説明

ロードレベリング電源システム

【課題】電池の充放電サイクル耐久性と共に、資源のリサイクルが可能である。
【解決手段】リチウム二次電池と、該電池の作動温度を所定温度範囲に維持する作動温度維持手段と、該電池が深夜電力による充電および電力負荷軽減を目的とする電力供給に伴う放電を繰り返す充放電手段とを備えたロードレベリング電源システムであって、
リチウム二次電池が、オリビン型リン酸金属リチウムまたはマンガン酸リチウム化合物を主剤とした正極合剤と、炭素材または合金を主剤とした負極合剤とを、それぞれ突起した貫通孔を有する集電体上に形成し、絶縁体を介して積層または捲回されて形成される電極群と、非水電解質または固体電解質とを備え、作動温度維持手段が、リチウム二次電池の表面温度が所定温度以下となったときに、外部熱源による熱供給を開始し、所定範囲を上回ったときに、上記外部熱源による熱供給を停止する手段である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウム二次電池を用いたロードレベリング電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力負荷の平準化(ロードレべリング)を目的として、電力の貯蔵をするシステムが提案されている。このシステムは、電力負荷に余裕のある夜間に商用電源からの電力を貯蔵し、貯蔵された電力を昼間の電力負荷が高い時に用いて負荷の平準化を図るものであり、近年、注目を集めている。電力量料金単価の安い夜間に充電し、電力量料金単価の高い昼間に放電するので、電力量料金を削減することができるというメリットもある。
【0003】
このようなシステムとして、電気の充電と放電を行なう二次電池を有するシステムがある。この用途に用いられる二次電池として高温型のナトリウム電池、とくに、ナトリウム−硫黄電池(NaS電池)が知られている。
【0004】
特許文献2と特許文献3は、高温型のナトリウム電池を使用したシステムを開示している。該システムは、電池の作動温度を適正に維持することにより、電池の機能が停止するのを防止している。
特許文献2は、高温型二次電池として300〜400℃の温度範囲で作動するナトリウム二次電池を使用した電源システムを開示している。該電源システムは、複数のナトリウム二次電池から構成される第1の電池群と、複数のナトリウム二次電池から構成される第2の電池群とを同一の容器に収容してなり、これらの電池群の吸熱および発熱反応によって、該容器内の温度が一定に保たれるようになっている。一方の電池群が発熱中の場合に他方の電池群を吸熱させるという制御を行なうことによって、ヒータ等の加熱手段なしに容器内温度を保つように設計されている。
この電源システムは適正作動温度が300℃以上の高温型二次電池の使用を前提としており、そのため、家庭用などの幅広い実施形態を許容するとはいえない。また、リサイクルの観点からの配慮がなされていない。
【0005】
特許文献3は、燃料電池と高温型二次電池を併合した発電システムを開示している。SOFC(燃料電池)モジュールとNa二次電池(二次電池)モジュールを備え、該燃料電池モジュールから発生する排熱が熱媒体により、該二次電池に供給され、該二次電池の作動温度(300〜400℃)が得られる。
このシステムは、燃料電池との組み合わせを前提とした発電システムである。また特許文献2と同じく適正作動温度が300℃以上の高温型二次電池を使用しているため、家庭用などの幅広い実施形態を許容するとはいえない。また、リサイクルの観点からの配慮がなされていない。
【0006】
また、産業用電池の分野で主流を占めている鉛電池を使用して上記の電力負荷平準化を目的とする電力供給システムが知られている。しかし、これまでの鉛電池では、フロート充電法やトリクル充電法により満充電状態に維持されて非常時等の必要な場合に放電して電力供給するスタンバイ使用が主たる使用方法であり、夜間電力を利用して充電し、負荷ピーク時に放電するというサイクル使用に対しては、サイクル耐久性の面で問題がある。
【0007】
一方、リチウムイオンの吸蔵、放出が可能な材料を用いて負極を形成したリチウム二次電池は、金属リチウムを用いて負極を形成したリチウム電池に比べてデンドライトの析出を抑制することができる。そのため、電池の短絡を防止して安全性を高めた上で高容量なエネルギー密度の高い電池を提供できるという利点を有している。
