説明

両面金属張積層板の製造方法

【課題】絶縁樹脂層の両側に金属が積層した両面金属張積層板において、極薄化にも対応でき、微細配線加工可能な、シワやカールを抑制した外観不良のない、且つ絶縁樹脂層と極薄銅箔との間の接着性に優れた両面金属張積層板を提供する。
【解決手段】金属箔上に、ポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥を繰り返して多層ポリイミド樹脂層を形成した後、イミド化を行い、ガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A)を介して、ポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度以上に加熱して、耐熱性キャリア付き極薄銅箔とロールプレスによって熱圧着した後、ポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度以下に冷却して耐熱性キャリアを剥離することからなる両面金属張積層板の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両面金属張積層板の製造方法に関し、より詳しくは極薄銅箔を使用した両面金属張積層板の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、COF市場においては、電子機器の軽薄短小化に伴い、ファインピッチ化に対応可能なフレキシブルプリント基板材料が要求されている。現状の回路形成手法としては銅箔をエッチングし、配線を形成するサブトラクティブ法が主流である。但し、例えば30μmピッチ以下の更なる微細配線加工を行うには、サブトラクティブ工法では、配線形状が台形となるため、ICチップ実装時に実装部面積が減少するので、ファイン化が進むとセミアディティブ工法が用いられる。セミアディティブ工法においては、ポリイミドフィルム等の絶縁フィルム上に電解めっき時の導電層の役割を担う極薄の銅箔層を形成させた材料が必要とされる。この材料としては、ポリイミド等の絶縁フィルム上に真空下にてスパッタリング法及び電解めっき法にて極薄銅層を形成させた材料が提案されている。
【0003】
一方、近年、キャリア銅箔上に剥離層と極薄銅箔層から構成される複合銅箔を用いた材料が提案されている。本銅箔は、ポリイミドワニスを塗布しイミド化するキャスティング法や接着層付きポリイミドフィルムに高温加圧により複合銅箔を熱圧着するラミネート法に応用可能であり、銅張積層体製造後、キャリア銅箔を引き剥がす手法により、5μm以下の銅箔/ポリイミド積層体を製造する手法が提案されている。
【0004】
このような手法として、特開2004−42579号公報(特許文献1)において、耐熱性キャリア付き銅箔と熱圧着性多層ポリイミドとを加圧下に熱圧着−冷却することで銅張積層板を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法では、熱圧着−冷却の工程において、ダブルベルトプレスを使用して加圧下に行うために装置が複雑になると共に、熱圧着性多層ポリイミドフィルムを別途用意する必要があるという問題点があった。また、特開2003−340963号公報(特許文献2)においては、支持体金属を結合させている極薄銅箔にポリイミドフィルムを加熱圧着することで銅張積層板を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法においても、熱圧着性多層ポリイミドフィルムを別途用意する必要があると共に、ポリイミドフィルムと金属箔の接着強度は充分ではなく、また適用されるポリイミドフィルムは、ある程度の厚みが必要であり、ポリイミド樹脂層の極薄化が困難であるという問題点があった。また、特開2003−53836号公報(特許文献3)では、熱ラミネート後にポリイミドフィルムのシワの発生を抑制するため、保護材料を加熱圧着時に積層板と軽く密着させておき、冷却後に保護材料を積層板から剥離する方法が開示されている。しかしながら、この方法においても、熱圧着性多層ポリイミドフィルムを別途用意する必要があると共に、保護材料を用いるという煩雑さがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−42579号公報
【特許文献2】特開2003−340963号公報
