説明

ワイヤロープの潤滑剤塗布装置

【課題】ワイヤロープの表面に薄く均一にコーティングされた状態に潤滑剤を塗布することができるワイヤロープの潤滑剤塗布装置を提供する。
【解決手段】ワイヤロープ2の上下方向に沿って外嵌装着され、上下両端にワイヤロープ2を通す挿通孔23a,bを有し、側面に開口部24を有する分割式装置本体22と、装置本体22の外部に設けられ、開口部24を介して、装置本体22内を通過するワイヤロープ2に向かって潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射部25と、開口部24を有し、装置本体22の内部に区画形成された潤滑剤噴射室と、潤滑剤噴射室の上下両側であって、装置本体22の内部に区画形成されたローター室と、ローター室に収納され、ワイヤロープ2の相対的な上下方向の移動に伴ってワイヤロープ2の軸を中心軸として回転する、組み合わされて円柱状をなすローターとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑や防錆を目的とするワイヤロープの潤滑剤塗布装置に関し、特に、潤滑剤のタイプに拘わらず、ワイヤロープの表面に薄く均一にコーティングされた状態に潤滑剤を塗布することを可能にしたワイヤロープの潤滑剤塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クレーン,エレベータ,リフト,ダムや河川のゲート等の駆動用としてワイヤロープが広く使用されており、これらのワイヤロープについては腐食や摩耗を防止する等の目的で定期的に潤滑剤の供給が行われている。
【0003】
クレーン用のワイヤロープに潤滑剤の塗布を行う方法としては、手塗りが最も一般的である。流動性を有する液状の潤滑油を供給する場合には自動的に給油できる機器を使用している場合も一部にはあるが、流動性を有さない半固体状のグリースを供給する場合には現在も手塗りが主流である。
【0004】
ところで、流動性を有し浸透性の高い液状の潤滑油は、塗布された潤滑油がワイヤロープの繊維心にまで浸透し、表面に固まって留まることがない。
【0005】
しかしながら、流動性がなく浸透性の低いグリースの場合、塗布されたグリースはそのままの状態でワイヤロープの表面に留まり、ワイヤロープの表面に均一に広がるまでの間に時に落下して、作業現場や河川等の周辺環境を汚染するという問題がある。
【0006】
近年、クレーンの小型化を目的として、従来のウインチドラムに対して1層巻きであったワイヤロープを多層巻きにして、ウインチドラムを小型軽量化する傾向にある。これに伴って、ワイヤロープ同士の摩擦が増加して給油の必要頻度が高くなっており、特に、グリース塗布の自動化のニーズは高まっている。
【0007】
この種のワイヤロープの潤滑剤塗布装置として、従来、図9に示す技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。同図に示す潤滑剤塗布装置は、半割部品60a,60bからなる筒状容器60内にワイヤロープ61を挟み込み、その筒状容器60内のグリース供給室62が満杯になるまでグリースポンプによりグリースを強制的に高圧で注入するようになっている。
【0008】
グリース供給室62の上下両側には、組み合わされてリング状をなす上側シール材63a,63b及び下側シール材64a,64bがそれぞれ配設されており、注入されたグリースが筒状容器60から漏れ出ないようになっている。
【0009】
この潤滑剤塗布装置によれば、グリースが高圧でワイヤロープに供給されるので、その表面から内部まで潤滑することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−194683号
【特許文献2】特開2002−59090号
【特許文献3】特開2003−42393号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
このような塗布作業において、グリース等はワイヤロープの表面に薄く均一にコーティングされた状態で塗布されているのが理想的である。
【0012】
しかしながら、従来の潤滑剤塗布装置に設けられているシール材やブラシでは、ワイヤロープを構成するストランド間にまでグリース等を斑なく均一に塗布することが困難であるとともに、余分なグリース等が塗布されることに起因して、グリース等が容易に剥離して潤滑や防錆の妨げとなるだけでなく環境に悪影響を与えたり、グリース等の劣化による硬化等により次回の塗り直しが困難になるという問題があった。