例えば、特許文献1に開示されたリチウム二次電池は、資源のリサイクルに適した電池材料を選択することができると共に、高容量・大電流充放電で、優れた充放電サイクル耐久性をもち、安全性の高いリチウム二次電池である。
【0008】
しかしながら、リチウム二次電池は、産業用電池用途の10年以上の耐久性を満足するという点で技術的に満足できるものは得られていない。例えば、電池の使用環境が低温になると電池容量の低下が懸念されるが、この問題は解決されていない。
また、低コスト材料およびリサイクル材料の利用についてもリチウム二次電池は十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−311171号公報
【特許文献2】特開2004−355861号公報
【特許文献3】特開2003−149820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は以上のような問題に対処するためになされたもので、電池の充放電サイクル耐久性と共に、資源のリサイクルが可能なリチウム二次電池を用いたロードレベリング電源システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のロードレベリング電源システムは、リチウム二次電池と、該電池の作動温度を所定温度範囲に維持する作動温度維持手段と、該電池が深夜電力による充電および電力負荷軽減を目的とする電力供給に伴う放電を繰り返す充放電手段とを備えたロードレベリング電源システムであって、
上記リチウム二次電池は、鉄、コバルト、マンガン等のオリビン型リン酸金属リチウムまたはマンガン酸リチウム化合物を主剤として導電剤と結着剤とを配合した正極合剤を、複数の貫通孔を有して該貫通孔は孔の周囲が該箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなるアルミ二ウム箔表面に形成されてなる正極板と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材または合金を主剤として導電剤と結着剤とを配合した負極合剤を、複数の貫通孔を有して該貫通孔は孔の周囲が該箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなる銅箔表面に形成されてなる負極板とが、
絶縁体を介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、該電極群が非水電解液または固体電解質とを備えてなるリチウム二次電池であり、
上記作動温度維持手段は、上記リチウム二次電池の表面温度が所定温度以下となったときに、外部熱源による熱供給を開始し、所定範囲を上回ったときに、上記外部熱源による熱供給を停止する作動温度維持手段であることを特徴とする。
【0012】
また、ロードレベリング電源システムにおける、作動温度維持手段を構成する外部熱源が熱水または熱交換機による熱源であることを特徴とする。
また、本発明のロードレベリング電源システムは、上記リチウム二次電池の電池容量が電力供給に伴う放電容量よりも大きい場合に余剰電力を電力会社へ返還することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のロードレベリング電源システムは、高温型の電池ではなく、優れたサイクル耐久性を有し、低コストかつ資源リサイクル可能な特定のリチウム二次電池を用いて、このリチウム二次電池の作動温度を所定の温度に維持する手段を有し、深夜電力による充電および電力負荷軽減を目的とする電力供給に伴う放電を繰り返す充放電手段とを備えるので、電池の作動温度を適正範囲に維持することができ、該電池の耐久性が向上する。また、本発明のロードレベリング電源システムは、リチウム二次電池と組み合わせることにより、大電流充放電が繰り返し可能なシステムとなる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の電力負荷平準化を目的とした電力供給システムの1つの実施形態を表す構成図である。
【図2】本発明の電源システムに使用するリチウム電池の極板の断面図である。
【図3】作製例および比較作製例の電池に対する30A充放電サイクル寿命試験の結果を示す図である。
