説明

ワイヤソーのトラバース装置

【課題】ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれの発生を抑制する。
【解決手段】トラバース装置は、リール9Aから繰り出されるワイヤWが掛け渡されるガイドプーリ50を備えたスライダ40と、このスライダを駆動するトラバースモータ46等を備える。トラバース装置は、さらにワイヤWに接触可能に配置される一対のタッチローラ56a,56bと、これらに対するワイヤWの接触荷重を検出するロードセル60a,60bと、これらの検出荷重に基づきトラバースモータ46を制御する制御装置62等を備える。制御装置62は、ロードセル60a,60bのうち何れかにより接触荷重が検出されると、当該荷重が生じた側のタッチローラとワイヤWとが非接触状態となるように、検出された接触荷重に基づいてトラバースモータ46を制御することによりスライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して相対的にシフトさせるシフト動作を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体インゴット等のワークを切断するワイヤソーに組み込まれるトラバース装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
切断用のワイヤをその軸方向に高速走行させながらこれに半導体インゴット等のワークを押し付けてスライス状に切断するワイヤソーが知られている。
【0003】
ワイヤソーでは、前記ワイヤは、その両端がそれぞれワイヤ繰り出し・巻取り装置のリールに巻回されており、これらの装置が、一方側のワイヤ繰り出し・巻取り装置のリールからワイヤを繰り出しつつ他方側のワイヤ繰り出し・巻取り装置のリールにより巻き取る状態とこれと逆の状態とに交互に切り換えられることにより、ワイヤの走行方向が切り替えられながらワークの切断作業が行われる。
【0004】
前記ワイヤ繰り出し・巻取り装置によるワイヤの繰り出し時には、リールからのワイヤ繰り出し位置が当該リールの軸方向に変化するため、これに伴ってワイヤの軸方向がリールの軸方向に対して大きく傾斜するとリール上でワイヤ同士が摩擦してワイヤが損傷するといった不都合が生じ得る。
【0005】
そこで、かかる不都合を回避するため、各ワイヤ繰り出し・巻取り装置には、リールの軸方向に対してワイヤの繰り出し角度を直角に維持するためのトラバース装置が付設されている。トラバース装置は、リールから繰り出されるワイヤを案内するガイドプーリ及びこのガイドプーリを支持する支持部材を有するスライダと、このスライダを移動させる移動手段とを備えており、リールの軸方向に対してワイヤの繰り出し角度が略直角に保たれるように前記スライダをワイヤ繰り出し位置の変化に追従させる構成となっている。
【0006】
しかし、スライダをワイヤ繰り出し位置の変化に完全に追従させることは困難である。例えば、リール上でのワイヤの巻き付け状態などの種々の要因によってワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とにずれが生じる場合があり、ワイヤの損傷を確実に防止するには、このようなずれを速やかに解消する必要がある。
【0007】
そこで、例えば特許文献1には、ガイドローラとリールとの間に介在する一対のタッチローラをスライダの前記支持部材に設け、前記リールから繰り出されるワイヤをこれらタッチローラの間を通じて前記ガイドプーリに掛け渡すように構成されたトラバース装置が記載されている。各タッチローラは、リールの軸方向に対してワイヤの繰り出し角度が略直角となるときには両タッチローラとワイヤとが非接触状態となり、それ以外のときには何れかのタッチローラとワイヤとが接触してタッチローラが回転するように配置されている。また、各タッチローラには回転板が固定されており、この回転板に形成される開口部が光学式の近接スイッチにより検出されることにより、タッチローラが回転すると、当該近接スイッチからパルス信号が出力されるようになっている。つまり、このトラバース装置では、近接スイッチから出力されるパルス信号に基づいてタッチローラとワイヤとの接触を検知することにより、何れかのタッチローラとワイヤとが接触したときには、当該タッチローラとワイヤとが非接触状態となるように、つまり、リールの軸方向に対してワイヤの繰り出し角度が略直角となるようにスライダの移動速度を制御するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−1454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、タッチローラに固定された回転板の開口部を光学式の近接スイッチにより検出し、当該近接スイッチから出力されるパルス信号に基づいてタッチローラの回転を検知する上記従来のトラバース装置では、例えば、ワイヤに付着した加工液等が回転板の開口部や近接スイッチに付着することによりタッチローラの回転検出、つまりにタッチローラとワイヤとの接触検知に支障が出るおそれがある。
【0010】
また、このトラバース装置では、タッチローラとワイヤとの接触検知によりワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とにずれが生じていることを検知することは可能であるが、具体的なずれ具合を検知することは困難である。そのため、ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれの発生を抑制しつつ当該スライダを適切に移動させる上では信頼性の点で未だ改善の余地がある。
