説明

並列光伝送システムおよびこれに用いる光ファイバ

【課題】従来の多モード光ファイバ用の送信機や受信機と同等の端面構造を備えた入力素子および出力素子を用い、多モード雑音の累積の抑圧および伝送路長の偏差による伝送特性劣化の抑圧を可能とする並列光伝送システムを提供する。
【解決手段】光ファイバとして、クラッド部11断面内の上記50μmの範囲内に単一モード伝送用の4個のコア部12を配置した正方格子状に配列した断面構造を有する4コアファイバを用いるとともに、汎用の多モード光ファイバのコア径と同等の50μmの直径または一辺の長さを有する端面構造を備えた入力素子および出力素子をそれぞれ備えた送信機および受信機を用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は単一モード光通信システム、および当該光通信システムに用いる単一モード光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
データ通信の急速な普及に伴い、伝送容量の更なる拡大に対する要望は年々高まる一方にある。データセンタ等の短距離伝送領域では、汎用の多モード光ファイバを用いた伝送速度の高速化を行うと同時に、伝送路チャネル(同時に伝送に用いる多モード光ファイバの本数)の並列化(複数化)により、更なる大容量光通信を行う技術が開発・実用化されている。例えば、多モード光ファイバを用いた10Gbit/s伝送の実現や、4本の独立した光ファイバを並列に用い、各光ファイバに25Gbit/sの光信号を独立に入力することにより、システム全体で100Gbit/sの伝送容量を実現することが可能となる。
【0003】
また、例えば、非特許文献1では、同一のクラッド断面内に複数のコアを配置し、各コアを独立した伝送路として用いることにより、光ファイバ1心当たりの伝送容量を拡大し、空間多重効率を向上する技術が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、多モード光ファイバを用いた光伝送システムでは、モード雑音の累積による伝送特性の劣化が問題となるといった課題があった。また、複数の光ファイバを並列化して用いる場合には、各光ファイバ間における光路長の微小な差(伝送路長の偏差)によって伝送特性が劣化するといった課題もあった。
【0005】
一方、非特許文献1に開示された技術では、各コアは単一モード伝送用に設計されているため、上述の多モード雑音の累積による伝送制限を抑制することができる。また、同一クラッド内に複数のコアを並列に形成するため、各コア間における伝送路長の偏差の低減も可能となる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1に開示された光ファイバでは、空間多重度(同一クラッド内のコア数)を7倍にまで拡大するため、クラッドの外径を150μmまで拡大している。汎用的な光ファイバのクラッドの外径は125μmであるため、従来の光ファイバとの接続、並びに従来の送信機や受信機との接続が困難になるといった課題があった。また、非特許文献1に開示された光ファイバでは、良好なクロストーク特性を保持するためコア間距離を45μmまで拡大する必要があり、コア径が50μmである汎用の多モード光ファイバ用の送信機や受信機を用いる場合、同一のコア断面内に包含可能な単一モードコアは一つに限定されてしまうという課題もあった。
【0007】
本発明は以上のような背景に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、光ファイバ(光ファイバ伝送路)に信号光を入力するための素子である入力素子、および光ファイバ(光ファイバ伝送路)から出力される信号光を受光するための素子である出力素子として、従来の多モード光ファイバ用の送信機や受信機と同等の端面構造を備えた素子を用い、多モード雑音の累積の抑圧および伝送路長の偏差による伝送特性劣化の抑圧を可能とする並列光伝送システムを提供することにある。また、同時に当該並列光伝送システムにおける伝送装置(送信機・受信機)の入力素子および出力素子の構造を保持したまま、容易に高速・長距離化を可能とする並列光伝送システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の並列光伝送システムでは、汎用多モード光ファイバのコア径と同等の50μmの直径または一辺の長さを有する端面構造を備えた入力素子および出力素子を用いるとともに、クラッド部断面内の上記50μmの範囲内に単一モード伝送用の4個のコア部を配置した光ファイバを用いる。4個のコア部で1信号を伝送する並列光伝送システムを構成することにより、上記課題を解決するものである。また、上述の入力素子もしくは入力素子および出力素子の端面を25μmの直径または一辺の長さを有する4つの端面に分割し、各端面を単一モードによる光伝送が可能な素子(単一モード素子)に置換することにより、より高速・長距離伝送が可能な4コア並列単一モード伝送システムを実現する手段としている。
