説明

乾燥方法及び乾燥装置

【課題】塗布膜の乾燥過程において簡易な乾燥装置で塗布領域内の蒸発速度を均一化し、液体材料の流動が起こらない状態で乾燥を行うことで平坦性の良い基板を得る。
【解決手段】一般に溶媒蒸気圧の勾配が大きく、蒸発速度が速い塗布領域の外周部に外部から溶媒蒸気を付与することで、そこでの蒸気圧勾配を低減し、塗布領域内での蒸発速度を均一化する。このように塗布領域内での蒸発速度の差に起因する液体材料の流動を抑えて全面加熱乾燥を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カラーフィルタ用基板の製造工程などにおいて、基板上に塗布された液体材料の塗布膜を加熱により乾燥させる乾燥方法及び乾燥装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基板上に塗布された液体材料の乾燥方法として、加熱炉内に基板を配置して加熱乾燥を行う方法、ホットプレート上に基板を設置して裏面から加熱・乾燥を行う方法、あるいは密閉可能なチャンバー内に基板を配置した状態でチャンバー内を減圧することにより塗布膜の乾燥を行う方法等が知られている(例えば、特許文献1参照。)。また、基板を部分的に加熱することで塗布膜の蒸発速度を均一化する方法が提案されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照。)。
【特許文献1】特開2003−159558号公報
【特許文献2】特開平8−314148号公報
【特許文献3】特開2003−279245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、塗布膜の乾燥を行う際に自然乾燥を行うと塗布膜の表面の各部分で蒸発速度が異なる。蒸発速度が異なった状態で溶媒が蒸発すると、乾燥後の表面の平坦性は悪くなってしまうという問題がある。
【0004】
また、液体材料の吐出装置により製造されたカラーフィルタでは、塗布膜表面内で蒸発速度が異なる状態で乾燥させた基板は乾燥後の平坦性が悪くなる。基板の平坦性が悪くなると、色の濃淡に影響しカラーフィルタの表示品質を低下させてしまう。さらに、ホットプレート等の全面加熱の方法を採用すると、乾燥にかかる時間は短縮されるが、蒸発速度が均一化されないために平坦性の良い基板は得られない。
【0005】
このような平坦性の低下を防ぐための方法の一つとして、特許文献1のように減圧による乾燥方法がある。この方法は、チャンバー内に基板を設置した状態でチャンバー内を減圧することにより減圧乾燥を行う方法であり、塗布膜の溶媒の蒸発速度を均一化する効果がある。また、特許文献1に記載の方法では、蒸発速度をさらに均一化するために貫通穴を有する部材を設けている。
【0006】
しかし、減圧による乾燥方法では、均一な蒸発速度とするまでチャンバー内を減圧するのに多くの時間がかかるため、その間に蒸発速度が不均一な状態で蒸発が進んでしまい、十分な効果が得られないという問題があり、また、基板サイズに対応した大きさのチャンバーと減圧装置が必要になるという問題がある。このような問題があると、大サイズの基板を生産する際にコストの増加と生産装置の大型化を招くことになる。また、減圧乾燥では塗布膜の内部からも溶媒が蒸発するため、急激な減圧を行うと、内部からの蒸発で塗布膜表面に凹凸が残ることも確認されている。
【0007】
一方、特許文献2や特許文献3のように、基板を部分的に加熱する方法では、蒸発速度を均一化することが可能であるものの、乾燥終了までに必要となる時間は全面加熱と比較して長くなり、全面加熱による乾燥方法ほどの生産性は得られない。
【0008】
以上述べたように、単純に全面加熱を行っただけでは蒸発速度は加速されるものの、蒸発速度差は低減されないために、乾燥過程で液体材料の流動が起こり平坦性の良い製品は得られない。また、蒸発速度の均一化を図る方法には、減圧乾燥方式や、部分加熱による乾燥方法等が従来技術として知られているが、減圧乾燥方式は十分に減圧するには時間がかかる上、大きな基板を減圧乾燥するには密閉するチャンバー、減圧ポンプと共に大型の装置が必要となる。部分加熱による乾燥方法では、小型の装置で蒸発速度を均一化できるが、塗布領域の形状により加熱する領域を変化させる必要があり、様々な形状の塗布膜への対応が困難である。
