説明

一対の軸と軸受部品及びその製造方法

【課題】
軸受部品の真円度及び寸法精度を高め且つ軸心孔と軸部品とのクリアランスをより小さくした軸及び軸受け部品が得られると共に、樹脂成形部と軸受芯材との間が係止保持部によって強固に連結され、軸受部品に対して軸部品が軸方向へ摺動する場合でも抜け止めすることができる一対の軸と軸受部品及びその製造方法を提供する。
【解決手段】
樹脂成形部11の軸心側に軸部品18を装着する筒状の軸受芯材16が一体成形され、軸受芯材16はマスター軸1の要部にメッキ皮膜4を施したインサート軸5から、樹脂成形部11を射出成形する際に転写してマスター軸1から分離させ、軸受芯材16で保形及び補強された樹脂成形部11を軸受部品17にすると共に、軸受芯材16の内周面(軸心孔)に装着されたマスター軸1を軸部品18とし、軸受芯材16の開口縁部には射出成形金型5,9内でメッキ皮膜4を加圧成形し、樹脂成形部11側に膨出させた係止保持部12,13を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受部品の軸孔に軸部品を嵌合して、両者が相対的に回転又は摺動又は摺動回転できるように、係合支持する一対の軸と軸受部品及びその製造方法に係り、特に電鋳を主材とした金属スリーブによる軸受芯材の外周に、樹脂成形部を射出成形して一体化して軸受部品を形成すると共に、射出成形時にインサートして金属スリーブを軸受部品側に転写したマスター軸を軸部品として一対で使用する軸受部品及びその製造方法であり、例えば小型且つ軽量で高精密な回転又は摺動又は摺動回転を必要とする軸と軸受部品などに適用すると好適である。
【背景技術】
【0002】
樹脂製の軸受部品は、軽量で慣性力が小さいことや大量生産が可能であること等の理由から、歯車やカムなどを含む一般的な軸受部品から、センサーやポテンショメータ或いはアクチュエータ等の高精密部品の軸受部に至るまで幅広く利用されているが、これら高精密部品の中でも、例えば光学式情報記録再生装置で光学的ピックアップを行うレンズホルダ等における軸受部の場合には、精密な真円度及び内径寸法精度が必要であって、軸とのクリアランスを数μ以下にすることが要求されており、また負荷荷重に対する高い機械的強度と摺動性も必要である。
【0003】
ところが、射出成形した樹脂製軸受部品をそのまま使用した場合、熱収縮や配向性などによって精密な真円度及び内径寸法精度が得られないと共に、ウエルドラインによって機械的強度が低下するので、成形品の内周面にアルミ合金製などのスリーブを装着したり、潤滑性樹脂パイプをインサートモールドしていたが、アルミ合金製などのスリーブや潤滑性樹脂パイプを使用する場合には、精密な真円度及び内径寸法精度を得るために、精密な切削加工や研磨を行う必要があり、コスト高になると共に生産性が低下するなど、解決を必要とする課題があった。
【0004】
これらの課題を解決するために、本件出願人は先に特許文献1及び2のような樹脂製軸受部品及びその製造方法の提案を行っており、前者は軸受部品の軸孔に適合するマスター軸から成形後に分離した電鋳殻である筒状の電鋳部が、樹脂成形部の軸心にインサートモールドで一体成形されている樹脂製軸受部品とその製造方法に付いての提案であり、後者は軸受部品の軸孔に適合するマスター軸から予め分離した電鋳殻である筒状の電鋳部が、樹脂成形部の軸心にインサートモールドで一体成形されている樹脂製軸受部品とその製造方法に付いての提案である。
【特許文献1】特開2003−56552号公報
【特許文献2】特開2003−56569号公報
【0005】
特許文献1及び2の発明による樹脂製軸受部品では、電鋳部の内周面が軸受部品の軸孔を形成するので、真円度及び内径寸法精度が高くて摺動性も良好であり、研磨などの後処理を格別に行う必要がなく、電鋳部の内周面に装着させて使用する軸部品に対するクリアランスを極小にして高精密な回転又は摺動又は摺動回転を可能にすると共に、電鋳部の外周面に対する樹脂成形部の付着力が良好であるなどの効果が期待できる。
