説明

ローラーハースキルン

【課題】高温焼成条件下でリチウム電池の正極材料や蛍光体等の粉体を焼成する際に、天井部材に起因したコンタミによる製品特性の劣化を効果的に回避可能なローラーハースキルンを提供すること。
【解決手段】天井壁と側壁と床壁に囲まれて形成される炉内空間に、被熱処理物を搬送するためのローラーを備えたローラーハースキルンであって、該天井壁は、天井壁上部からアルミナ製の吊り下げ部材によって吊り下げ支持されたアルミナ・ムライト系の部材からなり、該炉内空間を加熱する棒状ヒーターがローラーより床壁側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に炉内のクリーン度が高く要求されるリチウム電池の正極材料や蛍光体等の焼成に適したローラーハースキルンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ローラーハースキルンは、炉内に多数のローラーを一定ピッチで配置し、各ローラーを炉外に設けた駆動手段によって同一方向に回転させることによって、その上に載せたワークを搬送する形式のトンネル炉である。炉内は予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などに区分され、バーナーやヒーター等の加熱手段によって炉室内に所定の温度勾配が形成されている。ワークである平板状部材は多数のローラーによって炉長方向に移送されながら、予熱帯、乾燥帯や焼成帯、冷却帯などを通過する間に熱処理される。
【0003】
図2には、従来のローラーハースキルンの断面構造図を示している。該ローラーハースキルンは、搬送手段としてのローラー1と、加熱手段としての天井ヒーター2及び床ヒーター3とを備えている。天井ヒーター2は、天井壁4に固定されている。被熱処理物7は、ローラー1上にセッター6を介して載置され、ローラー1により炉内を搬送されながら所定の熱処理が施される。
【0004】
従来のローラーハースキルンでは、熱効率の観点及び天井部材の軽量化の観点から、低熱容量の薄板でありながら、高強度かつ耐クリープ性に優れたSi−SiCを炉最内層の構成部材とし、その背面にアルミナ系セラミックファイバーを採用することが一般的であった。
【0005】
図2に示すように、従来の天井壁4は、Si−SiC製の梁4aで支持されているSi−SiC製の天井板材4bから構成されていた。
【0006】
しかし、炉内のクリーン度が高く要求されるリチウム電池の正極材料や蛍光体等が被焼成物である場合に、高温焼成条件下での焼成時に、SiC製の梁で支持されている天井材のSiCが腐食され、コンタミとなって被焼成物であるリチウム電池の正極材料や蛍光体等に混入され、製品特性の劣化につながる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−292404号公
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、前記問題を解決し、高温焼成条件下でリチウム電池の正極材料や蛍光体等の粉体を焼成する際に、天井部材に起因したコンタミによる製品特性の劣化を効果的に回避可能なローラーハースキルンを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明のローラーハースキルンは、天井壁と側壁と床壁に囲まれて形成される炉内空間に、被熱処理物を搬送するためのローラーを備えたローラーハースキルンであって、該天井壁は、天井壁上部からアルミナ製の吊り下げ部材によって吊り下げ支持されたアルミナ・ムライト系の部材からなり、該炉内空間を加熱する棒状ヒーターがローラーより床壁側に配置されることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のローラーハースキルンにおいて、被熱処理物が、箱状セッターに入った粉体であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載のローラーハースキルンにおいて、粉体が、リチウム電池の正極材料または蛍光体であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のローラーハースキルンは、天井壁と側壁と床壁に囲まれて形成される炉内空間に、被熱処理物を搬送するためのローラーを備えたローラーハースキルンにおいて、該天井壁は、天井壁上部からアルミナ製の吊り下げ部材によって吊り下げ支持されたアルミナ・ムライト系の部材からなり、該炉内空間を加熱する棒状ヒーターがローラーより床壁側に配置される構成としたことにより、高温焼成条件下でリチウム電池の正極材料や蛍光体等の粉体を焼成する際に、天井部材に起因したコンタミによる製品特性の劣化を効果的に回避可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のローラーハースキルンの断面構造図である。