【0011】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、ワイヤソーのトラバース装置において、ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれの発生を抑制しつつ当該スライダをより適切にワイヤ繰り出し位置の変化に追従させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明は、切断用のワイヤが巻回されたリールを含み、このリールから前記ワイヤを繰り出すワイヤ繰り出し装置を備えたワイヤソーにおける前記リールからのワイヤ繰り出しの際に、前記リールの軸方向に対して前記ワイヤの繰り出し角度が略直交するように前記ワイヤを案内するためのトラバース装置であって、ワイヤ案内用のスライダと、このスライダを駆動する駆動手段と、この駆動手段を制御する制御手段とを含み、前記スライダは、前記リールから繰り出されるワイヤが掛け渡されるガイドプーリと、前記ガイドプーリよりもリール側の位置で前記ワイヤの両側に位置する一対のタッチローラと、これらタッチローラ及び前記ガイドプーリを支持しかつ前記リールの軸方向と平行な方向に移動可能に支持される支持部材と、前記タッチローラのうち何れかに前記ワイヤが接触したときに当該ワイヤから当該タッチローラがその回転半径方向に受ける接触荷重をそれぞれ検出する荷重検出手段とを備えており、前記一対のタッチローラは、前記ワイヤの繰り出し角度が所定範囲内にあるときには当該各タッチローラと前記ワイヤとが非接触状態となり、かつこの所定範囲を超えると、一方側のタッチローラがワイヤに接触するように、前記支持部材にそれぞれ回転可能に支持されており、前記駆動手段は、前記支持部材を前記軸方向と平行な方向に移動させるものであり、前記制御手段は、前記リールからのワイヤの繰り出しに伴い当該ワイヤ繰り出し位置が変化する方向に前記スライダを移動させるとともに、前記各荷重検出手段のうち何れかによって前記接触荷重が検出されると、当該接触荷重に基づいて前記タッチローラと前記ワイヤとの接触の有無を判断し、接触している場合には当該接触荷重が生じた側の前記タッチローラと前記ワイヤとが非接触状態となるように、検出された前記接触荷重に基づいて当該スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的にシフトさせるシフト動作を行うものである。
【0013】
このトラバース装置では、リールの軸方向と略直交する方向にワイヤが繰り出される適正な位置からスライダが外れると、何れかのタッチローラにワイヤが接触してその接触荷重が荷重検出手段により検出され、この接触荷重が生じた側のタッチローラとワイヤとが非接触状態となるように、検出された接触荷重に基づいてスライダの位置がワイヤ繰り出し位置に対して相対的にシフトされる。このようにタッチローラとワイヤとの接触荷重の検出に基づき当該タッチローラとワイヤとの接触を検知する構成によれば、タッチローラに固定された回転板の開口部を近接センサにより検出してタッチローラとワイヤとの接触検知を行う従来装置のように当該接触検知に際して加工液の付着による影響を受けることが軽減され、タッチローラとワイヤとの接触をより正確に検知することが可能となる。しかも、この接触荷重はワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれ量に対応するものとして取り扱うことが可能であるため、この接触荷重に基づいてタッチローラとワイヤとが非接触状態となるようにスライダの位置をワイヤ繰り出し位置に対してシフトさせる上記構成によれば、ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれをより精度良くかつ速やかに解消することが可能となる。
【0014】
この構成において、前記制御手段は、前記スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的に進行方向にシフトさせたときには当該シフト後のスライダの移動速度が当該シフト前の移動速度よりも速くなるようにスライダの移動速度を補正し、前記スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的に進行方向と逆方向にシフトさせたときには当該シフト後のスライダの移動速度が当該シフト前の移動速度よりも遅くなるようにスライダの移動速度を補正するものであるのが好適である。
【0015】
この構成によれば、スライダをシフトさせた後のワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれの再発、あるいはずれの拡大を抑制することが可能となる。
【0016】
なお、前記制御手段は、前記接触荷重としてその絶対値に基づき前記駆動手段を制御するものであってもよいが、前記制御手段は、前記接触荷重の単位時間当たりの変化量に基づいて前記駆動手段を制御するものであるのが好適である。例えば、制御手段は、前記変化量が一定値を超える場合に前記シフト動作を行う。
【0017】
このように接触荷重の変化量に基づき駆動手段(スライダ)を制御する構成によれば、ノイズによる影響や荷重検出手段の校正精度による影響を排除することが可能であり、当該接触荷重に基づきスライダを駆動制御する上での信頼性が向上する。
【0018】
また、上記のようなトラバース装置において、前記制御手段は、前記軸方向と平行な方向であって前記リールの両端にそれぞれ対応する所定のスライダ反転位置で前記スライダの進行方向を反転させる通常反転動作を実行しながら前記ワイヤ繰り出し位置が変化する方向と同方向に当該スライダを移動させ、前記各荷重検出手段のうち前記スライダの進行方向側とは反対側に位置するタッチローラの接触荷重を検出するものにより接触荷重が検出されかつ当該検出荷重が所定の閾値を超えているときには、前記スライダの位置に拘わらず当該スライダの進行方向を反転させる強制反転動作を実行するものであるのが好適である。
【0019】
この構成によれば、例えばリールに対するワイヤの巻き付け状態の乱れ等に起因して、リール端以外の位置でワイヤ繰り出し位置が変化する方向が突然反転し、これにより当該ワイヤ繰り出し位置が変化する方向とスライダの進行方向とが互いに逆向きになった場合でも、スライダの進行方向を速やかに反転させてワイヤ繰り出し位置の変化に追従させることが可能となる。
