説明

ロータリテーブルのブレーキ機構

【課題】ロータリテーブルの回転テーブルに制動をかける油圧方式のブレーキ機構において、全体厚さを抑えつつも強力なブレーキ力が得られるようにする。
【解決手段】回転テーブル5の主軸部材11に中軸部12とこのまわりに周空間13を介して同軸配置された筒軸部14とが設けられ、ハウジング6に周空間13に嵌るスリーブ部25が設けられ、スリーブ部25は、主軸部材11の中軸部12の外周面に摺接する内制動面30aと主軸部材11の筒軸部14の内周面に摺接する外制動面31aとを有し、これら両面30a,31a間に油圧室40が形成され、油圧室40への給油加圧による径方向内方及び径方向外方への膨張で内制動面30aによる中軸部12への圧接と外制動面31aによる筒軸部14への圧接とが同時発生可能とされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータリテーブルのブレーキ機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、フライス盤やマシニングセンタ等の各種工作機械ではベッド上にロータリテーブルを載置固定し、このロータリテーブルの備える回転テーブルにワークを取り付け、ワークを回転させつつ切削工具でワークの切削加工を行うことがある。ロータリテーブルは、一端部にテーブル部材が設けられ他端側に主軸部材が設けられた回転テーブルと、この回転テーブルの主軸部材を回転自在に保持するハウジングと、上記回転テーブルを回転駆動する駆動機構とを有している。
この種のロータリテーブルでは、工作機械による切削や研削時に回転テーブルが回転方向に位置ズレを起こすことがないように、回転テーブル(主軸部材等)に制動をかけるブレーキ機構が設けられているのが普通であり、このブレーキ機構として、メカ方式のものや油圧方式のものなどがある。
【0003】
メカ方式のブレーキ機構としては、例えば、回転テーブルの主軸部材に一体回転可能に設けられたブレーキディスクと、このブレーキディスクを挟圧するクランプ部材と、このクランプ部材に作動圧を付加する油圧ピストンとを有し、油圧ピストンの作動によってクランプ部材でブレーキディスクを挟圧させ、もって、回転テーブルの停止角度を固定するものが知られている(特許文献1等参照)。
一方、油圧方式のブレーキ機構としては、例えば図5に示すように、回転テーブル100の主軸部材101又はテーブル部材105に対し、その軸方向であって且つ駆動機構102とは干渉しない箇所に軸受けリング103を外嵌状に設け、この軸受けリング103の内部に油圧室104を形成させたものが知られている。すなわち、油圧室104を給油加圧によって膨張させ、軸受けリング103の内周面103aを回転テーブル100(主軸部材101又はテーブル部材105)の外周面へ圧接させることによって制動力を生起させ、もって回転テーブル100の停止角度を固定することになる。
【特許文献1】特開2001−121369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
油圧方式のブレーキ機構(図5参照)は、部品点数が少ない点でメカ方式のブレーキ機構より優れている。しかし、油圧室104は駆動機構102と干渉しない位置付けとする必要があることから、テーブル部材105の端面寄りとせざるを得ない事情が付随する。
ここにおいてブレーキ作用を高めるためには、テーブル部材105の厚みを分厚くしたり、或いは駆動機構102より前側で主軸部材101を長くしたりして、軸受けリング103の内周面103aとの接触面積を大きくするのが好適となる。しかし、ロータリテーブル全体としての厚さを抑えるためには、回転テーブル100の軸方向長さを長くできないという制約もある。結果として、油圧方式のブレーキ機構では、強力なブレーキ力を得るのが困難であるという問題に繋がっていた。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、回転テーブルに制動をかけるブレーキ機構として油圧方式を採用するうえで、ロータリテーブル全体としての厚さを抑えつつも強力なブレーキ力が得られるようにしたロータリテーブルのブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は次の手段を講じた。
