説明

中性子利用元素分析装置

【課題】
従来の有害元素分析法では、たとえばXRFは、その精度(誤差30%〜50%)に問題があり、判定が困難な場合がある。また、X線のエネルギーが低いことから、その測定領域は固体試料表面の数十μmに限定されることが問題である。それを解消するために試料を冷凍,粉砕等により一様化し、粉体状態で測定することがなされているが、その時点で非破壊の状態ではなくなる。また時間もそれだけかかる。
【解決手段】
本発明はDT中性子発生管内に、二次元的に配列されたα線検出器アレイを備え、中性子発生管外部に、二次元的あるいは三次元的に複数の区画に分けられた試料収納部を備え、さらにα線・γ線同時計数回路,データ収集装置を備えている。α線検出器アレイのそれぞれの個別検出器は試料収納部の各区画と1対1に対応するように配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中性子利用元素分析装置に係り、特に電気電子機器等に含まれる環境に有害な物資、たとえば鉛,水銀,カドミウム等を非破壊で検出するものに好適な中性子利用元素分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康や環境に対する社会的な関心が高まるにつれ、意識・無意識によらず身体に触れたり環境に放出される有害物質が問題になっている。特に電気電子機器は、身近な生活空間に多数存在するものであり、それらの個々に含まれる有害物質の量がたとえ微量でも、総数が多いこともあり集積された場合には健康に与える影響は、無視できないおそれがある。
【0003】
そのような観点から、個々の電気電子機器に含まれる有害物質をできるだけ微量に抑えることが必要になってきており、ヨーロッパを中心に製造の段階あるいは流通の段階で検査分析する規制が検討されている。
【0004】
たとえばEU(欧州連合)では、電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限
(RoHS:Restriction of the use of certain Hazardous Substances in electrical and electronic equipment)を指令し、各国ではそれに対応する国内法を制定することになっている。RoHS指令対象電気電子機器として、大型家庭電気製品(冷蔵庫,洗濯機,電子レンジ等),小型家庭用電気製品(掃除機,トースター,コーヒーミル等),ITおよび遠隔通信機器(PC,携帯電話,プリンタ,複写機等),民生用機器(ラジオ,
TV,ビデオ,楽器等),照明装置(家庭用照明機器,電球,蛍光灯等),電動工具(ドリル,のこぎり,ミシン等),玩具(ビデオゲーム,コインスロットマシン等),自動販売機類等があげられている。さらに医療用デバイス,監視および制御機器等も見直すことが予定されている。なおRoHS規制物質としては、鉛,水銀,六価クロム(以上閾値
0.1wt%),カドミウム(0.01wt%),臭素化合物のうちPenta−PBDE,
Octa−PBDE(いずれも0.1wt%)の6品目が指定されている。
【0005】
現状では、これら対象品目の微量分析を行う方法として蛍光X線分析法(XRF)や、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP−AES),誘導結合プラズマ質量分析法(ICP−MS)等が用いられている。
【0006】
たとえば、特開2005−3471号公報には、メッキ皮膜中の微量鉛を蛍光X線分析法で測定することが述べられているが、対象膜厚が数十μmとごく表面の情報しか得られていない。また、特開2004−271229号公報には、RoHS規制対象の一環として電子部品材料中の鉛等特定金属をICP−MSで分析することが述べられている。
【0007】
XRFは、微弱なX線を試料に照射し、元素固有の特性X線から元素分析をするものである。非破壊で短時間(数分)の測定が可能なことから、スクリーニング分析として広く利用されている。短時間で閾値より大か小かを判定し、閾値より小さい場合はそのまま合格とし、閾値より大きい場合は、次のステップとして詳細分析を実施する。詳細分析ではICP−AESやICP−MSが用いられる。両ICP法は、高精度(ppm〜数十ppb)が特長であるが、試料を作成するための前処理(溶媒に溶かして溶液を作成)が必要である。一方、中性子を利用した元素分析法として、原子炉中性子源からの熱中性子を試料に照射し、試料からの即発γ線をスペクトル分析することで元素固有のγ線を特定する即発γ線法が知られている。
