ7には、表示器8に表示するレーダ映像の画像データが記憶されている。この画像データは、複数の画素からなるラスタデータであり、表示器8のラスタ走査に同期して高速で読み出される。
【0036】
前記画像データにおいて、各画素は、例えば船首方向をY軸、船幅方向をX軸とするXY直交座標系で配列して記憶されている。各画素には、当該画素の位置の信号レベルを示すデータ(前記雨雪反射除去済みデータ)が記憶されている。表示器8のラスタ走査に同期してこの画像データを読み出す際に、例えば、信号レベルが強い画素は濃い色で表示し、信号レベルが弱い画素は薄い色で表示することにより、水平面上における自装置周囲の陸又は物標の様子(レーダ映像)を表示器8に表示することができる。
【0037】
描画アドレス発生部5には、所定方向(例えば船首方向)を基準としたスイープ角度データ(レーダアンテナ1の角度θを示すデータ)がレーダアンテナ1から入力されている。描画アドレス発生部5は、レーダアンテナ1の角度θと、放射信号を放射してからエコーを受信するまでの時間に対応する距離データRと、に基づいて、対応する画素を指定するアドレスを生成する。即ち、描画アドレス発生部5は、極座標系(R,θ)で取得される陸又は物標の位置をXY直交座標系に変換し、当該陸又は物標の位置に対応する画素のアドレス(X,Y)を生成する。
【0038】
雨雪反射除去済みデータが利得制御部13から画像メモリ7に出力される際には、当該画像メモリ7のアドレス指定部に、描画アドレス発生部5が算出したアドレス(X,Y)が入力される。これにより、雨雪反射除去済みデータを、対応する画素に記憶することができる。結果として、陸又は物標の位置に応じて信号レベルを平面上にプロットした画像データが生成されるので、これに基づいて表示器8にレーダ映像を表示することができる。
【0039】
次に、雨雪反射抑圧部10について説明する。前述のように、雨雪反射抑圧部10は、区間判定部11と、閾値出力部12と、を備えている。
【0040】
閾値出力部12は、スイープメモリ4からの受信データに基づいて雨雪反射除去閾値を求め、利得制御部13に出力するように構成されている。なお、雨雪反射除去閾値を例えば固定値とすることも考えられるが、この場合、雨量の変化等に適切に対応することができない。そこで本実施形態では、上記のように閾値出力部12が実際の受信データに基づいて雨雪反射等除去閾値を求めることにより、そのとき発生している雨雪反射等を適切に抑圧できる閾値を自動的に決定するように構成している。
【0041】
ここで、雨雪反射等の信号レベルに対して雨雪反射除去閾値が小さ過ぎると、雨雪反射抑圧の効果を十分に発揮することができない。一方で、雨雪反射等の信号レベルに対して雨雪反射除去閾値が大き過ぎると、陸や物標からのエコーまでも消してしまうおそれがある。このため、雨雪反射除去閾値は、雨雪反射等を適切に除去できるような値を、当該雨雪反射等の信号レベルに基づいて決定することが好ましい。
【0042】
しかしながら、スイープメモリ4から入力される受信データには、雨雪反射等と、陸や物標からのエコーと、が混在している。一般的に、雨雪反射等の信号レベルに比べて陸や物標からのエコーの信号レベルの方が強いため、陸や物標からのエコーを含んだ受信データに基づいて雨雪反射除去閾値を求めると、当該雨雪反射除去閾値が大きくなりがちである。そのため、陸や物標からのエコーを含んだ受信データに基づいて求めた雨雪反射除去閾値では、陸や物標からのエコーまでも消えてしまうという問題がある。
【0043】
そこで、本実施形態のレーダ装置は、所定の距離範囲毎に、各距離範囲が雨雪反射除去閾値を算出するのに適しているか否かを判定する区間判定部11を備えている。
【0044】
具体的には以下のとおりである。前述のように、区間判定部11には、スイープメモリ4から受信データが順次入力されている。区間判定部11は、前記スイープメモリ4から入力された受信データからなる受信データ系列の中から、所定の距離範囲ごとに、当該所定の距離範囲内の受信データを抽出する。
【0045】
次に、区間判定部11は、各距離範囲毎に、当該距離範囲内に含まれる受信データについて統計処理を行うことによりパラメータ算出を行う。そして、当該パラメータを用いて、各距離範囲が、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定するように構成されている。
【0046】
