説明

レーダ装置

【課題】ビーム軸調整をするときに平面アンテナが傾動不能な状態になることを回避する。
【解決手段】
筐体に対し傾動可能に設けられる平面アンテナと、前記筐体が車両に固定された状態で前記平面アンテナの重力方向に対するアンテナ角度を検出する手段と、前記アンテナ角度が基準アンテナ角度になるように、前記アンテナを傾動させるアンテナ傾動部と、前記平面アンテナの傾動角度の履歴と、前記平面アンテナの傾動可能範囲とを記憶する記憶部とを有するレーダ装置において、前記アンテナ傾動部は、前記アンテナ角度が前記基準アンテナ角度になるように傾動させる際の傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲を超えるときには前記平面アンテナを傾動させないので、ビーム軸調整をするときに平面アンテナが傾動不能な状態になることを回避することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用レーダ装置のビーム軸を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される車載用のレーダ装置は、車両周囲の空間をレーダ信号により走査して、主にレーダ装置の搭載車両と同一地平面上に位置する他の車両、歩行者、路側の設置物といった物標を検出する。これらの物標を精度よく検出するためには、できるだけ大きい受信利得が得られるように、レーダ信号のビーム軸を水平方向(以下、基準方向という)に向けることが望ましい。よって、レーダ装置を車両に搭載するときには、アンテナを収容した筐体の重力方向に対する傾き(以下、単に傾きという)を調整することにより、ビーム軸が基準方向を向くようにする操作、つまりビーム軸調整が行われる。特許文献1には、ビーム軸調整について記載されている。
【0003】
従来のビーム軸調整工程では、レーダ装置ごとの製造誤差を考慮し、まず車両搭載前に、ビーム軸が基準方向を向くような筐体の傾きをレーダ装置ごとに予め検出しておく。そして、車両搭載時に、筐体の傾きをあらかじめ検出した傾きにするように調整が行われる。このとき作業者は、レーダ装置の筐体を粗く位置決めして水平面上に設置された車両に固定し、筐体に取り付けた水準管を視認しながら手作業により筐体の傾きを微調整する。
【0004】
ところで、一般にレーダ装置は、車両の意匠に与える影響を抑えるために、フロントグリルやバンパーの内側といった目立たない低位置の部位に搭載される。このため、作業者は身を屈めてビーム軸調整のための作業を行わねばならない。また、レーダ装置の搭載空間は制約されており、手作業のための空間が十分確保できない。このようなことから、ビーム軸調整の作業効率は低くなりがちである。そこで本発明者は、ビーム軸調整の作業効率改善が可能なレーダ装置を提案した(特願2008−266503)。
【0005】
図1は、本発明者が提案したレーダ装置の概略を説明する図である。図1(A)は、レーダ装置の斜視図を示す。このレーダ装置10は、矩形状の筐体11内に、平面アンテナ14や各種電子回路を収容している。筐体11の前面部にはレドーム11aが設けられる。以下の説明では、筐体11においてレドーム11aが設けられた側を前方、反対側を後方とする。
【0006】
筐体11は、レドーム11aをたとえば車両の前方に向けた状態で、ボルトなどの固定具13により後方側が車両前部の搭載部位に固定される。そして、平面アンテナ14は、レドーム11aを透過して前方にレーダ信号を送出する。
【0007】
図1(B)は面A−A´におけるレーダ装置10の断面図を示す。平面アンテナ14は、1つの端部14aが傾動軸15により筐体11に取り付けられ、他の端部14bが傾動軸15を中心として前後方向に傾動可能に構成される。平面アンテナ14は、アレイアンテナやパッチアンテナなどで構成され、アレイやパッチが形成された表面を前方に向けた状態で筐体11内に設けられる。そして平面アンテナ14は、その表面に対して垂直方向にレーダ信号のビーム軸を形成する。
【0008】
平面アンテナ14の裏面には、平面アンテナ14の重力方向に対する傾き(以下、アンテナ角度という)を検知するアンテナ角度検出部16(たとえば加速度センサ)が設けられる。ここでは、アンテナ角度0度の状態が図示されている。
【0009】
