説明

ロケットエンジンチャンバーを製造するための、電着と組み合わせた雰囲気制御プラズマ溶射の使用

電着法は、心材上でのイリジウム薄膜(212)の製造に用いられる。雰囲気制御プラズマ溶射法(CAPS)は、電着イリジウム層(212)上への、レニウム、レニウム含有合金、または耐火合金の層(210)の構築に用いられる。レニウム、レニウム含有合金、または耐火合金の析出後、この方法は第2のCAPS法を用い、ニオブのような過渡耐火材料(214、216)をロケットエンジンチャンバーの両端へつける。電着イリジウム層(212)は高純度、高延性で、均質のイリジウム層(212)を与える。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2004年10月26日に出願された米国仮出願第60/622,515号の利益を主張し、これは参照により明示的に本明細書に組み込まれる。
【0002】
発明の分野
本発明はロケットエンジン燃焼チャンバーの製造に関し、特に酸化耐性材料の電着と、次の構造耐火材料の「雰囲気制御」プラズマ溶射によるチャンバーの形成に関する。
【0003】
発明の背景
ロケットエンジンによって経験される要求に堪えるには、高温、高剛性、高延性の要求に合致するように独特の材料を組み合わせて用いる。イリジウムは、高温および酸化環境に耐えるために、燃焼チャンバーの内側に使用されている。レニウム、レニウム含有合金、またはその他の構造耐火金属、またはそれらの合金は、それらの剛性や延性から、燃焼チャンバーの構造材料に用いられている。レニウムおよびレニウム含有合金は、イリジウムほど脆くはなく、熱サイクルによく耐えることができるが、ロケットエンジン燃焼ガスにより発生する温度や酸化環境に耐えるとはみなされない。したがって、イリジウム層を燃焼チャンバーの内側に適用し、レニウムまたはレニウム含有合金を燃焼チャンバーの外側に適用することが通例になっている。しかしながら、これらの似ていない金属を接合する現在の技術水準は、脆く、加工しにくく、高価な部品を生み出す。
【0004】
発明の概要
電着法を用いて、酸化耐性材料例えばイリジウムでできた構造体を製造する。低圧プラズマ溶射法(LPPS)または真空プラズマ溶射法(VPS)(本出願においては両者をまとめて雰囲気制御プラズマ溶射法(CAPS)という)を用いて、構造耐火金属たとえばレニウム、レニウム含有合金、またはその他の耐火金属およびそれら合金を酸化耐性材料上に析出させる。イリジウムの電着は、溶融塩電解質またはケミカルバス溶液のいずれかの電解質を含んでもよい。電着法によりイリジウム層を形成した後で、構造耐火材料の析出にCAPS法を利用してもよい。構造耐火材料を析出させた後、この方法は、チタン合金および/またはコロンビウム合金に接合できる過渡構造耐火材料たとえばニオブを析出させるために二度目のCAPS法を用いる。先述の方法は、ロケットエンジン燃焼チャンバーの製造に用いることができる。
【0005】
電着されたイリジウム材料は、低圧プラズマ溶射法や真空プラズマ溶射法を含むその他の技術と比較して、高精製、高延性で、均質なイリジウム層を与える。CAPS法で析出された構造耐火材料と組み合わせたイリジウムの電着の使用は、サイクル時間を減らし、より脆さのない、そしてより加工しやすい材料と、現在の技術水準に比してロケットエンジン燃焼チャンバーの製造におけるコスト低減を提供する。構造耐火材料と、過渡耐火材料の間に機能傾斜を有するロケットエンジン燃焼チャンバーも開示している。
【0006】
本発明の前述の態様と付随する多くの利点が、より容易に認識されると同時に、以下の詳細な記述を参照することで、付随する図との関連により、より良く理解されるであろう。
【0007】
発明を実施するための最良の形態
図1を参照して、電着と次のCAPS析出で作られた構造体を形成するための方法100を説明する。本発明の一実施例は、酸化耐性層を析出させる電着法と、それに続く酸化耐性層上に(または並置して)耐火構造層を析出させるCAPS法を含む。ブロック102は方法100の開始を示している。ブロック102から、方法100は二種類の異なる電解質のうち一つを用いる電着法を含む。電着法は、ブロック104の溶融塩からの酸化耐性層の電着、またはブロック106のケミカルバス溶液からの電着を含む。酸化耐性材料は典型的にはイリジウムである。ブロック104またはブロック106のいずれかによる電着は、酸化耐性材料の形成をもたらす。ブロック104またはブロック106のいずかによる酸化耐性材料の電着に続き、方法100は、二種類の異なるCAPS法のうち一つを用いる選択肢を示すブロック106またはブロック108のいずれかに至ることができる。構造耐火材料はCAPS法によりつけられる。CAPS法はブロック108の低圧プラズマ溶射法、またはブロック110の真空プラズマ溶射法を含んでもよい。構造耐火材料はレニウム、レニウム合金、モリブデン、モリブデン合金、タングステン、タンタル、または耐火金属およびそれらの合金でもよい。酸化耐性材料の電着法と、構造耐火材料のCAPS析出法を組み合わせて、ロケットエンジン燃焼チャンバーの製造に用いることができる。