ここで、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲を、「雨雪/ノイズ区間」と称する。一方、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲は、陸又は物標からのエコーを示す受信データが多く含まれていると考えられるので、当該距離範囲を「陸/物標区間」と称する。
【0047】
即ち、「雨雪/ノイズ区間」と判定された距離範囲は、陸及び物標からのエコーが支配的でなく、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的であるので、当該距離範囲内の受信データを根拠にして、当該距離範囲についての雨雪反射除去閾値を適切に算出することができる。
【0048】
従って、「雨雪/ノイズ区間」と判定された距離範囲においては、当該距離範囲内のデータに基づいて雨雪反射除去閾値を算出することが、雨雪反射等を良好に除去できる点で適していると考えられる。なお、本実施形態の説明では、雨雪/ノイズ区間である距離範囲について、当該距離範囲内の受信データに基づいて求めた雨雪反射除去閾値を、内部データ根拠閾値と呼ぶことがある。
【0049】
一方、「陸/物標区間」と判定された距離範囲内の受信データには、陸や物標等からのエコーが混在しているので、雨雪反射除去閾値を、当該距離範囲内の受信データに基づいて適切に求めるのは難しい。
【0050】
このように、「陸/物標区間」の距離範囲においては、当該距離範囲内のデータに基づいて雨雪反射除去閾値を算出することは、陸や物標のエコーを消す結果となってしまうおそれがあり、適していないと考えられる。従って、陸/物標区間と判定された距離範囲については、当該距離範囲内の受信データに基づかないで雨雪反射除去閾値を算出することが好ましい。
【0051】
以下、図2を参照し、各距離範囲が「雨雪/ノイズ区間」又は「陸/物標区間」の何れであるかを判定する構成について説明する。図2は、本実施形態の雨雪反射抑圧部10におけるデータフロー図である。
【0052】
区間判定部11は、スイープメモリ4から所定の距離範囲分の受信データ群(例えばN点の受信データ)が入力されるごとに、前記N点の受信データに基づいて、「th_width」、「max_min_width」、「over_rain_num」の3つのパラメータを算出するように構成されている。即ち、距離範囲毎に、上記3つのパラメータを算出するように構成されている。以下、それぞれのパラメータについて説明する。
【0053】
「th_width」は、所定範囲のヒストグラム総和値に対応する階級値幅を示すパラメータである。このth_widthを算出する際には、まず、区間判定部11は、現在処理している距離範囲内のN点の受信データについて、信号レベルが階級値以上となる受信データの数をプロットしたヒストグラム総和値カーブを求める(S101)。
【0054】
図3に、このヒストグラム総和値カーブを概念的に示す。図3において、横軸は階級値(信号レベル)であり、縦軸は信号レベルが階級値以上である受信データの数(ヒストグラム総和値)である。なお、図3は一般的な累積度数分布図を上下逆にした図に対応しており(即ち、横軸の階級値が0のときに縦軸は必ずN点になる)、区間判定部11は、距離範囲内のN点の受信データについて信号レベルを階級値とした累積度数を求めているということができる。
【0055】
次に、区間判定部11は、ヒストグラム総和値の所定幅に対応する階級値の幅を求める(S102)。本実施形態では、ヒストグラム総和値が全体(N点)の20%から80%になる範囲に対応した階級値の幅(20−80%階級値幅)を求めている。即ち、図3のヒストグラム総和値カーブにおいて、縦軸のヒストグラム総和値が20%となるときの階級値と、80%となるときの階級値と、の差を、現在処理している距離範囲についてのth_widthとする。なお、このとき区間判定部11が求めたヒストグラム総和値が20%となるときの階級値は、閾値出力部12に出力される。
【0056】
「max_min_width」は、距離範囲内のN点の受信データについての、最大値と最小値との差である。区間判定部11は、現在処理している距離範囲内のN点の受信データの中から最大値と最小値を求め、その差を当該距離範囲についてのmax_min_widthとする(S103)。
【0057】
例として、図4に、あるスイープにおける受信データ系列の一部を示す。図4において、横軸はレーダアンテナからの距離であり、縦軸は信号レベルである。また、図4には、受信データN点毎に距離範囲が区切ってある様子が点線で示されている。即ち、アンテナの位置(原点O)から距離Aまでの距離範囲と、距離Aから距離Bまでの距離範囲と、距離Bから距離Cまでの距離範囲には、それぞれN点の受信データが含まれている。図4には、距離Aから距離Bの範囲の距離範囲について、max_min_widthを求めた様子を示した。