【0006】
特許文献1の発明による樹脂製軸受部品の製造方法では、電鋳部をマスター軸と一体で金型内に装着した状態で射出成形が行われるので、電鋳部を位置決め精度良く容易にインサートして一体成形できると共に、マスター軸を分離した電鋳殻である電鋳部の内周面が軸受部品の軸孔を形成するので、真円度及び内径寸法精度の高い樹脂製軸受部品が得られること、さらに樹脂成形品から分離したマスター軸を、電鋳軸を造る際のマスター軸として繰り返し転用すると、同じマスター軸に基づいて多数の軸受部品を造ることができるので、寸法精度のバラツキがない均質な製品が経済的に得られる効果が期待できる。
【0007】
特許文献2の発明による樹脂製軸受部品の製造方法では、マスター軸を分離した電鋳殻である電鋳部の内周面が軸受部品の軸孔を形成するので、真円度及び内径寸法精度の高い樹脂製軸受部品が得られる。樹脂成形品から分離したマスター軸を、電鋳軸を造る際のマスター軸として繰り返し転用すると、同じマスター軸に基づいて多数の軸受部品を造ることができるので、寸法精度のバラツキがない均質な製品が経済的に得られるなどの効果が期待できる。
【0008】
また、特許文献1及び2の発明に関して本件出願人が引き続き検討を重ねた結果、さらなる改善案を見出したので改良発明として先に新たな提案を特願2004−324870号で行ったが、この先願発明では樹脂成形部と一体で軸受部品の軸孔を形成する筒状の軸受芯材を、肉薄状をした内側の無電解メッキ層と肉厚状をした外側の電鋳層の二重メッキ層にすることによって、軸部品に対する摺動性能及び耐摩耗性能を向上させると共に、軸受芯材のマスター軸からの分離を容易にし且つ樹脂成形部に対する転写を良好にすること、などの点を改善した。
【0009】
さらに、特願2004−324870号による先願発明では、マスター軸の要部に軸受芯材となるメッキ皮膜を形成する際の非メッキ部に対するマスキング処理方法として、レジスト処理や絶縁材入りインクをシルク印刷して保護皮膜を形成する従来技術とは異なる方法を提案しているが、この提案ではメッキ処理装置内に並設した多数のマスター軸の非メッキ部である両端を、弾性樹脂材で形成したマスク部材にを圧入した状態でメッキ処理することにより、高い寸法精度でメッキを施す領域を設定することができると共に、特に二重層のメッキ処理を大量に行うことを可能にしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、その後の検討でさらに改善を必要とする課題が見出されたが、これらの課題としては成形後の熱収縮によって樹脂成形部の形状が変形することであって、特に樹脂成形部が方形状その他の非対称形状で収縮比率が異なる場合には顕著であり、変形によって軸部品を挿通する軸心孔を真円状態に保形できなくなる恐れがあることである。
【0011】
すなわち、射出成形用金型内で成形樹脂材が冷却して固化する際に、成形品各部の温度及び密度分布が不均一になって冷却後の成形品の収縮率が不均一になると共に、多点ゲートによって成形樹脂材をキャビティ内に注入した際に、樹脂成形部に対して均一に充填させることができずにウエルドラインが発生し、軸部品を装着する軸心孔を真円状態に保形することができなくなる。
【0012】
また、別の課題として成形時に樹脂成形部に転写したメッキ皮膜による軸受芯材が、インサート軸から分離してマスター軸を軸部品として一対で使用する際に、樹脂成形部から剥離したり脱落する恐れがあると共に、樹脂成形部を射出成形する際に成形樹脂材が軸受芯材の内部に流入し、軸部品となるマスター軸との摺動性能を阻害する恐れがあること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明による一対の軸と軸受部品は、樹脂成形部の軸心側に軸部品を装着する筒状の軸受芯材が一体成形され、この軸受芯材はマスター軸の要部にメッキ皮膜を施したインサート軸から、樹脂成形部を射出成形する際に転写してマスター軸から分離させ、軸受芯材で保形及び補強された樹脂成形部を軸受部品にすると共に、軸受芯材の内周面(軸心孔)に装着されたマスター軸を軸部品とし、軸受芯材の開口縁部には射出成形金型内でメッキ皮膜を加圧成形し、樹脂成形部側に膨出させた係止保持部を設けた。(請求項1)
