説明

乗員拘束装置

【課題】 エアバッグの展開時にガスを前後に分配するインナーチューブが位置ずれするのを防止する。
【解決手段】 インフレータ23からガス供給部24を介してインナーチューブ25の上部開口25aに前向きに供給されたガスの一部が、インナーチューブ25の内部で後向きに方向変換する反作用でインナーチューブ25が前方に付勢されても、インナーチューブ25の前部開口25bの下部および後部開口25cの下部を結ぶ第2縫製ラインS2が前後方向に対して後下がりに傾斜しており、エアバッグ21の前後のガス分配通路21a,21bの下端を構成する第3縫製ラインS3が、上向きに括れてインナーチューブ25の第2縫製ラインS2に係合可能な括れ部aを有するので、第2縫製ラインS2が第3縫製ラインS3の括れ部aに係合してインナーチューブ25の前方への移動を規制することで、エアバッグ21の前後のガス分配通路21a,21bにガスを適切に分配することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体のドア開口部の上縁に沿って折り畳み状態のエアバッグを配置し、車両の衝突時にインフレータが発生するガスをインナーチューブを介して前記エアバッグの上部に設けられたガス分配通路の前後方向中間部に供給することで、前記エアバッグを膨張させて車室の側部内面に沿ってカーテン状に展開させる乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
かかる乗員拘束装置において、基布を縫製して構成したインナーチューブが、インフレータに接続される上部開口と、エアバッグの前部に連通する前部開口と、エアバッグの後部に連通する後部開口とを備え、上部開口から流入したガスをインナーチューブの内部で二股に分岐させて前部開口および後部開口からエアバッグの内部に供給するものが、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4466489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、細長い筒状のインフレータを車両のルーフの側部に沿ってコンパクトに収納するには.その軸線を前後方向に向けて配置する必要があるため、インフレータの端部から延びるガス供給部の方向は必然的に前方あるいは後方を向くことになる。例えば、ガス供給部が前方に向けてガスを供給する場合、そのガスの一部はインナーチューブの前部開口からそのまま前方に供給されるが、前記ガスの残部はインナーチューブの内部でUターンして後部開口から後方に供給されるため、方向変換したガスの反動でインナーチューブが前向きに付勢されることになる。その結果、柔軟な布製のインナーチューブがエアバッグの内部で変形したり移動したりし、インフレータからのガスを前後方向に適切に分配できなくなる可能性がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、エアバッグの展開時にガスを前後に分配するインナーチューブが位置ずれするのを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、車体のドア開口部の上縁に沿って折り畳み状態のエアバッグを配置し、車両の衝突時にインフレータが発生するガスをインナーチューブを介して前記エアバッグの上部に設けられたガス分配通路の前後方向中間部に供給することで、前記エアバッグを膨張させて車室の側部内面に沿ってカーテン状に展開させる乗員拘束装置であって、基布を縫製して構成される前記インナーチューブは上部開口から前後方向に分岐する前部開口および後部開口を備え、前記上部開口は前記ガス供給部に接続され、前記前部開口は前記ガス分配通路内に前向きに嵌合し、前記後部開口は前記ガス分配通路に後向きに嵌合し、前記前部開口の下部および前記後部開口の下部を結ぶインナーチューブ側縫製ラインは前後方向に対して上下方向に傾斜しており、前記ガス分配通路の下端を構成する前記エアバッグのエアバッグ側縫製ラインは、上向きに括れて前記インナーチューブ側縫製ラインに係合可能な括れ部を有することを特徴とする乗員拘束装置が提案される。
【0007】
また請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記エアバッグ側縫製ラインの括れ部は前記インナーチューブ側縫製ラインに沿う形状であることを特徴とする乗員拘束装置が提案される。
【0008】
また請求項3に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記エアバッグ側縫製ラインの括れ部は、前記前部開口および前記後部開口の間で上向きに凸に湾曲することを特徴とする乗員拘束装置が提案される。
【0009】
