説明

ワックスの水素化分解方法及び燃料基材の製造方法

【課題】 オレフィン含有ワックスを水素化分解する際の中間留分選択性を高水準に維持することを可能とするワックスの水素化分解方法及びかかる水素化分解方法を用いる燃料基材の製造方法を提供することを提供すること。
【解決手段】 上記課題を解決するワックスの水素化分解方法は、水素存在下、オレフィンを含有するワックスを、実質的に酸機能を有していない触媒を含む第1の触媒層、及び、水素化分解能を有する触媒を含む第2の触媒層にこの順序で流通させることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワックスの水素化分解方法及び燃料基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境負荷低減の観点から、硫黄分及び芳香族炭化水素の含有量が低く、環境にやさしいクリーンな液体燃料が求められている。最近では、ガソリン及び軽油などの液体燃料に対する硫黄分規制が急速に厳しくなっており、例えば、軽油に含まれる硫黄分の規制値は500ppmから50ppmへと引き下げられている。そこで、石油業界においては、クリーン燃料の製造方法として、一酸化炭素と、アスファルトや石炭のガス化又は天然ガスの改質によって得られる水素とを原料としたフィッシャー・トロプシュ合成法(以下、「FT合成法」と略す。)が検討されている。FT合成法によれば、パラフィン含有量に富み、かつ硫黄分を含まない液体燃料基材を製造することができるため、その期待は非常に大きい。また、FT合成法においてはワックスが生成し得るが、このワックス(以下、「FTワックス」という場合もある。)を水素化分解し、その水素化分解物をクリーン燃料の基材として用いることも可能である。
【0003】
ワックスを水素化分解して燃料基材を製造する場合、燃料基材として有用な成分は水素化分解物のうちの中間留分であることから、この中間留分の収率が燃料製造プロセスの経済性向上に重要となる。そこで、ワックスの水素化分解における中間留分選択性の向上を目的として、例えば、ワックスを、水素存在下、結晶性アルミノシリケートと周期律表第VIb属bの金属および/または第VIII属の金属とを含有する触媒に接触させて水素化分解する方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【特許文献1】国際公開第2004/028688号パンフレット
【特許文献2】特開2004−255241号公報
【特許文献3】特開2004−255242号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、FTワックスは、合成時に使用する触媒の種類や反応条件の違いによってそのオレフィン含有量が左右される傾向にある。上述したようにFTワックスはクリーン燃料の原料として有用であるが、本発明者らの検討によると、オレフィンが多く含まれるFTワックスを水素化分解しようとすると、上記特許文献1〜3に記載の技術であっても中間留分選択性を高水準に維持することが困難となり、中間留分の収率が低下してしまうことが判明している。そのため、ワックスにオレフィンが含まれる場合であっても水素化分解における中間留分選択性を十分維持できる技術が必要であるが、これを実現できる有効な手段は未だ開発されていないのが実情である。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、オレフィン含有ワックスを水素化分解する際の中間留分選択性を高水準に維持することを可能とするワックスの水素化分解方法及びかかる水素化分解方法を用いる燃料基材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討した結果、オレフィンが含まれるワックスを、水素化分解能を有する触媒に接触させる前に特定の触媒と接触させることにより、分解生成物における中間留分(沸点145〜360℃の留分)の含有量を高水準に維持でき、その結果、燃料基材として有用な成分(中間留分)を収率よく得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のワックスの水素化分解方法は、水素存在下、オレフィンを含有するワックスを、実質的に酸機能を有していない触媒を含む第1の触媒層及び水素化分解能を有する触媒を含む第2の触媒層にこの順序で流通させることを特徴とする。
【0008】