【0013】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、ワイヤロープの表面に薄く均一にコーティングされた状態に潤滑剤を塗布することができるワイヤロープの潤滑剤塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、素線を単層又は多層により合わせたストランドを繊維心又は鋼心の周りに所定のピッチでより合わせて作られたワイヤロープの潤滑剤塗布装置において、前記ワイヤロープの軸方向(以下、上下方向という。)に沿って外嵌装着され、上下両端に前記ワイヤロープを通す挿通孔を有し、側面に開口部を有する分割式装置本体と、前記装置本体の外部に設けられ、前記開口部を介して、前記装置本体内を通過するワイヤロープに向かって潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射部と、前記開口部を有し、前記装置本体の内部に区画形成された潤滑剤噴射室と、前記潤滑剤噴射室の下側であって、前記装置本体の内部に区画形成された第1のローター室と、前記第1のローター室に収納され、前記ワイヤロープの相対的な上下方向の移動に伴って前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転する、組み合わされて円柱状をなす第1のローターとを備え、前記第1のローターは、前記ワイヤロープの断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状の溝が内面に形成されており、前記ワイヤロープの相対的な下方向の移動に対して、前記ワイヤロープが前記溝にガイドされること、及び、前記第1のローター室に収納されて下方向の移動が制限されることによって、前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転し、前記ワイヤロープと前記溝との密着部分を通じて、前記ワイヤロープに噴射された潤滑剤を前記ワイヤロープの上方向及び周方向に均一に塗り延ばすことを特徴としている。
【0015】
請求項1に記載の発明によれば、前記第1のローターの内面に形成された溝は、前記ワイヤロープの断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状になっているので、前記ワイヤロープが相対的に下方向に移動すると、前記第1のローターは、それに伴って上方向へ移動しようとするが、前記第1のローター室の壁面によりそれ以上下方向に移動することができず、周方向へ回転することになる。前記潤滑剤噴射室で噴射された潤滑剤は、前記第1のローターの回転に伴って、前記第1のローターと前記ワイヤロープとの隙間に塗り延ばされて周方向へと広がるとともに、前記第1のローターが前記ワイヤロープの上方向へ相対的に移動することになるので、前記ワイヤロープの上方向にも塗り広がる。
【0016】
したがって、請求項1に記載の発明によれば、前記第1のローターを通過したワイヤロープの表面の全ての部位において、潤滑剤を一定の厚みで塗布することができ、前記第1のローターと前記ワイヤロープとの隙間を小さくすることで薄く塗布することが可能である。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、ワイヤロープの潤滑剤塗布装置は、前記潤滑剤噴射室の上側であって、前記装置本体の内部に区画形成された第2のローター室と、前記第2のローター室に収納され、前記ワイヤロープの相対的な上下方向の移動に伴って前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転する、組み合わされて円柱状をなす第2のローターとを備え、前記第2のローターは、前記ワイヤロープの断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状の溝が内面に形成されており、前記ワイヤロープの相対的な上方向の移動に対して、前記ワイヤロープが前記溝にガイドされること、及び、前記第2のローター室に収納されて上方向の移動が制限されることによって、前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転し、前記ワイヤロープと前記溝との密着部分を通じて、前記ワイヤロープに噴射された潤滑剤を前記ワイヤロープの下方向及び周方向に均一に塗り延ばすことを特徴としている。