【0020】
なお、このような場合には、ワイヤの繰り出し位置が反転した後、これに遅れてスライダの進行方向が反転するため、当該反転直後はワイヤの繰り出し位置とスライダの位置とにずれが生じる。従って、前記制御手段は、前記強制反転動作により前記スライダの進行方向を反転させた後、前記ワイヤ繰り出し位置に対して前記スライダを所定のシフト量だけ相対的に進行方向にシフトさせるものであるのが好適である。
【0021】
この構成によれば、上記のような強制反転動作直後のワイヤの繰り出し位置とスライダとの位置ずれを速やかに解消することが可能となる。
【0022】
なお、前記制御手段は、前記スライダの移動領域のうち前記スライダ反転位置からそれぞれ一定の区間を除く領域でのみ前記強制反転動作を実行するものであるのが好適である。
【0023】
この構成によれば、ワイヤ繰り出し位置が変化する方向とスライダの進行方向とがスライダ反転位置の近傍において互いに逆向きとなった場合に、通常反転動作と強制反転動作とが繰り返し実行されるといった不都合を未然に回避することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
以上説明した本発明によれば、タッチローラに対するワイヤの接触荷重の検出に基づき当該タッチローラとワイヤとの接触を検知する構成であるため、加工液の付着による影響を軽減することが可能であり、これによりタッチローラとワイヤとの接触を正確に検知することが可能となる。しかも、接触荷重は、ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれ量に対応するものとして取り扱うことが可能であるため、この接触荷重に基づいてスライダの位置をワイヤ繰り出し位置に対して相対的にシフトさせる等する本発明の構成によれば、タッチローラに固定した回転板を光学式の近接スイッチにより検出してスライダを制御する従来装置に比べて、ワイヤ繰り出し位置とスライダの位置とのずれの発生をより確実に抑制することが可能であり、これによってスライダをより適切にワイヤ繰り出し位置の変化に追従させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係るトラバース装置が組み込まれたワイヤソーを示す全体構成図である。
【図2】トラバース装置の構成を示す概略図である。
【図3】タッチローラとロードセルの関係を示すトラバース装置の要部側面図である。
【図4】制御装置によるトラバース装置の制御を示すフローチャートである。
【図5】制御装置による制御に基づくトラバース装置の動作を説明する模式図である((a)は、ワイヤ繰り出し位置が変化する方向とスライダの進行方向とが互いに逆向きになった状態、(b)は、適正位置からスライダが外れた状態をそれぞれ示す)。
【図6】スライダの移動領域とリールとの位置関係を説明する模式図である。
【図7】スライダの強制反転動作による弊害を説明するためのトラバース装置の要部模式図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0027】
図1は、本発明に係るトラバース装置が適用されるワイヤソーの全体構成を示している。この図に示すワイヤソーは、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10B、トラバース装置12A,12B、ガイドプーリ14A,14B、ガイドプーリ16A,16B、ワイヤ張力調節装置18A,18B、ガイドプーリ22A,22B、及び4つのガイドローラ24A,24B,26A,26Bを備えている。
【0028】
ガイドローラ24A,24Bは互いに同じ高さ位置に配され、ガイドローラ26A,26Bはそれぞれガイドローラ24A,24Bの下方の位置に配されており、ガイドローラ26Aが駆動モータ25によって回転駆動されるようになっている。
【0029】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bは、切断用のワイヤWが巻かれるリール9A,9Bと、これを回転駆動するリール駆動モータ11A,11Bとを備えている。
【0030】
ワイヤ繰出し・巻取り装置10Aにおいてリール9Aから繰り出されたワイヤWは、トラバース装置12Aの後記ガイドプーリ50,52、ガイドプーリ14A,16A、ワイヤ張力調節装置18Aのプーリ20A、及びガイドプーリ22Aの順に掛けられ、さらにガイドローラ24A,24B,26B,26Aの外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラの外側に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ22B、ワイヤ張力調節装置18Bのプーリ20B、ガイドプーリ16B,14Bの順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bのトラバース装置12Bのガイドプーリ40により案内されつつリール9Bに巻き取られており、両ワイヤ張力調節装置18A,18BによってワイヤWに適当な張力が与えられている。そして、駆動モータ25によるガイドローラ26Aの回転駆動方向と、各リール駆動モータ11A,11Bによるリール9A,9Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、ワイヤWがリール9Aから繰り出されてリール9Bに巻き取られる状態と、ワイヤWがリール9Bから繰り出されてリール9Aに巻き取られる状態とに切換えられるようになっている。
【0031】
すなわち、このワイヤソーにおいては、ガイドローラ24A,24Bの間に多数本のワイヤWが互いに平行な状態で張られることによりワイヤ群が形成され、このワイヤ群がワイヤ軸方向に往復駆動されるようになっている。
【0032】