【0058】
「over_rain_num」は、距離範囲内のN点の受信データのうち、レーダ方程式から算出した一定雨量レベルを超える受信データの総数である。このover_rain_numを算出する際には、まず区間判定部11は、所定雨量のときの雨雪反射の信号レベル(一定雨量レベル)を、レーダ方程式に基づいて算出する。
【0059】
以下、レーダ方程式から一定雨量レベルを算出するための算出式の導出方法を簡単に説明する。レーダ方程式より、受信電力Prは以下の式(1)で表される。ここで、Pt(単位:W)はレーダ送信電力(送信尖頭電力)、G(単位:dB)はアンテナゲイン、λ(単位:m)は波長、σc(単位:m2)はターゲット有効反射断面積、R(単位:m)はターゲットまでの距離である。
【数1】

【0060】
雨に対するターゲット有効反射断面積σcは、以下の式(2)で表される。ここで、Vc(単位:m3)は目標体積(ビーム幅に含まれる雨の体積)、η(単位:m2/m3)は単位面積あたりの雨雪反射の反射率、σi(単位:m2/m3)は雨滴1粒の反射率である。
【数2】

【0061】
ビーム幅に含まれる雨の体積Vcは式(3)で表される。ここで、θB(単位:rad)はアンテナ水平ビーム幅、φB(単位:rad)はアンテナ垂直ビーム幅、c(単位:m/s)は光の速度、τ(単位:m)はパルス幅である。なお式(3)において、π/4はアンテナビーム照射範囲の楕円補正パラメータ値であり、1/(2ln2)はビームパターンがガウス分布に従う送受用アンテナによる雨の有効容積の補正量である。
【数3】

【0062】
式(1)〜式(3)より、受信電力Prは式(4)で表される。
【数4】

【0063】
更に、アンテナゲインはG=π2/θBφBで近似できるので、式(4)より式(5)を得る。
【数5】

【0064】
ここで、雨滴1粒の反射率σiは、雨滴が直径Diの球形で、円周がレーダの波長に比べて十分に短いとみなした場合、式(6)で表される。ここで、Di(単位:mm)は雨滴1粒の直径、εは水の誘電率(20℃で80.4)である。
【数6】

【0065】
式(6)を式(5)に代入して式(7)を得る。
【数7】

【0066】
ΣDi6はレーダ反射因子Zと呼ばれ、降雨量rに依存するパラメータである。即ち、式(7)はレーダ反射因子Zを用いて式(8)で表される。
【数8】

【0067】
レーダ反射因子Zは、実験によって求められた近似式で以下のように表される。
【数9】

【0068】
式(8)に、式(9)のうち最もよく用いられる一般式を代入すると式(10)が得られる。ここで、r(単位:mm/h)は降雨量である。
【数10】

【0069】
本実施形態では、以上のようにレーダ方程式から求めた式(10)を、波長λ、送信電力Pt、アンテナゲインGのレーダから、パルス幅τの探知信号を送信した時の、距離R、雨量rにおける受信電力(一定雨量レベル)の算出式とする。例として、図5に、式(10)から求まる受信電力Prを、距離Rを変化させながらプロットした一定雨量レベル曲線を太線で示す。
【0070】
区間判定部11は、現在処理している距離範囲内のN点の受信データの中で、前記一定雨量レベル曲線を超える受信データの数を求め(S104)、この受信データの数を当該距離範囲についてのover_rain_numとする。
【0071】
そして、区間判定部11は、上記3つのパラメータを用いて、各距離範囲が「雨雪/ノイズ区間」か「陸/物標区間」かを判別する(S105)。具体的には、区間判定部11は、3つのパラメータそれぞれに閾値を予め設定しておき、3つのパラメータが全て閾値未満だった場合は、その距離範囲を「雨雪/ノイズ区間」と判定する。一方、1つでも閾値を超えたパラメータがあった場合は、区間判定部11は、当該距離範囲を「陸/物標区間」と判定する。
【0072】
例えば、th_widthは、距離範囲内の受信データの信号レベルのバラツキを示す。雨雪反射やホワイトノイズは、信号レベルがあまり広い範囲にバラつかない。一方、陸や物標からのエコーは、様々な信号レベルで検出され得る。従って、th_widthに対して適当な閾値を設定しておき、ある距離範囲について求めたth_widthが前記閾値以上であった場合(信号レベルが広い範囲にバラついている場合)は、当該距離範囲内の受信データは陸や物標からのエコーが支配的であると判断して、当該距離範囲を「陸/物標区間」と判定する。
【0073】