【図4】実施例および比較例の電源システムに対する放電容量試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のロードレベリング電源システムの好ましい実施形態について説明する。
まず、本システムに用いるリチウム二次電池について説明する。該リチウム二次電池は、正極板と負極板とが絶縁体を介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、該電極群が浸漬される非水電解質または該電極群が接する固体電解質とを備えてなる。
【0016】
上記正極板は、オリビン型リン酸鉄リチウム、オリビン型リン酸コバルトリチウム、オリビン型リン酸マンガンリチウム、またはマンガン酸リチウム化合物を主剤とし導電剤と結着剤とを配合した正極合剤の層を、アルミニウム箔の箔状集電体上に形成してなる電極体である。オリビン型リン酸金属リチウムとしては、リン酸鉄リチウムがコスト面や量産性で好ましい。該マンガン酸化物としては、層状マンガン酸リチウム(ニッケルやコバルトの複合物を含む)、スピネルマンガン酸リチウムを挙げることができる。これらの中で資源リサイクルに優れることからオリビン型リン酸鉄リチウムまたはスピネルマンガン酸リチウムが好ましい。
【0017】
上記負極板は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材または合金を主剤とし導電剤と結着剤とを配合した負極合剤の層を、銅箔の箔状集電体上に形成してなる電極体である。リチウムイオンを吸蔵・放出可能な合金としては、リチウム−アルミニウム合金、シリコン系またはスズ系リチウム合金などを挙げることができる。リチウムイオンの収蔵・放出量が多く、不可逆容量が小さいこと、コストやリサイクル面などの理由から、炭素材が好ましい。
【0018】
上記正極板および負極板は、箔状集電体は貫通する複数の孔を有し、該孔は孔の周囲が該箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなる。
図2(a)および(b)は、突出部を有する複数の孔を備えた箔状集電体および合剤層からなる1枚の正極板または負極板の断面図である。
貫通孔周囲に突出部1dを有する孔1cが設けられた負極集電体1aの厚さt1は、負極集電体1aおよび負極合剤層1bを合わせた1枚の極板総厚さt0の 3 %以上であることが好ましい。ここで集電体1aの厚さt1とは、集電体1aに設けられた孔1c周囲の突出部1dが集電体1aの一方の面側のみへ突出している場合は、孔1cの非突出面から突出部1dの先端までの高さであり(図2(a))、孔1c周囲の突出部1dが集電体1aの両面へ突出している場合は、一方の面側の突出部1dの先端から反対の面側の突出部1dの先端までの高さである(図2(b))。孔周囲の突出部を含めた集電体1aの厚さt1の割合が 3 %以下では活物質である合剤層と集電体との間で所期の密着性を得ることができず、電極板の製造が困難になる。上記は負極集電体1aを例に説明したが、正極板についても同様である。
【0019】
上記箔状負極集電体および箔状正極集電体は、該集電体の表面全体に上述の突出部を有する孔を備えるものであっても、集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分を残して集電体の表面に上述の突出部を有する孔を備えるものであってもよい。本発明に用いられるリチウム二次電池において、活物質を集電体表面の上記突出部を有する孔が設けられている部分へ塗布して合剤層を形成する。集電体の長手方向もしくは幅方向に対して孔を有さない部分、すなわち合剤層を形成しない部分を残すことで、集電体の長手方向もしくは幅方向の強度が増し、極板加工時や積層、捲回等の電池組込み時の極板切断等を防止することができる。
【0020】
上記箔状負極集電体および箔状正極集電体の孔周囲の突出部により、集電体表面に形成する活物質合剤層の保持能力が向上し、該合剤層の剥離を防止することができる。また、上記孔周囲に突出部を有する複数の孔を備えることにより、集電体としての電子伝導ネットワークが向上し、電極抵抗が低減され、長期にわたって大電流充放電が可能となる。
【0021】