前記ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方には、円柱状のワーク(例えば半導体インゴット)28を移動させるワーク送り装置30が設けられている。このワーク送り装置30は、ワーク保持部32とワーク送りモータ34とを備えている。
【0033】
ワーク保持部32は、上記ワーク28をその軸方向とワイヤ並び方向とが合致する向きに保持するものであり、ワーク送りモータ34は、図略のボールネジとの組み合わせにより、上記ワーク保持部32とワーク28とを一体に昇降(切断送り)させるものである。
【0034】
ガイドローラ24A,24B間に張られたワイヤWの上方において、ワーク28の左右両側の位置には、加工液供給装置36A,36Bが設けられている。これらの加工液供給装置36A,36Bは、高速駆動される各ワイヤWに対し、砥粒を含む加工液(スラリー)を供給してワイヤWの表面に付着させるものである。つまり、このワイヤソーでは、ガイドローラ24A,24B間に張られた多数本のワイヤWがその長手方向に同時高速駆動され、かつこれらのワイヤWに加工液供給装置36A,36Bからスラリーが供給されながら上記ワイヤWに対してワーク28が下方に切断送りされる。これにより当該ワーク28から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出されるようになっている。
【0035】
次に、上記トラバース装置12A,12Bの構成について詳細に説明する。
【0036】
トラバース装置12A,12Bは、ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bによるワイヤ繰り出し時に、当該ワイヤWがリール9A,9Bからその軸線方向と直交する方向に繰り出されるように当該ワイヤWを案内するとともに、ワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bによるワイヤ巻き取り時に、リール9Aの軸線方向にワイヤWが整列して巻回されるようにワイヤWを案内するものである。すなわち、トラバース装置12A,12Bは、ワイヤ繰り出し時には、リール9上でのワイヤ同士の摩擦によるワイヤWの損傷を防止し、ワイヤ巻き取り時には、リール9へのワイヤWの巻き取りの乱れを抑制する。
【0037】
なお、各トラバース装置12A,12Bの構成は基本的に共通するため、以下の説明では一方側のトラバース装置12A(ワイヤ繰出し・巻取り装置10Aに付設されるトラバース装置12A)の構成について詳述する。
【0038】
図2は、トラバース装置12Aの全体構成を概略的に示している。同図に示すように、トラバース装置12Aは、リール9Aの軸線と平行に設けられる一対のガイドレール42と、これらガイドレール42上に移動可能に支持されるスライダ40と、これを駆動する駆動手段と、その駆動を制御する制御系とを含む。
【0039】
前記スライダ40は、リール9Aの軸線と平行に設けられた軸回りに回転自在に支持される第1ガイドプーリ50と、この第1ガイドプーリ50に対してリール9Aとは反対側の位置に配置され、前記軸線と直交する軸回りに回転自在に支持される第2ガイドプーリ52と、ガイドレール42上に移動可能に支持されかつ前記ガイドプーリ50、52を支持する支持部材54とを含んでおり、前記リール9Aから引き出されたワイヤWがこれら第1ガイドプーリ50及び第2ガイドプーリ52に掛け渡されて前記ガイドプーリ14Aに案内されている。
【0040】
前記駆動手段は、前記ガイドレール42と平行に延び、前記支持部材54に固定される図外のナット部材に螺合挿入されるボールネジ44と、このボールネジ44を駆動するトラバースモータ46とを含み、このトラバースモータ46の駆動によるボールネジ44の回転に伴い前記スライダ40をガイドレール42に沿って移動させる。これにより、スライダ40がリール9Aの軸線方向に移動しながらワイヤWを案内する(以下;リール9Aの軸線方向及びスライダ40の移動方向をZ軸方向という)。なお、トラバースモータ46には、ロータリエンコーダ等の位置検出器48が組み込まれており、スライダ40の駆動時には、この位置検出器48から後記制御装置62に位置検出信号(パルス信号等)が出力される。
【0041】
前記スライダ40は、さらにワイヤ繰出し・巻取り装置10AによるワイヤWの繰り出し中に、リール9A上のワイヤ繰り出し位置P(図2参照)とスライダ40との相対的な位置関係を検知するための手段を含む。具体的には、第1ガイドプーリ50よりもリール9A側の位置に配置され、かつワイヤWの両側の位置に支持される一対のタッチローラ56a,56bと、これらタッチローラ56a,56bにワイヤWが接触したときの接触荷重を検出可能なロードセル60a,60bとを含む。
【0042】
図2,図3に示すように、各タッチローラ56a,56bは、それぞれZ軸方向と直交する方向に延びる支持軸58に回転自在に支持されている。これらタッチローラ56a,56bは、Z軸方向に所定間隔を隔てて並んでおり、前記ワイヤWが両タッチローラ56a,56bの間の隙間を通じて第1ガイドプーリ50に案内されている。これらタッチローラ56a,56bは、リール9Aから第1ガイドプーリ50に繰り出されるワイヤWの繰り出し角度、つまりワイヤWとリール9Aの軸線(Z軸)とがなす角度が所定範囲内(略直角となる範囲内)にあるときには当該タッチローラ56a,56bとワイヤWとが非接触状態となり、かつこの所定範囲内を超えると当該タッチローラ56a,56bのうち一方側のものとワイヤWとが接触するように配置されている。
【0043】
スライダ40には、Z軸方向に所定間隔を隔てて一対の軸取付部41が設けられており、タッチローラ56a,56bの各支持軸58は、これら軸取付部41の内側に配置され、前記ロードセル60a,60bを介してそれぞれ軸取付部41に固定されている。各ロードセル60a,60bは、圧電式ロードセルである。この構成により、各タッチローラ56a,56bにワイヤWが接触すると、当該タッチローラ56a,56bの半径方向の接触荷重が各ロードセル60a,60bにより検出されて当該接触荷重に応じた電圧が各ロードセル60a,60bから後記制御装置62に出力される。なお、各ロードセル60a,60bは、圧電式のもの以外に歪みゲージ式のもの等も適用可能である。
