説明

ロボット制御装置およびロボット制御方法

【課題】 ブレーカの容量を低減させつつ、ロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を容易に行うことができるロボット制御装置を提供する。
【解決手段】 複数のモータ2jの速度をそれぞれ検出する速度検出器10jと、複数のモータ2jに流れる電流をそれぞれ検出する電流検出器9jと、モータ2jの速度ωjおよびモータ2jに流れる電流Ijからロボットの推定消費電力Pを算出する演算器81と、推定消費電力Pがブレーカ4の電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定器82と、当該判定において推定消費電力Pが異常であると判定された場合に、ロボットをブレーカ4のトリップを回避するよう制御するための制御器83とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次電源から供給される電力で駆動する複数のモータを有するロボットを制御するロボット制御装置およびロボット制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、産業ロボット等として用いられるロボットは、1体のロボットに複数のモータが設けられた多軸のロボットとして構成されている。このようなロボットを動作させる際、複数のモータを同時に駆動させるなどにより一次電源から出力される消費電力(一次電源から各モータへ流れる電流の総量)が瞬間的または平均的に大きくなる場合がある。このような場合、一次電源に許容値を超える大きな電流が流れ、一次電源とロボットとの間に設けられたメインブレーカが遮断動作(トリップ)するおそれがある。
【0003】
メインブレーカがトリップしないようにするためには、メインブレーカの容量を大きくして、各電子部品を電流定格の大きなものにすることが考えられるが、大容量のメインブレーカおよび電流定格の大きな電子部品を採用すると、ロボット全体の製造コストが高くなるので好ましくない。
【0004】
また、メインブレーカがトリップすると、ロボットの各部への電力供給が遮断されるため、メインブレーカがトリップした原因を検証することができない。従って、トリップの原因が分からずメインブレーカが繰り返しトリップしてしまう問題がある。
【0005】
このような問題に対し、単一のモータを備えたモータ駆動システムにおいて、ブレーカを遮断する電流をモータの定格容量より小さくするとともに、電源電流を実効値ベースでフィードバック制御し、その制御指令を常にブレーカの定格電流より小さい値に制限することにより、ブレーカを動作させないように電源電流を制御する構成が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−57846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1においては複数のモータを使用するような多軸ロボットについては想定されておらず、ブレーカの遮断電流をロボットを構成するすべてのモータの定格電流を足し合わせた電流値より小さい値とするだけでは依然としてメインブレーカの容量を効果的に小さくすることができない。また、特許文献1の構成においては突発的な大電流が流れた際にはやはりブレーカはトリップしてしまい、何が原因でブレーカが遮断動作したのかを検証することが難しい。
【0008】
本発明は、以上のような課題を解決すべくなされたものであり、ブレーカの容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を行うことが可能なロボット制御装置およびロボット制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るロボット制御装置は、一次電源からブレーカを介して供給される電力で駆動する複数のモータを有するロボットの軸を制御するためのロボット制御装置であって、前記複数のモータの速度をそれぞれ検出する速度検出器と、前記複数のモータに流れる電流をそれぞれ検出する電流検出器と、前記モータの速度および前記モータに流れる電流から前記ロボットの推定消費電力を算出する演算器と、前記推定消費電力に基づく値が前記ブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定器と、前記判定において前記推定消費電力が異常であると判定された場合に、前記ロボットを前記ブレーカのトリップを回避するように制御するための制御器とを備えている。
【0010】