【特許文献3】特開2003−53836号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を鑑みて、ポリイミド樹脂層の両側に金属が積層した両面金属張積層板において、極薄化にも対応でき、微細配線加工可能な、シワやカールを抑制した外観不良のない、且つ絶縁樹脂層と極薄銅箔との間の接着性に優れた両面金属張積層板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、金属箔上に、ポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥してガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A1)となる層を形成し、その上にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して線膨張係数が1×10-6 〜30×10-6(1/K)の低熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)となる層を形成し、表面層としてポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥してガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A2)となる層を形成した後、硬化又はイミド化を行い、少なくも3層のポリイミド樹脂層を有する積層体としたのち、キャリア付き極薄銅箔を極薄銅箔側と当該積層体のポリイミド樹脂層(A2)とが接するように積層し、ポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度以上に加熱して、ロールプレスによって熱圧着してキャリア付き極薄銅箔層を有する積層体とし、次いでポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度以下に冷却し、その後、極薄銅箔とキャリアを1N/m以上50N/m未満の剥離強度で剥離することを特徴とする両面金属張積層板の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、金属箔とポリイミド樹脂層(A1)との接着強度が0.8kN/m以上であり、且つ極薄銅箔とポリイミド樹脂層(A2)との接着強度が0.8kN/m以上である上記の両面金属張積層板の製造方法である。更に、本発明は、大気中で150℃、168時間の熱処理後におけるポリイミド樹脂層と金属箔及び極薄銅箔との接着強度が、それぞれ熱処理前の初期接着強度の80%以上を有する上記の両面金属張積層板の製造方法である。
【0009】
また、本発明は、金属箔が、銅箔、銅合金箔、ステンレス箔のいずれかである又は金属箔が、剥離層を介した耐熱性キャリア付き極薄銅箔である上記の両面金属張積層板の製造方法である。
【0010】
また、本発明は、ガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層が、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び4,4’-ジアミノフェニルエーテルから選ばれるジアミン成分と、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び4,4'-ジアミノフェニルエーテルから選ばれる酸無水物成分とを反応して得られるポリイミド樹脂であること、又は低熱膨張性のポリイミド樹脂層が、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、2-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド及び1,3-ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれるジアミン成分と、無水ピロメリット酸及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる酸無水物成分とを反応して得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする上記の両面金属張積層板の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、耐熱性キャリア付き極薄銅箔の極薄銅箔厚みが0.1〜10μmであり、耐熱性キャリアが厚み5〜50μmの金属箔又は樹脂フィルムである上記の両面金属張積層板の製造方法である。更に、本発明は、両面金属張積層板のポリイミド樹脂層の全体厚みが10〜50μmである上記の両面金属張積層板の製造方法である。
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
本発明の製造方法では、多層のポリイミド樹脂層の形成を、ポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を金属箔上に塗布・乾燥する操作を繰り返す方法によって行うが、本発明で製造できる両面金属張積層板の層構造の代表例を示せば、(1)〜(4)のようなものが挙げられるがこれに限定されない。但し、下記層構造において、M1は金属箔を、M2は極薄銅箔を、(A1)はガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A)であってM1と接する層を、(A2)はポリイミド樹脂層(A)であってM2と接する層を、(B)は線膨張係数が10×10-6 〜30×10-6(1/K)の低熱膨張性ポリイミド樹脂層(B)を意味する。
【0014】
(1)M1/(A1)/(B)/(A2)/M2
(2)M1/(A1)/(B1)/(B2)/(A2)/M2
