説明

乾式真空蒸着を用いた多層薄膜の製造方法

本発明は、乾式真空蒸着を用いた多層薄膜の製造方法に関し、特に、携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソンコンなどの携帯用電子製品及びディスプレイ製品などのケース、ウィンドウ、キーパッド、ファンクションキー部品、様々なアクセサリー部品などに光学的美麗感と高級感を与えることができる、安定且つ簡単な乾式真空蒸着を用いた多層薄膜の製造方法に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾式真空蒸着を用いた多層薄膜の製造方法に関し、特に、携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコンなどの携帯用電子製品及びディスプレイ製品などのケース、ウィンドウ、キーパッド、ファンクションキー部品、様々なアクセサリー部品などに光学的な美麗感と高級感を与えることができる、安定且つ簡単な乾式真空蒸着を用いた多層薄膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソンコンなどの携帯用電子製品、及び、モニター、タッチスクリーンなどのディスプレイ製品などは、金属、ガラス、アクリル(アクリル樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体樹脂、及びこれらの組合せからなるシート状のパネル形態又は射出成形物であるケース、ウィンドウ、キーパッド、ファンクションキー部品、様々なアクセサリー部品などを使用している。このような部品には、光学的な美麗感と高級感を与えるために、金属及び/又は金属酸化物を用いて真空蒸着コートが施される。
【0003】
特に、携帯電話の場合、通話品質の安定性のために、ケース、ウィンドウ、キーパッド及びウィンドウ一体型ケースなどの前面及び背面に、金属の代わりに金属酸化物を用いた非電導性誘電体薄膜コートが真空蒸着工程により形成される。
【0004】
しかし、真空蒸着法でコートされた金属及び/又は金属酸化物の薄膜は、基材に対する密着強さが低いので、それは、耐磨耗性、耐スクラッチ性及び鉛筆硬度が脆弱であり、また、真空蒸着薄膜は、高温、高湿及び塩水により剥離するので、信頼性を確保することが難しい。
【0005】
従って、このような信頼性などの問題を解決するために、蒸着工程の前後に、浸漬、噴霧、回転塗布、インクジェット印刷などの湿式工程により、UVコート又はハードコートが施される。
【0006】
特に、電子製品のケース、ウィンドウ、キーパッドなどに用いられるアクリル、ポリカーボネート(PC)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体樹脂、又はこれらの組合せからなるシート状のパネル形態又は射出成形物に光学的なデザインを与えるために真空蒸着工程を導入すれば、蒸着層の密着強さ及び安定性のために、浸漬法、噴霧法、回転塗布法、インク印刷法などの別途の湿式工程を用いて、下塗り及び上塗りを施す必要がある。しかし、この場合、湿式工程と真空蒸着工程とが交互に行われるので、異なる工程利用による追加費用が必要になり、異なる工程間での移送過程で多くの不具合が生じる。
【0007】
即ち、湿式工程の導入により、湿式工程及び真空蒸着工程(乾式工程)が交互に行われる。それゆえ、異なる工程間の移送、並びに、各工程におけるコート被塗物の装着及び脱着を繰り返して行う必要があることから、部品をコートする加工時間が長くなる。
【0008】
また、異なる工程を行う過程で発生する加工不具合と、異なる工程間での移送過程で発生する高い不良率と、多くの工程による製造時間の増加とにより、生産性が低下し、製品の製造コストが高くなる。
【0009】
さらに、このような構造的な問題は、湿式コートを行う会社が真空蒸着を行う会社と異なる場合に、さらに深刻化する傾向がある。
【0010】
また、図4に示されるように、製品10の表面に、湿式工程により調製されたコート膜60は、真空蒸着工程(乾式工程)により調製されたコート膜70に比べて、数百〜数千倍も厚い。それゆえ、光学的な特性の低下及び基材の表面質感の低下により、基材の独特な特性を最大限に生かすことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術の上記問題点の解決法として、本発明の目的は、電子製品のケース、ウィンドウ、キーパッド、ファンクションキー部品、ウィンドウ一体型ケース及び様々なアクセサリー基材の前面及び背面に、真空蒸着装置内で最小限の乾式真空蒸着法だけでも、安定した真空蒸着薄膜を形成することにより、携帯用電子製品及びディスプレイ製品に美麗且つ高級な光学的デザインを与えると共に、製品の信頼性を確保することができる多層薄膜の製造方法を提供することにある。
【0012】