また、max_min_widthは、信号レベルの変動の大きさを示す。距離範囲内の受信データが雨雪反射やホワイトノイズだけであれば、信号レベルはあまり大きくは変動しない。一方、距離範囲内に、陸又は物標からのエコーがある部分と無い部分とが混在している場合、当該距離範囲内で信号レベルが大きく変動する。従って、max_min_widthに対して適当な閾値を設定しておき、ある距離範囲について求めたmax_min_widthが前記閾値以上であった場合は、当該距離範囲内の受信データは陸や物標からのエコーが支配的であると判断して、当該距離範囲を「陸/物標区間」と判定する。
【0074】
なお、受信データの信号レベルは、アンテナから遠い距離範囲ほど弱くなる。従って、遠い距離範囲ほど信号の振れ幅も小さくなり、最大値と最小値との差も小さくなる。そこで本実施形態では、アンテナから遠い距離範囲ほど、max_min_widthと比較する閾値が小さくなるように、当該閾値を予め設定している。
【0075】
また、over_rain_numは、所定の雨量以上のデータの数を示す。雨量が多い場合であっても、例えば距離範囲内のN点の受信データ全てが雨雪反射を示すことは考えにくい。即ち、所定の信号レベル以上の雨雪反射は、1つの距離範囲内で一定数以上は検出されないと考えられる。一方、陸や物標は空間的に連続して存在するので、距離範囲内の殆どの受信データが陸や物標からのエコーを示すことは有り得る。従って、over_rain_numに対して適当な閾値を設定しておき、ある距離範囲について求めたover_rain_numが前記閾値以上であった場合は、当該距離範囲内の受信データは陸や物標からのエコーが支配的であると判断して、当該距離範囲を「陸/物標区間」と判定する。
【0076】
そして区間判定部11は、ある距離範囲について求めた3つのパラメータ(th_width、max_min_width、over_rain_num)の何れも閾値未満であった場合、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な領域であると判断して、当該距離範囲が「雨雪/ノイズ区間」であると判定する。
【0077】
次に、閾値出力部12について説明する。閾値出力部12は、内部データ根拠閾値算出部14と、閾値補間部15と、閾値決定部16と、閾値平滑化部17と、を備えている。
【0078】
前述のように、「雨雪/ノイズ区間」と判定された距離範囲については、当該距離範囲内の受信データに基づいて雨雪反射除去閾値を適切に算出することができる。ある距離範囲が「雨雪/ノイズ区間」であると判定されると、内部データ根拠閾値算出部14の機能が呼び出される(図2のS106)。
【0079】
内部データ根拠閾値算出部14は、「雨雪/ノイズ区間」と判定された距離範囲内の受信データに基づいて、当該距離範囲についての雨雪反射除去閾値(内部データ根拠閾値)を算出する。本実施形態では、当該距離範囲内の受信データのヒストグラム総和値20%に対応する信号レベルを、当該距離範囲についての雨雪反射除去閾値(内部データ根拠閾値)としている。これにより、当該距離範囲内の大部分の雨雪反射等を除去することができる。
【0080】
一方、「陸/物標区間」と判定された距離範囲については、当該距離範囲内の受信データに基づいて雨雪反射除去閾値を適切に算出することができない。そこで、ある距離範囲が「陸/物標区間」であると判定された場合は、閾値補間部15又は閾値決定部16の機能が呼び出される(図2のS107)。
【0081】
閾値補間部15は、現在処理している距離範囲が「陸/物標区間」であって、当該距離範囲に距離方向で前後に隣接する他の距離範囲が何れも「雨雪/ノイズ区間」である場合に、現在処理している距離範囲についての雨雪反射除去閾値を補間によって求める。本実施形態では、閾値補間部15は、現在処理している距離範囲に隣接する「雨雪/ノイズ区間」についての内部データ根拠閾値を直線補間することにより、現在処理している距離範囲についての雨雪反射除去閾値を算出する。
【0082】
例えば、図6の模式図において、「陸/物標区間」と判定されている距離範囲105には、「雨雪/ノイズ区間」と判定されている距離範囲104,106が距離方向の前後に隣接している。このような場合、閾値補間部15は、距離範囲104についての内部データ根拠閾値と距離範囲106についての内部データ根拠閾値の中間値を、距離範囲105についての雨雪反射除去閾値として採用する。
【0083】
一方、閾値決定部16は、現在処理している距離範囲が「陸/物標区間」であって、当該距離範囲に距離方向で前後に隣接する距離範囲が何れか一方でも「陸/物標区間」である場合に、現在処理している距離範囲についての雨雪反射除去閾値をレーダ方程式に基づいて求める。