(3)M1/(A1)/(B1)/(A3)/(B2)/(A2)/M2
(4)M1/(A1)/(B1)/(C)/(B2)/(A2)/M2
【0015】
ここで、金属箔M1と極薄銅箔M2は、材質、厚みが同一の材料であってもよく、一方のみが異なる材料であってもよく、両者が異なる材料であってもよい。ガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A)は、少なくとも2層有する。この場合、M1に接するポリイミド樹脂層をポリイミド樹脂層(A1)とし、M2に接するポリイミド樹脂層をポリイミド樹脂層(A2)とする。中間層に存在する場合は、M1に近い層から順にポリイミド樹脂層をポリイミド樹脂層(A3)、(A4)等とする。低熱膨張性ポリイミド樹脂層(B)は、ポリイミド樹脂層(A1)とポリイミド樹脂層(A2)の中間に存在するが、2層以上存在してもよい。2層以上存在する場合、M1に近い層から順に(B1)、(B2)等とする。これらのポリイミド樹脂層(A)である(A1)、(A2)及び(A3)、並びにポリイミド樹脂層(B)である(B1)及び(B2)は、それぞれ材質、厚みが同一の材料であってもよく、一方のみが異なる材料であってもよく、両者が異なる材料であってもよい。また、ポリイミド樹脂層(A)及びポリイミド樹脂層(B)のいずれにも該当しないその他のポリイミド樹脂層(C)も使用できる。上記積層板の層構造(1)〜(4)のうち、好ましい層構造は、(1)である。
【0016】
本発明の製造方法では、ポリイミド溶液又は前駆体溶液の塗布によってポリイミド樹脂層を形成するため、形成するポリイミド樹脂層の厚みも制御し易い。また、本発明で製造できる両面金属張積層板のうち、フレキシブルプリント基板に適用されるものであれば、ポリイミド樹脂層の総厚みは10〜50μmであることが好ましい。
【0017】
本発明でいうポリイミド樹脂とは、ポリイミド樹脂層(A)及び(B)を構成するポリイミド樹脂を含めて、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂をいう。
【0018】
本発明で使用するガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A)を構成するポリイミド樹脂は、公知のポリイミド樹脂を使用することができる。ポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度は350℃以下である必要があるが、好ましくは200〜320℃である。また、このポリイミド樹脂層(A)を構成するポリイミド樹脂の合成に使用される特に好ましいものは、ジアミン成分として2−2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、4,4'−ジアミノフェニルエーテル(DAPE)が挙げられ、酸無水物成分としては無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4'−ジアミノフェニルエーテル(DAPE)が挙げられる。ジアミン成分及び酸無水物成分については、それぞれその1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。上記のジアミン成分及び酸無水物成分を使用することで、金属箔あるいは極薄銅箔との接着性が向上する。
【0019】
本発明で使用する線膨張係数が1×10-6 〜30×10-6(1/K)の低熱膨張性ポリイミド樹脂層(B)を構成するポリイミド樹脂は、公知の低熱膨張性ポリイミド樹脂を使用することができる。ポリイミド樹脂層(B)の線膨張係数は1×10-6 〜30×10-6(1/K)である必要があるが、好ましくは1×10-6 〜25×10-6(1/K)であり、更に好ましくは1×10-6 〜20×10-6(1/K)である。また、このポリイミド樹脂層(B)を構成するポリイミド樹脂の合成に使用される特に好ましいものは、ジアミン成分としては4,4'−ジアミノ−2,2’ジメチルビフェニル(DADMB)、2−メトキシ−4,4'−ジアミノベンズアニリド(MABA)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPER)が挙げられ、酸無水物成分としては無水ピロメリット酸(PMDA)、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)が挙げられる。ジアミン成分及び酸無水物成分については、それぞれその1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。上記のジアミン成分及び酸無水物成分を使用することで、積層時のシワやカールが抑制できる。
【0020】
ポリイミド樹脂又は前駆体樹脂の合成に使用する溶媒については、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0021】