【0008】
【特許文献1】特開2005−3471号公報
【特許文献2】特開2004−271229号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながらXRFは、その精度(誤差30%〜50%)に問題があり、判定が困難な場合がある。また、X線のエネルギーが低いことから、その測定領域は固体試料表面の数十μmに限定されることが問題である。それを解消するために試料を冷凍,粉砕等により一様化し、粉体状態で測定することがなされているが、その時点で非破壊の状態ではなくなる。また時間もそれだけかかる。
【0010】
一方、両ICP法では、前処理のために多大の時間(場合によっては1日オーダ)がかかることが問題となっている。またこれらのいずれの方法も測定時には測定対象試料は1試料に限られる、すなわち、試料数が多いと、試料数に比例して測定時間がかかるという問題があり、短時間で多数の試料の測定が必要な場合には不適である。さらに従来の原子炉中性子源利用の即発γ線法では、定常的に多数の試料を短時間で測定することは、設備の構造上、また利用時間の制限上困難である。
【0011】
本発明は上記問題点に対処したもので、その目的は、非破壊で一括して同時に多数の試料の元素分析を高精度で行うことのできる中性子利用元素分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、重水素とトリチウムの核融合反応で中性子を発生する中性子発生管と、該中性子発生管で発生する中性子とほぼ同時に発生し、該中性子の飛行方向とほぼ180度方向に放出されるα線を検出するα線検出器と、試料を二次元的あるいは三次元的に複数の区画に分けて収納する試料収納部と、前記中性子が試料と反応して放出されるγ線を検出するγ線検出器と、前記α線検出器と該γ線検出器のデータを同時に計数するα線・γ線同時計数回路とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、試料収納部の多数の区画に配置された多数の試料に対して非破壊の状態で一括して中性子を照射することができ、そのときの各試料からのγ線と中性子発生管内に備えたα線検出器で検出するα線を同時計数することで、非破壊で一括して同時に多数の試料の元素分析を高精度で行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
非破壊で一括して同時に多数の試料の元素分析を高精度で行うという目的を簡単な構成で実現した。
【実施例1】
【0015】
以下、本発明の一実施例について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態の中性子利用元素分析装置の全体概略構成を表す図である。
【0016】
図1において、中性子発生管1は、密閉真空容器2内に重水素(D)ビーム発生部3とトリチウム(T)を吸蔵する金属ターゲット4およびα線検出器500を備え、外部には重水素ビームを発生させるための電源系6および制御系7を備えている。またトリチウム吸蔵ターゲット4をはさんでα線検出器5と対向する位置に試料収納部8を配置している。
【0017】
図2はα線検出器5と試料収納部8との関係を表す全体斜視図、図3は断面図である。また図4は、1対1対応関係にある個別のα線検出器と試料収納部の個別の区画およびその区画内に配置され他個別の試料との関係を表す拡大斜視図である。α線検出器5は、金属枠板50に気密封着された複数のガラス部材51a,51b,・・・の真空側端部に個別に薄板状α線検出器(シンチレーション素子)52a,52b,・・・を備えたものが二次元アレイ的に配列されたα線検出器アレイ500として構成されている。金属枠板
50とガラス部材51とは、全体として中性子発生管の真空容器の真空隔壁の一部を構成している。ここで各個別のα線検出器が、互いに干渉しないように各ガラス部材間には適度のデッドスペースdを設けている。スペースdはガラス部材直径D(角型の場合、1辺の長さ)に対して0.5D 〜D程度が望ましい。試料収納部8は二次元的に多数の小区画81a,81b,・・・で構成され、それぞれの区画には互いにほぼ同じサイズの試料