また請求項4に記載された発明によれば、請求項3の構成に加えて、前記前部開口および前記後部開口の一方は他方よりも上下方向の寸法が大きく、前記上向きに凸に湾曲する括れ部の上端は、前記一方の開口の下端よりも上方に位置することを特徴とする乗員拘束装置が提案される。
【0010】
尚、実施の形態の前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bは本発明のガス分配通路に対応し、実施の形態の第2縫製ラインS2は本発明のインナーチューブ側縫製ラインに対応し、実施の形態の第3縫製ラインS3は本発明のエアバッグ側縫製ラインに対応する。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、車両が衝突するとインフレータが発生したガスがガス供給部からインナーチューブの上部開口に供給され、インナーチューブの内部で二間に分岐して一部が前部開口からエアバッグの前側のガス分配通路に供給され、残部が後部開口からエアバッグの後側のガス分配通路に供給されることで、エアバッグが膨張して車室の側部内面に沿ってカーテン状に展開する。インナーチューブの内部で方向変換するガスの反作用でインナーチューブが前後一方に付勢されても、前部開口の下部および後部開口の下部を結ぶインナーチューブ側縫製ラインが前後方向に対して上下方向に傾斜しており、エアバッグのガス分配通路の下端を構成するエアバッグのエアバッグ側縫製ラインが、上向きに括れてインナーチューブ側縫製ラインに係合可能な括れ部を有するので、インナーチューブ側縫製ラインがエアバッグ側縫製ラインに係合してインナーチューブの移動を規制することで、インナーチューブの形状を適正に維持して前後のガス分配通路にガスを適切に分配することができる。
【0012】
また請求項2の構成によれば、エアバッグ側縫製ラインの括れ部はインナーチューブ側縫製ラインに沿う形状なので、エアバッグの膨張時にインナーチューブ側縫製ラインを括れ部に確実に当接させることができる。
【0013】
また請求項3の構成によれば、エアバッグ側縫製ラインの括れ部はインナーチューブの前部開口および後部開口の間で上向きに凸に湾曲するので、エアバッグの膨張時にインナーチューブ側縫製ラインを括れ部に確実に当接させることができる。
【0014】
また請求項4の構成によれば、インナーチューブの前部開口および後部開口の一方は他方よりも上下方向の寸法が大きく、上向きに凸に湾曲する括れ部の上端は前記一方の開口の下端よりも上方に位置するので、エアバッグの膨張時にインナーチューブ側縫製ラインを括れ部に一層確実に当接させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】エアバッグの非展開時および展開時の自動車の車室内面を示す図。
【図2】展開状態のエアバッグの側面図。
【図3】図2の3部拡大図。
【図4】図3に対応するインナーチューブの非膨張時の形状を示す図。
【図5】インナーチューブの斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
図1および図2に示すように、前列シート11、中央列シート12および後列シート13を備えた車両は、Aピラー14、Bピラー15、Cピラー16およびDピラー17を備えており、Aピラー14およびBピラー15間にフロントドア18が配置され、Bピラー15およびCピラー16間にリヤドア19が配置され、Dピラー17の後方にテールゲート20が配置される。乗員拘束装置Cの折り畳まれたエアバッグ21は、Aピラー14およびDピラー17に挟まれたルーフ22の側部に沿って車体前後方向に収納される。尚、乗員拘束装置Cは、実質的に同一構造のものが車体の左右両側にそれぞれ設けられているが、以下その代表として車体の右側に設けられたものについて説明する。
【0018】
エアバッグ21は2枚重ねの基布を縫製して構成されるもので、その上縁に沿って前後方向に延びる筒状の前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bを備えるとともに、前部ガス分配通路21aから下向きに分岐して前列シート11の乗員の頭部を保護する複数個のセル21c…と、後部ガス分配通路21bから下向きに分岐して中央列シート12の乗員の頭部を保護する複数個のセル21d…と、後部ガス分配通路21bから下向きに分岐して後列シート13の乗員の頭部を保護する複数個のセル21e…とを備える。
【0019】
前列シート11の乗員用のセル21c…の前方にはガスが供給されない非膨張部21fが形成され、前列シート11の乗員用のセル21c…および中央列シート12の乗員用のセル21d…の間にはガスが供給されない非膨張部21gが形成され、中央列シート12の乗員用のセル21d…および後列シート13の乗員用のセル21e…の間にはガスが供給されない非膨張部21hが形成される。そしてエアバッグ21の上縁に沿って形成された複数個の取付部21i…が、ルーフ22、Aピラー14およびDピラー17に固定される。
