説明

ロボット

【課題】ロボットの稼働中におけるアーム機構の脱落を抑制し、必要に際してアーム機構を簡便に着脱可能とし、ロボットを容易に運用可能にする。
【解決手段】ロボット1のアーム機構7が、アーム20に連結された一対のリンク21,22の間に架け渡された付勢ユニット24を備え、各リンク21,22が被係止部81,82を有し、付勢ユニット24が、付勢部材66を収容するハウジング60と、各リンク21,22の被係止部81,82にそれぞれ係止される一対の係止部61,62を有し、係止部61,62は被係止部81,82が挿通される取付孔73,78と、取付孔72,77を取り囲む周縁部74,79の一部が切除されて形成された切除部75,80とを有し、取付孔73,78が切除部75,80を介して係止部61,62の外方に開放されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばデルタロボットのように、ベースとエンドエフェクタとの間を接続する3組のアーム機構を備えるロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示すように、ベースとエンドエフェクタとの間を接続する3組のアーム機構を備えたデルタロボットが知られている。各アーム機構は、ベースに揺動可能に連結されたロッドと、ロッドとエンドエフェクタを装着するためのブラケットとの間を接続する一対のリンクとを備えている。各リンクの端部にはソケット要素が設けられ、ロッドの端部にはソケット要素と球面対偶を成すボール要素が対をなして設けられている。ボール要素にソケット要素を嵌め合わせることによりリンクをロッドに対して揺動可能に連結することができる。
【0003】
一対のリンクの間にはバネが架け渡されており、このバネの付勢力により一対のリンクは互いに近づくよう付勢される。これにより、ソケット要素をボール要素に押し付けてリンクがロッドから脱落するのを抑制することが図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平8−000403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のバネは、両端にフックを有したコイルスプリングであり、これらフックはリンクに固定された取付具に引っ掛けられる。しかし、この構成によれば、バネが剥き出しとなっているため、ロボットに薬品を吹きかけるなどして洗浄作業を行うと、バネの腐食を招いてしまう。バネを剥き出しに設けた上でこのような作業を行えるように設計するためには、バネの素材に耐薬品性の高い材料を採用したり、バネに特殊な表面加工を施したりする必要があり、リンクの連結状態の維持のための付勢力を発生するという本来の目的に重点においてバネを設計することができなくなる。また、このバネはリンクの連結状態を維持するのに十分な付勢力を発生することが要求されるため、強力である。それ故、一対のリンクを組み立てる際にバネ(付勢要素)をリンクに装着することが容易ではなかった。
【0006】
そこで本発明は、アーム機構を容易に洗浄可能なロボットを提供することを第1の目的としている。また、本発明は、一対のリンクを組み立てる際に付勢部材要素を簡単に装着することが可能なロボットを提供することを第2の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、本発明に係るロボットは、ベースと、前記ベースとエンドエフェクタとの間を連結する3組のアーム機構とを備え、前記アーム機構のうち少なくとも一つが、前記ベースにその基端部が回動可能に連結されたアームと、その基端部が前記アームの先端部を回動自在に挟むようにして配置された互いに平行な一対のリンクと、前記一対のリンクの間に架け渡され、前記一対のリンクを互いに近付けるように付勢する付勢ユニットとを備え、前記アームの先端部と前記一対のリンクの基端部とが、該一対のリンクを該アームに揺動可能に連結する基端ジョイントを構成しており、前記各リンクは、前記付勢ユニットが係止される柱状の被係止部を有し、前記付勢ユニットが、付勢力を発生する付勢部材と、前記付勢部材を収容するハウジングと、前記ハウジングの両端部に設けられ、前記付勢部材により付勢される一対の係止部とを有し、前記係止部が、前記被係止部が挿通される取付孔と、前記取付孔を取り囲む周縁部の一部が切除されて形成された切除部とを有し、前記取付孔が、前記切除部を介して前記係止部の外方に開放されている。
【0008】