【0044】
トラバース装置12Aは、スライダ40の駆動を制御する制御系(本発明にかかる制御手段に相当する)として制御装置62及びモータドライバ64を含む。
【0045】
制御装置62は、ワイヤ繰出し・巻取り装置10AによるワイヤWの繰り出し及び巻き取り時にスライダ40を予め記憶されているプログラムに従って駆動制御するものであり、特に、ワイヤ繰出し・巻取り装置10Aからのワイヤ繰り出し時には、ワイヤ繰り出し位置PのZ軸方向の変化に適切にスライダ40が追従するように、具体的には、リール9Aからのワイヤ繰り出し角度がリール9Aの軸線に対して略直角となるように前記ロードセル60a,60b及び前記位置検出器48からの出力に基づきスライダ40の駆動を制御する。この制御装置62は、ワイヤソーの駆動を統括的に制御するNC装置等からなる。
【0046】
モータドライバ64は、トラバースモータ46への電力供給を制御することにより当該モータ46の駆動を制御するもので、前記制御装置62から出力される制御信号に基づき前記電力供給を制御する。
【0047】
次に、ワイヤ繰出し・巻取り装置10Aによるワイヤ繰り出し動作時の前記制御装置62によるスライダ40の制御について図4のフローチャートに従って説明する。
【0048】
ワイヤ繰出し・巻取り装置10AによるワイヤWの繰り出しが開始されると、制御装置62は、前記モータドライバ64に制御信号を出力することによりトラバースモータ46を駆動し、これにより当該スライダ40を予め定められたトラバース方向に移動させる。この際、制御装置62は、予め定められたトラバース速度でスライダ40を移動させる。
【0049】
スライダ40が移動を開始すると、制御装置62は、前記ロードセル60a,60bからの出力監視を開始する(ステップS1)。そして、ロードセル60a,60bの何れかから一定値以上の出力があった場合には(ステップS1でYES)、制御装置62は、タッチローラ56a,56bの何れかにワイヤWが接触したと判断し、その出力値(電圧値:mV)をサンプリングして当該出力値の単位時間当たりの変化量(mV/sec)を演算し、さらにこの変化量に所定の変換係数(mm/mV)を乗じた値である接触速度を演算する(ステップS3)。この接触速度とは、ワイヤ繰り出し位置の進行速度とスライダ40の移動速度との速度差に対応するものである。従って、この接触速度に基づいてスライダ40の位置や速度を制御することは、ワイヤ繰り出し位置とスライダ位置及びワイヤ繰り出し位置の進行速度とスライダ速度との速度差を精度良く補正するには好適である。なお、この接触速度の代わりに出力値(電圧値)の単位時間当たりの変化量(mV/sec)をそのまま用いた場合にも以下の制御は可能である。
【0050】
制御装置62は、接触速度が予め定められた反転閾値以上か否かを判断する(ステップS5)。ここでYESと判断した場合には、制御装置62は、ステップS1での出力がロードセル60a,60bのうちスライダ進行方向側のものからの出力か否かを判断し(ステップS15)、ここでNOと判断した場合には、前記位置検出器48から入力される信号に基づきスライダ40の位置が強制反転禁止区間A内か否かを判断する(ステップS17)。なお、強制反転禁止区間Aとは、図6に示すように、リール9Aとの関係で予め設定されているスライダ40の移動領域Aのうちその両端に設定された一定の区間をいう。この強制反転禁止区間Aについては後に詳述する。
【0051】
ステップS17でNOと判断した場合、すなわち、スライダ40の位置が強制反転禁止区間Aの外側であると判断した場合には、制御装置62は、スライダ40の進行方向を反転させ(以下、この処理に基づくスライダ40の反転動作を強制反転という)、反転後、さらに予め定められたシフト量だけスライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して進行方向にシフトさせる(スライダ位置をプラス補正する)(ステップS19、S21)。具体的には、トラバース速度よりも速い速度でスライダ40を上記シフト量だけ高速前進させる。
【0052】
例えば、図5(a)に示すように、スライダ40の移動開始し直度、スライダ40の移動方向とワイヤ繰り出し位置Pが変化する方向とが一致していないような場合には、スライダ40の進行方向と反対側に位置するタッチローラ56aにワイヤWが強く接触するため(ステップS5でYES、ステップS15でNO)、制御装置62は、スライダ40が強制反転禁止区間A内に位置していないことを条件に(ステップS17でNO)、スライダ40の進行方向を強制反転させる(ステップS19)。これによりワイヤ繰り出し位置Pの変化にスライダ40の移動を追従させる。なお、スライダ40の反転後は、予め定められたシフト量だけスライダ40の位置がワイヤ繰り出し位置Pに対して進行方向にシフトされることにより(ステップS21)、スライダ40の反転遅れによるワイヤ繰り出し位置Pとスライダ40の位置とのずれが解消又は緩和される。
【0053】
ステップS3で求めた接触速度が反転閾値以上と判断した場合(ステップS5でYES)、ステップS1での出力がロードセル60a,60bのうちスライダ進行方向側のものと判断した場合(ステップS15でYES)、及びスライダ40が強制反転禁止区間A内に位置すると判断した場合(ステップS17でYES)には、制御装置62は、前記接触速度が予め定められた位置補正閾値(<反転閾値)以上か否かを判断する(ステップS7)。ここでYESと判断した場合には、制御装置62は、ステップS1の出力がロードセル60a,60bのうちスライダ進行方向側のものからの出力か否かを判断し(ステップS23)、ここでNOと判断した場合には、スライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して相対的に進行方向と逆方向にシフトさせる(スライダ位置をマイナス補正する;ステップS25)。具体的には、ワイヤWが接触しているタッチローラ56a,56bと当該ワイヤWとが非接触状態となるように前記接触速度の大きさに応じた時間だけスライダ40の移動を停止、又は前記接触速度の大きさに応じたシフト量だけスライダ40を後退させる。さらに制御装置62は、前記接触速度の大きさに応じた速度分だけ遅くなるようにスライダ40の前記トラバース速度を補正する(トラバース速度をマイナス補正する;ステップS27)。
