説明

不整地走行車両のエンジン始動装置

【課題】 変速機のギア位置が前進ギア位置にあっても、エンジンを迅速に始動させる。
【解決手段】 CPU213は、変速切換スイッチ210およびダイオードボックス211により生成されるギア位置制御信号SGPCに基づいて変速機のギア位置を検出し、ギア位置がニュートラル位置または前進ギア位置である場合に、遠心クラッチでクランク軸と前記変速機との連結を遮断した状態で始動要求操作に応じてエンジンを始動可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのクランク軸と変速機とを遠心式クラッチにより接続・遮断し、当該エンジンの始動要求操作に応じてエンジンを始動する不整地走行車両におけるエンジン始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車では、変速機のギア位置がニュートラルの状態で、エンジンの始動要求に応じてエンジンを始動するのが一般的であり、変速機のギア位置がニュートラル位置以外の状態ではエンジンを始動することができないように構成されている(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】特開平5−209584号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、不整地走行車両においては、起伏の激しい路面を走行するため、例えば急な登り坂等を前進走行中にエンジン停止した場合であっても、迅速にエンジンを始動する機能が要望される。すなわち、変速機のギア位置が前進ギア位置である場合でも、エンジンを始動できることが望まれる。
そこで、本発明の目的は、変速機のギア位置が前進ギア位置にあっても、エンジンを迅速に始動させることができる不整地走行車両のエンジン始動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題を解決するため、エンジンの始動要求操作に応じて当該エンジンを始動させる不整地走行車両のエンジン始動装置は、前記エンジンのクランク軸の回転数が所定回転数に至ることにより、当該クランク軸の回転力を変速機に伝達する遠心クラッチと、前記変速機のギア位置を検出するギア位置検出部と、前記ギア位置検出部の検出結果に基づいて前記ギア位置がニュートラル位置または前進ギア位置である場合に、前記遠心クラッチで前記クランク軸と前記変速機との連結を遮断した状態で、前記始動要求操作に応じて前記エンジンを始動可能とする制御部と、を備えたことを特徴としている。
【0005】
上記構成によれば、ギア位置検出部は、変速機のギア位置を検出する。
制御部は、ギア位置検出部の検出結果に基づいてギア位置がニュートラル位置および前進ギア位置である場合に、遠心クラッチでクランク軸と前記変速機との連結を遮断した状態で、始動要求操作に応じて前記エンジンを始動可能とする。
【0006】
この場合において、前記制御部は、前記ギア位置が前進ギア位置であり、かつ、ブレーキが操作されてストップスイッチが閉状態である場合に、前記始動要求操作に応じて前記エンジンを始動可能とするようにしてもよい。
また、前記制御部は、前記ギア位置検出部により検出されたギア位置が後進ギア位置である場合、前記エンジンの始動を禁止するようにしてもよい。
さらにまた、前記ギア位置検出部は、前記変速機のギア位置に応じて開閉される複数の接点を有する変速切換スイッチと、前記接点に電気的に接続される複数のダイオードを有し、前記変速切換スイッチと協働して、ギア位置検出信号を生成するとともに、前記ダイオードの後段で前記ギア位置検出信号をエンジン始動制御用信号と、ギア位置表示用信号とに分岐させるダイオードボックスと、を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、変速機のギア位置が前進ギア位置にあっても、エンジンを迅速に始動させることができる。また、簡単な回路構成でギア位置検出信号をエンジン始動制御用信号と、ギア位置表示用信号とに分岐できるとともに、逆電流の阻止も図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
図1は本発明の実施形態に係るATV車の側面図である。また、図2、図3及び図4はそれぞれATV車の正面図、上面図及び後面図である。
このATV車10は、ATV(All Terrain Vehicle:不整地走行車両)に分類される4輪車両であり、農業、牧畜業、狩猟、安全監視等の移動用、或いはレジャー用に適した車両である。ATV車10は、車両フレーム11を有し、この車両フレーム11には、中央部にエンジン12が支持され、エンジン12の上方に鞍乗型シート13が支持され、鞍乗型シート13の前方に燃料タンク14が支持され、さらに前方にバー型ハンドル14Aが支持されている。このバー型ハンドル14Aには、アクセルレバー14A1、ブレーキレバー14A2、クラッチレバー14A3が取り付けられている。