また、筐体11内には、平面アンテナ14を傾動させてアンテナ角度を調整するアンテナ傾動部18が設けられる。アンテナ傾動部18は、平面アンテナ14の端部14bに先端が回動可能に係合されるとともに前後方向に摺動可能な摺動軸18aと、モータ18bと、モータ18bの軸18cの回転運動を一定の比率で減速して摺動軸18aの摺動運動に変換する減速機構18dとを有する。アンテナ傾動部18は、モータ18cを正回転/逆回転させることにより、摺動軸18aを前方/後方に摺動させる。摺動軸18aが前方/後方に摺動することにより、平面アンテナ14の端部14bが前方/後方に傾動する。これにより、平面アンテナ14のアンテナ角度が調整される。
【0010】
このレーダ装置10では、車両搭載時に次のようにしてビーム軸調整が行われる。
【0011】
図2は、上記レーダ装置10におけるビーム軸調整について説明する図である。図2(A)は、車両搭載時における筐体11の状態を示す。図示するように、水平面上に設置された車両に取り付けられた時点で、筐体11の傾きはα(>0)度であるとする。なお、以下では便宜上、前方に対する傾きを正、後方に対する傾きを負の値で表わす。ここで、水平面上に設置された場合の平面アンテナ14の初期のアンテナ角度が0度とすると、車両に搭載された時点ではアンテナ角度はα度となる。
【0012】
ビーム軸調整を指示する制御信号がレーダ装置10の制御部(図示省略)に入力されると、制御部が制御信号に応答してアンテナ傾動部18の駆動を開始する。制御部には、ビーム軸が基準方向を向くようなアンテナ角度である基準アンテナ角度(たとえば0度)があらかじめ設定されており、アンテナ角度検出部16により検知されたアンテナ角度α度が基準アンテナ角度になるようにアンテナ傾動部18を駆動させる。このようにして、作業者が手作業で筐体11の傾きを調整することなく、ビーム軸調整が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−56009号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明者が提案した上記レーダ装置10によれば、車両搭載時にビーム軸調整を行うだけでなく、走行中の路面からの振動や、他車両、障害物等との接触、衝突などにより筐体11の傾きが変化してビーム軸が基準方向からずれた場合であっても、車両点検・整備の際に、上記同様にしてビーム軸を再調整することができる(以下、車両搭載時のビーム軸調整を初回のビーム軸調整、その後のビーム軸調整をビーム軸再調整という)。しかしながら、上記レーダ装置10ではビーム軸再調整の際、次のような問題が生じる場合がある。
【0015】
図2(B)は、初回のビーム軸調整の後筐体11の傾きが変化し、筐体11が前方にβ(>α)度傾いた状態を示す。このとき、平面アンテナ14のアンテナ角度は、β度である。この場合、基準アンテナ角度になるようにビーム軸再調整を行うためには、平面アンテナ14を前方にさらにβ度傾動させる必要がある。しかしながら図示するように、傾動させるべき角度(以下、傾動予定角度という)β度に対して平面アンテナ14とレドーム11aの内壁との距離が短いと、平面アンテナが前方にβ度傾動する前に、平面アンテナ14の端部14bがレドーム11aの内壁に接触する(矢印B1)。すると、摺動軸18aをそれ以上前方に摺動できなくなる。
【0016】
初回のビーム軸調整がなされた後の筐体11の傾きの変化が大きいと、上記のように摺動軸18aが摺動不能な状態になる場合がある。そしてこのとき、アンテナ傾動部18の減速機構18dにおいて、モータ軸18cに取り付けられたウォームギアと、その回転が一定の減速比で伝達されるウォームホイールとの間でいわゆる噛み込みが生じる場合がある。すると、減速機構18dが固着した状態となって、モータ18bの駆動力では摺動軸18aを前方だけでなく後方にも摺動できなくなり、平面アンテナ14を傾動できなくなる。すると、ビーム軸調整が適切になされないことにより、物標の検出精度が低下するおそれがある。そして、かかる状態を解消するためには、レーダ装置10を分解修理する必要があるので、コスト増や利便性低下をまねく。
【0017】
そこで、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、ビーム軸調整をするときに平面アンテナが傾動不能な状態になることを回避するレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記の目的を達成するために、本発明によれば、筐体と、前記筐体に対し傾動可能に設けられる平面アンテナと、前記筐体が車両に固定された状態で前記平面アンテナの重力方向に対するアンテナ角度を検出するアンテナ角度検出手段と、前記アンテナ角度が基準アンテナ角度になるように、前記アンテナを傾動させるアンテナ傾動部と、前記平面アンテナの傾動角度の履歴と、前記平面アンテナの傾動可能範囲とを記憶する記憶部とを有し、前記アンテナ傾動部は