【0018】
請求項2に記載の発明によれば、請求項1による効果に加えて、前記潤滑剤噴射室の上側にも下側と同様の機能を有する第2のローター室及び前記第2のローターが構成されているため、前記ワイヤロープが相対的に上方向へ移動しても、前記第2のローターを通過したワイヤロープの表面の全ての部位において、潤滑剤が一定の厚みで塗布され、前記第2のローターと前記ワイヤロープとの隙間を小さくすることで薄く塗布することが可能である。
【0019】
また、請求項2に記載の発明によれば、潤滑剤塗布装置は、前記装置本体,前記第1のローター,及び前記第2のローターは組み合わせて前記ワイヤロープに外嵌装着が可能であり、向きを変えて取り付けることもできるが、上下何れの方向へも潤滑剤を塗布することができるので、潤滑剤塗布装置を取り外し、向きを変えて取り付けるという作業を敢えて行う必要がなく、手間を省くことができる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、ワイヤロープの潤滑剤塗布装置は、前記装置本体の上側に突設された支持フレームの先であって、前記ワイヤロープを軸として対向する位置に設けられた一対の第1のガイドローラーと、前記装置本体の下側に突設された支持フレームの先であって、前記ワイヤロープを軸として対向する位置に設けられた一対の第2のガイドローラーとを備え、前記第1のガイドローラー及び前記第2のガイドローラーは、該ガイドローラー間において、前記ワイヤロープを前記挿通孔の中心軸上に保持するとともに、前記ワイヤロープの中心軸方向への付勢力により、均一に塗り延ばされた潤滑剤を圧着して容易に剥離しない被膜を形成することを特徴としている。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、請求項1又は請求項2による効果に加えて、前記第1のガイドローラー及び前記第2のガイドローラーが、前記ワイヤロープを前記挿通孔の中心軸上に保持するように、前記装置本体の上下両側に突設された支持フレームを介して設けられているので、前記ワイヤロープを前記装置本体内にスムースに通すことができる。
【0022】
また、請求項3に記載の発明によれば、前記第1のガイドローラー及び前記第2のガイドローラーが、前記ワイヤロープの中心軸方向へ付勢力がかかるように、前記装置本体の上下両側に突設された支持フレームを介して設けられており、均一に塗り延ばされた潤滑剤が圧着されて被膜を形成するので、潤滑剤が容易に剥離することなく長期間に渡って潤滑や防錆効果を発揮し、環境にやさしく、余分な潤滑剤の硬化等がないので次回のメンテナンス作業(塗り直し)がしやすいという効果を奏する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、ワイヤロープの表面に薄く均一にコーティングされた状態に潤滑剤を塗布することができるワイヤロープの潤滑剤塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】ワイヤロープの潤滑剤塗布システムの説明に供する図である。
【図2】本発明に係る潤滑剤塗布装置の構成の説明に供する図である。
【図3】本発明に係る潤滑剤塗布装置の正面図である。
【図4】本発明に係る潤滑剤塗布装置の装置本体及び潤滑剤噴射部の平面図である。
【図5】本発明に係る潤滑剤塗布装置の装置本体及び潤滑剤噴射部であって、パーツに分かれた状態を示す正面図である。
【図6】本発明に係る潤滑剤塗布装置の装置本体及び潤滑剤噴射部であって、パーツに分かれた状態を示す平面図である。
【図7】ワイヤロープの構成の説明に供する図である。
【図8】本発明に係る潤滑剤塗布装置のローターの構成の説明に供する図であって、(A)平面図、(B)正面図である。
【図9】従来の潤滑装置の構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、この実施の形態では、本発明に係るワイヤロープの潤滑剤塗布装置が、主としてクレーンに常設されており、オペレーターが運転席から遠隔操作することにより潤滑剤の塗布作業を行う、ワイヤロープの潤滑剤塗布システム1に適用された例について説明するものとする。
【0026】
