説明

一体化成形品およびその製造方法

【課題】導電性繊維と強化繊維樹脂を含む母材と、金属製部材の一体化成形品において、金属製部材の耐電蝕性と高い接合強度とを両立した一体化成形品を提供する。
【解決手段】導電性繊維2と熱可塑性樹脂を含む母材1に、金属からなる部材3が嵌め込まれてなる一体化成形品であって、該母材1と該部材3とが絶縁層4を介して一体化されてなり、該母材1と該絶縁層4との界面において該導電性繊維2が該絶縁層4に貫入して接合されてなる一体化成形品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性繊維と樹脂を含む母材と、金属製部材から構成される一体化成形品に関するものであり、さらに詳しくは金属部材の電蝕を防止するとともに、金属製部材の取り付け部強度に優れた一体化成形品並びにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維と樹脂からなる繊維強化樹脂は、軽量、高強度、高弾性率などの利点を有すことから電子機器筐体や自動車用外装部材などに利用されている。また、用途に適した構造を形成するため、繊維強化樹脂からなる部材を、繊維強化樹脂あるいは金属等の異種材料からなる他部材と接合し、複合部材として一般に利用される。繊維強化樹脂と他部材との接合においては、これまでにも様々な方法が検討されてきたが、その一つに、他部材との締結機能を有す部材を繊維強化樹脂と一体化させた繊維強化樹脂成形体を例示できる。
【0003】
特許文献1には、繊維強化樹脂部材に締結用部材を埋設した一体化成形品が開示されている。このような構成とすることで、締結用部材を用いてボルト留め等の手段を講じ、他部材を高い位置決め精度で容易に接合することができる。しかし、繊維強化樹脂が導電性の強化繊維を含む場合、繊維強化樹脂と金属との腐蝕電位差の差異により金属に腐蝕(電蝕)を生じ、突発的に金属製部材が低強度で破壊する場合があり、接合の長期信頼性を保証することが困難であった。
【0004】
この課題に対して、特許文献2には、導電性の強化繊維を含む繊維強化樹脂と金属製部材の一体化物において、金属製部材と繊維強化樹脂を電気的にシールドし、金属製部材の電蝕を防止する技術が開示されている。これによれば、導電性の炭素繊維を含む強化繊維樹脂と金属製部材とを、非導電性のガラス繊維強化樹脂層を介して一体化することにより金属製部材の電蝕を抑制することができる。しかし、金属製部材をガラス繊維強化樹脂層に圧入するとの構成から、金属製部材を支持すべきガラス繊維強化樹脂層に損傷を生じやすい。そのため、金属製部材に長期的な荷重負荷が負荷された際、締結部材が低強度で引き抜けを生じることがある。加えて、その製造において個々部品の組み立て式からなっているため、部品の加工精度に締結部材の取り付け部強度が大きく左右されることも、金属製部材の取り付け部強度の信頼性を図る上で課題であった。
【0005】
このように、導電性繊維を含む繊維強化樹脂と金属製部材からなる一体化成形品においては、高い位置決め精度で他部材と容易に接合できるという本来の利点を保持しながら、金属製部材の耐電蝕性と高い取り付け部強度を両立させるための技術は確立されていないのが現状であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3878825号公報
【特許文献2】特開2008−215465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、導電性繊維と樹脂を含む母材と、金属製部材の一体化成形品において、金属製部材の耐電蝕性と取り付け部の高い接合強度とを両立する一体化成形品とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するため、本発明は以下の構成からなる。すなわち、
(i)導電性繊維(a)と樹脂を含む母材(A)に、金属からなる部材(B)が嵌め込まれてなる一体化成形品であって、母材(A)と部材(B)とが絶縁層(C)を介して一体化されてなり、母材(A)と絶縁層(C)との界面において導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入して接合されてなる一体化成形品。
(ii)前記樹脂が熱可塑性樹脂である、(i)に記載の一体化成形品。
(iii)導電性繊維(a)の貫入の深さの平均値が、界面に対して0.1〜6mmである、(i)または(ii)に記載の一体化成形品。
(iv)前記絶縁層(C)が非導電性繊維(b)と熱可塑性樹脂を含む、(i)〜(iii)のいずれかに記載の一体化成形品。
(v)前記導電性繊維(a)と前記非導電性繊維(b)とが交絡してなる、(iv)に記載の一体化成形品。
(vi)前記非導電性繊維(b)は、その数平均繊維長が0.1mm〜10mmである、(iv)または(v)に記載の一体化成形品。
(vii)前記非導電性繊維(b)は、絶縁層(C)における体積含有率(Vf)が10〜50%である、(iv)〜(vi)のいずれかに記載の一体化成形品。
(viii)前記母材(A)と前記絶縁層(C)とが溶着されてなる、(i)〜(vii)のいずれかに記載の一体化成形品。
(ix)前記絶縁層(C)は、ボイド率が10%以下である、(i)〜(viii)のいずれかに記載の一体化成形品。
(x)前記部材(B)がボルト、ナット、ヒンジ、カラー、ブッシュ、ブラケットから選択される少なくとも1種の締結具である、(i)〜(ix)のいずれかに記載の一体化成形品。
(xi)前記部材(B)が鈎状、楔状、波状、テーパー形状から選択される少なくとも1種の嵌め込み構造で前記絶縁層(C)と結合されてなる、(i)〜(x)のいずれかに記載の一体化成形品。
(xii)前記導電性繊維(a)は、数平均繊維長が0.1mm〜10mmである、(i)〜(xi)のいずれかに記載の一体化成形品。
(xiii)前記導電性繊維(a)が炭素繊維である、(i)〜(xii)のいずれかに記載の一体化成形品。
(xiv)(ii)に記載の一体化成形品の製造方法であって、軟化状態にある前記母材(A)に前記部材(B)を加圧して挿入し、該母材(A)を固化させ一体化する際に、軟化状態にある非導電性基材を該母材(A)と該部材(B)の間に介在させる、一体化成形品の製造方法。
(xv)軟化状態にある前記母材(A)のスプリングバック値が300〜1000%である、(xiv)に記載の一体化成形品の製造方法。
(xvi)前記導電性繊維(a)は、軟化状態にある前記母材(A)における体積含有率(Vf)が10〜50%である、(xiv)または(xv)に記載の一体化成形品の製造方法。
(xvii)軟化状態にある前記非導電性基材において、前記非導電性基材を構成する樹脂の粘度が10〜1200Pa・sである、(xiv)〜(xvi)のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
(xviii)前記母材(A)の前記部材(B)を嵌め込む部位に前記非導電性基材を配す、(xiv)〜(xvii)のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
(xix)前記部材(B)を前記非導電性基材で被覆する、(xiv)〜(xviii)のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
(xx)前記母材(A)の前記部材(B)を嵌め込む部位に切り込み加工を施す、(xiv)〜(xix)のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一体化成形品は、導電性繊維を含む母材と金属製部材と電気絶縁することにより金属部材の電蝕を効果的に防止できるとともに、絶縁層に対して導電性繊維を貫入させ、金属性部材への負荷を母材に効率的に分散させることにより金属製部材の引抜強度を高めた一体化成形品とすることができる。このことから、自動車、電気・電子機器、家電製品、または、航空機の用途に用いられる部品・部材に有用に供される。