また、本発明の別の目的は、工程を最小限に簡略化して薄膜の信頼性を確保することにより、製造時間の短縮及び不良率低下による費用節減効果だけでなく、環境的に問題のある湿式工程を除去又は最小化することにより、環境汚染を除去又は減少させる効果を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、多層薄膜の製造方法であって、基材上に下塗り蒸着層を形成する工程と、前記下塗り蒸着層上に光学コート層を形成する工程とを含み、前記下塗り蒸着層が前記基材と前記光学コート層との間に密着強さを与えるものであり、前記多層薄膜の形成が乾式真空蒸着により行われることを特徴とする多層薄膜の製造方法が提供される。
【0014】
本発明の方法は、好ましくは、さらに、前記光学コート層を形成する工程後に、中塗り蒸着層を形成する工程含む。
【0015】
また、本発明の方法は、好ましくは、さらに、前記中塗り蒸着層を形成する工程後に、又は前記光学コート層を形成する工程後に、上塗り蒸着層を形成する工程を含む。
【0016】
本発明の別の態様によれば、本発明の多層薄膜の製造方法により形成され、基材上に形成された下塗り蒸着層と前記下塗り蒸着層上に形成された光学コート層とを含む多層薄膜コートが提供される。
【0017】
本発明の多層薄膜コートは、好ましくは、さらに、前記光学コート層上に形成された中塗り蒸着層を含む。
【0018】
また、本発明の多層薄膜コートは、好ましくは、さらに、前記中塗り蒸着層上に形成された上塗り蒸着層を含む。
【0019】
本発明の多層薄膜コートは、好ましくは、さらに、前記光学コート層上に形成された上塗り蒸着層を含む。
【0020】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明の多層薄膜の製造方法により形成された多層薄膜コートを含む電子製品が提供される。
【発明の効果】
【0021】
本発明の乾式真空蒸着多層薄膜の製造方法を用いて、携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコンなどの携帯用電子製品、モニター、タッチスクリーンなどのディスプレイ製品、冷蔵庫、エアコン、テレビなどの家電製品などのケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品及び様々なアクセサリーなどをコートすれば、製品に美麗且つ高級な光学的デザインを与えると共に、製品の信頼性を確保することができる。
【0022】
また、工程を最小限に簡略化して薄膜の信頼性を確保することにより、製造時間の短縮及び不良率低下による費用節減効果だけでなく、環境的に問題のある湿式工程を除去又は最小化することにより、環境汚染を除去又は減少させる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の真空蒸着多層薄膜製造方法の一具体例の工程図である。
【図2】本発明の一具体例により製造された真空蒸着多層薄膜の構成概略図である。
【図3】密着強さと表面接触角との関係を示す図である。
【図4】従来の湿式コート工程で形成された下塗り層及び上塗り層の厚さを、本発明の真空蒸着工程で形成された下塗り層及び上塗り層の厚さと比較した図である。
【図5】プラスチックインモールド射出製品の表面の接触角を示す写真である。
【図6】本発明の一具体例に従って多層薄膜を製造する際に、下塗りの真空蒸着後の表面の接触角を示す写真である。
【図7】本発明の一具体例に従って多層薄膜を製造する際に、上塗りの真空蒸着後の表面の接触角を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の真空蒸着薄膜の製造方法は、湿式工程により提供された従来のコート層と比較すると、コート層を真空蒸着装置内で乾式工程により形成することを特徴とする。従来、湿式工程による提供された従来のコート層としては、例えば、UV(紫外線)硬化型コート層、基材と光学コート層との間の密着強さを高める下塗り層、及び、単層又は多層光学コートを保護するための上塗り層が挙げられる。
【0025】
本発明の真空蒸着工程(乾式工程)では、好ましくは、韓国特許出願第10−2007−0075000号に記載されているキャリアーを用いて、真空蒸着装置内で、各薄膜層を形成するための化学薬品を用いた超薄膜コート法により、安定した単層又は多層コートを提供する。
【0026】
本発明の薄膜製造方法を適用することができる適当な基材としては、携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコンなどの携帯用電子製品、及び、モニター、タッチスクリーンなどのディスプレイ製品などのケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品及び様々なアクセサリー部品が挙げられるが、これらに限定されるものではない。基材は、シート状のパネル形態又は様々な射出成型物の形態とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0027】
