説明

ロボットの関節装置

【課題】人や動物などに触れるロボットの関節装置であって、人に触れた場合に当該人が不快感を覚えることなく実際の人と接触しているような状態を実現できるロボットの関節装置を提供する。
【解決手段】ロボット1の関節装置は、回転可能且つ軸方向に移動可能に軸支されウォーム32aを備える軸部材32と、ウォーム32aに噛合し出力部材38が連結されるウォームホイール36を備える。ウォームホイール36は、ウォーム32aの回転により回転し、ウォームホイール36から軸部材32に逆入力されると軸部材32を軸方向に移動させる。軸部材32の軸方向移動量は検出部45により検出され、外力推定部80が、検出部45により検出される軸方向移動量に基づいて出力部材38が受けた外力を推定する。そして、制御部70が、指令値および外力推定部80により推定された外力に基づいて、アクチュエータ34を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの関節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
産業用ロボットの一例として、クランプ装置が特開2004−216515号公報(特許文献1)に記載されている。このクランプ装置は、クランプアームの回転軸に設けられたウォームホイールと、該ウォームホイールに噛合されて電動モータに連結されたウォームとを備える。そして、クランプアームがワークに当接すると、ウォームホイールからウォームへ反力が伝達される。これに伴いウォームが軸方向へ変移して、ウォームが所定位置へ変移すると停止する。この状態をセンサにより検知する。そうすると、別のクランプ力付与機構により、クランプアームにワークをクランプするクランプ力を付与する。
【0003】
このクランプ装置は、ウォームが軸方向の所定位置に変移して停止したことを検知して、その状態でクランプ力を付与することを目的としている。つまり、クランプアームがワークに当接することにより反力が発生すると、クランプアームを停止させてクランプ力を付与する。
【0004】
ところで、近年、人や動物と触れることを目的としたロボットが開発されている。例えば、介護用ロボットなどである。介護用ロボットは、人を抱きかかえて移動することなどを可能とするロボットである。このようなロボットは、外力を受けた場合に単に停止させるという単純な動作をする産業用ロボットは適用できない。
【0005】
例えば、介護用ロボットの腕部に人を抱きかかえた状態で、抱きかかえられている人が腕部の上で動いた場合を考える。このような場合に、上記のようなクランプ装置をそのまま介護用ロボットの腕部に適用すると、ロボットの腕部は停止した状態を維持する動作を行う。しかし、実際の人が人を抱きかかえる場合には、人の腕部は、抱きかかえられている人の動きに応じた動作を行う。従って、産業用ロボットであるクランプ装置をそのまま介護用ロボットの腕部などに適用すると、抱きかかえられている人は不快感を覚える。
【0006】
なお、ロボットの腕部などに外力を受けたことを検出する手段として、例えば、特開2007−10383号公報(特許文献2)や特開2005−3649号公報(特許文献3)などに、触覚センサが記載されている。触覚センサは、腕部の表面に設けられるセンサである。
【特許文献1】特開2004−216515号公報
【特許文献2】特開2007−10383号公報
【特許文献3】特開2005−3649号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、介護用ロボットなどの人や動物に触れることを目的としたロボットにおいては、ロボットが外力を受けた場合に、産業用ロボットとは異なり、柔軟性が求められる。また、特に、人や動物に触れるロボットの腕部などの関節装置は、駆動源が停止した場合であっても、フェールセーフ機能として、その状態を維持する必要がある。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、人や動物などに触れるロボットの関節装置であって、人に触れた場合に当該人が不快感を覚えることなく実際の人と接触しているような状態を実現できるロボットの関節装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記課題を解決するのに適した各手段につき、必要に応じて作用効果等を付記しつつ説明する。
【0010】
(手段1)手段1に係るロボットの関節装置は、
ハウジングと、
前記ハウジングに回転可能且つ軸方向に移動可能に軸支され、ウォームを備える軸部材と、
前記軸部材を回転駆動するアクチュエータと、
前記ウォームに噛合し、前記ウォームが回転することにより回転するウォームホイールであって、当該ウォームホイールから前記軸部材に前記ウォームホイールの回転力が逆入力される場合に前記軸部材を前記軸方向に移動させるウォームホイールと、
前記ウォームホイールに連結され、前記軸部材から伝達された前記ウォームホイールの回転により回転する出力部材と、
前記軸部材の軸方向移動量を検出する検出部と、
前記検出部により検出される前記軸方向移動量に基づいて前記出力部材が受けた外力を推定する外力推定部と、
指令値および前記外力推定部により推定された前記外力に基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
手段1によれば、出力部材が外力を受けた場合にウォームが軸方向に移動することを利用して、その軸方向移動量に基づいて出力部材が受けた外力を推定している。そして、推定された外力に基づいてアクチュエータを制御することで、出力部材をロボットの腕部や胴体部などに適用した場合に、急激に停止するのではなく、適切な柔軟性を発揮できる。つまり、人がロボットの出力部材に触れた場合に、当該人が不快感を覚えることなく、当該人が実際の人と接触しているような状態を実現することができる。さらに、ウォームとウォームホイールにより出力部材を駆動することにより、アクチュエータへの駆動源(電力)の供給が停止した場合であっても、出力部材の現在の状態を維持できる。従って、フェールセーフ機能を確実に発揮できる。
【0012】
(手段2)手段1のロボットの関節装置において、
前記外力推定部は、前記外力の大きさを推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の大きさとに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御するとよい。
【0013】
例えば、予測していない硬い物体に衝突した場合には、出力部材が受ける外力の大きさは大きくなる。一方、例えば、ロボットの腕部に抱きかかえられている人が、ロボットの腕部の上で予測していない動作をした場合には、出力部材が受ける外力の大きさは、前記の場合に比べて小さくなる。このように、外力の大きさによって、どのような種類の外力であるかを判断できる。従って、手段2によれば、推定された外力の大きさに応じて、出力部材を適切に動作させることができる。
【0014】
(手段3)手段2のロボットの関節装置において、