【0009】
車両フレーム11には、図2に示すように、左右一対の懸架機構15を介して前輪16が回転可能に支持されている。また、車両フレーム11の後部中央には、図4に示すように、懸架機構17を介してリアスイングアームアッセンブリ18が支持され、このリアスイングアームアッセンブリ18の後輪軸18Aには、後輪19が支持されている。そして、後輪軸18Aには、スプロケット18Bが固定され、図1に示すように、このスプロケット18Bとエンジン12の最終出力軸27との間にドライブチェーン20が巻回される。また、後輪軸18Aにはブレーキ機構21が配置される。さらに、リアスイングアームアッセンブリ18には、スプロケット18Bやブレーキ機構21をガードするガード部材18Cが取り付けられている。
【0010】
車両フレーム11の左右には、図3に示すように、足を乗せるフットレスト22A、22Bが配設され、このフットレスト22A、22Bは、前輪16及び後輪19の間に位置している。一方のフットレスト22Aには、図1に示すように、後述する歯車変速機構の変速比を切り換えるチェンジペダル22A1が揺動自在に設けられ、他方のフットレスト22Bには、上述したブレーキ機構21を作動させるブレーキペダル22B1が揺動自在に設けられている。さらに、車両フレーム11には、図1〜図4に示すように、前輪16を覆うフロントフェンダ23A、後輪19を覆うリアフェンダ23B、フロントガード24A、リアガード24B、バッテリ25及びエアクリーナ26等が取り付けられている。リアガード24Bは、排気マフラ28を支持すると共に、開閉可能な蓋29Aを有する収納ケース29を支持している。
【0011】
図5は、本実施形態によるエンジン12の断面図である。このエンジン12は、4サイクルエンジンであり、シリンダヘッド30とシリンダブロック31とクランクケース32とを備えて構成されている。シリンダブロック31には、シリンダ33が形成されており、このシリンダ33には、ピストン34が摺動自在に設けられている。このピストン34は、コンロッド35を介してクランク軸40に連結され、このクランク軸40は、クランクケース32に軸支されている。
【0012】
シリンダヘッド30には、吸気通路30Aと排気通路30Bとが設けられ、夫々の通路には、吸気弁32Aと排気弁32Bとが設けられ、これら弁体は、シリンダ33に連通する吸気ポート31Aと、排気ポート(図示せず)とを閉塞自在に構成されている。上記吸気弁32Aは、カム33Aのカムプロフィルに従い上下動して、吸気ポート31Aを閉塞自在であり、排気弁32Bは上記カム33Aによって駆動されるロッカーアーム33Bを介して上下動して、排気ポート(図示せず)を閉塞自在である。
すなわち、カム33Aを支持するカム軸34Aの軸端には、図6に示すように、スプロケット41が設けられ、このスプロケット41と、クランク軸40の軸端に固定されたスプロケット40Aとの間にはチェーン42が巻回され、このチェーン42には、テンショナーリフタ42Aを介してテンションが掛けられている。
そして、クランク軸40の回転力が、このチェーン42を介してカム軸34Aに伝動され、これによって、カム33A及びロッカーアーム33Bが回転または揺動し、吸気弁32A及び排気弁32Bが上下動し、クランク軸40の回転に応じて適宜のタイミングで吸排気ポートが開放される。
【0013】
また、図5に示すように、シリンダヘッド30には、点火プラグ36が配設され、吸気通路30Aには、図示を省略したスロットルボディ並びに気化器が連結されている。そして、スロットルボディを介して、燃焼用空気が供給されると共に、気化器を介して燃焼用空気に適正な混合比で混合される燃料が供給され、これら空気及び燃料の混合気が、シリンダ33内に吸入された後、点火プラグ36により点火され、その爆発力によりピストン34が上下動してクランク軸40を回転させる。
このクランク軸40の軸端には、図6に示すように、ACG(AC Generator)43が同軸心に配置されている。そして、このACG43は、クランク軸40の回転に応じて発電し、その電力が車両10の後述するECU(Electric Control Unit)201(図9参照)等の電装部品に供給されると共に、バッテリ204(図9参照)に充電される。
【0014】