【0084】
例えば、図6において、「陸/物標区間」と判定されている距離範囲101,102,103等には、「陸/物標区間」である他の距離範囲が距離方向に隣接している。このような場合、閾値補間部15による補間によっては当該距離範囲の雨雪反射除去閾値を算出することができない。そこで、レーダ方程式から雨雪反射除去閾値を仮定的に求めるものである。
【0085】
具体的には、式(10)の受信電力の算出式に、現在処理している距離範囲の距離を代入して、当該距離範囲における雨雪反射レベルを算出する。例えば、現在処理している距離範囲が距離A〜距離Bの範囲である場合、式(10)においてR=(A+B)/2(当該距離範囲の中間地点の距離)を代入して雨量レベルを算出する。そして、この一定雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を、当該距離範囲についての雨雪反射除去閾値として採用する。このようにオフセットを減算することにより、陸や物標からのエコーを強めに残すことができる。
【0086】
次に、閾値平滑化部17について説明する。
【0087】
上記のように求めた雨雪反射除去閾値は、距離範囲ごとに個別に求めたものであるから、距離方向又は方位方向に隣接する距離範囲間で雨雪反射除去閾値が大きく異なる場合、表示器8に表示されるレーダ映像が滑らかに表示されない。
【0088】
そこで、閾値平滑化部17は、現在処理している距離範囲についての雨雪反射除去閾値が求まると、距離方向及び方位方向で、雨雪反射除去閾値を平滑化する(図2のS108)ように構成されている。
【0089】
方位方向の閾値の平滑化について説明する。閾値平滑化部17は、例えば5スイープ分の雨雪反射除去閾値を記憶しておくバッファを有している。そして、閾値平滑化部17は、現在処理している距離範囲の5点移動平均を取ることにより、方位方向の平滑処理を行う。
【0090】
例えば図6において、距離範囲106についての雨雪反射除去閾値の5点移動平均を取る場合、閾値平滑化部17は、今回を含む過去5スイープにおいて、当該距離範囲106と同じ距離に位置している距離範囲(具体的には、距離範囲106,206,306,406,506)についての雨雪反射除去閾値の平均値を求める。そして、閾値平滑化部17は、前記平均値を距離範囲106についての雨雪反射除去閾値とする。
【0091】
次に、距離方向の円滑化について説明する。閾値平滑化部17は、距離方向に隣接する距離範囲間で、雨雪反射除去閾値をサンプル点数に応じて円滑化する。本実施形態では、N点の受信データそれぞれに対して、前後の距離範囲についての雨雪反射除去閾値から直線補間した雨雪反射除去閾値を求める。
【0092】
なお、方位方向の閾値の平滑化までは距離範囲毎に雨雪反射除去閾値を設定するものであったが、距離方向の閾値の平滑化においては、距離範囲内のN点の受信データそれぞれに対して個別に雨雪反射除去閾値が設定される。これにより、距離方向に雨雪反射除去閾値が滑らかに変化するので、距離範囲の境界でレーダ映像がガタつくことなく、滑らかなレーダ映像を表示器8に表示することができる。
【0093】
そして、上記のようにして各受信データに雨雪反射除去閾値が設定されると、前述の利得制御部13に対して当該雨雪反射除去閾値が出力される。このとき、利得制御部13には、当該雨雪反射除去閾値に対応した受信データが入力されるように構成されている。そして、利得制御部13において、受信データの信号レベルと雨雪反射除去閾値とが比較され、受信データの信号レベルが雨雪反射除去閾値以上であった場合のみ、当該受信データが画像メモリ7に出力される。
【0094】
以上で説明したように、本実施形態のレーダ装置は、区間判定部11を備える。区間判定部11は、受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、所定の距離範囲内の受信データを抽出し、当該抽出された受信データを用いて、当該距離範囲が「陸/物標区間」であるか「雨雪/ノイズ区間」であるかを判定する。
【0095】
これにより、距離範囲ごとに、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かに応じて、雨雪反射除去の処理を異ならせることができる。従って、距離範囲ごとに適切な雨雪反射除去を行うことができるので、陸や物標からのエコーを残しつつ雨雪反射を良好に抑圧することができる。
【0096】