基材の材料としては、金属、ガラス、アクリル(アクリル樹脂)、ポリカーボネート(PC)、ポリメタクリルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)共重合体樹脂、及びこれらの組合せが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の薄膜製造方法において、基材上に形成される下塗り蒸着層は、基材とその後に形成されるべき光学コート層との間に密着強さを与えるための層である。好ましくは、下塗り蒸着層は、10Å〜1000Å(1nm〜100nm)というナノスケールの薄い厚さを有するように形成され、基材表面と次の工程で形成されるべき単層又は多層光学コート層との間の密着強さを高める、いわゆる「ナノプライマー」として機能する。
【0029】
また、下塗り蒸着層は、基材の表面特性及び光学コート層の多層設計に従って、真空蒸着工程中に、プラズマ補助蒸着方式(イオンアシスト)により、10Å〜1000Åの厚さで蒸着することができる。それゆえ、ハードコート特性を示し、薄膜蒸着層の密着特性を向上することができる。
【0030】
好ましくは、下塗り蒸着層を形成するコート剤としては、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有する炭素系化合物を用いることができ、その分子量は100〜10,000とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の薄膜製造方法において、下塗り蒸着層上に形成される光学コート層は、単層又は多層とすることができ、製品、即ち、基材の外観に、美麗且つ高級な光学的デザイン、様々な色彩、鏡像又は反鏡像の効果を与えることができる層である。
【0032】
光学コート層を形成するための材料としては、SUS(ステンレス鋼)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、インジウム−スズ(In−Sn)などの金属;酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化インジウムチタン(InTi、ITO)、酸化バリウムチタン(BaTiO)、酸化マグネシウム(MgO)などの金属酸化物;SiN、TiNなどの金属窒化物;又はMgFなどの金属フッ化物を用いることができる。真空蒸着装置内で、電子ビーム又は抵抗加熱装置を用いて、これらの材料を単層又は交互に蒸着して、多層層を形成する。光学コート層の膜厚は、特に限定されるものではない。例えば、10Å〜1000Å(1nm〜100nm)というナノスケールの厚さからマイクロメーターの厚さまでの範囲内で、様々な厚さを有する単層又は単層の多層で形成することができる。
【0033】
本発明のある好ましい具体例によれば、光学コート層を形成する工程後に、さらに、その表面上に、中塗り蒸着層を形成することができる。中塗り蒸着層は、耐塩水性、耐磨耗性、耐スクラッチ性などを強化し、さらに形成可能な上塗り蒸着層の機能を補助する役割を果たす。
【0034】
中塗り蒸着層は、光学コート層の表面特性及び多層設計に従って、真空蒸着工程中に、プラズマ補助蒸着方式(イオンアシスト)により、10Å〜1000Åの厚さで蒸着することができる。それゆえ、薄膜蒸着層の脆弱な耐スクラッチ性、耐塩水性などを強化することができる。
【0035】
好ましくは、中塗り蒸着層を形成するコート剤としては、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有する炭素系化合物を用いることができ、その分子量は100〜10,000とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0036】
本発明のある好ましい具体例によれば、中塗り蒸着層を形成する工程後に、さらに、その表面上に、上塗り蒸着層を形成することができる。上塗り蒸着層は、耐塩水性、耐磨耗性、耐スクラッチ性などの信頼性を強化するだけでなく、耐汚染性(耐指紋性)及び汚染除去容易性を与えることにより、光学コート層を保護する役割を果たす。
【0037】
上塗り蒸着層は、中塗り蒸着層の表面特性及び多層設計に従って、真空蒸着工程中に、プラズマ補助蒸着方式(イオンアシスト)により、10Å〜1000Åの厚さで蒸着することができる。
【0038】
好ましくは、上塗り蒸着層を形成するコート剤としては、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有するフッ化炭素系化合物を用いることができ、その分子量は100〜10,000とすることができるが、これらに限定されるものではない。
【0039】
本発明では、好ましくは、韓国特許出願第10−2007−0075000号に記載されているキャリアーを用いて、電子ビーム、抵抗加熱装置、スパッタリング装置又はイオンプレーティング装置により、各薄膜層を形成するためのコート剤を蒸着させることができる。
【0040】
また、本発明では、好ましくは、多層薄膜構造の形成は、真空蒸着装置内で連続的に進行する。
【0041】