【0020】
Bピラー15およびCピラー16の中間部に臨むルーフ22の側部に固定されたインフレータ23は、その前端から前下方に延びるガス供給部24を備えており、ガス供給部24が布製のインナーチューブ25を介してエアバッグ21の前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bの境界部に接続される。
【0021】
図5に示すように、エアバッグ21の内部に収納されるインナーチューブ25は、折れ線Lに対して線対称に裁断された基布を該折れ線Lにおいて折り曲げて2枚重ねにした状態で、第1縫製ラインS1および第2縫製ラインS2において縫製したもので、折れ線Lおよび第1縫製ラインS1間に形成された上部開口25aと、折れ線Lおよび第2縫製ラインS2間に形成された前部開口25bと、第1縫製ラインS1および第2縫製ラインS2間に形成された後部開口25cとを有して略V字状に形成される。
【0022】
図4は、折り畳まれたエアバッグ21のロールを解いた状態(膨張していない状態)を示している。インナーチューブ25の上部開口25aは、エアバッグ21の前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bの間の接続部21jと共に、インフレータ23のガス供給部24の外周に嵌合してバンド26で締結される。この状態で、インナーチューブ25の前部開口25bはエアバッグ21の前部ガス分配通路21a内に前向きに嵌合し、インナーチューブ25の後部開口25cはエアバッグ21の後部ガス分配通路21b内に後向きに嵌合する。インナーチューブ25の前部開口25bの寸法d1は、後部開口25cの寸法d2よりも小さく、従って第2縫製ラインS2は前上方から後下方に傾斜している。
【0023】
一方、インナーチューブ25の近傍のエアバッグ21は、インナーチューブ25の第2縫製ラインS2の下方に臨む部分に第3縫製ラインS3を備えており、第3縫製ラインS3によって前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bの下端が構成される。第3縫製ラインS3はインナーチューブ25の第2縫製ラインS2の形状に沿うように上向きに凸に湾曲する括れ部aを有しており、この括れ部aによって前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bの境目が上下方向に括れている。そして前部開口25bの直径d1よりも大きい直径d2を有する後部開口25cの下端に対し、括れ部aの上端は距離d3だけ上方に突出している。
【0024】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0025】
加速度センサによって車両の側面衝突やロールオーバーが検知されると電子制御ユニットからの指令でインフレータ23が作動し、インフレータ23が発生するガスがガス供給部24およびインナーチューブ25を介してエアバッグ21の前部および後部ガス分配通路21a,21bに分配され、そこから各セル21c…,21d…,21e…に流入する。その結果、折り畳み状態でルーフ22の側部に沿って収納されていたエアバッグ21が膨張し、その圧力でルーフガーニッシュを押し下げて形成した開口を通して、エアバッグ21が車室内に下向きに展開する。展開したエアバッグ21の前側のセル21c…は前列シート11の乗員の頭部を保護し、中央のセル21d…は中央列シート12の乗員の頭部を保護し、後側のセル21e…は後列シート13の乗員の頭部を保護する。
【0026】
ところで、インフレータ23のガス供給部24は概ね前方に向けてガスを噴出するため、仮に前部開口25bの寸法および後部開口25cの寸法が同一であるとすると、前部ガス分配通路21aに供給されるガス量が後部ガス分配通路21bに供給されるガス量よりも大幅に多くなり、後部ガス分配通路21bから下向きに分岐するセル21d…,セル21e…を充分に膨張させることができなくなる。
【0027】
そこで本実施の形態では、インナーチューブ25の前部開口25bの寸法d1を後部開口25cの寸法d2よりも小さくして前部開口25bをガスが通過し難くすることで、インフレータ23からインナーチューブ25に供給されたガスの一部をUターンさせて後部開口25cに導き、エアバッグ21の前部ガス分配通路21aおよび後部ガス分配通路21bに適切な比率でガスを分配するようになっている。
【0028】
ところが、インナーチューブ25の内部に前向きに供給されたガスが後向きに方向を変えると、その反動でインナーチューブ25が前向きに付勢されるため、柔軟な布製のインナーチューブ25が変形して後部開口25cが潰れてしまい、後部ガス分配通路21bにガスが分配できなくなる虞がある。
