説明

乗客コンベア

【課題】駆動モータに無段変速機を取り付けた場合に、無段変速機の制動を確実に行うことができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】無段変速機16が所定回転速度以上に加速したことを検出する速度検出部56を有し、速度検出部56がこの加速を検出したときに、ブレーキ装置34は、駆動大スプロケット24と同軸に取り付けられた制動輪36にブレーキシュー40を制動輪36に押し当てる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアに関するものである。
【背景技術】
【0002】
エスカレータにおいて省エネ運転を実現するため、エスカレータに乗客がいない場合には、低速運転にする方法がある。この場合に、エスカレータを低速運転させるために、無段変速機を利用している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公平5−37912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところでエスカレータを停止させる主ブレーキは、エスカレータの駆動モータの回転を直接制動したほうが効率的であるため、主ブレーキは駆動モータの出力軸を直接制動する構造となっている。
【0005】
しかし、上記のように駆動モータに無段変速機を取り付けた場合には、この構造では、無段変速機の制御が不能となり、また、無段変速機への入力軸が破損した場合には、エスカレータを停止させることができないという問題点がある。特に、エスカレータを下降運転しているときに無段変速機の制御が不能となった場合の安全対策が必要であるという問題点がある。
【0006】
そこで、本発明の実施形態は上記問題点に鑑み、駆動モータに無段変速機を取り付けた場合に、無段変速機の制動を確実に行うことができる乗客コンベアを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態は、駆動モータと、前記駆動モータに連結された減速機と、前記駆動モータと前記減速機の間に連結された無段変速機と、前記減速機の出力側に設けられた第1駆動スプロケットと、前記第1駆動スプロケットと駆動チェーンを介して連結された第2駆動スプロケットと、前記第2駆動スプロケットに取り付けられた踏段スプロケットと、前記踏段スプロケットに掛け渡された踏段チェーンに取り付けられた踏段と、前記無段変速機が所定回転速度以上に加速したときに前記第2駆動スプロケットの回転を停止、又は、減速させるブレーキ手段と、を有することを特徴とする乗客コンベアである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る実施例1のエスカレータの説明図である。
【図2】機械室の説明図である。
【図3】エスカレータのブロック図である。
【図4】実施例2の機械室の説明図である。
【図5】実施例3の機械室の説明図である。
【図6】実施例4の通常時の機械室の説明図である。
【図7】実施例4の異常時の機械室の説明図である。
【図8】実施例5の機械室の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態の乗客コンベアの一つであるエスカレータ10について、図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0010】
以下、本発明に係る実施例1のエスカレータ10について、図1〜図3に基づいて説明する。
【0011】
(1)エスカレータ10の構造
本実施例のエスカレータ10の構造について、図1に基づいて説明する。
【0012】
建屋に設置されたトラス11の上階側の機械室15には、駆動モータ12と、駆動モータ12に連結された無段変速機16が配置されている。この駆動モータ12と無段変速機16との間には、駆動モータ12の出力軸の回転を停止させるための主ブレーキ14が設けられている。無段変速機16の出力軸には、減速機18が取り付けられている。減速機18の出力軸には、駆動小スプロケット20が取り付けられている。一方、駆動軸22の一端には、駆動大スプロケット24が同軸に取り付けられ、前記した駆動小スプロケット20と駆動大スプロケット24には、無端の駆動チェーン26が掛け渡されている。
【0013】
無段変速機16には、この無段変速機16の出力軸の回転速度を検出するための速度検出部56が設けられている。
【0014】