【0009】
更に具体的には、本発明の並列光伝送システムに用いる光ファイバでは、屈折率が均一なクラッド部に当該クラッド部よりも高い屈折率を有する4個のコア部を正方格子状に配列し、前記コア部の屈折率分布をW型もしくはトレンチ型とし、その半径方向および屈折率方向の構造条件を好適とすることにより、30μm以下のコア間距離で10km伝送後のクロストークを−30dB以下に低減することを可能としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の並列光伝送システムによれば、多モード光ファイバ用の汎用的な入力素子および出力素子を用い、かつモード雑音および伝送路長の偏差に起因する伝送特性劣化の抑圧を可能とする並列光伝送システムの構築を可能とするといった効果を奏する。
【0011】
また、本発明の並列光伝送システムでは、入力素子もしくは入力素子および出力素子の端面を25μmの直径または一辺の長さを有する4つの端面に分割し、各端面を単一モード素子に置換可能できることとしたため、同一の光ファイバを用いたまま、より高速・長距離の並列光伝送システムにアップグレードすることも可能となるといった効果も奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の並列光伝送システムの構成を示す概念図である。
【図2】本発明の並列光伝送システムにおいて、入力素子を4分割した場合の構成を示す概念図である。
【図3】本発明の並列光伝送システムにおいて、入力素子および出力素子を4分割した場合の構成を示す概念図である。
【図4】本発明の並列光伝送システムに用いる光ファイバの断面構造を示す概念図である。
【図5】実施例1において、光ファイバのコア部の断面構造(屈折率分布)を示す図面である。
【図6】実施例1において、コア半径と比屈折率差の構造条件を示す図面である。
【図7】実施例1において、半径方向の比率Raと屈折率方向の比率RΔの構造条件を示す図面である。
【図8】実施例2において、光ファイバのコア部の断面構造(屈折率分布)を示す概念図である。
【図9】実施例2において、コア半径と比屈折率差の構造条件を示す図面である。
【図10】実施例2において、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図11】実施例2において、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図12】実施例2において、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図13】実施例3において、コア半径と比屈折率差の構造条件を示す図面である。
【図14】実施例3において、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図15】実施例3において、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図16】実施例3において、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。
【図17】4コア光ファイバにおいて、曲げ損失特性の改善を可能とする断面構造を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下では、本発明の並列光伝送システムおよびこれに用いる光ファイバの実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明の並列光伝送システムの構成を示す概念図である。本発明の並列光伝送システムは、光ファイバ(光ファイバ伝送路)1と、変調信号光を生成して光ファイバ1の一端に入力する送信機(Tx)2と、光ファイバ1の他端から出力される変調信号光を受光して復調する受信機(Rx)3とにより構成される。
【0015】
前記光ファイバ1は、図4に後述するように正方格子状に配列された4個のコア部を有する。前記送信機2は、概ね50μmもしくはそれ以上の直径または一辺の長さを有する端面構造を備えた入力素子21を具備し、800nm帯もしくは1260nmより長波長側の変調信号光を生成し、これを前記入力素子21を介して光ファイバ1の一端に入力する。ここで、信号光の光源には面発光レーザ、ファブリペロー光源、半導体レーザなど、任意の光源が使用できる。前記受信機3は、概ね50μmもしくはそれ以上の直径または一辺の長さを有する端面構造を備えた出力素子(受光素子)31を具備し、前記光ファイバ1の他端から出力される変調信号光を前記出力素子31を介して受光し、復調する。