クランク軸40には、ACG43の他に、図7に示すように、遠心クラッチ機構からなる発進クラッチ50と、始動ギア60とが同軸心に配置されている。上記発進クラッチ50は、図示は省略したが、主として、クランク軸40に結合されると共に、クラッチシューを有するクラッチインナと、このクラッチインナのクラッチシューが押圧された場合、その摩擦力によって、クラッチ接続を行うクラッチアウタとを備えて構成されている。クランク軸40が回転すると、常時、クラッチインナが回転し、それがアイドリング回転数程度の低回転で回転している時には、クラッチシューがクラッチアウタに圧接せずに、クラッチインナが空回りする。一方、クランク軸40の回転数が所定値を超えた場合、クラッチインナのクラッチシューが、その遠心力によって、クラッチアウタに押し付けられてクラッチ接続が行われる。
【0015】
発進クラッチ50のクラッチアウタには、プライマリ駆動ギア51が同軸心に連結され、クラッチ接続が行われた場合、クランク軸40の回転力が、発進クラッチ50を介してプライマリ駆動ギア51に伝達される。
このプライマリ駆動ギア51には、プライマリ従動ギア53が噛み合っており、このプライマリ従動ギア53は、後述する常時噛み合い式の歯車変速装置の一部を構成するメイン軸45と同軸心に配置されている。
【0016】
このエンジン12では、上記発進クラッチ50のほかに、図5に示すように、多数の摩擦板(図示せず)を有した変速クラッチ70を備え、この変速クラッチ70は、上記メイン軸45と同軸心に配置されている。
この変速クラッチ70は、夫々図示は省略したが、プライマリ従動ギア53(図7)と一体に回転するクラッチアウタと、メイン軸45と一体に回転するクラッチインナと、上記クラッチアウタと上記クラッチインナとの間に配置された多数の摩擦板と、この摩擦板を押圧するクラッチピストンとを備えて構成されている。そして、この変速クラッチ70は、クラッチピストンを動作させて、クラッチアウタとクラッチインナとを摩擦板を介して圧接させてクラッチ接続を行う。
【0017】
上記構成では、発進クラッチ50がクラッチ接続された場合、クランク軸40の回転力が、プライマリ駆動ギア51及びプライマリ従動ギア53に伝動され、この従動ギア53に一体結合された変速クラッチ70のクラッチアウタに伝達される。この状態で、変速クラッチ70がクラッチ接続されていない場合、変速クラッチ70のクラッチアウタは空回りし、その回転力はメイン軸45に伝達されない。これに対し、発進クラッチ50がクラッチ接続され、さらに、変速クラッチ70がクラッチ接続されると、クランク軸40の回転力が、プライマリ駆動ギア51、プライマリ従動ギア53、並びに変速クラッチ70を介して、メイン軸45に伝達される。
【0018】
一方、クランクケース32には、図5に示すように、クランク軸40、メイン軸45のほかに、カウンター軸46、シフトドラム47、並びにシフトフォーク48が支持されている。これらは、常時噛み合い式の歯車変速装置を構成し、前進5段、後進1段で、進行方向並びに変速比を切り換える。
すなわち、メイン軸45の軸上には、複数枚のギア45Aが連結され、カウンター軸46の軸上には、メイン軸45のギア45Aに噛み合う複数枚のギア46Aが連結されている。そして、任意のギア45A,46Aを選択し、それらを噛み合わせることによって、例えば、1速、2速又は3速のように変速比が規定され、その変速比に従い、メイン軸45の回転力が、ギア45A,46Aで変速されてカウンター軸46に伝達され、このカウンター軸46に歯車等を介して連結された最終出力軸27に伝達され、さらに、図1に示すように、エンジン12の動力として、最終出力軸27からドライブチェーン20を介して後輪19に出力伝達される。
【0019】
また、歯車変速装置45〜48には、図示は省略したが、後進用変速ギアが設けられ、後進が選択された場合には、後進用変速ギアを介してメイン軸45とカウンター軸46とが連結される。これによれば、2つのクラッチ接続によって、メイン軸45に伝達された回転力が、後進段に変速され、カウンター軸46を介して最終出力軸27(図1)に伝達され、さらに、エンジン12の動力として、最終出力軸27からドライブチェーン20を介して後輪19に伝達される。
【0020】
前進変速動作を説明すると、まず、バー型ハンドル14Aに取り付けられたクラッチレバー14A3の操作により、変速クラッチ70のクラッチ接続が解除されて、メイン軸45への動力伝達が断たれる。
つぎに、メイン軸45への動力伝達が断たれた状態で、フットレスト22Aに取り付けられた、チェンジペダル22A1(図1)が揺動操作される。このチェンジペダル22A1は、シフトドラム47に連結され、チェンジペダル22A1が揺動操作されると、シフトドラム47が回動し、この回動によって、シフトドラム47の螺旋溝(図示せず)に係合したシフトピン48Aが軸方向に移動する。このシフトピン48Aは、シフトフォーク48と一体であり、シフトピン48Aが軸方向に移動すると、シフトフォーク48が軸方向にスライド動作し、そのシフトフォーク48が、カウンター軸46上のいずれかのギア46Aを軸方向に移動させて、このギア46Aと、メイン軸45上のいずれかのギア45Aとが噛み合わされる。