さらに、上記孔周囲の突出部により、電池の充放電の際に正極または負極が膨張収縮して、それぞれの粒子間や集電体との密着性が向上し、急激な容量や出力の低下や内部短絡の防止を可能にする。また、集電体が複数の孔を有することにより、発熱時の溶融応答性が良好で、瞬時に箔が切断されることにより部分的な電流パスのシャットダウンが生じて、より安全性の高い電池が得られる。
また、当該複数孔の開口は箔全体に加工されてもよいが、電池の生産性に対しては、一部開孔されていない箔のままの状態を残す方がよりよい。
【0022】
上記リチウム二次電池に使用できる電極隔離用の絶縁体は、電解質として電解液を採用した場合、正極および負極を電気的に絶縁して電解液を保持するものである。この絶縁体の素材として、合成樹脂等を挙げることができる。具体的には、ポリエチレンやポリプロピレン等を挙げることができる。合成樹脂製絶縁体の形態としては、通常のフィルムでも使えるが、電解液の保持性がよいことから、多孔性フィルムが好ましい。またさらなる保液性確保のために無機繊維、例えばガラス繊維を用いた織布や不織布の使用も可能である。もちろん、樹脂繊維を用いた織布や不織布の使用も可能である。
【0023】
上記リチウム二次電池において、上記の電極群が浸漬される電解液としては、リチウム塩を含む非水電解液またはイオン伝導ポリマーなどを用いることが好ましい。リチウム塩を含む非水電解液における非水電解質の非水溶媒としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)等を挙げることができる。また、上記非水溶媒に溶解できるリチウム塩としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウ四フッ化リチウム(LiBF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSOCF)等を挙げることができる。上記リチウム二次電池に用いるすべての材料は、燃料電池やNa−S電池に比較して、低コストでかつ資源的にリサイクル可能な材料である。
【0024】
次に、本発明のロードレベリング電源システムについて説明する。本電源システムは、上記のリチウム二次電池を用いるシステムである。このシステムは、リチウム二次電池の作動温度を所定温度範囲に維持する作動温度維持手段と、該電池が深夜電力による充電および電力負荷軽減を目的とする電力供給に伴う放電を繰り返す充放電手段とを備えたロードレベリング電源システムである。本発明において、リチウム二次電池の作動温度とは電池の表面に密接して取り付けられた温度センサーによって計測される表面温度をいう。
【0025】
上記のリチウム二次電池は、作動温度が0℃付近に低くなると、作動温度が25℃付近の場合と比べて、電池容量性能が大きく低下する。本発明の電源システムはこの性能低下を防ぐために開発されたものであり、上記のリチウム電池に、該作動温度を所定の温度範囲に保持する手段を加えることにより、この性能低下を防止する。
【0026】
本電源システムは、上記リチウム二次電池と、このリチウム二次電池の表面温度が所定温度以下となったときに、外部熱源による熱供給を開始し、所定範囲を上回ったときに、上記外部熱源による熱供給を停止する作動温度維持手段を備える。
作動温度維持手段は、リチウム二次電池の表面温度を感知する温度センサーと、該電池へ熱を供給する外部熱源ユニットと、該電池の表面温度を管理する電池制御ユニットとを構成要素として備える。
【0027】
電池制御ユニットは、温度センサーによって感知された電池の表面温度が所定範囲の下限温度を下回った時に、外部熱源ユニットに対し電池への熱供給を開始する命令信号を送り、のちに、上記温度センサーによって感知された電池の表面温度が該所定範囲の上限を上回った時に、該熱供給を停止する命令信号を送るものである。
【0028】
本発明において、上記表面温度の所定温度範囲は、0〜40℃、好ましくは10〜40℃である。これは、この温度範囲が、上述した本発明の電源システムに用いるリチウム二次電池の充放電サイクル時における適正作動温度範囲のためである。
【0029】
温度センサーとしては、測温抵抗体、熱電対、サーミスタなどが使用できる。このうち、もっとも一般的で安価に入手できる、熱電対が好ましい。
【0030】
