説明

乗客コンベアの非常制動装置

【課題】駆動系部品の変更等によって振れ止め部材が載置される駆動チェーンの高さが変更された場合に、簡単な作業でストッパ部材をラチェットホイールの近接位置に配置できる乗客コンベアの非常制動装置を提供する。
【解決手段】トラス構造体に回転自在に支持された連結軸11と、連結軸11にアーム部12を介して固定され、駆動小スプロケット1Aと駆動大スプロケット2間に掛け渡された駆動チェーン3上に載置された振れ止め部材13と、駆動大スプロケット2の回転軸5に固定されたラチェットホイール14と、連結軸11に固定され、ラチェットホイール14の近接位置に配置されたストッパ部材15とを備え、ストッパ部材15を連結軸11にボルト22で固定することによって、連結軸11に対する振れ止め部材13とストッパ部材14の相対的な取り付け角度を調整できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動チェーンが伸びたり、切断したりした場合に、駆動歯車の回転を停止して踏段等が下方に逸走するのを防止する乗客コンベアの非常制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の乗客コンベアの非常制動装置としては、特許文献1に開示されたものがある。この非常制動装置は、トラス構造体に回転自在に支持された連結軸と、連結軸にアーム部を介して固定され、駆動小スプロケットと駆動大スプロケット間に掛け渡された駆動チェーン上に載置された振れ止め部材と、駆動大スプロケットの回転軸に固定されたラチェットホイールと、連結軸に固定され、前記ラチェットホイールの近接位置に配置されたストッパ部材とを備えている。
【0003】
上記構成において、駆動チェーンが何らかの理由により切断等されると、振れ止め部材が自重によって連結軸を支点として下方に回転する。この連結軸の回転によってストッパ部材も回転し、ストッパ部材がラチェットホイールに係止する。これによって、ラチェットホイールと同軸の駆動歯車の回転を阻止し、踏段等の下方への逸走を防止する。
【0004】
ところで、駆動小スプロケット、駆動大スプロケット、駆動チェーン等の駆動系部品は、乗客コンベアの設置後にリニューアル等のため変更される場合がある。すると、振れ止め部材が載置される駆動チェーンの高さが変わり、その結果、ストッパ部材のラチェットホイールに対する待機位置が変更される。ストッパ部材は、ラチェットホイールの所定の近接位置を待機位置として配置する必要があるため、連結軸に対するストッパ部材と振れ止め部材の相対的な回転位置を変更する必要がある。
【特許文献1】特開2006−143424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の乗客コンベアの非常制動装置では、連結軸に対して振れ止め部材とストッパ部材が共に嵌合によって固定され、回転角度を変更することができないため、非常制動装置を一式交換していた。また、連結軸に振れ止め部材とストッパ部材が溶接によって固定されている場合もあるが、この場合も同様に一式交換していた。
【0006】
そこで、本発明は、駆動系部品の変更等によって振れ止め部材が載置される駆動チェーンの高さが変更された場合に、簡単な作業でストッパ部材をラチェットホイールの近接位置に配置できる乗客コンベアの非常制動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、乗客コンベアの非常制動装置であって、トラス構造体に回転自在に支持された連結軸と、前記連結軸にアーム部を介して固定され、駆動小スプロケットと駆動大スプロケット間に掛け渡された駆動チェーン上に載置された振れ止め部材と、前記駆動大スプロケットの回転軸に固定されたラチェットホイールと、前記連結軸に固定され、前記ラチェットホイールの近接位置に配置されたストッパ部材と、前記連結軸に対する前記振れ止め部材と前記ストッパ部材の相対的な取り付け角度を調整できる取付角度調整手段とを備えたことを要旨とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、取付角度調整手段によって振れ止め部材とストッパ部材の相対的取り付け角度を自由に調整できるため、駆動系部品の変更等によって振れ止め部材が載置される駆動チェーンの高さが変更された場合に、簡単な作業でストッパ部材をラチェットホイールの近接位置に配置できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
【0010】
(第1の実施の形態)
図1〜図3は本発明の第1の実施の形態に係るエスカレータの非常制動装置を示し、図1は非常制動装置の正面図、図2は非常制動装置の側面図、図3は駆動小スプロケットを交換した後の非常制動装置の側面図である。
【0011】
乗客コンベアであるエスカレータは、上階床と下階床の間に亘って配置されたトラス構造体と、このトラス構造体内でほぼ長楕円軌道に沿って配置され、無端状に連結された多数の踏段と、この踏段の両側位置に立設された一対の欄干と、一対の欄干の周縁部にそれぞれ装着され、踏段と同期して移動する無端状の一対の移動手摺りと、一対の欄干の各下部位置で、一方の乗降口から他方の乗降口の間に亘って設けられた一対のスカート部とを備えている。
【0012】
図1及び図2に示すように、トラス構造体内には、図示しない駆動モータと、この駆動モータの回転軸に固定された駆動小スプロケット1Aと、これに間隔を置いて配置された駆動大スプロケット2と、駆動小スプロケット1Aと駆動大スプロケット2間に掛け渡された駆動チェーン3とからなるメイン駆動系が収容されている。このメイン駆動系の駆動大スプロケット2の回転出力によって多数の踏段及び一対の移動手摺りが駆動するよう構成されている。