上記構成によれば、各モータの速度および各モータに流れる電流からロボット全体の推定消費電力を算出することにより、一次電源からロボットへ流れる消費電流が推定される。この際、推定された消費電力に基づく値がブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かが判定される。これにより、ロボットが瞬間的に急激な動作を行ったり、平均的に仕事量の大きな動作を行った際に、算出される推定消費電力が過大となり、これを異常として判定することにより、ブレーカがトリップすることが有効に回避される。さらに、ブレーカがトリップする前に異常が検出されるため、その原因の検証も容易となる。従って、ブレーカの容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を容易に行うことができる。
【0011】
前記判定器は、前記推定消費電力が所定のしきい値以上である場合に異常と判定することとしてもよい。また、前記判定器は、前記推定消費電力をフィルタリングし、当該フィルタリングした推定消費電力が所定のしきい値以上である場合に異常と判定することとしてもよい。このように所定のしきい値に基づいて異常か否かを判定することにより、複雑な処理を行うことなく容易に判定することができる。また、推定消費電力をフィルタリングすることにより、ブレーカの特性曲線との対比が容易となり、しきい値を一定に設定することができる。
【0012】
また、前記判定器は、前記ロボットの推定消費電力が負の値である場合には、当該推定消費電力が0であるとして判定を行ってもよい。電力回生器を有しない構成においては、推定消費電力が負の値である場合にはブレーカに電流が流れないため、これを0として扱うことにより推定消費電力の推定精度を向上させることができる。
【0013】
前記ロボットの推定消費電力Pは、次式(1)で表わされることとしてもよい。
【0014】
【数1】

ここで、j=1〜Jは、前記複数のモータに振り当てられた番号を示し、Ijは前記各モータにそれぞれ流れる電流値を示し、Kjは前記各モータのトルク定数を示し、ωjは前記各モータの速度を示す。このように推定消費電力を定式化して求めることにより安定的かつ容易に消費電力を推定することができる。
【0015】
前記モータで発生した回生電力を前記一次電源に回生させる電力回生器を備え、前記演算器は、前記ロボットの消費電力の絶対値を算出するよう構成されていてもよい。電力回生器を有する場合には、推定消費電力が負の値である場合にもブレーカに電流が流れるため、これを正の値として扱うことにより推定消費電力が負の値である場合にも異常検出ができ、推定消費電力の推定精度を向上させることができる。
【0016】
前記制御器は、前記ロボットのすべてのモータを停止させる制御を行うよう構成されていてもよい。これにより、ブレーカがトリップするのを確実に防止することができる。
【0017】
前記制御器は、異常を報知する報知器に異常検出信号を伝達することとしてもよい。これにより、ブレーカがトリップする可能性がある状態を的確に報知することができ、教示修正を促すことができる。
【0018】
前記しきい値は、第1しきい値と、前記第1しきい値より大きい値を有する第2しきい値とを含み、前記制御器は、前記推定消費電力に基づく値が前記第1しきい値以上かつ前記第2しきい値より小さい値であると判定された場合に異常を報知する報知器に異常検出信号を伝達し、前記推定消費電力に基づく値が前記第2しきい値以上であると判定された場合に前記ロボットのすべてのモータを停止させる制御を行うよう構成されていてもよい。これにより、なるべくロボットの動作を維持しつつ異常検出を有効に行うことができる。
【0019】
また、本発明に係るロボット制御方法は、一次電源からブレーカを介して供給される電力でロボットの軸を駆動する複数のモータを有する当該ロボットを制御するためのロボット制御方法であって、前記複数のモータの速度をそれぞれ検出する速度検出ステップと、前記複数のモータに流れる電流をそれぞれ検出する電流検出ステップと、前記モータの速度および前記モータに流れる電流から前記ロボットの推定消費電力を算出する演算ステップと、前記推定消費電力が前記ブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップにおいて前記推定消費電力が異常であると判定された場合に、前記ロボットを前記ブレーカのトリップを回避するよう制御する制御ステップとを含んでいる。
【0020】