、前記アンテナ角度が前記基準アンテナ角度になるように傾動させる際の傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲内のときには前記平面アンテナを傾動させ、前記傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲を超えるときには前記平面アンテナを傾動させないことを特徴とするレーダ装置が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ビーム軸調整をするときに平面アンテナが傾動不能な状態になることを回避することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明者が提案したレーダ装置の概略を説明する図である。
【図2】図1のレーダ装置10におけるビーム軸調整について説明する図である。
【図3】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図4】レーダ装置10の内部構造を詳細に示す図である。
【図5】レーダ装置10の構成を説明するブロック図である。
【図6】筐体11の傾き、アンテナ角度等を説明する図である。
【図7】ビーム軸調整を行うときのレーダ装置10の状態とその動作を説明する図である。
【図8】図7(A)の状態におけるレーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図9】図7(B)、(C)の状態におけるレーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。
【図10】好ましい実施例におけるビーム軸再調整の動作手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0022】
図3は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。図3は、レーダ装置が搭載車両の前方を走査する場合の取り付け位置を示す。レーダ装置10は、車両1の前部バンパー内やフロントグリル内に取り付けられ、バンパー前面の化粧板やフロントグリルを透過して車両1前方の空間にレーダ信号を送信して、物標からの反射信号を受信する。そしてレーダ装置10は、送受信信号を処理することで、車両1の前方空間における物標を検出する。
【0023】
検出対象となる物標は、主に他の車両や歩行者、あるいは路側の設置物といった車両1と同じ地平面上(水平面上)に位置する物標である。しがたってこれらの物標を精度よく検出するためには、物標による反射信号の受信利得が最大となるような基準方向にビーム軸を向けることが望ましい。よって、レーダ装置10の搭載時やその後の車両点検・整備時などに、ビーム軸が基準方向を向くようにビーム軸調整が行われる。なおここで、基準方向は、水平方向である。あるいは、基準方向は、水平方向に対したとえば0.5度程度下向きなど、シミュレーションや実験により任意に設定可能である。
【0024】
レーダ装置10は、検出した物標の情報を車両1の車両制御装置100に出力する。そして車両制御装置100は、レーダ装置10が検出した物標の情報に基づいて、車両1の挙動制御、たとえば先行車両への追従走行制御や、対向車両や歩行者、路側の設置物との衝突回避・衝突対応制御を行う。
【0025】
本図に示した例のほかにも、レーダ装置10は車両1の種々の部位に取り付け可能である。たとえば、車両1の前側方を走査する場合は、レーダ装置10は、車両1の前側部に設けられたフォグランプユニット内に取り付けられ、車両1前側方の空間を走査して、物標を検出する。さらに、後方、あるいは後側方を走査する場合には、レーダ装置10は、車両1の後部バンパー内の正面や側面寄り、あるいは後側部に設けられたテールランプユニット内などに取り付けられ、車両1の後方あるいは後側方の空間を走査して、物標を検出する。いずれの場合であっても、ビーム軸が基準方向を向くようにビーム軸調整が行われる。
【0026】
本実施形態におけるレーダ装置10は、図1で示したように、筐体11と、筐体11内に収容されるとともに筐体11に対し傾動可能に取り付けられた平面アンテナ14を有する。筐体11は、固定具13により車両1に固定される。そして、筐体11が車両1に取り付けられた状態で、筐体11に対し平面アンテナ14を傾動させることでアンテナ角度を変化させ、ビーム軸が基準方向を向くようにビーム軸調整を行う。
【0027】