【0008】
ブロック104とブロック106の電着は、電極上に析出される酸化耐性材料のイオン種を含有する電解質に電流を印加することを含む。電着装置は、電解質を含む容器と、第1および第2の電極を含む。一方の電極は、イオン種で表面が覆われる基質として供される。電源は第1電極および第2電極と電気的に接続している。電流が増加するにしたがって、電解質中の金属カチオン種が、金属カチオン種の還元が生じる陰極上に析出する。陰極はロケットエンジンの燃焼チャンバー、スロート、およびノズルの一部または全体といった、所望の物体の形状をとることができる。陰極は、陰極表面に析出され最終的に陰極から取り除かれる層を指示する「心材」でもよい。この場合、心材は製造法中で一時的な支持体をはたす。先に示したように電解質は、溶融塩またはケミカルバス溶液を含み、各々は析出される酸化耐性材料のイオン種を含有する。電解質が溶融塩である場合、熱素子が電解質容器に設けられ、塩をその塩の融点まで加熱してイオンを遊離させる。イリジウムが析出される酸化耐性材料である場合、塩は酸化イリジウムか、イリジウムカリウムシアン化物である。電解質にケミカルバス溶液を用いる場合、イリジウムのめっき浴溶液は臭化水素酸と、イリジウム塩を含んでもよい。電解質に溶融塩を用いる場合、イリジウムの溶融塩はナトリウムか、シアン化ナトリウムとシアン化カリウムの混合物を含んでもよい。温度と電流密度は、最適な析出性能を達成するように調節される変数である。イリジウムのような金属を、興味のある特徴的な形状の心材上に析出し、所望の厚さおよび純度を得るように加工を制御する。イリジウムの薄層は、酸化に耐える構造耐火材料の保護被覆として、心材につけられる。
【0009】
電着法の結果、酸化耐性層を有する構造体ができる。雰囲気制御プラズマ溶射法を用いて耐火構造金属をこの構造体に加える。ブロック104か106のいずれから、方法100は、ブロック108か110のいずれかに入る。雰囲気制御プラズマ溶射法またはブロック108の真空プラズマ溶射法か、ブロック110の低圧プラズマ溶射法を含んでもよい。双方の雰囲気制御プラズマ溶射法はプラズマ溶射を含む。プラズマ溶射において、不活性プラズマガス流がアークとともに発生する。酸化耐性材料は、プラズマ流によって運ばれ、融解される粉体としてプラズマ流に供給される。プラズマ流は酸化耐性材料を有する構造体に向けられる。プラズマ流は、酸化耐性材料を有する構造体に衝突し、それによって酸化耐性層を構造耐火材料層で被覆する。プラズマ溶射は、典型的には1 psiaから未満から約6.0 psiaの低圧にて行われる。しかしながら、プラズマ溶射を0 psiaから14.7 psiaで行ってもよい。ブロック108かブロック110の二つの雰囲気制御プラズマ溶射法のうちの一つが完了すると、酸化耐性材料表面上に(または並置して)構造耐火材料を有する構造体ができあがる。
【0010】
ブロック108か110のいずれかから、方法100はブロック112か114のいずれかに進み、更なる雰囲気制御プラズマ溶射法を行い、構造耐火金属表面上(または並置して)に過渡耐火金属を加えてもよい。このような過渡耐火金属はニオブ(コロンビウム)を含む。過渡構造耐火材料はいくつかの場合に必要である。たとえば、ロケットエンジンにおいて、燃料注入装置は、通常レニウムのような構造耐火材料と溶接することが難しい、チタンやチタン合金で作られている。この問題は、チタンやチタン合金と溶接することのできる過渡耐火材料を構造耐火材料につけることで解決される。過渡耐火材料は、ニオブ(コロンビウム)を含む。過渡構造耐火材料を析出させる雰囲気制御プラズマ溶射法は、ブロック112の低圧プラズマ溶射法、またはブロック114の真空プラズマ溶射法を含んでもよい。ブロック112と114は、ブロック112とブロック114がオプションであることを示すために破線で描かれている。ブロック112か114のいずれかを用いた場合、方法100はブロック112か114のいずれかからブロック116で終了する。用いない場合は、方法100はブロック108か110のいずれかで終了する。図1は明確さおよび簡潔さのために中間工程や仕上げ工程を示していないことを理解すべきである。
【0011】