駆動軸22の両端には、左右一対の踏段スプロケット28,28が取り付けられている。また、トラス11の下階側には不図示の左右一対の踏段スプロケットが取り付けられ、上階側の踏段スプロケット28,28との間に無端の踏段チェーン30,30が掛け渡されている。この左右一対の踏段チェーン30,30の間には踏段32が複数取り付けられている。
【0015】
駆動大スプロケット24には、無段変速機16のブレーキ装置34が取り付けられているが、このブレーキ装置34については後から詳しく説明する。
【0016】
踏段32の両側には、異常状態を検出するための安全スイッチ52が複数個設けられている。安全スイッチ52としては、例えばスカートガード挟まれ検出装置、インレット挟まれ検出装置(手摺ベルト入込み口挟まれ検出装置)、踏段浮き上がり検出装置である。
【0017】
トラス11の上階側の機械室15には、コンピュータよりなる制御装置54が配置されている。
【0018】
(2)無段変速機16のブレーキ装置34
次に、無段変速機16のブレーキ装置34について、図2に基づいて説明する。
【0019】
駆動軸22には、駆動大スプロケット24と同軸に制動輪36が設けられている。この制動輪36は、例えば、駆動軸22の先端部に取り付けられている。
【0020】
トラス11の底面から制動輪36の外周近傍に向かってブレーキ柱38が垂直に立設されている。このブレーキ柱38に沿って、楔形のブレーキシューが上下動可能であり、このブレーキシュー40は、支持棒42の上端に設けられて支持され、支持棒42と共に上下動自在となっている。支持棒42には、コイル状のバネ44が上下方向に取り付けられ、ブレーキシュー40を支持棒42に沿って常に上方に付勢している。このバネ44によってブレーキシュー40が上端に位置した場合は、ブレーキシュー40がブレーキ柱38と制動輪36との間に押し当てられて噛み合い、制動輪36の回転を阻止する。
【0021】
ブレーキシュー40の下部には、係合爪46が突出している。一方、トラス11の底面には、動作スイッチ48が設けられ、その動作部50が係合爪46と係合可能となっている。ブレーキシュー40をバネ44の付勢力に反して最も下端の位置に移動し係合爪46を動作スイッチ48の動作部50と係合させると、バネ44の付勢力に反して、ブレーキシュー40は支持棒42の下部に固定される(図2の2点鎖線の状態)。そして、動作スイッチ48が動作し、動作部50と係合爪46の係合が解除されると、バネ44の付勢力によりブレーキシュー40は、上端に移動し制動輪36の回転を阻止する。
【0022】
(3)エスカレータ10の電気的構成
次に、エスカレータ10の電気的構成について、図3のブロック図に基づいて説明する。
【0023】
制御装置54には、駆動モータ12、主ブレーキ14、無段変速機16、速度検出部56、動作スイッチ48、安全スイッチ52が接続されている。
【0024】
(4)エスカレータ10の動作状態
次に、エスカレータ10において、無段変速機16が何かの原因で所定回転速度以上に加速した場合の制御方法について説明する。
【0025】
まず、通常時においては、ブレーキ装置34のブレーキシュー40は、支持棒42の下部に固定されている。
【0026】
速度検出部56は、無段変速機16の出力軸の回転数を常に検出し、この回転速度が所定回転速度以上に加速した異常時には、異常信号を制御装置54に出力する。
【0027】
制御装置54は、この異常信号が入力すると、動作スイッチ48を動作させ、動作部50と係合部48の係合を解除し、ブレーキシュー40をバネ44の付勢力を用いて制動輪36に押し当てて噛み合わせ、制動輪36の回転を停止させ、エスカレータ10を停止させる。
【0028】
(5)効果
以上により本実施例によれば、エスカレータ10における無段変速機16が異常となり、加速した場合には、ブレーキ装置34によってエスカレータ10を停止させることができる。特に、エスカレータ10の下降運転で無段変速機16の制御が異常となっても確実にエスカレータ10を停止させることができ、乗客の安全を確保することができる。
【実施例2】
【0029】
次に、本発明に係る実施例2のエスカレータ10について、図4に基づいて説明する。本実施例と実施例1の異なる点は、ブレーキ装置34の構造にある。
【0030】
実施例1では、ブレーキ装置34が動作し、ブレーキシュー40が制動輪36に押し当てられた後は、作業者が機械室15に入ってブレーキシュー40をバネ44の付勢力に反して手動で押し下げ、動作部50と係合爪46を係合させる必要がある。
【0031】
そこで、本実施例では、図4に示すように、ブレーキシュー40の下部にワイヤー58を取り付け、このワイヤー58をワイヤーガイド60に沿って機械室15の上方に案内させ、ワイヤー58の他端部を機械室15の外部に取り出しておく。ワイヤーガイド60は、例えば、管状であって、その内部にワイヤー58を挿通させる。