このワイヤロープの潤滑剤塗布システム1は、図1に示すように、素線を単層又は多層により合わせたストランドを繊維心又は鋼心の周りに所定のピッチでより合わせて作られたワイヤロープ2と、ワイヤロープ2の上下方向に沿って外嵌装着され2分割式の潤滑剤塗布装置21と、ワイヤロープ2の巻き取り・繰り出しを行うウインチドラム3と、ウインチドラム3によるワイヤロープ2の左右方向への動きに追従して、潤滑剤塗布装置21が吊り下げられた定位置で滑動するトロリー機構手段4とを主要部として備えている。
【0027】
トロリー機構手段4は、潤滑剤塗布装置21を吊り下げて定位置に保持する吊り具5と、吊り具5の上端部に設けられたランナー6と、上方で固定された懸垂式のレール7とからなり、ランナー6以下の部分が、懸垂式のレール7に吊り下げられた状態で滑動するように構成されている。なお、図1では吊り具5に丸棒を使用した例を示しているが、ワイヤロープ2の繰り出しに対しても潤滑剤塗布装置21をより安定して保持できるようにフラットバーを使用してもよい。
【0028】
また、ワイヤロープの潤滑剤塗布システム1は、図示を省略しているが、潤滑剤塗布装置21まで潤滑剤を圧送する吐出量が調整可能なポンプ8と、潤滑剤塗布装置21のスプレーノズル26に送るエアーを供給するコンプレッサー9と、そのエアーの圧力調整を行うレギュレーター10と、ポンプ8から供給される潤滑剤を送るための高圧ホース11と、レギュレーター10と潤滑剤塗布装置21とを連結するエアーチューブ12と、ワイヤロープ2の巻き取り・繰り出し,潤滑剤の吐出量やエアーの圧力を遠隔制御する制御手段13とを含んで構成されている。
【0029】
1.潤滑剤塗布装置21の構成
本発明は、例えば図2乃至図4に示すような構成の潤滑剤塗布装置21に適用される。潤滑剤塗布装置21は、図2乃至図4に示すように、分割式の装置本体22を含んで構成されており、装置本体22の上下両端にはワイヤロープ2を通す挿通孔23a,bが形成されている。また、装置本体22の側面には、装置本体22内を通過するワイヤロープ2に向かって外部から潤滑剤を噴射するための矩形状の開口部24が設けられている。
【0030】
装置本体22は、図5及び図6に示すように、ワイヤロープ2が、2分割された装置本体22のパーツ22a,bによって両側から挟み込まれてネジで固定されている。
【0031】
この装置本体22の外部には、図2乃至図4に示すように、開口部24を介して、装置本体22内を通過するワイヤロープに向かって潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射部25が設けられている。
【0032】
潤滑剤噴射部25は、潤滑剤を同時に送られてくるエアーと混合して噴射するスプレーノズル26と、ポンプ8(図示省略)から供給される潤滑剤の入口となる潤滑剤入口27と、レギュレーター10(図示省略)によって圧力調整されたエアーの入口となるエアー入口28と、潤滑剤及びエアーの混合の場となる噴射部本体29とから構成されている。
【0033】
ポンプ8は、各種グリースを給油部位に送るためのポンプであり、エアーラインに圧縮空気を送り、グリースを末端でスプレー給油する機能を組み込むことが可能である。ポンプ8はタイマー制御が可能であり、設定は、例えば、グリースの吐出圧を20MPa、吐出量を10cc/minとする。
【0034】
装置本体22の略中央の内部には、環状溝部からなる潤滑剤噴射室30が区画形成されており、潤滑剤噴射室30の胴部に、潤滑剤を噴射するための矩形状の開口部24が位置するようになっている。
【0035】
潤滑剤噴射室30を挟んで上下両側に、環状溝部からなる、ローター室31(第1のローター室)及びローター室32(第2のローター室)が区画形成されている。潤滑剤噴射室30とローター室31及びローター室32との境には、ワイヤロープ2が通過するための通過孔45a,bが夫々設けられている。そして、ローター室31及びローター室32の他方側に挿通孔23a,bが夫々位置するようになっている。
【0036】
各ローター室31,32には、組み合わされて円柱状をなすローター33(第1のローター),34(第2のローター)が収納されている。ローター33,34は、ワイヤロープ2の相対的な上下方向の移動に伴ってワイヤロープ2の軸を中心軸として連動して回転するようになっている。
【0037】
ワイヤロープ2は、ストランドの数と形,ストランド52中の素線の数と配置,繊維心入りか鋼心入りか等によってバリエーションがあるが、一般的には、図7に示すように、数本〜数10本の素線を単層又は多層により合わせたストランドを、通常は6本を鋼心の周りに所定のピッチでより合わせて作られている。