外部熱源ユニットとしては、「圧縮」、「凝縮」、「膨張」、「蒸発」の冷凍サイクルを備えるヒートポンプと、貯湯タンクとで構成される熱源ユニットが好ましい。ヒートポンプで発生した熱を熱水として貯湯タンクに貯蔵して、この熱水を介して電池に熱を供給できるものが好ましく、とくに低コストで環境負荷の低い炭酸ガスを冷媒とする外部熱源ユニットが好ましく、この外部熱源ユニットはエコキュート(登録商標)として知られている。
【0031】
以後とくに断らない限り、ヒートポンプによる熱交換器と、給湯タンクと、熱循環ポンプと、熱源制御ユニットとを備えたものをエコキュートユニットと称す。電池制御ユニットからの命令信号は、熱源制御ユニットに伝達され、熱源制御ユニットは熱交換器、熱循環ポンプ等を制御する。熱循環ポンプは、熱交換器によって加熱され給湯タンクに貯蔵された温水を、送り出し循環させるためのポンプである。
【0032】
本電源システムの1つの好ましい実施形態を図1を用いて説明する。この実施形態では、リチウム二次電池の組電池と、温度センサーと、電池制御ユニットとで1つのユニットを形成しており、これをバッテリーユニットと称する。また、この実施形態では、外部熱源ユニットとして、エコキュートユニットを採用する。このバッテリーユニットとエコキュートユニットとを合わせて、電源システムが形成されている。図1においては、バッテリーユニットから右の部分がこの電源システムを表している。
【0033】
この電源システムでは、外気温度に依存して変化する電池の表面温度が、温度センサーにより測定され、電池制御ユニットにおいてこの測定情報が管理される。測定温度が0℃、好ましくは10℃を下回ると、電池制御ユニットは外部熱源ユニットに内蔵された熱源制御ユニットに信号を送り、熱循環ポンプを使って給湯タンクから温水を送り出させる。この温水は、バッテリーユニット内に設けられた循環パイプを通って該ユニット内を循環し、該ユニット全体の温度を上昇させる。
【0034】
こうして、温度センサーによる測定温度が40℃を上回ったら、電池制御ユニットは熱源ユニットへ信号を送り、当該の熱循環ポンプによる温水循環を停止させる。
図1には、温度センサーから電池制御ユニットへの測定情報の伝達、電池制御ユニットから熱源制御ユニットへの上記命令信号の伝達、給湯タンクからバッテリーユニットへの温水の供給を表す矢印が記されている。
【0035】
このようにしてこの電源システムでは、電池の作動温度(すなわち、電池の表面温度)が、0〜40℃、好ましくは10〜40℃の範囲に維持される。
【0036】
次に、上記の電源システムを使用した電力負荷平準化を目的とした電力供給システムの好ましい実施形態を説明する。
本電力供給システムは、夜間に商用電源から供給され貯蔵した電力を昼間の電力負荷が高い時に放出し、電力負荷の平準化をする電力供給システムであり、この電力貯蔵および放出が上記の電源システムによってなされることを特徴とする。
もちろん、上記の電力貯蔵は必ずしも夜間である必要はなく、電力負荷が少ない時間帯であればよく、また、上記の電力放出は必ずしも昼間である必要は無く、電力負荷が高い時間帯であればよいので、本電力供給システムに加えて、このように電力貯蔵・放出の時間帯を改変したシステムも本発明の範囲に含まれる。
【0037】
しかし、一般に、夜間は電力量料金単価が安く、昼間は電力量料金単価が高いため、夜間に電力貯蔵し昼間の高負荷時に放出する本電力供給システムは、コスト面で非常に有利である。
【0038】
本電力供給システムにおいて発現した余剰電力は、電力会社等の商用電源供給元へ返還することができ、換金することができる。
本電力供給システムは、昼間の電力負荷が多いときに、上記電源システムに貯蔵された電力を放出し、その電力と商用電源からそのとき供給される通常の電力とを合わせて供給することができる。
【0039】
図1は本電力供給システムの具体的な1つの形態を表している。この電力供給システムは、電力量計と接続された家庭用分電盤と、コントローラと、バッテリーユニットおよび外部熱源ユニットが形成する上記の電源システムとを、備えてなる。
【0040】
図1に示めされているように、夜間、商用電源から供給される電力は、家庭用分電盤、コントローラを経て、バッテリーユニットに内蔵された上記のリチウム二次電池に貯蔵される。昼間、家電等の電力消費量が多くなり、電力負荷が高くなったときに、該電池に貯蔵された電力は放出されてコントローラに流れ(負荷時放電)、電力量計から家庭用分電盤を経てコントローラにいたる通常の電力と共に、該家電等に向けて供給される。
