説明

中空繊維強化プラスチックの製造方法

【課題】中子を高精度でかつ高剛性にてしかも軽量に作製でき、中子内への樹脂浸透の問題を発生させずに、成形後に中子内部材も容易に取り出すことができ、取り出した内部材も容易に再使用可能であり、所望の中空繊維強化プラスチックを確実に効率よく製造できる方法を提供する。
【解決手段】固体粒子を水溶性粘着剤により結合することによりブロック体を形成し、該ブロック体を樹脂不浸透性の膜で覆うことにより中子を作製し、該中子を用いて該中子の周囲に繊維強化プラスチックを成形し、成形後に、水溶性粘着剤による結合を解除して中子内の固体粒子を成形された繊維強化プラスチックの外部へ排出することを特徴とする中空繊維強化プラスチックの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空繊維強化プラスチックの製造方法に関し、とくに、特殊な中子を用いて中空部を成形するようにした中空繊維強化プラスチックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、中子を用いて中空部を成形するようにした各種成形法が知られている。例えば特許文献1には、膨縮可能な樹脂製のブロー成形中子を使った中空繊維強化プラスチック構造体の成形方法が開示されている。しかし、樹脂製中子は線膨張が大きく、加熱による膨張量のバラツキも大きいという問題を抱えている。また、ブロー成形では樹脂製の中空中子を膨らませて成形型に沿わせるため、破れの問題上中子に最低2mm程度の厚みは必要となっており、風船のような追従性はなく、比較的複雑な形状の成形型に対しては沿わせることが困難である。
【0003】
また、特許文献2には、合成ワックス製中空中子を使って成形後、合成ワックスを溶かして取り出すようにした繊維強化プラスチック製中空成形品の成形方法が開示されている。しかし、合成ワックスは線膨張や固体と液体間の体積膨張が大きく、膨張量のバラツキも大きいという問題があり、しかも剛性が低いため中子が変形しやすいという問題を抱えている。
【0004】
また、特許文献3には、石膏を硬化させて中空中子を製作し、その中子の周囲に炭素繊維強化樹脂製シートを貼り付けて溶融硬化させた後、内部の石膏を溶解させて取り出すようにした炭素繊維強化プラスチック製中空成形品の製造方法が開示されている。しかし、石膏は緻密なため溶液が浸透せず、溶解、取り出しが困難であるという問題がある。
【0005】
また、特許文献4には、低融点合金中空中子の周囲に繊維強化樹脂を成形した後、低融点合金製の中子を溶出させるようにしたガス燃料タンクの成形方法が開示されている。しかし、溶融固化を繰り返すと低融点合金が分離などを起こし、リサイクル性に問題が残されている。
【0006】
また、特許文献5には、鋳物用の被覆砂粒子を用いた砂型部材とその製造方法が開示されている。しかし、鋳物のように型部材と接触するとすぐに硬化するものの場合は型部材内への溶湯の浸透を抑制できるが、樹脂成形では型自体の加熱を要し、樹脂の低粘度時間が長いため、樹脂が型部材内に完全に浸透してしまい、成形後のロストコアが不可能になる。したがって、このままの手法では、中空繊維強化プラスチックの成形には適用できない。
【0007】
また、特許文献6には、溶媒可溶性の熱可塑性樹脂と鋳物砂とを混合してなる中子を用いる繊維強化プラスチック製中空成形品の製造方法が開示されている。しかし、この方法では、中子の表面に皮膜を形成するが、樹脂は少なからず中子内に浸透して硬化する。そのため、砂と樹脂が一体化した部分は取り出しが困難になるという問題がある。
【0008】
また、特許文献7には、砂を充填した中空袋の内部から真空吸引することで砂同士を摩擦係合させて中子を形成し、その中子と該中子を覆う外型との間に未硬化樹脂を注入するようにした繊維強化プラスチック製中空容器の成形方法が開示されている。しかし、この方法には、真空吸引時に変化する体積が読めないため、中子の大きさが大きくばらつく可能性が高いという問題が残されている。
【0009】
また、特許文献8には、水溶性ブロック材からなるコアを硬化性ポリマーで覆った後該ポリマーを硬化させ、しかる後に水を用いてコア材を除去するようにしたプレフォーム(中子)の製造方法が開示されている。しかし、この方法では、硬化前のポリマーでコアを覆う段階で、ポリマーが少なからず中子内に浸透してしまい、ポリマー硬化後にコア材を適切に除去できないという問題が残されている。