上記方法によれば、各モータの速度および各モータに流れる電流からロボット全体の推定消費電力を算出することにより、一次電源からロボットへ流れる消費電流が推定される。この際、算出された推定消費電力に基づく値がブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かが判定される。これにより、ロボットが瞬間的に急激な動作を行ったり、平均的に仕事量の大きな動作を行った際に、算出される推定消費電力が過大となり、これを異常として判定することにより、ブレーカがトリップすることが有効に回避される。さらに、ブレーカがトリップする前に異常が検出されるため、その原因の検証も容易となる。従って、ブレーカの容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を容易に行うことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明は以上に説明したように構成され、ブレーカの容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を容易に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1実施形態に係るロボット制御装置が適用されたロボット装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示すロボット制御装置における異常判定制御の流れを示すフローチャートである。
【図3】図1に示すロボット制御装置において算出される推定消費電力波形を示すグラフである。
【図4】本発明の第2実施形態に係るロボット制御装置が適用されたロボット装置の概略構成を示すブロック図である。
【図5】図4に示すロボット制御装置において算出される推定消費電力波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0024】
<第1実施形態>
図1は本発明の第1実施形態に係るロボット制御装置が適用されたロボット装置の概略構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態のロボット制御装置は、複数の軸(動作軸)を有するロボット装置1の動作制御に適用される。なお、本実施形態においては、1つのロボット装置1を制御する例について説明するが、複数のロボット装置で1つのロボットセルを構成するロボットシステムにおいても適用可能である。
【0025】
複数のロボット軸は、複数のモータ2j(j=1,2,…,J)で構成されている。複数のモータ2jは、一次電源3からブレーカ4を介して供給される電力で駆動する。一次電源3は、モータ駆動系だけでなく後述する制御装置8を含むロボット装置全体の電源となり、ロボット装置を構成する各装置へ電力を供給する。モータ駆動系へは、電磁接触器14を介して電力が供給される。すなわち、電磁接触器14がモータ駆動電源スイッチとなっている。
【0026】
ロボット装置1は、各モータ2jを駆動する駆動回路として、図1に示すように、交流電源である一次電源3の電流を整流して直流電流に変換する整流器5と、整流器5で取り出された電流を平滑化するコンデンサ6と、各モータ2jへ駆動電流を供給するために複数のモータ2jごとに設けられたインバータ回路13jとを有している。さらに、ロボットは、各モータ2jに対応するインバータ回路13jを制御してモータ2jへの駆動電流を制御するための制御装置8を有している。
【0027】
制御装置8は、ロボットの制御命令を生成し、インバータ回路13jを介して各モータ2jを制御する。インバータ回路13jの出力である電流Ijは、当該電流Ijを検出する電流検出器9jを介して各モータ2jに接続されている。これにより、インバータ回路13jの出力である電流Ijが電流検出器9jを通じて各モータ2jに供給される。電流検出器9jで検出された電流Ijは、制御装置8へフィードバックされる。さらに、各モータ2jには、当該モータ2jの速度ωjを検出する速度検出器10jが設けられており、制御装置8へ各モータ2jの速度(回転速度)ωjが入力される。速度検出器10jは、エンコーダ等の位置(回転角度)検出器により構成され、速度(回転速度)ωjは、その位置検出器の出力を微分または差分等することにより生成したものであってもよい。例えば、モータ2jの回転角度を検出するエンコーダ等により構成される。制御装置8は、外部からもたらされる位置指令に基づいて各モータ2jの速度を決定し、当該速度に必要な電流を決定し、当該電流が各モータ2jへ流れるように、インバータ回路13jを動作させる。この際、各モータ2jへ供給される電流Ijおよび各モータ2jの速度ωjに基づいて各モータ2jをフィードバック制御する。
【0028】