【0021】
本実施形態では、エンジン12に、図5〜図7に示すように、エンジン始動用のスタータモータ100が取り付けられている。このエンジン12は、図8に示すように、クランクケース32を備え、このクランクケース32の前部には、モータマウント101が鋳物で一体成型され、このモータマウント101には、スタータモータ100が片持ち支持されている。また、クランクケース32には、エンジン12の前側を車両フレーム11に固定するための前側エンジンマウント12Aと、エンジン12の下側を車両フレーム11に固定するための下側エンジンマウント12Bとが鋳物で一体成型されており、この前側エンジンマウント12Aと下側エンジンマウント12Bとの間に、上記モータマウント101が一体成型されている。
モータマウント101は、前側エンジンマウント12Aと下側エンジンマウント12Bとの間の領域のうち、クランクケース32の一方の側面寄りに配置され、略斜め前方に突出した形状に形成されている。
【0022】
モータマウント101は、図7に示すように、内部が中空に形成されており、その内部には、スタータモータ100のモータ軸102に固定されたピニオンギア103が配置されている。このピニオンギア103には、伝動ギア104Aが噛み合い、この伝動ギア104Aと一体の小ギア104Cには、伝動ギア104Bが噛み合い、この伝動ギア104Bは、クランク軸40に連結された始動ギア60と噛み合う。この始動ギア60は、ワンウェイクラッチ(図示せず)を介してクランク軸40に連結されている。上述したギア輪列は、スタータモータ100の回転力を、クランク軸40に伝達する伝達機構105を構成している。
ここで、ワンウェイクラッチ(図示せず)は、始動ギア60の回転数が、クランク軸40の回転数を上回っている限り、当該始動ギア60の回転力を、クランク軸40に対し伝達可能にするクラッチである。なお、ワンウェイクラッチに代えて、スタータモータ100のピニオンギア103を、例えば、マグネットスイッチを用いて、伝動ギア104Aと噛み合う位置と噛み合わない位置とに移動させる電磁押し込み機構を適用してもよい。
【0023】
本構成では、エンジン12の始動時に、スタータモータ100を始動させると、ピニオンギア103が回転し、伝動ギア104A、小ギア104C及び伝動ギア104Bを介して始動ギア60が回転し、これにワンウェイクラッチ(図示せず)を介して連結されたクランク軸40が駆動される。このとき、図示を省略したECUにより点火プラグ36の点火制御が実行され、これによって、エンジン12が始動される。
エンジン12の始動時に、発進クラッチ50のクラッチ接続は解除されており、クランク軸40からプライマリ駆動ギア51に動力伝達されることはない。
すなわち、発進クラッチ50(遠心クラッチ)でクランク軸40と変速クラッチ70、ひいては、常時噛み合い式の歯車変速装置との連結を遮断した状態で、始動要求操作に応じてエンジン12を始動可能となっている。
【0024】
ここで、実施形態のATV車の電気的構成について説明する。
図9は、ATV車の電気系統の構成を示す図である。
ATV車10の電気系統は、エンジンの点火系などを制御するためのECU201と、クランク軸40の回転に伴って交流電力を発電するACG43と、図示しない3相全波整流ブリッジ回路および安定化回路を有し、ACG43の発電電力を整流し、安定化させるレギュレータ・レクチファイヤ203と、ACG202からレギュレータ・レクチファイヤ203を介して供給される直流電力を蓄えるとともに、各部へ直流電力を供給するバッテリ204と、複数の接点を有し、ライダーのキー操作に連動して閉状態(オン状態)となって、レギュレータ・レクチファイヤ203を介して供給される電力を供給するイグニションキースイッチ205と、を備えている。
【0025】
さらにATV車10の電気系統は、レギュレータ・レクチファイヤ203から直接あるいはレギュレータ・レクチファイヤ203からイグニションキースイッチ205を介して、各部へ過電流が供給されるのを防止するための複数のヒューズが設けられたヒューズボックス206と、エンジン始動時にライダーの操作によりスタートスイッチ207が閉状態とされ、スタータマグネットスイッチ208が駆動されて閉状態とされることにより、バッテリ204に接続されて、クランク軸40を回転駆動するためのスタータモータ100と、チェンジペダル22A1の操作、ひいては、シフトドラム47位置に連動する変速切換スイッチ210と、複数の逆流防止ダイオードを備え、変速切換スイッチ210と連携し、ギア位置検出信号SGPを生成し、分岐してギア位置表示信号SGPDおよびギア位置制御信号SGPC(=エンジン始動制御用信号)として出力するダイオードボックス211と、各種状態表示を行う複数のLEDを備えた状態表示部212と、当該ATV車10全体を制御するCPU213と、CPU213の制御下でフロントランプ等の各種ランプの点/消灯および警報器(ホーン)の駆動を行うランプ・ホーン部214と、ブレーキの作動に連動するストップスイッチ215と、を備えている。