図4は、レーダ装置10の内部構造を詳細に示す図である。すなわち、図4は、図1(B)の断面図をより詳細に示す図である。また、図5は、レーダ装置10の構成を説明するブロック図である。図4、図5を用いて、レーダ装置10の詳細な構成について説明する。
【0028】
レーダ装置10は、上述したように矩形状の筐体11内に、平面アンテナ14や各種電子回路が収容される。筐体11の前面部にはレドーム11aが設けられる。
【0029】
平面アンテナ14は、表面側にアレイやパッチなどが設けられ、その表面を前方に向けた状態で、一方の端部14aが傾動軸15により筐体11にに取り付けられるとともに、他方の端部14bでピン20により摺動軸18aと回動可能に係合される。そして平面アンテナ14は、レドーム11aを介して前方にレーダ信号を送出する。このとき、平面アンテナ14の垂直方向(または略垂直方向)にビーム軸が形成される。
【0030】
アンテナ傾動部18は、平面アンテナ14の端部14bにピン20で先端が係合されるとともに前後方向に摺動可能な摺動軸18aと、DCモータなどで構成されるモータ18bと、モータ18bの軸18cの回転運動を一定の比率で減速して摺動軸18aの摺動運動に変換する減速機構18dとを有する。減速機構18dは、一例として、軸18cに取り付けられたウォームギアと、その回転力が伝達され摺動軸18aを摺動させるウォームホイールを有する。しかし、モータ18bの軸18cの回転力を摺動軸18aの摺動運動に変換する機構であれば、これに限られない。
【0031】
アンテナ傾動部18は、モータ18cを正回転/逆回転させることにより、摺動軸18aを前方/後方に摺動させる。摺動軸18aが前方/後方に摺動することにより、平面アンテナ14の端部14bが前方/後方に傾動する。これにより、平面アンテナ14が傾動軸15を中心として前後方向に傾動され、アンテナ角度が調整される。
【0032】
平面アンテナ14の裏面には、アンテナ角度検出部16と送受信回路22が設けられる。アンテナ角度検出部16は、加速度センサなどの傾斜センサで構成され、平面アンテナ14のアンテナ角度を検出する。ここでは、アンテナ角度が重力方向に対し0度の状態が示される。ここにおいて、アンテナ角度検出部16が「アンテナ角度検出手段」に対応する。送受信回路22は、ミリ波長のレーダ信号(電磁波)を生成する発振器を中心として構成され、レーダ信号を平面アンテナ14に供給するとともに、平面アンテナ14による受信信号を処理してビート信号を生成する。
【0033】
平面アンテナ14の後方の筐体11内部には、制御部26が設けられる。制御部26は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory、例えば書き換え可能な不揮発性記憶媒体)、RAM(Random Access Memory)を備えたマイクロコンピュータと、モータドライバとで構成される。CPUがRAMを作業領域としてROMに格納された制御プログラムを実行することで、制御部26は他の各部の動作を制御する。また、ここでROMが記憶部27に対応し、詳しくは後述するが、制御部26の制御動作に必要な各種情報を記憶する。
【0034】
制御部26は、送受信回路22の動作を制御するとともに、送受信回路22が生成したビート信号に基づいて物標を検出する。
【0035】
また制御部26は、アンテナ傾動部18におけるモータ18bの駆動を制御する。このとき制御部26は、アンテナ角度検出部16から入力されるアンテナ角度を示す信号によりアンテナ角度を取得し、傾動予定角度に見合った駆動量を算出してアンテナ傾動部18に指示する。
【0036】
また制御部26は、車両1の車内ネットワーク30に接続され、これを介して、車両1に搭載される車両制御装置100や、表示部110、操作入力部120と通信可能に構成される。
【0037】
表示部110は、後述するように、レーダ装置10の制御部26から送られる警告を示すメッセージを表示出力する。表示部110は、たとえば車両1のインストルメントパネルに設けられた表示機器、あるいは、車内ネットワーク30に接続される外部の情報処理装置(たとえばパーソナルコンピュータ)などで構成される。
【0038】
操作入力部120は、レーダ装置10の制御部に対しアンテナ軸調整を指示する制御信号を入力する。操作入力部120は、たとえば車両1のイグニションキー、あるいは、車内ネットワーク30に接続される電子機器(たとえばナビゲーション機能またはオーディオ機能を備えた車載用電子機器)、あるいは車両1外部のパーソナルコンピュータや操作端末などで構成される。
【0039】