また、本発明の一体化成形品の製造方法は、母材成形と絶縁層の形成、金属性部材の一体化を一工程で完結することを可能とし、煩雑な組み立て工程を必要とせず、本発明の一体化成形品を効率的に生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一体化成形品の一例を示す透視断面図である。
【図2】図1における母材(A)と絶縁層(C)との界面付近の拡大図である。
【図3】母材(A)と絶縁層(C)との界面の評価手順を説明するための界面付近の模式図である。
【図4】導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さの評価手順を説明するための界面付近の模式図である。
【図5】本発明の一体化成形品の他の一例を示す透視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一体化成形品について、望ましい実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明の一体化成形品は、導電性繊維(a)と樹脂を含む母材(A)に、金属からなる部材(B)が嵌め込まれてなる一体化成形品であって、母材(A)と部材(B)とが絶縁層(C)を介して一体化されてなり、母材(A)と絶縁層(C)との界面において導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入して接合されてなる一体化成形品である。
【0013】
母材(A)は、導電性繊維(a)と樹脂とから構成される。母材(A)の前駆体としては、本発明の効果を損なわない限り特に形態は制限されないが、導電性繊維(a)からなる繊維基材に熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のような樹脂を含浸させた繊維強化樹脂シートを例示することができる。さらに、繊維基材としては、繊維をシート状、布帛状またはウェブ状などの形態に加工した基材を利用することができる。この場合、繊維が単糸状に十分に分繊されるという点から、乾式法や湿式法で得られる不織布形態が好ましい。さらには、繊維の単糸同士が有機化合物で目留めされた基材であることが、取扱い性の観点から好ましい。
【0014】
金属からなる部材(B)は、母材(A)に絶縁層(C)を介してその一部あるいは全部が埋設され、一体化成形品に取り付けられる。このとき、部材(B)と絶縁層(C)の接合をより強固なものとするため部材(B)の絶縁層(C)と接触する面を改質して用いても良い。具体的には、部材(B)の表面粗さを調製して絶縁層(C)とのアンカー力を高める方法や、絶縁層(C)を構成する樹脂と親和性の高い官能基群を化学的エッチングにより部材(B)の表層に付与する方法が例示できる。また、絶縁層(C)と接着力が高いプライマーコーティングを部材(B)に施しても良い。また、本発明においては、部材(B)としてボルト、ナット、ヒンジ、カラー、ブッシュ、ブラケットから選択される少なくとも1種の締結具を具備する金属製部材であることが好ましい。部材(B)の取り付け部強度に優れる本発明の構成において、部材(B)が上記機能を備えることにより、本発明の一体化成形品を他部材と強固に接合することができ、好ましく利用できる。
【0015】
絶縁層(C)は電気的な絶縁性を示す樹脂材料より構成される。絶縁層(C)に関しては本発明の効果を損なわない限り、特に形態は制限されず、絶縁層(C)の絶縁強化を目的として夫々添加剤を含ませても良いし、絶縁層(C)の力学的特性を高めて部材(B)の取り付け部強度を高めるために絶縁性を損なわない範囲で繊維状物を含ませて強化しても良い。
【0016】
本発明の一体化成形品は、母材(A)と金属からなる部材(B)とが絶縁層(C)を介して一体化されてなる一体化成形品である。この構成とすることで絶縁層(C)が母材(A)と部材(B)とを電気的にシールドされ、母材(A)と部材(B)との腐蝕電位差による部材(B)の電蝕が効果的に防止される。
【0017】
さらに本発明の一体化成形品は、母材(A)と絶縁層(C)との界面において母材(A)に含む導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入して接合されてなる。ここで、導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入するとは、母材(A)と絶縁層(C)との界面に対して、導電性繊維(a)が絶縁層(C)側に侵入した状態を指す。ここで、母材(A)と絶縁層(C)の界面は以下のように定義する。
【0018】
本発明の一体化成形品の断面略図を図1に、図1における母材(A)と絶縁層(C)との境界近傍の拡大図を図2に示している。図2を正方格子で分割したのが図3である。この正方格子で分割された領域を以下では要素と呼ぶ。さらに図3の各要素に対して、母材(A)を構成する導電性繊維(a)の体積分率Vfexを測定し、Vfexに応じて要素を次の三つの要素群に分類する。
要素A群:0.9Vf<Vfex≦Vf
要素B群:0.05Vf<Vfex≦0.9Vf
要素C群:0≦Vfex<≦0.05Vf
【0019】
ここで、Vfは基材(a)に対して測定される導電性繊維(a)の体積分率の平均値である。すなわち、要素A群は母材(A)より構成される領域であり、要素B群は母材(A)と絶縁層(C)とから構成され、導電性繊維(a)を含む領域である。要素C群は絶縁層(C)から構成され、導電性繊維(a)を実質的に含まない領域に対応する。図3には要素A群を黒塗りで、要素B群を白抜きで、要素C群を斜線網掛けに色分けして示している。さらに、界面を定義するにあたり、次の要素(B−1)群を導入する。
【0020】
要素(B−1)群:要素B群であって、要素A群と節点を共有する要素
ここで節点とは図3における格子模様の交差点である。
【0021】
要素(B−1)群を構成する要素の中心点を結ぶことにより曲線(図3中の5あるいは図1中の5に図示)を得ることができる。この曲線は、平均的な界面位置を表しており、本発明ではこの曲線を母材(A)と絶縁層(C)との界面として扱う。
【0022】
図1や図3に例示するように、界面を介して導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入すると、部材(B)に負荷された荷重は絶縁層(C)を介して母材(A)の広範囲にわたって分散される。その結果、絶縁層(C)の破壊が生じにくくなる。引いては母材(A)の破壊を効果的に誘引して部材(B)の取り付け部強度が飛躍的に高められる。
【0023】
さらに、導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さを調節することで、母材(A)と絶縁層(C)との界面接着をさらに高めることができる。貫入深さの測定に当たって、次の要素群を導入する。
要素(B−2)群:要素B郡であって、要素B郡から要素(B−1)群を除外した要素
要素(B−2−1)群:要素(B−2)郡であって、要素(B−1)群と節点を共有せず、かつ、要素C群と節点を共有する要素
【0024】
要素(B−2−1)群に対応する要素を、I〜IXの添え字付きで図3に模式的に示している。さらに、要素(B−2−1)群に属す要素VIIIについて、貫入深さを測定する様子を図4に示している。すなわち、要素VIIIの中心点を円心とする同心円が、一つの接点でもって界面と接するようにする。このとき、同心円の半径は要素VIIIと界面との最小距離に対応し、この長さが導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さWVIIIである。貫入深さは、要素(B−2−1)群に属する全ての要素について評価し、その平均値を求めた。
【0025】