【0016】
従って、図1に示した並列光伝送システムでは、送信側で前記光ファイバ1の4個のコア部を同一変調を有する信号光で一括励振し、前記光ファイバ1中の4個のコア部を個別に伝搬した信号光を、受信側で一括受信することを可能とする。
【0017】
図2は、本発明の並列光伝送システムにおいて、送信側の入力素子を4分割した場合の構成を示す概念図である。図2では、送信機2は、概ね25μmの直径または一辺の長さを有し、それぞれが正方格子状に密接して配列された4個の入力素子21aを具備し、前記同様の変調信号光を前記4個の入力素子21aを介して光ファイバ1の4個のコア部に個別に入力する。ここで、4個の入力素子21aは、1台の光源からの変調信号光を強度分配する形態であっても良く、また、4台の光源から出力された同一の変調信号を有する信号光を個別に結合させる形態であっても良い。
【0018】
図2に示した構成を用いることにより、光ファイバ1の4個のコア部に対する励振効率を向上することが可能となる。従って、図2に示した並列光伝送システムでは、送信側で前記光ファイバ1の4個のコアを同一変調を有する信号光で個別に励振し、前記光ファイバ1中の4個のコア部を個別に伝搬した信号光を、受信側で一括受信することを可能とする。
【0019】
図3は、本発明の並列光伝送システムにおいて、送信側の入力素子とともに受信側の出力素子を4分割した場合の構成を示す概念図である。図3では、送信機2は、前記同様の4個の入力素子21aを具備し、前記同様の変調信号光を前記4個の入力素子21aを介して光ファイバ1の4個のコア部に個別に入力する。ここで、4個の入力素子21aは、1台の光源からの変調信号光を強度分配する形態であっても良く、また、4台の光源から出力された同一の変調信号を有する信号光を個別に結合させる形態であっても、更にまた、4台の光源から出力され異なる変調信号を有する信号光を個別に結合させる形態であっても良い。
【0020】
また、図3では、受信機3は、概ね25μmの直径または一辺の長さを有し、それぞれが正方格子状に密接して配列された4個の出力素子(受光素子)31aを具備し、前記光ファイバ1の4個のコア部から出力される信号光を前記4個の出力素子31を介して個別に受光し、復調する。
【0021】
従って、図3に示した並列光伝送システムでは、送信側で前記光ファイバ1の4個のコア部を同一もしくは異なる変調を有する信号光で個別に励振し、前記光ファイバ1の4個のコア部を個別に伝搬した信号光を、受信側で個別に受信することを可能とする。
【0022】
ここで、送信側の変調信号光が同一で速度xbit/sであるように設定された場合には、4入力・4出力でxbit/sの伝送容量を実現し、また、送信側の変調信号が異なり速度がxbit/sに設定された場合には、4入力・4出力で4×xbit/sの伝送容量を実現することが可能となる。
【0023】
図4は、本発明の並列光伝送システムに用いる光ファイバの断面構造を示す概念図である。本発明の並列光伝送システムに用いる光ファイバ1は、直径(外径)Dが125±1μmで屈折率が均一なクラッド部11内に、屈折率が前記クラッド部11よりも高い4個のコア部12を中心間距離Λが等間隔となるように正方格子状に配列した断面構造を有する。
【0024】
ここで、図1〜図3に示したように、前記コア部12に対する入力素子および出力素子の端面構造は、汎用多モード光ファイバのコア径と同等となるよう、概ね50μmの直径または一辺の長さを有するように設定される必要がある。このため、各コア部12を効率的に励振する半径を概ね4μmと考えると、前記中心間距離Λは、
(2)1/2・Λ+4・2≒50 (1)
により、概ね30μm以下に設定されることが好ましい。
【0025】
なお、入力素子または入力素子および出力素子が4分割構造の場合における光ファイバの各コア部との位置合わせについては、SCコネクタなどの、軸周り方向の相対位置が少なくとも90°あるいは180°を単位として固定される光コネクタのプラグを光ファイバに、そのアダプタを送信機・受信機に用いて、予め各コア部と各素子との相対位置が一致するように設定しておくことによって行うことが可能である。
【0026】
以下では、本発明の並列光伝送システムに用いる光ファイバ(伝送路)の具体的な実施例について図面を用いて説明する。
【0027】
<実施例1>
図5は、実施例1で用いた光ファイバのコア部の断面構造(屈折率分布)を示す図面である。実施例1におけるコア部12は、クラッド部11に対する比屈折率差がΔで半径がa1である第1コア領域と、クラッド部11に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域を含む半径がaである第2コア領域とで形成される。