制御装置8は、各種の演算を行う演算部8aと各種のデータを記憶する記憶部8bとを有している。演算部8aは、モータ2jの速度ωjおよびモータ2jに流れる電流Ijからロボットの推定消費電力を算出する演算器81と、推定消費電力に基づく値がブレーカ4の電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定器82と、当該判定において推定消費電力が異常であると判定された場合に、ロボットをブレーカ4のトリップを回避するように制御するための制御器83とを備えている。記憶部8bには、電流検出器9jおよび速度検出器10jで検出された各モータ2jの電流Ijおよび速度ωjが記憶されるとともに、各モータ2jごとのトルク定数Kjが記憶される。なお、トルク定数Kjは、各モータ2jごとにそれぞれ設定されてもよいが、同じトルク定数としてもよい。制御装置8は、例えば、マイクロコントローラを備えており、このマイクロコントローラのCPUが演算部8aとして機能し、このマイクロコントローラの内部メモリが記憶部8bとして機能してもよい。
【0029】
なお、本実施形態においては、制御装置8と整流器5等とを別の構成として説明しているが、モータ2jおよび速度検出器10jを除く各構成は、電気回路により実現されるものであり、制御装置8内に実装することが可能である。すなわち、モータ2jおよび速度検出器10j以外の構成は、すべて制御装置8内に含まれる構成とすることができる。
【0030】
ここで、制御装置8における異常判定処理について具体的に説明する。図2は図1に示すロボット制御装置における異常判定処理の流れを示すフローチャートである。前述したように、制御装置8は、各電流検出器9jで検出された各モータ2jに流れる電流Ijを取得するとともに、各速度検出器10jで検出された各モータ2jの速度ωjを取得する(ステップS1)。そして、制御装置8は、演算器81として機能し、取得した各モータ2jに流れる電流Ijおよび各モータ2jの速度ωjからロボット(全体)の推定消費電力を演算する(ステップS2)。
【0031】
ロボットの推定消費電力は、モータ2jごとの電力値を全モータ2j分足し合わせることにより求められる。ここで、各モータ2jに流れる電流Ijと、当該モータ2jのトルク定数Kjとを掛け合わせることにより、各モータ2jで発生するトルクが算出される。また、各モータ2jの電力値は、各モータ2jで発生するトルクと、当該モータ2jの速度ωjとを掛け合わせたものである。従って、ロボットの推定消費電力Pは、以下の式で表される。
【0032】
【数2】

一次電源3の電圧は、略一定であるため、上記式(1)のように定式化してロボットの推定消費電力Pを演算することにより、ブレーカ4に流れる電流を監視することが可能である。ブレーカ4のトリップは、ブレーカ4に過大に電流が流れることにより生じるため、ブレーカ4に流れる電流を監視することにより、ブレーカ4がトリップすることを事前に回避することが可能となる。
【0033】
制御装置8は、演算された推定消費電力Pが正の値か否かを判定する(ステップS3)。推定消費電力Pが負の値となる場合(ステップS3でNo)は、モータ2j(j=1,2,…,J)全体において回生電力が発生していることになる。本実施形態においては、コンデンサ6とインバータ回路13jとの間に回生電力放電回路7が設けられている。回生電力放電回路7は、モータ2j全体において発生した回生電力を消費する回生抵抗71と、回生電力が発生した場合に、回生電力による電流を回生抵抗71に流すためのスイッチングを行う回生電力放電用トランジスタ72とを有している。このように、モータ2jにおいて発生した回生電力は回生電力放電用トランジスタ72がオンすることにより回生抵抗71で消費され、一次電源3へは回収されない。このため、ロボット全体として回生状態にある場合にはブレーカ4には電流が流れない。従って、推定消費電力Pが負の値であれば、ブレーカトリップのおそれはないといえるため、このときの推定消費電力Pは採用しない。具体的には、制御装置8は、ロボットの推定消費電力Pが負の値である場合には、推定消費電力P=0に設定する(ステップS7)。これにより、ロボットの推定消費電力Pが負の値である場合に、特別な処理を行わずに推定消費電力の推定精度を向上させることができるとともに、誤って異常判定してしまうことも防止することができる。
【0034】
推定消費電力Pが正の値となった場合(ステップS3でYes)、制御装置8は、判定器82として機能し、当該推定消費電力Pに基づいて異常判定を行う。具体的には、まず、推定消費電力Pを一次フィルタを用いてフィルタリングする(ステップS4)。その上で、制御装置8は、フィルタリング後の推定消費電力が所定のしきい値以上か否かを判定する(ステップS5)。
【0035】
フィルタリング後の推定消費電力が所定のしきい値以上である場合(ステップS4でYes)、制御装置8は、制御器83として機能し、ロボットをブレーカ4のトリップを回避するように制御する(ステップS6)。具体的には、ロボットのすべてのモータ2jを停止させる制御を行う。このような異常判定制御を所定の間隔ごとに行う(所定の間隔ごとに電流Ijおよび速度ωjを検出する)ことにより、ロボットの動作に応じてブレーカ4に流れる電流を逐一監視して、ブレーカ4がトリップしないように制御する。フィルタリング後の推定消費電力が所定のしきい値未満である場合(ステップS4でNo)、制御装置8は、通常のモータ制御を維持し、継続して異常判定を行う(ステップS1に戻る)。