ここで、母材(A)と絶縁層(C)との界面接着を高めるために、導電性繊維(a)の貫入の深さの平均値が、界面に対して0.1mm以上であることが好ましく、0.4mm以上であることがさらに好ましい。部材(B)に生じた負荷は絶縁層(C)を経て、絶縁層(C)と母材(A)の界面を介して母材(A)へと伝達される。このとき、導電性繊維(a)の貫入の深さの平均値が0.1mm以上であると、導電性繊維(a)に荷重が効率的に伝達され、界面近傍の母材(A)に対して負荷が均等に分散されやすくなる。その結果、界面近傍での破壊が効果的に抑制され、部材(B)の取り付け部強度に優れた一体化成形品が得られる。一方、導電性繊維(a)が長すぎる場合には、繊維のたわみが顕著となるため、強度が損なわれる場合がある。これは、たわみを生じた界面近傍の導電性繊維(a)に負荷がかかると、容易に伸長してしまい、該導電性繊維(a)荷重支持能が低下することに起因している。そのため、絶縁層(C)に貫入する導電性繊維(a)の過度のたわみを防止し、部材(B)の取り付け部強度を適切に保つために、貫入深さの平均値が6mm以下であることが好ましく、4mm以下であることがさらに好ましい。
【0026】
これまで、母材(A)と絶縁層(C)の界面あるいは絶縁層(C)に対する導電性繊維(a)の貫入深さを定義するため、要素A群、要素B群、要素C群、要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)群を導入した。これらを精度良く分類し、適切な界面位置あるいは導電性繊維(a)の貫入深さを与えるための具体的な方法について述べておく。
【0027】
界面あるいは貫入深さの評価は、図1あるいは図2に例示するような一体化成形品の断面を好適に利用できる。その際、0.3μm程度の表面粗さとなるまで研磨すると導電性繊維(a)の分布を明瞭に観察できる。この検査断面をレーザー顕微鏡(たとえば、キーエンス(株)製VK−9510型)で拡大し、拡大画像の電子ファイルを取得する。取得した電子ファイルをPCにて読み込み、画像処理ソフト(たとえば、Adobe社製Photoshop)にて結合し、さらに、導電性繊維(a)が明瞭となるように導電性繊維(a)を表すピクセルを白色とし、それ以外を表すピクセルを黒色とする二値化処理を行った。この統合画像を汎用解析ソフト(たとえば、Mathworks社製Matlab)にて読み込み、PC上に画像を展開し、種々要素を配置するための格子を配置した。各々の格子について、導電性繊維(a)の体積分率Vfex(=(要素に占める白色ピクセル数)/(要素の全ピクセル数))を算出し、Vfexに応じて要素を要素A群、要素B群、要素C群に分類した。このとき、格子の一辺の長さを導電性繊維(a)の平均直径の10倍程度とすることで、精度良く各要素群へ分類することができる。
【0028】
要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)群の分類は、要素(B)に属する全ての要素に対して、要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)の要素条件の該非判定を行い分類した。母材(A)と絶縁層(C)の界面に関しては、要素(B−1)群の中心点座標を直線で結ぶことで得られる曲線として評価した。
【0029】
絶縁層(C)に対する導電性繊維(a)の貫入深さに関して、要素(B−2−1)群に属する要素に着目して、図4に示すように、前記要素の中心点を円心とする同心円の円周が界面を為す曲線と接するように配置し、前記同心円の半径を前記要素における導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さとして求めた。貫入深さは要素(B−2−1)群に属す全ての要素について行い、その平均値を求めた。なお、要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)群の該非判定、並びに要素(B−2−1)群に属する要素の貫入深さの評価は、Matlabなどの汎用解析ソフト上に構築したルーチンプログラムにより行った。
【0030】
上記手法を用いれば、界面近傍において、導電性繊維(a)の繊維配置が複雑に乱れている場合や、絶縁層(C)が繊維状物を含む場合でも、界面位置や貫入深さを効率的かつ精度良く評価することができる。さらに、評価値に精度を期すためには、母材(A)と絶縁層(C)の接触部全域にわたって界面位置を特定し、貫入深さの平均値を求めることが好ましい。
【0031】
本発明においては、絶縁層(C)が非導電性繊維(b)と熱可塑性樹脂を含むことが好ましい。絶縁層(C)が非導電性繊維(b)を含むことで絶縁層(C)の絶縁性を保持したまま、絶縁層(C)の機械的な強度が上昇し、部材(B)の取り付け部強度が高まる。また、熱可塑性樹脂を含むことで一体化成形品の成形時において絶縁層(C)に柔軟性が付与され、絶縁層(C)と部材(B)との密着がより高められる。
【0032】
絶縁層(C)が非導電性繊維(b)を含む場合、導電性繊維(a)と非導電性繊維(b)とが交絡してなることが好ましい。ここで交絡とは、導電性繊維(a)からなる繊維束の内部に非導電性繊維(b)の少なくとも一部が内包されていること、あるいは、非導電性繊維(b)からなる繊維束の内部に導電性繊維(a)の少なくとも一部が内包されていることを意味する。この場合、交絡した非導電性繊維(b)と導電性繊維(a)との間で荷重が効率的に伝達され、母材(A)と絶縁層(C)との界面を強固に結着するようになる。そのため、部材(B)に対する引抜負荷のように該界面が引き剥がされる負荷が生じた場合に、部材(B)の取り付け部強度に優れる好ましい態様となる。
【0033】
また、絶縁層(C)における非導電性繊維(b)の数平均繊維長が0.1mm〜10mmであることが好ましく、0.3mm〜5mmであることがさらに好ましい。数平均繊維長を好ましい範囲内とすることで、絶縁層(C)における非導電性繊維(b)の過度のたわみが防止でき、導電性繊維(a)と非導電性繊維(b)とを効率的に交絡させることができる。
【0034】
さらに、絶縁層(C)の機械的な強度を高めて部材(B)の取り付け部強度を高めるために、絶縁層(C)のボイド率が10%以下であることが好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。ボイド率の下限については特に制限は無いが、繊維強化樹脂の一般的なボイド率下限として0.01%を例示できる。
【0035】
また、同様の観点から、絶縁層(C)において非導電性繊維(b)の体積含有率(Vf)が10〜50%であることが好ましく、20〜40%であることがさらに好ましい。体積含有率(Vf)が10%以上であると、絶縁層(C)に適度な剛性を付与でき、部材(B)の嵌め込み部の寸法安定性が高まる。また、体積含有率(Vf)を50%以下とすることで、一体化成形品の製造プロセスに依存せず、繊維量に対するマトリックス樹脂量が不足することによって生じる絶縁層(C)のボイドが低減され、製品歩留まりが高まる。
【0036】
金属からなる部材(B)と絶縁層(C)の接合をより強固とし、部材(B)の取り付け部強度を高めるには、部材(B)が鈎状、楔状、波状、テーパー形状から選択される少なくとも1種の嵌め込み構造であって、絶縁層(C)と結合されていることが好ましい。上記形状を有する部材(B)を用いると、母材(A)と絶縁層(C)の界面接着が健全である場合に、絶縁層(C)からの引き抜け抵抗が高められ、部材(B)の取り付け部強度が向上する。
【0037】
本発明においては、部材(B)への負荷に対して、母材(A)より破壊を生じた場合に好ましい部材(B)の取り付け部強度とすることができる。このような一体化成形品にあって、母材(A)における導電性繊維(a)の数平均繊維長が0.1mm〜10mmであることが好ましく、0.5mm〜5mmであることがさらに好ましい。数平均繊維長を好ましい範囲内とすることで、母材(A)の強度が最大限に発揮されるようになり、部材(B)の取り付け部強度が好ましく高められる。
【0038】