【0010】
さらに、特許文献9には、非粘着性のナイロンフィルムで覆った発泡樹脂製コア中子を利用する方法が開示されている。しかし、この方法では、成形後のロストコアは不可能であり、この方法は、発泡樹脂製コアを成形品に内蔵する場合にのみ適用可能である。
【0011】
このように、従来の方法では、高精度でばらつきの少ない中空繊維強化プラスチック製造用の中子を作製する手法が見出されておらず、中空繊維強化プラスチック成形後に中子内部材を簡単に取り出し除去できる手法も見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−159457号公報
【特許文献2】特開2007−307853号公報
【特許文献3】特開2002−36381号公報
【特許文献4】特開平9−323365号公報
【特許文献5】特許第2787022号公報
【特許文献6】特開平4−200838号公報
【特許文献7】特開昭59−49931号公報
【特許文献8】特表2004−520972号公報
【特許文献9】特許第4529371号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで本発明の課題は、上記のような現状に鑑み、種々の形状の中子を高精度でかつ高剛性にてしかも軽量に作製でき、中子内への樹脂浸透の問題を発生させずに、成形後に中子内部材も容易に取り出すことができ、取り出した内部材も容易に再使用可能であり、所望の中空繊維強化プラスチックを確実に効率よく製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法は、固体粒子を水溶性粘着剤により結合することによりブロック体を形成し、該ブロック体を樹脂不浸透性の膜で覆うことにより中子を作製し、該中子を用いて該中子の周囲に繊維強化プラスチックを成形し、成形後に、前記水溶性粘着剤による結合を解除して前記中子内の固体粒子を成形された繊維強化プラスチックの外部へ排出することを特徴とする方法からなる。
【0015】
このような本発明に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法においては、固体粒子を水溶性粘着剤により結合することによりブロック体が形成されるが、比較的微小な粒子の結合により所望の形状のブロック体が形成されるので、ブロック体は高精度で所望の形状に形成可能である。また、個々の粒子の強度や剛性が比較的高い固体粒子同士が結合されてブロック体が形成されるので、形成されたブロック体全体としても比較的高い強度、剛性を有することが可能である。水溶性粘着剤は固体粒子間の空隙を完全に充填するように付与されるものではなく、ブロック体内部に比較的多量の空隙を残した状態で、固体粒子同士が水溶性粘着剤により結合されてブロック体に形成される。このように形成されたブロック体が樹脂不浸透性の膜で覆われることにより中子が作製される。この膜は、樹脂不浸透性であれば薄いものでよく、中子全体としても、とくに中子の外形としても、上記ブロック体の形状に沿って、容易に所望の形状に高精度で形成可能であり、かつ、中子全体に、ブロック体の強度、剛性に基づいた比較的高い強度、剛性を付与することが可能になる。この中子を用いて、中子の周囲に繊維強化プラスチックが成形される。成形の方法はとくに限定されないが、いずれの成形方法にあっても、加熱により溶融されたマトリックス樹脂が中子の周囲に存在することになるが、中子は樹脂不浸透性の膜で覆われた構造を有するので、その膜そのものや中子内部に樹脂が浸透していくことはない。したがって、中子内への樹脂浸透の問題を発生させずに、目標とした成形が行われる。そして、樹脂が硬化されて成形が完了した後には、上記水溶性粘着剤による結合が解除されて、中子内の固体粒子が、成形された繊維強化プラスチックの外部へ排出される。水溶性粘着剤による結合であるから、有機溶剤等を用いることなく、水等で簡単に結合が解除される。中子内から固体粒子が排出されると、成形された繊維強化プラスチックの中子が存在していた部位が、基本的に中空形態に形成され、所望の中空繊維強化プラスチックが製造される。なお、上記樹脂不浸透性の膜は、基本的には中空部内に残されることになるが、上述の如く薄い膜を使用すればよいので、成形された中空繊維強化プラスチックの特性や重量に大きな影響を及ぼすことはない。
【0016】