【0014】
請求項1の発明による一対の軸と軸受部品において、軸受芯材の開口縁部に対して係止保持部を形成する際に、係止保持部の内側に同時形成したテーパ状の環状溝を設けた形態を採ることができる。(請求項2)
【0015】
本発明による一対の軸と軸受部品及びその製造方法は、マスター軸の非メッキ部をマスキングして、メッキ部の外周に軸心孔に適合するメッキ皮膜を施してインサート軸を造る工程と、インサート軸を装着した金型内で樹脂成形部を射出成形して内周面にメッキ皮膜を一体に転写し、メッキ皮膜を軸受芯材とした樹脂成形部で軸受部材を形成すると共に、軸受部材の内周面にマスター軸を装着して軸部品を形成する工程と、軸部品を装着した軸受部品を金型から取出して熱収縮が終息するまで常温下に放置した後に、マスター軸を軸線方向に加圧して軸受部材から分離させる工程とを備えている。(請求項3)
【0016】
請求項3による一対の軸と軸受部品及びその製造方法において、金型内に装着したインサート軸のメッキ皮膜を上型と下型で加圧し、開口縁部を外側に膨出させて係止保持部を成形する工程を、樹脂成形部を射出成形する工程の前に設けた形態を採ることができる。(請求項4)
【0017】
請求項4による一対の軸と軸受部品及びその製造方法において、係止保持部を成形する上型と下型の加圧面に環状突起を形成し、係止保持部の成形と同時に係止保持部の内側にテーパ状の環状溝を形成する工程を設けた形態を採ることができる。(請求項5)
【発明の効果】
【0018】
本発明による一対の軸と軸受部品では、軸受芯材で形成した軸心孔に対して、インサート軸のマスター軸を軸部品として使用することによって、軸受部品の真円度及び寸法精度を高め且つ軸心孔と軸部品とのクリアランスをより小さくした軸及び軸受け部品が得られると共に、樹脂成形部と軸受芯材との間が係止保持部によって強固に連結され、軸受部品に対して軸部品が軸方向へ摺動する場合でも抜け止めすることができる。
【0019】
請求項2の発明による一対の軸と軸受部品では、軸受芯材の開口縁部にテーパ状の環状溝を設けたことによって、軸受部品側の軸心孔からマスター軸を一旦取り外した状態にし、軸心孔やマスター軸に対して必要に応じて脱脂や研磨などを施した後に、再度マスター軸を装着する際の脱着作業を容易に行うことができる。
【0020】
本発明による一対の軸と軸受部品及びその製造方法では、射出成形時に軸心方向へ成形圧力が印加された際及び、射出成形後における成形樹脂材の熱収縮に対しては、マスター軸1によってメッキ皮膜4の内外径は保形されるので、軸受部品は高い真円度及び寸法精度を得ることができると共に、軸受部品にマスター軸1が装着されたままで製品になるので、熱収縮が終息するまで長時間に亘って常温下に放置しておくことが可能であり、これによって熱収縮による変形を防止できるが、作業能率を低下させることはない。
【0021】
請求項4による一対の軸と軸受部品及びその製造方法では、型締めによって軸受芯材の開口縁部に係止保持部を容易に形成することができると共に、係止保持部によって軸受部品を構成する樹脂成形部と軸受芯材との間を強固な接合状態で連結されるので、軸心孔を形成する軸受部品の軸受芯材から、打撃などによる加圧で軸部品となるマスター軸を分離させる際に、軸受芯材は脱落しない。
【0022】
請求項5による一対の軸と軸受部品及びその製造方法では、型締めによって軸受芯材の開口縁部に係止保持部と同時に環状突起を容易に形成することができると共に、環状突起テによってマスター軸との空隙を閉塞し、軸心孔となるメッキ皮膜で形成された軸受芯材の内部に成形樹脂材その他の異物などが混入することを防止することができる。