【0054】
例えば、ワイヤ繰り出し中、図5(b)の二点鎖線に示すように、ワイヤ繰り出し位置Pに対してスライダ40が先行し、タッチローラ56a,56bのうち進行方向と反対側に位置するタッチローラ56bにワイヤWが接触すると(ステップS7でYES、ステップS23でNO)、制御装置62は、スライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して相対的に進行方向と逆方向にシフトし、さらにスライダ40のトラバース速度をマイナス補正する(ステップS25,S27)。
【0055】
これに対して、ステップS23でYESと判断した場合、すなわち、ステップS1の出力がロードセル60a,60bのうちスライダ進行方向側のものからの出力であると判断した場合には、制御装置62は、スライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して相対的に進行方向(プラス方向)にシフトさせる(スライダ位置をプラス補正する;ステップS29)。具体的には、ワイヤWが接触しているタッチローラ56a,56bと当該ワイヤWとが非接触状態となるように前記接触速度の大きさに応じたシフト量だけスライダ40を前記トラバース速度よりも速い速度で高速前進させる。さらに制御装置62は、前記接触速度の大きさに応じた速度分だけ速くなるようにスライダ40の前記トラバース速度を補正する(トラバース速度をプラス補正する;ステップS31)。
【0056】
例えば、ワイヤ繰り出し中、図5(b)の一点鎖線に示すように、ワイヤ繰り出し位置Pに対してスライダ40に遅れが生じ、これにより進行方向側のタッチローラ56aにワイヤWが接触すると(ステップS7でYES、ステップS23でYES)、制御装置62は、スライダ40の位置をワイヤ繰り出し位置Pに対して相対的に進行方向(プラス方向)にシフトし、さらにその後のスライダ40のトラバース速度をプラス補正する(ステップS29,S31)。
【0057】
接触速度が位置補正閾値未満と判断した場合(ステップS7でNO)には、制御装置62は、位置検出器48から入力される信号に基づいて、スライダ40が予め定められている反転位置E(図6参照)に達したか否かを判断する(ステップS9)。ここでYESと判断した場合には、制御装置62は、スライダ40の進行方向を反転させた後(以下、この処理に基づくスライダ40の反転を通常反転という)、ステップS13に移行する。
【0058】
ステップS13では、制御装置62は、ワイヤ繰出し・巻取り装置10AによるワイヤWの繰り出しが終了したか否かを判断し、ここでNOと判断した場合にはステップS1にリターンし、YESと判断した場合には本フローチャートを終了する。
【0059】
以上のような制御装置62の制御によるスライダ40の動作は以下の通りである。
【0060】
ワイヤ繰出し・巻取り装置10AによるワイヤWの繰り出しが開始されると、これに同期してスライダ40が移動を開始し、予め設定されているトラバース速度で移動する。この際、ワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向とスライダ40の進行方向とが互いに逆向きの場合には(図5(a)参照)、強制反転禁止区間A内にスライダ40が位置していないことを条件に、スライダ40の強制反転が行われる。これによりワイヤ繰り出し位置Pの変化に追従してスライダ40の移動が行われる。
【0061】
スライダ40の移動中、ワイヤWの繰り出し角度が略直角となる位置からスライダ40の位置が外れた場合には(図5(b)参照)、このずれが解消されるようにスライダ40の位置がワイヤ繰り出し位置Pに対してシフトされるとともにスライダ40のトラバース速度が補正される。
【0062】
そして、ワイヤ繰り出し位置Pがリール9の末端に到達すると、当該末端でワイヤ繰り出し位置Pが変化する方向が反転する一方で、スライダ40もその移動領域Aの一端の反転位置E(図6参照;本発明のスライダ反転位置に相当する)に到達することにより進行方向が通常反転される。なお、ワイヤWがリール9に乱れた状態で巻き付けられているなどしていると、リール9の末端以外の位置でワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向が反転する場合があるが、このような場合には、ワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向とスライダ40の進行方向とが互いに逆向きとなる(図5(a)参照)。この場合には、スライダ40の上記強制反転が行われ、これによりワイヤ繰り出し位置Pの反転に追従してスライダ40の進行方向が反転されることとなる。
【0063】
こうしてワイヤWの繰り出しに伴い、ワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向と同方向にスライダ40が移動しながらワイヤWの繰り出し角度が略直角となるように前記リール9Aから繰り出されるワイヤWが当該スライダ40により案内されることとなる。
【0064】