本発明において「実質的に酸機能を有していない触媒」とは、触媒が酸性質を有していない、又は、触媒が酸性質を有している場合には、その酸点がパラフィンの異性化及び分解に関与しない、或いは、オレフィンの重合に関与しないことを意味する。
【0009】
本発明のワックスの水素化分解方法によれば、オレフィンを含有するワックスを上記の触媒層に流通させることにより、ワックスの水素化分解における中間留分選択性を高水準に維持することができ、ワックスから取得される燃料基材として有用な成分の収率を十分確保することが可能となる。
【0010】
本発明によって上記の効果が奏される理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは以下のとおり推察する。まず、中間留分選択性の低下の大きな要因は、オレフィンが水素化分解能を有する触媒に接触する際の発熱反応によって触媒層における反応温度が局所的に上昇してしまうことにあると考えられる。これに対して、本発明のワックスの水素化分解方法によれば、酸機能を有していない触媒を含む触媒層にオレフィンを接触させることで水素化分解能を有する触媒での発熱反応が有効に抑制され、水素化分解触媒の中間留分選択性を十分維持することができたものと推察される。
【0011】
本発明のワックスの水素化分解方法においては、第1の触媒層に含まれる触媒が、担体と、この担体上に担持された第VIII族に属する金属とを含み、金属の担持量が担体に対して0.005〜0.010質量%であるものであることが好ましい。
【0012】
また、上記担体が、シリカ、アルミナ及びジルコニアからなる群より選択される1種以上の酸化物を含むものであることが好ましい。
【0013】
本発明のワックスの水素化分解方法においては、上記ワックスが、フィッシャー・トロプシュ合成法により得られるものであることが好ましい。
【0014】
本発明のワックスの水素化分解方法においては、第2の触媒層に含まれる触媒が、超安定化Y型ゼオライトを含むものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記本発明のワックスの水素化分解方法によって得られた水素化分解物を分留し燃料基材を得ることを特徴とする燃料基材の製造方法を提供する。かかる燃料基材の製造方法によれば、オレフィンを含有するワックスから燃料基材を経済性よく製造することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、オレフィン含有ワックスを水素化分解する際の中間留分選択性を高水準に維持することを可能とするワックスの水素化分解方法及びかかる水素化分解方法を用いる燃料基材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において、同一または相当要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明のワックスの水素化分解方法が実施される炭化水素油(燃料基材)製造装置の一例を示すフロー図である。図1に示される炭化水素油製造装置100は、オレフィンを含有するワックスから、燃料基材として有用な成分が含まれる炭化水素油を製造する装置である。
【0019】
図1に示される炭化水素油製造装置100は、オレフィンを含有するワックスを水素化分解する反応塔10と、反応塔10を経た水素化分解物を所望の留分に分留するための蒸留塔20とを備えている。そして、反応塔10の塔頂部にはワックスを反応塔10に供給するための供給ラインL1が接続されており、さらにこのラインL1には水素が導入されるラインL2が接続されている。これらのラインを通じて反応塔10にワックス及び水素が供給される。また、反応塔10の底部と蒸留塔20とが移送ラインL3で接続されており、反応塔10を経たワックス(水素化分解物)はこのラインL3を通じて蒸留塔20に送られる。
【0020】
本実施形態においては、反応塔10が、実質的に酸機能を有していない触媒を含む第1の触媒層12、及び、水素化分解能を有する触媒を含む第2の触媒層14を塔頂部側からこの順で有している。そして、この反応塔10において、本発明のワックスの水素化分解方法が実施される。
【0021】
反応塔10に供されるオレフィンを含有するワックスとしては、オレフィンを好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、さらにより好ましくは20質量%以上含有するワックスが挙げられる。オレフィンの含有量が10質量%以上であると中間留分選択性の低下の度合いが大きくなるため、このようなワックスを水素化分解する場合は特に本発明による中間留分選択性の維持効果がより有効に発揮される。