【0013】
また、トラス構造体内には、メイン駆動系の駆動チェーン3が伸びたり、切断したりした場合に利用者の安全を図るために非常制動装置10Aが収容されている。
【0014】
非常制動装置10Aは、トラス構造体の枠体4間に回転自在に支持された連結軸11と、この連結軸11にアーム部12を介して固定され、駆動チェーン3上に載置された振れ止め部材13と、駆動大スプロケット2の回転軸5に固定されたラチェットホイール14と、連結軸12の他端側に固定され、ラチェットホイール14の近接位置に配置されたストッパ部材15とを備えている。
【0015】
連結軸11の周囲には、軸支え部材20が設けられている。
【0016】
振れ止め部材13のアーム部12は、その基端部12aが連結軸11に挿入されている。挿入された基端部12aは、連結軸11の所定の位置で溶接等によって固定されている。
【0017】
アーム部12を固定する軸支え部材20の箇所には、一対の固定ブラケット21のボルト挿入用に図示しない長孔が形成されている。この長孔によって、振れ止め部材13は、連結軸11の軸方向の取り付け位置を調整できるようになっている。
【0018】
ストッパ部材15は、その基部が連結軸11に挿入されている。ストッパ部材15の基部は、連結軸11に取付角度調整手段であるボルト22によって固定されている。ストッパ部材15は、ボルト22で締結する前の状態では、連結軸11の軸方向及び周方向に移動自在であるため、ボルト22によって連結軸11の軸方向の任意位置で、且つ、連結軸11の任意の回転位置で固定できるようになっている。
【0019】
上記構成において、エスカレータの設置後に、図2に示す歯数の少ない駆動小スプロケット1Aから図3に示す歯数の多い駆動小スプロケット1Bに交換するメイン駆動系の変更があると、振れ止め部材13が載置する駆動チェーン3の高さが変わり、連結軸11に固定された振れ止め部材13とストッパ部材15間の相対的回転角度を変更する必要がある。
【0020】
ここで、ストッパ部材15を締結しているボルト22を一旦緩め、ストッパ部材15を所望の回転角度の位置にセットした後にボルト22を締め直すことによって、振れ止め部材13とストッパ部材15間の相対的回転角度を簡単に変更できる。このような作業を行うことによって、図3に示すように、ストッパ部材15をラチェットホイール14に対して近接する所望の待機位置に位置させることができる。
【0021】
上述したように、駆動系部品の変更等によって振れ止め部材13が載置される駆動チェーン3の高さが変更された場合に、簡単な作業によってストッパ部材15をラチェットホイール14の近接位置に配置できる。
【0022】
この第1の実施の形態では、ストッパ部材15は、連結軸11の軸方向の取り付け位置を変更可能に設けられているので、駆動系部品の変更等によってストッパ部材15の位置とラチェットホイール14の位置が連結軸11の軸方向にずれた場合に、簡単な作業によって位置調整が可能である。
【0023】
(第2の実施の形態)
図4〜図6は本発明の第2の実施の形態に係るエスカレータの非常制動装置を示し、図4は非常制動装置の正面図、図5は非常制動装置の側面図、図6は駆動小スプロケットを交換した後の非常制動装置の側面図である。
【0024】
図4〜図6に示すように、ストッパ部材15は、連結軸11に単に溶接によって固定されている。
【0025】
一方、振れ止め部材13のアーム部12は、固定アーム部23と角度調整アーム部24に分割されている。この双方のアーム部23,24によって振れ止め部材13の連結軸11に対する取り付け角度を調整する取付角度調整手段が構成されている。つまり、固定アーム部23と角度調整アーム部24間は、2本のボルト25a,25bによって互いの連結角度を任意の角度で連結できるよう構成されている。そして、1本のボルト25aが挿入される孔はすべて図示しない丸孔であるが、他の1本のボルト25bが挿入される固定アーム部23側の孔が長孔26に形成され、これによって連結角度を可変できるようになっている。
【0026】
また、固定アーム部23の基端部23aは、左右一対の固定ブラケット21と共に連結軸11に挿入されている。各固定ブラケット21にはネジ孔21aが形成されている。各固定ブラケット21のネジ孔21aにボルト24がそれぞれ螺入されている。固定アーム部23は、一対の固定ブラケット21に挟持されることによって固定されている。軸支え部材20には各ボルト24を挿入するための長孔20aが形成されている。この長孔20aによって、固定アーム部23は、連結軸11の軸方向の取り付け位置を調整できるようになっている。
【0027】
他の構成は、前記第1の実施の形態と同一構成であるため、図面の同一構成箇所に同一符号を付してその説明を省略する。
【0028】
上記構成において、エスカレータの設置後に、図5に示す歯数の少ない駆動小スプロケット1Aから図6に示す歯数の多い駆動小スプロケット1Bに交換するメイン駆動系の変更があると、振れ止め部材13が載置する駆動チェーン3の高さが変わり、振れ止め部材13とストッパ部材15間の相対的回転角度を変更する必要がある。
【0029】