【0026】
上記構成において、ECU201には、スロットル開度を検出するためのスロットルセンサ221と、ラジエータファンを駆動するためのファンモータ222と、緊急時にエンジンを停止させるためのキルスイッチ223と、点火タイミングの基準タイミングに対応するパルスを生成するパルスジェネレータ224と、冷却水の温度を検出するための冷却水温センサ225と、エンジン点火用の高電圧を発生させるためのイグニションコイル226と、ACG43のロータ角度、ひいては、クランク角度を検出するためのロータ角度センサ227と、燃料量を検出するためのフューエルセンサ228と、が接続されている。
変速切換スイッチ210は、7接点、1可動切片の切換スイッチであり、各接点は、それぞれ、ギア位置の前進第1段、前進第2段、前進第3段、前進第4段、前進第5段、後進、ニュートラルに対応している。
ダイオードボックス211は、それぞれがギア位置のニュートラル、前進第1段、前進第2段、前進第3段、前進第4段、前進第5段に対応している6個のダイオードDN、D1〜D5を備えて構成されている。
【0027】
ここで、ECU201、変速切換スイッチ210を構成する7つの接点、ダイオードボックス211を構成するダイオードおよびCPUの電気的接続について詳細に説明する。
ECU201は、ストップスイッチ215に接続されるとともに、ギア位置検出信号を生成するための電流供給端子となるストップスイッチ端子201Aを備えており、このストップスイッチ端子201Aにはダイオードボックス211を構成するダイオードDNのアノード端子が直接接続されている。また、ストップスイッチ端子201Aには、ストップスイッチ215を介してダイオードD1〜D5のアノード端子が共通接続されている。
【0028】
ダイオードDNのカソード端子は、ECU201のニュートラル検出端子TNおよび変速切換スイッチ210の対応する接点に接続されている。同様に、ダイオードD1〜D5のそれぞれのカソード端子は、ECU201のギア位置表示入力端子および変速切換スイッチ210の対応する接点に接続されている。さらにダイオードD1〜D5のそれぞれのカソード端子は、CPU213に接続されている。
また、変速切換スイッチ210を構成する後進に対応する接点は、ECU201の後進検出端子に接続されるとともに、状態表示部212を構成するLED、ヒューズボックス206、イグニションスイッチ205を介してレギュレータ・レクチファイヤ203に接続されている。
また、CPU213とECU201との間には、CPU213がECU201を制御するための制御ラインLCが接続されている。
【0029】
以下の説明においては、便宜上、ダイオードボックス211を構成するダイオードD1〜D5の出力信号をギア位置検出信号SGPと呼び、このギア位置検出信号SGPがダイオードボックス211内で分岐されてECU201のギア位置表示入力端子に至るまでの信号をギア位置表示信号SGPDと呼び、ギア位置検出信号SGPがダイオードボックス211内で分岐されてCPU213に至るまでの信号をギア位置制御信号SGPCと呼ぶものとする。
【0030】
次にエンジン点火制御動作について説明する。
キルスイッチ223が閉状態(オン状態)にある場合に、ライダーがキーを挿入し、キー操作に伴ってイグニションスイッチ205がオン状態となる。
この状態で、ライダーがスタートスイッチ207を操作して閉状態(オン状態)とすると、スタータマグネットスイッチ208が駆動され閉状態とされてスタータモータ100がバッテリ204に接続される。
この結果、スタータモータ100が駆動され、ピニオンギア103が回転し、伝動ギア104A、小ギア104C及び伝動ギア104Bを介して始動ギア60が回転し、これと一体のクランク軸40が、アイドリング回転数より低い回転数で回転駆動される。
この状態でCPU213は、点火制御を行う。
ここで、CPU213の制御について詳細に説明する。
【0031】
(1)ギアがニュートラル位置にある場合
ライダーのチェンジペダル22A1の操作によりシフトドラム47がギアのニュートラル位置に対応する状態にある場合には、変速切換スイッチ210を構成する可動切片は、7つの接点のうち、ニュートラル位置に対応する接点(図中、Nで示す)に電気的に接続される。