なお、このトラバース装置12Aでは、スライダ40がその移動領域Aの一端の反転位置Eに到達するとその進行方向を反転(通常反転;図4のステップS11)させる以外に、スライダ40とワイヤ繰り出し位置Pとの進行方向が逆向きとなるような状況が発生した場合にもスライダ40を強制的に反転(強制反転;図4のステップS19)させる。そのため、この強制反転動作を無条件に実行する場合には、以下に説明するように、リール9Aの端部においてスライダ40の不要な反転動作が繰り返されるおそれがある。そこで、このトラバース装置12Aでは、図6に示すように、スライダ40の移動領域Aの両端に強制反転禁止区間Aを設定し、スライダ40がこの区間内に位置する場合には、スライダ40の強制反転動作を規制することにより(図4のステップS17)、スライダ40の不要な反転動作の発生を防止している。
【0065】
すなわち、例えば図7に示すように、リール9Aがスライダ40の移動領域Aの一端に偏って組み込まれた場合等には、ワイヤ繰り出し位置Pがリール9Aの一端に到達する前にスライダ40が移動領域Aの一端の反転位置Eに到達して通常反転される場合がある。このような場合には、ワイヤ繰り出し位置Pとスライダ40が互いに逆方向に進行するため、スライダ40の強制反転動作を規制しない場合(図4のステップS17の処理がないと仮定した場合)には、スライダ40の進行方向が反転位置Eで通常反転された後、直ぐに強制反転が行われ、さらにこのスライダ40が反転位置Eに達して通常反転が行われるといった反転動作の繰り返しが起きるおそれがある。
【0066】
しかし、このトラバース装置12Aでは、スライダ40がその移動領域Aの両端に設定された強制反転禁止区間Aに位置する場合(図4のステップS17でYES)には、制御装置62は、スライダ40の進行方向を反転させることなくステップS7に移行する。従って、図7に示すように、スライダ40が先行して反転位置Eで通常反転され、これによりワイヤ繰り出し位置Pとスライダ40が互いに逆方向に進行して接触速度が反転閾値を超えた場合であっても、スライダ40の強制反転は行われず、結果的にスライダ40のシフト動作やトラバース速度の補正が行われる(図4のステップS7及びステップS23〜S31)。具体的には、図7の例では、スライダ40の進行方向と反対側に位置するタッチローラ56aにワイヤWが接触することとなるため、制御装置62は、スライダ40の移動を停止、あるいは所定シフト量だけ後退させた後にスライダ40のトラバース速度をマイナス補正する(図4のステップS25、S27)。これによりスライダ40は移動領域Aの一端又はその近傍において待機またはそれに近い微速前進の状態となり、上記のような不要な反転動作が繰り返されることが防止される。
【0067】
以上のように、このトラバース装置では、タッチローラ56a,56bとワイヤWとの接触荷重の検出に基づき当該タッチローラ56a,56bとワイヤWとの接触を検知するため、加工液の付着による影響を受け難く、従って、タッチローラに固定した回転板の開口部を近接センサで検出することにより当該接触検知を行う従来のトラバース装置に比べるとタッチローラ56a,56bとワイヤWとの接触をより正確に検知することが可能となる。しかも、この接触荷重は、ワイヤ繰り出し位置Pとスライダ40の位置とのずれ量にある程度対応した大きさとなるため、この接触荷重に基づいてスライダ40の位置やトラバース速度を制御する上記トラバース装置によれば、スライダ40が適正位置(ワイヤWの繰り出し角度が略直角となる位置)からスライダ40の位置が外れた場合でもその際のずれを確実に、かつ速やかに解消することが可能であり、従って、ワイヤ繰り出し位置Pの変化により精度良くスライダ40を追従させることができる。
【0068】
特に、このトラバース装置では、ロードセル60a,60bにより検出される接触荷重の単位時間当たりの変化量を求め、この変化量をもとに接触速度を求めてスライダ40の駆動を制御している。このように接触荷重の単位時間当たりの変化量に基づきスライダ40を駆動制御する構成によれば、ノイズやロードセル60a,60bの校正精度等による影響、例えばシフト量の演算やトラバース速度の補正量の演算への影響を排除することが可能であり、従って、ロードセルにより検出される接触荷重の絶対値をそのまま用いる場合に比べると、当該接触検知の信頼性を高めることができるという利点がわる。
【0069】
また、このトラバース装置では、接触速度が一定値(反転閾値)以上になるとスライダ40の進行方向を強制反転させるため(図4のステップS19)、リール9Aに対するワイヤWの巻き付け状態に起因してリール9Aの軸方向中間部分等でワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向が突然反転したような場合でも、これに追従するようにスライダ40の進行方向を速やかに反転させることができる。しかも、この強制反転直後は、ワイヤ繰り出し位置Pに対して所定のシフト量だけスライダ40の位置を進行方向にシフトさせるので(図4のステップS21)、スライダ40の反転遅れによるワイヤ繰り出し位置Pとスライダ40の位置とのずれを速やかに解消することが可能である。従って、上記のようにワイヤ繰り出し位置Pの変化する方向が突然反転した場合でもスライダ40をワイヤ繰り出し位置Pの変化に適切に追従させることができる。
【0070】
なお、ここではワイヤ繰出し・巻取り装置10A,10Bに近接されるトラバース装置12A,12Bの一方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Aに近接されるトラバース装置12Aについて説明したが、他方側のワイヤ繰出し・巻取り装置10Bに近接されるトラバース装置12Bも同様の構成を有している。
【0071】
以上、本発明に係るトラバース装置およびこれが適用されるワイヤソーの実施形態の一例について説明したが、トラバース装置やワイヤソーの具体的な構成は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0072】
例えば、このトラバース装置では、制御装置62は、ロードセル60a,60bにより検出される接触荷重の単位時間当たりの変化量に基づく値である接触速度を求め、この接触速度に基づいてスライダ40の駆動制御を行っているが、勿論、ロードセルにより検出される接触荷重の絶対値を用いて当該駆動制御を行うようにしてもよい。
【0073】