前記構成によれば、付勢ユニットにより、アームを挟むようにして配置された一対のリンクが互いに近づけられるように付勢される。これにより基端ジョイントによりリンクがアームに連結されている状態が維持される。付勢ユニットは、付勢力を発生する付勢部材をハウジング内に収容して成ることから、付勢部材の素材を耐薬品性の高い材料としたり、付勢部材に耐薬品性を高める表面処理を行ったりしなくても、ロボットの洗浄作業を容易に行えるようになる。このため、本来の目的であるリンクの脱落を抑制するための付勢力の発生に重点をおいて、付勢部材の仕様を決めることができる。また、付勢要素としての付勢ユニットの係止部の取付孔内に被係止部を挿通することによって付勢ユニットをリンクに取り付けることができる構成となっている。取付孔は係止部に形成された切除部を介して外方に開放されているため、被係止部をこの切除部を利用して取付孔内に簡単に導入することができる。リンクから付勢ユニットを取り外すときにも、被係止部を切除部を利用して取付孔から簡単に抜き取ることができる。したがって、付勢ユニットやリンクを無理な姿勢としたり無理に弾性変形させることなく、付勢ユニットをリンクに対して容易に着脱することができる。
【0009】
前記切除部の寸法が、前記取付孔の寸法よりも小さく、前記被係止部の寸法よりも大きくてもよい。これにより、切除部を利用して被係止部を取付孔に対して出入させることができる。
【0010】
前記周縁部は、前記付勢部材による付勢方向において前記取付孔の中央部を規定する第1円弧部と、前記第1円弧部と連続して前記取付孔の一端部を規定する第2円弧部とを有していてもよい。これにより、例えば付勢ユニットをリンクに取り付けるときに、切除部を利用して被係止部を取付孔内に導入した後に、リンクを付勢部材による付勢方向に移動させてリンクの取付位置を容易に調整することができる。
【0011】
前記第1及び第2円弧部の各中心位置が前記付勢部材による付勢方向において互いに離れており、第2円弧部の半径が第1円弧部の半径よりも大きくてもよい。これにより、例えば付勢ユニットをリンクに取り付けるときにおいては、被係止部を切除部を利用して第2円弧部により規定される部分に導入した後に、第2円弧部よりも小径の第1円弧部で規定される部分へと取付孔内で移動させることができる。これにより、取付の初期には被係止部を取付孔内に容易に係止させることができるようにしつつ、組付状態においては被係止部を係止部により強固に係合させた状態とすることができる。
【0012】
前記取付孔に前記被係止部が挿通されている状態において、前記取付孔に嵌挿され且つ前記被係止部に嵌合されるブシュを更に備え、前記ブシュが、軸線方向における両端部が該両端部の間の部分(以下、中間部)よりも大径の段付き円筒状に形成され、かつ一方の前記端部からその内孔に前記被係止部が嵌挿されており、前記第1円弧部を規定する仮想円の直径が前記ブシュの前記一方の端部よりも大径であり、前記第2円弧部を規定する円の直径が前記一端部よりも小径であって前記中間部より大きい径であってもよい。これにより、被係止部が第1円弧部で規定される部分にあるときにブシュを被係止部に内嵌させた後に、被係止部をブシュとともに取付孔内で第2円弧部で規定される部分に移動させるだけで、ブシュの軸線方向両端部が係止部の表面と背面とで挟まれた状態となり、ブシュの脱落を好適に防止することができる。
【0013】
前記リンクを、前記基端ジョイントを迂回して前記アームに連結するためのワイヤーを更に備えていてもよい。これにより、万が一基端ジョイントによる連結が解除されてリンクの基端部がアームから脱落しても、リンクがワイヤーを介してアームと連結された状態で維持することができる。これにより、アームがロボットの作業スペース内で飛散するような事態を好適に抑制することができる。
【0014】
前記ワイヤーの一端部が前記付勢ユニットに接続されかつ前記ワイヤーの他端部が前記アームに接続されてもよい。これにより、ワイヤーの個数が1つであっても、一対のリンクの双方の飛散を好適に抑制することが可能となる。
【0015】
前記基端ジョイントが、前記アームに設けられたボール要素と、前記リンクに設けられて前記ボール要素と球面対偶を成すソケット要素とからなるボールジョイトに構成されていてもよい。これにより、ボールジョイントによりリンクの揺動の自由度を確保しつつ、リンクがアームから脱落するのを好適に抑制することガできる。
【発明の効果】
【0016】
以上の本発明によれば、アーム機構を容易に洗浄可能なロボットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るロボットの正面図である。
【図2】図1に示すアーム機構の一つにおける基端ジョイントの周辺を拡大して示す斜視図である。
【図3】図2に示す基端ジョイントの正面図である。