即ち、本発明に係るロータリテーブルのブレーキ機構は、一端部にテーブル部材が設けられ他端側に主軸部材が設けられた回転テーブルと、この回転テーブルの主軸部材を回転自在に保持するハウジングと、上記回転テーブルを回転駆動する駆動機構とを有するロータリテーブルにおいて上記回転テーブルの制動に用いられるものであって、上記回転テーブルの主軸部材には当該回転テーブルの回転軸心に軸心を一致させた中軸部とこの中軸部まわりに周空間を介して同軸配置された筒軸部とが設けられていると共に、上記ハウジングには上記主軸部材の中軸部と筒軸部との間の周空間に嵌るスリーブ部が設けられており、上記ハウジングのスリーブ部は、主軸部材の中軸部の外周面に摺接する内制動面と主軸部材の筒軸部の内周面に摺接する外制動面とを有し、且つこれら内制動面と外制動面との周間に油圧室が形成されたものとなっており、この油圧室への給油加圧による径方向内方及び径方向外方への膨張で内制動面による上記中軸部への圧接と外制動面による上記筒軸部への圧接とが同時発生可能とされている。
【0007】
このような構成のブレーキ機構であると、油圧室へ給油し加圧状態とさせたとき、ハウジングのスリーブ部は、内制動面が回転テーブルにおける主軸部材の中軸部外周面を圧接すると共に、外制動面が回転テーブルにおける主軸部材の筒軸部内周面を圧接するようになる。すなわち、油圧室によって発生されるブレーキ力は、互いに背合わせの位置関係とされた二面で同時に作用するので、十分に広い有効面積が確保され、しかも回転テーブルの主軸部材に対し、ロスがなく且つバランスの取れたものとなる。このように、回転テーブルに作用するブレーキ力を高めて強力にすることができる。
【0008】
回転テーブルの主軸部材が具備する筒軸部は、その外周面に歯列が設けられたウォームホイールを有しており、このウォームホイールにウォーム軸が噛合されることによって前記駆動機構が構成されるものとし、そのうえで、上記ウォームホイールは、ハウジングのスリーブ部に形成された油圧室の径方向外方への膨張に倣って径方向外方へ拡径可能なものとするのが好適である。
このようにすることで、ハウジングにおいて、油圧室の形成位置が駆動機構を設けるスペース内に収まることになり、ロータリテーブル全体としての厚さを抑えることに繋がる。
【0009】
また、油圧室によって発生されるブレーキ力のうち、外制動面が回転テーブルにおける主軸部材の筒軸部内周面を押圧する作用は、ウォームホイルを径方向外方へ拡径させるようにも作用することになるので、このウォームホイルはウォーム軸との噛み合いをきつくするようになる。すなわち、ウォームホイルとウォーム軸との噛合間に生じるバックラッシュが埋められるため、これによってウォームホイルの回転位置決め作用が高められることになる。従って、このことも回転テーブルにとってブレーキ力として作用することになる。その分、回転テーブルに対するブレーキ力が強まり、また位置決め精度も向上する利点に繋がる。
【0010】
なお、回転テーブルの主軸部材において、中軸部は、センタシャフト部とこのまわりに周空間を介して同軸配置されたロータリテーブルの主軸部とを有したものとすることができる。この場合、ハウジングは、主軸部材におけるセンタシャフト部の外周面に摺接する内摺動面と、主軸部材におけるロータリテーブルの主軸部の内周面に摺接する外摺動面とを有して、センタシャフト部とロータリテーブルの主軸部との間の周空間に嵌る筒状のジョイント部を有したものとすればよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るロータリテーブルのブレーキ機構は、油圧方式を採用するものでありながらロータリテーブル全体としての厚さが抑えられ、しかも強力なブレーキ力が得られるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
図1乃至図4は、本発明に係るブレーキ機構1を具備して成るロータリテーブル2の一実施形態を示している。このロータリテーブル2は、回転テーブル5とハウジング6とを有し、また回転テーブル5を回転駆動するための駆動機構7を有している。ブレーキ機構1はハウジング6において、回転テーブル5を支持する部分に設けられている。
図4から明らかなように、回転テーブル5は、一端部にテーブル部材10が設けられ、他端側に主軸部材11が設けられたものである。テーブル部材10は円盤状に形成されており、円形の端面10aにはワークや治具等を取付可能とするため、例えば放射状に広がるガイド溝(図示略)などが形成されている。
【0013】
主軸部材11は、回転テーブル5の回転軸心Pに軸心を一致させた中軸部12と、この中軸部12まわりに周空間13を介して同軸配置された筒軸部14とを有している。また本実施形態において中軸部12は、センタシャフト部15と、このセンタシャフト部15のまわりに周空間16を介して同軸配置されたロータリテーブル2の主軸部17とを有したものを示してある。