9a,9b,・・・が配置される。試料収納部8の材料は、中性子照射時に不要なγ線を出さないような材料、たとえば発泡スチロールや、放射化しにくい材料、たとえばアルミニウム等で構成されることが望ましい。
【0018】
α線検出器アレイの各薄板状α線検出器52a,52b,・・・と試料収納部8の各小区画81a,81b,・・・は、トリチウム吸蔵ターゲット上の中性子発生点Pをはさんで直線的に対向し、1対1に対応している。
【0019】
さらに前記1対1対応の個別薄板状α線検出器(たとえば52a)と個別試料9aの関係において、前記個別薄板状α線検出器52aと中性子発生点Pが作る角錐状領域A1−A2−A3−A4−P(図4のケース;個別薄板状α線検出器が円形の場合円錐状領域)が中性子発生点Pをはさんで前記試料収納部側へ延長して作る角錐状領域B1−B2−
B3−B4−P内に(図4のケース;個別薄板状α線検出器が円形の場合円錐状領域内に)、対応する区画B1−B2−B3−B4−B1′−B2′−B3′−B4′内の個別試料9aが、ほぼ完全に内包されるように配置されることから、個別のα線検出器がデッドスペースdを設けて互いに干渉しないことに対応して、収納容器内の各小区画の試料配置スペースが互いに不干渉距離d′が確保できるように小区画は配置されている。距離d′はα線検出器と試料収納容器小区画との関係からmdとなる。ここにmは両者の位置関係できまる倍率(m>1)である。
【0020】
さらにγ線検出器10が試料収納部8全体を見込むような位置に配置される。γ線検出器10は、測定すべき試料以外からの余分なγ線を遮へいするγ線遮蔽体11(通常鉛で製作)で包囲されている。さらにその外側は、γ線検出器に中性子源から直接入る中性子を減速吸収する中性子減速吸収体12(通常ホウ素入りポリエチレンで製作)で包囲されている。
【0021】
またα線信号処理部21,γ線信号処理部22,α線・γ線同時計数回路23,データ収集装置24,データ比較・判定・記録装置25が配置されている。
【0022】
以上のような構成における各部の動作は以下のとおりである。中性子発生管1内部では、外部制御系7の指令により、真空容器2内で重水素(D)蒸気を発生し、電源系6から供給される高電圧により加速されて重水素ビーム30を発生する。重水素(D)ビーム
30がトリチウム吸蔵金属ターゲット4に衝突すると、ターゲット上の衝突点Pで重水素−トリチウム(DT)核融合反応がおこり、高速の中性子31(14MeV)とα線32(3.5MeV) が発生する。この核反応では、中性子31とα線32は互いに反対方向
(180度方向)に飛行することが知られている。
【0023】
実際、発明者らの実験によれば、図5に示すように重水素−トリチウム核融合反応で発生するα線の個数(すなわち中性子発生率に相当)は、中性子の個数(中性子発生管の電圧とビーム電流のモニタ値と校正値の比較から自動計測される設定値)とよく一致することを確認した。
【0024】
また、α線−中性子同時計数により、個別α線検出器に対応する中性子の空間分布を測定したところ、図6に示すように、幾何学的な対応関係できまる領域のみに同時計数に関わる中性子が存在することが確認された。図6ではピークのカウント数に対してそのカウント数は1%以下のレベルである。すなわち、同時計数により、2桁以上のノイズ低減が実現できることがわかる。ちなみに中性子は、発生点Pを中心に、全方位に(立体角4π)ほぼ均一に発生している。
【0025】
図6では、中央にピークを有するガウス状の分布をしているが、これは中性子の検出器が有限の大きさをもっていることに対応している結果であり、中性子の検出器のサイズが無限に小さければ、図6中に想像線で示したように、測定した分布と半値幅が等しい矩形の分布を示すはずである。実験では個別のα線検出器が直径約1cm、中性子発生点Pとα線検出器との距離が約10cm、中性子発生点Pと中性子検出器との距離が20cmのとき、測定された中性子空間分布の半値幅は約2cmであった。すなわち1:2の幾何学的な対応があることがわかる。
【0026】