【0029】
しかしながら本実施の形態によれば、図3に示すように、後向きに方向を変えたガスの反動でインナーチューブ25が矢印Aのように前向きに付勢されても、インナーチューブ25の第2縫製ラインS2がエアバッグ21の第3縫製ラインS3の括れ部aに係合することで、インナーチューブ25の矢印A方向の移動が規制され、インナーチューブ25の後部開口25cが、エアバッグ21の第3縫製ラインS3によって塞がれたり、エアバッグ21の前部ガス分配通路21a側に向きを反転したりする不具合を未然に防止することができる。
【0030】
このとき、エアバッグ21の第3縫製ラインS3の括れ部aは、インナーチューブ25の第2縫製ラインS2に沿う形状であってインナーチューブ25の前部開口25bおよび後部開口25cの間で上向きに凸に湾曲しており、しかも括れ部aの上端はインナーチューブ25の後部開口25cの下端よりも距離d3だけ上方に位置するので、インナーチューブ25が矢印Aのように前向きに付勢されたときに、インナーチューブ25の第2縫製ラインS2をエアバッグ21の括れ部aに確実に係合させることができる。
【0031】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0032】
例えば、実施の形態ではインフレータ23がガスを前方に向けて供給するように配置されるが、ガスを後方に向けて供給するように前後逆向きに配置しても良い。
【0033】
またインナーチューブ25の第2縫製ラインS2およびエアバッグ21の第3縫製ラインS3の形状は実施の形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
21 エアバッグ
21a 前部ガス分配通路(ガス分配通路)
21b 後部ガス分配通路(ガス分配通路)
23 インフレータ
25 インナーチューブ
25a 上部開口
25b 前部開口
25c 後部開口
S2 第2縫製ライン(インナーチューブ側縫製ライン)
S3 第3縫製ライン(エアバッグ側縫製ライン)
a 括れ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体のドア開口部の上縁に沿って折り畳み状態のエアバッグ(21)を配置し、車両の衝突時にインフレータ(23)が発生するガスをインナーチューブ(25)を介して前記エアバッグ(21)の上部に設けられたガス分配通路(21a,21b)の前後方向中間部に供給することで、前記エアバッグ(21)を膨張させて車室の側部内面に沿ってカーテン状に展開させる乗員拘束装置であって、
基布を縫製して構成される前記インナーチューブ(25)は上部開口(25a)から前後方向に分岐する前部開口(25b)および後部開口(25c)を備え、前記上部開口(25a)は前記ガス供給部(24)に接続され、前記前部開口(25b)は前記ガス分配通路(21a)内に前向きに嵌合し、前記後部開口(25c)は前記ガス分配通路(21b)に後向きに嵌合し、
前記前部開口(25b)の下部および前記後部開口(25c)の下部を結ぶインナーチューブ側縫製ライン(S2)は前後方向に対して上下方向に傾斜しており、前記ガス分配通路(21a,21b)の下端を構成する前記エアバッグ(21)のエアバッグ側縫製ライン(S3)は、上向きに括れて前記インナーチューブ側縫製ライン(S2)に係合可能な括れ部(a)を有することを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項2】
前記エアバッグ側縫製ライン(S3)の括れ部(a)は前記インナーチューブ側縫製ライン(S2)に沿う形状であることを特徴とする、請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項3】
前記エアバッグ側縫製ライン(S3)の括れ部(a)は、前記前部開口(25b)および前記後部開口(25c)の間で上向きに凸に湾曲することを特徴とする、請求項1に記載の乗員拘束装置。
【請求項4】
前記前部開口(25b)および前記後部開口(25c)の一方は他方よりも上下方向の寸法が大きく、前記上向きに凸に湾曲する括れ部(a)の上端は、前記一方の開口の下端よりも上方に位置することを特徴とする、請求項3に記載の乗員拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−95303(P2013−95303A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−240968(P2011−240968)
【出願日】平成23年11月2日(2011.11.2)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】