【実施例】
【0041】
まず、本発明の電源システムに用いるリチウム二次電池の製造の作製例を示す。
電池作製例1
<正極の作製>
二次粒子径が2〜3μmのオリビン型リン酸鉄リチウムを正極活物質とし、該活物質84重量部に、導電剤として8重量部の導電性カーボンおよび導電性カーボン繊維体の混合体と、結着剤として8重量部のポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒として、N−メチルピロリドンを添加し、混練して、正極合剤(正極スラリー)を作製した。
【0042】
20μmアルミニウム箔に図2の(b)に示す電極板断面になるように突起穿孔加工を施して、該加工アルミ箔厚さを正極所定総厚さt=160μm(アルミニウム箔の両面に上記の正極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の厚さ)に対して箔突起高さtが120μmとなるようにしたものを準備した。上記正極スラリーを該加工アルミニウム箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断してリチウム二次電池用の正極を得た。
【0043】
<負極の作製>
黒鉛粉末94重量部および導電剤として1重量部の導電性カーボンおよび導電性カーボン繊維体の混合体に、結着剤として5重量部のポリフッ化ビニリデンを添加し、これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加し混練して、負極合剤(負極スラリー)を作製した。
【0044】
10μmの銅箔に上記正極同様に図2(b)に示す電極板断面になるように突起穿孔加工を施して、該加工銅箔厚さを負極所定総暑さt=120μm(銅箔の両面に上記の負極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の厚さ)に対して箔突起高さtが100μmとなるようにしたものを準備した。上記負極スラリーを該加工銅箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウム二次電池用の負極を得た。
【0045】
作製した正、負極板を用いて3.4V−10Ahのアルミラミネートフィルムパック式リチウムイオン電池を作製した。これを作製例1とする。電解液にはEC、MEC体積比で30:70に混合した溶液中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/l溶解したものを用いた。正・負極板隔離絶縁体には、PP樹脂繊維製の厚さ50μmの織布を用いた。
【0046】
作製例1の電池において、該PP樹脂繊維製織布の代わりに、ガラス繊維性の不織布を絶縁体として用いた電池も作製したが、作製例1の電池との性能上の差異が見られなかった。
【0047】
電池作製例2
作製例1の電池において、オリビン型リン酸鉄リチウムの代わりにスピネルマンガン酸リチウムを正極活物質として用いた電池を作製した。
<正極の作製>
二次粒子径が5〜10μmのスピネル型マンガン酸リチウムを正極活物質とし、該活物質90重量部に、導電剤として5重量部の導電性カーボンおよび導電性カーボン繊維体の混合体と、結着剤として5重量部のポリフッ化ビニリデンを添加した。これに分散溶媒として、N−メチルピロリドンを添加し、混練して、正極合剤(正極スラリー)を作製した。
【0048】
20μmアルミニウム箔に図2の(b)に示す電極板断面になるように突起穿孔加工を施して、該加工アルミ箔厚さを正極所定総厚さtが200μm(アルミニウム箔の両面に上記の正極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の厚さ)に対して箔突起高さtが150μmとなるようにしたものを準備した。上記正極スラリーを該加工アルミニウム箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断してリチウム二次電池用の正極を得た。
【0049】
<負極の作製>
黒鉛粉末94重量部および導電剤として1重量部の導電性カーボンおよび導電性カーボン繊維体の混合体に、結着剤として5重量部のポリフッ化ビニリデンを添加し、これに分散溶媒としてN−メチルピロリドンを添加し混練して、負極合剤(負極スラリー)を作製した。