【0022】
ワックスとしては、その炭素数については特に制限はないが、例えば、炭素数20以上、好ましくは炭素数20〜80程度の炭化水素を含むものが挙げられる。本実施形態においては、ワックスが炭素数20〜80の炭化水素を80質量%以上含むものであることがより好ましい。
【0023】
また、本実施形態においては、好ましくは炭素数20以上、より好ましくは炭素数20〜80のノルマルパラフィンを、好ましくは75質量%以上、より好ましくは80質量%以上含有するワックスが反応塔10での水素化分解処理に供される。
【0024】
ワックスの製法については特に制限はなく、石油系および合成系の各種ワックスを原料にすることができる。特に好ましいワックスとしては、フィッシャー・トロプシュ合成法(FT合成法)により製造されるいわゆるFTワックスを挙げることができる。
【0025】
FT合成法によって得られた炭素数20以上の炭化水素を80質量%以上含むFTワックスには、合成に用いた触媒の種類や反応条件等の違いによりオレフィンが20質量%以上含まれることがある。このようなワックスを水素化分解する場合、特に中間留分選択性の低下を抑制することが困難となるが、本発明のワックスの水素化分解方法によれば、中間留分選択性を十分維持することができる。
【0026】
第1の触媒層12に含まれる触媒としては、実質的に酸機能を有していないものであれば特に限定されないが、例えば、シリカ、アルミナ及びジルコニアからなる群より選択される1種以上の酸化物を含んで構成される担体に、活性金属として周期律表第VIII族に属する金属を担持したものが挙げられる。
【0027】
第VIII族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金が好ましく、ニッケル、パラジウム及び白金がより好ましい。これらの金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0028】
これらの金属は、含浸やイオン交換等の常法によって上述の担体に担持させることができる。担持する金属量は、担体に対して0.001〜0.050質量%であることが好ましく、0.005〜0.010質量%であることがより好ましい。かかる担持量が、0.001質量%未満であると、中間留分選択性の維持効果を十分得るために必要とする触媒量が増えることで反応塔が巨大化し、プロセスの経済性が低下する傾向にある。一方、上記担持量が0.050質量%を超えると、得られる中間留分選択性の維持効果に対して使用する金属量が過剰となり、プロセスの経済性が低下する傾向にある。
【0029】
第2の触媒層14に含まれる触媒としては水素化分解能を有しているものであればよく、例えば、固体酸を含んで構成される担体に、活性金属として周期律表第VIII族に属する金属を担持したものが挙げられる。また、第2の触媒層14に含まれる触媒は、水素化分解能以外に水素化異性化能を有していてもよい。なお、分解とは分子量の低下を伴う化学反応を意味し、異性化とは分子量及び分子を構成する炭素数を維持したまま、炭素骨格の異なる他の化合物への転換を意味する。
【0030】
担体に含まれる固体酸としては、例えば、超安定化Y型(USY)ゼオライト、モルデナイト、βゼオライト、フェリエライト、SSZ−22、シリカアルミナフォスフェート、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアなどが挙げられる。これらのうちUSYゼオライトが担体に含まれることが好ましい。USYゼオライトは、Y型のゼオライトを水熱処理及び/又は酸処理により超安定化したものであり、Y型ゼオライトが本来有する20Å以下のミクロ細孔と呼ばれる微細細孔構造に加え、20〜100Åの範囲に新たな細孔が形成されている。担体としてUSYゼオライトを使用する場合、その平均粒子径に特に制限は無いが、好ましくは1.0μm以下、より好ましくは0.5μm以下である。また、USYゼオライトにおいて、シリカ/アルミナのモル比率(アルミナに対するシリカのモル比率;以下、「シリカ/アルミナ比」という。)は25〜120であると好ましく、30〜60であるとより好ましい。特に、平均粒子径0.5μm以下、且つ、シリカ/アルミナ比30以上のUSYゼオライトを用いるのが好ましい。
【0031】
本実施形態において更に好適な担体としては、USYゼオライトと、シリカアルミナ、アルミナボリア及びシリカジルコニアの中から選ばれる1種類以上の固体酸とを含んで構成されるものが挙げられる。これらのうち、USYゼオライトとシリカアルミナとを含んで構成されるものが特に好ましい。