【0036】
上記構成によれば、各モータ2jの速度ωjおよび各モータ2jに流れる電流Ijからロボット全体の推定消費電力Pを算出することにより、一次電源3からロボットへ流れる消費電流が推定される。この際、算出された推定消費電力Pに基づく値(消費電流値)がブレーカ4の電流許容値を基準として異常であるか否かが判定される。これにより、ロボットが瞬間的に急激な動作を行ったり、平均的に仕事量の大きな動作を行った際に、算出される推定消費電力が過大となり、これを異常として判定することにより、ブレーカ4がトリップすることが有効に回避される。さらに、ブレーカ4がトリップする前に異常が検出されるため、その原因の検証も容易となる。従って、ブレーカ4の容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させることができ、しかも異常原因の検証を容易に行うことができる。また、推定消費電力Pを定式化して求めることにより安定的かつ容易にロボットの消費電力を推定することができる。そして、異常であると判定された場合に、ロボットのすべてのモータ2jを停止させる制御を行うことによりブレーカ4がトリップするのを確実に防止することができる。
【0037】
また、図3は図1に示すロボット制御装置において算出される推定消費電力波形を示すグラフである。図3において破線で示す推定電力は、電流検出器9jで検出された値をそのまま上記式(1)に適用して推定電力を算出したものであり、推定電力が負の値となる場合(すなわち回生電力が発生する場合)が存在することを示している。しかしながら、本実施形態の異常判定処理において算出される推定消費電力(図3において細い実線で示す)は、推定電力における負の値が0として算出されるため、負の値は存在しない。
【0038】
図3に示すように、推定消費電力Pはロボットの動きに応じて大きく変化するが、これを例えば一次フィルタ等によってフィルタリングすることにより推定消費電力が時間に応じて連続変化するような一次遅れ系の波形(太い実線)に変換される。このようなフィルタリング後の波形に対してしきい値を設定することにより、しきい値を一定に設定することができ、複雑な処理を行うことなく容易に異常判定が可能となるとともに、同じく一次遅れ系で表わされるブレーカ4の特性曲線(負荷(電流)が大きいほど瞬間的にトリップする反限時特性)との対比が容易となる。図3においては、フィルタ後の推定消費電力は、計測開始から25秒後において最も高い値となっていることが観測される。この場合においてもしきい値よりは低い値となっており、瞬間的に消費電力が大きくなってもそれが継続しなければ異常として判定されない。
【0039】
なお、本実施形態においては、推定消費電力Pを一次フィルタでフィルタリングした値をしきい値と比較しているが、本発明はしきい値をブレーカ4がトリップしない値に適宜設定する限り、これに限られず、例えば、推定消費電力Pをそのまましきい値と比較してもよいし、整流器5の出力電圧と推定消費電力Pとからブレーカ4に流れる推定消費電流を算出した上でしきい値と比較してもよい。
【0040】
また、本実施形態においては、異常であると判定された場合に当該異常を報知する報知器11を有している。そして、制御器83として機能する制御装置8は、フィルタリング後の推定消費電力が所定のしきい値以上である場合(ステップS4でYes)に、報知器11に異常検出信号を伝達することとしてもよい。これにより、ブレーカ4がトリップする可能性がある状態を的確に報知することができ、教示修正を促すことができる。なお、報知器11は、例えば、制御装置8に設けられた表示画面または外部の表示装置に異常が発生したことを報知する画面を表示するよう構成されてもよいし、警報音を流すスピーカや光で異常を報知するランプ等により構成されてもよい。
【0041】
さらに、異常か否かの判定の基準となるしきい値は、本実施形態のように1つ設定されることとしてもよいが、複数のしきい値が設定されてもよい。例えば、しきい値として、第1しきい値と、当該第1しきい値T1より大きい値を有する第2しきい値T2とを含んでもよい。この場合、制御器83として機能する制御装置8は、推定消費電力に基づく値が第1しきい値T1以上かつ第2しきい値T2より小さい値であると判定された場合に報知器11に異常検出信号を伝達し、推定消費電力に基づく値が第2しきい値T2以上であると判定された場合にロボットのすべてのモータ2jを停止させる制御を行うよう構成されていてもよい。これにより、なるべくロボットの動作を維持しつつ異常検出を有効に行うことができる。