合成されたポリイミド樹脂又は前駆体樹脂は溶液とされて使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリイミド前駆体樹脂は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。これらの樹脂溶液は金属箔上に所定の層構造を形成するように順次塗布、乾燥される。層厚みは、ポリイミド樹脂層(B)が全体の50%以上、好ましくは70%以上であることがよく、ポリイミド樹脂層(A)は金属箔又は極薄銅箔との接着性を確保できる厚みであればよい。ポリイミド樹脂層の合計厚みは、10〜50μm、好ましくは5〜20μmの範囲がよい。
【0022】
本発明で使用する金属箔は、耐熱性のあるものが好ましく、特に銅箔、銅合金箔、ステンレス箔のいずれかがよい。金属箔の厚みは、好ましくは0.1μm以上30μm以下がよく、より好ましくは0.1μm以上18μm以下がよく、更に好ましくは0.1μm以上5μm以下がよい。金属箔が厚み10μm以下である極薄銅箔である場合には、ポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布する際のハンドリング性の問題から、剥離層を介した耐熱性キャリア付きのものを使用することが好ましい。この耐熱性キャリア付き極薄銅箔としては後記するものが使用できる。
【0023】
本発明で使用する耐熱性キャリア付き極薄銅箔は、極薄銅箔厚みが10μm以下、好ましくは0.1〜10μm、より好ましくは0.1〜5μmのものである。この極薄銅箔は、耐熱性キャリアを有する。耐熱性キャリアは比較的厚めの金属箔、ポリイミドフィルム等であることができる。耐熱性キャリアと極薄銅箔は、接着して積層体を構成しているが、その剥離強度は1N/m以上50N/m未満であることが必要であり、より好ましくは3N/m以上15N/m以下がよく、更に好ましくは4N/m以上10N/m以下がよい。
【0024】
本発明で製造する両面金属張積層板において、ファインパターンを形成する用途に適用できるフレキシブルプリント基板とするためには、使用する耐熱性キャリア箔付き極薄銅箔の厚みは、0.1μm以上10μm以下がよく、より好ましくは0.1μm以上5μm以下がよい。極薄銅箔の粗度は特には規定しないが、フラッシュエッチング性の観点から好ましくはRz JIS =2.0μm以下、より好ましくはRz JIS =1.5μm以下が望ましく、更にキャリア厚みに関しては安定した搬送性を得るために、好ましくは5μmから100μm、より好ましくは12μmから50μmが望ましい。なお、上記Rzは、表面粗さにおける十点平均粗さ(JIS B0601−1994)を示す。
【0025】
本発明の製造方法では、上述のとおり金属箔を耐熱性キャリア付き極薄銅箔とすることも可能である。すなわち、耐熱性キャリア付き極薄銅箔を金属箔(M1)とし、その上に所定層のポリイミド樹脂層(A)及びポリイミド樹脂層(B)を積層した積層体としてもよい。この場合の、耐熱性キャリア付き極薄銅箔に要求される性状は上記と同じである。耐熱性キャリア付き極薄銅箔を(M1)として使用する場合、耐熱性キャリア付き極薄銅箔(M1)と(M2)は同一であっても、異なってもよい。
【0026】
金属箔上にポリイミド溶液(又は前駆体樹脂溶液)を塗布し、乾燥する操作を繰り返して所定層のポリイミド樹脂層(又は前駆体樹脂層)を形成させたのちは、未硬化のポリイミド樹脂(又は前駆体樹脂)を硬化(又はイミド化)させるため通常、150℃以上の温度に加熱する。硬化(又はイミド化)が終了して得られる積層体は次の工程に付せられる。
【0027】
積層体の表面にあるポリイミド樹脂層(A1)に接するように耐熱性キャリア付き極薄銅箔(M2)を積層し、積層体と耐熱性キャリア付き極薄銅箔(M2)をロールプレスによって、熱圧着して、耐熱性キャリア付き極薄銅箔層を有する積層体とする。圧力を解除した状態で冷却した後、耐熱性キャリアを剥離することで両面金属張積層板得る。金属箔(M1)として耐熱性キャリア付き極薄銅箔を使用した場合は、キャリアを同時にあるいは別々に剥離することで両面極薄銅張積層板を得ることも可能である。
【0028】
本発明の製造方法では、ポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度以上に加熱して、簡便なロールプレスによって熱圧着できるが、熱圧着の際の加熱温度は、ポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度より20℃以上高く、400℃以下とすることが好ましい。ポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度より20℃以上高くすることで、ポリイミド樹脂皮膜の配向性が向上し、平面性の良い両面金属張積層板が得られ易い。400℃以上ではポリイミドの熱分解が徐々に起こり始めるため好ましくない。また、熱圧着後、圧力開放下で冷却する際、冷却温度はポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度より低い温度であることが必要で、好ましくはポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度より20℃以上低い温度、更に好ましくは30℃以上低い温度まで冷却することがよい。ポリイミド樹脂層(A)のガラス転移温度以上でキャリアを剥離すると、両面金属張積層板にシワやカールを生じ易くなる。また、ロールプレスに使用するロールは金属ロールあるいはゴムロール等が利用できるが、耐熱性の面から金属ロールとすることが好ましい。この場合、熱圧着時における圧力の均一性が保持できるものがよく、プレスロールの表面粗さ(Ra)は0.01〜5μmであるものが好ましい。