【0032】
触媒担体は、上記固体酸とバインダーとを含む混合物を成形して製造することができる。バインダーとしては、特に制限はないが、アルミナ、シリカ、シリカアルミナ、チタニア、マグネシアが好ましく、アルミナがより好ましい。
【0033】
第VIII族の金属としては、具体的にはコバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム、白金などが挙げられる。これらのうち、ニッケル、ロジウム、パラジウム、イリジウム及び白金が好ましく、パラジウム及び白金がより好ましい。これらの金属は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0034】
これらの金属は、含浸やイオン交換等の常法によって上述の担体に担持させることができる。
【0035】
第1の触媒層及び第2の触媒層のそれぞれの体積は特に限定されないが、本発明においては第2の触媒層の体積V2に対する第1の触媒層の体積V1の比[V1/V2]が1/20〜1/4となるように設定することが好ましい。かかる比が、1/20未満であると中間留分選択性を十分に確保することが困難となる傾向にあり、1/4を越えると触媒の使用量に対して得られる中間留分選択性の維持効果が相対的に小さくなり、プロセスの経済性が低下する傾向にある。
【0036】
また、反応塔10が有する第1の触媒層及び第2の触媒層を流れ方向に垂直な平面で切断したときの断面積が切断位置によらず一定である場合、図1に示される第1の触媒層の厚みD1に対する第2の触媒層の厚みD2の比[D2/D1]を1/20〜1/4の範囲内とすることが好ましい。
【0037】
反応塔10でのワックスの水素化分解は、次のような反応条件下で行うことができる。水素分圧は、1〜12MPaが好ましく、2〜6MPaがより好ましい。ワックスの液空間速度(LHSV)は、0.2〜5.0h−1が好ましく、0.5〜3.0h−1がより好ましい。水素/油比は、200〜850NL/Lが好ましく、350〜650NL/Lがより好ましい。
【0038】
なお、本明細書において、「LHSV(liquid hourly space velocity;液空間速度)」とは、触媒が充填されている触媒層の容量当たりの、標準状態(25℃、101325Pa)における原料油(オレフィンを含むワックス)の体積流量のことをいい、単位「h−1」は時間(hour)の逆数を示す。また、水素/油比における水素容量の単位である「NL」は、正規状態(0℃、101325Pa)における水素容量(L)を示す。
【0039】
また、水素化分解における反応温度は、160〜350℃が好ましく、200〜330℃がより好ましい。
【0040】
なお、図1に示される反応塔10ではワックスをダウンフローで供給するが、必要に応じて第1の触媒層12及び第2の触媒層14の順序を逆にし、アップフローで供給することもできる。この場合、水素化分解処理を経たワックスは反応塔10の塔頂部から蒸留塔20へと移送される。
【0041】
蒸留塔20としては、公知の蒸留塔を使用できる。蒸留塔20では、反応塔10を経たワックス(水素化分解物)が、例えば、ナフサ(沸点145℃以下の留分)、灯油留分(沸点145〜260℃の留分)、軽油留分(沸点260〜360℃の留分)、ワックス留分(沸点360℃以上の留分)のように所望の留分に分別される。燃料基材として利用されるナフサ、灯油留分及び軽油留分はそれぞれ、例えば、蒸留塔20に接続されたラインL4〜L6から回収できる。
【0042】
上記の炭化水素油製造装置100によれば、本発明のワックスの水素化分解方法が実施される反応塔10を備えることにより、オレフィンを含有するワックスを水素化分解する場合であっても中間留分選択性を高水準に維持することができ、燃料基材として有用な成分(特には、灯油留分及び軽油留分が含まれる中間留分)を収率よく得ることができる。
【0043】
本実施形態では、反応塔10を経たワックス(水素化分解物)は、例えば、気液分離槽で、未反応水素ガスや炭素数4以下の炭化水素からなる軽質炭化水素ガスと、炭素数5以上の炭化水素からなる液状の炭化水素組成油とに分離された後、蒸留塔20に供給されてもよい。
【0044】
