説明

中性粒子ビームの口径拡大方法及び口径拡大装置

【課題】 中性粒子ビームのビーム径を広げ、基板上のより広い面積に粒子の堆積を行う

【解決手段】 中性粒子生成源として不活性ガスを満たしたクラスター生成容器5内で、
間欠的なレーザビームを材料の固体ターゲットに照射し、発生した材料蒸気の分子又は原
子同士の結合によりクラスター群を形成せしめ、形成されたクラスター群を、該クラスタ
ー生成容器5の容器窓7から中性粒子ビームとして流出せしめ、該中性粒子ビームの途中
において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させるガイド11aお
よびガス噴射口12aを設け、中性粒子の流れを変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子又は分子の集合体である中性粒子ビームを基板上に堆積させて膜を形成
する技術に関し、特に、膜を形成する際、中性粒子ビームの口径を拡大する中性粒子ビー
ムの口径拡大方法及び口径拡大装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノエレクトロニクス、光エレクトロニクス、バイオテクノロジ等の多くの分野
における技術進展のために、新しい機能や、性能を備えた膜作りの手段として、原子ある
いは分子の集合体であるクラスター粒子の研究開発が多くなされている。その中で、電気
的に中性な中性粒子のビームは、堆積する基板が電気的に絶縁性のあるものでもよいので
、対象物を選ばない利点がある。このような中性粒子ビームの半導体分野への適用例の一
つを挙げれば、パルスレーザを用いて固体材料からの中性クラスター即ち中性粒子を作り
、中性粒子ビームを取りだすものがある。具体的には、パルスレーザをターゲット材料に
照射し、発生した蒸発原子を不活性ガス中でクラスターに成長させ、これを不活性ガス源
と真空との圧力差による流れによって、中性粒子ビームとして出力するものである。
【0003】
さらにまた、より進化して、粒子寸法を揃え、数ナノの寸法の粒子ビームを作る手段と
して、特許文献1記載のクラスター生成法及び装置が提案されている。この改良装置の動
作原理を図9に示す。A点に設置されたターゲット材料1にパルスレーザ光2を照射し、
材料原子の蒸気3を発生せしめる。この蒸気圧が、その前面に存在する不活性ガス、例え
ばHeガスに衝撃を与えて、衝撃波4を作り、この波は容器5に反射して、B領域に焦点
を結ぶように集まってくる。その時点に材料原子の蒸気3は丁度B領域に到達し、材料蒸
気が反射して集まってきた不活性ガスに閉じ込められ、シリコン原子が結合しクラスター
6を形成する。この方法で5nm以下の微細で寸法の揃ったクラスター粒子が作成される
ことの可能性は非特許文献1に示されるように実験的に確認されている。
【特許文献1】特開2001−158956号公報
【非特許文献1】「シリコンナノブロックの配列秩序形成と薄膜生成システムの実用化」;レーザ加工学会誌、第10巻、第3号、2003.12
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
中性粒子ビームの製品への活用において最も重視されるのは膜の製作コストである。従
って、単位時間に製作される膜の延べ面積ができるだけ大きいことが望まれる。また、L
SI製造の例で見られるとおり、膜を適用する製品のコスト低減のために基板を大型化し
て量産効率を上げるなど、広い面積への膜の適用が要求される場合が多い。
図9に示した従来の改良型装置の膜生成は、図10に模式図を示す通りクラスター粒子
生成容器5の窓7から不活性ガスと共に流出させた中性粒子ビームがスキマー8を通過す
る。この際、スキマー8には電位が与えられており、窓7から流出した粒子ビームの中に
含まれる、電荷を持った成分は除去される。スキマー8を通過した中性粒子ビームは、基
板9に垂直に衝突してクラスター膜10を形成する。
【0005】
この装置で大面積への膜作りのためには、中性粒子の生成速度を高め、中性粒子ビーム
内の粒子密度を高め、同時に基板を走査する速度を高めることで、同じ厚さの膜の面積を
広め、製作コストの低減を図ることになる。この場合中性粒子ビームはその断面内に粒子
密度分布を持ち、このビーム断面内の粒子密度分布が基板への蒸着の際に膜厚の不均一性
の主要因になる。通常は基板上走査を複数回重ねることにより、ビーム蒸着の際のビーム
断面内の粒子密度分布による膜厚不均一性を緩和することが一般的であるが、必要な基板
サイズに対してビーム径が極端に小さい場合には、膜厚の不均一性を緩和するために必要
な走査回数が増大し、膜厚の均一性の確保が困難になり、薄膜生成の制御性に問題が生じ
る。例えば、近年のエレクトロニクス産業における低価格化の要請から半導体基板サイズ
は300mm径が主流になりつつあり、更に近い将来400mm、500mm径の半導体
基板の利用も想定される。それに対して、真空ポンプの排気量の制約などから、中性粒子