【実施例】
【0023】
本発明による一対の軸と軸受部品及びその製造方法について、本発明を適用した好適な実施形態を示す添付図面に基づいて詳細に説明すると、特許文献1,2などの場合と同様に、図1のマスター軸1に対して非メッキ部2をマスキング処理した状態にし、メッキ部3には特許文献1,2などの場合と同様に電鋳を施すか、先願発明の場合と同様に肉薄状をした内側の無電解メッキ層と肉厚状をした外側の電鋳層による二重メッキ皮膜を施し、図2又は図4で示すようにメッキ部3の外周に筒状のメッキ皮膜4(4A,4B)を被着させたインサート軸5(5A,5B)を造る。
【0024】
マスター軸1は、無電解メッキや電鋳が容易且つ良好にメッキできる材質であること、インサート成形時にメッキ皮膜4を軸受芯材として樹脂成形部側へ転写した際に、マスター軸1の外周面によって樹脂製軸受部品の軸心孔が確定されるので、マスター軸1は高い真円度及び内径寸法精度が得られる材質であること、また樹脂成形部を一体に射出成形する際の高温に耐えて変質及び変形しないこと、樹脂成形部側へ転写する際にメッキ皮膜4が容易且つ滑面状態で分離できること、などの性能が要求される。
【0025】
さらに、マスター軸1はメッキ皮膜4を軸受芯材として樹脂成形部側へ転写した後に、高精密なモータの回転軸その他の回転又は摺動又は摺動回転を必要とする軸受部品の軸部品として、メッキ皮膜4による軸受芯材内に挿通された状態にして一対で使用されるので、軸部品として必要な剛性などの機械的強度が大きくて摺動性も良く、耐熱性や耐薬品性にも優れた材質であることなども要求される。
【0026】
そこで、これらの要件を満足し得るマスター軸1の材質として、この実施形態では焼き入れ処理を施したステンレス鋼をストレートの円柱状に形成した中実軸を使用しており、特にステンレス鋼のなかでもSUS420Jなどの使用が望ましいが、ステンレス鋼に限定されず同等の性能を有する他の硬質金属材(例えば、ニッケルクロム鋼その他のニッケル合金やクロム合金など)や、セラミックの表面に硬質金属被膜を施したものなどの使用も可能である。
【0027】
また、マスター軸1の形状は中実軸だけではなく中空軸や中空部に樹脂材を充填した中実軸の形態を採ることも可能であると共に、樹脂製軸受部品が摺動軸の場合には、横断面が一定ならば多角形状その他の非円形状の形態もあり、更に樹脂製軸受部品の用途によっては、軸の全長に渡って一定の横断面形状ではない形態を採ることも可能であって、要旨の範囲内で各種の変形を採り得る。
【0028】
特に、中空部に樹脂材を充填した中実軸の形態を採る場合には、インサート軸5を用いて射出成形を行う際に中空部にも樹脂材を充填して樹脂成形部と同時成形を行うことも可能であり、この充填した樹脂材によって中空軸を補強することができると共に、セラミック製などのように絶縁性の中空軸の場合には、樹脂材中に例えばカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの導電性を有する微粒子や粉末を分散状に混在させることによって、導電性を付与することも可能である。
【0029】
インサート軸5を造る方法としては、マスター軸1の非メッキ部2に対して従来技術と同様に、レジスト処理や絶縁材入りインクをシルク印刷して保護皮膜によるマスキングを行うと共に、メッキ糟中でメッキ部3にメッキ皮膜4Aを施し、図2で示すようにインサート軸5Aを造ることが可能であり、この場合にはメッキ部3の両端側から非メッキ部2側へメッキ皮膜4Aが膨出した盛り上がり部6が形成される。
【0030】
また、別の方法として先願発明と同様にマスター軸1の非メッキ部2である両端を、図3で示すように弾性樹脂材で形成したマスク部材7に圧入した状態でマスキングを行うと共に、各マスク部材7の間にメッキ液を流動させて露出したメッキ部3にメッキ皮膜4Bを施し、図4で示すようにインサート軸5Bを造ることが可能であり、この場合にはメッキ部3の両端側から非メッキ部2側へメッキ皮膜4Bが膨出することが無い。