薄板状α線検出器52a,52b,・・・が二次元アレイ状に配列され、個々の検出器が独立しているので、アレイのどの検出器にα線が入ったかがわかれば、α線の飛行方向が、α線検出器と重水素ビーム衝突点Pを結ぶ直線としてわかり、したがって中性子の飛行方向がわかる。薄板状α線検出器52a,52b,・・・からの信号(光信号)は光電子増倍管53a,53b,・・・を経てデータ収集装置24内のα線信号処理部21で処理され、α線のエネルギーに比例した波高値信号とα線の検出時刻に関連したタイミング信号に変換される。一方、中性子と試料物質の反応により、試料物質の構成元素に固有のγ線33が発生する。γ線検出器10からの信号(光信号)は光電子増倍管を経て、データ収集装置24内のγ線信号処理部22で処理され、γ線エネルギーに比例した波高値スペクトルとγ線の検出時刻に関連したタイミング信号に変換される。α線のタイミング信号とγ線のタイミング信号をα線・γ線同時計数回路23により計測し、14MeVの中性子の飛行速度(5.2cm/ns) と比較して、試料中でγ線が発生する反応時間が十分短いことと、γ線の飛行速度(30cm/ns)が既知であることを考慮すると、中性子と原子との反応で発生したγ線とα線の時間差を測定することができ、中性子が試料と反応して発生したγ線の位置の測定が可能である。すなわちγ線の発生位置を三次元的に特定することができる。ここでα線検出器の素子の間分解能は1ns程度のものが選定されている。
【0027】
したがって中性子が試料と反応する位置の精度は5cm程度になる。すなわち各試料の収納位置は5cm以上の間隔で配置する必要がある。
【0028】
またγ線の波高値スペクトルからエネルギースペクトル26が得られ、元素の同定が可能である。α線とγ線との同時計数を行うことにより、γ線の発生位置の確定と同時に、信号以外のノイズとなるγ線の低減が可能になる。これらの測定データはデータ収集装置24に取り込まれ、データ比較・判定・記録装置25内の比較部で各元素に固有の閾値を示す標準データ27と比較部28で比較され、判定部29で閾値よりも小さい場合には合格、閾値と同程度か閾値より大きい場合には不合格の判定がされる。測定データおよび判定記録は記録部20で記録され、必要なデータが出力される。
【0029】
本実施例の構成では、多数の試料を一括して同時に計測することができるので、1試料あたりの測定時間が短くなり、分析処理能力は従来法に比較して大幅に向上する。たとえば60個の試料を1時間で分析できれば1個/分の処理能力になる。これは従来の分析法の数倍〜数百倍の処理能力に相当する。また非破壊で高精度短時間計測ができるという点は、従来実現されなかったものである。
【0030】
また本実施例では、さらに複数の試料を、試料収納部の各小区画にそれぞれ配置しているので、γ線の発生位置が特定しやすくなる。すなわち、試料からのγ線が発生するとすれば、その位置は、小区画のいずれかであり、それ以外でのγ線の信号は誤信号になり、位置に関する情報が正確になるという効果がある。
【実施例2】
【0031】
図7は本発明による他の実施例(実施例2)である。試料収納部は二次元的に多数の小区画81a,81b,・・・で構成されたものが2段配置され、全体として三次元的に配列されている。2段目の小区画もトリチウム吸蔵金属ターゲット上の中性子発生点Pをはさんでα線検出器アレイの各個別α線検出器と直線的に対応している。1段目と2段目の距離は、α線検出器の時間分解能(〜1ns)に対応して、5cm以上に設定してある。本実施例では、配置できる試料数は2倍になる。測定にもっとも時間を要するプロセスである中性子照射時間は1段の場合と同じであるので、試料1個あたりの処理時間は、ほぼ半減する。すなわち処理能力は倍増するという効果がある。
【実施例3】
【0032】
図8は、本発明によるさらに他の実施例(実施例3)である。試料収納部の各小区画の大部分には測定すべき試料が配置されるが、小区画のひとつあるいはいくつかには、標準試料91a,91b,・・・が配置される。このような試料配列をすることにより、中性子照射時に、測定すべき試料と標準試料を同時に測定し、両者の違いを同時に観測することができる。標準試料として閾値レベル,閾値の50%レベル,10%レベル,0%レベル等、数段階のレベルを設定することにより、標準データの精度が上がるという効果がある。また中性子源の中性子発生量は長時間レベル(1000時間あるいはそれ以上)では徐々に低下することが考えられるが、適度なインターバル(1回/日〜1回/週)で更新することにより精度を上げることができる。同時に中性子発生管の能力の経時変化(劣化特性)をチェックすることができる。さらに標準試料を置く位置を変えることにより、場所による測定精度を確認することもできる。