導電性繊維(a)としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はなく、金属繊維や各種強化繊維が用いられる。また、繊維に導電性を付与する目的で、ニッケルや銅やイッテルビウムなどの金属を被覆したものを用いても良い。とりわけ、上記母材(A)の強度を高める観点からは導電性繊維(a)として炭素繊維を用いることが好ましい態様である。
【0039】
母材(A)を構成する樹脂は、夫々の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を好ましく利用できる。ただし、後述する製造方法を活用できる観点から、熱可塑性樹脂を用いるのが好ましい。
【0040】
母材(A)に用いる熱可塑性樹脂としては、例えば、「ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステルや、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリブチレン等のポリオレフィンや、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)などのポリアリーレンスルフィド、ポリケトン(PK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルニトリル(PEN)、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、液晶ポリマー(LCP)」などの結晶性樹脂、「スチレン系樹脂の他、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリサルホン(PSU)、ポリエーテルサルホン、ポリアリレート(PAR)」などの非晶性樹脂、その他、フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系樹脂、およびアクリロニトリル系等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体および変性体等から選ばれる熱可塑性樹脂が挙げられる。中でも、得られる成形品の軽量性の観点からはポリオレフィンが好ましく、強度の観点からはポリアミドが好ましく、耐熱性の観点からポリアリーレンスルフィドが好ましく利用できる。
【0041】
母材(A)に用いる熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル、ビニルエステル、エポキシ、フェノール(レゾール型)、ユリア・メラミン、ポリイミド、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種類をブレンドした樹脂が挙げられる。また、絶縁層(C)を構成する樹脂に関しても特に制限はなく、上述した夫々の熱可塑性樹脂あるいは熱硬化性樹脂を用いることができる。
【0042】
導電性繊維(a)と熱可塑性樹脂とからなる母材(A)に、金属からなる部材(B)が嵌め込まれてなる一体化成形品は、軟化状態にある母材(A)に部材(B)を加圧して挿入し、母材を固化させ一体化する際に、軟化状態にある非導電性基材を母材(A)と部材(B)の間に介在させる一体化成形品の製造方法により好適に製造される。
【0043】
軟化状態にある母材(A)とは、母材(A)を構成する熱可塑性樹脂が軟化温度以上に加熱されて可塑化していることを意味する。非導電性基材は、絶縁層(C)の前駆体であって、樹脂あるいは樹脂と非導電性繊維(b)より構成される。軟化状態にある非導電性基材とは、非導電性基材を構成する樹脂が熱可塑性樹脂の場合には熱可塑性樹脂が加熱により可塑化していることを意味し、非導電性基材を構成する樹脂が熱硬化性樹脂の場合には熱硬化性樹脂が未硬化の状態にあることを意味する。熱可塑性樹脂が可塑化している状態、あるいは、熱硬化性樹脂が未硬化の状態にあると、通常、JIS K7199(1999年度改正)に基づくキャピラリーレオメーターにより、せん断速度100s−1の条件下で測定される樹脂の粘度が4000Pa・s未満になる。
【0044】
軟化状態にある母材(A)と部材(B)の間に軟化状態にある非導電性基材を配し、部材(B)を母材(A)に対して加圧すると、部材(B)の挿入に伴い母材(A)および非導電性基材に流動を生じる。このとき、母材(A)の流動によって非導電性基材は部材(B)を被覆するように賦形され、絶縁層(C)を形成する。また、母材(A)は流動を生じつつ絶縁層(C)に追従し、絶縁層(C)との界面を形成することにより、図1に図示する母材(A)、部材(B)および絶縁層(C)の構成が形成される。この後、母材(A)に含まれる熱可塑性樹脂の軟化温度未満にまで冷却することにより、母材(A)、部材(B)および絶縁層(C)を一体化した成形品を得ることができる。
【0045】
本発明の重要な点は、非導電性基材の流動並びに部材(B)への賦形が、母材(A)の流動によって駆動されることにより、絶縁層(C)となる非導電性基材へ母材(A)の一部が容易に侵入することにある。非導電性基材へ母材(A)が侵入した場合、図1に示すように凹凸形状を有する母材(A)と絶縁層(C)の界面が形成される。この凹凸形状の界面近傍の母材(A)では、母材(A)に不均一な流動が生じることに起因し、導電性繊維(a)の繊維配向が乱されている。このとき、絶縁層(C)となる非導電性基材は軟化状態にあるため、これら配向が乱れた繊維群が非導電性基材へ容易に貫入する。その結果、界面近傍での母材(A)と絶縁層(C)の密着が高められ、部材(B)の取り付け部強度に優れた一体化成形品とすることができる。
【0046】
また、軟化状態にある前記母材(A)のスプリングバック値を好ましい範囲内とすることで、絶縁層(C)に貫入する導電性繊維(a)の貫入深さを長くするとともに、一体化成形品の部材(B)の挿入部位における母材(A)の強度低下を防ぐことによって、部材(B)の取り付け部強度をより高めた構成とできる。
【0047】
本発明で定義するスプリングバック値は、母材(A)の熱可塑性樹脂中に含まれるボイド体積率Vvoidが2%未満である母材(A)に対して測定され、室温における母材(A)の厚みH1に対して、軟化状態にある母材(A)の厚みをH2した場合に、スプリングバック値=(H2/H1×100)(%)である。すなわち、スプリングバック値は、熱可塑性樹脂の軟化による母材(A)の膨張の程度を表している。
【0048】
スプリングバック値が大きいと母材(A)は疎な構造をとる。この状態にある母材(A)に部材(B)の挿入圧力が生じると、母材(A)は大きく流動するようになる。前述したように、本発明の構成においては、母材(A)の流動によって、絶縁層(C)へ母材(A)の一部が侵入し、絶縁層(C)に対する導電性繊維(a)の貫入を生じる。すなわち、スプリングバック値が大きい母材(A)はその流動量が大きいために、絶縁層(C)へ貫入する導電性繊維(a)の貫入の深さが長くなる。その結果、母材(A)と絶縁層(C)の界面接着がより高められる。
【0049】
一方で、スプリングバック値が過多となると、部材(B)を挿入する部位の母材(A)に過度な引き裂けを生じることがある。これは部材(B)の挿入部位における母材(A)の強度低下を招き、部材(B)の取り付け部強度に劣ることとなる。
【0050】
すなわち、母材(A)と絶縁層(C)の界面接着を高めつつ、かつ、一体化成形品の部材(B)の挿入部位における母材(A)の強度低下を防ぐに当たって、軟化状態にある母材(A)のスプリングバック値は、好ましくは300〜1000%、さらに好ましくは500〜800%とするのが良い。
【0051】
なお、スプリングバック値に関して、ボイド体積率Vvoidが2%以上と、ボイドを多量に含む母材(a)を用いる場合には、次のように補正して用いれば、これまでと同様に扱うことができる。すなわち、この母材(A)の測定厚みH3に対して、H1=(1−Vvoid)×H3 として補正して用いる。ここで、Vvoidは母材(a)に占めるボイドの体積分率である。
