説明

ワイヤソー装置およびワーク切断方法、ウエハの製造方法

【課題】ワイヤ往復走行時やワイヤ往復切替に伴うワイヤ加減速時に発生するウエハのスクラッチを抑制または防止する。
【解決手段】ワイヤ減速開始時にワーク送り機構18がワーク送り方向を反転させて、停止時にはワーク送り機構18がワーク切断位置(切断底面)からワイヤ4を離間させる。好ましくは砥粒サイズ以上の距離を離す。その後、往復走行するためにワイヤ4を逆向きに加速させると共に、このワイヤ加速開始時に再び、ワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達のタイミングで加工を再開する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤのワイヤ列でワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハ素材を製造するウエハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の従来のワイヤソー装置は、溝付きローラに掛け渡されたワイヤの張力を制御しながらワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハ素材を作製している。このことが特許文献1に開示されている。
【0003】
図4は、特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0004】
図4に示すように、従来のワイヤソー装置100は、主に、ワークWを切断するための固定砥粒ワイヤ101と、この固定砥粒ワイヤ101を巻掛けした二つの溝付ローラ102と、固定砥粒ワイヤ101に張力を付与するためのワイヤ張力付与機構103A、103Bと、切断するワークWを保持して切り込み送りするワーク送り機構104と、切断されるワークWを冷却するための冷却水供給機構105とを有している。
【0005】
固定砥粒ワイヤ101は、供給ボビン106Aから繰り出され、ワイヤ張力付与機構103Aを経て、溝付ローラ102に入っている。固定砥粒ワイヤ101がこの溝付ローラ102に300〜400回程度巻掛けられることによってワイヤ列が形成される。別の溝付きローラ102からの固定砥粒ワイヤ101はもう一方のワイヤ張力付与機構103Bを経て回収ボビン106Bに巻き取られている。
【0006】
このように、これらのワイヤ張力付与機構103A、103Bにより、溝付ローラ102に巻掛けられた固定砥粒ワイヤ101に張力を付与し、駆動モータ107によって予め設定した反転サイクル時間毎に所定の走行速度で往復走行させている。往復走行する固定砥粒ワイヤ101にワークWを押し当てて切り込み送りし、ワークWを多数枚のウエハ状に切断している。
【0007】
上記従来のワイヤソー装置100では、新線供給側と旧線回収側でワイヤ張力付与機構103A、103Bにより固定砥粒ワイヤ101の張力を管理している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2011−20197号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されている上記従来のワイヤソー装置100において、図5(a)では、固定砥粒ワイヤ101の表面に固定された砥粒101aによってワークWを切断加工するが、砥粒ワイヤ101の中心線C1と切断幅の中心線C2が一致している。これに対して、図5(b)に示すように、この切断加工中に、固定砥粒ワイヤ101がワークWの長さ方向(切断方向に直交する方向)に位置ずれして、固定砥粒ワイヤ101の中心線C1と切断幅の中心線C2にずれ量dが生じると、固定砥粒ワイヤ101の側面が切断側面
に接して側面への横方向切断(矢印D)が起こり、多数枚切断されるウエハ素材の表面に少し深めの引っかき傷が付くスクラッチが発生するという問題があった。スクラッチ傷は深さも深く、エッチング処理を全体的に実施しても、そのスクラッチ傷の深さを維持したままで全体的にエッチングされるので、スクラッチ傷を容易に解消することができない。
【0010】
このワークWの長さ方向(切断方向に直交する方向)への固定砥粒ワイヤ101の位置ずれの要因としては、ワイヤ走行の往復方向切替とそれに伴う加減速にあり、固定砥粒ワイヤ101の位置ずれはワークWの切断内部で発生する。
【0011】
その固定砥粒ワイヤ101の位置ずれがワークWの切断内部で発生する場合、図6に示すように、砥粒101aがワークWに引っ掛かって負荷Fのある状態で固定砥粒ワイヤ101が停止した後の動作開始時に、砥粒101aのワークWへの引っ掛かりに起因して固定砥粒ワイヤ101の位置が切断方向に対して垂直方向にシフトして固定砥粒ワイヤ101自体の捩れも生じる。
【0012】
本発明は、上記従来の問題を解決するもので、ワイヤ往復走行時やワイヤ往復切替に伴うワイヤ加減速時に発生するウエハのスクラッチを抑制または防止することができるワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断してウエハを製造するウエハの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明のワイヤソー装置は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを往復走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにして、ワイヤ停止時にワイヤ切断底面から該ワイヤを離間させるように制御する制御部を有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0014】
