説明

ローラ部材の製造方法およびローラ部材

【課題】 型内に注入される原料内部へのエアーの残留を防止することで、製品ローラにおけるピンホール欠陥の発生を防止するとともに、ウェルドラインの発生についても防止することができるローラ部材の製造方法、およびこれにより得られるローラ部材を提供する。
【解決手段】 軸3と、軸3の外周に一体成形により設けられた無発泡弾性体層とを備えるローラ部材の製造方法である。中空柱状の金型本体1の中心線上に軸3を貫設した状態で、金型本体1内に原料4を注入して一体成形を行う。金型本体1の両端を、外部に連通するゲート5a,5bを周方向に均等に少なくとも3個有し、かつ、軸3の保持部6を備えるキャップ部材2a,2bにより閉塞して、原料4の注入を、下方のキャップ部材2bのゲート5bを介して行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はローラ部材の製造方法(以下、単に「製造方法」とも称する)およびローラ部材に関し、詳しくは、複写機やプリンタ等の画像形成装置において各種用途に使用されるローラ部材の製造方法およびこれにより製造されたローラ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置や静電記録装置においては、電子写真プロセスにおける現像、トナー層形成、クリーニング、給紙、搬送等の各工程で、現像ローラ、トナー供給ローラ、クリーニングローラ、給紙ローラ、搬送ローラ等の各種ローラ部材が多様な役割を果たしている。
【0003】
これらローラ部材は、軸の外周にゴム材料や樹脂材料からなる弾性体層を担持させた構造を有している。その製造方法としては、あらかじめ軸を配設した型を用いて、軸との一体成形により弾性体層を形成する手法が一般的であり、良好なローラ性能を得るために、種々の製造方法が検討され、提案されている。かかる製造方法に使用することのできる型の一例を、図2に示す。
【0004】
図示する型20は、中空柱状の金型本体21と、その両端に貫挿され、軸23を保持するキャップ部材22とを備え、金型本体21の中心線上に軸23を貫設した状態で、内部に原料を注入してローラ部材の製造を行うものである。この型20を用いてローラ部材を製造するに当たっては、通常、図示するように、上方のキャップ部材22を外した状態で、注型機のノズル30から垂れ流すようにして金型本体21内に原料24を注入する方法が用いられる。注入の際には、図示するように、軸23を傾けて端に寄せた状態にすることで原料24を注入しやすくし、原料24の充填後にキャップ部材22を嵌めることで、軸23を金型本体21の中心線上に位置させて、振れ精度を確保している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図示するように、金型本体21を立てた状態で、その上方開口部から内部に原料24を充填する方法では、上方から注入された原料24がエアーを巻き込みやすいという問題がある。無発泡の弾性体層を有するローラ部材の場合、巻き込まれたエアーが原料24内部に残留するとピンホール欠陥を引き起こす原因となるため、この問題を解消することが望まれていた。また、金型本体内への原料の注入方法によっては、原料の流れが成形ローラ表面にウェルドラインが生じてしまう場合があるため、ローラ品質確保の観点からは、これを防止することも重要である。
【0006】
そこで本発明の目的は、型内に注入される原料内部へのエアーの残留を防止することで、製品ローラにおけるピンホール欠陥の発生を防止するとともに、ウェルドラインの発生についても防止することができるローラ部材の製造方法、およびこれにより得られるローラ部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意検討した結果、上記のような金型成形において、従来、下向きに配した注入ヘッド30から下方に向かって注入していた原料を、所定のキャップ部材を介して、上向きに配した注入ヘッド30から上方に向かい注入することにより、原料内部へのエアーの残留を効果的に防止し、かつ、ウェルドラインの発生についても防止することが可能となることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、上記課題を解決するために、本発明のローラ部材の製造方法は、軸と、該軸の外周に一体成形により設けられた無発泡弾性体層とを備えるローラ部材の製造方法であって、中空柱状の金型本体の中心線上に軸を貫設した状態で、該金型本体内に原料を注入して前記一体成形を行うローラ部材の製造方法において、 前記金型本体の両端を、外部に連通するゲートを周方向に均等に少なくとも3個有し、かつ、前記軸の保持部を備えるキャップ部材により閉塞して、前記原料の注入を、下方の該キャップ部材のゲートを介して行うことを特徴とするものである。