上記本発明に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法においては、上記樹脂不浸透性の膜としては、とくにプラスチックフィルムを用いることが好ましい。適切なプラスチックフィルムを用いることにより、確実に樹脂不浸透性能を満たすことができ、しかもそれを薄いフィルムで達成できる。また、プラスチックフィルムでは欠陥の有無の検査が容易であることからも、確実に樹脂不浸透性能を満たすことができる。さらに、薄いプラスチックフィルムを用いることにより、ブロック体の外形に沿わせて容易にかつ精度よく配置
することができる。
【0017】
とくにプラスチックフィルムとして熱収縮フィルムを用いると、単に加熱するだけで、容易にかつ精度よくフィルムをブロック体の外形に沿わせることができる。この場合、上記熱収縮フィルムにブロック体を内包した状態で、上記熱収縮フィルムを熱収縮させることでブロック体に容易にかつ精度よく沿わせることができる。
【0018】
また、上記ブロック体が凹部(溝状の凹部以外に、凹状のコーナー部を含む概念である。)を有している場合には、上記ブロック体を上記熱収縮フィルムに内包させた状態で該熱収縮フィルムの外側から凹部に対し置き子を配し、上記熱収縮フィルムを熱収縮させ、熱収縮温度以下になった時点で置き子を除去するようにすると、ブロック体の凹部に対しても、フィルムを容易にかつ精度よく沿わせることができるようになる。
【0019】
本発明における上記繊維強化プラスチックの成形における成形方法は、とくに限定されないが、RTM成形(Resin Transfer Molding)で行う場合に、本発明はとくに有効である。すなわち、RTM成形において容易に精度よく中空部を成形することはこれまで比較的難しいとされてきたが、本発明の適用により、容易に所望の中空部を成形できるようになる。
【0020】
また、本発明においては、固体粒子の結合に水溶性粘着剤を使用するので、有機溶媒等を用いることなく水系溶媒(例えば、水や温水や親水性溶媒)にて簡単にその結合を解除することが可能になる。すなわち、水系溶媒を上記中子内に注入することにより上記水溶性粘着剤による上記固体粒子の結合を解除し、結合が解除された固体粒子を成形された繊維強化プラスチックの外部へ水系溶媒とともに排出するようにすればよい。水系溶媒の注入については、例えば、成形された繊維強化プラスチックに中子内に通じる小さな穴を開けてそこから注入すればよく、固体粒子を水系溶媒とともに排出するには、同様に固体粒子が通過可能な小さな穴を開け、上記注入圧を利用して排出させるようにすればよい。
【0021】
また、本発明においては、上記固体粒子として、成形された繊維強化プラスチックから排出後に再使用可能な粒子を用いることが好ましい。したがって、成形のための加熱により変形や変質する材質の粒子は好ましくなく、固体粒子として、例えば、粒径が制御された砂を用いることが好ましい。固体粒子が再使用可能であることにより、実質的に同じ操作で繰り返し同様の成形を行うことが可能になり、生産性の向上をはかることができる。排出された固体粒子に水溶性粘着剤が残存していれば、単に乾燥させるだけで再使用することが可能になり、水溶性粘着剤が減量している場合には、少し補充するだけで再使用することが可能になる。また、粒径が制御された砂を用いることにより、複雑な形状であっても精度よくブロック体を形成することが可能になり、ひいては高精度で中子、さらには中空部を形成することが可能になる。
【0022】
なお、本発明における中空繊維強化プラスチックの使用強化繊維としてはとくに限定されず、炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維、さらにはこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維を使用できる。また、マトリックス樹脂もとくに限定されず、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、これらを組み合わせた樹脂のいずれも使用可能である。
【発明の効果】
【0023】