【0042】
また、本実施形態においては、異常であると判定された場合に、ロボットのすべてのモータ2jを停止させる制御を行うおよび/または報知器11に異常検出信号を伝達することとしているが、ロボットの全モータ2jのうちのいくつかを停止させる制御を行うこととしてもよい。あるいは、算出される推定消費電力に基づく値がしきい値より少ないことが予め分かっているトリップ回避動作(所定の位置に移動)を予め設定しておき、異常であると判定された場合に、当該トリップ回避動作を実行することとしてもよい。
【0043】
さらに、異常であると判定された場合に、制御装置8は、当該異常と判定されたときのロボットの状態(姿勢、動作態様、動作速度等)を記憶部に記憶させ、同様のロボットの状態が教示または指示された場合に警告を発することとしてもよい。これにより、ロボットの教示または指示において、異常判定されると分かっているロボットの状態を再度教示または指示することを事前に防止し、ロボットを安定的に動作させることができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態におけるロボット制御装置について説明する。図4は本発明の第2実施形態に係るロボット制御装置が適用されたロボット装置の概略構成を示すブロック図である。また、図5は図4に示すロボット制御装置において算出される推定消費電力波形を示すグラフである。本実施形態において第1実施形態と同様の構成については同じ符号を付し、説明を省略する。
【0045】
図4および図5に示されるように、本実施形態におけるロボット制御装置が第1実施形態と異なる点は、全モータ2jで発生した回生電力を一次電源3に回生させる電力回生器12を備え、演算器81として機能する制御装置8は、ロボットの推定消費電力Pの絶対値を算出するよう構成されていることである。本実施形態において、電力回生器12は、整流器5と各インバータ回路13jとの間と、ブレーカ4と整流器5との間とを接続するバイパス回路として設けられている。電力回生器12には、トランジスタ等によるスイッチング回路が設けられ、モータ2j全体が回生動作中である場合に当該バイパス回路から電力を一次電源3に戻すように構成されている。なお、電力回生器12により一次電源3に電力を回生する本実施形態においても、図4に示すように回生電力放電回路7が設けられている。ただし、第1実施形態における回生抵抗71よりは、本実施形態における回生抵抗71の方が容量を小さくすることができる。
【0046】
本実施形態のロボット制御装置における異常判定処理の流れは、基本的に第1実施形態(図2)と同様である。ただし、図2におけるステップS3において、推定消費電力Pが負の値と判定された場合(ステップS3でNo)、その後の処理が異なる。具体的には、図2におけるステップS7の代わりに、当該負の値である推定消費電力Pを正の値として(絶対値をとって)推定消費電力Pとして算出する。そして、このように算出された推定消費電力Pについてもフィルタリングを行い、しきい値以上か否かの判定を行う。
【0047】
これにより、本実施形態のように電力回生器12を有し、モータ2jで発生した回生電力を一次電源3側に回収するように構成された場合には、推定消費電力Pが負の値である場合にもブレーカ4に電流が流れるため、これを正の値として扱うことにより推定消費電力の推定精度を向上させしつつ、適切な異常判定を行うことができる。
【0048】
図5において破線で示す推定電力は、図3と同様に、電流検出器9jで検出された値をそのまま上記式(1)に適用して推定電力を算出したものであり、推定電力が負の値となる場合(すなわち回生電力が発生する場合)が存在することを示している。しかしながら、本実施形態の異常判定処理において算出される推定消費電力(図3において細い実線で示す)は、推定電力における負の値が正の値に変換されて算出されるため、負の値は存在しない(負の値が正の値に折り返されたような波形となる)。
【0049】
そして、図5においても、フィルタ後の推定消費電力は、計測開始から25秒後において最も高い値となっていることが観測される。第1実施形態における図3に比べると回生電力が推定消費電力Pに追加されるため、本実施形態における値も大きくなっている。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変更、修正が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のロボット制御装置は、ブレーカの容量を低減させつつロボットの遮断動作の頻度を低減させるとともに、しかも異常原因の検証を容易に行うために有用である。
【符号の説明】
【0052】
1 ロボット装置
2j(j=1〜J) モータ
3 一次電源
4 ブレーカ