【図2】従来のローラーハースキルンの断面構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0015】
図1には、本発明のローラーハースキルンの断面構造図を示している。図1に示すように、本発明のローラーハースキルンは、炉内空間を加熱する加熱手段として、床ヒーター3のみを備え、該床ヒーター3から放出される赤外線の炉内空間での輻射および床ヒーター3によって加熱された炉内ガスからの熱伝達を有効利用して被熱処理物7の均一加熱を可能とするものである。床ヒーター3としては、SiC自体を発熱体とした棒状のSiCヒーターを用いている。炉内温度を1050℃とする場合、該SiCヒーターの加熱部温度は約1150℃となる。
【0016】
図1に示すように、本発明のローラーハースキルンでは、天井壁4の構成を、天井壁上部からアルミナ製の吊り下げ部材4cによって吊り下げ支持されたアルミナ・ムライト系の天井部材4bからなるものとしている。従来一般に用いられたSiC製の天井材では、高温焼成条件下での焼成時に、天井部材のSiCが腐食され、コンタミとなって被焼成物であるリチウム電池の正極材料や蛍光体等に混入され、製品特性の劣化につながる問題があったが、本発明では、天井部材をアルミナ・ムライト系とすることによりこの問題を解消している。
【0017】
ただし、天井部材をアルミナ・ムライト系とした場合には、強度の観点から、図2に示す従来の天井構造(梁で支持されている天井部材)を採用することが困難である。そこで、本発明では、アルミナ・ムライト系の天井部材を、天井壁上部からアルミナ製の吊り下げ部材4cによって吊り下げ支持する構造を採用している。
【0018】
上記の天井壁4および加熱手段の構成により、炉内が高温状態となった場合であっても、天井部材に起因した被焼成品へのコンタミを効果的に防止することができる。
【0019】
側壁5もアルミナ・ムライト系の部材で構成されていることが好ましい。
【0020】
床壁8はアルミナ・ムライト系の部材で構成されていることが好ましい。
【0021】
また、天井壁4・床壁8・側壁5の外側には、アルミナ系セラミックファイバーからなる断熱材層9が設けられ、その外部が強度保持のためのフレーム部材10で覆われている。
【0022】
なお、床ヒーター3から放出される熱エネルギーは電磁波として四方八方に放出される。該電磁波が他の物体に到達すると、その一部は該物体に吸収され、一部は該物体を透過し、一部は該物体表面で反射される。本発明では、電磁波のこのような性質を利用して、天井壁4に電磁波の反射率が高い部材を採用して、天井壁4と被熱処理物7との距離を50〜150mmに保つことにより、天井壁4自体にパネルヒータと同等の加熱効果を発揮させることにより、熱源を棒状床ヒーターのみとした場合であっても、被焼成品の均一加熱を可能としている。
【0023】
上記構成のローラーハースキルンによれば、被焼成品へのコンタミを効果的に防止しつつ、熱効率よく、かつ、均一な被焼成品の加熱を実現することができる。したがって、本発明のローラーハースキルンによれば、リチウム電池の正極材料や蛍光体等の製品特性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0024】
1 ローラー
2 天井ヒーター
3 床ヒーター
4 天井壁
4a 梁
4b 天井板材
4c 吊り下げ部材
5 側壁
6 セッター
7 被熱処理物
8 床壁
9 断熱材層
10 フレーム部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井壁と側壁と床壁に囲まれて形成される炉内空間に、被熱処理物を搬送するためのローラーを備えたローラーハースキルンであって、
該天井壁は、アルミナ製の吊り下げ部材によって吊り下げ支持されたアルミナ・ムライト系の部材からなり、
該炉内空間を加熱する棒状ヒーターがローラーより床壁側に配置される
ことを特徴とするローラーハースキルン。
【請求項2】
被熱処理物が、箱状セッターに入った粉体であることを特徴とする請求項1記載のローラーハースキルン。
【請求項3】
粉体が、リチウム電池の正極材料または蛍光体であることを特徴とする請求項2記載のローラーハースキルン。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−236797(P2010−236797A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−85615(P2009−85615)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(591076109)エヌジーケイ・キルンテック株式会社 (11)
【Fターム(参考)】