ビーム径は大きいものでも20mm以下が一般的であり、大面積の基板への均一な薄膜蒸
着には更に大口径の中性粒子ビームが必要とされている。
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであって、中性粒子ビームのビーム径を
広げ、基板上のより広い面積に粒子の堆積を行うことができる中性粒子ビーム口径拡大方
法及び口径拡大装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法は、中性粒
子生成源から出力された中性粒子ビームを対象物に当て該対象物に中性粒子を堆積させる
際、該中性粒子ビームのビーム径を拡大する中性粒子ビームの口径拡大方法において、該
中性粒子ビームの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用
させる手段を設け、該中性粒子を該対象物の広い面積に堆積させることを特徴とする。
【0007】
この構成は、本発明の基本構造を示すもので、中性粒子生成源から出力された粒子ビー
ムの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段を
設け、該中性粒子ビームのビーム径を拡大することを特徴とする中性粒子ビームの口径拡
大手法を提案する。即ち、ビームの断面の中心からビームの周辺に向かう物理的力を中性
粒子群に与えることで、ビームの口径を広げるものである。
この構成によれば、高性能化された中性粒子生成源から出力される中性粒子ビームのビ
ーム径を途中で拡大し、基板上のより広い面積に粒子の堆積を行うことができ、基板の膜
厚の成長速度も遅くすることが可能で、膜厚の制御、膜の均一性を得易いというメリット
を持つ。
【0008】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
前記中性粒子生成源としてクラスター生成容器を用い、不活性ガスを満たした該クラスタ
ー生成容器内で、間欠的なレーザビームを材料の固体ターゲットに照射し、発生した材料
蒸気の分子又は原子同士の結合によりクラスター群を形成せしめ、形成されたクラスター
群を、該クラスター生成容器の容器窓から中性粒子ビームとして出力せしめることを特徴
とする。
【0009】
この構成は、請求項1における中性粒子生成源の具体的実現手段を提供するものである
。即ち、図9に示したクラスター製造技術により生成されたクラスター粒子群を図10に
示す如く容器の窓から中性粒子ビームとして出力せしめるもので、容器の窓から基板に至
る中性粒子ビームの流路Cに粒子ビームの流れを広げる手段を設け、容器の窓の面積に対
して基板上のより広い面積に粒子を散布することを特徴とする中性粒子ビームの口径拡大
方法を提案するものである。当然のことながら、膜形成過程では、基板を移動させ、より
広い面積に均一な密度に中性粒子に基づく膜を生成することができる。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビー
ムの途中のビーム断面中央部において該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように変化
させるガイドであることを特徴とする。
この構成は、中性粒子の流れを変化させ広げる手段として、機械的なガイドを利用した
ものである。ガイドの形状として例えば頂点が中性粒子発生源に向いている円錐状の障害
物を用いれば、ビームの流れを乱すことが少なく周囲に均等に拡げることができ、中性粒
子ビームを基板上のより広い面積に堆積することができる。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビー
ムの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの方
向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該ガスは不活性ガスを含むことを
特徴とする。
【0012】
この構成は、中性粒子の流れを変化させ広げる手段として、ガス圧を利用したものであ
る。なお、ガス圧利用にあたっては、ガス噴出の様態には種々あり、粒子ビームの流れる
方向に対して逆方向、順方向、横方向にガスを噴出させる様式があり得る。しかし、いず
れの場合も、ガスの噴出は、粒子ビームの断面で見て中心部でなされ、あるいは、中心部
に向けてなされ、ガスの圧力がビーム粒子に対してビーム断面の中心から周辺部に向かう
力が加わるように行われ、ビーム断面積が拡大する方向にビーム粒子の流れを変化させる
ものである。これにより、前述したガイドと同様に、中性粒子ビームのビーム径を広げ、
基板上のより広い面積に粒子の堆積を行うことができる。
さらに、逆方向あるいは順方向のガス噴出は、ビーム粒子速度を減速あるいは加速させ
る機能を有するものである。これにより、ビーム粒子速度を堆積膜形成上好ましい速度に