上記のように構成されるレーダ装置10は、車両搭載時に制御部26がアンテナ角度を監視しながら、アンテナ角度が基準アンテナ角度になるようにアンテナ傾動部18の駆動を制御することで、平面アンテナ14を傾動させ、ビーム軸調整を行う。このとき制御部26は、アンテナ角度を検出し、傾動予定角度に見合った駆動量を算出してからアンテナ傾動部18を駆動する。そして、算出した駆動量の駆動が終了した時点で再度アンテナ角度を検出して、誤差を修正するようにアンテナ傾動部18を再駆動する。あるいは、所定周期でアンテナ角度をフィードバックしながら駆動量を制御してもよい。
【0040】
ここで、筐体11に対する平面アンテナ14の前方への傾動角度がある程度以上になると、平面アンテナ14がレドーム11aの内壁に接触して摺動軸18aが摺動できなくなり、平面アンテナ14の傾動が妨げられる場合がある。反対に、平面アンテナ14の後方への傾動角度がある程度より大きくなると、平面アンテナ14と摺動軸18aとの係合部分が減速機構18dに接触したり、摺動軸18aの後方側の先端が筐体11の後方側の内壁に接触したりして摺動軸18aが摺動できなくなり、平面アンテナ14の傾動が妨げられる場合がある。そして、いずれの場合にも、摺動軸18aの摺動が阻害されることで減速機構18dにおいてギアの噛み込みが生じると、減速機構18dが固着して摺動軸18aがそれ以上摺動不能になり、その結果、平面アンテナ14が傾動不能になる。
【0041】
そこで本実施形態では、上記のような事態に至らないような平面アンテナ14の傾動可能範囲θを予め設定し、その範囲内で平面アンテナ14を傾動させる。しかし、ビーム軸調整を行うときの筐体11の前後方向への傾きがある程度以上になると、制御部26がアンテナ角度を監視しながら平面アンテナ14を傾動させるときに、平面アンテナ14が傾動可能範囲θを超えて傾動しようとするおそれがある。特に、初回のビーム軸調整の後、走行中の路面からの振動や、他車両、障害物等との接触、衝突などにより筐体11の傾きが大きく変化した場合、ビーム軸再調整において平面アンテナ14の傾動が傾動可能範囲θを超える蓋然性が大きくなる。
【0042】
そこで、本実施形態におけるレーダ装置10は、ビーム軸調整を行うごとに平面アンテナ14の傾動角度の履歴を記憶しておき、新たにビーム軸調整を行うときには、履歴に基づき傾動可能範囲θ内で傾動が可能かを確認する。そして、傾動可能が確認されたときに平面アンテナ14を傾動させ、傾動可能が確認されなければ傾動を行わない。そうすることにより、ビーム軸再調整において筐体11の傾きの変化が大きい場合であっても、傾動可能範囲θを超えて平面アンテナ14を傾動させることを回避できる。よって、減速機構18dにおいてギアの噛み込みが生じ平面アンテナ14が傾動不能になる事態を回避できる。
【0043】
また、たしかに筐体11内の空間を十分大きく設けることができれば上記のような平面アンテナ14が傾動不能になる事態はある程度回避可能であるが、本実施形態によれば、筐体11を大型化する必要がないので、レーダ装置の小型化に資するという効果が得られる。
【0044】
ここで、図6〜図10を用いて、本実施形態におけるレーダ装置10の動作について、初期設定、初回のビーム軸調整、ビーム軸再調整に分けて説明する。
【0045】
以下では便宜上、前方に対する傾きを正、後方に対する傾きを負の値で表わす。ここで、以下の説明の理解に資するため、筐体11の傾き、アンテナ角度、傾動可能範囲、傾動角度について図6に整理して示す。
【0046】
筐体11の傾きは、重力方向と一致するときに0度(図6(A))、前方に傾いたときにはα(>0)度(図6(B))、後方に傾いたときは-α度(図6(C))である。また、平面アンテナ14のアンテナ角度は、重力方向と一致するときに0度(図6(D))、前方に傾いたときにはα(>0)度(図6(E))、後方に傾いたときは-α度(図6(F))である。
【0047】
また、平面アンテナ14の傾動可能範囲θ(>0)は、図6(D)に示すように、筐体11を水平面上に設置した状態で、傾動軸15からの重力方向を中心として前後方向に設けられる。すなわち、前方に対する角度としてθ/2度後方の範囲、および後方に対する角度として−θ/2度前方の範囲である。この傾動可能範囲θは、設計上、任意の値に設定することが可能である。
【0048】
そして、平面アンテナ14の傾動角度は、アンテナ角度が0度のときには0度(図6(D))、アンテナ角度がα度のときにはα度(つまり前方にα度)(図6(E))、アンテナ角度が−α度のときには-α度(つまり後方にα度)(図6(F))である。
【0049】
なお、以下では、説明の簡単のために、筐体11の傾き、および平面アンテナ14のアンテナ角度、傾動角度は、正の値により示される前方への角度を例とする。しかしながら、後方への角度を負の値とすることで、以下の説明が適用される。