この結果、ダイオードDNのカソード端子は、変速切換スイッチ200の対応する接点および可動切片を介して、同電位(=“L”レベル)を有するエンジンアースEEおよびフレームアースFEに接続される。
したがって、ECU201のストップスイッチ端子201AからダイオードDNに電流が供給され、エンジンアースEEおよびフレームアースFEに電流が流れ、ダイオードDNのカソード端子の電位レベルは“L”レベル(=エンジンアースおよびフレームアースFEの電位レベル)となる。
これに伴って、ECU201のニュートラル検出端子TNも“L”レベルとなり、ECU201は、CPU213の制御を待つことなくエンジン始動条件が満たされたと判別する。
【0032】
従って、エンジン始動条件が満たされた判別したECU201は、パルスジェネレータ224の生成した点火タイミングの基準タイミングに対応するパルスおよびロータ角度センサ227の出力に対応するクランク角度に基づいてイグニションコイル226を制御し、イグニションコイル226の二次側に接続されている点火プラグ36に点火用高電圧を印加する。
これにより、点火プラグ36の中心電極−接地電極間で放電を行わせ、図示しない気化器を介してシリンダ内に供給された空気と燃料の混合気に点火させ、エンジン始動が完了する。
【0033】
エンジン12が始動すると、クランク軸40の回転数がアイドリング回転数に上昇する。始動ギア60は、ワンウェイクラッチを介してクランク軸40に設けられており、このため、始動ギア60の回転数が、クランク軸40の回転数を上回る場合に始動ギア60とクランク軸40とが連結され、始動ギア60の回転数が、クランク軸40の回転数を下回る場合には、始動ギア60とクランク軸40との連結が断たれ、始動ギア60は空回りする。このため、エンジン12が始動しても、始動ギア60の回転数がクランク軸40の回転数を下回っているため、エンジン始動後は始動ギア60とクランク軸40との連結が断たれる。従って、エンジン始動後にスタータモータ100が駆動された場合、伝達機構105の各ギア103,104A、104B、60は空回りする。
【0034】
エンジン12の始動時には、発進クラッチ50のクラッチ接続は解除されており、クランク軸40からプライマリ駆動ギア51に動力伝達されることはない。
すなわち、遠心クラッチとして機能する発進クラッチ50は、クランク軸40と上述した変速クラッチ70、ひいては、上述した常時噛み合い式の歯車変速装置(変速機)との連結を遮断した状態でエンジンを始動することが可能となる。
【0035】
(2)ギアが前進第1段〜前進第5段のいずれかの位置にある場合
ライダーのチェンジペダル22A1の操作によりシフトドラム47がギアの前進第1段〜前進第5段位置に対応する状態にある場合には、変速切換スイッチ210を構成する可動切片は、7つの接点のうち、前進第1段〜前進第5段のいずれかに対応する接点(図中、1〜5で示す)に電気的に接続される。
この結果、前進ギア位置に対応するダイオードDX(X=1〜5)のカソード端子は、変速切換スイッチ210の対応する接点および可動切片を介して、同電位を有するエンジンアースEEおよびフレームアースFEに接続される。
【0036】
したがって、ECU201のストップスイッチ端子201Aからストップスイッチ215を介してダイオードDXに電流が供給され、エンジンアースEEおよびフレームアースFEに電流が流れ、ダイオードDXのカソード端子の電位レベルは“L”レベル(=エンジンアースおよびフレームアースFEの電位レベル)となる。すなわち、前進ギア位置に対応するギア位置検出信号SGPX(X=1〜5)は“L”レベルとなり、分岐されたギア位置表示信号SGPDX(X=1〜5)およびギア位置制御信号SGPCX(X=1〜5)も“L”レベルとなる。
このとき、選択されていない前進ギア位置に対応するダイオードDY(Y=1〜5、かつ、Y≠X)のカソード端子は、エンジンアースEEおよびフレームアースFEには接続されないので、対応するギア位置検出信号SGPY(Y=1〜5、かつ、Y≠X)は、“H”レベル(=ECU201のストップスイッチ端子201Aの電位レベル。より正確にはストップスイッチ端子201Aの電位レベルからダイオードの電圧降下分を考慮した電位レベル)となり、分岐されたギア位置表示信号SGPDY(Y=1〜5、かつ、Y≠X)およびギア位置制御信号SGPCY(Y=1〜5、かつ、Y≠X)も“H”レベルとなる。
【0037】