調整することが可能となる。
【0013】
また、請求項5記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビー
ムの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの方
向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該ガスは、該中性粒子と結合して
基板に堆積後の該中性粒子間を結合させる物質を該中性粒子の表面に付加せしめる成分を
含むことを特徴とする。
この構成は、中性粒子の流れを変化させるガスに、単なる不活性ガスだけではなく、粒
子の周囲に、粒子堆積時に各粒子間を結合せしめる物質、例えば酸素原子を付加せしめる
反応性ガス成分を含ませたものである。これにより、基板上のより広い面積に粒子を堆積
せしめると同時に、膜の電気的性質を変化せしめることができる。
【0014】
また、請求項6記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビー
ムの途中のビーム断面中央部において該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように変化
させるガイドと、該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力と
を併用し、該ガスは不活性ガスを含むか、あるいは、該中性粒子と結合して基板に堆積後
の該中性粒子間を結合させる物質を該中性粒子の表面に付加せしめる成分を含むことを特
徴とする。
【0015】
この構成は、中性粒子の流れを変化させ広げる手段として、前述の請求項3と請求項4
の手段を併用しているが、さらに、請求項3と請求項5の手段の併用も提言している。す
なわち、前述した機械的なガイド及びガス圧の両手段を併用し、かつ、ガスの成分として
、請求項4記載の不活性ガス、請求項5記載の該中性粒子間を結合させる成分のいずれの
場合もありうることを主張している。また、上記反応性ガスの反応効果を高めるために噴
出ガスを予め加熱しておくことも有効手段である。これにより、より効果的に、基板上の
より広い面積に粒子の堆積を確実に行うことができる。
【0016】
また、請求項7記載の発明は、請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法に係り、
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビー
ムの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの方
向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該中性粒子中に含まれる該中性粒
子と質量の異なる粒子を除去する手段をさらに設けることを特徴とする。
【0017】
この構成は、請求項4における粒子ビームの流路で噴出させるガス圧を活用し、中性粒
子中に含まれる所望の中性粒子と重さが異なる混入物の除去を併せて行うことを特徴とす
るものである。なお、所望の中性粒子と重さが異なる混入物としては、材料ターゲットに
レーザビームを照射する際、表面から中性粒子形成の元になる材料蒸気の他にターゲット
表面で溶融した材料の液状飛沫がある。これは、レーザビーム照射量の増大に伴ってター
ゲット表面の溶融が起こり、不安定な過熱状態になると後続ビーム照射等の刺激により爆
発的な気化が起こり、溶液を飛散させる現象と考えられる。
【0018】
また、請求項8の発明は請求項1〜7のいずれか1項に記載の中性粒子ビームの口径拡
大方法に係り、中性粒子生成源から出力された中性粒子ビームを対象物に当てる手段にお
いて、該中性粒子ビームの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう
力を作用させる手段を設け、該中性粒子ビームのビーム径を拡大せしめると共に、該ビー
ムの流路の周囲にビーム粒子の広がりを限定する覆いを設けたことを特徴とする。
この構成は、ビームの流路の周囲にビーム粒子の広がりを限定する覆いを設けたことを
特徴とするものであり、これにより、拡大されたビーム口径を規定し、粒子量の散逸を防
ぎ、規定領域内の膜の平坦化に寄与するものである。
【0019】
また、請求項9記載の中性粒子ビームの口径拡大装置は、中性粒子生成源から出力され
た中性粒子ビームを対象物に当て該対象物に中性粒子を堆積させる際、該中性粒子ビーム
のビーム径を拡大する中性粒子ビームの口径拡大装置において、該中性粒子ビームの途中
において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段を有し、該
中性粒子を該対象物の広い面積に堆積させることを特徴とする。
【0020】
この構成は、中性粒子生成源から出力された該中性粒子ビームの途中において該中性粒