【0050】
10μmの銅箔に上記正極同様に図2(b)に示す電極板断面になるように突起穿孔加工を施して、該加工銅箔厚さを負極所定総暑さtが140μm(銅箔の両面に上記の負極スラリーを塗布・乾燥後、プレスした時の厚さ)に対して箔突起高さtが120μmとなるようにしたものを準備した。上記負極スラリーを該加工銅箔の両面に塗布、乾燥し、その後、プレス、裁断して、リチウム二次電池用の負極を得た。
【0051】
作製した正、負極板を用いて3.8V−10Ahのアルミラミネートフィルムパック式リチウムイオン電池を作製した。これを作製例2とする。電解液にはEC、MEC体積比で30:70に混合した溶液中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1mol/l溶解したものを用いた。正・負極板隔離絶縁体には、PP樹脂繊維製の厚さ50μmの織布を用いた。
【0052】
比較電池作製例1
次に、比較作製例1の電池を作製した。正極の主剤にはコバルト酸リチウム、負極の主剤には非晶質炭素を用い、各電極合剤の導電剤や結着剤はその添加比率を含め、作製例1と同様にした。また、集電体箔には、それぞれ、通常の厚さ20μmアルミニウム圧延箔と厚さ10μm銅圧延箔を用いた。電極板の隔離絶縁体には、厚さ40μmのPE樹脂製フィルムを用いた。電解液等は作製例1のものと同様のものを用いた。
【0053】
得られたリチウム二次電池を、以下の条件でサイクル寿命試験を行ない評価した。その試験結果を図3に示す。

(作製例1の場合)
サイクル充電:CCCV 30A、4.0V
サイクル放電:CC 30A、E.V. 2.0V
休止 :10分間
試験温度 :25±2℃

(作製例2および比較例1の場合)
サイクル充電:CCCV 30A、4.2V
サイクル放電:CC 30A、E.V. 3.0V
休止 :10分間
試験温度 :25±2℃

【0054】
図3で示す結果から、作製例1および作製例2の電池は4000サイクル以上の性能を持つことが分かった。これは、一日1サイクルと換算すると10年以上の耐久性を実証できたことになる。これ対して、比較作製例1の電池では500サイクル程度であり、民生用の電池としては満足であるが、産業用の高耐久性電池としては満足できない結果となった。一方、産業用電池として一般に用いられている密閉型の鉛電池に対する試験結果についても図3に示したが、これによると、本発明の該電池に比して、約半分のサイクル性能で5〜7年の耐久性があると考えられる。
【0055】
作製例1および作製例2の場合に、上記のように好ましい寿命特性が得られたのは、長期の充放電中の膨張収縮に対して正極活物質自体が構造的に安定なものであることに加えて、突起状の集電体により正・負極活物質を集電体に密着保持させることができ、かつ、電解液の枯渇に対して織布や不織布では液量を十分に確保できるためである。これに対して、コバルト酸リチウム正極や、通常の圧延箔では、この効果が期待できないものと言える。
【0056】
実施例1
作製例1の電池と、該電池の表面温度を感知する温度センサーと、該電池に熱を供給すると外部熱源ユニットと、該電池の表面温度を管理する電池制御ユニットとを合わせて、電源システムを構成した。外部熱源ユニットは、エコキュートを基とした熱源ユニットである。作製例1の電池は外部熱源ユニットに内包されるよう配置し、外気環境に暴露されない形態とした。電池制御ユニットが命令信号を発信する判断基準となる電池表面温度の所定範囲を、10〜40℃に設定した。この電源システムを実施例1とした。
【0057】
比較例1、2
実施例1のような電池の表面温度を保持する手段を装備することなく、作製例1の電池そのままで、比較例1の電源システムとした。したがって、この電池は外気環境に暴露された状態である。同様に、比較作製例1の電池についても、そのままで比較例2の電源システムとした。
【0058】
<放電容量試験>
実施例1、比較例1および比較例2の電源システムについて、外気環境温度の変化に伴う電池容量の変化を調べるために、次の条件で、放電容量の測定を行なった。測定結果を図4に示す。

(実施例1の場合)
充電:CCCV 10A、4.0V
放電:CC 30A、E.V. 2.0V
休止 :10分間