また本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、区間判定部11は、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルを階級値として累積度数を求め、前記累積度数の所定範囲に対応する階級値の幅が所定値以上のときに、当該距離範囲は「陸/物標区間」であると判定している。
【0097】
即ち、雨雪反射の信号レベルは、変動の幅が小さい傾向があるため、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が狭くなる。一方、陸や物標からのエコーは、幅広い信号レベルの範囲で検出されるため、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が広くなる。従って、ある距離範囲内の受信データについて、累積度数の所定範囲に対応する信号レベルの幅が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0098】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、区間判定部11は、各距離範囲内の受信データについて、信号レベルの最大値と最小値を求め、前記最大値と最小値との差が所定値以上のときに、当該距離範囲は「陸/物標区間」であると判定している。
【0099】
即ち、雨雪反射の信号レベルは、変動の幅が小さい傾向があるため、信号レベルの最大値と最小値との差は比較的小さくなる。一方、距離範囲内に陸や物標からのエコーがある部分と無い部分とがある場合、信号レベルの最大値と最小値との差は大きくなる。従って、ある距離範囲内の受信データについて、信号レベルの最大値と最小値との差が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0100】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、区間判定部11は、所定の雨量に対応する雨量レベルをレーダ方程式に基づいて算出するとともに、所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルが前記雨量レベルを超える受信データの数を求め、前記雨量レベルを超える前記受信データの数が所定値以上のときに、当該距離範囲は「陸/物標区間」であると判定している。
【0101】
即ち、所定の信号レベル以上の雨雪反射が一定数以上検出されることは考えにくい。一方、距離範囲内に大きな陸等がある場合は、所定の信号レベル以上のエコーが連続して検出され得る。従って、所定の雨量レベル以上の信号レベルを示す受信データの数が所定値以上の場合は、当該距離範囲は雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲ではないと判断できる。
【0102】
また、本実施形態のレーダ装置は、以下のように構成されている。即ち、このレーダ装置は、受信データに含まれる雨雪反射を、雨雪反射除去閾値に基づいて抑圧するように構成される。また、当該レーダ装置は、所定の距離範囲ごとに雨雪反射除去閾値を決定する閾値出力部12を備える。また閾値出力部12は、内部データ根拠閾値算出部14を備える。内部データ根拠閾値算出部14は、「雨雪/ノイズ区間」であると判定された距離範囲内の受信データに基づいて、当該距離範囲に対する雨雪反射除去閾値としての内部データ根拠閾値を求める。
【0103】
即ち、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲については、当該距離範囲内の受信データに基づいて、当該受信データに含まれる雨雪反射を抑圧するための雨雪反射除去閾値を適切に算出することができる。
【0104】
また、本実施形態のレーダ装置において、閾値出力部12は、閾値補間部15を備える。閾値補間部15は、「陸/物標区間」と判定された距離範囲についての雨雪反射除去閾値を求める。また、閾値補間部15は、雨雪反射除去閾値を求めようとする距離範囲に隣接した他の距離範囲であって、かつ「雨雪/ノイズ区間」であると判定された距離範囲についての内部データ根拠閾値に基づいて、前記雨雪反射除去閾値を決定する。
【0105】
即ち、雨雪反射を抑圧するための閾値を、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲内の受信データに基づいて算出するのは難しい。この点、本実施形態のように構成することにより、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲についての閾値を、当該距離範囲内の受信データを用いることなく、隣接する他の距離範囲についての閾値から求めることができる。従って、不適切なデータに基づいた閾値の算出を防止できるため、当該距離範囲において、陸や物標からのエコーは残しつつ、雨雪反射のみを良好に抑圧することができる。