【0009】
本発明における前記下方のキャップ部材としては、前記ゲートが断面積0.8×0.8〜1.5×1.5mm2の矩形であるものを用いることが好ましく、また、前記ゲートを前記軸の保持部に近い金型中心寄りに有するものを用いることも好ましい。さらに、前記下方のキャップ部材として、前記ゲートの内壁と前記軸の保持部の内壁との間の厚みが1〜3mmであるものを用いることも好ましい。本発明の製造方法は、前記原料としてポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン材料を用いて、前記無発泡弾性体層として無発泡ポリウレタン層を形成する無発泡ポリウレタンローラの製造に好適に適用可能である。
【0010】
また、本発明のローラ部材は、上記製造方法により製造されたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料の注入を下方から、キャップ部材に設けたゲートを介して行うことで、注入時には金型本体内部に圧力がかかることとなり、この加圧効果により、原料内部のエアーを抜くことが可能となる。また、キャップ部材の構造を所定に規定することで、ウェルドラインの発生についても防止することができる。従って、本発明の製造方法によれば、原料内部へのエアーの残留を適切に防止して、ピンホール欠陥のない高品質のローラ部材を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に、本発明のローラ部材の製造方法の説明図を示す。本発明は、軸と、その外周に一体成形により設けられた無発泡弾性体層とを備えるローラ部材の製造方法であり、図示するように、中空柱状の金型本体1の中心線上に軸3を貫設した状態で、金型本体1内に原料4を注入する一体成形の技術に係るものである。
【0013】
図示するように、本発明においては、軸と無発泡弾性体層との一体成形を行うに際して、金型本体1内部への原料4の注入を、その上方開口部からではなく下方から、キャップ部材2bを介して行う点が重要となる。即ち、図示するように、金型本体1の両端を、外部に連通するゲート5a,5bと、軸3の保持部6とを有するキャップ部材2a,2bにより閉塞して、原料4の注入を、下方のキャップ部材2bのゲート5bを介して行う。上向きにしたノズル30をキャップ部材2bに密着させた状態で注入を行うことで、金型本体1内に圧力をかけることができるため、原料4内部のエアーの脱泡効果を得ることができ、製品ローラにおけるピンホール欠陥の発生を防止することができる。また、図示するように、軸3を両端で固定した状態で注入を行うことができるため、より高い外形精度および振れ精度が得られるというメリットもある。
【0014】
図3(a)に、本発明に用いることのできるキャップ部材の一例の径方向断面図を示す。かかるキャップ部材2a,2bには、ゲート5a,5bを、周方向に均等に少なくとも3個、例えば、3〜15個、好ましくは図示するように12個程度設けることが必要であり、これにより、原料の注入をスムーズに、かつ、周方向に均等に行うことができ、得られるローラ部材における無発泡弾性体層の物性を全体として均一化することができる。
【0015】
原料の注入をスムーズに行う観点から、特に、下方のキャップ部材2bのゲート5bについては、断面積0.8×0.8〜1.5×1.5mm2程度の矩形とすることが好ましい。また、かかるゲート5bは、図示するように、軸3の保持部6に近い金型中心寄りに設けることが好ましく、これにより樹脂流れの合流部をできるだけ近づけることで、ウェルドラインの発生を効果的に防止することが可能となる。さらに、図3(b)に示すように、下方のキャップ部材2bにおいては、ゲート5bの内壁と軸の保持部6の内壁との間の厚みtを1〜3mm程度に薄くすることも好適であり、これにより、この厚み部分において生じやすい、ゲート5bから注入される原料内へのエアの巻き込みを防止することができる(図3(c)参照)。
【0016】
本発明において、キャップ部材2a,2bの全体の形状や構造については、図示するものには限られず、適宜決定することができる。また、特に原料の注入側となる下方のキャップ部材2bについては、上述のような形状、構造とすることが有効であるが、上方のキャップ部材2aについては、下方のキャップ部材2bと同一としても異ならしめてもよく、原料の注入をスムーズに行う観点からは同一とすることが好ましい。さらに、ゲートの形状についても、図示する矩形には限定されるものではないが、他形状の場合も、上記範囲程度の断面積とすることが、注入性の確保の点から好ましい。
【0017】
本発明の製造方法においては、原料4の注入を金型本体1の下方からキャップ部材2bを介して行う点のみが重要であり、それ以外の製造工程の詳細については、常法に従い適宜行うことができ、特に制限されるものではない。また、本発明に使用する金型10の具体的な形状、材質等についても特に制限されるものではないが、好適には、以下のようなものを用いることができる。