前記外力推定部は、前記外力の大きさと前記外力の大きさの変化速度とを推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の大きさおよび前記外力の大きさの変化速度とに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御するとよい。
【0015】
例えば、ロボットが指令タスクを実行している場合に、予測している物体を持ち上げる場合には、出力部材が受ける外力の大きさの変化速度は小さい。一方、上述したような、予測していない硬い物体に衝突した場合や、ロボットの腕部に抱きかかえられている人が、ロボットの腕部の上で予測していない動作をした場合には、出力部材が受ける外力の大きさの変化速度が、前記の場合に比べて大きくなる。このように、外力の大きさの変化速度によって、どのような種類の外力であるかを判断できる。従って、手段3によれば、推定された外力の大きさの変化速度に応じて、出力部材を適切に動作させることができる。
【0016】
(手段4)手段1〜3の何れかのロボットの関節装置において、
前記外力推定部は、前記外力の方向を推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の方向とに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御するとよい。
【0017】
例えば、人がロボットの出力部材に触れた場合に、ロボットの出力部材を停止させると、人はロボットの出力部材との接触に対して硬い感覚を覚える。また、人がロボットの出力部材に触れた場合に、ロボットの出力部材を人がロボットに対して与えた力の方向とは反対方向に移動させると、人はロボットの出力部材との接触に対して極めて硬い感覚を覚える。これらに対して、人がロボットの出力部材に触れた場合に、ロボットの出力部材を人がロボットに対して与えた力の方向に移動させると、人はロボットの出力部材との接触に対して柔らかい感覚を覚える。このように、外力の方向に対して、ロボットの出力部材を移動させる方向を変えることによって、人に与える感覚を変えることができる。つまり、手段4によれば、推定された外力の方向に応じて、出力部材を適切に動作させることができる。
【0018】
(手段5)手段1〜4の何れかのロボットの関節装置において、
前記制御部は、前記外力推定部により推定された前記外力の大きさが所定閾値より大きい場合には、前記アクチュエータを停止させるように制御するとよい。
【0019】
上述したように、例えば、予測していない硬い物体に衝突した場合には、出力部材が受ける外力の大きさは大きくなる。手段5によれば、このような場合に、アクチュエータを停止させることになる。これにより、予測していない大きな衝撃に対して、影響を小さくできる。
【0020】
(手段6)手段5のロボットの関節装置において、
前記制御部は、前記外力推定部により推定された前記外力の大きさが前記所定閾値以下の場合には、前記出力部材を前記外力の力方向に移動させ、その後に前記目標位置に戻すように、前記アクチュエータを制御するとよい。
【0021】
上述したように、例えば、ロボットの腕部に抱きかかえられている人が、ロボットの腕部の上で予測していない動作をした場合には、出力部材が受ける外力の大きさは、それほど大きくない。手段6によれば、このような場合に、出力部材が外力の力方向に移動した後に、目標位置に戻すような動作をする。これにより、ロボットの腕部に抱きかかえられている人が、実際の人に抱きかかえられているような状態を実現できる。この状態などのように、柔軟性が要求される場合に、柔軟性のある動作を実現できる。
【0022】
(手段7)手段6のロボットの関節装置において、
前記制御部は、前記出力部材を前記外力の方向に移動させる際に、前記外力の大きさと前記外力の大きさの変化速度の少なくとも何れか一方に応じて、前記アクチュエータを制御するとよい。
【0023】
これにより、より適切な柔軟性を達成することができる。つまり、外力の大きさが大きい場合には、出力部材の外力の方向への移動量を大きくするとよく、外力の大きさが小さい場合には、出力部材の外力の方向への移動量を小さくするとよい。また、外力の大きさの変化速度が大きい場合には、出力部材の外力の方向への移動量を大きくするとよく、外力の大きさの変化速度が小さい場合には、出力部材の外力の方向への移動量を小さくするとよい。
【0024】
(手段8)手段1〜7の何れかのロボットの関節装置において、
前記外力推定部は、前記軸方向移動量と前記出力部材の質量および重心位置とに基づいて前記出力部材が受けた前記外力を推定するとよい。
【0025】
出力部材自身の自重によって、ウォームホイールからウォームへ回転力が逆入力されることがある。つまり、出力部材の自重が、軸部材を軸方向へ移動させる。そして、出力部材の自重によって軸部材が軸方向へ移動する移動量は、出力部材の重心位置によって異なる。そこで、手段8によれば、外力推定部が、軸方向移動量と出力部材の質量および重心位置とに基づいて、出力部材が受けた外力を推定する。つまり、出力部材が実際に受ける外力を推定する際に、検出された軸部材の軸方向移動量から、出力部材自身の自重によって軸部材の軸方向移動量を除去することで、正確な外力を推定できる。
【0026】
(手段9)手段1〜8の何れかのロボットの関節装置において、
前記軸部材、前記アクチュエータ、前記ウォームホイールおよび前記検出部からなる駆動源モジュールは、2組有し、
2組の前記ウォームホイールの回転軸は、同軸上に位置し、
前記出力部材は、それぞれの前記モジュールを構成する前記ウォームホイールに連結され、前記ウォームホイールの回転軸回りに回転し、且つ、前記ウォームホイールの回転軸に直交する軸回りに回転し、
前記外力推定部は、それぞれの前記モジュールを構成する前記検出部により検出されたそれぞれの前記軸方向移動量に基づいて、前記出力部材が受けた外力のうち、前記ウォームホイールの回転軸回りの方向の外力と前記ウォームホイールの回転軸に直交する軸回りの方向の外力とのそれぞれを推定するとよい。
【0027】
例えば、駆動源モジュールをロボットの肩部に設け、出力部材をロボットの腕部とした場合には、腕部は、腕軸回りに回転するとともに、肩部を中心に上下へ揺動する。つまり、本発明の「ウォームホイールの回転軸に直交する軸回り」が、腕軸回りに相当し、本発明の「ウォームホイールの回転軸回り」が、肩部を中心に上下へ揺動する軸回りに相当する。このような場合に、手段9によれば、それぞれの方向の外力を推定することができるため、それぞれの外力の方向に応じた適切な動作を行うことができる。
【0028】
(手段10)手段1〜9の何れかのロボットの関節装置において、
前記検出部は、
前記軸部材の軸方向移動に伴って軸方向に伸縮変形する変形部材と、
前記変形部材に取り付けられ、前記変形部材の軸方向の伸縮に伴って軸方向に移動する軸方向移動部材と、
前記ハウジングに設けられ、前記軸方向移動部材の軸方向移動を検出する固定検出部と、
を備えるとよい。
【0029】