このように、本発明に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法によれば、固体粒子の水溶性粘着剤による結合によりブロック体を形成することにより、要求に応じた種々の形状の中子を高精度でかつ高剛性にてしかも軽量に作製することができる。また、ブロック体を樹脂不浸透性の膜で覆うことにより、中子に関して、中子形成用の表面コート材、成形用の樹脂の両方に対して不浸透性能を達成でき、中子内への樹脂浸透の問題の発生を防止できるとともに、成形後に中子内から固体粒子を容易に取り出すことが可能になる。樹脂不浸透性の膜としてプラスチックフィルム、とくに薄いフィルム、さらに好ましくは熱収縮フィルムを使用すれば、比較的複雑な形状であっても、中子を一層高精度でかつ高剛性にてしかも軽量に作製することができる。また、中子内の空隙量を大きく設定できるため、軽い中子に形成でき、取扱い性に極めて優れている。また、ブロック体を形成する固体粒子の結合に水溶性粘着剤を用いているので、有機溶剤を用いることなく水系溶媒で簡単に固体粒子の結合を解除して外部に排出できるようになり、操作の容易化をはかることができるとともに、作業環境面でも優れている。さらに、排出の容易化、中子内への樹脂不浸透化とも相まって、取り出した固体粒子を容易に再使用することが可能になる。これの結果、所望の中空繊維強化プラスチックを確実にかつ効率よく、高い生産性をもって製造できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施態様に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法における中子の作製プロセスの一例を示す工程フロー図である。
【図2】図1のプロセスで作成された中子を用いて中空繊維強化プラスチックを製造するプロセスの一例を示す工程フロー図である。
【図3】本発明との比較のため、粒状体からなるブロック体に低粘度の薄膜をコートする場合の欠点発生例を示す中子部分の概略横断面図である。
【図4】本発明との比較のため、粒状体からなるブロック体に高粘度の膜をコートする場合の欠点発生例を示す中子部分の概略横断面図である。
【図5】本発明との比較のため、ブロー中子内圧成形の場合の欠点発生例を示す中子部分の概略横断面図である。
【図6】本発明との比較のため、伸張材内圧成形の場合の欠点発生例を示す伸張材部分の概略横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法における中子の作製プロセスの一例を示している。図1において、1は微小な固体粒子(例えば、粒径が所定の平均粒径に制御された砂)を示しており、多数の固体粒子1が、例えば熱収縮性のプラスチックフィルム(熱収縮フィルム)からなる下側の樹脂不浸透性膜2上で、水溶性粘着剤によって結合されることにより、所定形状のブロック体3に形成される。
【0026】
形成されたブロック体3が、例えば熱収縮性のプラスチックフィルム(熱収縮フィルム)からなる上側の樹脂不浸透性膜4で覆われ、シールライン5に沿って、圧子6にて、上側膜4が下側膜2と接合される(接合一体化部7)。この接合には、接着剤が使用されてもよく、熱融着により接合一体化されてもよい。この接合により、ブロック体3は、その全体が周囲から樹脂不浸透性膜2、4(熱収縮フィルム)によって覆われる。樹脂不浸透性膜(熱収縮フィルム)による被覆後、ブロック体3を樹脂不浸透性膜2、4(熱収縮フィルム)に内包させた状態にて、ブロック体3の凹部8としての凹状コーナー部に相当する位置に、上側膜4の外側から置き子9が配置される。
【0027】
上記の状態から、接合一体化部7の外側のフィルム部分が除去され(トリム部10)、しかる後に、ヒーター11により樹脂不浸透性膜2、4(熱収縮フィルム)が加熱され、熱収縮フィルム2、4がそれらの接合一体化部7を含めてブロック体3の外形に密着して沿うように熱収縮され、ブロック体3が内包された中子12が作製される。置き子9は、熱収縮フィルム2、4の熱収縮の際あるいは熱収縮後に(熱収縮温度以下になった時点で)除去されればよい。
【0028】
このように形成された中子12は、図2に示すように、固体粒子1からなるブロック体3が、その周囲から、上記樹脂不浸透性膜2、4からなる樹脂不浸透性膜13がによって覆われた形態を有し、この中子12が中空繊維強化プラスチックの製造に供される。例えば、図2に示すように、先ず、中子12の上面側に、強化繊維基材からなる中子プリフォーム(以下、プリフォームをPFと略称することもある。)14が配置され、この状態で、金型からなる下型15上に配置されたスキンプリフォーム(スキンPF)16上の所定位置に配された後、上型17が型締めされる。下型15と上型17には温調ライン18が通されており、それぞれ所定の温度に加熱される。また、上型17には、樹脂流路19が設けられており、該樹脂流路19を介して、下型15と上型17の間に形成されたキャビティ内に樹脂が注入され、注入された樹脂が上記中子PF14、スキンPF16に含浸されていく。加熱により含浸された樹脂が重合や架橋され、脱型されると、中子内包部20を有する繊維強化プラスチックの成形品21が作製される。