図2を参照して、方法100にしたがって作られた一実施例の構造体200を説明する。構造体200はロケットエンジン燃焼チャンバーである。構造体200は、拡張ノズル206に接続された、スロート204に接続されたチャンバー202を含む。矢印208は、注入装置(示していない)からの推進燃料の流れを描いている。チャンバー202は、推進燃料を燃焼生成物へと燃焼するためのものである。スロート204は、燃焼物を音速条件へと加速するためのものである。拡張ノズル206は、燃焼生成物を超音速まで加速するためのものである。部品202、204および206の各々は、酸化耐性材料212を内側に持ち、構造耐火材料210を外側に有する。過渡耐火材料214および216は燃焼チャンバー202の入り口の端と、拡張ノズル206の出口の端に形成される。酸化耐性材料212は、溶融塩またはケミカルバス溶液である電解質を含む電着法を用いて形成される。構造耐火材料210は、真空プラズマ溶射法または低圧プラズマ溶射法を含めた、雰囲気制御プラズマ溶射法を用いて形成される。過渡耐火材料214および216は、真空プラズマ溶射法または、低圧プラズマ溶射法を含めた、雰囲気制御プラズマ溶射法を用いて形成される。
【0012】
電着イリジウム層212は構造耐火材料210を酸化から保護する。レニウム、レニウム含有合金、モリブデン、モリブデン含有合金、タングステン、タングステン含有合金、タンタル、タンタル含有合金、またはその他の耐火金属およびそれらの合金が、耐火構造層210に用いられる材料である。ニオブまたはタンタルが、耐火材料210からチタン製注入装置または溶射ノズル(C103コロンビウム合金)への、過渡構造体214、および216に用いられる。イリジウム層の厚さは通常0.002から0.010インチ、レニウム層の厚さは通常0.040から0.250インチで、ニオブ層の厚さは通常0.070から0.120インチである。
【0013】
構造耐火層210は、燃焼生成物の存在下で速やかに酸化に曝される。劣化を防ぐため、イリジウムの薄膜212は耐火構造層210を酸化から保護する。電着イリジウム層212は99.9%以上の純度で、高延性である。チャンバー202は融解溶接により上流の端で注入装置(示していない)に過渡耐火材料214で、下流の端でノズル(示していない)に過渡構造耐火材料216で接続される。レニウムは注入装置(チタン合金)、またはノズル(コロンビウム合金)のいずれかの構成材料に直接溶接することができない。チャンバー200を注入装置(示していない)に、そしてチャンバー200をノズル(示していない)に接続するために、ニオブ(すなわち、コロンビウム)をチャンバー200の上流の端と下流の端の両方に析出させる。十分な厚さのニオブを、既に析出された構造耐火層212上に堆積し、そこで耐火構造層210の上にオーバーハングさせる。その後ニオブを、注入装置とノズルの双方の融解溶接取り付け具に適合する適切な溶接継手の形状に加工する。
【0014】
一実施例において、過渡耐火材料214、および216は、構造耐火材料層210上で「機能傾斜」している。2種類の似ていない材料に用いられる機能傾斜は、外側の材料の割合が内側に向かう方向に減少する一方、内側の材料の割合が外側に向かう方向に減少することを示す。例えば、レニウムが内側材料でニオブが外側材料であり、ニオブをレニウム構造体につける場合、構造体の断面に沿ったある点で、レニウム材料が100%を構成し、ニオブ材料が0%を構成するだろう。しかしながら、その点から外側へ動くと、ニオブ材料は組成において増加する一方、レニウム材料は組成において徐々に減少する。外側の表面では、ニオブ材料が今度は100%を構成する一方、レニウムは0%を構成する。しかしながら、100%のニオブは、傾斜機能構造が存在する前に、内側に向かって外側からの短い距離に広がっていてもよい。同様に、レニウムは、傾斜機能構造が存在する前に、外側に向かって内側からの短い距離に広がっていてもよい。図3において、例えば、ニオブとレニウムが典型的な傾斜機能構造体の厚さに対してプロットされる。構造体の外側で、組成は100%のニオブと0%のレニウムである。外側から測ったある距離で、レニウムの割合が増加する一方、ニオブの割合は減少する。外側から測ったある距離で、レニウムは100%、ニオブは0%になり、残りの構造体についてもこれらの割合で続く。ロケットエンジンチャンバーへ傾斜機能材料を用いることは、金属間の急激な移行をもつロケットエンジンチャンバーと比較して、熱膨張係数を下げることができるので利点がある。
【0015】
本発明の実施例は、現在の技術水準に比して延性があり、低質量で、最大動作温度でも著しい変形の無いチャンバーシステムを作り出す。
【0016】
本発明の好ましい実施例を説明し記述したが、本発明の精神および範疇から離れることなく、さまざまな変更がなされることがわかるだろう。
【0017】
独占的な所有権または特権を主張する本発明の実施例は特許請求の範囲のように定義される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例に従った方法の流れ図である。