手段10によれば、変形部材の伸縮変形により軸方向移動部材が移動することを固定検出部により検出することで、構造が簡易的となる。さらに、変形部材の伸縮変形を利用することで、小型化を図ることができる。
【0030】
(手段11)手段1〜9の何れかのロボットの関節装置において、
前記検出部は、
前記軸部材の軸方向移動に伴って軸方向に伸縮変形する変形部材と、
前記変形部材の軸方向歪を検出する歪センサと、
を備えるようにしてもよい。
手段11においても、手段10と同様に、構造が簡易的となり、且つ、小型化を図ることができる。
【0031】
(手段12)手段10または11のロボットの関節装置において、
前記変形部材は、前記軸部材と前記ハウジングとにより軸方向に予め圧縮された状態を初期状態として取り付けられているとよい。
手段12によれば、軸部材が初期状態から軸方向両側へ移動することを、確実に検出できる。
【0032】
(手段13)手段10〜12の何れかのロボットの関節装置において、
前記変形部材は、前記ハウジングに対して回転不能に設けられるとよい。
手段13によれば、軸方向移動部材と固定検出部を用いる構成においては、軸方向移動部材または固定検出部を全周に設ける必要がなくなる。また、歪センサを用いる構成においては、歪センサに接続する配線にスリップリングなどを介する必要がなくなる。
【0033】
(手段14)手段1〜13の何れかのロボットの関節装置において、介護用ロボットの関節装置とするとよい。特に、介護用ロボットには、上記の要求が高い。つまり、被介護者に対しては、実際の人が触れる場合の中でも、さらにやさしく触れる必要がある場合が多い。このような介護用ロボットに本発明を適用することで、介護用ロボットの実現性を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明のロボットの関節装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0035】
(ロボットの全体構成)
本実施形態のロボット1の関節装置について、図1〜図3を参照して説明する。図1は、ロボット1の正面図である。図2は、ロボット1の右側面図である。図3は、ロボット1が、ロボット1の腕部により人を抱きかかえている状態を示す斜視図である。
【0036】
本実施形態のロボット1は、介護用ロボットであり、主として、被介護者である人を抱きかかえて移動することを可能とするロボットである。例えば、ロボット1は、ベッドに座っている被介護者を、車いすへ移動させることを可能とする。つまり、ロボット1は、ベッドに座っている被介護者を抱きかかえ、被介護者を抱きかかえた状態でベッドから車いすまで移動し、被介護者を車いすに下ろす動作を行う。
【0037】
図1〜図3に示すように、ロボット1は、出力部材としての、脚部11、胴体部12、頭部13、左右の上腕部14、15、左右の前腕部16、17、左右の手部18、19と、関節部としての、腰部21と、首関節部22、肩関節部23、24と、肘関節部25、26とから構成される。
【0038】
脚部11は、車輪(図示せず)を備えており、床上を自由に移動可能な構成としている。胴体部12は、脚部11に対してロボット1の前後に揺動可能となるように、腰関節部21により脚部11と連結されている。頭部13は、胴体部12に対して上下左右に首振り可能となるように、首関節部22により胴体部12と連結されている。頭部13には、視覚センサ13a、13bが取り付けられている。
【0039】
上腕部14、15は、胴体部12に対してロボット1の左右に揺動可能で且つ上腕軸回りに回転可能となるように、肩関節部23、24により胴体部12と連結されている。この上腕部14、15の表面には、感圧センサ14a、15aが取り付けられている。つまり、感圧センサ14aは、左上腕部14に接触する外力の大きさを検出することができ、感圧センサ15aは、右上腕部15に接触する外力の大きさを検出することができる。
【0040】
前腕部16、17は、上腕部14、15に対して、ロボット1の前後に揺動可能となるように、肘関節部25、26により上腕部12、13に連結されている。この前腕部16、17の表面には、感圧センサ16a、17aが取り付けられている。つまり、感圧センサ16aは、左前腕部16に接触する外力の大きさを検出することができ、感圧センサ17aは、右前腕部17に接触する外力の大きさを検出することができる。左右の手部18、19は、前腕部16、17の先端側に固定されている。
【0041】
つまり、図3に示すように、各関節部21〜26を駆動することにより、ロボット1は、被介護者を抱きかかえることができる。さらに、ロボット1の前腕部16、17の上にて、被介護者を安定した状態で移動できるように、各関節部21〜26を駆動する。例えば、感圧センサ16a、17aにより検出されるそれぞれの外力の大きさにより、被介護者の重心位置が、ロボット1の左右方向の中心付近に位置するようにするとともに、ロボット1の腰関節部12よりも上側の部材と被介護者とを合わせた全体物の重心位置が、ロボット1の腰関節部12の上方に位置するように、各関節部21〜26を駆動する。
【0042】
(ロボット1の関節装置の機械構成)
ロボット1の関節装置としては、各関節部21〜26に設けられている。ここでは、肩関節部24について、図4〜図6を参照して説明する。図4は、ロボット1の肩関節部24の内部構造であって、図2の正面から見た図である。図5は、図4のA−A断面図である。図6は、図4のB方向矢視図である。
【0043】
図4〜図6に示すように、ロボット1の肩関節部24は、ハウジング31と、軸部材32、33と、アクチュエータ34、35と、ウォームホイール36、37と、出力軸38(本発明の「出力部材」に相当する)と、スプリング41、42と、変形部材43、44と、磁石45、46(本発明の「軸方向移動部材」に相当する)と、磁気センサ47、48(本発明の「固定検出部」に相当する)とから構成される。
【0044】
ハウジング31は、胴体部22の肩関節部24付近に固定された部材である。このハウジング31は、図1の左右方向に貫通する2本の貫通孔31a、31b(図5、6に示す)が形成されている。この貫通孔31a、31bには、後述する軸部材32、33が挿通される。さらに、ハウジング31は、肩関節部24側において、後述するウォームホイール36、37が軸支される支持孔31c、31d(図4に示す)が形成されている。
【0045】
軸部材32は、ウォーム32aと、ウォーム32aの軸方向両側に延びる棒状部32b、32cとから構成される。また、軸部材33は、ウォーム33aと、ウォーム33aの軸方向両側に延びる棒状部33b、33cとから構成される。軸部材32、33は、ハウジング31の貫通孔31a、31bのそれぞれに挿通されている。そして、軸部材32の一方の棒状部32bは、ラジアル軸受51を介して、ハウジング31に対して回転可能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。軸部材32の他方の棒状部32cは、ラジアル軸受52を介して、ハウジング31に対して回転可能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。また、軸部材33の一方の棒状部33bは、ラジアル軸受53を介して、ハウジング31に対して回転可能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。軸部材33の他方の棒状部33cは、ラジアル軸受54を介して、ハウジング31に対して回転可能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。つまり、軸部材32、33は、ハウジング31に回転可能に且つ軸方向に移動可能に支持されている。