試験温度 :−5、10、25、50±2℃

(比較例1および比較例2の場合)
サイクル充電:CCCV 10A、4.2V
サイクル放電:CC 30A、E.V. 3.0V
休止 :10分間
試験温度 :−5、10、25、50±2℃

【0059】
図4は、外気環境温度が−5〜50℃であるときの上記各電源システムの放電容量維持率を示している。この維持率は、外気環境温度が25℃のときの放電容量を100として表されている。これを見ると、比較例1の電源システムは、比較例2の電源システムに比べて外気環境温度の低下に伴う放電容量の低下が少ないことがわかる。これは、主として、突起状集電体による放電時の発熱伝熱効果によるものである。そして、実施例1の電源システムでは、比較例1の電源システムよりも更に、放電容量の低下が少なく、外気環境温度の低下の影響を殆ど受けていないことが分かる。これは上記の発熱伝熱効果に加えて、熱源ユニットからの熱によって、電池の表面温度が上記所定の温度範囲に保持されたためである。一方、外気環境温度が高温であるときには、突起状集電体や液量確保が可能な絶縁体の放熱効果により、実施例1では、放電容量の低下が殆ど起こらなかった。
【0060】
図4に示された実施例1および比較例1の放電容量維持率の変化から、放電容量維持率98%以上を確保できる適正作動温度範囲は、10〜40℃と判断される。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のリチウム電池を用いた電源システムは、高容量であって、大電流充放電が繰返し可能であり、定置型等の産業用電力供給分野での充放電が必要とされる用途に好適に利用できる。また、温度制御により電池の充放電制御や保護回路制御が安定し、電池の耐久性を向上させることが可能であるため、高い需要が見込まれる。
【符号の説明】
【0062】
1 正極または負極
1a 正極または負極箔状集電体
1b 正極または負極合剤層
1c 孔
1d 突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池と、該電池の作動温度を所定温度範囲に維持する作動温度維持手段と、該電池が深夜電力による充電および電力負荷軽減を目的とする電力供給に伴う放電を繰り返す充放電手段とを備えたロードレベリング電源システムであって、
前記リチウム二次電池は、オリビン型リン酸金属リチウムまたはマンガン酸リチウム化合物を主剤として導電剤と結着剤とを配合した正極合剤を、複数の貫通孔を有して該貫通孔は孔の周囲が該箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなるアルミ二ウム箔表面に形成されてなる正極板と、
リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材または合金を主剤として導電剤と結着剤とを配合した負極合剤を、複数の貫通孔を有して該貫通孔は孔の周囲が該箔状集電体の少なくとも一方の面側へ突出してなる銅箔表面に形成されてなる負極板とが、
絶縁体を介して積層あるいは捲回されることにより形成される電極群と、該電極群が非水電解液または固体電解質とを備えてなるリチウム二次電池であり、
前記作動温度維持手段は、前記リチウム二次電池の表面温度が所定温度以下となったときに、外部熱源による熱供給を開始し、所定範囲を上回ったときに、前記外部熱源による熱供給を停止する作動温度維持手段であることを特徴とするロードレベリング電源システム。
【請求項2】
前記外部熱源が熱水または熱交換機による熱源であることを特徴とする請求項1記載のロードレベリング電源システム。
【請求項3】
前記リチウム二次電池の電池容量が前記電力供給に伴う放電容量よりも大きい場合に余剰電力を電力会社へ返還することを特徴とする請求項1または請求項2記載のロードレベリング電源システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−212041(P2010−212041A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−55992(P2009−55992)
【出願日】平成21年3月10日(2009.3.10)
【出願人】(502318560)エス・イー・アイ株式会社 (12)
【Fターム(参考)】