【0029】
本発明によって製造できる両面金属張積層板は、金属箔とポリイミド樹脂層(A1)との接着強度は0.8kN/m以上であることが必要であり、好ましくは1.0kN/m以上であることがよい。また、極薄銅箔とポリイミド樹脂層(A2)との接着強度は0.8kN/m以上であることが必要であり、好ましくは1.0kN/m以上であることがよい。なお、ここでいう接着強度とは、金属箔1mm幅90°引き剥がし法(JIS C6471)を示す。
【0030】
上記のポリイミド樹脂層(A)と金属箔あるいは極薄銅箔との接着強度は、大気中で150℃、168時間の熱処理後で、それぞれ熱処理前の初期接着強度の80%以上を有することがよい。
【0031】
本発明で使用する耐熱性キャリア付き極薄銅箔は、極薄銅箔とキャリアとの剥離強度が1N/m以上20N/m未満であることが必要であり、より好ましくは3N/m以上15N/m以下がよく、更に好ましくは4N/m以上10N/m以下がよい。剥離強度が20N/m以上であると、キャリア剥離後の両面金属張積層板にシワやカールが生じ易くなる。また、剥離強度が1N/m未満では、熱圧着工程において、極薄銅箔がキャリアから剥離する場合があり、安定操業に問題がある。なお、ここでいう剥離強度とは、金属箔1mm幅90°引き剥がし法(JIS C6471)を示す。この剥離強度は耐熱性キャリア付き極薄銅箔のキャリアと極薄銅箔間の接着強度を調整すること(剥離剤や低粘着性材料の使用等)により変化可能である。
【0032】
耐熱性キャリア付き極薄銅箔層を有する積層体からキャリアを剥離する際の、キャリアの剥離角度は、極薄銅箔の進行方向に対して90°以上とすることが好ましい。剥離角度を90°以上とすることで、キャリア剥離後の両面金属張積層板のカールを抑制することができる。キャリアの剥離角度を90°未満とする場合は、極薄銅箔の進行方向面に対して両面金属張積層板に充分なテンションを与えることが必要となり、キャリア剥離後の両面金属張積層板におけるカール発生の原因となる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の製造方法で得られる両面金属張積層板は、金属箔とポリイミド樹脂層の接着強度が優れ、銅箔厚みを0.1μm〜10μmに任意に設定でき、またポリイミド樹脂層の厚みも10〜50μmに任意に設定できるために、ファインパターンを形成する用途にも適用できるフレキシブルプリント基板として有用である。更に、サブトラクティブ工法もセミアディティブ工法にも使用可能なフレキシブルプリント基板としての両面金属張積層板を製造できる利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の実施例において特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0035】
[ガラス転移温度の測定]
粘弾性アナライザー(レオメトリックサイエンスエフィー株式会社製RSA−II)を使
って、10mm幅のサンプルを用いて、1Hzの振動を与えながら、室温から400℃まで10℃/分の速度で昇温した際の、損失正接(Tanδ)の極大から求めた。
【0036】
[線膨張係数の測定]
サーモメカニカルアナライザー(セイコーインスツルメンツ社製)を用い、250℃まで昇温し、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、240℃から100℃までの平均線膨張係数を求めた。
【0037】
[金属張積層板と極薄銅箔との接着強度の測定方法]
耐熱性キャリア剥離後の両面金属張積層板において、極薄銅箔上に電解銅めっきを行い、極薄銅箔の厚みを12μmにした後、テンシロンテスター(東洋精機製作所社製)を使用して、幅1mmの銅張品の樹脂側を両面テープによりステンレス板に固定し、銅を90°方向に50mm/分の速度で剥離して求めた。また、上記で接着強度を測定したものを大気雰囲気の環境下で150℃、168時間保持する耐熱試験を行い、この耐熱試験後の接着強度と先に求めた接着強度とを比較して保持率を測定した。
【0038】
[耐熱性キャリアと極薄銅箔との剥離強度の測定方法]
テンシロンテスター(東洋精機製作所社製)を使用して、幅1mmのサンプルの銅箔側を両面テープによりステンレス板に固定し、キャリアを90°方向に50mm/分の速度で剥離して求めた。
【0039】
以下、実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれに限定されないことは勿論である。