ここで、固定アーム部23と角度調整アーム部24間を連結している2本のボルト25a,25bを一端緩め、ストッパ部材15と振れ止め部材13の相対的角度が所望角度となる位置にセットし、再び2本のボルト25a,25bを締め直すことによって、ストッパ部材15と振れ止め部材13間の相対的回転角度を簡単に変更できる。このような作業を行うことによって、図6に示すように、ストッパ部材15をラチェットホイール14に対して近接する所望の待機位置に位置させることができる。
【0030】
上述のように駆動系部品の変更等によって振れ止め部材13が載置される駆動チェーン3の高さが変更された場合に、簡単な作業によってストッパ部材15をラチェットホイール14の近接位置に配置できる。
【0031】
この第2の実施の形態では、振れ止め部材13のアーム部11は、連結軸11の軸方向の取り付け位置を変更可能に設けられているので、駆動系部品の変更等によって振れ止め部材13の位置と駆動チェーン3の位置が連結軸11の軸方向にずれた場合に、簡単な作業によって位置調整ができる。
【0032】
この第2の実施の形態では、駆動チェーン3を交換する場合に、ボルト25a,25bの取り外すことによって振れ止め部材13を駆動チェーン3上から取り除くことができるため、駆動チェーン3の交換作業が容易にできるという利点もある。
【0033】
なお、第1の実施の形態では、ストッパ部材15が連結軸11の軸方向の取り付け位置を変更できるように設けられ、第2の実施の形態では、振れ止め部材13が連結軸11の軸方向の取り付け位置を変更できるように設けられているが、ストッパ部材15と振れ止め13部材の双方の取り付け位置を変更できるように構成しても良い。
【0034】
なお、上記した各実施の形態では、乗客コンベアであるエスカレータの非常制動装置10A,10Bに適用した場合を説明したが、エスカレータ以外の乗客コンベア、例えば動く歩道の非常制動装置に適用できることはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る非常制動装置の正面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る非常制動装置の側面図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る駆動小スプロケットを交換した後の非常制動装置の側面図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る非常制動装置の正面図。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る非常制動装置の側面図。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る駆動小スプロケットを交換した後の非常制動装置の側面図。
【符号の説明】
【0036】
1A,1B 駆動小スプロケット
2 駆動大スプロケット
3 駆動チェーン
5 回転軸
10A,10B 非常制動装置
11 連結軸
12 アーム部
13 振れ止め部材
14 ラチェットホイール
15 ストッパ部材
22 ボルト(取付角度調整手段)
23 固定アーム部(取付角度調整手段)
24 角度調整アーム部(取付角度調整手段)
25a,25b ボルト
26長孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トラス構造体に回転自在に支持された連結軸と、
前記連結軸にアーム部を介して固定され、駆動小スプロケットと駆動大スプロケット間に掛け渡された駆動チェーン上に載置された振れ止め部材と、
前記駆動大スプロケットの回転軸に固定されたラチェットホイールと、
前記連結軸に固定され、前記ラチェットホイールの近接位置に配置されたストッパ部材と、
前記連結軸に対する前記振れ止め部材と前記ストッパ部材の相対的な取り付け角度を調整できる取付角度調整手段と、
を備えたことを特徴とする乗客コンベアの非常制動装置。
【請求項2】
前記取付角度調整手段は、前記連結軸に対して任意の取り付け角度で前記ストッパ部材を締結によって固定できるボルトであることを特徴とする請求項1に記載された乗客コンベアの非常制動装置。
【請求項3】
前記取付角度調整手段は、前記振れ止め部材のアーム部を構成し、固定アーム部と、前記固定アーム部に任意の連結角度で連結可能な角度調整アーム部であることを特徴とする請求項1に記載された乗客コンベアの非常制動装置。
【請求項4】
前記固定アーム部と前記角度調整アーム部間は、ボルトが挿入された少なくとも一方側のボルト挿入孔が長孔に形成されることによって互いの連結角度が調整可能とされたことを特徴とする請求項3に記載された乗客コンベアの非常制動装置。
【請求項5】
前記ストッパ部材は、前記連結軸の軸方向の取り付け位置を変更可能に設けられたことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載された乗客コンベアの非常制動装置。
【請求項6】
前記振れ止め部材の前記アーム部は、前記連結軸の軸方向の取り付け位置を変更可能に設けられたことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載された乗客コンベアの非常制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−214086(P2008−214086A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−57688(P2007−57688)
【出願日】平成19年3月7日(2007.3.7)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】