図2は、本発明のワックスの水素化分解方法が実施される炭化水素油(燃料基材)製造装置の他の例を示すフロー図である。図2に示される炭化水素油製造装置110は、炭化水素油製造装置100における反応塔10に代えて、移送ラインL7を介して直列に接続された2つの反応塔30及び40を備えていること以外は炭化水素油製造装置100と同様の構成を有している。炭化水素油製造装置110では、反応塔30が上述した第1の触媒層と同様の触媒層16を備え、反応塔40が上述した第2の触媒層と同様の触媒層18を備えており、これら2つの反応塔30及び40によって本発明のワックスの水素化分解方法が実施される。
【0045】
反応塔30及び反応答40での水素化分解は、次のような反応条件下で行うことができる。水素分圧は、1〜12MPaが好ましく、2〜6MPaがより好ましい。ワックスの液空間速度(LHSV)は、0.2〜5.0h−1が好ましく、0.5〜3.0h−1がより好ましい。水素/油比は、200〜850NL/Lが好ましく、350〜650NL/Lがより好ましい。また、水素化分解における反応温度は、160〜350℃が好ましく、200〜330℃がより好ましい。
【0046】
触媒層16に含まれる触媒としては、上述した実質的に酸機能を有していない触媒が挙げられる。また、触媒層18に含まれる触媒としては、上述した水素化分解能を有する触媒が挙げられる。
【0047】
また、反応塔30の触媒層16及び反応塔40の触媒層18のそれぞれの体積は特に限定されないが、本実施形態においては触媒層18の体積V4に対する触媒層16の体積V3の比[V3/V4]が1/20〜1/4となるように設定することが好ましい。また、触媒層16及び触媒層18を流れ方向に垂直な平面で切断したときの断面積が切断位置によらず一定である場合、図2に示される触媒層14の厚みD3に対する触媒層16の厚みD4の比[D4/D3]を1/20〜1/4の範囲内とすることが好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<触媒の調製>
(触媒1)
平均粒子径0.4μmのUSYゼオライト(シリカ/アルミナのモル比:40)、シリカアルミナ(アルミナ含有量14質量%)及びバインダーとしてアルミナバインダーを重量比3:57:40で混合混練し、これを直径1.5mm、長さ約3mmの円柱状に成型し、担体を得た。この担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒1を得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.8質量%であった。
【0050】
(触媒2)
平均細孔径100Åのアルミナを直径1.5mm、長さ約3mmの円柱状に成型した担体に、硝酸ニッケル水溶液を含浸し、ニッケルを担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒2を得た。なお、ニッケルの担持量は、担体に対して0.007質量%であった。
【0051】
(触媒3)
平均細孔径100Åのアルミナを直径1.5mm、長さ約3mmの円柱状に成型した担体に、塩化白金酸水溶液を含浸し、白金を担持した。これを120℃で3時間乾燥し、次いで500℃で1時間焼成することで触媒3を得た。なお、白金の担持量は、担体に対して0.005質量%であった。
【0052】
<オレフィン含有ワックスの水素化分解>
(実施例1)
固定床反応器の上流側(上層)に触媒2を15ml、下流側(下層)に触媒1を100mlそれぞれ充填し、反応器内に2層構成の触媒層を設けた。次に、この反応器に対して、水素を導入し、345℃で4時間の還元処理を施した。
【0053】
還元処理後、反応器の塔頂(触媒層の上層側)より、原料であるFTワックス(炭素数20〜81の炭化水素の含有量95質量%、ノルマルパラフィン含有量:78質量%、オレフィン含有量:16質量%)を200ml/hの速度で供給して、水素気流下、下記の反応条件でワックスを水素化分解した。
【0054】
すなわち、FTワックスに対して水素/油比590NL/Lで水素を塔頂より供給し、水素分圧4MPaの条件下、下記式(1)で定義される分解率が80質量%となるように反応温度を調節した。このときの反応温度は315℃であった。
【数1】



なお、分解率は、FTワックスの水素化分解物(生成油及び生成ガス)のガスクロマトグラフィー測定の結果から算出した。
【0055】
更に、ワックスの水素化分解により得られた生成油を蒸留し、沸点145℃〜360℃の中間留分を得た。得られた中間留分について、中間留分選択性(質量%)及び原料であるFTワックスに対する中間留分収率(質量%)を求めた。得られた結果を表1に示す。なお、中間留分選択性は、上記水素化分解条件で得られた沸点360℃以下の留分の中で沸点145℃〜360℃の中間留分が占める割合(質量%)を意味する。