【0031】
メッキ皮膜4(4A,4B)は、特許文献1,2などの場合と同様に電鋳層のみで形成する形態を採ることも可能であるが、この実施例では先願発明の場合と同様に内側の無電解メッキ層4A1(4B1)と外側の電鋳層4A2(4B2)による二重メッキ皮膜で形成(図5を参照)しており、無電解メッキ層には軸部品の摺動面として摺動性能と耐摩耗性能及び、インサート成形して樹脂成形部に転写した際にマスター軸1との分離面として離型性などが要求されるので、これらの要件に適合するように自己潤滑性を備えた微粒子又は粉体を分散させた金属材よる無電解金属メッキ層で形成することが望ましい。
【0032】
そこで、これらの要件を満足し得る無電解メッキ層として、例えばポリ四フッ化エチレン(PTFE)などのフッ素樹脂や窒化ボロンなどの自己潤滑性を備えた微粒子と、必要に応じて導電性も備えたカーボンブラックやカーボンナノチューブなどの微粒子を分散状に析出させたニッケル・リン系の無電解メッキ層で形成することが望ましく、これらの自己潤滑性微粒子の含有量は例えば30〜50体積%に設定すると共に、被膜の厚さは5〜10μmの範囲内で所望に設定する薄肉状に形成されている。
【0033】
また、外側の電鋳層はインサート成形によって樹脂成形部に転写されて一体化され、樹脂製軸受部品にした際に樹脂成形部の補強すると共に、成形時及び成形後における軸孔の真円度を保持し、樹脂成形部及び無電解メッキ層との密着が良好で耐剥離性に優れていることなどが要求されるので、これらの要件に適合するようにニッケルその他の金属材よる電解金属メッキ層で形成することが望ましい。
【0034】
そこで、これらの要件を満足し得る電鋳層として、非磁性を必要としない場合には例えば剛性のあるニッケル・リン系の金属材による電解メッキ層で形成することが望ましく、また非磁性を必要とする場合は例えば導電性のある銅又は銅合金などの使用が望ましく、メッキ厚は樹脂製軸受部品のサイズや用途などの要件によって異なるが、例えば80〜200μmの範囲内で所望に設定する厚肉状に形成されている。
【0035】
インサート軸5(5A,5B)は、図6又は図7で示すように金型分割面P.Lの両側に対峙した上型8と下型9を備えた射出成形金型のキャビティ10内に、コアロッドの代わりにインサートさせ、型締めした後に例えば3点のピンポイントゲート11又はリングゲートなどによる多点ゲートGを介して、キャビティ10内に成形樹脂材を注入してインサート軸5と一体に樹脂成形部11(11A,11B)を射出成形するが、樹脂成形部の形状はキャビティ10を所望形状に適合させて任意に設定することができる。
【0036】
なお、成形樹脂材は、機械的強度や寸法安定性などに優れているので液晶ポリマー(LCP)の使用が望ましいか、液晶ポリマーの他にもポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂、ポリアセタール樹脂やポリアミド樹脂などの結晶性ポリマー或いは、これら以外でも同様の機能を発揮する高機能樹脂材を使用することが可能であり、これらの樹脂材には必要に応じて繊維強化剤や潤滑剤となる添加剤を加えても良い。
【0037】
射出成形金型は、型締めした際におけるキャビティ10の高さ方向の寸法が、メッキ皮膜4(4A,4B)の長さ寸法より僅かに短尺になるように形成し、型締めした際にメッキ皮膜4(4A,4B)を上下から押圧して圧縮させることにより、上下端側の外周側に係止保持部12(12a,12b)及び係止保持部13(13a,13b)を突出形成させるようにしている。
【0038】
特に、盛り上がり部6が形成されているインサート軸5Aを使用する図6の場合には、上型8にメッキ皮膜4Aの上端側と当接する環状突起14(14a)を設けると共に、下型9にメッキ皮膜4Aの下端側と当接する環状突起14(14b)を設け、この環状突起14は型締めした際にメッキ皮膜4Aの上下端側に膨出した盛り上がり部6を、外周側に押し広げて且つ上下から圧縮することによって、係止保持部12(12a,12b)の突出形成と同時に上下端側の内周面には、図8(a)のようにテーパ状の環状溝15(15a,15b)が形成される。