子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段を有し、中性粒子生成源から
出力されたビーム径を拡大することを特徴とする中性粒子ビームの口径拡大装置を提案す
るものである。この装置を用いることにより、中性粒子生成源の装置が高性能化され、高
密度の中性粒子ビームを送出した場合に、粒子ビーム径を広げて、基板上により広い面積
に適切なビーム内粒子密度で粒子による堆積膜を形成することができ、膜形成の制御が容
易となる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によれば、中性粒子ビームのビーム径を広げ、基板上のよ
り広い面積に適切な粒子速度と堆積速度で粒子の堆積を行うことができるという効果が得
られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。以下の実施形態は
、クラスター群の流れを変化させ広げる手段について具体的に示した例である。
[第1実施形態]
まず、図1を参照して、本発明の第1実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法に
ついて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る中性粒子ビーム口径拡大方法の原理を示す概略図
である。この図は、クラスター生成容器から流出する中性粒子の流れの方向を変える手段
としてガイドを用いた例を示す図である。
【0023】
本実施形態では、同図に示すように、中性粒子生成源としてのクラスター生成容器5に
おいて生成され、該クラスター生成容器5から流出された中性粒子ビームの流路の途中に
該中性粒子の流れの方向を変化させるガイド11を設け、該中性粒子ビームのビーム径を
拡大して、基板9上に堆積させている。クラスター生成容器5は、不活性ガスを満たし、
間欠的なレーザビームを材料の固体ターゲットに照射し、発生した材料蒸気の分子又は原
子同士の結合により中性粒子を形成せしめ、形成された中性粒子を、該クラスター生成容
器5の容器窓7から中性粒子ビームとして流出せしめる。
【0024】
ガイド11は、中性粒子ビームの流路のほぼ中心部において該流れの方向を周囲に広げ
るように変化させる。ガイド11の形状として、例えば同図に示すような円錐状の障害物
を用いて基板10上への粒子堆積面積を拡大することが考えられる。
なお、図1では、従来用いられているスキマー(図10の8)は省略されている(以下
の図面も同様)が、ガイド11で中性粒子ビームを拡大する前、あるいは拡大した後に設
けることができる。
また、当然のことながら、膜形成過程では、基板9を移動させることにより、更に広い
面積に膜を形成することができ、同時に膜厚の均一化を図ることができる。
【0025】
[第2実施形態]
次に、図2〜図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大
方法について説明する。
図2及び図3は、本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を
示す概略図である。図2は、噴射ガスの方向が中性粒子の流れる方向に対して逆方向の場
合、図3は、噴射ガスの方向が中性粒子の流れる方向に対して順方向の場合を示す。これ
らの図は、クラスター生成容器から流出する中性粒子の流れの方向を変える手段として噴
射ガスの圧力を用いた例を示す図である。
【0026】
本実施形態では、図1に示したガイド11の代わりに噴射ガス13の圧力を使っている
。すなわち、図2及び図3に示すように、ガス噴出機14のガス噴出口12から不活性ガ
スからなる噴出ガス13を噴射することで、クラスター生成容器5の容器窓7から流れて
くるクラスター群6の流れを周囲に分散させ、結果的に基板9上へのクラスター散布面積
を拡大し、広い面積にクラスター膜を形成する。
【0027】
ここで、噴射ガス13が噴射される方向は、中性粒子ビームが流れる方向に対して逆方
向、順方向、横方向のいずれの方向も可能であるが、本実施形態においては、中性粒子ビ
ームが流れる方向に対して逆方向の場合(図2)と、順方向の場合(図3)を示す。また
、噴射される位置は、中性粒子ビーム6が流れる方向に直角な断面のほぼ中央部に設定し
ているが、この位置に限定されることはない。
【0028】
図4は、本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法における噴出ガス
成分に、クラスター6と反応してクラスター6の表面にクラスター間を結合させる物質を
付加せしめる反応性ガス成分を含ませた場合における、堆積された粒子膜の構造を示す模
式図である。中性粒子材料をシリコンSiとし、反応性ガス成分として酸素Oを含ませた
例である。クラスター生成容器5を用いて得られる中性粒子はクラスター6の膜厚寸法が
揃ったものが得られるという顕著な特徴があり、膜形成時にクラスター間の引力と斥力と