また、実施形態のスライダ40は、回転軸の方向が互いに直交する2つのガイドプーリ50、52を備えているが、ワイヤソー内における具体的なワイヤ経路によっては、何れか一方のガイドプーリを省略した構成としてもよい。
【0074】
また、スライダ40の駆動手段としては、上記のようなボールネジ44とトラバースモータ46との組み合わせによるもの以外に、例えばリニアモータ等によりスライダ40を直接駆動するもの等も適用可能である。
【符号の説明】
【0075】
9A、9B リール
10A、10B ワイヤ繰出し・巻取り装置
12A、12B トラバース装置
40 スライダ
50 第1ガイドプーリ
52 第2ガイドプーリ
54 支持部材
56a,56b タッチローラ
60a,60b ロードセル
62 制御装置
64 モータドライバ
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切断用のワイヤが巻回されたリールを含み、このリールから前記ワイヤを繰り出すワイヤ繰り出し装置を備えたワイヤソーにおける前記リールからのワイヤ繰り出しの際に、前記リールの軸方向に対して前記ワイヤの繰り出し角度が略直交するように前記ワイヤを案内するためのトラバース装置であって、
ワイヤ案内用のスライダと、このスライダを駆動する駆動手段と、この駆動手段を制御する制御手段とを含み、
前記スライダは、前記リールから繰り出されるワイヤが掛け渡されるガイドプーリと、前記ガイドプーリよりもリール側の位置で前記ワイヤの両側に位置する一対のタッチローラと、これらタッチローラ及び前記ガイドプーリを支持しかつ前記リールの軸方向と平行な方向に移動可能に支持される支持部材と、前記タッチローラのうち何れかに前記ワイヤが接触したときに当該ワイヤから当該タッチローラがその回転半径方向に受ける接触荷重をそれぞれ検出する荷重検出手段とを備えており、
前記一対のタッチローラは、前記ワイヤの繰り出し角度が所定範囲内にあるときには当該各タッチローラと前記ワイヤとが非接触状態となり、かつこの所定範囲を超えると、一方側のタッチローラがワイヤに接触するように、前記支持部材にそれぞれ回転可能に支持されており、
前記駆動手段は、前記支持部材を前記軸方向と平行な方向に移動させるものであり、
前記制御手段は、前記リールからのワイヤの繰り出しに伴い当該ワイヤ繰り出し位置が変化する方向に前記スライダを移動させるとともに、前記各荷重検出手段のうち何れかによって前記接触荷重が検出されると、当該接触荷重に基づいて前記タッチローラと前記ワイヤとの接触の有無を判断し、接触している場合には当該接触荷重が生じた側の前記タッチローラと前記ワイヤとが非接触状態となるように、検出された前記接触荷重に基づいて当該スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的にシフトさせるシフト動作を行うことを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的に進行方向にシフトさせたときには当該シフト後のスライダの移動速度が当該シフト前の移動速度よりも速くなるようにスライダの移動速度を補正し、前記スライダの位置を前記ワイヤ繰り出し位置に対して相対的に進行方向と逆方向にシフトさせたときには当該シフト後のスライダの移動速度が当該シフト前の移動速度よりも遅くなるようにスライダの移動速度を補正することを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記接触荷重の単位時間当たりの変化量に基づいて前記駆動手段を制御することを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項4】
請求項3に記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記変化量が一定値を超える場合に前記シフト動作を行うことを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れかに記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記軸方向と平行な方向であって前記リールの両端にそれぞれ対応する所定のスライダ反転位置で前記スライダの進行方向を反転させる通常反転動作を実行しながら前記ワイヤ繰り出し位置が変化する方向と同方向に当該スライダを移動させ、前記各荷重検出手段のうち前記スライダの進行方向側とは反対側に位置するタッチローラの接触荷重を検出するものにより接触荷重が検出されかつ当該検出荷重が所定の閾値を超えているときには、前記スライダの位置に拘わらず当該スライダの進行方向を反転させる強制反転動作を実行することを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項6】
請求項5に記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記強制反転動作により前記スライダの進行方向を反転させた後、前記ワイヤ繰り出し位置に対して前記スライダを所定のシフト量だけ相対的に進行方向にシフトさせることを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。
【請求項7】
請求項5又は6に記載のワイヤソーのトラバース装置において、
前記制御手段は、前記スライダの移動領域のうち前記スライダ反転位置からそれぞれ一定の区間を除く領域でのみ前記強制反転動作を実行することを特徴とするワイヤソーのトラバース装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−255468(P2011−255468A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−132810(P2010−132810)
【出願日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】