【0050】
図7は、レーダ装置10の状態とその動作を説明するための、レーダ装置10の概略的な断面図である。図7(A)は、レーダ装置10を車両に取り付ける前の、初期設定が行われるときの状態に対応する。また、図7(B)は、車両搭載時の、初回のビーム軸調整が行われるときの状態に対応する。そして、図7(C)は、初回のビーム軸調整の後、ビーム軸再調整が行われるときの状態に対応する。そして、図7(A)〜(C)には、それぞれの場合における制御部26による演算処理の内容、または記憶部27に記憶される情報が示される。
【0051】
また、図8は、図7(A)の状態におけるレーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。そして図9は、図7(B)、(C)の状態におけるレーダ装置10の動作手順を説明するフローチャート図である。
【0052】
まず、図7(A)、図8を用いて、レーダ装置10の初期設定動作について説明する。この動作は、たとえば、レーダ装置10出荷時の検査工程などで実行される。
【0053】
図7(A)に示すように、まず筐体11は水平面上に設置される。この状態では、筐体11の傾きは0度である。一方、レーダ装置個々の製造誤差に由来するアンテナ角度の初期値はα1度である。なお、この初期値度は、設計通りであれば0度である。
【0054】
この状態で、制御部26に操作入力部120から初期設定を指示する制御信号が入力される(S2)。制御部26は制御信号に応答して、アンテナ角度検出部16が検出したアンテナ角度の初期値α1度を取得し(S4)、記憶部27にアンテナ角度の初期値α1度を記憶させる(S6)。なお、ビーム軸調整回数は初期値の0回のままである。このようにして、初期設定動作が行われる。
【0055】
次に、図7(B)、図9を用いて、レーダ装置10の初回のビーム軸調整動作について説明する。この動作は、たとえば、車両組立工程のうち、各種電装品を搭載した後の検査工程などで、車両1を水平面上に設置した状態で実行される。
【0056】
図7(B)に示すように、筐体11が車両に搭載された状態では、取り付け作業における誤差に起因して筐体11の傾きがα2度である。またこのとき、アンテナ角度はβ1度である(ここでは、β1度は初期値α1度と筐体の傾きα2度の和に対応する)。
【0057】
この状態で、制御部26に操作入力部120からビーム軸調整を指示する制御信号が入力される(S10)。制御部26は制御信号に応答して、アンテナ角度検出部16が検出したアンテナ角度β1度を取得する(S12)。ここでβ1度が、平面アンテナ14を傾動させるべき傾動予定角度である。
【0058】
次に制御部26は、記憶部27から、アンテナ角度の傾動可能範囲θと、傾動角度の履歴を読み出す(S14)。ここでは、傾動角度の履歴として、前回記憶したアンテナ角度、つまり初期値α1度と、ビーム軸調整回数0回が読みだされる。
【0059】
そして制御部26は、平面アンテナ14をβ1度傾動させたときに、傾動可能範囲θを超えないかを確認する。具体的な演算としては、まず傾動可能範囲から傾動角度履歴を減算して傾動可能角度を求める(S16)。ここでは、傾動角度履歴として、アンテナ傾動部18による平面アンテナ14の停止精度を考慮し、(α+nδ)度(nは過去のビーム軸調整回数、δは平面アンテナ14がオーバーランすることによる傾動角度の誤差)として導出される。そして、傾動可能角度は、[θ-(α+nδ)]度として導出される。
【0060】
そして制御部26は、傾動予定角度β1度が傾動可能角度を超えないかを確認する。すなわち、θ-(α1+nδ)>β1が成立するかを確認する(S18)。ここでは、図7(B)に示すように、傾動予定角度β1度の傾動を実行したとしても、平面アンテナ14は傾動可能範囲θ内であり、したがって手順18における判断結果はYESになる。このようにして、傾動予定角度β1度と傾動角度の履歴(α1+nδ)度の和が傾動可能範囲θ内であることが確認される。この場合、制御部26は、傾動予定角度β1度平面アンテナ14を傾動させる(S20)。ここにおいて、アンテナ角度が基準アンテナ角度になり、ビーム軸が基準方向になるようにビーム軸調整がなされる。そして、制御部26は、傾動角度の履歴として、(α1+β1)度と、ビーム軸調整回数(n)を「1」カウントアップして記憶部27に記憶させる(S22)。このようにして、初回のビーム軸調整が実行される。
【0061】
次に、図7(C)、図9を用いて、レーダ装置10のビーム軸再調整動作について説明する。この動作は、たとえば、初回のビーム軸調整の後、車両1の点検・修理工程などで、車両1を水平面上に設置した状態で実行される。