によりクラスター6の格子構造を形成させることが可能となる。また、中性粒子6を形成
するシリコンは,表面に原子間結合の継手が出ており、この継手に酸素原子が結合する。
従って、図4に示すように各Si原子が1つのO原子と結合した構造の粒子間の結合が考
えられる。粒子間には空隙部分が存在するので、この空隙部分を後で絶縁性物質で埋めて
も埋めなくても、シリコン粒子間には電気エネルギー障壁が形成されることになる。
【0029】
[第3実施形態]
次に、図5を参照して、本発明の第3実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法に
ついて説明する。
図5は、本発明の第3実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略
図である。
本実施形態は、図1に示したガイド11と、図2に示した噴出ガス13とを併用した実
施形態である。すなわち、ガス噴出機として図5に示すようなガス噴出機14aを用い、
このガス噴出機14aの中にガイドとして同図に示すようなガイド11aを配置し、この
ガイド11aの形状を利用してガス噴出口12aから噴出された噴出ガス13aをクラス
ターの流れの中央部にもぐりこませ、流れを周囲に広げる機能を効果的に実現するもので
ある。すなわち、クラスター群6の流れは、ガス噴出機14aから噴出されるガス13a
によって流れの方向が変わり、その際、ガイド11aをガス噴出機14aの内部に入れて
いるので、噴射ガス13aの圧力が弱くてもガス噴出機14aの内部に入ることはなく、
ガス噴出機14aの外壁に沿って流れることになる。従って、この方法によっても、基板
9上における中性粒子ビームの口径を拡大し、広い面積にクラスター膜を形成すると共に
、膜厚の均一化を図ることができる。
なお、ここで噴射ガス13aは不活性ガス成分だけの場合と反応性ガス成分を含む場合
が可能である。
また、図5は噴射ガスがクラスター群の流れと逆方向であったが、順方向の場合であっ
ても、ガイドと噴射ガスを併用する構成は可能である。
【0030】
[第4実施形態]
次に、図6を参照して、本発明の第4実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法に
ついて説明する。
図6は、本発明の第4実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略
図である。
本実施形態は、クラスター6の流れを図5で説明した第3実施形態に係るガス噴出機1
4によって噴出される噴射ガス13によって広げると同時に、寸法の揃ったクラスター群
6からそれ以外の混入物を除去する機能を持たせた実施形態である。
【0031】
すなわち、ガス噴出機として同図に示すようなガス噴出機14bを用い、このガス噴出
機14bの中にガイドとして同図に示すようなガイド11bを配置し、このガイド11b
の形状を利用してガス噴出口12bから噴出された噴射ガス13bをクラスターの流れの
中央部にもぐりこませることにより、流れを周囲に広げる機能を効果的に実現するもので
ある。ガイド11bには窓を設け、クラスター生成容器の窓7から流れてくる中性粒子6
より重い物質は噴射ガス13bによって流れが変えられずに直進してガイド11bに設け
られた窓に飛び込むことになり、従って、基板9の方に流れることはない。一方、クラス
ター6より軽い物質はクラスター6より更に進行方向が大きく曲げられ、これを遮蔽板1
5により取り除くことができる。
【0032】
[第5実施形態]
次に、図7を参照して、本発明の第5実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法に
ついて説明する。
図7は、本発明の第5実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略
図である。
本実施形態は、図6で説明した第4実施形態と同様に、ガス噴出機14cからの噴射ガ
ス13cによって中性粒子6の流れの方向を変えるのと同時に寸法の揃った中性粒子6か
らそれ以外の混入物を除去する機能を持たせた実施形態である。この場合は、図2で示し
た逆方向、図3で示した順方向ではなく、クラスター6の流れの方向に対して側面(横方
向)からガス13cを噴射している。従って、比較的重い物質は流れの方向を変えずに矢
印Dに示すように直進するが、一方、比較的軽い粒子はより大きく流れの方向を矢印Eに
示すように変えることになり、これにより混入物を取り除くことができる。そして、この
例においても遮蔽板15を設置し、クラスター6より軽い物質はクラスターより更に進行
方向が大きく曲げられ、これを遮蔽板15により取り除くことができる。なお、この場合
も前述した実施形態と同様に、クラスター6の流れを広げることは、クラスター生成容器
5の容器窓7から流れてくるクラスター群6より幅(図面に向かって前後の)の狭い噴出