【0039】
このようにして、キャビティ10内にインサートしたインサート軸5(5A,5B)に対し、予め係止保持部12(12a,12b)及び係止保持部13(13a,13b)を突出形成した後に、多点ゲートGからキャビティ10内に成形樹脂材を注入すると、メッキ皮膜4(4A,4B)の外周に樹脂成形部11が射出形成されると共に、インサート軸5のメッキ皮膜4(4A,4B)は、外側の電鋳層4A2,4B2が樹脂成形部11の内周面に転写され、インサート軸5と樹脂成形部11が一体化した射出成形品となる。
【0040】
この射出成形品は、メッキ皮膜4(4A,4B)の内側に設けた無電解メッキ層4A1(4B1)とマスター軸1の間を分離させ、樹脂成形部11の内周面にメッキ皮膜4(4A,4B)を転写し、転写したメッキ皮膜4を軸受芯材とした樹脂成形部11で軸受部品を構成すると共に、インサート軸5からメッキ皮膜4を分離することによって、軸受芯材に挿通されたマスター軸1が軸部品となり、図8で示すように一対の軸と軸受部品を構成するが、成形後における樹脂成形部11の熱収縮の影響が無くなるまで、射出成形金型から取り出した後に少なくとも3時間以上〜数日間は常温下に放置しておく。
【0041】
放置期間中における熱収縮の状態は、例えば図9で示すように樹脂成形部11が円筒形状の場合には、(a)のように樹脂成形部11のみで形成されていると、多点点ゲートGの各中間点にウエルドラインWが発生して収縮率が不均一になり、軸心孔19が歪んで真円状態を保持することができないが、(b)のようにメッキ皮膜4(4A,4B)で形成した軸受芯材16を挿通したマスター軸1で保形すると、軸心孔19の真円状態を保持することができる。
【0042】
また、図10で示すように樹脂成形部11が長方形やその他の不等辺形状の場合には、(a)のように樹脂成形部11のみで形成されていると、長辺側と短辺側との収縮差によって軸心孔19は楕円状になって真円状態を保持することができないが、(b)のようにメッキ皮膜4(4A,4B)で形成した軸受芯材16を挿通したマスター軸1で保形すると、軸心孔19の真円状態を保持することができる。
【0043】
マスター軸1の分離作業は、熱収縮が終息した後に行われるが、メッキ皮膜4(4A,4B)の内側に設けた無電解メッキ層4A1(4B1)の内周面は、既にマスター軸1からほぼ分離状体になっていると共に、メッキ皮膜4の外側に設けた電鋳層4A2,4B2の外周面が、樹脂成形部11と密着状態で接合されているので、マスター軸1に対して軸方向へ僅かな打撃を加えることによって、マスター軸1の外周面から軸受芯材16を容易且つ確実に分離させることができる。
【0044】
すなわち、電鋳層4A2,4B2は電鋳メッキの特性として軸心から外側へ引っ張り応力が作用するが、無電解メッキ層4A1,4B1を肉薄状にすることによって電鋳層4A2,4B2と一体に引っ張り応力が作用するようにし、メッキ皮膜4を樹脂成形部11の内周面に転写させることができると共に、マスター軸1と無電解メッキ層4A1,4B1との間を容易に分離させることが可能である。
【0045】
また、マスター軸1の外周面は滑面性であって、メッキ皮膜4の内周面すなわち内側の無電解メッキ層4A1,4B1は自己潤滑性を備えており、しかもメッキは通常は剥離しないようにするところを、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)などの自己潤滑性微粒子の含有量を多くすることによって、離型性を向上させると共に、軸部品となるがマスター軸1に対する摺動性能を向上させるようにしている。
【0046】