【図4】図2に示す付勢ユニットの断面図である。
【図5】図2に示す付勢ユニットの正面図である。
【図6】図2に示す付勢ユニットをリンクに組み付ける手順を示す説明図であって、(a)が付勢ユニットの係止具をリンク側の被係止ピンに係止させた状態、(b)が被係止ピンにブシュを嵌め付けた状態、(c)が付勢ユニットのリンクに対する組み付けが完了した状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。なお、以下では、全ての図を通じて同一又は相当する要素には同一の参照符号を付して、その重複する説明を省略する。
【0019】
[デルタロボット]
図1に示すロボット1は、いわゆるデルタロボットであり、例えば食品、薬品及び化粧品等の製造設備190内でピッキングロボットに利用される。このような製造設備190内では、ロボット1が据え付けられる架台191の下方に、ワーク193が載置される載置台192が配置される。架台191にロボット1が据え付けられると、ロボット1の主要部が架台191と載置台192との間の作業スペース194に位置し、ロボット1の可動範囲195内に載置台192の少なくとも一部が配置される。ロボット1は、載置台192上のある位置196に載置されたワーク193を摘み上げ、摘み上げたワーク193を移動させ、載置台192上の別の位置197に精密に載置することができる。
【0020】
ロボット1は、バケット3と、バケット3の開口を上側から覆うカバー4とを備えて成るベース2を有している。バケット3は開口を取り囲む上縁部5を有し、上縁部5には水平に突出する複数のリブ6が設けられている。リブ6は、架台191に設けられた取付口191aの周縁部191bに支持され、周縁部191bにリブ6を螺止することによりベース2が架台191に固定される。なお、図1はリブ6の下面を周縁部191bの上面に支持する形態を例示しているが、リブ6の上面が周縁部191bの下面に当接し、リブ6が、螺止された周縁部191bによって保持されてもよい。
【0021】
ベース2が架台191に固定されると、ロボット1のうち上縁部5よりも下側の部分が、架台191から吊り下げられるようにして作業スペース194内に配置される。バケット3の下部は、3組のアーム機構7を介して単一のブラケット8と連結されている。3組のアーム機構7の基端部は平面視で周方向に等間隔をおいて配置されている。より詳しくは、ロボット1の基準姿勢において、3組のアーム機構7は所定の中心軸線(ここではバケット3の中心軸線)101に回転対称に設けられている。
【0022】
各アーム機構7は、アーム20と第1及び第2リンク21,22とを備える。アーム20は、その基端部においてバケット3の下部に揺動可能に連結されている。各アーム20の揺動支軸は同一の水平面内に配置されている。第1リンク21は基端部においてアーム20の先端部に揺動可能に連結され、先端部においてブラケット8に揺動可能に連結されている。第2リンク22は、第1リンク21と平行に延び、アーム20及びブラケット8のそれぞれに揺動可能に連結されている。
【0023】
アーム20の先端部、第1リンク21の基端部及び第2リンク22の基端部は、第1及び第2リンク21,22をアーム20に対して任意の方向に揺動可能に連結する基端ジョイント23を構成している。具体的には、この基端ジョイント23は後述するようにボールジョイントに構成されている。基端ジョイント23により、リンク21,22がアーム20に連結されている状態では、第1及び第2リンク21,22がアーム20をその幅方向に挟むようにして配設されている。第1リンク21の基端部と第2リンク22の基端部との間には付勢ユニット24が架け渡されている。付勢ユニット24は第1リンク21及び第2リンク22を互いに近づけるよう付勢し、これによりリンク21,22がアーム20から脱落するのを防止している。
【0024】
なお、ブラケット8、第1リンク21の先端部及び第2リンク22の先端部には、第1及び第2リンク21,22をブラケット8に対して任意の方向に揺動可能に連結する先端ジョイント25が構成されている。具体的には、この先端ジョイント25はボールジョイントに構成されている。第1リンク21の先端部と第2リンク22の先端部との間にも上記同様の付勢ユニット24が架け渡され、これによりリンク21,22のブラケット8からの脱落を防止している。
【0025】