【実施例4】
【0033】
図9は、本発明によるさらに他の実施例(実施例4)である。複数の試料収納部とこれを動かすための駆動装置100が備えられている。1回の中性子照射に用いられるのは1組の試料収納部8aであり、他の収納部8b,8c,・・・は待機状態である。このような構成にすることにより、1組の試料収納部8aで中性子を照射し、測定している間に他の試料収納部8b,8c,・・・で試料の配列等準備をすることができ、1組の照射測定がすみしだい、他の1組の試料を駆動装置により測定位置に移動し、次の測定を始めることができる。すなわち、実質的に無数の試料を連続的に測定することができるという効果がある。この場合、待機する試料収納部は、余分なγ線を発生しないためにも、中性子照射中の試料収納部から離れた場所で待機することが望ましい。
【実施例5】
【0034】
図10は、本発明によるさらに他の実施例(実施例5)である。本実施例では、複数個のγ線検出器10a,10b,・・・が備えられている。それぞれのγ線検出器10a,
10b,・・・はγ線遮蔽体11a,11b,・・・、中性子減速吸収体12a,12b,・・・で包囲されている。γ線遮蔽体は入射口を絞り込んで、γ線検出器が試料を見込む領域を小さくしてある。これによりノイズ源となる余分なγ線を除去することができる。一方それにより、測定すべき試料の数量が限定されるが、複数個のγ線検出器を用いることにより、すべての試料のデータを得ることができる。また試料からのγ線の強度は距離の2乗に反比例するので試料・γ線検出器間の距離が試料の位置によって違いすぎると、γ線信号強度の違いが大きくなり、信号レベルの差が大きくなり、測定が不安定になるが、本実施例の構成では、同一γ線検出器が分担する測定すべき試料とγ線検出器との距離は、それぞれのγ線検出器において同程度になり、安定した測定結果が得られるという効果がある。
【実施例6】
【0035】
図11は、本発明によるさらに他の実施例である(実施例6)。本実施例では、試料収納部の小区画とα線検出器の各α線検出器との対応が1対4になっている。この対応関係は測定試料の大きさにより、1対N(N=2,3,・・・)と適宜変えることができる。本実施例(1対4)では1対1対応の場合の4倍の大きさのものを測定することができる。しかし本実施例では、α線検出器側にデッドスペースがあるのでその部分に対応する試料の情報は得られない。それを回避するために、試料収納部を縦横に動かし、試料全体に対する測定を行うこともできる。また、試料が均質な場合はデッドスペースで測定にかからない部分は無視することもできる。測定時間は通常よりもかかるが、大きいものを非破壊で測定分析できるという効果がある。
【実施例7】
【0036】
図12は、本発明によるさらに他の実施例である(実施例7)。XRFの誤差(30%〜50%)を見込んでも試料の特性上(素材の特性,製法等)、従来のXRFで十分対応可能な場合である。すなわちXRFをスクリーニング分析とし、従来のICP法等を用いた詳細分析の代わりに中性子利用元素分析を適用する方法である。
【0037】
ステップIのスクリーニング分析では、従来のXRF法を用い、分析された試料の対象元素の値が、閾値1(たとえば鉛の場合、本来の規格値は0.1wt% 、ただしここではXRF法の誤差(50%程度)を見込んだ0.07wt% 程度の値)よりも大きいか小さいかで比較・判定される(比較・判定1)。この比較・判定1では、分析値が閾値1よりも小さければ(YES)、試料は合格対象群に分類される。分析値が閾値1よりも大きければ(NO)、試料は不合格対象群に分類される。場合によっては、判定が微妙なもの
(閾値近傍の合格試料)も、不合格対象群に分類してもよい。
【0038】
ステップIIの詳細分析では、ステップIで不合格と判定された試料を対象とし、本発明になる中性子利用元素分析を用いる。このステップでは、閾値2は本来の規格値(たとえば鉛の場合、0.1wt% )に設定してある。比較・判定2において、分析値が閾値2よりも小さければ(YES)、試料は合格となり、閾値2よりも大きければ(NO)、試料は不合格となる。本実施例によれば、ステップIで不合格であったもののうち、ステップIIでは、合格となるものが出てくることになり、不要な不合格試料を救済することができるという効果がある。また、従来の詳細分析では不可能であった高精度分析が非破壊で短時間でできるという効果がある。