【0046】
アクチュエータ34は、軸部材32を回転駆動するモータである。また、アクチュエータ35は、軸部材33を回転駆動するモータである。アクチュエータ34は、軸部材32の他方の棒状部32cの端部に連結され、アクチュエータ35は、軸部材33の他方の棒状部33cの端部に連結されている。
【0047】
スプリング41は、軸部材32の一方の棒状部32bの端部と、ハウジング31との間に設けている。スプリング42は、軸部材33の一方の棒状部33bの端部と、ハウジング31との間に設けている。つまり、スプリング41、42は、軸部材32、33のそれぞれに対して、図5の右側へ予め押圧する押圧力を付与している。
【0048】
ウォームホイール36は、大輪部36aと、小輪部36bとから構成されている。ウォームホイール37は、大輪部37aと、小輪部37bとから構成されている。ウォームホイール36、37は、その回転軸が軸部材32、33の軸方向に直交し、図4の紙面垂直方向に一致するように、且つ、両回転軸が一致するように、ハウジング31の支持孔31c、31dのそれぞれに支持されている。
【0049】
このウォームホイール36、37の大輪部36a、37aは、外周面に歯溝が形成されており、ウォーム32a、33aにそれぞれ噛合している。つまり、ウォーム32aが回転することにより、ウォームホイール36が回転する。また、ウォームホイール36が回転すると、ウォームホイール36の大輪部36aから軸部材32のウォーム32aにウォームホイール36の回転力が逆入力される。この逆入力により、軸部材32は、ハウジング31に対して軸方向に移動する。
【0050】
また、ウォーム33aが回転することにより、ウォームホイール37が回転する。さらに、ウォームホイール37が回転すると、ウォームホイール37の大輪部37aから軸部材33のウォーム33aにウォームホイール37の回転力が逆入力される。この逆入力により、軸部材33は、ハウジング31に対して軸方向に移動する。
【0051】
ここで、ウォームホイール36、37が図5の右回りの回転による逆入力の場合には、軸部材32、33は、図5の右側へ移動する。一方、ウォームホイール36、37が図5の左回りの回転による逆入力の場合には、軸部材32、33は、図5の左側へ移動する。
小輪部36bは、大輪部36aと同軸上に一体的に設けられている。この小輪部36bの外周面は、かさ歯車をなしている。小輪部37bは、大輪部37aおよび小輪部36bと同軸上に一体的に設けられている。この小輪部37bの外周面は、小輪部36bと同様のかさ歯車をなしている。
【0052】
出力軸38は、一端にかさ歯車を有する軸状部材である。そして、この出力軸38は、上腕部15をなしている。この出力軸38のかさ歯車は、ウォームホイール36の小輪部36bおよびウォームホイール37の小輪部37bに噛合している。つまり、ウォームホイール36、37が同じ方向に回転する場合には、出力軸38が、図5の紙面法線軸回りに遥動する。一方、ウォームホイール36、37が異なる方向に回転する場合には、出力軸38は、その回転軸回りに回転する。このときの出力軸38の回転方向は、ウォームホイール36、37の回転方向に応じたものとなる。
【0053】
つまり、出力軸38がその軸回りに回転するような外力を受ける場合には、ウォームホイール36、37が異なる方向に回転する。そうすると、軸部材32、33は、ハウジング31に対して、それぞれ異なる軸方向へ移動する。一方、出力軸38が図5の遥動する方向に外力を受ける場合には、ウォームホイール36、37は同一方向に回転する。そうすると、軸部材32、33は、ハウジング31に対して、同一の軸方向へ移動する。
【0054】
変形部材43、44は、樹脂製の円筒状に形成されている。変形部材43、44の内径は、軸部材32、33の他方の棒状部32c、33cの外径より大きく形成されている。また、変形部材43、44の外径は、軸部材32、33のウォーム32a、33aの外径とほぼ同等に形成されている。そして、この変形部材43、44は、軸方向に圧縮荷重が付与された場合には、僅かではあるが、収縮変形する。変形部材43は、軸部材32の他方の棒状部32cの外周側に棒状部32cと同軸上に設けられ、且つ、ウォーム32aの一端面とハウジング31との間に設けられている。具体的には、変形部材43の一端面側は、ウォーム32aの一端面との間に、スラスト軸受55を介して設けられている。一方、変形部材43の他端面側は、ラジアル軸受52の外輪に当接して設けられている。つまり、変形部材43は、軸部材32の回転に伴って回転せずに、ハウジング31に対して固定的に設けられている。そして、スプリング41により、軸部材32は予め図5の右側(図6の上側)へ押圧されているため、変形部材43は、予め圧縮された状態を初期状態としている。つまり、変形部材43は、軸部材32の軸方向移動に伴って、初期状態から軸方向に伸長変形したり収縮変形したりする。
【0055】
変形部材44は、軸部材33の他方の棒状部33cの外周側に棒状部33cと同軸上に設けられ、且つ、ウォーム33aの一端面とハウジング31との間に設けられている。変形部材44の一端面側は、ウォーム33aの一端面との間に、スラスト軸受56を介して設けられている。一方、変形部材44の他端面側は、ラジアル軸受54の外輪に当接して設けられている。つまり、変形部材44は、軸部材33の回転に伴って回転せずに、ハウジング31に対して固定的に設けられている。そして、スプリング42により、軸部材33は予め図5の右側(図6の上側)へ押圧されているため、変形部材44は、予め圧縮された状態を初期状態としている。つまり、変形部材44は、軸部材33の軸方向移動に伴って、初期状態から軸方向に伸長変形したり収縮変形したりする。
【0056】
磁石45、46は、変形部材43、44の外周面に、一箇所設けられている。この磁石45、46は、変形部材43、44の軸方向の伸縮に伴って軸方向に移動する。
【0057】
磁気センサ47、48は、磁石45、46のそれぞれに対向するように、ハウジング31にそれぞれ設けられている。磁気センサ47は、磁石45の軸方向移動量を検出することができ、磁気センサ48は、磁石46の軸方向移動量を検出することができる。これら磁気センサ47、48の出力情報は、後述する外力推定部80へ出力される。
【0058】