【0028】
ここで、半径方向の前記パラメータの比率Ra、比屈折率差方向の前記パラメータの比率RΔを、
Ra≡a1/a (2)
RΔ≡Δ1/Δ (3)
と定義する。
【0029】
図6は、実施例1において、所望の実効遮断波長条件および所望のクロストーク条件を満たす、第2コア領域までのコア半径(Core radius)aと第1コア領域の比屈折率差(Relative index difference)Δの関係について示す図面である。ここで、実効遮断波長は1260nm以下、クロストークはコア中心間距離Λが30μmの時、10km伝送後に波長1550nmで−30dB以下とした。図中の破線で囲まれる領域で所望の実効遮断波長特性とクロストーク特性とを同時に満たすことが可能となる。尚、図中の実線は波長1310nmにおけるモードフィールド径(2W)特性を示す。
【0030】
図6から、コア半径aを4.0〜9.6μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.40〜0.75%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を6.0μm以上に設定できることが分かる。またより好ましくは、コア半径aを5.8〜9.6μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.40〜0.63%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を6.5μm以上に設定できることが分かる。
【0031】
図7は、実施例1において図6に示した関係を満たす、半径方向の比率Raおよび屈折率方向の比率RΔの構造条件を示す図面である。図中の実線は波長1310nmにおけるモードフィールド径が5.5、6.0および6.5μmとなる条件範囲(但し、5.5μmについては範囲を示す一方の線のみ)を示している。
【0032】
図7から、Raを0.34〜0.67、RΔを−0.1〜−0.7の範囲で設定することにより、所望の実効遮断波長特性と、クロストーク特性とを満たし、かつ波長1310nmで6.0μm以上のモードフィールド径を実現できることが分かる。また更に好ましくは、Raを0.36〜0.54、RΔを−0.1〜−0.7の範囲で設定することにより、波長1310nmで6.5μm以上のモードフィールド径を実現できることが分かる。
【0033】
従って、図6および図7より、図5に示した屈折率分布を有する実施例1の光ファイバにおいて、コア半径aを4.0〜9.6μmの範囲、比屈折率差Δを0.40〜0.63%の範囲、Raを0.43〜0.54の範囲、RΔを−0.1〜−0.7の範囲にそれぞれ設定することにより、1260nm以下の実効遮断波長特性と、波長1310nmで6.5μm以上となるモードフィールド径特性とを有し、かつコア間距離Λが30μmで波長1550nmにおける10km伝送後のクロストークを−30dB以下とすることが可能となる。
【0034】
<実施例2>
図8は、実施例2で用いた光ファイバのコア部の断面構造(屈折率分布)を示す図面である。実施例2におけるコア部12は、クラッド部11に対する比屈折率差がΔで半径がa1である第1コア領域と、屈折率が前記クラッド部11と同一で前記第1コア領域を含む半径がa2である第2コア領域と、前記クラッド部に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域および第2コア領域を含む半径がaである第3コア領域とで形成される。
【0035】
ここで、半径方向の前記パラメータの比率Ra1およびRa2、屈折率方向の前記パラメータの比率RΔを、
Ra1≡a1/a (4)
Ra2≡a2/a (5)
RΔ≡Δ1/Δ (6)
と定義する。
【0036】
図9は、実施例2において、コア半径(Core radius)aと比屈折率差(Relative index difference)Δの構造条件を示す図面である。図中の破線で囲まれる領域でコア半径aおよび比屈折率差Δを設定することにより、1260nm以下の実効遮断波長を実現し、かつコア中心間距離30μmで波長1550nmにおける10km伝送後のクロストークを−30dB以下とすることが可能となる。また、図中の実線は波長1310nmにおけるモードフィールド径が7、8および9μmとなる構造条件を表している。
【0037】
図9より、コア半径aを4.5〜9.9μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.3〜0.6%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を7μm以上にできることが分かる。また、コア半径aを5.4〜9.9μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を8μm以上に拡大できることが分かる。