具体的には、チェンジペダル22A1の操作によりシフトドラム47が前進ギア第3段位置に対応する状態にある場合には、ギア位置検出信号SGP3“L”レベルとなり、分岐されたギア位置表示信号SGPD3およびギア位置制御信号SGPC3も“L”レベルとなる。一方、ギア位置検出信号SGP1、SGP2、SGP4、SGP5は、“H”レベルとなり、分岐されてECU201に出力されるギア位置表示信号SGPD1、SGPD2、SGPD4、SGPD5およびCPU213に出力されるギア位置制御信号SGPC1、SGPC2、SGPC4、SGPC5も“H”レベルとなる。
この結果、CPU213は、ギア位置制御信号SGPCX(X=1〜5)のいずれかひとつのみが“L”レベルとなった場合には、ギア位置が前進ギア位置であり、かつ、ブレーキがかけられているとして、制御ラインLCを介してECU201に点火を許可する旨の指示を行う。
【0038】
これに伴って、ECU201は、パルスジェネレータ224の生成した点火タイミングの基準タイミングに対応するパルスおよびロータ角度センサ227の出力に対応するクランク角度に基づいてイグニションコイル226を制御し、イグニションコイル226の二次側に接続されている点火プラグ36に点火用高電圧を印加する。
これにより、点火プラグ36の中心電極−接地電極間で放電を行わせ、図示しない気化器を介してシリンダ内に供給された空気と燃料の混合気に点火させ、エンジン始動が完了する。
【0039】
エンジン12が始動すると、クランク軸40の回転数がアイドリング回転数に上昇する。始動ギア60は、ワンウェイクラッチを介してクランク軸40に設けられており、このため、始動ギア60の回転数が、クランク軸40の回転数を上回る場合に始動ギア60とクランク軸40とが連結され、始動ギア60の回転数が、クランク軸40の回転数を下回る場合には、始動ギア60とクランク軸40との連結が断たれ、始動ギア60は空回りする。このため、エンジン12が始動しても、始動ギア60の回転数がクランク軸40の回転数を下回っているため、エンジン始動後は始動ギア60とクランク軸40との連結が断たれる。従って、エンジン始動後にスタータモータ100が駆動された場合、伝達機構105の各ギア103,104A、104B、60は空回りする。
【0040】
エンジン12の始動時には、発進クラッチ50のクラッチ接続は解除されており、クランク軸40からプライマリ駆動ギア51に動力伝達されることはない。
すなわち、遠心クラッチとして機能する発進クラッチ50は、クランク軸40と上述した変速クラッチ70、ひいては、上述した常時噛み合い式の歯車変速装置(変速機)との連結を遮断した状態でエンジンを始動することが可能となる。
すなわち、ギア位置が前進ギア位置であり、かつ、ブレーキが操作されて、ストップスイッチが閉状態(オン状態)である場合には、直ちにエンジンを始動することができる。従って、坂道を上っている最中などにエンジンが停止した場合でも、急発進することもなく容易、かつ、迅速に再発進が可能となる。
【0041】
一方、ECU201は、入力されたギア位置表示信号SGPDのうちギア位置表示信号SGPD3のみが“L”レベルとなっているので、ギア位置が前進ギア第3段であることを図示しない前進ギア第3段に対応するギア位置表示ランプを点灯させてライダーに告知することとなる。
上記動作に対し、CPU213は、ギア位置制御信号SGPCX(X=1〜5)の全てがハイインピーダンス状態の場合には、ストップスイッチ215が開状態(オフ状態)でありブレーキが操作されていないとして、制御ラインLCを介してECU201にギア位置がニュートラル以外の場合には、点火を禁止する旨の指示を行う。
なお、CPU213は、ギア位置制御信号SGPCX(X=1〜5)の全てが“H”レベルとなった場合には、ブレーキは操作されているが、ギア位置は前進ギア位置ではないと判別することとなる。
【0042】
(3)ギアが後進位置にある場合
ライダーのチェンジペダル22A1の操作によりシフトドラム47がギアの後進位置に対応する状態にある場合には、変速切換スイッチ210を構成する可動切片は、7つの接点のうち、後進位置に対応する接点(図中、Rで示す)に電気的に接続される。
この結果、ECU201の後進検出端子TRは、変速切換スイッチ210を介してエンジンアースEEおよびフレームアースFEに接続され、後進検出端子TRの電位レベルは“L”レベル(=エンジンアースおよびフレームアースFEの電位レベル)となる。
従って、ECU201CPU213の制御を待つことなくエンジン始動条件が満たされていないと判別し、点火を禁止した待機状態となる。
【0043】
以上の説明のように、本実施形態によれば、エンジンが停止した場合に、ギア位置がニュートラル位置および前進ギア位置(上述の例の場合、前進第1段〜前進第5段)である場合に、遠心クラッチでクランク軸と変速機との連結を遮断した状態で、エンジンの始動が容易、かつ、迅速に行える。