なお、本実施例に用いた略号は以下の化合物を示す。
BAPP:2−2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
PMDA:無水ピロメリット酸
BPDA:3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DADMB:4,4'−ジアミノ−2,2’ジメチルビフェニル
TPER:1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン
【0040】
合成例1
294gのDMAcに、BAPP29.13g(0.071モル)を溶解させた。次に、3.225g(0.011モル)のBPDA及び13.55g(0.062モル)のPMDAを加えた。その後、約3時間攪拌を続けて重合反応を行い、35poise(25℃)のポリイミド前駆体樹脂液aを得た。
【0041】
合成例2
3.076kgのDMAcに、DADMB203.22g(0.957モル)及びTPER31.10g(0.106モル)を溶解させた。次に、61.96g(0.211モル)のBPDA及び183.73g(0.842モル)のPMDAを加えた。その後、約4時間攪拌を続けて重合反応を行い、250poise(25℃)のポリイミド前駆体樹脂液bを得た。
【0042】
合成例3
630gのDMAcに、BAPP54.7g(0.134モル)を溶解させた。溶解液の温度を5〜10℃に冷却した後に、42.96g(0.133モル)のBTDAを加えた。その後、約2時間攪拌を続けて重合反応を行い、17.6poise(25℃)のポリイミド前駆体樹脂液cを得た。
【実施例1】
【0043】
銅箔(日本電解製HLB、銅箔厚み12μm)の上に、合成例1の樹脂液aを塗工し、130℃で5分間乾燥して樹脂層1aを形成した後、合成例2の樹脂液bを塗工し、130℃で10分間乾燥して樹脂層1bを形成し、さらにその樹脂層上に合成例3の樹脂液cを塗工し、130℃で5分間乾燥して樹脂層1cを形成し、15分かけて380℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅張積層板を作製した。
【0044】
次に、上記の方法により得られた銅張積層板と、耐熱性キャリア付き極薄銅箔(日本電解製 YSNAP−3B, キャリア銅箔厚み18μm、極薄銅箔厚み3μm)とを、ロール表面の設定温度380℃、プレスロール間の線圧150kN/cm、通過時間3秒間で連続的に熱圧着し、50℃にまで冷却した後、キャリア銅箔を剥離することで、両面銅張積層板を得た。このときのキャリア銅箔と極薄銅箔の剥離強度は10N/mであり、両面銅張積層板の外観も良好であった。また、ポリイミド樹脂層の総厚みは12μmであり、樹脂層1a、1cのガラス転移温度はそれぞれ320℃、250℃、樹脂層1bの線膨張係数は17.7×10-6(1/K)であった。銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は1.1kN/mであり、極薄銅箔とポリイミド樹脂層との接着強度は1.2kN/mであった。また、耐熱試験後の耐熱保持率も共に80%以上あった。
【実施例2】
【0045】
耐熱性キャリア付き極薄銅箔(日本電解製 YSNAP−3B、キャリア銅箔厚み18μm、極薄銅箔厚み1μm)の極薄銅箔上に、合成例1の樹脂液aを塗工し、130℃で5分間乾燥して樹脂層1aを形成した後、合成例2の樹脂液bを塗工し、130℃で10分間乾燥して1bを形成し、さらにその樹脂層上に合成例1の樹脂液aを塗工し、130℃で5分間乾燥して樹脂層1aを形成し、15分かけて360℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、耐熱性キャリア付き銅張積層板を作製した。
【0046】
次に、上記の方法により得られた耐熱性キャリア付き銅張積層板と、耐熱性キャリア付き極薄銅箔(日本電解製 YSNAP−1B、キャリア銅箔厚み18μm、極薄銅箔厚み1μm)とを、ロール表面の設定温度360℃、プレスロール間の線圧150kg/cm、通過時間3秒間で連続的に熱圧着し、50℃にまで冷却した後、2つのキャリア銅箔を剥離することで、両面銅張積層板を得た。このときのキャリア銅箔と極薄銅箔の剥離強度は10N/mであり、両面銅張積層板の外観も良好であった。ポリイミド樹脂層の総厚みは10μmであり、樹脂層1aのガラス転移温度は280℃、樹脂層1bの線膨張係数は17.7×10-6(1/K)であった。極薄銅箔とポリイミド樹脂層との接着強度は両面共に1.2kN/mであり、耐熱試験後の耐熱保持率も共に80%以上あった。
【0047】
参考例1
銅箔(日本電解製HLB、銅箔厚み12μm)の上に、合成例1の樹脂液aを塗工し、130℃で5分間乾燥して樹脂層1aを形成した後、合成例2の樹脂液bを塗工し、130℃で10分間乾燥して1bを形成し、15分かけて360℃まで昇温させることによりイミド化反応を行って、銅張積層板を作製した。
【0048】