ガスをクラスター流の中央部に向かって噴出することで実現する。また、この手法を適用
した場合、クラスター流の流速の変化を比較的少なくしてクラスター6を基板9に散布す
ることができるという特徴を持つ。
【0033】
〔第6実施形態〕
次に、図8を参照して、本発明の第6実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法に
ついて説明する。
図8は、本発明の第6実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略
図である。
本実施形態は第1から第5までの実施形態に適用可能な手法であるが、図8は第3の実
施形態の図5に適用した例を示す。中性粒子ビームの口径が拡大する粒子流路の周囲に覆
い16を設けることにより、拡大されたビーム口径を規定し、粒子量の散逸を防ぎ、規定
領域内の膜の平坦化に寄与するものである。
【0034】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は、これらの実施形態に限定
されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態においては、ガイド11として円錐状の障害物を用いたが、
これに限定されることはなく、種々の形状のガイドを用いることができる。また、基板9
をスイ−プする代わりに、中性粒子ビームとガイド11の組み合わせを移動させて用いる
こともできるし、基板9と,中性粒子ビームおよびガイド11の組み合わせとの両方を移
動させて用いることもできる。
【0035】
また、上述した実施形態においては、ガスの種類として不活性ガスを挙げたが、これに
限定されることなく、クラスター群6の流れを周囲に分散させ、基板9上へのクラスター
散布面積を拡大し、広い面積にクラスター膜を形成することができ、膜厚の均一化を図る
ことができるガスであれば、他の種類のガスを用いることも可能である。
また、上述した実施形態においては、噴出ガスの方向を、中性粒子の流れの方向に対し
て逆方向、順方向、横方向の場合の実施形態を示したが、これに限定されることはなく、
斜め逆方向、斜め順方向等種々の方向に設定することができる。
また、上述した実施形態においては、各手段をクラスター群の流路のほぼ中心部に配置
することが好ましいとしたが、これに限定されることはなく、種々の環境に対応して広い
面積にクラスター膜を形成できる位置ならば、あらゆる位置に配置することが想定される

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の第1実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理(逆方向)を示す概略図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理(順方向)を示す概略図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法における噴出ガスの成分に反応性ガス成分を含めた場合に堆積された膜の構造の例を示す模式図である。
【図5】本発明の第3実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略図である。
【図6】本発明の第4実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略図である。
【図7】本発明の第5実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略図である。
【図8】本発明の第6実施形態に係る中性粒子ビームの口径拡大方法の原理を示す概略図である。
【図9】従来例の原理を示す概略図である。
【図10】従来例のクラスター膜生成方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0037】
1…ターゲット、2…レーザビーム、3…材料蒸気、4…衝撃波(の進行方向)、5…ク
ラスター生成容器、6…中性粒子ビーム(クラスター群)、7…容器窓、9…基板、11
,11a,11b…ガイド、12,12a,12b,12c…ガス噴出口、13,13a
,13b,13c…噴射ガス、14,14a,14b,14c…ガス噴出機、15…遮蔽
板、16…覆い

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性粒子生成源から出力された中性粒子ビームを対象物に当て該対象物に中性粒子を堆
積させる際、該中性粒子ビームのビーム径を拡大する中性粒子ビームの口径拡大方法にお
いて、
該中性粒子ビームの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を
作用させる手段を設け、該中性粒子を該対象物の広い面積に堆積させることを特徴とする
中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項2】