以上の説明においては、前進5段、後進1段の変速装置について説明したが、これに限るものではなく、任意の段数の変速装置について適用が可能である。
以上の説明においては、ギア位置検出信号SGP、ギア位置表示信号SGPD、ギア位置制御信号SGPCが“L”レベルである場合に対応するギア位置にあるものとして説明したが、これに限るものではなく、ギア位置検出信号SGP、ギア位置表示信号SGPD、ギア位置制御信号SGPCが“H”レベルである場合に対応するギア位置にあるものとなるように回路を構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の実施形態に係るATV車の側面図である。
【図2】ATV車の正面図である。
【図3】ATV車の上面図である。
【図4】ATV車の背面図である。
【図5】エンジンの断面図である。
【図6】エンジンの一部断面を示す側面図である。
【図7】エンジンの一部断面を示す側面図である。
【図8】クランクケースの斜視図である。
【図9】ATV車の電気系統の構成説明図である。
【符号の説明】
【0045】
10…ATV車
11…車両フレーム
12…エンジン
30…シリンダヘッド
31…シリンダブロック
32…クランクケース
40…クランク軸
43…ACG
50…発進クラッチ(遠心クラッチ)
70…変速クラッチ
100…スタータモータ
101…モータマウント
103…ピニオンギア
105…伝達機構
201…ECU(制御部)
203…レギュレータ・レクチファイヤ
204…バッテリ
205…イグニションキースイッチ
206…ヒューズボックス、
207…スタートスイッチ
208…スタータマグネットスイッチ
209…スタータモータ
210…変速切換スイッチ(ギア位置検出部)
211…ダイオードボックス、
212…状態表示部
213…CPU(制御部)
214…ランプ・ホーン部
215…ストップスイッチ
221…スロットルセンサ
222…ファンモータ
223…キルスイッチ
224…パルスジェネレータ
225…冷却水温センサ
226…イグニションコイル
227…ロータ角度センサ
228…フューエルセンサ
SGP…ギア位置検出信号
SGPD…ギア位置表示信号
SGPC…ギア位置制御信号(エンジン始動制御信号)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの始動要求操作に応じて当該エンジンを始動させる不整地走行車両のエンジン始動装置において、
前記エンジンのクランク軸の回転数が所定回転数に至ることにより、当該クランク軸の回転力を変速機に伝達する遠心クラッチと、
前記変速機のギア位置を検出するギア位置検出部と、
前記ギア位置検出部の検出結果に基づいて前記ギア位置がニュートラル位置または前進ギア位置である場合に、前記遠心クラッチで前記クランク軸と前記変速機との連結を遮断した状態で、前記始動要求操作に応じて前記エンジンを始動可能とする制御部と、
を備えたことを特徴とする不整地走行車両のエンジン始動装置。
【請求項2】
請求項1に記載の不整地走行車両のエンジン始動装置において、
前記制御部は、前記ギア位置が前進ギア位置であり、かつ、ブレーキが操作されてストップスイッチが閉状態である場合に、前記始動要求操作に応じて前記エンジンを始動可能とすることを特徴とする不整地走行車両のエンジン始動装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の不整地走行車両のエンジン始動装置において、
前記制御部は、前記ギア位置検出部により検出されたギア位置が後進ギア位置である場合、前記エンジンの始動を禁止することを特徴とする不整地走行車両のエンジン始動装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の不整地走行車両のエンジン始動装置において、
前記ギア位置検出部は、前記変速機のギア位置に応じて開閉される複数の接点を有する変速切換スイッチと、
前記接点に電気的に接続される複数のダイオードを有し、前記変速切換スイッチと協働して、ギア位置検出信号を生成するとともに、前記ダイオードの後段で前記ギア位置検出信号をエンジン始動制御用信号と、ギア位置表示用信号とに分岐させるダイオードボックスと、
を備えたことを特徴とする不整地走行車両のエンジン始動装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−9742(P2006−9742A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190730(P2004−190730)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】