【0038】
図10は、実施例2において、前記図9に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図10より、Ra1を0.36〜0.86の範囲とすることにより、波長1310nmで8μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。
【0039】
図11は、実施例2において、前記図9に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図11より、Ra2を0.52以上とすることにより、波長1310nmで8μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。尚、Ra2が0.90より大となる場合、図9に示したように実施例2におけるコア半径aは最大でも9.9μmであるので、第3コア領域の半径方向の厚みは1μm未満に減少し、製造上の困難性が増大する。このため、Ra2は0.90以下に設定されることが好ましい。
【0040】
図12は、実施例2において、前記図9に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図12より、RΔを−0.33以下とすることにより、波長1310nmで8μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。尚、RΔを−1より小さな領域に設定する場合、図9からΔ1は−0.47%以下にまで低減する必要が生じる。クラッド部11よりも小さな屈折率を実現するためには、例えばフッ素などの添加物を用いることが一般的であるが、添加量の増大とともに伝送損失も増加する傾向にあり、また製造上の困難性も増大する。このため、RΔはΔ1が−0.5%未満となる−1以上に設定されることが好ましい。
【0041】
従って、図9、10、11、および12より、図8に示した屈折率分布を有する実施例2の光ファイバにおいて、コア半径aを5.4〜9.9μmの範囲、比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲、Ra1を0.36〜0.86の範囲、Ra2を0.52〜0.90の範囲、RΔを−0.33〜−1.00の範囲にそれぞれ設定することにより、1260nm以下の実効遮断波長特性と、波長1310nmで8.0μm以上となるモードフィールド径特性とを有し、かつコア間距離Λが30μmで波長1550nmにおける10km伝送後のクロストークを−30dB以下とすることが可能となる。
【0042】
<実施例3>
実施例3では、実施例2の図8に示した屈折率分布を有する本発明の光ファイバにおいて、実効遮断波長を800nm以下に低減する技術について説明する。ここで、従来の多モード光ファイバを用いた光通信システムでは、波長800nm帯を信号光として適用することが一般的である。このため、当該波長において単一モード伝送を可能とする光ファイバを実現することにより、モード雑音の累積を著しく低減することが可能となり、好ましい。
【0043】
図13に、実施例3において、コア半径(Core radius)aと比屈折率差(Relative index difference)Δの構造条件を示す。図中の破線で囲まれる領域でコア半径a及び比屈折率差Δを設定することにより、800nm以下の実効遮断波長を実現し、かつコア中心間距離30μmで波長1550nmにおける10km伝送後のクロストークを−30dB以下とすることが可能となる。また、図中の実線は波長1310nmにおけるモードフィールド径が6μm、7μmとなる構造条件を表している。
【0044】
図13より、コア半径aを4.0〜9.4μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.30〜0.49%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を6μm以上にできることが分かる。また、コア半径aを4.8〜9.4μmの範囲で、かつ比屈折率差Δを0.30〜0.42%の範囲に設定することにより、波長1310nmにおけるモードフィールド径を7μm以上に拡大できることが分かる。
【0045】
図14は、図13に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、半径方向の比率Ra1と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図14より、Ra1を0.20〜0.57の範囲とすることにより、波長1310nmで7μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。