【0038】
ローター33とローター34とは、同じ構成からなり、図8に示すように、ワイヤロープ2の断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状の溝35,36が内面に夫々形成されている。
【0039】
ローター33,34は、ワイヤロープ2の相対的な上下方向の移動に対して、ワイヤロープ2が溝35,36にガイドされること、及び、ローター室31,32に収納されて上下方向の移動が制限されることによって、ワイヤロープ2の軸を中心軸として回転する。
【0040】
そして、ローター33,34は、ワイヤロープ2と溝35,36との密着部分を通じて、ワイヤロープ2に噴射された潤滑剤をワイヤロープ2の上下方向及び周方向に均一に塗り延ばすように構成されている。
【0041】
また、ローター33,34は、図8に示すように、3分割のパーツ33(又は34)a,b,cからなり、組み合わせると円柱状になり、外周側面を一周するように溝48,49が形成されている。そして、ローター33,34は、3分割のパーツ33(又は34)a,b,cをワイヤロープ2に沿って組み合わせて、溝48,49にリング状弾性体37,38(スプリングやゴム等)を張着することにより一体化することで、ローター室31,32内でワイヤロープ2に取り付けられる。
【0042】
ローター33,34は、耐摩耗性及び耐油性に優れた例えばウレタン樹脂,シリコン樹脂,天然ゴム,合成ゴムを成形したものを使用することができる。
【0043】
図1及び図2に示すように、装置本体22の上下両側には、支持フレーム39,40が突設されている。そして、支持フレーム39,40の先に、ワイヤロープ2を軸として対向する位置に一対のガイドローラー41a,b,42a,bが設けられている。
【0044】
ガイドローラー41a,b及びガイドローラー42a,bは、装置本体22の安定性が増すように位相を90°ずらして、該ガイドローラー間において、ワイヤロープ2を挿通孔23a,bの中心軸上に保持するように設けられている。また、ガイドローラー41a,b,42a,bは、ワイヤロープ2と係合する溝43a,b,44a,bが外周側面を一周するように設けられており、加えて、スプリング機構等により、ワイヤロープ2の中心軸方向へ付勢力が働くようになっている。したがって、均一に塗り延ばされた潤滑剤を圧着して容易に剥離しない被膜を形成することができる。
【0045】
2.潤滑剤塗布装置21の取り付け
次に、潤滑剤塗布装置21のワイヤロープ2への取り付け手順について説明する。
【0046】
先ず、ローター33,34の3分割のパーツ33(及び34)a,b,cをワイヤロープ2に沿って組み合わせ、リング状弾性体37,38を溝48,49に嵌め込んでローター33,34を取り付ける。
【0047】
そして、2分割された装置本体22のパーツ22a,bを、ローター33,34がローター室31,32に収納される状態でワイヤロープ2の両側から挟み込み、ネジで固定する。
【0048】
潤滑剤塗布装置21がウインチドラム3の回転に応じて左右に移動するワイヤロープ2に追従するように、吊り具5を潤滑剤塗布装置21及びランナー6に連結し、ランナー6をレール7に挟着する。
【0049】
潤滑剤噴射部25の潤滑剤入口27にポンプ8から配管された高圧ホース11を連結し、エアー入口28にもレギュレーター10から配管されたエアーチューブ12を連結する。
【0050】
3.潤滑剤塗布装置21の動作
続いて、前記構成を有する潤滑剤塗布装置21の動作について説明する。
【0051】
先ず、潤滑剤噴射部25が、ポンプ8からの潤滑剤及びコンプレッサー9からの圧縮エアーが混合されて供給された潤滑剤を、スプレーノズル26の吐出口から、開口部24を介して、装置本体22の潤滑剤噴射室30を通過するワイヤロープ2に噴射する。
【0052】
ローター33及びローター34は、ワイヤロープ2の相対的な上下方向の移動に対して、ワイヤロープ2が溝35,36にガイドされること、及び、ローター室31,32に収納されて上下方向の移動が制限されることによって、ワイヤロープ2の軸を中心軸として回転する。
【0053】
ワイヤロープ2の相対的な移動方向に対して、潤滑剤噴射室30の後段に位置するローター33又はローター34は、ワイヤロープ2と溝35又は36との密着部分を通じて、ワイヤロープ2に噴射された潤滑剤をワイヤロープ2の相対的な移動方向とは逆の方向及び周方向に均一に塗り延ばす。