【0062】
図7(C)に示すように、この場合は、走行中の路面からの振動や、他の車両等との接触、衝突などに起因して、筐体11の傾きがγ(>α2)度である。また、初回のビーム軸調整では基準アンテナ角度に調整されているので、筐体11が傾きγになることでアンテナ角度もγ度となる。
【0063】
この状態で、制御部26にビーム軸調整を指示する制御信号が入力される(S10)。制御部26は制御信号に応答して、アンテナ角度検出部16が検出したアンテナ角度γ度を取得する(S12)。ここで、γ度が平面アンテナ14を傾動させるべき傾動予定角度である。
【0064】
次に制御部26は、アンテナ角度の傾動可能範囲θと、傾動角度の履歴(α1+β1)度とビーム軸調整回数1回を記憶部27から読み出す(S14)。
【0065】
そして制御部26は、傾動可能角度を算出し(S16)、傾動予定角度γがこれを超えないかを確認する(S18)。すなわち、θ-(α1+β1+nδ)>γが成立するかを確認する。
【0066】
ここで、判断結果がYESであれば、制御部26は、傾動予定角度γ度だけ平面アンテナ14を傾動させ(S20)、傾動角度の履歴として、(α1+β1+γ)度と、ビーム軸調整回数を「1」カウントアップして記憶部27に記憶させる(S22)。このようにして、ビーム軸再調整が実行される。なお、再度ビーム軸再調整が実行される場合であっても、傾動可能範囲θ内で傾動が可能であれば、上記同様の手順が実行される。そして、その都度、傾動角度の履歴が更新されて記憶部27に記憶される。
【0067】
しかしながら、図7(C)では、傾動予定角度γ傾動させると、平面アンテナ14は傾動可能範囲θを超える。すなわち、傾動予定角度γ度と傾動角度の履歴(α1+β1+nδ)度の和が傾動可能範囲θを超えることが確認される。よってこの場合、手順18における判断結果はNOになる。よって制御部26は、傾動予定角度γ度を傾動させることなく処理を終了する。そうすることにより、平面アンテナ14が筐体11内壁に接触して復帰不可能な状況になることを防止できる。また好ましくは、処理を終了する前に、表示部110に警告を示すメッセージを出力する(S24)。この場合、筐体11を車両1に取り付ける固定具に不具合が生じていたり、車両1に車体の変形など異常が発生していたりして、その結果として筐体11が大きく傾いた可能性が大きいことを考慮し、警告を出力することによって運転者や作業者に筐体11の固定具の調整や車体の整備を促すことができる。
【0068】
図10は、好ましい実施例におけるビーム軸再調整の動作手順を説明するフローチャート図である。図10は、図9のフローチャート図における手順S18でYESの場合の処理手順に、手順19a、19b、19cが追加されたものである。すなわち、制御部26は、傾動予定角度が傾動角度より小さくても、所定の閾値を超えるときに(S19aのYES)、警告メッセージを出力する(S19b)。そうすることにより、車両1の車体に異常が生じていることをより早期に検出でき、運転者や作業者に整備を促すことができる。ただし、この場合、平面アンテナ14の傾動を続行する指示が入力された場合には(S19cのYES)、傾動を実行する(S20)。そうすることで、ビーム軸調整を実行でき、車体異常の可能性を警告するとともにビーム軸調整を完了できる。よってユーザの利便性を向上させることができる。
【0069】
さらに、上記の閾値は、軸調整回数に応じて異なる値としてもよい。すなわち、レーダ装置10の車両搭載時には比較的大きい値としておくことで手作業により発生する筐体11の傾きに対応できる。そして、ビーム軸再調整時には、当初より小さい値とすることで、ビーム軸再調整における傾動予定角度が微調整の範囲であるかを確認でき、そうでない場合に筐体11の固定具や車体における異常の発生を迅速に検出できる。
【0070】
なお、本実施形態の変形例では、平面アンテナ14にアンテナ角度検出部16を設ける代わりに、筐体11にその傾きを検知するセンサを設け、センサにより検出される筐体11の傾きと平面アンテナ14の傾動角度の履歴とに基づき制御部26にてアンテナ角度を演算により検出することで、「アンテナ角度検手段」を実現することも可能である。
【0071】
その場合におけるアンテナ角度の検出手順を、図7を用いて説明する。図7(A)の状態では、筐体11は水平面に設置されておりその傾きは0度であるので、設計上の初期値α1度(望ましくは0度)をアンテナ角度として検出する。図7(B)の状態では、筐体11の傾きがα2度であるので、アンテナ角度は、(α2+α1)度として検出する。さらに図7(C)の状態では、筐体11の傾きがγであるので、アンテナ角度は、(γ−β1)度として検出する。この変形例の場合であっても、ビーム軸調整をするときにアンテナ角度の調整が不能な状態になることを回避することが可能となる。