前記中性粒子生成源としてクラスター生成容器を用い、不活性ガスを満たした該クラス
ター生成容器内で、間欠的なレーザビームを材料の固体ターゲットに照射し、発生した材
料蒸気の分子又は原子同士の結合によりクラスター群を形成せしめ、形成されたクラスタ
ー群を、該クラスター生成容器の容器窓から中性粒子ビームとして出力せしめることを特
徴とする請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項3】
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビ
ームの途中のビーム断面中央部において該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように変
化させるガイドであることを特徴とする請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項4】
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビ
ームの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの
方向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該ガスは不活性ガスを含むこと
を特徴とする請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項5】
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビ
ームの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの
方向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該ガスは、該中性粒子と結合し
て基板に堆積後の該中性粒子間を結合させる物質を該中性粒子の表面に付加せしめる成分
を含むことを特徴とする請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項6】
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビ
ームの途中のビーム断面中央部において該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように変
化させるガイドと、該中性粒子の流れの方向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力
とを併用し、該ガスは不活性ガスを含むか、あるいは、該中性粒子と結合して基板に堆積
後の該中性粒子間を結合させる物質を該中性粒子の表面に付加せしめる成分を含むことを
特徴とする請求項1記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項7】
該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させる手段は、該中性粒子ビ
ームの途中のビーム断面中央部において、あるいは中心部に向けて、該中性粒子の流れの
方向を周囲に広げるように噴射されるガスの圧力であり、該中性粒子中に含まれる該中性
粒子と質量の異なる粒子を除去する手段をさらに設けることを特徴とする請求項1記載の
中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項8】
中性粒子生成源から出力された中性粒子ビームを対象物に当てる手段において、該中性
粒子ビームの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう力を作用させ
る手段を有し、該中性粒子ビームのビーム径を拡大せしめると共に、該ビームの流路の周
囲にビーム粒子の広がりを限定する覆いを設けたことを特徴とする請求項1〜7のいずれ
か1項に記載の中性粒子ビームの口径拡大方法。
【請求項9】
中性粒子生成源から出力された中性粒子ビームを対象物に当て該対象物に中性粒子を堆
積させる際、該中性粒子ビームのビーム径を拡大する中性粒子ビームの口径拡大装置にお
いて、該中性粒子ビームの途中において該中性粒子に対してビーム中央から外周に向かう
力を作用させる手段を有し、該中性粒子を該対象物の広い面積に堆積させることを特徴と
する中性粒子ビームの口径拡大装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−299316(P2006−299316A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−120230(P2005−120230)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】