筒軸部14は、その一端側(テーブル部材10とは反対側)にリング状のウォームホイル19を有している。このウォームホイール19の外周面には全周を取り囲んで歯列20が設けられている。このウォームホイール19のリング内周面は、上記周空間13へ面している。またこの筒軸部14を全体として見たとき、少なくともウォームホイール19に相当する部分は材質的な可撓性、或いは径方向スリット等の機械的構造を有することによって、径方向外方への拡径が可能となっている。
【0014】
ハウジング6は、回転テーブル5(テーブル部材10および主軸部材11)を、スラストベアリング22a、22bやラジアルベアリング23を介して回転自在に保持可能になったもので、主軸部材11の中軸部12と筒軸部14との間の周空間13に嵌るスリーブ部25を有している。またこのスリーブ部25の内側に、一回り径小の筒状をしたセンタフランジ部26を有している。
スリーブ部25は、外筒部材43と、この内部へ内嵌的に嵌められる内筒部材44とを有して形成されている。このスリーブ部25を上記周空間13へ嵌めたとき、外筒部材43の外周面は、主軸部材11の筒軸部14に対してその内周面に当接する状態となり、ここに回転テーブル5が回転するのを摺接状態で保持する外制動面31aが形成される。また、スリーブ部25を上記周空間13へ嵌めたとき、内筒部材44は主軸部材11の中軸部12に対してその外周面に当接する状態となり、ここに回転テーブル5が回転するのを摺接状態で保持する内制動面30aが形成される。
【0015】
センタフランジ部26は、回転テーブル5の主軸部材11に対し、中軸部12のセンタシャフト部15とロータリテーブル2の主軸部17との間の周空間16へ嵌るようになったもので、センタシャフト部15に対し、その外周面に摺接する内摺動面32と、ロータリテーブル2の主軸部17に対し、その内周面に摺接する外摺動面33とを有している。
本実施形態において、スリーブ部25及びセンタフランジ部26は、それぞれ一端側にフランジ25a,26aを有した個別の部材として形成され、これらをハウジング本体35へ嵌め付けて結合することでハウジング6が組み立てられる構造としてある。
【0016】
駆動機構7は、回転テーブル5を回転駆動するところであって、回転テーブル5が有するウォームホイール19に対し、ウォーム軸37が噛合されることによって形成されている。このウォーム軸37は、サーボモータ等のモータ(図示略)によって回転駆動される。
ブレーキ機構1は、ハウジング6のスリーブ部25に対し、その周壁内部を周方向に沿って一周するように油圧室40が形成され、この油圧室40に対し給油加圧とそれの解消(減圧)とができるように油圧回路41が設けられることによって形成されている。
【0017】
すなわち、スリーブ部25において、内筒部材44の外周面にはその周方向に沿って環状凹部が形成され、内制動面30aを薄肉の内側周壁30として残置形成させると共に、外筒部材43の内周面にはその周方向に沿って環状凹部が形成され、外制動面31aを薄肉の外側周壁31として残置形成させるものとし、且つ、これら外筒部材43の環状凹部と内筒部材44の環状凹部とが合致する位置付けとすることで、それらの周間に油圧室40が形成されている。
内側周壁30及び外側周壁31はいずれも薄肉化されていることで、油圧室40が給油加圧された場合には、内側周壁30は径方向内方へ膨れ変形を起こし、外側周壁31は径方向外方へ膨れ変形を起こすようになり、結果として油圧室40は径方向内方及び径方向外方へ膨張する。
【0018】
そのため、内側周壁30に形成された内制動面30aは、主軸部材11の中軸部12に対してその外周面へ圧接状態となり、中軸部12にブレーキ力を生じさせることになり、外側周壁31に形成された外制動面31aは、主軸部材11の筒軸部14に対してその内周面へ圧接状態となり、筒軸部14へブレーキ力を生じさせることになる。これらブレーキ力は同時に作用する。
一方、上記したように筒軸部14に設けられたウォームホイール19は径方向外方へ拡径可能になっているため、油圧室40を給油加圧によって膨張させ外制動面31aが径方向外方へ膨れ変形を起こすようになると、これに倣ってウォームホイール19もそのリング内周面が押圧されることになり、結果、拡径するようになる。
【0019】
そのため、このウォームホイル19とウォーム軸37との噛み合いが増し、これら両者の噛合間に生じるバックラッシュが埋められるため、これによってウォームホイル19の回転位置決め作用が高められることにもなる。
以上詳説したように、本発明に係るブレーキ機構1を具備したロータリテーブル2では、油圧室40へ給油し加圧状態とさせたとき、ハウジング6のスリーブ部25は、内制動面30aが回転テーブル5における主軸部材11の中軸部12の外周面を押圧すると共に、外制動面31aが回転テーブル5における主軸部材11の筒軸部14の内周面を押圧するようになる。すなわち、油圧室40によって発生されるブレーキ力は、互いに背合わせの位置関係にある二面(30a,31a)で同時に作用するので、十分に広い有効面積が確保され、しかも回転テーブル5の主軸部材11に対し、ロスがなく且つバランスの取れたものとなる。このようなことから、回転テーブル5に作用するブレーキ力を高めて強力にすることができる。