また、好ましくは、本発明のワイヤソー装置における制御部は、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出手段と、該ワイヤ減速または停止検出手段で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワーク送り方向を逆切断方向にしてワイヤ切断位置から前記ワイヤを離間させる逆切断方向反転手段と、ワイヤ加速開始を検出するワイヤ加速開始検出手段と、該ワイヤ加速開始検出手段で検出したワイヤ加速開始時に再びワーク送り方向を切断方向に反転して少なくともワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転手段とを有する。
【0015】
さらに、好ましくは、本発明のワイヤソー装置におけるワイヤは固定砥粒ワイヤである。
【0016】
本発明のワーク切断方法は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを往復走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、制御部が、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにして、ワイヤ停止時にワイヤ切断底面から該ワイヤを離間させるように制御する制御工程を有するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0017】
また、好ましくは、本発明のワーク切断方法における制御工程は、ワイヤ減速または停止検出手段がワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速開始またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出工程と、逆切断方向反転手段が、該ワイヤ減速または停止検出手段で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワイヤ送り方向を切断方向とは逆向きと
して、ワイヤ停止時にワイヤ切断位置から前記ワイヤを離間させる逆切断方向反転工程と、ワイヤ加速開始検出手段がワイヤ加速開始時を検出するワイヤ加速開始検出工程と、該ワイヤ加速開始検出手段が検出したワイヤ加速開始時に、切断方向反転手段が、再びワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転工程とを有する。
【0018】
本発明のウエハの製造方法は、本発明の上記ワーク切断方法を用いて、前記ワークとしての半導体インゴットをワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断して多数枚のウエハ素材を製造するものであり、そのことにより上記目的が達成される。
【0019】
上記構成により、以下、本発明の作用を説明する。
【0020】
本発明においては、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにして、ワイヤ停止時にワイヤ切断底面からワイヤを離間させるように制御する制御部を有している。
【0021】
これによって、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ停止時にワイヤ切断底面とワイヤとを離間させるので、ワイヤ往復走行時やワイヤ往復切替に伴うワイヤ加減速時に発生するウエハのスクラッチが抑制または防止される。
【発明の効果】
【0022】
以上により、本発明によれば、ワイヤ加減速起因のワイヤ位置ずれを防止することにより、ワーク長さ方向への加工を防止しているため、スクラッチ発生を抑制した、段付き、表面凹凸の小さなウエハを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1のワーク送り機構の制御部における要部構成例を示すブロック図である。
【図3】(a)〜(e)は、図1のワーク送り機構の動作を説明するための切断中のワークとワイヤの断面図である。
【図4】本発明の実施形態2におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図5】特許文献1に開示されている従来のワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【図6】(a)および(b)はスクラッチ発生の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明のワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法の実施形態1、2について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図における構成部材のそれぞれの厚みや長さなどは図面作成上の観点から、図示する構成に限定されるものではない。
【0025】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1におけるワイヤソー装置の要部構成例を模式的に示す斜視図である。
【0026】