【0052】
母材(A)のスプリングバック値は、母材(A)を構成する導電性繊維(a)や熱可塑性樹脂の特性を変化させることで調節することができる。例えば、母材(A)の前駆体として導電性繊維(a)からなる繊維基材を用いる場合には、例えば、導電性繊維(a)の繊維長を長くすることで繊維基材中の導電性繊維(a)同士が干渉しあうようになり、かさ高の繊維基材とできる。このような繊維基材を用いた母材(A)を軟化させると、導電性繊維(a)同士が反発する効果を利用して、母材(A)のスプリングバック値を大きくすることができる。また、繊維基材における導電性繊維(a)を単糸レベルで分散させることや、繊維基材の厚さ方向へ導電性繊維(a)を配向させることでも、同様の効果が得られる。加えて、熱可塑性樹脂として軟化状態における粘度が低い樹脂を用いることも、導電性繊維(a)同士の反発を阻害しないため、母材(A)のスプリングバック値を大きくするという点で効果的である。なお、スプリングバッグ値を小さくする必要がある場合には、熱可塑性樹脂として軟化状態における粘度が高い樹脂を用いる方法を簡便に利用できる。
【0053】
とりわけ、母材(A)を構成する導電性繊維(a)の体積含有率(Vf)は、軟化状態にある母材(A)のスプリングバッグ値に大きな影響をもたらす。Vfが高い場合、軟化状態にある母材(A)において導電性繊維(a)同士の干渉効果が顕著となり、繊維同士が反発するようになる。そのため、スプリングバック値は大きくなる。また、Vfを低くするとスプリングバック値を小さくすることもできるが、この場合、一体化成形品における母材(A)と絶縁層(C)の界面近傍において、補強効果を担う導電性繊維(a)の量が減じられるため、満足な部材(B)の取り付け部強度とできない場合がある。したがって、スプリングバック値を好ましい範囲内としつつ、部材(B)の取り付け部強度を損なわないために、導電性繊維(a)は、軟化状態にある前記母材(A)における体積含有率(Vf)が10〜50%であることが好ましく、18〜42%であることがさらに好ましい。
【0054】
加えて、軟化状態にある非導電性基材における樹脂の粘度も、絶縁層(C)を好ましく形成するため、さらには母材(A)に含まれる導電性繊維(a)を絶縁層(C)となる非導電性基材に対して効果的に貫入させるために適切に制御するとよい。一体化成形品の成形時には、軟化状態にある母材(A)と部材(B)の間に軟化状態にある非導電性基材を配し、部材(B)を母材(A)に対して加圧するため、非導電性基材には圧縮が作用している。このとき、非導電性基材における樹脂の粘度が低すぎると、この圧縮の作用により一体化成形品表面部に非導電性基材が過度に流出し、部材(B)と母材(A)との間に形成される絶縁性層(C)の厚みが減じられ、部材(B)の耐電蝕性の悪化を招くことがある。一方で、非導電性基材における樹脂の粘度が高すぎると、一体化成形品の成形時に母材(A)中の導電性繊維(a)が絶縁層(C)となる非導電性層に侵入する際の抵抗が大きくなる。そのため、導電性繊維(a)が絶縁層(C)に対する貫入深さが不足し、部材(B)の取り付け部強度に劣る場合がある。したがって、絶縁層(C)の易形成性と、導電性繊維(a)の絶縁層(C)の貫入を両立させる観点から、軟化状態にある非導電性基材において、該非導電性基材を構成する樹脂の粘度が10〜1200Pa・sであることが好ましく、120〜500Pa・sであることがさらに好ましく、150〜300Pa・sであることがとりわけ好ましい。。
【0055】
上記製造方法の好ましい態様として、例えば成形型を用いたスタンピングプレス成形法を例示できる。雌雄一対として用いられる雌型あるいは雄型、もしくはその両方に金属からなる部材(B)を把持しておき、予め加熱され軟化状態にある母材(A)を成形型内に搬送する。その後、直ちに成形型を閉じて加圧し、部材(B)を母材(A)に挿入するとともに母材(A)の成形を行い、成形型を冷却することにより、一体化成形品を得ることができる。本発明においては、非導電性基材を母材(A)と部材(B)の間に介在させること以外は特に制限はなく、例えば、非導電性基材を母材(A)の少なくとも片方の表層に配したまま母材(A)とともに加熱に供した後、母材(A)とともに成形型内に搬送しても良いし、軟化状態にある非導電性基材を予め成形型内に配しておいても良い。
【0056】
本発明の製造方法においては、母材(A)の部材(B)を嵌め込む部位に非導電性基材を配すことが好ましい。このような非導電性基材の配置とすることで、部材(B)の嵌め込み部位のみに絶縁層(C)を偏在させることができ、その結果、一体化成形品全体の剛性が高められる。
【0057】
また、部材(B)を非導電性基材で被覆することによっても部材(B)の嵌め込み部位のみに絶縁層(C)を偏在させることができる。具体的には、予め絶縁層(C)となる非導電性基材にて部材(B)を被覆するように形成しておき、被覆形成された部材(B)を、例えば上述したスタンピングプレス成形法に供す方法が例示できる。
【0058】
さらに、母材(A)の部材(B)を嵌め込む部位に部材(B)の挿入抵抗を低減させるための加工を施しておくことで、母材(A)の構成が乱れにくくなり、部材(B)の取り付け部における表面概観が良好な一体化成形品を製造することができる。具体的には、母材(A)の部材(B)を嵌め込む部位にくぼみ加工を施す方法、切り込み加工を施す方法が例示できる。とりわけ、切り込み加工を施す方法は、プロセスが簡便であるため好ましく利用できる。この切り込みは母材(A)の厚さ方向の一部あるいは全部に施しても良い。また、軟化した母材(A)に設けても良いし、固化状態にある母材(A)に施しても良い。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
本実施例で用いた各評価方法は以下の通りである。
【0060】
(1)スプリングバック値の測定
母材(A)を構成する、導電性繊維(a)と樹脂とからなる繊維強化樹脂シートについてスプリングバック値を測定した。まず、繊維強化樹脂シートの厚さ方向断面を表面粗さが1μm程度となるまで研磨し、ボイド体積率Vvoidの測定を行った。測定は研磨断面における50mmの領域について行い、Vvoid=(Svoid/50)×100(%)により算出した。ここで、Svoidは測定領域におけるボイドが占める面積である。室温(23℃)における母材(A)の厚みH1は、ボイド率Vvoidに応じて次のように評価した。すなわち、Vvoidが2%未満の場合は、一枚の繊維強化樹脂シートに対して厚みをマイクロメータを用いて測定した値を用い、ボイド体積率Vvoidが2%以上と、ボイドを多量に含む繊維強化樹脂シートを用いる場合には、この繊維強化樹脂シートの測定厚みH3に対して、H1=(1−Vvoid)×H3として補正して用いた。また、軟化状態にある母材(A)の厚みH2は、その軟化の程度に応じて異なる値をとるため、本実施例では繊維強化樹脂の厚み中心部の温度T(℃)と関連させて測定した。すなわち、一枚の繊維強化樹脂シートの厚さ中心部の温度がTとなるまで繊維強化樹脂シートを加熱した後、室温まで冷却した繊維強化樹脂シートに対して測定される厚みをH2とした。具体的には、一枚の繊維強化樹脂シートの厚み方向中心部に熱電対を挿入し、経時的に温度をモニタリングしながら、遠赤外線ヒーターを備えたオーブン中に繊維強化樹脂シートを配置し、その厚み中心部温度をT(℃)とした後、オーブンより取り出し、空気中にてその厚み中心部温度が室温となるまで冷却して厚みH2の測定に供した。加熱による軟化を生じた繊維強化樹脂シートは厚さ方向に膨張を生じるが、このように加熱後に冷却して評価に供すことで、樹脂の固化作用により、繊維強化樹脂シートの厚み中心部を温度Tまで加熱した際の形状を保持したまま、繊維強化樹脂シートの厚さを評価することができる。H1、H2あるいはH3は、それぞれの状態における繊維強化樹脂シートの20箇所に対して測定された値の平均値を算出し、スプリングバック値=(H2/H1×100)(%)に代入することによりスプリングバック値の平均値を求めた。なお、以降では簡潔のため、H2測定に当たり繊維強化樹脂シートを加熱した際に、繊維強化樹脂シートの厚み方向中心部で測定された最高温度Tを、単にスプリングバック加熱温度と呼ぶ。