【0020】
しかも、油圧室40の膨張に伴う外制動面31aの径方向外方への膨れ変形に伴い、ウォームホイール19が拡径してウォーム軸37との噛み合いがきつくなり、これら両者の噛合間に生じるバックラッシュが埋められる作用が回転テーブル5にとってブレーキ力となる。従ってその分、回転テーブル5に対するブレーキ力が強まり、また位置決め精度も向上する利点に繋がる。
また、ハウジング6において、油圧室40の形成位置が駆動機構7を設けるスペース内に収まった状態になっているので、ロータリテーブル2全体としての厚さが抑えられている。
【0021】
ところで、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、実施の形態に応じて適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係るブレーキ機構を具備したロータリテーブルの一実施形態を示した側断面図である。
【図2】図1中の一部(油圧室周辺)を拡大抽出した図である。
【図3】図2のA−A線矢視図である。
【図4】図1のロータリテーブルにおいて回転テーブルとハウジングとを分解した状態で示した側断面図である。
【図5】従来における油圧方式のブレーキ機構を具備したロータリテーブルの一例を示した側断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 ブレーキ機構
2 ロータリテーブル
5 回転テーブル
6 ハウジング
7 駆動機構
10 テーブル部材
11 主軸部材
12 中軸部
13 周空間
14 筒軸部
15 センタシャフト部
17 ロータリテーブルの主軸部
19 ウォームホイール
20 歯列
25 スリーブ部
26 センタフランジ部
30a 内制動面
31a 外制動面
37 ウォーム軸
40 油圧室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端部にテーブル部材(10)が設けられ他端側に主軸部材(11)が設けられた回転テーブル(5)と、この回転テーブル(5)の主軸部材(11)を回転自在に保持するハウジング(6)と、上記回転テーブル(5)を回転駆動する駆動機構(7)とを有するロータリテーブル(2)において上記回転テーブル(5)の制動に用いられるブレーキ機構であって、
上記回転テーブル(5)の主軸部材(11)には当該回転テーブル(5)の回転軸心(P)に軸心を一致させた中軸部(12)とこの中軸部(12)まわりに周空間(13)を介して同軸配置された筒軸部(14)とが設けられていると共に、上記ハウジング(6)には上記主軸部材(11)の中軸部(12)と筒軸部(14)との間の周空間(13)に嵌るスリーブ部(25)が設けられており、
上記ハウジング(6)のスリーブ部(25)は、主軸部材(11)の中軸部(12)の外周面に摺接する内制動面(30a)と主軸部材(11)の筒軸部(14)の内周面に摺接する外制動面(31a)とを有し、且つこれら内制動面(30a)と外制動面(31a)との周間に油圧室(40)が形成されたものとなっており、この油圧室(40)への給油加圧による径方向内方及び径方向外方への膨張で内制動面(30a)による上記中軸部(12)への圧接と外制動面(31a)による上記筒軸部(14)への圧接とが同時発生可能とされていることを特徴とするロータリテーブルのブレーキ機構。
【請求項2】
前記回転テーブル(5)の主軸部材(11)が具備する筒軸部(14)は、その外周面に歯列(20)が設けられたウォームホイール(19)を有しており、このウォームホイール(19)にウォーム軸(37)が噛合されることによって前記駆動機構(7)が構成されており、上記ウォームホイール(19)は前記ハウジング(6)のスリーブ部(25)に形成された油圧室(40)の径方向外方への膨張に倣って径方向外方へ拡径可能とされていることを特徴とする請求項1記載のロータリテーブルのブレーキ機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−144579(P2007−144579A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343782(P2005−343782)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(591028072)株式会社日研工作所 (43)
【Fターム(参考)】