以上説明した構成からなるロボット1の関節装置の動作について説明する。まず、アクチュエータ34、35を同一の図4の左回りに回転させたとする。この場合、軸部材32、33が左回りに回転する。つまり、軸部材32、33が左回りに回転するということは、ウォーム32a、33aが左回りに回転することになる。そうすると、ウォーム32a、33aに噛合しているウォームホイール36、37が図5の左回りに回転する。この動作により、出力軸38が、ウォームホイール36、37の回転軸を中心に、図5の左回りに揺動する。
【0059】
次に、アクチュエータ34、35を同一の図4の右回りに回転させたとする。この場合、軸部材32、33が右回りに回転する。つまり、軸部材32、33が右回りに回転するということは、ウォーム32a、33aが右回りに回転することになる。そうすると、ウォーム32a、33aに噛合しているウォームホイール36、37が図5の右回りに回転する。この動作により、出力軸38が、ウォームホイール36、37の回転軸を中心に、図5の右回りに揺動する。
【0060】
次に、アクチュエータ34を図4の左回りに回転させ、アクチュエータ35を図4の右回りに回転させたとする。この場合、軸部材32が左回りに、軸部材33が右回りに回転する。そうすると、ウォーム32aに噛合しているウォームホイール36が図5の左回りに回転し、ウォーム33aに噛合しているウォームホイール37が図5の右回りに回転する。この動作により、出力軸38が、その軸回りのうち図6の右回りに回転する。
【0061】
次に、アクチュエータ34を図4の右回りに回転させ、アクチュエータ35を図4の左回りに回転させたとする。この場合、軸部材32が右回りに、軸部材33が左回りに回転する。そうすると、ウォーム32aに噛合しているウォームホイール36が図5の右回りに回転し、ウォーム33aに噛合しているウォームホイール37が図5の左回りに回転する。この動作により、出力軸38が、その軸回りのうち図6の左回りに回転する。
【0062】
今度は、出力軸38が外力を受けた場合に、出力軸38から軸部材32、33へ回転力が逆入力される場合の動作を説明する。まず、出力軸38が、ウォームホイール36、37の回転軸を中心に、図5の左回りに揺動するような外力を受けたとする。この場合、ウォームホイール36、37が図5の左回りに回転する。そうすると、軸部材32、33は、何れも、その軸方向のうち図5の左側に移動する。従って、変形部材43、44は、軸方向に伸長変形し、磁石45、46が図5の左側に移動する。この磁石47、48の図5の軸方向左側への移動量を、磁気センサ47、48が検出する。
【0063】
次に、出力軸38が、ウォームホイール36、37の回転軸を中心に、図5の右回りに揺動するような外力を受けたとする。この場合、ウォームホイール36、37が図5の右回りに回転する。そうすると、軸部材32、33は、何れも、その軸方向のうち図5の右側に移動する。従って、変形部材43、44は、軸方向に収縮変形し、磁石45、46が図5の右側に移動する。この磁石47、48の図5の軸方向右側への移動量を、磁気センサ47、48が検出する。
【0064】
次に、出力軸38が、その軸回りのうち図6の右回りに回転するような外力を受けたとする。この場合、ウォームホイール36が図5の左回りに回転し、ウォームホイール37が図5の右回りに回転する。そうすると、ウォームホイール36に噛合するウォーム32aを備える軸部材32が図5の左側に移動し、ウォームホイール37に噛合するウォーム33を備える軸部材33が図5の右側に移動する。従って、変形部材43が軸方向に伸長変形し、変形部材44が軸方向に収縮変形する。その結果、磁石45が図5の左側に移動し、磁石46が図5の右側に移動する。そして、磁石47、48の図5の軸方向左右それぞれへの移動量を、磁気センサ47、48が検出する。
【0065】
次に、出力軸38が、その軸回りのうち図6の左回りに回転するような外力を受けたとする。この場合、ウォームホイール36が図5の右回りに回転し、ウォームホイール37が図5の左回りに回転する。そうすると、ウォームホイール36に噛合するウォーム32aを備える軸部材32が図5の右側に移動し、ウォームホイール37に噛合するウォーム33を備える軸部材33が図5の左側に移動する。従って、変形部材43が軸方向に収縮変形し、変形部材44が軸方向に伸長変形する。その結果、磁石45が図5の右側に移動し、磁石46が図5左側に移動する。そして、磁石47、48の図5の軸方向左右それぞれへの移動量を、磁気センサ47、48が検出する。
【0066】
また、ウォーム32、33とウォームホイール36、37とを用いた構成とすることで、アクチュエータ34、35への駆動源(電力)が停止した場合に、軸部材32、33の回転角度は自由な状態となる。ただし、ウォームホイール36、37からウォーム32、33への逆入力の際には、上述したように、ウォーム32、33は回転せずに、軸方向へ移動する。つまり、アクチュエータ34、35への駆動源が停止したとしても、軸部材32、33が回転しないので、出力軸38は現在位置を維持できる。このように、上記構成を採用することで、フェールセーフ機能を発揮できる。
【0067】
なお、上述した軸部材、アクチュエータ、ウォームホイール、スプリング、変形部材、磁石、磁気センサを1組の駆動源モジュールとする。つまり、上記肩関節装置においては、2組の駆動源モジュールを備えており、これら2組の駆動源モジュールから出力軸38へ駆動力を出力する構成となる。また、腰関節装置においては、1組の駆動源モジュールを備えている。
【0068】
(ロボット1の関節装置の機能ブロック構成)
次に、ロボット1の関節装置の機能ブロック構成について、図7および図8を参照して説明する。図7は、ロボット1の関節装置の全体機能構成を示すブロック図である。図8は、外力推定部80の詳細なブロック図である。
【0069】
図7に示すように、ロボット1の関節装置は、感圧センサ61と、位置センサ62a、62b、・・・と、制御部70と、外力推定部80と、モータ91a、91b、・・・と、角度センサ92a、92b、・・・と、ドライバ93a、93b、・・・とから構成される。
【0070】
感圧センサ61は、上述した機械構成にて説明した上腕部14、15の表面に設けた感圧センサ14a、15aと、前腕部16、17の表面に設けた感圧センサ16a、17aに相当する。位置センサ62a、62b、・・・は、各駆動源モジュールにおける磁気センサ47、48に相当する。
【0071】
制御部70は、感圧センサ61による検出結果、位置センサ62a、62b、・・・による検出結果、外力推定部80の出力情報、角度センサ92a、92b、・・・による検出結果に基づいて、各モータ91a、92b、・・・を駆動する各ドライバ93a、93b、・・・を制御する。詳細は後述する。
【0072】
外力推定部80は、位置センサ62a、62b、・・・による検出結果に基づいて、ロボット1の各部材が受けた外力の大きさ、外力の大きさの変化速度および外力の方向を推定する。例えば、外力推定部80は、ロボット1の上腕部14の軸回りの外力、上腕部14を上下方向へ揺動させる外力など、それぞれの外力を推定する。
【0073】