【0072】
上述の説明では、筐体11に対し傾動軸15で傾動可能に取り付けられる平面アンテナ14を示した。しかしながら、傾動軸15を用いずに、たとえば筐体11に対して取り付けた端部付近で湾曲可能に構成された平面アンテナを用いることで、筐体11に対し平面アンテナを傾動可能にさせた構成であっても、本実施形態に含まれる。
【0073】
また、上述の説明では、筐体11の傾きが前方に連続して変化し、したがって平面アンテナ14を前方に傾動させる場合を示した。しかしながら、筐体11の傾きが後方に変化し、したがって平面アンテナ14を後方に傾動させる場合にも、上述の説明は適用される。さらに、たとえば筐体が前方に傾いた後に後方に傾くような場合や、またその逆の場合であっても、上述したとおり記憶部27に格納される傾動角度の履歴の和を傾動可能範囲から減じることにより、傾動可能角度を算出できる。
【0074】
以上、説明したように、本発明によれば、ビーム軸調整をするときに平面アンテナが傾動不能な状態になることを回避することが可能となる。よって、レーダ装置の筐体を大型化することなく、ビーム軸調整の作業効率改善が可能となるとともに、ユーザの利便性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0075】
1:車両、10:レーダ装置、11:筐体、14:平面アンテナ、16:アンテナ角度検出部、18:アンテナ傾動部、26:制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体と、
前記筐体に対し傾動可能に設けられる平面アンテナと、
前記筐体が車両に固定された状態で前記平面アンテナの重力方向に対するアンテナ角度を検出するアンテナ角度検出手段と、
前記アンテナ角度が基準アンテナ角度になるように、前記アンテナを傾動させるアンテナ傾動部と、
前記平面アンテナの傾動角度の履歴と、前記平面アンテナの傾動可能範囲とを記憶する記憶部とを有し、
前記アンテナ傾動部は、前記アンテナ角度が前記基準アンテナ角度になるように傾動させる際の傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲内のときには前記平面アンテナを傾動させ、前記傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲を超えるときには前記平面アンテナを傾動させないことを特徴とするレーダ装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記傾動角度の履歴は、前記筐体に対する前記平面アンテナの角度の初期値を起点とすることを特徴とするレーダ装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記アンテナ角度検知手段は、前記平面アンテナに設けられる加速度センサを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記アンテナ角度検知手段は、前記筐体に設けられ当該筐体の重力方向に対する傾きを検知するセンサと、前記センサにより検出される前記筐体の傾きと前記平面アンテナの傾動角度の履歴とに基づき前記アンテナ角度を検出する制御部とを有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲を超えるときに警告を出力する制御部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記傾動予定角度と前記傾動角度の履歴の和が前記傾動可能範囲内のときであっても、前記傾動予定角度が所定の閾値を超えるときには警告を出力する制御部を有することを特徴とするレーダ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記アンテナ傾動部は、モータの回転を減速させて前記平面アンテナの駆動力に変換する減速機構を有することを特徴とするレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−47722(P2011−47722A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−194894(P2009−194894)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】