図1において、本実施形態1のワイヤソー装置1は複数(ここでは2個)の溝付ローラ2,3が所定間隔を置いて水平に配置されている。2個の溝付ローラ2,3の回転軸はそ
の軸方向が平行でその回転軸の外側の外周溝と共に回転自在に設けられている。これらの溝付ローラ2,3はそれぞれ、その周面に所定ピッチ間隔で複数の外周溝が形成されている。所定の間隔で配置された複数の溝付きローラ2,3の外周溝に切断用のワイヤ4が巻き付けられている。
【0027】
溝付ローラ2,3の外周溝に巻き付けられるワイヤ4は、螺旋状に巻き付けられる。溝付ローラ2,3間で巻き回数が多い場合には数千回程度にもなる。溝付ローラ2,3間に螺旋状に巻き付けられたワイヤ4の一方端が新線供給側の供給ボビン5に巻き付けられ、その他方端が旧線回収側の回収ボビン6に巻き付けられている。これらの溝付ローラ2,3、供給ボビン5および回収ボビン6を駆動することにより、溝付ローラ2,3間に巻き付けられたワイヤ4を走行させてワイヤ4の複数列でワーク7(ここでは半導体インゴット)を多数枚同時に切断するようになっている。切断枚数は多い場合には、数千枚程度を同時に切断する。ワイヤ4は、芯線径が例えばここでは50μm〜500μmのものを用い、芯線の周囲にダイヤモンドなどの砥粒が固着されている。ワイヤ4の芯線径によって切り代が決まり例えばワイヤ4の径が50μm(0.05mm)の場合に切り代も50μm(0.05mm)程度となるのが理想的であるが、実際には、芯線径80μmであれば、砥粒径8−16の場合で切り代は100μm程度となる。供給ボビン5には、例えば数十〜数百Kmのワイヤ4が巻かれている。ワイヤソー装置1はワイヤ4を往復走行しており、例えば回収ボビン6は、溝付ローラ2、3、供給ボビン5および回収ボビン6の駆動が反転して供給ボビンとして動作する。ここでは、供給ボビン5と回収ボビン6は名称を決めて説明している。
【0028】
各溝付ローラ2,3に巻き付けられるワイヤ4に、所要の張力を与えるため、溝付ローラ2と供給ボビン5との間に慣性駆動のガイドローラ8,9が設けられ、ガイドローラ8,9の間にダンサローラ10が設けられている。ダンサローラ10により溝付ローラ2、3へのワイヤ4の張力を一定に制御している。また、溝付ローラ2と回収ボビン6との間の慣性駆動のガイドローラ11,12が設けられ、ガイドローラ11,12の間にダンサローラ13が設けられている。ダンサローラ13により溝付ローラ2、3からのワイヤ4の張力を一定に制御している。要するに、ダンサローラ10,13は、ワイヤ4の向きを変えるためのガイドローラ8,9間とガイドローラ11,12間に設けられ、一定の付勢力が下方に働いてワイヤ4に一定の張力が作用するようになっている。
【0029】
ガイドローラ9と供給ボビン5との間にはトラバーサ14が設けられ、トラバーサ14により供給ボビン5に整列して巻き付けられているワイヤ4が順次取り出されるように作用する。また、ガイドローラ12と回収ボビン6との間にもトラバーサ15が設けられ、トラバーサ15により回収ボビン6に整列してワイヤ4が巻き取られるように作用する。
【0030】
供給側のトラバーサ14は、供給ボビン5からワイヤ4を取り込むときに順次ワイヤ巻き位置に上下移動して整列巻き付けされたワイヤ4をスムーズに取り出す機能を有している。また、回収側のトラバーサ15は、回収ボビン6にワイヤ4を整列巻き付けするために順次上下移動してワイヤ4をスムーズに順次巻き付ける機能を有している。
【0031】
溝付ローラ2、3間のワイヤ4の上側ワイヤ列面はワーク7の切断面であり、この切断面を左右に横切るように加工液供給部16がワーク7の前後位置に設けられ、この切断面の各ワイヤ列に加工液供給部16の加工液供給口から冷却用のクーラントをかけながら、例えばワーク7をその切断面のワイヤ列面に押し付けて多数枚同時に切断する。冷却の目的で液体のクーラントをワーク7および各ワイヤ4にかけて冷やしながら多数本のワイヤ4で一括して同時にワーク7を多数枚のウエハ素材に切断する。
【0032】
このワイヤ列へのワーク7の押付けは、ワーク7を固定した固定部17を、その上のワーク送り機構18により昇降させて、ワーク7を溝付ローラ2、3間のワイヤ列に上から押し付けるようになっている。このワーク送り制御手段としてのワーク送り機構18は固定部17を介して、多数本が平行に並んだワイヤ4の列面上にワーク7を押し付けることにより、厚さが均一な多数枚の薄いウエハ状に同時に切断するようになっている。これによって、厚さの揃ったウエハ素材を製造することができる。
【0033】
加工室には、溝付ローラ2、3、その間のワイヤ4、張力制御手段16、ワーク7、これを固定した固定部17およびワーク送り機構18が収容され、それ以外の部材は加工室の外部に配置されている。
【0034】
ワーク送り機構18の内部または外部に、本発明の第1の特徴構成として、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにすることにより、ワイヤ減速後のワイヤ停止時にワイヤ切断底面からワイヤ4を少なくとも固定砥粒のサイズ分だけ離間させるように制御する後述の制御部180を有している。これについて、以下、図2および図3を用いて更に詳細に説明する。
【0035】
図2は、図1のワーク送り機構18の制御部180における要部構成例を示すブロック図である。
【0036】