【0018】
図示するように、本発明の製造方法に用いる金型10は従来の金型と略同形状であり、中空柱状の金型本体1の両端に、軸3を保持するキャップ2a、2bが貫挿されてなる。金型本体1の材質としては、鉄、銅、アルミニウム、ステンレススチール等の金属の他、セラミックス等を使用することができる。また、軸3としては、例えば、硫黄快削鋼などの鋼材に亜鉛等のめっきを施した金属部材や、アルミニウム、ステンレス鋼、マグネシウム合金等の各種金属部材などを用いることができる。
【0019】
また、本発明のローラ部材は、上記本発明の製造方法により製造されたものであればよく、これにより、ピンホール欠陥の発生がなく、全体として均質な構造を有するローラ部材とすることができ、画像形成装置に使用される各種ローラとして、好適に使用することができる。本発明のローラ部材における無発泡弾性体層の具体的な材料については、従来ローラ部材に用いられる公知の材料のうちから適宜選定して用いればよく、特に制限されるものではないが、例えば、原料4としてポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン材料を用いて、無発泡弾性体層としての無発泡ポリウレタン層を備えるローラ部材とすることができる。
【0020】
かかるポリウレタン材料に用いることのできるポリオール成分としては、特に制限はなく、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、THF−アルキレンオキサイド共重合体ポリオール、ポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリオレフィンポリオール、エチレン−酢酸ビニル共重合体の部分鹸化物、フォスフェート系ポリオール、ハロゲン含有ポリオール等を好適に用いることができる。
【0021】
また、イソシアネート成分についても特に制限はなく、汎用であるTDI、MDI、粗製−MDI(ポリメリックMDI)、および変性MDIだけでなく、特殊なイソシアネートを用いても差し支えない。特殊なイソシアネートとしては、例えば、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン1,4ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水添−XDI、水添−MDI、リジンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオフェスフェート、テトラメチルキシレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,6,11−ウンデカントリイソシアネート、1,8−ジイソシアネート−4−イソシアネートメチルオクタン、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロへプタントリイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられ、これらも好適に用いることができる。
【0022】
ポリウレタン材料としては、これらポリオール成分およびイソシアネート成分に加えて、架橋剤、界面活性剤、触媒等を添加することができ、これにより所望に応じた特性とすることができる。また、難焼剤や充填材、イオン導電剤や電子導電剤等の導電剤、公知の充填剤や架橋剤等を適宜使用することも可能である。
【0023】
イオン導電剤の例としては、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、ドデシルトリメチルアンモニウム(例えば、ラウリルトリメチルアンモニウム)、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム、オクタデシルトリメチルアンモニウム(例えば、ステアリルトリメチルアンモニウム)、ベンジルトリメチルアンモニウム、変性脂肪酸ジメチルエチルアンモニウムなどの過塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、硫酸塩、エチル硫酸塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩などのアンモニウム塩、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ金属やアルカリ土類金属の過塩素酸塩、塩素酸塩、塩酸塩、臭素酸塩、ヨウ素酸塩、ホウフッ化水素酸塩、トリフルオロメチル硫酸塩、スルホン酸塩などが挙げられる。
【0024】