上記構成によると、ブラケット8は、第1及び第2リンク21,22から成る3組のパラレルリンクを介してベース2に連結される。ベース2の下部には各アーム20の基端部をベース2に対して揺動させるアームアクチュエータ9が設けられている。アームアクチュエータ9の動作に応じてアーム20が鉛直面内において揺動すると、ブラケット8が可動範囲95内で揺動する。このとき、ブラケット8のベース2に対する姿勢が3組のパラレルリンクで拘束(規定)され、ブラケット8は可動範囲95内で同じ姿勢を保って移動する。
【0026】
ブラケット8は平板状に形成され、水平の姿勢で設けられている。先端ジョイント25はブラケット8に設けられたボール要素にリンク21,22の先端に設けられたソケット要素を係合して成り、ブラケット8側のボール要素はブラケット8の外周縁部に設けられている。ブラケット8の下面側には、ワーク193を摘み上げる作業を行うためのエンドエフェクタ10が着脱可能に装着される。ブラケット8の下面からは回転軸11が下方に延び、エンドエフェクタ10は回転軸11と共に回転するようブラケット8に装着される。ブラケット8の上面側には、回転軸11を駆動するエンドアクチュエータ12が配設されている。
【0027】
ロボット1は、3組のアーム機構7の他に、ベース2をブラケット8と連結する部材を備えていない。なお、参照符号13は、負圧吸引によりワーク193を摘み上げるように構成されたエンドエフェクタ10が装着された場合にエンドエフェクタ10をバケット3内の吸引ポンプ(図示せず)と接続するためのパイプであり、アーム機構7の一つに沿って設けられている。また、先端ジョイント25のボール要素はブラケット8の外周縁部に設けられている。このため、ブラケット8の上面側に、エンドアクチュエータ12を配置するために十分に大きなスペースを容易に確保可能となる。また、エンドエフェクタ10が駆動機構を備えていなくても、回転軸11と係合する部分を備えている限りにおいては、エンドアクチュエータ12の動作に応じてブラケット8に装着されるエンドエフェクタ10を回転させることができる。これによりロボット1の作業性能が向上する。
【0028】
[ボールジョイント]
図2は、アーム機構7の一つに構成された基端ジョイント23の周辺を拡大して示している。アーム部材20aは断面円形の管材から成り、リンク部材21a,22aはアーム部材20aより小径の断面円形の管材から成る。アーム部材20a及びリンク部材21a,22aは、エンドエフェクタ10(図1参照)の移動速度をできる限り高速とするため軽量であり、エンドエフェクタ10の移動時に作用する荷重に好適に耐えるよう高剛性を有する材料から成形される。このような材料として、例えばCFRP等の複合材を採用してもよい。
【0029】
アーム部材20aの先端部にはジョイントブラケット31が取り付けられている。ジョイントブラケット31は有底の筒部32を有し、筒部32はアーム部材20aの先端部に嵌め込まれている。筒部32の底面側には、筒部32の径方向外側に張り出すように取付部33が設けられている。筒部32の外底面は、取付部33の外表面と滑らかに連続した平坦面34を形成し、平坦面34はアーム部材20a及び筒部32の軸線に直交する平面に対して傾斜している。
【0030】
図3に示すように、取付部33はアーム部材20aの幅方向に分かれて一対の外側面35を有し、これら外側面35に第1及び第2アームジョイント40,45が分かれて設けられている。アームジョイント40,45は、ジョイントブラケット31に螺合されるナット部41,46と、ナット部41,46に遷移部42,47を介して連結されたボール部43,48とを有している。上述のアーム部材20a、ジョイントブラケット31、並びに第1及び第2アームジョイント40,45がアーム20を構成している。
【0031】
第1リンク部材21aの基端部には第1リンクジョイント50が取り付けられている。第1リンクジョイント50は、第1リンク21の基端部に嵌め込まれる筒部51を有している。筒部51は、開口51aが設けられている側と反対側において、遷移部52を介して凹状部53と連結される。凹状部53には椀状のソケット54が着脱可能に装着され、ソケット54の内周面は略半球面を形成している。第1リンク部材21aをアーム部材20aの幅方向外側からアーム部材20aに近づけ、ソケット54を第1アームジョイント40のボール部43に嵌め合わせることにより、当該ボール部43とソケット54が球面対偶を成し、第1リンク部材21aがアーム20に対して6自由度を持って揺動可能に連結される。
【0032】
第2リンク部材22aの基端部にも、第1リンクジョイント45と同一の構造を有した第2リンクジョイント55が取り付けられる。符号56〜59はそれぞれ筒部、遷移部、凹状部及びソケットであり、第2リンク部材22aもソケット59を第2アームジョイント45のボール部48に嵌め合わせることによってアーム20に対して揺動可能に連結される。