各薄膜層を形成するためのコート剤は、保管性及び安定性のために、好ましくは、水、メタノール、エタノール、アセトン、アセチルアセトン、グリコール、ケトンなどの溶剤を含む。
【実施例】
【0042】
以下、具体的な例を挙げて、本発明の真空蒸着多層薄膜の製造方法を工程別に詳細に説明する。
【0043】
本発明の真空蒸着多層薄膜の製造方法の一具体例は、図1に示すとおりである。図1に示す工程図によれば、本発明は、基材、即ち、製品を真空蒸着装置内に装着することから脱着するまでのすべてのコート作業を真空蒸着装置内で乾式工程により行うことを特徴とする。
【0044】
1:装着工程
携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコンなどの携帯用電子製品、及び、モニター、タッチスクリーンなどのディスプレイ製品などのケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品及び様々なアクセサリー部品などの基材(又は製品)10を真空蒸着装置内に装着する。真空蒸着工程中に基材が脱落することを防止するために、基材は、様々な形態の基材に適合するように設計された治具に取り付けられる。
【0045】
2.真空工程
真空蒸着装置内への基材の装着が完了すれば、金属及び/又は金属酸化物を用いて、真空蒸着コートを行うために、真空蒸着装置の内部を、1.0×10−6〜1.0×10−3torrの高真空状態、好ましくは5.0×10−5torr又はそれ以下の高真空状態を保持する。真空蒸着室の内部温度は、装着された基材10の材料に応じて、20〜300℃に設定される。
【0046】
3.下塗り層用の真空蒸着工程
適当な高真空状態に達した時点で、イオンビーム装置を用いて、アルゴン(Ar)、窒素(N)及び酸素(O)ガスを流しながら高電圧放電を行えば、対応するガスのプラズマが発生する。高エネルギーを有するプラズマガスを、装着された基材の表面状態に応じて、10秒〜1,000秒間印加して、装着された基材10の表面を活性化(プラズマエッチング)する。
【0047】
基材10の活性化された表面に下塗り蒸着層20を形成する。下塗り蒸着層を形成するために、韓国特許出願第10−2007−0075000号に記載されているキャリアーを用いることができる。このキャリアー内に下塗りコート剤を装填し、これをまた真空蒸着層内の電子ビームを用いた蒸発ポット又は抵抗加熱式蒸発ポットに取り付け、蒸発ポットに取り付けられたキャリアーを電子ビーム又は抵抗加熱ボートを用いて加熱し、キャリアー内に装填されたコート剤を蒸発させて、下塗り蒸着層を形成する。
【0048】
電子ビーム加熱方式の場合、真空蒸着装置の制御装置の一つであるIC−5(INFICON)を用いて、コート工程の全手順を自動化することができる。電子ビームのパワーは、適宜には1.5%〜8.0%、好ましくは2.0%〜4.0%に制御される。
【0049】
上記のように形成される下塗り蒸着層は、好ましくは10Å〜1,000Å(0.001μm〜0.1μm)、最も好ましくは約100Å(0.01μm、10nm)前後の厚さを有する。上記のプラズマエッチングを0〜300秒間適用すれば、下塗り蒸着層を安定化することができる。
【0050】
基材の表面に形成されるコートは、表面エネルギーと関係がある。その密着強さは、図3に示すように、基材と前記基材の表面上の水滴との間の接触角を測定することにより、推定することができる。接触角が小さくなるほど、密着強さが大きくなる。
【0051】
プラスチックインモールド射出製品の場合、コート前の基材の表面上の接触角は74.3゜(図5)であったが、この製品の表面上に下塗り蒸着層20を形成した後の接触角は32.2゜(図6)に低下し、表面エネルギーは、下塗り蒸着前後で、33.02mN/mから47.98mN/mに変化した。即ち、下塗り蒸着により、密着強さが向上した。
【0052】
様々な材料の製品の表面について、下塗り蒸着層の形成前後の表面接触角及び表面エネルギーの変化を、それぞれ下記の表1及び2に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】

【0055】
4.多重蒸着工程(光学コート層形成工程)
基材に美麗且つ高級な光学的デザインを与えると共に、様々な色彩、鏡像又は反鏡像の効果及び反射防止効果を示すために、下塗り蒸着層上に光学コート層30を形成する。
【0056】
光学コート層30は、真空蒸着装置内で、電子ビーム又は抵抗加熱装置を用いて、SUS(ステンレス鋼)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、インジウム−スズ(In−Sn)などの金属;酸化ケイ素(SiO)、酸化チタン(TiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化インジウムチタン(InTi、ITO)、酸化バリウムチタン(BaTiO)、酸化マグネシウム(MgO)などの金属酸化物;SiN、TiNなどの金属窒化物;又はMgFなどの金属フッ化物を、単層又は交互に蒸着して多層にすることにより形成される。