【0106】
また、本実施形態のレーダ装置において、閾値出力部12は、閾値決定部16を備える。閾値決定部16は、「陸/物標区間」であると判定された距離範囲について、レーダ方程式に基づいて算出された雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を雨雪反射除去閾値として採用する。
【0107】
即ち、雨雪反射を抑圧するための閾値を、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲内の受信データに基づいて算出するのは難しい。この点、本実施形態のように構成することにより、内部データ根拠閾値が算出された距離範囲が隣接していない場合であっても、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的ではない距離範囲について閾値を決定することができる。また、雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を閾値として用いることにより、陸や物標からのエコーを確実に残すことができる。
【0108】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0109】
上記実施形態では、雨雪反射抑圧部10はハードウェア及びソフトウェアからなるとしたが、専用のハードウェアから構成されていても良い。
【0110】
上記実施形態では、距離範囲を一定幅とした(即ち、スイープメモリ4からの受信データ系列を分割するサンプル幅をN点で一定とした)が、これに限らない。例えば、距離範囲幅を、パルス幅や送信レンジに連動して変化させても良い。ただし、距離範囲内でパラメータを算出するためには十分な受信データのサンプル数が必要であるので、この点を考慮して距離範囲の幅を定めることが好ましい。
【0111】
上記実施形態において、各距離範囲を「雨雪/ノイズ区間」か「陸/物標区間」かを判定する方法は一例であって、これに限らない。例えば上記の3つのパラメータ(「th_width」、「max_min_width」、「over_rain_num」)すべてを求めるのではなく、1つ又は2つのパラメータに基づいて、各距離範囲が「雨雪/ノイズ区間」か「陸/物標区間」かを判定しても良い。
【0112】
閾値平滑化部17による閾値の平滑化は、省略することもできる。
【0113】
ところで、レーダアンテナには、雨雪反射の他にも海面反射(海面の波に反射したエコー)が受信される。この海面反射は、レーダアンテナに近い位置では信号レベルが強力で、距離が離れると急激に信号レベルが低下するという特性がある。従って、船舶用のレーダ装置で問題となるのは、レーダアンテナに近い位置からの強力な海面反射である。
【0114】
そして、海面反射は、信号レベルが強力であるという点で、陸や物標からのエコーに類似している。そのため、上記の実施形態では、海面反射が含まれる距離範囲は「陸/物標区間」と判定される。即ち、上記実施形態のレーダ装置は、雨雪反射及びホワイトノイズと、海面反射と、を区別することができる。
【0115】
なお、海面反射は上述のように信号レベルが強力であるため、単に信号レベルの強度の観点から陸や物標からのエコーと区別することは難しい。ここで、海面反射を検出する方法としては、面状の領域(ある程度の広がりをもつ領域)内の受信エコーを観測し、当該面状の領域内の受信エコーが海面反射としての特徴を有しているか否かで判断する方法がある。このため、この観点から海面反射と雨雪反射とを区別しようとした場合、面状の領域のデータを扱うために膨大なデータ量が必要となる。一方、雨雪反射は比較的弱い信号レベルで均一に分布するため、距離方向の受信データ(距離範囲毎の受信データ)の統計処理だけで特徴を検出できる。この点に着目すれば、上記実施形態の構成は、少ないデータ量で雨雪反射と海面反射とを区別できるという点で、効率が良好であると言うことができる。
【0116】
一方、上記実施形態では雨雪反射とホワイトノイズは同じ性質のものとして扱ったが、雨量が増えれば、雨雪反射とホワイトノイズは平均信号レベルに明確な差が出る。従って、「雨雪/ノイズ区間」と判定された距離範囲の平均信号レベルを見ることにより、当該距離範囲の範囲に雨が降っているか否かを判定することができる。ここで、上記のように、海面反射は「雨雪/ノイズ区間」からは予め除外されている。従って、様々なクラッタやホワイトノイズが検出されるなかで、雨が降っているエリアのみを区別して検出することができる。