【0033】
上述の第1リンク部材21a、第1リンクジョイント50、及びソケット54が第1リンク21を構成し、第2リンク部材22a、第2リンクジョイント55、及びソケット59が第2リンク22を構成している。また、基端ジョイント23は上述のとおり一対のボールジョイントから構成される。ソケット54,59は樹脂製であり、各リンク21,22の揺動に伴う磨耗の進行程度に応じて適宜交換される。
【0034】
[ワイヤー]
図2に示すように、付勢ユニット24は、円筒状のハウジング60と、ハウジング60の軸線方向の両端部に設けられた一対の第1及び第2係止具61,62とを有している。各係止具61,62をリンクジョイント50,55の筒部51,56に設けられた円柱状の第1及び第2被係止ピン81,82に係止することにより、付勢ユニット24をリンク21,22に取り付けることができる。ハウジング60はリンク21,22の間に配置され、その軸線は一対のリンク21,22の配列方向(すなわち、アーム部材20aの幅方向)に向けられる。
【0035】
ハウジング60にはワイヤーブラケット36が取り付けられている。ワイヤーブラケット36は、一対の半体をハウジング60の外側に嵌め付けた後に互いに螺合することによって構成される。ワイヤーブラケット36は、ワイヤー37を介してアーム部材20aの先端部に取り付けられたジョイントブラケット31と機械的に連結される。ワイヤー37の両端部にはボルト38,39が溶接等により接合され、一方のボルト38がジョイントブラケット31の平坦面34に開口したネジ孔(図示せず)に螺入され、他方のボルト39がワイヤーブラケット36に形成されたネジ孔(図示せず)に螺入される。ワイヤーブラケット36はベース2に向けられた面と、その反対側に向けられた面とを有するが、ワイヤーブラケット36のネジ孔は、平坦面34と同様に、ベース2とは反対側に向けられた面に形成されている。ワイヤー37は、ジョイントブラケット31及びワイヤーブラケット36の間に弧を描くようにして設けられる。ワイヤー37が湾曲していることにより、第1及び第2リンク21,22の揺動がワイヤー37で規制されることはない。
【0036】
このようにアーム20は、ワイヤー37及び付勢ユニット24を介し、第1及び第2リンク21,22と機械的に連結される。このため、万が一、ソケット54,59がボール部43,48から脱落しても、脱落したソケットを備えるリンクは、ワイヤー37を介してアーム20と連結された状態で維持される。このときワイヤー37には、脱落したリンクの重力などに基づいて張力が作用するが、ワイヤー37を鋼製とすることによりワイヤー37が切断されるのを好適に防ぐことができる。鋼製のワイヤー37は、弛みを生じにくいことから、付勢ユニット24に絡まってアーム20及びリンク21,22の円滑な揺動を妨げることもない。また、ワイヤー37の端部がボルト38,39でジョイントブラケット31及びワイヤーブラケット36にそれぞれ強固に連結され、張力でワイヤー37がジョイントブラケット31又はワイヤーブラケット36から脱落することも好適に防ぐことができる。よって、脱落したリンクが作業スペース194(図1参照)内で飛散するのを抑制することができる。
【0037】
さらに、ワイヤー37は、リンク21,22の間に架け渡された付勢ユニット24にワイヤーブラケット36を介して連結されている。このため、ワイヤー37の個数が1つであっても、第1リンク21及び第2リンク22双方の飛散を抑制することができる。また、付勢ユニット24がリンクジョイント50,55に取り付けられているため、ワイヤーブラケット36はジョイントブラケット31と近接して配置され、ワイヤー37の長さを短くすることができる。これにより、ワイヤー37の取回しがコンパクトとなり、また、ソケット54,59がボール部43,48から脱落しても付勢ユニット24の落下距離が短くなってリンク21,22の飛散の程度が小さくなる。
【0038】
[付勢ユニット]
図4に示すように、付勢ユニット24のハウジング60は、軸線方向一端部の開口を有する円筒状であり、この開口がカバー63で閉鎖される。ハウジング60内には円盤上のピストン64が摺動可能に設けられている。ピストン64の軸心部からはロッド65がハウジング60の軸線上を延び、ロッド65の先端はカバー63に形成された開口からハウジング60外に突出している。ハウジング60内のロッド側空間にはコイルスプリング66が収容され、ロッド65がコイルスプリング66の軸心部に挿通されている。コイルスプリング66の軸線方向一端部はピストン64に支持され、他端部はカバー63の内面側に設けられたリテーナ67に支持されている。