モータ91a、91b、・・・は、上述した機械構成にて説明した各駆動源モジュールにおけるアクチュエータ34、35に相当する。これらのモータ91a、91b、・・・は、回転角を制御可能なステッピングモータなどが適用される。角度センサ92a、92b、・・・は、各モータ91a、91bに備え付けられ、各モータ91a、91b、・・・の回転角を検出する。ドライバ93a、93b、・・・は、各モータ91a、91b、・・・を駆動するための回路である。例えば、ドライバ93a、93b、・・・は、複数のスイッチング素子(例えば、FET)によりHブリッジ回路を構成している。これらのスイッチング素子は、制御部70からの制御信号に基づいて、ON/OFF動作を行う。そして、各ドライバ93a、93b、・・・には、図示しない電力供給源から電力が供給され、制御部70からの制御信号に基づいて各モータ91a、91b、・・・へ適切な電力を供給している。
【0074】
制御部70の詳細な構成について説明する。制御部70は、指令値算出部71と、指令値補正部72と、PID制御器73a、73b、・・・と、角速度算出部74a、74b、・・・とから構成される。ここで、説明の容易化のため、指令タスクとして、例えば、ロボット1がベッド(図示せず)の上に座っている被介護者を抱きかかえて、ベッドの近くに置いている車いすへ被介護者を下ろす動作を行う場合を例にあげながら説明する。
【0075】
指令値算出部71は、視覚センサ13a、13bにより認識された画像と、指令タスクとに基づいて、現在位置から指令タスク完了までにおける、各モータ91a、91b、・・・の回転角の指令値を算出する。具体的には、指令値算出部71は、視覚センサ13a、13bからの出力情報により、現在の周囲状況、すなわち、被介護者の位置姿勢、ベッドの位置姿勢、車いすの位置姿勢、ロボット1の現在位置から被介護者、ベッド、車いすまでの距離を把握する。続いて、指令値算出部71は、認識画像と指令タスクとに基づいて、ロボット1がどのように動作すればよいのかを算出する。具体的には、ロボット1の各部位が以下の動作を行うように、各モータ91a、91b、・・・の回転角の指令値を算出する。
【0076】
ロボット1は、ベッドや車いすなどに衝突しないように被介護者に近づき、上腕部14、15および前腕部16、17を移動させて、被介護者を抱きかかえる。その後、ロボット1は、被介護者を抱きかかえた状態で、ロボット1自身および被介護者がベッドや車いすに衝突しないように車いすへ近づき、被介護者を車いすへ下ろす。そして、車いすから遠ざかる。
【0077】
指令値補正部72は、指令値算出部71により算出された各モータ91a、91b、・・・の指令値に基づいて、感圧センサ61の出力情報および外力推定部80の出力情報を考慮しながら、各モータ91a、91b、・・・の指令値を補正する。具体的には、感圧センサ61の出力情報により、抱きかかえている被介護者の重心位置がロボット1の左右方向中央に位置するように、且つ、ロボット1の腰関節部21に支持されている部材全体と被介護者との合計の重心位置が、腰関節部21の上方に位置するように、指令値を補正する。また、外力推定部80により算出されるロボット1の各部材が受ける外力に応じた動作を行うように補正する。このことの詳細は後述する。
【0078】
PID制御器73a、73b、・・・は、指令値補正部92から出力された補正後の指令値に基づいて、各ドライバ93a、93b、・・・に出力する制御信号を生成する。具体的には、補正後の指令値に対して、PID制御を施した制御信号を出力する。このPID制御器73a、73b、・・・は、各角度センサ92a、92b、・・・から入力されるモータ91a、91b、・・・の回転角と、角速度算出部74a、74b、・・・により算出されたモータ91a、91b、・・・の回転角速度とに基づいて、PID制御を行う。角速度算出部74a、74b、・・・は、各角度センサ92a、92b、・・・により検出された各モータ91a、91b、・・・の回転角を時間微分することで、モータ91a、91b、・・・の回転角速度を算出する。
【0079】
外力推定部80は、図8に示すように、関節角度/重心位置算出部81と、アンプ/フィルタ82と、外力大きさ基準値算出部83と、外力大きさ推定部84と、外力変化速度基準値算出部85と、外力変化速度推定部86とから構成される。
【0080】
関節角度/重心位置算出部81は、各角度センサ92a、92b、・・・の出力情報に基づいて、各関節装置の関節角度を算出する。さらに、関節角度/重心位置算出部81は、各角度センサ92a、92b、・・・の出力情報と、予め記憶されている各関節装置における出力軸83などの質量情報とに基づいて、各関節装置により駆動可能な部位の重心位置を算出する。例えば、肩関節部24は、上腕部15、前腕部17、手部19および肘関節部26を含む部材の重心位置を算出する。このとき、各関節装置により駆動可能な部位の質量も算出しておく。
【0081】
アンプ/フィルタ82は、位置センサ62a、62b、・・・の出力情報を増幅し、且つ、フィルタリングを施す。つまり、アンプ/フィルタ82から出力値は、各駆動源モジュールにおける軸部材(32など)の軸方向移動量に応じた値となる。
【0082】
外力大きさ基準値算出部83は、各関節装置における出力軸(83など)が受けた外力の大きさ基準値を算出する。この外力の大きさ基準値には、外力の方向の成分を含んでいる。ここで、上述したように、出力軸83が外力を受けた場合には、ウォームホイール36を回転することで、軸部材32を軸方向に移動する。外力の大きさ基準値は、軸部材32の軸方向移動量にほぼ比例する値に相当する。しかし、軸部材32は、ロボット1自身の各部材の自重によっても軸方向へ移動する。
【0083】
そこで、外力大きさ推定部84が、ロボット1自身の各部材の自重による分を除去する処理を行っている。具体的には、外力大きさ推定部84は、外力大きさ基準値算出部83により算出された外力の大きさ基準値と、関節角度/重心位置算出部81により算出された各関節装置により駆動可能な部位の重心位置および質量とに基づいて、ロボット1自身の各部材の自重による分を除去する。つまり、外力大きさ推定部84は、ロボット1が受けた外力の大きさおよびその方向を推定している。そして、外力大きさ推定部84は、推定した外力の大きさおよびその方向に関する情報を、指令値補正部72へ出力する。
【0084】
外力変化速度基準値算出部85は、各関節装置における出力軸(83など)が受けた外力の大きさの変化速度基準値(以下「変化速度基準値」という)を算出する。ここで、上述したように、出力軸83が外力を受けた場合には、ウォームホイール36を回転することで、軸部材32を軸方向に移動する。変化速度基準値は、軸部材32の軸方向移動速度にほぼ比例する値に相当する。しかし、軸部材32は、ロボット1自身の各部材の自重によっても軸方向へ移動するため、変化速度基準値には、ロボット1自身の各部材の動作により影響を受けるものとなる。
【0085】
そこで、外力変化速度推定部86は、ロボット1自身の各部材の自重による分を除去する処理を行っている。具体的には、外力変化速度推定部86は、外力変化速度基準値算出部85により算出された変化速度基準値と、関節角度/重心位置算出部81により算出された各関節装置により駆動可能な部位の重心位置および質量とに基づいて、ロボット1自身の各部材の自重による分を除去する。つまり、外力変化速度推定部86は、ロボット1が受けた外力の大きさの変化速度を推定している。そして、外力変化速度推定部86は、推定した外力の大きさの変化速度に関する情報を、指令値補正部72へ出力する。