図2において、ワーク送り機構18のワーク送りを制御する制御部180は、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出手段181と、ワイヤ減速または停止検出手段181で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワーク送り方向を逆切断方向にしてワイヤ切断位置(ワーク7の切断底面)からワイヤ4を離間させる逆切断方向反転手段182と、ワイヤ加速開始を検出するワイヤ加速開始検出手段183と、ワイヤ加速開始検出手段183で検出したワイヤ加速開始時に再びワーク送り方向を切断方向に反転してワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転手段184とを有している。
【0037】
ワーク送り機構18のワーク切断方法は、スクラッチを抑制または防止するために、図示しない制御プログラムが格納されたコンピュータ読み取り可能な可読記録媒体としてのROMからRAM内に読み出され、このワーク切断方法の各工程をコンピュータに実行させるための処理手順が記述された制御プログラムに基づいて、ワイヤ減速または停止検出手段181がワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速開始またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出工程と、逆切断方向反転手段182が、ワイヤ減速または停止検出手段181で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワイヤ送り方向を切断方向とは逆向きとして、ワイヤ停止時にワイヤ切断位置(ワーク7の切断底面)からワイヤ4を離間させる逆切断方向反転工程と、ワイヤ加速開始検出手段183がワイヤ加速開始時を検出するワイヤ加速開始検出工程と、ワイヤ加速開始検出手段183が検出したワイヤ加速開始時に、切断方向反転手段184が、再びワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転工程とを有している。
【0038】
上記構成により、以下、その動作について説明する。
【0039】
図3(a)〜図3(e)は、図1のワーク送り機構18の動作を説明するための切断中のワーク7とワイヤ4の断面図である。
【0040】
本実施形態1のワイヤソー装置1において、ワーク送り機構18によりワーク7をワイヤ列側に押し付けてワーク7を送る際に、まず、図3(a)に示すように、ワイヤ4の最大速度走行時は、ワーク7をワイヤ4側に所定の圧力で押し付けてワーク7を切断する。
即ち、溝付ローラ2、3が回転駆動してワイヤ4が一定の最大速度で走行している状態で、ワーク7を固定した固定部17をワーク送り機構18がワーク送り方向T1(図2(a)では上側)に送って、固定部17に固定されたワーク7をワイヤ列面に押し付けてワーク7を多数枚同時に切断する。
【0041】
次に、図3(b)に示すように、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速開始時に、ワーク7をワイヤ4側から離間するワーク送り方向T2(図2(b)では下側)に反転させる。
【0042】
続いて、図3(c)に示すように、ワイヤ走行速度が0でワイヤ4が少なくとも停止状態では、領域S1に示すように、固定砥粒サイズ以上にワイヤ4の砥粒4aとワーク7の切断底面7aとを離間させる。これによって、ワイヤ4の位置ずれによるウエハへのスクラッチの要因として、図7に示すように砥粒4aがワーク7の切断底面7aに引っ掛かって負荷Fのある状態でワイヤ4が停止することはない。これによって、スクラッチの要因が解消される。
【0043】
要するに、逆切断方向反転手段182が、ワイヤ減速または停止検出手段181で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワイヤ送り方向を切断方向とは逆向きとして、少なくともワイヤ停止時にワイヤ切断位置(ワーク7の切断底面7a)からワイヤ4を離間させている。
【0044】
その後、図3(d)に示すように、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ加速開始時に、ワーク7をワイヤ4側に送るワーク送り方向T1(図2(d)では上側)に再び反転させる。
【0045】
さらに、図3(e)に示すように、ワイヤ走行速度が最大走行速度に到達した段階で、領域S2に示すように、ワーク7の切断底面7a(加工位置)にワイヤ4の固定砥粒4aが到達して切断加工が再開される。
【0046】
要するに、ワイヤ加速開始検出手段183が検出したワイヤ加速開始時に、切断方向反転手段184が、再びワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する。これによって、ワイヤ4が左右加工側面にシフトすることなく、スクラッチが抑制または防止される。
【0047】
以上のように、本実施形態1によれば、ワイヤ減速開始時にワーク送り機構18がワーク送り方向を反転させて、停止時にはワーク送り機構18がワーク切断位置(切断底面)からワイヤ4を離間させる。好ましくは砥粒サイズ以上の距離を離す。その後、往復走行するためにワイヤ4を逆向きに加速させると共に、このワイヤ加速開始時に再び、ワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達のタイミングで加工を再開する。
【0048】