次に、上記の方法により得られた銅張積層板を実施例1と同様にして、両面銅張積層板を作製した。このときの極薄銅箔とポリイミド樹脂層の接着強度は0.2kN/mであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔上に、ポリイミド溶液又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥してガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A1)となる層を形成し、その上にポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥して線膨張係数が1×10-6 〜30×10-6(1/K)の低熱膨張性のポリイミド樹脂層(B)となる層を形成し、表面層としてポリイミド又は前駆体樹脂溶液を塗布・乾燥してガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層(A2)となる層を形成した後、硬化又はイミド化を行い、少なくも3層のポリイミド樹脂層を有する積層体としたのち、キャリア付き極薄銅箔を極薄銅箔側と当該積層体のポリイミド樹脂層(A2)とが接するように積層し、ポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度以上に加熱して、ロールプレスによって熱圧着してキャリア付き極薄銅箔層を有する積層体とし、次いでポリイミド樹脂層(A2)のガラス転移温度以下に冷却し、その後、極薄銅箔とキャリアを1N/m以上50N/m未満の剥離強度で剥離することを特徴とする両面金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
金属箔とポリイミド樹脂層(A1)との接着強度が0.8kN/m以上であり、且つ極薄銅箔とポリイミド樹脂層(A2)との接着強度が0.8kN/m以上である請求項1記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項3】
大気中で150℃、168時間の熱処理後におけるポリイミド樹脂層と金属箔及び極薄銅箔との接着強度が、それぞれ熱処理前の初期接着強度の80%以上を有することを特徴とする請求項1又は2記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項4】
金属箔が、銅箔、銅合金箔又はステンレス箔のいずれかであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項5】
金属箔が、剥離層を介した耐熱性キャリア付き極薄銅箔であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項6】
ガラス転移温度が350℃以下のポリイミド樹脂層が、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及び4,4’-ジアミノフェニルエーテルから選ばれるジアミン成分と、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物及び4,4'-ジアミノフェニルエーテルから選ばれる酸無水物成分とを反応して得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項7】
低熱膨張性のポリイミド樹脂層が、4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル、2-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド及び1,3-ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれるジアミン成分と、無水ピロメリット酸及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物から選ばれる酸無水物成分とを反応して得られるポリイミド樹脂であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項8】
耐熱性キャリア付き極薄銅箔の極薄銅箔厚みが0.1〜10μmであり、耐熱性キャリアが厚み5〜50μmの金属箔又は樹脂フィルムである請求項1〜7のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。
【請求項9】
両面金属張積層板のポリイミド樹脂層の全体厚みが10〜50μmであることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の両面金属張積層板の製造方法。

【公開番号】特開2007−203505(P2007−203505A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−22537(P2006−22537)
【出願日】平成18年1月31日(2006.1.31)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】