【0086】
(制御部70の指令値補正部72の処理)
次に、制御部70の指令値補正部72の処理について、図9を参照して説明する。図9は、指令値補正部72の処理を示すフローチャートである。
【0087】
図9に示すように、指令値補正部72は、まず、外力推定部80により推定された外力の大きさの変化速度Vが、予め記憶された変化速度閾値Vthより小さいか否かを判定する(ステップS1)。外力の大きさの変化速度Vが変化速度閾値Vthより小さい場合には、通常補正処理を行った後に、ステップS1にリターンする(ステップS2)。
【0088】
通常補正処理とは、被介護者の重心位置が、ロボット1の左右方向の中心付近に位置するようにするとともに、ロボット1の腰関節部12よりも上側の部材と被介護者とを合わせた全体物の重心位置が、ロボット1の腰関節部12の上方に位置するように、指令値を補正する。
【0089】
ここで、被介護者を抱きかかえる動作、被介護者を抱きかかえた状態で移動する動作は、指令タスクに含まれる動作である。つまり、当該動作は、ロボット1が予測可能な動作である。つまり、被介護者を抱きかかえることにより、ロボット1が受ける外力は、ロボット1が予測している外力である。そのため、ロボット1が受ける外力の大きさの変化速度は、小さなものとなる。このような場合に、通常補正処理を行うことで、安定して被介護者を抱きかかえることができるとともに、被介護者を抱きかかえた状態で安定して移動することができる。
【0090】
一方、推定された外力の大きさの変化速度Vが変化速度閾値Vth以上の場合には、外力推定部80により推定された外力の大きさFが、予め記憶された外力閾値Fthより大きいか否かを判定する(ステップS3)。外力の大きさFが外力閾値Fthより大きい場合には、一時停止処理を行った後に(ステップS4)、回避補正処理を行う(ステップS5)。その後に、ステップS1にリターンする。
【0091】
一時停止処理は、各モータ91a、91b、・・・を一時的に停止させる処理である。回避補正処理は、一時的に停止された後に、再び認識画像を参照して指令タスクを実行できるように、指令値を補正する。
【0092】
ここで、ロボット1が予測していない外力を受けると、ロボット1が受ける外力の大きさの変化速度Vは変化速度閾値Vth以上となる。さらに詳細に分析すると、例えば、予測していない動作として、ロボット1が予測していないベッドに衝突した場合と、抱きかかえている被介護者が動いた場合を例にあげる。前者のベッドへの衝突の場合には、ロボット1が受ける外力の大きさFは比較的大きくなり、後者の抱きかかえている人が動いた場合には、ロボット1が受ける外力の大きさFは比較的小さくなる。つまり、ロボット1が予測していない外力のうち、ベッドなどへの衝突による外力を受けた場合には、ロボット1の動作を一時停止し、その後にベッドなどに衝突しないような動作を行う。
【0093】
一方、推定された外力の大きさの変化速度Vが変化速度閾値Vth以上の場合であって、外力推定部80により推定された外力の大きさFが、予め記憶された外力閾値Fth以下の場合には、柔軟補正処理を行った後に(ステップS6)、ステップS1にリターンする。
【0094】
柔軟補正処理を行う場合とは、例えば、ロボット1が抱きかかえている被介護者が動いた場合などや、ロボット1が予測していない人に衝突した場合などである。このような場合には、被介護者が実際の人に抱きかかえられている感覚を与えることや、衝突した人に実際の人と衝突した感覚を与えることが望まれる。つまり、柔軟補正処理は、ロボット1が予測していない外力を受けた場合に、実際の人が動作するような動作をさせる処理である。
【0095】
具体的には、柔軟補正処理は、ロボット1が抱きかかえている被介護者から外力を受けた場合に、まず、その外力の方向に移動させる補正処理である。このとき、推定された外力の大きさFに応じた移動量とし、且つ、推定された外力の大きさの変化速度Vに応じた移動量とする。つまり、推定された外力の大きさFが大きい場合には、出力部(83など)をその外力方向に移動させる移動量を大きくする。また、推定された外力の大きさの変化速度Vが大きい場合には、出力部(83など)をその外力方向に移動させる移動量を大きくする。そして、その後に、柔軟補正処理は、元の位置へ復帰する動作とする。
【0096】
以上説明したロボット1の関節装置により以下の効果を奏する。まず、出力部83が外力を受けた場合にウォーム32が軸方向に移動することを利用して、その軸方向移動量に基づいて出力部83が受けた外力の大きさ、変化速度、方向を推定している。これにより、外力の大きさ、変化速度、方向を確実に推定できる。
【0097】
そして、推定された外力に基づいてアクチュエータ34、35を制御することで、出力部83をロボット1の腕部14〜17や胴体部12などに適用した場合に、急激に停止するのではなく、適切な柔軟性を発揮できる。つまり、人がロボット1の出力部83に触れた場合に、当該人が不快感を覚えることなく、当該人が実際の人と接触しているような状態を実現することができる。
【0098】
また、変形部材43、44の伸縮変形により磁石45、46が軸方向に移動することを磁気センサ47、48により検出することで、構造が簡易的となる。さらに、変形部材43、44の伸縮変形を利用することで、小型化を図ることができる。さらに、変形部材43、44を軸部材32、33とハウジング31とにより軸方向に予め圧縮された状態を初期状態として取り付けている。これにより、軸部材32が初期状態から軸方向両側へ移動することを、磁気センサ47、48により確実に検出できる。さらに、変形部材43、44は、ハウジング31に対して回転不能に設けられている。これにより、磁石45、46または磁気センサ47、48を全周に設ける必要がなくなる。
【0099】
<他の実施形態>
上記実施形態においては、主として、肩関節部23、24について説明した。この構成を、他の関節部にも適用できる。ただし、1軸のみで足りる関節部においては、1組の駆動源モジュールを適用すればよい。
【0100】
また、上記実施形態においては、介護用ロボットについて説明した。介護用ロボットの他に、特に、人や動物などと触れるロボットには有効に適用できる。ただし、介護用ロボットに対する上述した課題の要請が高いため、介護用ロボットに適用すると効果的である。
【0101】
また、上記実施形態において、軸部材32、33の軸方向移動量の検出を、磁石と磁気センサを用いた。これに限定されることなく、種々のセンサを用いることが可能である。例えば、変形部材43、44の軸方向の歪を検出可能な歪センサ(歪ゲージなど)を用いることもできる。そして、歪センサを用いる場合には、変形部材43、44がハウジング31に対して回転不能に設けることにより、配線の容易化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】ロボット1の正面図である。