これによって、ワーク送り機構18がワイヤ減速開始時にワーク送り方向を反転させられ、ワイヤ停止時にワーク切断位置からワイヤ4の固定砥粒4aを離間させるため、固定砥粒4aがワーク7の切断底面7aに引っ掛かって加工動作開始時にワイヤ4の位置が左右いずれかにずれることが解消されて、切断側面にワイヤ側面がワーク切断側面に擦れることなく、ワイヤ往復切替えに伴うワイヤ加減速時に発生するウエハのスクラッチを抑制または防止することができる。このように、ワイヤ往復切替に伴うワイヤ加減速に起因するワイヤ位置ずれを抑制または防止することにより、ワーク切断側面にワイヤ側面が擦れることなく、ワーク長さ方向(切断方向に直行する方向)への切断加工を防止することができて、スクラッチ発生を抑制した、段付き、表面凹凸の小さなウエハ素材を製造することができる。
【0049】
以上のように、本発明の好ましい実施形態1を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態1に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態1の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周に通した切断用ワイヤを走行させることによって、切断用ワイヤのワイヤ列でワークを切断するワイヤソー装置およびこれを用いたワーク切断方法、このワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状にワークを切断してウエハ素材を製造するウエハの製造方法の分野において、できる。
【符号の説明】
【0051】
1 ワイヤソー装置
2、3 溝付ローラ
4 ワイヤ
4a 固定砥粒
5 供給側ボビン
6 回収側ボビン
7 ワーク(半導体インゴット)
7a ワーク7の切断底面
8、9、11、12 ガイドローラ
10、13 ダンサローラ
14、15 トラバーサ
16 加工液供給部
17 固定板
18、18A ワーク送り機構
180 制御部
181 ワイヤ減速または停止検出手段
182 逆切断方向反転手段
183 ワイヤ加速開始検出手段
184 切断方向反転手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを往復走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワイヤソー装置において、
ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにして、ワイヤ停止時にワイヤ切断底面から該ワイヤを離間させるように制御する制御部を有するワイヤソー装置。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記制御部は、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出手段と、
該ワイヤ減速または停止検出手段で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワーク送り方向を逆切断方向にしてワイヤ切断位置から前記ワイヤを離間させる逆切断方向反転手段と、
ワイヤ加速開始を検出するワイヤ加速開始検出手段と、
該ワイヤ加速開始検出手段で検出したワイヤ加速開始時に再びワーク送り方向を切断方向に反転して少なくともワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転手段とを有するワイヤソー装置。
【請求項3】
請求項1に記載のワイヤソー装置において、
前記ワイヤは固定砥粒ワイヤであるワイヤソー装置。
【請求項4】
所定の間隔で配置された複数の溝付きローラの外周溝に巻き付けられた切断用のワイヤを往復走行させて該ワイヤの複数列でワークを切断するワーク切断方法において、
制御部が、ワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速またはワイヤ停止を検出して、ワーク送りを切断方向とは逆向きにして、ワイヤ停止時にワイヤ切断底面から該ワイヤを離間させるように制御する制御工程を有するワーク切断方法。
【請求項5】
請求項4に記載のワーク切断方法において、
前記制御工程は、
ワイヤ減速または停止検出手段がワイヤ走行の往復切替に伴うワイヤ減速開始またはワイヤ停止を検出するワイヤ減速または停止検出工程と、
逆切断方向反転手段が、該ワイヤ減速または停止検出手段で検出したワイヤ減速時またはワイヤ停止時にワイヤ送り方向を切断方向とは逆向きとして、ワイヤ停止時にワイヤ切断位置から前記ワイヤを離間させる逆切断方向反転工程と、
ワイヤ加速開始検出手段がワイヤ加速開始時を検出するワイヤ加速開始検出工程と、
該ワイヤ加速開始検出手段が検出したワイヤ加速開始時に、切断方向反転手段が、再びワーク送り方向を切断方向に反転させて、ワイヤ最大速度到達時点でワイヤ切断加工を再開する切断方向反転工程とを有するワーク切断方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載のワーク切断方法を用いて、前記ワークとしての半導体インゴットをワイヤソー装置のワイヤ列で多数枚のウエハ状に切断して多数枚のウエハ素材を製造するウエハの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−78807(P2013−78807A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208170(P2011−208170)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】