【0061】
(2)導電性繊維(a)の貫入深さ評価
一体化成形品に埋設された部材(B)材の軸芯を含むようにカットして、表面粗さが3μm程度となるようにカット断面を研磨することにより検査断面とした。検査断面をレーザー顕微鏡(キーエンス(株)製VK−9510型)で拡大し、拡大画像の電子ファイルを取得する。取得した電子ファイルをPCにて読み込み、画像処理ソフト(Adobe社製Photoshop)にて結合し、さらに、導電性繊維(a)が明瞭となるように導電性繊維(a)を表すピクセルを白色とし、それ以外を表すピクセルを黒色とする二値化処理を行った。この統合画像を汎用解析ソフト(Mathworks社製Matlab)にて読み込み、PC上に画像を展開し、種々要素を配置するための正方格子を配置した。各々の格子について、導電性繊(a)の体積分率Vfex(=(要素に占める白色ピクセル数)/(要素の全ピクセル数))を算出し、Vfexに応じて要素を要素A群、要素B群、要素C群に分類した。このとき、格子の一辺の長さを80μmとし、導電性繊維が明瞭に観察できる解像度とした上で、要素(B)に属する全ての要素に対して、要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)の要素条件の該非判定を行い分類した。母材(A)と絶縁層(C)の界面に関して、要素(B−1)群の中心点座標を直線で結ぶことで得られる曲線として評価した。また、絶縁層(C)に対する導電性繊維(a)の貫入深さに関して、要素(B−2−1)群に属すある要素に着目して、図4に示すように、前記要素の中心点を円心とする同心円の円周が界面を為す曲線と接するように配置し、前期同心円の半径を前記要素における導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さとして求めた。なお、要素(B−1)群、要素(B−2)群、要素(B−2−1)群の該非判定、並びに要素(B−2−1)群に属する要素の貫入深さの評価は、Matlab上に構築したルーチンプログラムにより行った。界面位置の特定は、検査断面における母材(A)と絶縁層(C)の接触部全域について行い、この界面全域に対して導電性繊維(a)の貫入深さを測定してその平均値を求めた。
【0062】
(3)引抜強さ測定
一体化成形品に嵌め込まれた金属からなる部材(B)の引抜強さを引張試験により測定した。まず、部材(B)から半径5cmの位置にある母材(A)の部位に対して孔あけ加工を施し、該孔の間隔が等間隔となるように計6つの貫通孔を設けた。該貫通孔を通じて引張試験機に設置した把持ジグと母材(A)をボルト止めして試験機に固定するとともに、部材(B)を引張試験用チャックにて把持し、引張速度1mm/minの下で引張試験を行った。このとき、部材(B)の軸芯と並行方向に負荷が生じるよう部材(B)のアライメントを調整してジグに把持した。試験は母材(A)と金属製部材(B)が分断するまで行い、最大到達荷重をもって引抜強さとした。測定は同様の条件で作製した試料5つに対して行い、その平均値を求めた。
【0063】
実施例および比較例に使用する原材料の調製は以下のように行った。
【0064】
(材料1)導電性繊維(a)
導電性繊維(a)として以下に示す炭素繊維を用いた。ポリアクリロニトリルを主成分とする重合体から紡糸、焼成処理を行い、総フィラメント数12000本の炭素繊維連続束を得た。この炭素繊維連続束の特性は次の通りであった。
単位長さ当たりの質量:1.8g/m
比重:1.8g/cm
直径:7μm
引張強度:4.9GPa
引張弾性率:230GPa。
【0065】
(材料2)ガラス繊維
日東紡績(株)“RS240QR−438”
比重:2.4g/cm
【0066】
(材料3)ポリプロピレンフィルム
未変性ポリプロピレン樹脂(プライムポリマー(株)製“プライムポリプロ”J105G)50重量%と酸変性ポリプロピレン樹脂(三井化学(株)“アドマーQB510 ”)50重量部とからなる目付け50g/mのポリプロピレン樹脂シートを作製した。作製した樹脂シートの比重は0.9g/cmであった。以降、ポリプロピレン樹脂を単にPPと呼称する。また、PPに対してJIS K7199(1999年度改正)に基づき、キャピラリーレオメーター(島津(株)製CFT−500D)を用いて粘度測定を行った。測定はPPシートを幅3mm×長さ7mmの小片にカットしてキャピラリーレオメーターのバレルに挿入し、せん断速度100−1/sの条件下で段階的に温度条件を変化させて行った。その結果、測定温度220℃にて粘度180Pa・s、180℃にて310Pa・s、160℃にて1300Pa・sであった。
【0067】
(材料4)金属部材
外縁部直径が10mmのステンレス製座金に、ねじピッチM6のステンレス製六角ボルトを挿入し、金属からなる部材(B)として用いた。
【0068】
(参考例1)繊維強化樹脂シート(1)の作製
材料1の炭素繊維をカートリッジカッターで3mmの長さにカットし、チョップド炭素繊維束を得た。水と界面活性剤(ナカライテスク(株)製、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(商品名))からなる濃度0.1重量%の分散媒を作製し、かかる分散媒を抄造装置に注入した。抄造装置は、回転翼付き攪拌機を備えた上部の抄造槽と、下部の貯水槽からなり、抄造槽と貯水槽の間には多孔支持体を設けてある。まず、かかる分散媒を攪拌機を使用して空気の微小気泡が発生するまで撹拌した。その後、所望の目付となるように、重量を調整したチョップド炭素繊維束を、かかる空気の微小気泡が分散した分散媒中に投入して攪拌することにより、炭素繊維が分散したスラリーを得た。次いで、貯水層からスラリーを吸引し、スラリーを多孔支持体を介して脱水して強化繊維抄造体とした。抄造体を熱風乾燥機にて140℃、1hの条件下で乾燥させ、炭素繊維からなる繊維基材とした。繊維基材の目付けは100g/mであった。繊維基材一枚に対して材料3で得たポリプロピレンシートを、[PPシート×2枚/繊維基材×1枚/PPシート×2枚]となるように積層し、220℃の温度で5MPaの圧力を2分間保持して強化繊維基材にポリプロピレン樹脂を含浸せしめた繊維強化樹脂シート(1)を作製した。スプリングバック加熱温度Tを220℃とした際の繊維強化樹脂シート(1)のスプリングバック値の平均値は520%であった。
【0069】
(参考例2)繊維強化樹脂シート(2)の作製
材料2の炭素繊維をカートリッジカッターで4.5mmの長さにカットして得たチョップド炭素繊維束を用いたこと以外は参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(2)を作製した。スプリングバック加熱温度Tを220℃とした際の繊維強化樹脂シート(2)のスプリングバック値の平均値は610%であった。
【0070】
(参考例3)繊維強化樹脂シート(3)の作製
材料2の炭素繊維をカートリッジカッターで4.5mmの長さにカットして得たチョップド炭素繊維束より繊維基材を作製したことと、繊維基材一枚に対して材料3で得たポリプロピレンシートを[PPシート×1枚/繊維基材×1枚/PPシート×1枚]となるように積層したこと以外は参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(3)を作製した。スプリングバック加熱温度Tを220℃とした際の繊維強化樹脂シート(3)のスプリングバック値の平均値は830%であった。
【0071】
(参考例4)繊維強化樹脂シート(4)の作製