【0039】
第1係止具61はU状のクレビスから成り、平板状のベース壁71と、ベース壁71から平行に延びる一対の側壁72とを有している。ベース壁71は、ハウジング60の軸線に直交するよう配置されてロッド65の先端部に設けられ、側壁72は、ハウジング60から遠ざかる側に延びている。各側壁72は、第1被係止ピン81が挿通される取付孔73を有している。第1リンクジョイント50の筒部51を一対の側壁72間に嵌め込み、第1被係止ピン81を取付孔73に挿通し、第1被係止ピン81及び取付孔73にブシュ82を圧入することにより、付勢ユニット24が第1リンク21に取り付けられる。また、第2係止具62は第1係止具61と同一の構造を有し、ベース壁76がハウジング60の外底面に設けられ、一対の側壁77がハウジング60から遠ざかる側に延びている。符号84は、側壁77に形成された取付孔74と、取付孔74に挿通された第2被係止ピン82とに圧入されるブシュであり、ブシュ84の圧入によって付勢ユニット24が第2リンク22に取り付けられる。
【0040】
上記構成によれば、ピストン64が移動してロッド65がハウジング60から進出しようとしたとき、コイルスプリング66が圧縮変形してその弾発力がピストン64に作用し、ロッド65がハウジング60内へ退入するように付勢される。ここで、第1リンク21がアーム20から脱落しようとすると、第1係止具61及びロッド65が図4紙面右方へ移動しようとする。しかし、コイルスプリング66が圧縮されなければ(すなわち、コイルスプリング55の弾発力に打ち勝たなければ)、当該移動は生じない。第2リンク22がアーム20から脱落しようとする場合も同様である。このため、コイルスプリング66のバネ定数を十分に大きい値に設定することにより、リンク21,22を脱落させるような荷重が作用しても、コイルスプリング66の弾発力によってリンク21,22の脱落を好適に防ぐことができる。
【0041】
付勢ユニット24はリンクジョイント50,55の筒部51,56の間に架け渡されているため、付勢力はソケット54に近い位置でリンク21,22に作用する。よって、ソケット54,59が付勢力でボール部43,48に好適に押し付けられ、リンク21,22がアーム20から脱落するのを好適に防止することができる。
【0042】
また、コイルスプリング66がハウジング60に収容されるため、ロボット1の運用を容易に行うことができる。つまり、このロボット1は食品、薬品、化粧品等の製造設備などクリーン環境に導入され得る。このため、例えばロボット1の周囲から洗浄用の薬品を吹きかけることでロボット1を洗浄可能であると、このようなクリーン環境でも容易に運用可能となって有益である。ここで、コイルスプリング66がハウジング60に収容されると、コイルスプリング66の材料を選択するにあたって耐薬品性を考慮する必要がなくなり、付勢力の発揮によってリンク21,22の脱落を防止するという本来の目的を達成するべくバネ定数等に重点をおいてコイルスプリング66の材料を選択することができる。逆に言えば、コイルスプリング66が耐薬品性を有していなくても上記例示の方法でロボット1を洗浄することができ、クリーン環境に導入されたロボット1の運用が容易化する。同様の効果を得るため、電子機器及びエア機器のいくつかは、液密とされたバケット3の内部空間に収容されている。
【0043】
[取付孔]
図5に示すように、第1係止具61の側壁72には、前述の取付孔73が形成されている。また、側壁72には、取付孔73を規定する周縁部74を部分的に切り欠いた切除部75が設けられている。切除部75は取付孔73と連続しており、取付孔73は切除部75を介して開放されている。このような取付孔73及び切除部75を有することにより、側壁72が鉤状又は略C状となっている。
【0044】
周縁部74は第1円弧部91、第2円弧部92及び第3円弧部93によって規定される。各円弧部91〜93の中心は側壁72の延在方向(すなわち、ハウジング60の軸線方向、リンク21,22の整列方向、アーム20の幅方向、コイルスプリング66の付勢力が作用する方向)に互いに離れて位置している。中央の第1円弧部91の曲率は、両端の第2及び第3円弧部92,93の曲率よりも小さい(すなわち、第1円弧部91を規定する仮想円の直径が第2及び第3円弧部92,93を規定する仮想円の直径よりも大きい)。切除部75は、取付孔73の中央部、すなわち取付孔73のうち第1円弧部91によって規定される部分に連続している。
【0045】