【0057】
5.中塗り層用の蒸着工程
光学コート層30は、金属、金属酸化物、金属窒化物又は金属フッ化物から形成されるので、様々な表面特性を有するが、無機材料の特徴ゆえに、水分及び汚染に対する脆弱性を有する。
【0058】
従って、様々な環境に対して安定した表面を与えると共に、異なる表面状態に応じて、環境に耐える真空蒸着薄膜の耐磨耗性及び信頼性を強化するために、約100Å前後の厚さの中塗り蒸着層40を光学コート層30上に形成することが好ましい。
【0059】
また、中塗り蒸着層40は、光学コート層の多層設計に従って、真空蒸着工程中に、プラズマ補助蒸着方式(イオンアシスト)により蒸着することができる。それゆえ、ハードコート特性を示し、薄膜蒸着層の脆弱な耐スクラッチ性、耐塩水性などを強化することができる。
【0060】
下塗り蒸着層と同様に、中塗り蒸着層を形成するために、韓国特許出願第10−2007−0075000号に記載されているキャリアーを用いることができる。このキャリアー内に中塗りコート剤を装填し、これをまた真空蒸着装置内の電子ビームを用いた蒸発ポット又は抵抗加熱式蒸発ポットに取り付け、蒸発ポットに取り付けられたキャリアーを電子ビーム又は抵抗加熱ボートを用いて加熱し、キャリアー内に装填されたコート剤を蒸発させて、中塗り蒸着層を形成する。
【0061】
上記のように形成される中塗り蒸着層は、好ましくは10Å〜1,000Å(0.001μm〜0.1μm)、最も好ましくは約100Å(0.01μm、10nm)前後の厚さを有する。上記のプラズマエッチングを0〜300秒間適用すれば、中塗り蒸着層を安定化することができる。
【0062】
6.上塗り層用の蒸着工程
上記したように、光学コート層30は様々な表面特性を有するが、無機材料の特徴ゆえに、水分及び汚染に対する脆弱性を有するので、上塗り蒸着層50を、中塗り蒸着層40を介して又は直接的に光学コート層30上に形成することが好ましい。
【0063】
上塗り蒸着層50は、下塗り蒸着層及び中塗り蒸着層と同様の方法により、特にコート厚さを制御することなく、100Å〜1,000Åの厚さに形成することができる。
【0064】
上塗り蒸着工程により形成されたコート薄膜は、表面エネルギーが非常に低く、摩擦係数が低いという特徴を有しており、それにより、表面が非常に滑らかな特性を示す。それゆえ、指紋及び土壌などの汚染源の付着を顕著に低減することができる。指紋及び土壌が付着しても、それらはコート薄膜の優れたイージークリーニング機能により、容易に除去することができる。また、これと同時に、撥水及び撥油性、耐スクラッチ性、耐久性などの特性を得ることができる。それゆえ、製品の内側だけでなく、外側にもコート薄膜を有する製品の信頼性試験後にも安定した真空蒸着コート層を形成することができる。
【0065】
図3に示されるように、表面の接触角が高くなるほど、密着強さ又は付着強度が悪くなる。しかし、これは、汚染物質の付着については、汚染に対する耐性が強くなったことを意味する。上記のように処理された上塗り蒸着層を有するコート表面を図7に示す。上塗り蒸着層を形成する際の接触角及び表面エネルギーを、それぞれ表3及び4に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
【表4】

【0068】
7.排気工程(真空解除工程)
乾式工程による多層薄膜の製造が完了すれば、真空蒸着装置の内部の真空状態を解除する。
【0069】
8.脱着工程
真空蒸着装置の真空状態が解除された後、多層薄膜の製造が完了した製品を真空蒸着装置から取り出す。
【0070】
以上、本発明の一具体例を挙げて本発明を詳細に説明したが、上記の具体例は本発明の範囲を限定することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコンなどの携帯用電子製品、モニター、タッチスクリーンなどのディスプレイ製品、及び、冷蔵庫、エアコン、テレビなどの家電製品に用いられるディスプレイ及びアクセサリー部品のケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品及び様々なアクセサリーなどに適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
10:母材、20:下塗り蒸着層、30:光学コート層、40:中塗り蒸着層、50:上塗り蒸着層、60:従来の湿式工程によるコート層、70:本発明の乾式工程による真空蒸着薄膜コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層薄膜の製造方法であって、基材上に下塗り蒸着層を形成する工程と、前記下塗り蒸着層上に光学コート層を形成する工程とを含み、前記下塗り蒸着層が前記基材と前記光学コート層との間に密着強さを与えるものであり、前記多層薄膜の形成が乾式真空蒸着により行われることを特徴とする多層薄膜の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記光学コート層を形成する工程後に、中塗り蒸着層を形成する工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項3】