材料2の炭素繊維をカートリッジカッターで12mmの長さにカットして得たチョップド炭素繊維束より繊維基材を作製したことと、繊維基材一枚に対して材料3で得たポリプロピレンシートを[PPシート×1枚/繊維基材×1枚]となるように積層したこと以外は参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(4)を作製した。スプリングバック加熱温度Tを220℃とした際の繊維強化樹脂シート(4)のスプリングバック値の平均値は1150%であった。
【0072】
(参考例5)繊維強化樹脂シート(5)の作製
チョップド炭素繊維束に代えて、材料2のガラス繊維を6mmにカットして得たチョップドガラス繊維束を用いたこと以外は参考例1と同様にして繊維強化樹脂シート(2)を作製した。
【0073】
(参考例6)成形金型(1)
プレス成形に使用する金型として、雄型(上型)と雌型(下型)の一対からなる成形型を用いた。成形型嵌合時のキャビティ寸法は縦150mm、横150mm、厚さ3mmの平板形状である。
【0074】
(参考例7)成形金型(2)
上型に前記金属部材を位置決めするための凹み部を備えること以外は、参考例3に示した成形型(1)と同様である。該凹み部壁面の一部は該凹み部中空方向に可動する機構を備え、凹み部への挿入された部材を把持する。
【0075】
(参考例8)平板成形品(1)
参考例1に示した繊維強化樹脂シート(1)を縦15cm×幅15cmの大きさにカットし、15枚積層してプリフォームとした。プリフォームの厚さ中心部の温度が220℃となるまで遠赤外線ヒーターを備えたオーブン中で予熱した。次いで、参考例6の成形型(1)の下型投影面に収まるように該プリフォームを配置し、直ちに20mm/秒の速度で該下型に対応する上型を下降させ、該プリフォームをキャビティ内に充填させつつキャビティの厚みが3mmになるまで型閉めした。この状態を維持したまま50秒間加圧しつつ成形型を冷却し、樹脂を固化させ、繊維強化樹脂シート(1)からなる平板成形品(1)を得た。
【0076】
(実施例1)
参考例7の成形型(2)を型表面温度が100℃となるまで温調した後、上型の凹み部に材料4で示したボルトのねじ部を挿入して把持した。母材(A)を構成する繊維強化樹脂シート(1)を縦15cm×幅15cm、絶縁層(C)を構成する繊維強化樹脂シート(5)を直径4cmの大きさにそれぞれカットし、繊維強化樹脂シート(1)を12枚、繊維強化樹脂シート(2)を3枚の順に積層してプリフォームとした。このとき、プリフォームのボルトが挿入される部位と繊維強化樹脂シート(2)の中心が一致するように繊維強化樹脂シート(2)を配した。赤外線ヒーターにより予熱したオーブン中にプリフォームを静置し、該プリフォームの厚さ中心部の温度が220℃となるまで加熱することにより熱可塑性樹脂を軟化させた。次いで、該プリフォームを下型の投影面に収まるように配置し、直ちに20mm/秒の速度で該下型に対応する上型を下降させ、上型に把持されたボルトの頭頂部を軟化状態にある該プリフォームに挿入するとともに、該プリフォームをキャビティ内に充填させつつキャビティの厚みが3mmになるまで型閉めした。この状態を維持したまま50秒間加圧しつつ成形型を冷却し、樹脂を固化させ、繊維強化樹脂シート(1)からなる母材(A)と該ボルトとが、繊維強化樹脂シート(5)からなる絶縁層(C)を介して一体化された一体化成形品(1)を得た。一体化成形品(1)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0077】
(実施例2)
繊維強化樹脂シート(1)に代えて、繊維強化樹脂シート(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして一体化成型品(2)を得た。一体化成形品(2)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0078】
(実施例3)
繊維強化樹脂シート(1)に代えて、繊維強化樹脂シート(3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして一体化成型品(3)を得た。一体化成形品(3)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0079】
(実施例4)
母材(A)を構成する繊維強化樹脂シート(1)を縦15cm×幅15cm、絶縁層(C)を構成する繊維強化樹脂シート(5)を直径4cmの大きさにそれぞれカットするとともに、繊維強化樹脂シート(1)を12枚積層したプリフォーム1、および、繊維強化樹脂シート(2)を3枚積層したプリフォーム2を作製した。遠赤外線ヒーターにより予熱したオーブン中にプリフォーム1を静置し、プリフォーム1の厚さ中心部の温度が180℃となるまで加熱した。その後、オーブンを開き、プリフォーム1上のボルトが挿入される部位にプリフォーム2を配置するとともに、直ちにオーブンを閉じ、プリフォーム1およびプリフォーム2に対して加熱を継続し、プリフォーム1の厚さ中心部温度を220℃としてプリフォーム1に含まれる熱可塑性樹脂を軟化させた。このとき、プリフォーム2の厚さ中心部で測定される温度は、加熱時間の長さの違いでプリフォーム1の厚さ中心部で測定される温度より低く、180℃であった。プリフォーム1およびプリフォーム2の積層体をオーブンより取り出し、成形型および成形条件を実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シート(1)からなる母材(A)と該ボルトとが、繊維強化樹脂シート(5)からなる絶縁層(C)を介して一体化された一体化成形品(4)を得た。一体化成形品(4)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0080】
(実施例5)
繊維強化樹脂シート(1)に代えて、繊維強化樹脂シート(4)を用いたこと以外は実施例1と同様にして一体化成型品(5)を得た。一体化成形品(5)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0081】
(実施例6)
母材(A)を構成する繊維強化樹脂シート(1)を縦15cm×幅15cm、絶縁層(C)を構成する繊維強化樹脂シート(5)を直径4cmの大きさにそれぞれカットするとともに、繊維強化樹脂シート(1)を12枚積層したプリフォーム1、および、繊維強化樹脂シート(5)を3枚積層したプリフォーム2を作製した。遠赤外線ヒーターにより予熱したオーブン中にプリフォーム1を静置し、プリフォーム1の厚さ中心部の温度が200℃となるまで加熱した。その後、オーブンを開き、プリフォーム1上のボルトが挿入される部位にプリフォーム2を配置するとともに、直ちにオーブンを閉じ、プリフォーム1およびプリフォーム2に対して加熱を継続した。プリフォーム1の厚さ中心部温度を220℃としてプリフォーム1に含まれる熱可塑性樹脂を軟化させた。このとき、プリフォーム2の厚さ中心部で測定される温度は、加熱時間の長さの違いでプリフォーム1の厚さ中心部で測定される温度より低く、160℃であった。プリフォーム1およびプリフォーム2の積層体をオーブンより取り出し、成形型および成形条件を実施例1と同様にして、繊維強化樹脂シート(1)からなる母材(A)と該ボルトとが、繊維強化樹脂シート(5)からなる絶縁層(C)を介して一体化された一体化成形品(6)を得た。一体化成形品(6)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0082】
(比較例1)