【0029】
次いで、固体粒子の排出、中空成形品の作製が、例えば以下のように行われる。図示例では、成形品21の中子内包部20に対し、ドリル22で中子内包部20の一方の端部に小さな注入穴23が開けられ、他方の端部に排出穴24が開けられる。この成形品21が水槽25内で支持体26上に支持され、チューブ27を通して水系溶媒としての水(または温水)が所定の水流28の勢いにて、注入穴23から中子内包部20内のブロック体3に向けて注入される。この水系溶媒としての水の注入により、固体粒子1同士を結合していた水溶性粘着剤による結合が解除され、ブロック体3の形態が崩されて、中子12内の固体粒子1が水とともに排出穴24から成形品21の外部に排出される。このとき、水槽25内に排出される固体粒子1の大半は、水溶性粘着剤が付着したままの状態で排出される。したがって、排出された固体粒子29は、乾燥させるだけで再使用が可能である。
【0030】
固体粒子1が排出された成形品は、上記中子内包部20内に、樹脂不浸透性膜13によって画成された空洞30が形成された中空成形品31となる。なお、小さな穴である注入穴23と排出穴24は残存するが、問題なければそのまま残しておいてもよいし、閉塞した方が好ましい場合には、補修用樹脂等にて閉塞すればよい。
【0031】
上記のような方法によれば、適度な空隙を残した状態での固体粒子1の水溶性粘着剤による結合によりブロック体3を形成することにより、種々の形状の中子12を高精度かつ高剛性にしかも軽量に作製でき、ブロック体3を樹脂不浸透性の膜13で覆うことにより、樹脂浸透に伴う問題の発生を防止できるとともに、成形後に中子内から固体粒子1を容易に取り出すことが可能になる。また、樹脂不浸透性の膜13として薄いプラスチックフィルム、とくに熱収縮フィルムを使用しているので、比較的複雑な形状であっても、中子を高精度で容易に作製することができる。また、固体粒子1の結合に水溶性粘着剤を用いているので、有機溶剤を用いる必要がなく、水系溶媒の中子内への注入により容易に固体粒子1の結合を解除して外部に排出できるようになる。さらに、取り出した固体粒子1はほぼ完全に再使用することが可能になる。
【0032】
なお、上記のような優れた効果を奏する本発明との比較のために、種々の比較例を如何に例示する。
図3は、粒状体101からなるブロック体102に低粘度の薄膜103をコーティングして中子104を作製する場合の欠点発生例を示している。低粘度の薄膜103には、穴あき等の膜欠陥105が生じやすく、また、低粘度の薄膜103は、ブロック体102内に浸透しやすい(浸透部106)。また、成形品107の成形においては、膜欠陥105等から中子104内に成形用の樹脂が浸透しやすく(樹脂浸透部108)、また、ブロック体102内に浸透した低粘度の薄膜103のために、中子104内から粒状体101の全てを排出することが困難になり、中子内に残存粒状体109が発生する。その結果、成形品107の重量が増加してしまう。
【0033】
図4は、粒状体111からなるブロック体112に高粘度の膜113をコーティングして中子114を作製する場合の欠点発生例を示している。高粘度の膜113の膜厚115は厚くなりやすい。そのため、成形品116の成形用の樹脂は中子114内には浸透しにくくなり、残存粒状体117は少なくなる。しかし、残存する高粘度の膜113の膜厚が大きいので、中空成形品116の重量は増加してしまう。
【0034】
図5は、ブロー中子121に内圧122をかけて成形品123を成形するブロー中子内圧成形の場合の欠点発生例を示している。ブロー中子内圧成形の場合には、ブロー中子121の厚みは比較的厚く、とくに、コーナー部等の薄肉部124に比べ、伸張する平坦部は敗れ防止のため厚肉部125に形成されている。このような比較的厚肉のブロー中子121が成形後に内在されることになるので、中空成形品123の重量が増加してしまう。
【0035】