さらに、メッキ皮膜4(4A,4B)の上下端部側は抜け止め用の係止保持部15,16を介して樹脂成形部11に連結されているので、マスター軸1を分離する際に軸線方向の引き抜き力が作用した場合でも、メッキ皮膜4が変形したり樹脂成形部11から脱落することがなく、マスター軸1の分離を容易且つ確実にすることができる。
【0047】
これにより、図8で示すように樹脂成形部11の内周面にメッキ皮膜4(4A,4B)が軸受芯材16(16A,16B)として転写されて一体形成された軸受部品17(17A,17B)を構成すると共に、インサート軸5からメッキ皮膜4が分離されたマスター軸1が軸部品18(18A,18B)を構成し、軸受部品17側の軸心孔19にマスター軸1による軸部品18が装着された一対の軸と軸受部品となる。
【0048】
但し、軸受部品17側の軸心孔19からマスター軸1を一旦取り外した状態にし、軸心孔19やマスター軸1に対して必要に応じて脱脂や研磨などを施した後に、再度マスター軸1を装着することも可能であり、その場合には図8(a)のように軸受芯材16Aとなるメッキ皮膜4Aの上下両端部側にテーパ状の環状溝15(15a,15b)を設けた形態にすると、マスター軸1の脱着作業を容易に行うことができる。
【0049】
以上の実施例でも明らかなように、本発明による一対の軸と軸受部品では、メッキ皮膜4を施したマスター軸をインサート軸として樹脂成形部11を射出成形し、樹脂成形部11にメッキ皮膜4を転写して筒状の軸受芯材16として軸受部品を形成すると共に、軸受芯材16で形成した軸心孔19に対して、インサート軸のマスター軸1を軸部品として使用することによって、軸受部品の真円度及び寸法精度を高め且つ軸心孔19と軸部品とのクリアランスをより小さくした軸及び軸受け部品が得られる。
【0050】
また、軸受部品を構成する樹脂成形部11と軸受芯材16との間は、メッキ皮膜4で形成された軸受芯材16の開口縁部が、樹脂成形部11に突出するように係止保持部12,13を形成したことによって、軸受部品17に対して軸部品16が軸方向へ摺動する場合でも、強固に連結されて抜け止めすることができる。
【0051】
さらに、メッキ皮膜4で形成された軸受芯材16の開口縁部にテーパ状の環状溝15を設けるようにすると、軸受部品17側の軸心孔19からマスター軸1を一旦取り外した状態にし、軸心孔19やマスター軸1に対して必要に応じて脱脂や研磨などを施した後に、再度マスター軸1を装着する際の脱着作業を容易に行うことができる。
【0052】
本発明による一対の軸と軸受部品の製造方法では、射出成形時に軸心方向へ成形圧力が印加された際及び、射出成形後における成形樹脂材の熱収縮に対しては、マスター軸1によってメッキ皮膜4の内外径は保形されるので、軸受部品17は高い真円度及び寸法精度を得ることができると共に、軸受部品17にマスター軸1が装着されたままで製品になるので、熱収縮が終息するまで長時間に亘って常温下に放置しておくことが可能であり、これによって熱収縮による変形を防止できるが、作業能率を低下させることはない。
【0053】
また、射出成形する際にメッキ皮膜4の上下端部側を金型内で加圧成形し、軸受芯材16の開口縁部が樹脂成形部11に突出するように係止保持部12,13を形成したことによって、軸受部品を構成する樹脂成形部11と軸受芯材16との間を強固な接合状態で連結されているので、軸心孔19を形成する軸受部品17の軸受芯材16から、打撃などを加えて軸部品18となるマスター軸1を分離させる際に、軸受芯材16は脱落しない。
【0054】
さらに、メッキ皮膜4で形成された軸受芯材16の開口縁部に係止保持部12を形成し且つ、開口縁部にテーパ状の環状溝15を形成するために、上型及び下型にテーパ状の環状溝15に適合する環状突起を設けると、当該環状突起によってマスター軸1との空隙を閉塞し、軸心孔となるメッキ皮膜4で形成された軸受芯材16の内部に成形樹脂材その他の異物などが混入することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明を適用した軸と軸受部品の製造方法に使用するマスター軸の正面図。