繊維強化樹脂シート(5)を縦15cm×幅15cmの大きさにカットし、12枚積層してプリフォームとした。その後、実施例1と同様にして繊維強化樹脂シート(5)からなる繊維強化樹脂と材料4のボルトからなる一体化成形品を得た。次いで、ボルト軸芯から半径2cm以内の領域にある繊維強化樹脂部の部位を円筒上に切り出し、加工面を600番手の紙やすりで均一な粗さとなるように調整して部材(1)とした。加えて、参考例1で得られた繊維強化樹脂シート(1)からなる平板成形品(1)の縦および幅方向の中心部に半径2cm、深さ3mmの座ぐり加工を施し、さらに加工面を600番手の紙やすりで均一な粗さとなるように調整した。次いで、部材(1)の繊維強化樹脂部に構造用接着剤(東レ(株)社製“ケミットTE2220”)を均一に塗布した後、平板成形品(1)の座繰り加工部に挿入し、ボルト軸方向に約5kgfの圧力で加圧しながら80℃にて10時間静置して接着剤を固化させ、一体化成形品(7)を得た。導電性繊維(a)の絶縁層(C)への貫入深さ測定を試みた結果、母材(A)と絶縁層(C)は厚さ30〜200μm程度の接着剤層を介して接合されおり、かつ、導電性繊維(a)の接着剤層や絶縁層(C)への貫入は認められなかった。一体化成形品(7)の特性評価結果を表1にまとめる。
【0083】
【表1】

【0084】
実施例1〜6では、母材(A)と絶縁層(C)の界面において導電性繊維(a)は絶縁層(C)に対して貫入した。そのため、ボルト軸力を母材(A)の広範囲に分散することが可能となり、高い引抜強度を発現した。とりわけ、実施例1〜4においては、軟化状態にある母材(A)のスプリングバック値および軟化状態にある非導電性基材に含まれる樹脂の粘度を適切な範囲内へと制御した一体化成形品の製造方法により、導電性繊維(a)の絶縁層(C)に対する貫入深さが好ましい範囲内へと制御された。その結果、母材(A)の破壊を誘引して特に引抜強度に優れる結果となった。一方、比較例1では母材(A)と絶縁層(C)とが接着剤層によって分離して接合されているため、導電性繊維(a)の接着剤層や絶縁層(C)に対する貫入は認められなかった。そのため、ボルト軸力を母材(A)に効率的に伝達することができず、最終的に接着剤層のみの破壊を生じて引抜強度に劣る結果となった。
【0085】
このように、本発明の導電性繊維を含む母材と金属性部材からなる一体化成形品は、母材と金属製部材と電気絶縁することにより金属部材の電蝕を効果的に防止できるとともに、絶縁層に対して導電性繊維を貫入させることにより金属性部材への負荷を母材に効率的に分散させることができる。その結果、母材破壊を誘引するほどの高い引抜強度を発現した。さらに、本発明の一体化成形品の製造方法は、母材成形と絶縁層の形成、金属性部材の一体化を一工程で完結することを可能とした。また、夫々形状の金型を用いれば、母材と金属性部材の一体化を為すと同時に母材を複雑形状に成形することができ、図5に例示する最終製品に非常に近い一体化成形品を簡便に得ることができる。これら機能並びに生産性の両立は従来技術では成し得なかった点である。
【符号の説明】
【0086】
1:母材(A)
2:導電性繊維(a)
3:金属製部材(B)
4:絶縁層(C)
5:母材(A)と絶縁層(C)との凹凸形状を有す界面
6:要素A群に属す要素
7:要素B群に属す要素
8:要素C群に属す要素

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性繊維(a)と樹脂を含む母材(A)に、金属からなる部材(B)が嵌め込まれてなる一体化成形品であって、母材(A)と部材(B)とが絶縁層(C)を介して一体化されてなり、母材(A)と絶縁層(C)との界面において導電性繊維(a)が絶縁層(C)に貫入して接合されてなる一体化成形品。
【請求項2】
前記樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1に記載の一体化成形品。
【請求項3】
導電性繊維(a)の貫入の深さの平均値が、界面に対して0.1〜6mmである、請求項1または2に記載の一体化成形品。
【請求項4】
前記絶縁層(C)が非導電性繊維(b)と熱可塑性樹脂を含む、請求項1〜3のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項5】
前記導電性繊維(a)と前記非導電性繊維(b)とが交絡してなる、請求項4に記載の一体化成形品。
【請求項6】
前記非導電性繊維(b)は、その数平均繊維長が0.1mm〜10mmである、請求項4または5に記載の一体化成形品。
【請求項7】
前記非導電性繊維(b)は、絶縁層(C)における体積含有率(Vf)が10〜50%である、請求項4〜6のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項8】
前記母材(A)と前記絶縁層(C)とが溶着されてなる、請求項1〜7のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項9】
前記絶縁層(C)は、ボイド率が10%以下である、請求項1〜8のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項10】
前記部材(B)がボルト、ナット、ヒンジ、カラー、ブッシュ、ブラケットから選択される少なくとも1種の締結具である、請求項1〜9のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項11】
前記部材(B)が鈎状、楔状、波状、テーパー形状から選択される少なくとも1種の嵌め込み構造で前記絶縁層(C)と結合されてなる、請求項1〜10のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項12】
前記導電性繊維(a)は、数平均繊維長が0.1mm〜10mmである、請求項1〜11のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項13】
前記導電性繊維(a)が炭素繊維である、請求項1〜12のいずれかに記載の一体化成形品。
【請求項14】
請求項2に記載の一体化成形品の製造方法であって、軟化状態にある前記母材(A)に前記部材(B)を加圧して挿入し、該母材(A)を固化させ一体化する際に、軟化状態にある非導電性基材を該母材(A)と該部材(B)の間に介在させる、一体化成形品の製造方法。
【請求項15】
軟化状態にある前記母材(A)のスプリングバック値が300〜1000%である、請求項14に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項16】
前記導電性繊維(a)は、軟化状態にある前記母材(A)における体積含有率(Vf)が10〜50%である、請求項14または15に記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項17】
軟化状態にある前記非導電性基材において、前記非導電性基材を構成する樹脂の粘度が10〜1200Pa・sである、請求項14〜16のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項18】
前記母材(A)の前記部材(B)を嵌め込む部位に前記非導電性基材を配す、請求項14〜17のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項19】
前記部材(B)を前記非導電性基材で被覆する、請求項14〜18のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。
【請求項20】
前記母材(A)の前記部材(B)を嵌め込む部位に切り込み加工を施す、請求項14〜19のいずれかに記載の一体化成形品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−207760(P2012−207760A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75287(P2011−75287)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「サステナブルハイパーコンポジット技術の開発」、 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】