【0056】
(実施例2)
実施例1における固定床反応器の上流側(上層)に、触媒2の代わりに触媒3を10ml充填したこと以外は実施例1と同様にしてワックスの水素化分解を行った。なお、分解率に基づく反応温度の調節は行わず実施例1と同じ反応温度で水素化分解を実施した。このときの分解率は79%であった。
【0057】
その後、実施例1と同様にして中間留分を得、中間留分選択性及び中間留分収率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0058】
(比較例1)
実施例1における固定床反応器の上流側(上層)に触媒2を充填しなかったこと以外は実施例1と同様にしてワックスの水素化分解を行った。なお、分解率に基づく反応温度の調節は行わず実施例1と同じ反応温度で水素化分解を実施した。このときの分解率は84%であった。
【0059】
その後、実施例1と同様にして中間留分を得、中間留分選択性及び中間留分収率を求めた。得られた結果を表1に示す。
【0060】
【表1】



【0061】
表1に示されるように、酸機能を有していない触媒層及び水素化分解能を有する触媒層の順にワックスを流通させた実施例1及び2のワックスの水素化分解方法は、ワックスがオレフィンを高濃度で含有する場合であっても十分に高い中間留分選択性を維持することができ、中間留分を十分な収率で得ることができることが確認された。

【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明のワックスの水素化分解方法が実施される炭化水素油(燃料基材)製造装置の一例を示すフロー図である。
【図2】本発明のワックスの水素化分解方法が実施される炭化水素油(燃料基材)製造装置の他の例を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0063】
10,30,40…反応塔、12…第1の触媒層、14…第2の触媒層、16…触媒層(第1の触媒層)、18…触媒層(第2の触媒層)、20…蒸留塔、100,110…炭化水素油製造装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素存在下、
オレフィンを含有するワックスを、
実質的に酸機能を有していない触媒を含む第1の触媒層、及び、水素化分解能を有する触媒を含む第2の触媒層にこの順序で流通させることを特徴とするワックスの水素化分解方法。
【請求項2】
第1の触媒層に含まれる前記触媒が、担体と、該担体上に担持された第VIII族に属する金属とを含み、前記金属の担持量が前記担体に対して0.005〜0.010質量%であるものであることを特徴とする請求項1に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項3】
前記担体が、シリカ、アルミナ及びジルコニアからなる群より選択される1種以上の酸化物を含むものであることを特徴とする請求項2に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項4】
前記ワックスが、フィッシャー・トロプシュ合成法により得られるものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項5】
第2の触媒層に含まれる前記触媒が、超安定化Y型ゼオライトを含むものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のワックスの水素化分解方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のワックスの水素化分解方法により得られる水素化分解物を分留し燃料基材を得ることを特徴とする燃料基材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−270067(P2007−270067A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−100324(P2006−100324)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度新エネルギー・産業技術総合開発機構 重質残油クリーン燃料転換プロセス技術開発委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受けるもの
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】