【0117】
上記の構成によれば、例えば、雨雪反射のみを色分けして表示器8に表示したり、雨雪反射が検出されたエリアのみを半透明の色で塗りつぶして表示器8に表示するように構成することができる。これにより、雨が降っているエリアをオペレータが直感的に認識することができる。
【0118】
また、上記のように雨が降っているエリアを検出することができるので、雨雲の動きをある程度予測することも可能である。これにより、オペレータは気象状況に応じて船舶等を運転することができる。
【符号の説明】
【0119】
10 雨雪反射抑圧部
11 区間判定部(判定部)
14 内部データ根拠閾値算出部
15 閾値補間部
16 閾値決定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信信号をサンプリングした受信データ系列の中から、所定の距離範囲内の受信データを抽出し、当該抽出された受信データを用いて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定する判定部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のレーダ装置であって、
前記判定部は、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルを階級値として累積度数を求め、前記累積度数の所定範囲に対応する階級値の幅が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のレーダ装置であって、
前記判定部は、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルの最大値と最小値を求め、前記最大値と最小値との差が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
前記判定部は、所定の雨量に対応する雨量レベルをレーダ方程式に基づいて算出するとともに、前記所定の距離範囲内の受信データについて、信号レベルが前記雨量レベルを超える受信データの数を求め、前記雨量レベルを超える前記受信データの数が所定値以上か否かに基づいて、当該距離範囲が雨雪反射又はホワイトノイズが支配的な距離範囲であるか否かを判定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のレーダ装置であって、
当該レーダ装置は、受信データに含まれる雨雪反射を、閾値に基づいて抑圧するように構成されるとともに、
前記所定の距離範囲ごとに前記閾値を決定する閾値出力部を備え、
前記閾値出力部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的であると判定された距離範囲内の受信データに基づいて、当該距離範囲に対する前記閾値としての内部データ根拠閾値を求める内部データ根拠閾値算出部を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置であって、
前記閾値出力部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的でないと判定された距離範囲についての前記閾値を求める閾値補間部を備え、
前記閾値補間部は、前記閾値を求めようとする前記距離範囲に隣接した他の距離範囲であって、かつ雨雪反射又はホワイトノイズが支配的であると判定された距離範囲についての内部データ根拠閾値に基づいて、前記閾値を決定することを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のレーダ装置であって、
前記閾値出力部は、雨雪反射又はホワイトノイズが支配的でないと判定された距離範囲について、レーダ方程式に基づいて算出された雨量レベルから所定のオフセットを減算した値を前記閾値として採用する閾値決定部を備えることを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−2425(P2011−2425A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−147745(P2009−147745)
【出願日】平成21年6月22日(2009.6.22)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】