【0046】
図15は、図13に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、半径方向の比率Ra2と最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図15より、Ra2を0.40〜0.56とすることにより、波長1310nmで7μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。
【0047】
図16は、図13に示したコア半径と比屈折率差の条件を満たす、屈折率方向の比率RΔと最大モードフィールド径との関係を表す図面である。図16より、RΔを−0.61〜−1.00とすることにより、波長1310nmで7μm以上となるモードフィールド径特性を実現できることが分かる。
【0048】
従って、図13、14、15、および16より、図8に示した屈折率分布を有する実施例3の光ファイバにおいて、コア半径aを4.8〜9.4μmの範囲、比屈折率差Δを0.30〜0.42%の範囲、Ra1を0.20〜0.57の範囲、Ra2を0.40〜0.56の範囲、RΔを−0.61〜−1.00の範囲にそれぞれ設定することにより、800nm以下の実効遮断波長特性と、波長1310nmで7.0μm以上となるモードフィールド径特性とを有し、かつコア間距離Λが30μmで波長1550nmにおける10km伝送後のクロストークを−30dB以下とすることが可能となる。
【0049】
<実施例4>
実施例4では、実施例1、2、および3で説明した4コア光ファイバに関し、各コア部の伝送特性を阻害することなく、曲げ損失特性を改善する技術について説明する。
【0050】
図17に、実施例4における4コア光ファイバ(伝送路)の断面構造の概念図を示す。実施例4における4コア光ファイバは、図17(a)に示すようにクラッド部11の中心からの半径が、コア間距離Λの(2)1/2/2倍にxμmを加えた長さである円周に外接するように配置された、クラッド部11よりも低い屈折率を有し厚みがzμmである環状の低屈折領域13、もしくは図17(b)に示すように前記円周に外接するように等間隔に配置された、直径がzμmで少なくとも10個以上の空孔部14を有する。
【0051】
これにより、各コア部の電界分布を低屈折率領域13、もしくは空孔部14の内側に閉じ込めることが可能となり、曲げ付与に伴う伝送損失の増加を低減することが可能となる。
【0052】
ここで、上記xは、小さすぎると各コア部の伝送特性を劣化させ、大きすぎると十分な閉じ込め効果を得ることが困難となる。このため、xはモードフィールド径の1.0倍〜1.5倍に、即ち8〜12μmに設定されることが好ましい。また、環状の低屈折領域13を設定する場合、当該領域のクラッド部11に対する比屈折率差は概ね−0.2%以下とすれば十分な閉じ込め効果を得ることが可能となる。また更に、上述の厚みzは概ね波長と同等のオーダー以上、即ち1μm以上であれば良い。但し、zが大きすぎる場合には高次モードに対する閉じ込め効果も増大するため、zは概ね5μm程度であることが好ましい。
【0053】
以上に説明したように、本発明の並列光伝送システムおよび光ファイバによれば、多モード光ファイバ用の汎用的な入力素子および出力素子を用い、かつモード雑音および伝送路長の偏差に起因する伝送特性劣化を低減した並列光伝送システムを構築することが可能となる。
【0054】
また、本発明の並列光伝送システムでは、単一モード光ファイバを伝送路に用い、入力素子もしくは入力素子および出力素子の端面を25μmの直径または一辺の長さを有する4つの端面に分割し、各端面を単一モード素子に置換可能できることとしたため、同一の光ファイバを用いたまま、より高速・長距離の並列光伝送システムを構築することも可能となる。
【符号の説明】
【0055】
1:光ファイバ(光ファイバ伝送路)、2:送信機、3:受信機、11:クラッド部、12:コア部、13:低屈折率領域、14:空孔部、21,21a:入力素子、31,31a:出力素子。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0056】
【非特許文献1】"109-Tb/s (7x97x172-Gb/s SDM/WDM/PDM) QPSK transmission through 16.8-km homogeneous multi-core fiber", J. Sakaguchi, et al., in Proc. OFC'11, PDPB6 (2011).