なお、図4に示すように、ブシュ83,84は、軸線方向の両端部が中間部に対して大径となる段付き円筒状に形成されている。軸線方向一端部の抜け止め部101及び他端部のヘッド部102は、中間部の小径円筒部103よりも大径である。ブシュ84は、その内部において、抜け止め部101の端面に開口して軸線方向に延びる非貫通のピン挿入孔104を有している。ピン挿入孔104の直径は、被係止ピン82が圧入嵌挿されるべく被係止ピン82の直径と略同一である。切除部75の幅は、被係止ピン82の直径よりも大きい。また、第1円弧部91を規定する仮想円の直径は、抜け止め部101及びヘッド部102の直径よりも小さい。第2及び第3円弧部92,93を規定する仮想円の直径は、抜け止め部101の直径よりも小さく且つ小径円筒部103の直径よりも僅かに大きい。
【0046】
[組付手順]
このような係止具を有するスプリングユニットをリンク21,22に組み付ける手順について説明する。まず、図6(a)に示すように、アームジョイント40のボール部43に第1リンクジョイント50のソケット54をアーム20の幅方向外側から嵌め合わせ、アームジョイント45のボール部48に第2リンクジョイント55のソケット59をその反対側から嵌め合わせる。そして、各係止具71の切除部74,79を下側に向けた状態にして、スプリングユニット24を上側から降ろしていき、被係止ピン81,82を切除部74,79を通過させて取付孔73,78内に導入する。上記のとおり切除部74,79の幅は被係止ピン81,82よりも大径であるため、被係止ピン81,82を取付孔73,78内に容易に導入することができる。また、切除部75,80は取付孔73,78の中央部に連続しているため、スプリングユニット24を上側から降ろすと、被係止ピン81,82は、第2円弧部92で規定される取付孔73,78の中央部に導入されることとなる。
【0047】
この状態で、図6(b)に示すように、ブシュ83,84を取付孔73,78の中央部に挿入し、ブシュ83,84のピン挿入孔104内に被係止ピン81,82を圧入するようにして嵌挿させる。上記のとおり第1円弧部91を規定する仮想円の直径はピン挿入孔104が開口する抜け止め部101の直径よりも大きいため、抜け止め部101を取付孔73,78を通過して係止具61,62の背面側に到達させることができる。これにより、ピン挿入孔104内への被係止ピン81,82の挿通長さが大きく確保されるため、被係止ピン81,82とブシュ83,84との係合が強固なものとなる。
【0048】
このようにブシュを被係止ピンに嵌挿した後に、図6(c)に示すように、第1及び第2リンク21,22をアーム20の幅方向に互いに離れるように引っ張る。これにより、被係止ピン81,82がブシュ83,84とともに、取付孔73,78内を幅方向外側の第2円弧部92で規定される部分へと移動することとなる。上記のとおり、第2円弧部92を規定する仮想円の直径は抜け止め部101の直径よりも小さいため、取付孔73,78を通過するようにして設けられた抜け止め部101は係止具61,62の背面側にとどまり、取付孔73,78内に挿入されなかったヘッド部102は係止具61,62の正面側にとどまる。他方、中間部の小径円筒部103は取付孔73,78内に挿通された状態となり、その外周面は第2円弧部92に係合する。なお、スプリングユニット24をリンク21,22から取り外すときは、上記と逆の操作を行えばよい。
【0049】
このように、本実施形態に係るロボット1によれば、切除部を利用して被係止ピンを係止具の取付孔に対して容易に進入及び退出することができるため、スプリングユニット24をリンク21,22に対して容易に着脱することができる。これにより、ソケットの交換を簡単に行えるようになり、ロボット1の維持管理を容易に行うことができる。
【0050】
上記本発明に係る実施形態は一例に過ぎず、本発明の範囲内で適宜変更可能である。例えば、基端ジョイント23の構成は、先端ジョイント25にも適用可能である。この場合、アームジョイント40,45と同一の構造がブラケット8の外周縁部に取り付けられ、リンクジョイント50,55が第1及び第2リンク21,22の先端部にも取り付けられることとなる。これにより、ブラケット8とリンク21,22とが連結された状態を良好に維持することができ、また、リンク21,22をブラケット8に容易に組み付けることができる。また、ブラケット8とリンク21,22との間にワイヤー37を設けてもよい。但し、万が一リンク21,22の先端部が脱落してもその飛散の程度は大きくなりにくいことから、エンドエフェクタ10及びエンドアクチュエータ12の配置スペースをできる限り大きく確保するべくワイヤー37が省略されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、ロボットの稼働中におけるアーム機構の脱落を好適に抑制することができ、必要に際してアーム機構を簡便に着脱することができ、且つロボットを容易に運用することができ、いわゆるデルタ型ロボットに適用すると有益である。