【0054】
ガイドローラー41a,b及びガイドローラー42a,bは、均一に塗り延ばされた潤滑剤を圧着して容易に剥離しない被膜を形成する。
【0055】
潤滑剤塗布装置21は、ワイヤロープ2がウインチドラム3の回転に応じて左右方向に移動すると、それに追従して、定位置(同じ高さ)において左右方向に移動する。
【0056】
4.潤滑剤塗布装置21の作用
以上説明したように、本発明に係る潤滑剤塗布装置21は、ローター33,34の内面に形成された溝35,36が、ワイヤロープ2の断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状になっているので、ワイヤロープ2が相対的に下方向(又は上方向)に移動すると、ローター33,34は、それに伴って下方向(又は上方向)へ移動しようとするが、ローター室31,32の壁面によってそれより下方向(又は上方向)に移動することができず、周方向へ回転することになる。潤滑剤噴射室30で噴射された潤滑剤は、ローター33,34の回転に伴って、ローター33,34とワイヤロープ2との隙間に塗り延ばされて周方向へと広がるとともに、ローター33,34がワイヤロープ2の上方向(又は下方向)へ相対的に移動することになるので、前記ワイヤロープの上方向(又は下方向)にも塗り広がる。
【0057】
したがって、潤滑剤塗布装置21によれば、ローター33,34を通過したワイヤロープ2の表面の全ての部位において、潤滑剤を一定の厚みで塗布することができ、ローター33,34とワイヤロープ2との隙間を小さくすることで薄く塗布することが可能である。
【0058】
また、潤滑剤塗布装置21によれば、装置本体22,ローター33,34は組み合わせてワイヤロープ2に外嵌装着が可能であり、向きを変えて取り付けることもできるが、上下何れの方向へも潤滑剤を塗布することができるので、潤滑剤塗布装置21を取り外し、向きを変えて取り付けるという作業を敢えて行う必要がなく、手間を省くことができる。
【0059】
また、潤滑剤塗布装置21によれば、ガイドローラー41a,b及びガイドローラー42a,bが、ワイヤロープ2を挿通孔23a,bの中心軸上に保持するように、装置本体22の上下両側に支持フレーム39,40を介して設けられているので、ワイヤロープ2を装置本体22内にスムースに通すことができる。
【0060】
また、潤滑剤塗布装置21によれば、ガイドローラー41a,b及びガイドローラー42a,bが、ワイヤロープ2の中心軸方向へ付勢力がかかるように、装置本体22の上下両側に支持フレーム39,40を介して設けられており、均一に塗り延ばされた潤滑剤が圧着されて被膜を形成するので、潤滑剤が容易に剥離することなく長期間に渡って潤滑や防錆効果を発揮し、環境にやさしく、余分な潤滑剤の硬化等がないので次回のメンテナンス作業(塗り直し)がしやすいという効果を奏する。
【0061】
なお、本発明は前述した実施の形態のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能であることは勿論である。特に、本発明に係るワイヤロープ2の潤滑剤塗布装置21は、クレーンの用途に限定されることはなく、エレベータ,リフト,ダムや河川のゲート等の用途にも幅広く使用できる。また、潤滑剤はグリースに限らず、流動性を有するオイルであってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 潤滑剤塗布システム、 2 ワイヤロープ、 3 ウインチドラム、 4トロリー機構手段、 5 吊り具、 6 ランナー、 7 レール、 8 ポンプ、 9 コンプレッサー、 10 レギュレーター、 11 高圧ホース、 12 エアーチューブ、 13 制御手段、 21 潤滑剤塗布装置、 22 装置本体、 22a,b 装置本体のパーツ、 23a,b 挿通孔、 24 開口部、 25 潤滑剤噴射部、 26 スプレーノズル、 27 潤滑剤入口、 28 エアー入口、 29 噴射部本体、 30 潤滑剤噴射室、 31 第1のローター室、 32 第2のローター室、 33 第1のローター、 33a,b,c 第1のローターのパーツ、 34 第2のローター、 34a,b,c 第2のローターのパーツ、 35,36 溝、 37,38 リング状弾性体、 39,40 支持フレーム、 41a,b ガイドローラー、 42a,b ガイドローラー、 43a,b 溝、 44a,b 溝、 45a,b 通過孔、 46 吊り具フック、 47 固定ネジ、 48,49 溝、 50 繊維心又は鋼心、 51 素線、 52 ストランド、 60 筒状容器、 60a,b 半割部品、 61 ワイヤロープ、 62 グリース供給室、 63a,b 上側シール材、 64a,b 下側シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