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が125±1μmで屈折率が均一なクラッド内に4個のコア部を中心間距離が30μm以下の等間隔となるように正方格子状に配列した断面構造を有する4コア光ファイバと、
波長800nmもしくは波長1260〜1625nmの変調信号光を生成して前記4コア光ファイバに入力する送信機と、
前記4コア光ファイバから出力される前記変調信号光を受光して復調する受信機とにより構成され、
前記送信機から前記4コア光ファイバへの入力が50μm以上の直径または一辺の長さを有する端面を介して4コア一括に行われ、かつ前記4コア光ファイバから前記受信機への出力が50μm以上の直径または一辺の長さを有する端面を介して4コア一括で行われる
ことを特徴とする並列光伝送システム。
【請求項2】
直径が125±1μmで屈折率が均一なクラッド内に4個のコア部を中心間距離が30μm以下の等間隔となるように正方格子状に配列した断面構造を有する4コア光ファイバと、
波長800nmもしくは波長1260〜1625nmの変調信号光を生成して前記4コア光ファイバに入力する送信機と、
前記4コア光ファイバから出力される前記変調信号光を受光して復調する受信機とにより構成され、
前記送信機から前記4コア光ファイバへの入力が25μm以下の直径または一辺の長さを有し、それぞれが正方格子状に密接して配列された4個の端面を介して4コア個別に行われ、かつ前記4コア光ファイバから前記受信機への出力が50μm以上の直径または一辺の長さを有する端面を介して4コア一括で行われる
ことを特徴とする並列光伝送システム。
【請求項3】
直径が125±1μmで屈折率が均一なクラッド内に4個のコア部を中心間距離が30μm以下の等間隔となるように正方格子状に配列した断面構造を有する4コア光ファイバと、
波長800nmもしくは波長1260〜1625nmの変調信号光を生成して前記4コア光ファイバに入力する送信機と、
前記4コア光ファイバから出力される前記変調信号光を受光して復調する受信機とにより構成され、
前記送信機から前記4コア光ファイバへの入力が25μm以下の直径または一辺の長さを有し、それぞれが正方格子状に密接して配列された4個の端面を介して4コア個別に行われ、かつ前記4コア光ファイバから前記受信機への出力が25μm以下の直径または一辺の長さを有し、それぞれが正方格子状に密接して配列された4個の端面を介して4コア個別に行われる
ことを特徴とする並列光伝送システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の並列光伝送システムに用いる4コア光ファイバであって、
各コア部は、クラッド部に対する比屈折率差がΔで半径がa1の第1コア領域と、クラッド部に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域を含む半径がaの第2コア領域とを有し、
前記コア半径aを4.0〜9.6μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.40〜0.63%の範囲、前記半径の比Ra=a1/aを0.43〜0.54の範囲、前記比屈折率差の比RΔ=Δ1/Δを−0.1〜−0.7の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4コア光ファイバ。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の並列光伝送システムに用いる4コア光ファイバであって、
各コア部は、クラッド部に対する比屈折率差がΔで半径がa1の第1コア領域と、屈折率が前記クラッド部と同一で前記第1コア領域を含む半径がa2の第2コア領域と、クラッド部に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域および第2コア領域を含む半径がaの第3コア領域とを有し、
前記コア半径aを5.4〜9.9μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.30〜0.47%の範囲、前記半径の比Ra1=a1/aを0.36〜0.86の範囲、前記半径の比Ra2=a2/aを0.52〜0.90の範囲、前記比屈折率差の比RΔ=Δ1/Δを−0.33〜−1.00の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4コア光ファイバ。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれかに記載の並列光伝送システムに用いる4コア光ファイバであって、
各コア部は、クラッド部に対する比屈折率差がΔで半径がa1の第1コア領域と、屈折率が前記クラッド部と同一で前記第1コア領域を含む半径がa2の第2コア領域と、クラッド部に対する比屈折率差がΔ1で前記第1コア領域および第2コア領域を含む半径がaの第3コア領域とを有し、
前記コア半径aを4.8〜9.4μmの範囲、前記比屈折率差Δを0.30〜0.42%の範囲、前記半径の比Ra1=a1/aを0.20〜0.57の範囲、前記半径の比Ra2=a2/aを0.40〜0.56の範囲、前記比屈折率差の比RΔ=Δ1/Δを−0.61〜−1.00の範囲にそれぞれ設定した
ことを特徴とする4コア光ファイバ。
【請求項7】
請求項4乃至6のいずれかに記載の4コア光ファイバにおいて、
クラッド部の中心からの半径がコア間距離Λの(2)1/2/2倍に8〜12μmを加えた長さである円周に外接するように配置された、クラッド部に対する比屈折率差が−0.2%以下で厚みが1〜5μmの環状の低屈折領域、もしくは前記円周に外接するように等間隔に配置された、直径が1〜5μmで少なくとも10個以上の空孔部を有する
ことを特徴とする4コア光ファイバ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−97173(P2013−97173A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240024(P2011−240024)
【出願日】平成23年11月1日(2011.11.1)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】