【図2】本発明の実施例に従ったロケットエンジンの燃焼チャンバーの図である
【図3】本発明の実施例に従った機能傾斜構造のグラフ図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電着法により酸化耐性材料を形成し、
雰囲気制御プラズマ溶射法により酸化耐性材料上に構造耐火材料を形成する、
ことを含む方法。
【請求項2】
電着法が、溶融塩電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
電着法が、ケミカルバス溶液電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項1記載の方法。
【請求項4】
雰囲気制御プラズマ溶射法が、0〜14.7 psiaの圧力で構造耐火材料を析出させることを含む、請求項1記載の方法
【請求項5】
さらに、構造耐火材料上に過渡耐火材料を形成することを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
過渡耐火材料がニオブまたはタンタルを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
酸化耐性材料が、イリジウムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
構造耐火材料がレニウム、モリブデン、レニウム合金、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、タンタル、タンタル合金のうちの少なくとも一つであるか、またはそれらの組み合わせである、請求項1記載の方法。
【請求項9】
電着法により酸化耐性材料を形成し、
雰囲気制御プラズマ溶射法により酸化耐性材料上に構造耐火材料を形成することを含み、酸化耐性材料と構造耐火材料を典型的な燃焼チャンバーの形状に析出させる、燃焼チャンバーの製造方法。
【請求項10】
電着法が、溶融塩電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
電着法が、ケミカルバス溶液電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項12】
雰囲気制御プラズマ溶射法が、0〜14.7 psiaの圧力で構造耐火材料を析出させることを含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
さらに、構造耐火材料上に過渡耐火材料を形成することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項14】
過渡耐火材料がニオブまたはタンタルを含む、請求項13記載の方法。
【請求項15】
酸化耐性材料が、イリジウムを含む、請求項9記載の方法。
【請求項16】
構造耐火材料がレニウム、モリブデン、レニウム合金、モリブデン合金、タングステン、タングステン合金、タンタル、タンタル合金のうちの少なくとも一つであるか、またはそれらの組み合わせである、請求項9記載の方法。
【請求項17】
電着法により析出させた酸化耐性材料を含む層を得て、
雰囲気制御プラズマ溶射法により酸化耐性材料上に構造耐火材料を形成することを含み、
酸化耐性材料と構造耐火材料を典型的な燃焼チャンバーの形状に析出させる、燃焼チャンバーの製造方法。
【請求項18】
電着法が、溶融塩電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
電着法が、ケミカルバス溶液電解質から酸化耐性材料を析出させることを含む、請求項17記載の方法。
【請求項20】
チタンを含む構造耐火材料を、レニウムを含む構造耐火材料に取り付ける方法であって、ニオブまたはタンタルを含む過渡耐火材料と、レニウムを機能傾斜的に含む構造耐火材料を、レニウムを含む構造耐火材料上に付着させることを含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−518111(P2008−518111A)
【公表日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−539075(P2007−539075)
【出願日】平成17年10月26日(2005.10.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/038613
【国際公開番号】WO2006/110178
【国際公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【出願人】(303036588)エアロジェット−ジェネラル・コーポレーション (4)
【Fターム(参考)】