【図2】図1のマスター軸にメッキ皮膜を施して製造したインサート軸の断面図。
【図3】図1のマスター軸にメッキ処理用のマスキングを施す模式的な断面図。
【図4】図3のメッキ処理によってマスター軸にメッキ皮膜を施して製造した他のインサート軸の断面図。
【図5】図2及び図4のインサート軸のV−V線に沿った断面図。
【図6】図2のインサート軸を用いて樹脂成形部を射出成形する模式的な要部縦断面図。
【図7】図4のインサート軸を用いて樹脂成形部を射出成形する模式的な要部縦断面図。
【図8】図6及び図7のインサート成形で造った一対の軸と軸受部品の縦断面図。
【図9】円筒状の樹脂成形部における熱収縮状態の比較図であって、(a)は従来技術による軸受部品の平面図、(b)は本発明を適用した軸と軸受部品の平面図。
【図10】長方形状の樹脂成形部における熱収縮状態の比較図であって、(a)は従来技術による軸受部品の平面図、(b)は本発明を適用した軸と軸受部品の平面図。
【符号の説明】
【0056】
1 マスター軸
2 非メッキ部(マスキング)
3 メッキ部
4 メッキ皮膜(軸受芯材)
5 インサート軸
6 スペーサ部材
7 マスク部材
8 上型
9 下型
10 キャビティ
11 樹脂成形部
12,13 係止保持部
14 環状突起
15 環状溝
16 軸受芯材
17 軸受部品
18 軸部品
19 軸心孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形部の軸心側に軸部品を装着する筒状の軸受芯材が一体成形され、この軸受芯材はマスター軸の要部にメッキ皮膜を施したインサート軸から、樹脂成形部を射出成形する際に転写してマスター軸から分離させ、軸受芯材で保形及び補強された樹脂成形部を軸受部品にすると共に、軸受芯材の内周面(軸心孔)に装着されたマスター軸を軸部品とし、軸受芯材の開口縁部には射出成形金型内でメッキ皮膜を加圧成形し、樹脂成形部側に膨出させた係止保持部を設けたことを特徴とした一対の軸と軸受部品及びその製造方法。
【請求項2】
軸受芯材の開口縁部に対して係止保持部を形成する際に、係止保持部の内側に同時形成したテーパ状の環状溝を設けた請求項1に記載した一対の軸と軸受部品及びその製造方法。
【請求項3】
マスター軸の非メッキ部をマスキングして、メッキ部の外周に軸心孔に適合するメッキ皮膜を施してインサート軸を造る工程と、インサート軸を装着した金型内で樹脂成形部を射出成形して内周面にメッキ皮膜を一体に転写し、メッキ皮膜を軸受芯材とした樹脂成形部で軸受部材を形成すると共に、軸受部材の内周面にマスター軸を装着して軸部品を形成する工程と、軸部品を装着した軸受部品を金型から取出して熱収縮が終息するまで常温下に放置した後に、マスター軸を軸線方向に加圧して軸受部材から分離させる工程とを備えていることを特徴とした一対の軸と軸受部品及びその製造方法。
【請求項4】
金型内に装着したインサート軸のメッキ皮膜を上型と下型で加圧し、開口縁部を外側に膨出させて係止保持部を成形する工程を、樹脂成形部を射出成形する工程の前に設けた請求項3に記載した一対の軸と軸受部品及びその製造方法。
【請求項5】
係止保持部を成形する上型と下型の加圧面に環状突起を形成し、係止保持部の成形と同時に係止保持部の内側にテーパ状の環状溝を形成する工程を設けた請求項4に記載した一対の軸と軸受部品及びその製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−170260(P2006−170260A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−360708(P2004−360708)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(501251219)株式会社アクトワン (23)
【Fターム(参考)】