さらに、前記中塗り蒸着層を形成する工程後に、上塗り蒸着層を形成する工程を含む請求項2記載の方法。
【請求項4】
さらに、前記光学コート層を形成する工程後に、上塗り蒸着層を形成する工程を含む請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記基材が、携帯用電子製品、ディスプレイ製品又は家電製品のケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品又はアクセサリー部品である請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記基材が、金属、ガラス、アクリル、ポリカーボネート、PMMA、PET、ABS樹脂、及びこれらの組合せよりなる群から選択される材料からなる請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記下塗り蒸着層が、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有する炭素系化合物から形成される請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記下塗り蒸着層が10Å〜1,000Åの厚さを有する請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記光学コート層が、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属フッ化物、及びこれらの組合せよりなる群から選択される材料から形成される請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記中塗り蒸着層が、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有する炭素系化合物から形成される請求項2記載の方法。
【請求項11】
前記上塗り蒸着層が、カルボキシル基、リン酸基、シラン基、アミン基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、ケトン基、エーテル基及びケタール基から選択される1個又はそれ以上の官能基を有するフッ化炭素系化合物から形成される請求項3記載の方法。
【請求項12】
前記真空蒸着が、電子ビーム、抵抗加熱装置、スパッタリング装置又はイオンプレーティング装置を用いて行われる請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記多層薄膜構造の形成が真空蒸着装置内で連続的に進行することを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載の方法によって形成され、基材上に形成された下塗り蒸着層と前記下塗り蒸着層上に形成された光学コート層とを含むことを特徴とする多層薄膜コート。
【請求項15】
さらに、前記光学コート層上に形成された中塗り蒸着層を含む請求項14記載の多層薄膜コート。
【請求項16】
さらに、前記中塗り蒸着層上に形成された上塗り蒸着層を含む請求項15記載の多層薄膜コート。
【請求項17】
さらに、前記光学コート層上に形成された上塗り蒸着層を含む請求項14記載の多層薄膜コート。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項記載の方法により形成された多層薄膜コートを含む電子製品。
【請求項19】
携帯電話、MP3プレイヤー、携帯型マルチメディアプレイヤー(PMP)、デジタルマルチメディア放送(DMB)受信機、カーナビゲーションシステム、ノート型パソコン、モニター、タッチスクリーン、冷蔵庫、エアコン又はテレビである請求項18記載の電子製品。
【請求項20】
前記多層薄膜コートが、ケース、ウィンドウ、ウィンドウ一体型ケース、キーパッド、キーパッド一体型ウィンドウ、ファンクションキー部品又はアクセサリー部品上に形成される請求項18記載の電子製品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2010−535286(P2010−535286A)
【公表日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−519154(P2010−519154)
【出願日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際出願番号】PCT/KR2008/004470
【国際公開番号】WO2009/017376
【国際公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【出願人】(510023827)セコ コーポレイション リミテッド (2)
【Fターム(参考)】