【0032】
このようにすることで、ブレーキシュー40が制動輪36に押し当てられても、機械室15の外部から作業者がワイヤー58の他端部を引っ張り、ブレーキシュー40をバネ44の付勢力に反して押し下げることができる。そのため作業者は機械室15内部に入る必要がなく、作業者の安全を確保できる。
【実施例3】
【0033】
次に、本発明に係る実施例3のエスカレータ10について、図5に基づいて説明する。本実施例と実施例1の異なる点は、ブレーキ装置34の構造にある。
【0034】
実施例1、実施例2では、ブレーキ柱38と制動輪36との間にブレーキシュー40を噛み合わせ制動輪36の回転を完全に停止させた。
【0035】
これに代えて、本実施例では、図5に示すように、制動輪36の下部に、円弧状のブレーキシュー40を押し当てて制動輪36の回転を減速させる。
【0036】
本実施例においては、円弧状のブレーキシュー40の下部には支持棒42が設けられ、コイル状のバネ44によって上方に付勢されている。そして、動作スイッチ48の動作部50と、ブレーキシュー40の下端にある係合爪46が係合する。
【0037】
通常時においては、コイル状のバネ44の付勢力に反して係合爪46と動作部50とを係合させておく。
【0038】
無段変速機16が所定回転速度以上に加速した異常時においては、制御装置54が、動作スイッチ48を動作させて動作部50と係合爪46との係合を解除し、円弧状のブレーキシュー40をバネ44の付勢力によって制動輪36の下部に押し当てる。この場合に、実施例1や実施例2のブレーキシュー40とは異なり、円弧状のブレーキシュー40を制動輪36へ押し当てるだけであるため、制動輪36は完全に停止せず、減速して低速で回転を続けることができる。
【0039】
本実施例のエスカレータ10によれば、無段変速機16の異常時にエスカレータ10を完全に停止させず、安全な低速度で運転することにより、停止による乗客の転倒の危険を回避できる。
【実施例4】
【0040】
次に、本発明に係る実施例4のエスカレータ10について、図6及び図7に基づいて説明する。本実施例と実施例1の異なる点は、ブレーキ装置34の構造にある。
【0041】
本実施例は、図6及び図7に示すように、トラス11から立設された支持柱62に回転自在に円盤状の回転体64が支持されている。この回転体64は、駆動大スプロケット24と当接され、駆動大スプロケット24の回転と同期して回転する。
【0042】
この回転体64には、一対のブレーキシュー66,66が設けられている。一対のブレーキシュー66,66は、ブレーキシュー66の一端にある回転軸68を中心に回動可能であり、ブレーキシュー66の他端にはバネ70,70の一端部が取り付けられ、このバネ70の他端部は回転体64の中心軸付近に固定されている。
【0043】
図6に示すように、回転体64の回転速度が遅い通常時は、バネ70の付勢力によって一対のブレーキシュー66,66は回転体64の内側に納められた状態となっている。
【0044】
図7に示すように、回転体64の回転速度が所定回転速度以上、すなわち、無段変速機16で設定している所定回転速度以上に回転した異常時は、回転体64の遠心力によりバネ70,70の付勢力に反して一対のブレーキシュー66,66の他端が径外方向に移動して回転体64の外方に突出し、制動輪36の外周部に押し当てられて、制動輪36の回転速度を減速させる。なお、バネ70,70の付勢力は、無段変速機16が所定回転速度以上に加速した場合に対応した回転体64の回転による遠心力と合わせて設定しておく。
【0045】
本実施例によれば、無段変速機16の異常時にエスカレータ10を停止させずに、減速させることができるため、停止による乗客の転倒の危険を回避できる。
【実施例5】
【0046】
次に、本発明に係る実施例5のエスカレータ10について、図8に基づいて説明する。本実施例と実施例1の異なる点は、ブレーキ装置34の構造にある。
【0047】
本実施例では、ダイナモ72をブレーキ装置34として用いている。ダイナモ72とは、回転子74の回転によって、直流を発電する発電装置である。
【0048】
ダイナモ72は、駆動大スプロケット24に当接され、かつ、駆動大スプロケット24と同期して回転する回転子74と、動作スイッチ76と、抵抗78とを有し、回転子74,動作スイッチ76、抵抗78が直列に接続されている。
【0049】
通常時においては、制御装置54は、動作スイッチ76をOFF状態にして、ダイナモ72の抵抗78は接続せず、駆動大スプロケット24と同期して回転するのみであるため、駆動大スプロケット24の回転速度を減速させることはない。