【産業上の利用可能性】
【0039】
RoHS対応のみならず元素分析全般に利用できる。特に多数の試料を非破壊で一括して測定できるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】中性子利用元素分析装置の全体概略構成図(実施例1)。
【図2】α線検出器と試料収納部との関係を表す全体斜視図。
【図3】α線検出器と試料収納部との関係を表す断面図。
【図4】1対1対応関係にある個別のα線検出器と試料と個別の試料を示す斜視図。
【図5】α線検出器で評価した中性子発生率を示す実験データ。
【図6】個別α線検出器に対応する中性子の空間分布の測定結果。
【図7】試料収納部を三次元配列した構成図(実施例2)。
【図8】試料収納部に標準試料を配置した斜視図(実施例3)。
【図9】複数の試料収納部を駆動装置で動かす場合の断面図(実施例4)。
【図10】複数のγ線測定器を備えた場合の断面図(実施例5)。
【図11】大型試料測定時の斜視図(実施例6)。
【図12】分析方法の説明図(実施例7)。
【符号の説明】
【0041】
1…中性子発生管、2…真空容器、3…重水素ビーム発生部、4…トリチウム吸蔵金属ターゲット、5…α線検出器、6…電源系、7…制御系、8…試料収納部、9a,9b,9c,・・・…試料、10…γ線検出器、11…γ線遮蔽体、12…中性子減速吸収体、20…記録部、21…α線信号処理部、22…γ線信号処理部、23…α線・γ線同時計数回路、24…データ収集装置、25…データ比較・判定・記録装置、26…エネルギースペクトル、27…標準データ、28…比較部、29…判定部、30…重水素ビーム、
31…中性子、32…α線、33…γ線、50…金属枠板、51a,51b,51c,
・・・…ガラス部材、52a,52b,52c,・・・…薄板状α線検出器、53a,
53b,53c,・・・…光電子増倍管、81a,81b,81c,・・・…試料収納部小区画、100…駆動装置、500…α線検出器アレイ。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
重水素とトリチウムの核融合反応で中性子を発生する中性子発生管と、該中性子発生管で発生する中性子とほぼ同時に発生し、該中性子の飛行方向とほぼ180度方向に放出されるα線を検出するα線検出器と、試料を二次元的あるいは三次元的に複数の区画に分けて収納する試料収納部と、前記中性子が試料と反応して放出されるγ線を検出するγ線検出器と、前記α線検出器と該γ線検出器のデ−タを同時に計数するα線・γ線同時計数回路とを備えた中性子利用元素分析装置。
【請求項2】
前記α線検出器が二次元アレイ的に配列されたα線検出器アレイとして構成され、それぞれのα線検出器が隔壁により互いに干渉しないように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の中性子利用元素分析装置。
【請求項3】
前記α線検出器アレイのそれぞれのα線検出器が、前記試料収納部の各区画と1対1に対応するように前記α線検出器アレイと前記試料収納部が配置されていることを特徴とする請求項2記載の中性子利用元素分析装置。
【請求項4】
前記試料収納部の区画の一部に標準試料を配置し、測定時にはこれらの標準試料を同時に測定することを特徴とする請求項1記載の中性子利用元素分析装置。
【請求項5】
前記試料収納部を複数備え、各試料収納部を駆動させる駆動装置を備えたことを特徴とする請求項1記載の中性子利用元素分析装置。
【請求項6】
前記γ線検出器を複数備え、それぞれに中性子遮蔽体およびγ線遮蔽体を備えたことを特徴とする請求項1記載の中性子利用元素分析装置。
【請求項7】
前記試料収納部の各区画と前記α線検出器との対応が1対N(N=2,3,・・・)であることを特徴とする請求項1記載の中性子利用元素分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−71675(P2007−71675A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−258650(P2005−258650)
【出願日】平成17年9月7日(2005.9.7)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】