素線を単層又は多層により合わせたストランドを繊維心又は鋼心の周りに所定のピッチでより合わせて作られたワイヤロープの潤滑剤塗布装置において、
前記ワイヤロープの軸方向(以下、上下方向という。)に沿って外嵌装着され、上下両端に前記ワイヤロープを通す挿通孔を有し、側面に開口部を有する分割式装置本体と、
前記装置本体の外部に設けられ、前記開口部を介して、前記装置本体内を通過するワイヤロープに向かって潤滑剤を噴射する潤滑剤噴射部と、
前記開口部を有し、前記装置本体の内部に区画形成された潤滑剤噴射室と、
前記潤滑剤噴射室の下側であって、前記装置本体の内部に区画形成された第1のローター室と、
前記第1のローター室に収納され、前記ワイヤロープの相対的な上下方向の移動に伴って前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転する、組み合わされて円柱状をなす第1のローターとを備え、
前記第1のローターは、前記ワイヤロープの断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状の溝が内面に形成されており、前記ワイヤロープの相対的な下方向の移動に対して、前記ワイヤロープが前記溝にガイドされること、及び、前記第1のローター室に収納されて下方向の移動が制限されることによって、前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転し、前記ワイヤロープと前記溝との密着部分を通じて、前記ワイヤロープに噴射された潤滑剤を前記ワイヤロープの上方向及び周方向に均一に塗り延ばすことを特徴とするワイヤロープの潤滑剤塗布装置。
【請求項2】
前記潤滑剤噴射室の上側であって、前記装置本体の内部に区画形成された第2のローター室と、
前記第2のローター室に収納され、前記ワイヤロープの相対的な上下方向の移動に伴って前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転する、組み合わされて円柱状をなす第2のローターとを備え、
前記第2のローターは、前記ワイヤロープの断面形状が等速で回転しながら下方向(又は上方向)に移動したときに描く軌跡の形状の溝が内面に形成されており、前記ワイヤロープの相対的な上方向の移動に対して、前記ワイヤロープが前記溝にガイドされること、及び、前記第2のローター室に収納されて上方向の移動が制限されることによって、前記ワイヤロープの軸を中心軸として回転し、前記ワイヤロープと前記溝との密着部分を通じて、前記ワイヤロープに噴射された潤滑剤を前記ワイヤロープの下方向及び周方向に均一に塗り延ばすことを特徴とする請求項1に記載のワイヤロープの潤滑剤塗布装置。
【請求項3】
前記装置本体の上側に突設された支持フレームの先であって、前記ワイヤロープを軸として対向する位置に設けられた一対の第1のガイドローラーと、
前記装置本体の下側に突設された支持フレームの先であって、前記ワイヤロープを軸として対向する位置に設けられた一対の第2のガイドローラーとを備え、
前記第1のガイドローラー及び前記第2のガイドローラーは、該ガイドローラー間において、前記ワイヤロープを前記挿通孔の中心軸上に保持するとともに、前記ワイヤロープの中心軸方向への付勢力により、均一に塗り延ばされた潤滑剤を圧着して容易に剥離しない被膜を形成することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のワイヤロープの潤滑剤塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図7】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−80175(P2011−80175A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−235335(P2009−235335)
【出願日】平成21年10月9日(2009.10.9)
【出願人】(509281771)
【Fターム(参考)】