図6は、伸張材131に内圧132をかけて成形品133を成形する伸張材内圧成形の場合の欠点発生例を示している。伸張材内圧成形の場合には、伸張材131は比較的薄肉とすることが可能ではあるが、コーナー部における加圧が難しく、その部位において成形品133の樹脂リッチ部134が発生しやすい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る中空繊維強化プラスチックの製造方法は、中子を用いて中空部を成形するあらゆる成形に適用可能であり、とくにRTM成形で中空成形品を成形する場合に好適なものである。
【符号の説明】
【0037】
1 固体粒子
2、4、13 樹脂不浸透性膜
3 ブロック体
5 シールライン
6 圧子
7 接合一体化部
8 凹部
9 置き子
10 トリム部
11 ヒーター
12 中子
14 中子プリフォーム
15 下型
16 スキンプリフォーム
17 上型
18 温調ライン
19 樹脂流路
20 中子内包部
21 繊維強化プラスチック成形品
22 ドリル
23 注入穴
24 排出穴
25 水槽
26 支持体
27 チューブ
28 水流
29 排出された固体粒子
30 空洞
31 中空成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体粒子を水溶性粘着剤により結合することによりブロック体を形成し、該ブロック体を樹脂不浸透性の膜で覆うことにより中子を作製し、該中子を用いて該中子の周囲に繊維強化プラスチックを成形し、成形後に、前記水溶性粘着剤による結合を解除して前記中子内の固体粒子を成形された繊維強化プラスチックの外部へ排出することを特徴とする、中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項2】
前記膜としてプラスチックフィルムを用いる、請求項1に記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項3】
前記プラスチックフィルムとして熱収縮フィルムを用いる、請求項2に記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項4】
前記熱収縮フィルムに前記ブロック体を内包した状態で、前記熱収縮フィルムを熱収縮させることで前記ブロック体に沿わせる、請求項3に記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項5】
前記ブロック体が凹部を有しており、前記ブロック体を前記熱収縮フィルムに内包させた状態で該熱収縮フィルムの外側から前記凹部に対し置き子を配し、前記熱収縮フィルムを熱収縮させ、熱収縮温度以下になった時点で前記置き子を除去する、請求項4に記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項6】
前記繊維強化プラスチックの成形をRTM成形で行う、請求項1〜5のいずれかに記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項7】
水系溶媒を前記中子内に注入することにより前記水溶性粘着剤による前記固体粒子の結合を解除し、結合が解除された固体粒子を成形された繊維強化プラスチックの外部へ前記水系溶媒とともに排出する、請求項1〜6のいずれかに記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項8】
前記固体粒子として、成形された繊維強化プラスチックから排出後に再使用可能な粒子を用いる、請求項1〜7のいずれかに記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。
【請求項9】
前記固体粒子として、粒径が制御された砂を用いる、請求項1〜8のいずれかに記載の中空繊維強化プラスチックの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−196861(P2012−196861A)
【公開日】平成24年10月18日(2012.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−62164(P2011−62164)
【出願日】平成23年3月22日(2011.3.22)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】