【0050】
無段変速機16が所定回転速度以上に回転した異常時においては、制御装置54が、動作スイッチ76をOFF状態からON状態に切り替えて抵抗78を接続し、ダイナモ72の発電を開始する。これにより回転子74の回転速度が上がるほどに発電量を増大して、駆動大スプロケット24の回転に対する抵抗となり、エスカレータ10は減速する。
【0051】
本実施例によれば、無段変速機16の異常時にエスカレータ10を停止させずに、減速させることができるため、停止による乗客の転倒の危険を回避できる。
【変更例】
【0052】
上記各実施例では、乗客コンベアとしてエスカレータ10で説明したが、これに代えて動く歩道であってもよい。
【0053】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0054】
10・・・エスカレータ、12・・・駆動モータ、16・・・無段変速機、18・・・減速機、20・・・駆動小スプロケット、24・・・駆動大スプロケット、26・・・駆動チェーン、28・・・踏段スプロケット、30・・・踏段チェーン、32・・・踏段、34・・・ブレーキ装置、36・・・制動輪、38・・・ブレーキ柱、40・・・ブレーキシュー、42・・・支持棒、44・・・バネ、46・・・係合爪、48・・・動作スイッチ、50・・・動作部、54・・・制御装置、56・・・速度検出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動モータと、
前記駆動モータに連結された減速機と、
前記駆動モータと前記減速機の間に連結された無段変速機と、
前記減速機の出力側に設けられた第1駆動スプロケットと、
前記第1駆動スプロケットと駆動チェーンを介して連結された第2駆動スプロケットと、
前記第2駆動スプロケットに取り付けられた踏段スプロケットと、
前記踏段スプロケットに掛け渡された踏段チェーンに取り付けられた踏段と、
前記無段変速機が所定回転速度以上に加速したときに前記第2駆動スプロケットの回転を停止、又は、減速させるブレーキ手段と、
を有することを特徴とする乗客コンベア。
【請求項2】
前記無段変速機が前記所定回転速度以上に加速したことを検出する速度検出部をさらに有し、
前記ブレーキ手段は、
前記第2駆動スプロケットと同軸に設けられた制動輪と、
前記制動輪に押し当てて、前記制動輪の回転を停止、又は、減速させるブレーキシューと、
前記速度検出部が前記加速を検出したときに、前記ブレーキシューを前記制動輪に押し当てる動作手段と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記動作手段は、前記ブレーキシューをバネの付勢力で前記制動輪に押し当てる、
ことを特徴とする請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記ブレーキ手段は、前記制動輪に押し当てられた前記ブレーキシューを解除する解除手段を有する、
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記ブレーキ手段は、
前記第2駆動スプロケットと同軸に設けられた制動輪と、
前記第2駆動スプロケットが前記所定回転速度に対応した回転速度以上で回転したときに、バネの付勢力に反して前記制動輪に押し当てられ、前記制動輪の回転を停止、又は、減速させるブレーキシューと、
を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記無段変速機が前記所定回転速度以上に加速したことを検出する速度検出部をさらに有し、
前記ブレーキ手段は、
前記第2駆動スプロケットと同軸に設けられた制動輪と、
前記制動輪に当接されることによって、前記制動輪と共に回転する回転手段を有するダイナモと、
前記速度検出部が前記加速を検出したときに、前記ダイナモで発電を行って、前記制動輪の回転を減速させる制御部と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の乗客コンベア。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2012−111574(P2012−111574A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260144(P2010−260144)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(390025265)東芝エレベータ株式会社 (2,543)
【Fターム(参考)】