また、電子導電剤の例としては、ケッチェンブラック、アセチレンブラック等の導電性カーボン;SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン;酸化処理を施したインク用カーボン、熱分解カーボン、天然グラファイト、人造グラファイト;酸化スズ、酸化チタン、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物;ニッケル、銅、銀、ゲルマニウム等の金属などを挙げることができる。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例に基づき説明する。
実施例
図1に示す金型本体1として、中心線上に径6.0mmの軸3を貫設した内径20.0mm、長さ300mmの筒型を用いて、ポリウレタンローラを作製した。まず、下記表1に示すポリオール成分とイソシアネート成分とからなるポリウレタン材料を、高圧注入機を用い、ノズル30を介して、金型10の下方からキャップ部材2bを介して金型本体1の内部に注入した。キャップ部材2bとしては、外部に連通するゲート5bを周方向に均等に12個有する図3(a)、(b)に示すような断面構造のものを用いた。その後、注入された無発泡ポリウレタン材料を硬化させることにより、軸の外周に無発泡ポリウレタン層が一体的に形成されてなるポリウレタンローラを得た。
【0026】
【表1】

【0027】
従来例
図2に示す金型本体21として、中心線上に径6.0mmの軸23を貫設した内径20.0mm、長さ300mmの筒型を用いて、金型20の上方開口部からポリウレタン材料を注入した以外は実施例と同様にして、ポリウレタンローラを作製した。
【0028】
結果として、実施例で得られたポリウレタンローラは、ピンホール欠陥の発生がなく、部材全体にわたり均質な構造を有し、各種ローラ部材として好適に使用可能なものであった。また、ウェルドラインの発生もなく、振れ精度は0.05mm以内と小さく、外形精度の点でも優れていた。これに対し、従来例で得られたポリウレタンローラには、目視で確認可能なピンホールの発生が認められ、また、振れ精度および外形精度の双方について、大きな偏差が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明のローラ部材の製造方法に用いる金型を示す概略断面図である。
【図2】従来のローラ部材の製造方法に用いる金型を示す概略断面図である。
【図3】(a)および(b)は本発明に用いるキャップ部材の好適例を、(c)は従来のキャップ部材の一例を、夫々示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0030】
1,21 金型本体
2a,2b,22 キャップ部材
3,23 軸
4,24 原料
5b,5a ゲート
6 保持部
10,20 金型
30 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸と、該軸の外周に一体成形により設けられた無発泡弾性体層とを備えるローラ部材の製造方法であって、中空柱状の金型本体の中心線上に軸を貫設した状態で、該金型本体内に原料を注入して前記一体成形を行うローラ部材の製造方法において、
前記金型本体の両端を、外部に連通するゲートを周方向に均等に少なくとも3個有し、かつ、前記軸の保持部を備えるキャップ部材により閉塞して、前記原料の注入を、下方の該キャップ部材のゲートを介して行うことを特徴とするローラ部材の製造方法。
【請求項2】
前記下方のキャップ部材として、前記ゲートが断面積0.8×0.8〜1.5×1.5mm2の矩形であるものを用いる請求項1記載のローラ部材の製造方法。
【請求項3】
前記下方のキャップ部材として、前記ゲートを前記軸の保持部に近い金型中心寄りに有するものを用いる請求項1または2記載のローラ部材の製造方法。
【請求項4】
前記下方のキャップ部材として、前記ゲートの内壁と前記軸の保持部の内壁との間の厚みが1〜3mmであるものを用いる請求項1〜3のうちいずれか一項記載のローラ部材の製造方法。
【請求項5】
前記原料としてポリオール成分とイソシアネート成分とを含むポリウレタン材料を用いて、前記無発泡弾性体層として無発泡ポリウレタン層を形成する請求項1〜4のうちいずれか一項記載のローラ部材の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちいずれか一項記載の製造方法により製造されたことを特徴とするローラ部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−312292(P2006−312292A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−136556(P2005−136556)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】