5 整流器
6 コンデンサ
7 回生電力放電回路
8 制御装置
8a 演算部
8b 記憶部
9j(j=1〜J) 電流検出器
10j(j=1〜J) 速度検出器
11 報知器
12 電力回生器
13j(j=1〜J) インバータ回路
14 電磁接触器
71 回生抵抗
72 回生電力放電用トランジスタ
81 演算器
82 判定器
83 制御器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次電源からブレーカを介して供給される電力でロボットの軸を駆動する複数のモータを有する当該ロボットを制御するためのロボット制御装置であって、
前記複数のモータの速度をそれぞれ検出する速度検出器と、
前記複数のモータに流れる電流をそれぞれ検出する電流検出器と、
前記モータの速度および前記モータに流れる電流から前記ロボットの推定消費電力を算出する演算器と、
前記推定消費電力が前記ブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定器と、
前記判定において前記推定消費電力が異常であると判定された場合に、前記ロボットを前記ブレーカのトリップを回避するよう制御するための制御器とを備えた、ロボット制御装置。
【請求項2】
前記判定器は、前記推定消費電力が所定のしきい値以上である場合に異常と判定する、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項3】
前記判定器は、前記推定消費電力をフィルタリングし、当該フィルタリングした推定消費電力が所定のしきい値以上である場合に異常と判定する、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項4】
前記判定器は、前記ロボットの推定消費電力が負の値である場合には、当該推定消費電力が0であるとして判定を行う、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項5】
前記ロボットの推定消費電力Pは、次式(1)で表わされる、請求項1に記載のロボット制御装置。
【数1】

ここで、j=1〜Jは、前記複数のモータに振り当てられた番号を示し、Ijは前記各モータにそれぞれ流れる電流値を示し、Kjは前記各モータのトルク定数を示し、ωjは前記各モータの速度を示す。
【請求項6】
前記モータで発生した回生電力を前記一次電源に回生させる電力回生器を備え、
前記演算器は、前記ロボットの推定消費電力の絶対値を算出するよう構成されている、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項7】
前記制御器は、前記ロボットのすべてのモータを停止させる制御を行うよう構成されている、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項8】
前記制御器は、異常を報知する報知器に異常検出信号を伝達する、請求項1に記載のロボット制御装置。
【請求項9】
前記しきい値は、第1しきい値と、前記第1しきい値より大きい値を有する第2しきい値とを含み、
前記制御器は、前記推定消費電力に基づく値が前記第1しきい値以上かつ前記第2しきい値より小さい値であると判定された場合に異常を報知する報知器に異常検出信号を伝達し、前記推定消費電力に基づく値が前記第2しきい値以上であると判定された場合に前記ロボットのすべてのモータを停止させる制御を行うよう構成されている、請求項2または3に記載のロボット制御装置。
【請求項10】
一次電源からブレーカを介して供給される電力でロボットの軸を駆動する複数のモータを有する当該ロボットを制御するためのロボット制御方法であって、
前記複数のモータの速度をそれぞれ検出する速度検出ステップと、
前記複数のモータに流れる電流をそれぞれ検出する電流検出ステップと、
前記モータの速度および前記モータに流れる電流から前記ロボットの推定消費電力を算出する演算ステップと、
前記推定消費電力が前記ブレーカの電流許容値を基準として異常であるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップにおいて前記推定消費電力が異常であると判定された場合に、前記ロボットを前記ブレーカのトリップを回避するよう制御する制御ステップとを含む、ロボット制御方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−125888(P2012−125888A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280131(P2010−280131)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】