【符号の説明】
【0052】
1 ロボット
2 ベース
3 バケット
7 アーム機構
8 ブラケット
10 エンドエフェクタ
20 アーム
21,22 リンク
23 基端ジョイント
24 付勢ユニット
25 先端ジョイント
31 ジョイントブラケット
36 ワイヤーブラケット
37 ワイヤー
40,45 アームジョイント
43,48 ボール部
50,55 リンクジョイント
54,59 ソケット
60 ハウジング
61,62 係止具(係止部)
66 コイルスプリング
72,77 側壁
73,78 取付孔
74,79 周縁部
75,80 切除部
81,82 被係止ピン(被係止部)
83,84 ブシュ
91〜93 円弧部
101 中心軸線
190 製造設備
191 架台
192 載置台
193 ワーク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベースと、
前記ベースとエンドエフェクタとの間を連結する3組のアーム機構とを備え、
前記アーム機構のうち少なくとも一つが、前記ベースにその基端部が回動可能に連結されたアームと、その基端部が前記アームの先端部を回動自在に挟むようにして配置された互いに平行な一対のリンクと、前記一対のリンクの間に架け渡され、前記一対のリンクを互いに近付けるように付勢する付勢ユニットとを備え、
前記アームの先端部と前記一対のリンクの基端部とが、該一対のリンクを該アームに揺動可能に連結する基端ジョイントを構成しており、
前記各リンクは、前記付勢ユニットが係止される柱状の被係止部を有し、前記付勢ユニットが、付勢力を発生する付勢部材と、前記付勢部材を収容するハウジングと、前記ハウジングの両端部に設けられ、前記付勢部材により付勢される一対の係止部とを有し、
前記係止部が、前記被係止部が挿通される取付孔と、前記取付孔を取り囲む周縁部の一部が切除されて形成された切除部と、を有し、
前記取付孔が、前記切除部を介して前記係止部の外方に開放されている、ロボット。
【請求項2】
前記切除部の寸法が、前記取付孔の寸法よりも小さく、前記被係止部の寸法よりも大きい、請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記周縁部は、前記付勢部材による付勢方向において前記取付孔の中央部を規定する第1円弧部と、前記第1円弧部と連続して前記取付孔の一端部を規定する第2円弧部とを有する、請求項1又は2に記載のロボット。
【請求項4】
前記第1及び第2円弧部の各中心位置が前記付勢部材による付勢方向において互いに離れており、第2円弧部の半径が第1円弧部の半径よりも大きい、請求項3に記載のロボット。
【請求項5】
前記取付孔に前記被係止部が挿通されている状態において、前記取付孔に嵌挿され且つ前記被係止部に嵌合されるブシュを更に備え、
前記ブシュが、軸線方向における両端部が該両端部の間の部分(以下、中間部)よりも大径の段付き円筒状に形成され、かつ一方の前記端部からその内孔に前記被係止部が嵌挿されており、
前記第1円弧部を規定する仮想円の直径が前記ブシュの前記一方の端部よりも大径であり、前記第2円弧部を規定する円の直径が前記一端部よりも小径であって前記中間部より大きい径である、請求項3に記載のロボット。
【請求項6】
前記リンクを、前記基端ジョイントを迂回して前記アームに連結するためのワイヤーを更に備える、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のロボット。
【請求項7】
前記ワイヤーの一端部が前記付勢ユニットに接続されかつ前記ワイヤーの他端部が前記アームに接続されている、請求項6に記載のロボット。
【請求項8】
前記基端ジョイントが、前記アームに設けられたボール要素と、前記リンクに設けられて前記ボール要素と球面対偶を成すソケット要素とからなるボールジョイトに構成されている、請求項1乃至7のいずれか1項に記載のロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−194534(P2011−194534A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−65452(P2010−65452)
【出願日】平成22年3月23日(2010.3.23)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】