【図2】ロボット1の右側面図である。
【図3】ロボット1が、ロボット1の腕部により人を抱きかかえている状態を示す斜視図である。
【図4】ロボット1の肩関節部24の内部構造であって、図2の正面から見た図である。
【図5】図4のA−A断面図である。
【図6】図4のB方向矢視図である。
【図7】ロボット1の関節装置の全体機能構成を示すブロック図である。
【図8】外力推定部80の詳細なブロック図である。
【図9】指令値補正部72の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0103】
1:ロボット
11:脚部、 12:胴体部、 13:頭部、 13a、13b:視覚センサ
14、15:上腕部、 16、17:前腕部、 18、19:手部
14a、15a、16a、17a:感圧センサ
21:腰部、 22:首関節部、 23、24:肩関節部、 25、26:肘関節部
31:ハウジング、 32、33:軸部材、 32a、33a:ウォーム
34、35:アクチュエータ、 36、37:ウォームホイール
38:出力軸(出力部材)
41、42:スプリング、 43、44:変形部材
45、46:磁石(軸方向移動部材)、 47、48:磁気センサ(固定検出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
前記ハウジングに回転可能且つ軸方向に移動可能に軸支され、ウォームを備える軸部材と、
前記軸部材を回転駆動するアクチュエータと、
前記ウォームに噛合し、前記ウォームが回転することにより回転するウォームホイールであって、当該ウォームホイールから前記軸部材に前記ウォームホイールの回転力が逆入力される場合に前記軸部材を前記軸方向に移動させるウォームホイールと、
前記ウォームホイールに連結され、前記軸部材から伝達された前記ウォームホイールの回転により回転する出力部材と、
前記軸部材の軸方向移動量を検出する検出部と、
前記検出部により検出される前記軸方向移動量に基づいて前記出力部材が受けた外力を推定する外力推定部と、
指令値および前記外力推定部により推定された前記外力に基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御する制御部と、
を備えることを特徴とするロボットの関節装置。
【請求項2】
前記外力推定部は、前記外力の大きさを推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の大きさとに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御する請求項1に記載のロボットの関節装置。
【請求項3】
前記外力推定部は、前記外力の大きさと前記外力の大きさの変化速度とを推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の大きさおよび前記外力の大きさの変化速度とに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御する請求項2に記載のロボットの関節装置。
【請求項4】
前記外力推定部は、前記外力の方向を推定し、
前記制御部は、指令値と前記外力推定部により推定された前記外力の方向とに基づいて、前記出力部材を目標位置に位置させるように前記アクチュエータを制御する請求項1〜3の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記外力推定部により推定された前記外力の大きさが所定閾値より大きい場合には、前記アクチュエータを停止させるように制御する請求項1〜4の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記外力推定部により推定された前記外力の大きさが前記所定閾値以下の場合には、前記出力部材を前記外力の力方向に移動させ、その後に前記目標位置に戻すように、前記アクチュエータを制御する請求項5に記載のロボットの関節装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記出力部材を前記外力の方向に移動させる際に、前記外力の大きさと前記外力の大きさの変化速度の少なくとも何れか一方に応じて、前記アクチュエータを制御する請求項6に記載のロボットの関節装置。
【請求項8】
前記外力推定部は、前記軸方向移動量と前記出力部材の質量および重心位置とに基づいて前記出力部材が受けた前記外力を推定する請求項1〜7の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項9】
前記軸部材、前記アクチュエータ、前記ウォームホイールおよび前記検出部からなる駆動源モジュールは、2組有し、
2組の前記ウォームホイールの回転軸は、同軸上に位置し、
前記出力部材は、それぞれの前記モジュールを構成する前記ウォームホイールに連結され、前記ウォームホイールの回転軸回りに回転し、且つ、前記ウォームホイールの回転軸に直交する軸回りに回転し、
前記外力推定部は、それぞれの前記モジュールを構成する前記検出部により検出されたそれぞれの前記軸方向移動量に基づいて、前記出力部材が受けた外力のうち、前記ウォームホイールの回転軸回りの方向の外力と前記ウォームホイールの回転軸に直交する軸回りの方向の外力とのそれぞれを推定する請求項1〜8の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項10】
前記検出部は、
前記軸部材の軸方向移動に伴って軸方向に伸縮変形する変形部材と、
前記変形部材に取り付けられ、前記変形部材の軸方向の伸縮に伴って軸方向に移動する軸方向移動部材と、
前記ハウジングに設けられ、前記軸方向移動部材の軸方向移動を検出する固定検出部と、
を備える請求項1〜9の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項11】
前記検出部は、
前記軸部材の軸方向移動に伴って軸方向に伸縮変形する変形部材と、
前記変形部材の軸方向歪を検出する歪センサと、
を備える請求項1〜9の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項12】
前記変形部材は、前記軸部材と前記ハウジングとにより軸方向に予め圧縮された状態を初期状態として取り付けられている請求項10または11に記載のロボットの関節装置。
【請求項13】
前記変形部材は、前記ハウジングに対して回転不能に設けられる請求項10〜12の何れか一項に記載のロボットの関節装置。
【請求項14】
介護用ロボットの関節装置である請求項1〜13の何れか一項に記載のロボットの関節装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−52079(P2010−52079A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−218346(P2008−218346)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】