【0009】
本発明はそのような実情に鑑みてなされたもので、乾燥後の平坦性が良好な基板を、簡素な設備でかつ短時間で生産することが可能な乾燥方法及び乾燥装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の乾燥方法は、基板上に塗布された液体材料を乾燥させる際に、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させ、塗付範囲内での蒸発速度を均一化することを特徴としている。
【0011】
本発明の乾燥装置は、基板上に塗布された液体材料を乾燥させるのに用いられる乾燥装置であって、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させることで前記塗布範囲内での蒸発速度を均一化する手段を備えていることを特徴としている。
【0012】
本発明の作用を以下に述べる。
【0013】
まず、上記したように、液体材料が塗布された基板を乾燥させる際に、自然乾燥や全面加熱乾燥によって乾燥を行うと、乾燥後の平坦性の良い製品が得られないことがある。その原因は塗布範囲内での蒸発速度のばらつきによるもので、異なる蒸発速度で蒸発が進むと乾燥過程で液体の流動が起こる結果、不均一な乾燥結果となる。
【0014】
ここで、蒸発速度の大きさは蒸気圧勾配に比例することが知られている。基板に塗布された液体材料の塗布膜の場合、塗布範囲の外周部は液体材料が存在する部分と液体材料が存在しない部分との境界であり、溶媒蒸気圧の高い領域と低い領域との境界になる。そのため、塗布範囲外周部では蒸気圧勾配が大きく、蒸発速度も塗布膜表面のその他の部分よりも大きくなる。これが自然乾燥等での乾燥結果における平坦性の低さの原因となっている。
【0015】
本発明では、塗布範囲の外周部に溶媒蒸気を付与することで、この部分での蒸気圧勾配を低減し、塗布範囲内での蒸発速度を均一化して乾燥過程での液体材料の流動を起こさずに乾燥を行う。これにより平坦性の良い基板を得る。しかも、塗布範囲の外周部への溶媒蒸気の付与は、比較的簡易な方法・装置で実現可能であり、大きな装置は不要であって、減圧等のように十分に効果が出るまでに多くの時間がかかることもない。
【0016】
本発明において、塗布範囲内の蒸発速度を均一化するための具体的な手段として、塗布範囲の外側近傍に液体材料もしくはその溶媒のみを塗布するという方法を挙げることができる。塗布範囲外側に液体材料もしくは溶媒が存在すれば、それによる蒸気圧の影響で塗布範囲の外周部での蒸気圧の勾配は低減され、蒸発速度は均一化される。均一な蒸発速度で乾燥が進むと平坦性の良い基板が得られる。
【0017】
このように液体材料もしくはその溶媒を用いる方法では、塗布範囲の外周部の蒸気圧勾配を低減させるために、特に装置等は必要とせず、簡易に実現可能である。本来の液体材料の塗布と同時もしくはそれ以前にも実行可能であり、液体材料が塗布されてから蒸発速度が均一化されるまでに時間がかからない。また、液体材料の溶媒のみを外側に塗布すれば蒸発後には何も残らず、製品の品質に影響を与えることはない。
【0018】
本発明において、蒸発速度を均一化するために、塗布範囲の外側近傍に液体材料またはその溶媒のみを配置するにあたってその量や塗布する位置及び前記塗布範囲からの距離を制御することが好ましい。このような制御を行うと、種々の液体材料の塗布膜に対して適切な量の蒸気を塗布範囲外周部に与えることができる。
【0019】
本発明において、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与する手段として、塗布範囲の外周部付近に、側面に微小な複数の穴を持ったパイプを設置し、そのパイプ内に溶媒蒸気を流すという方法を挙げることができる。このような手段を採用すると、パイプ側面の穴から溶媒蒸気が噴霧され、塗布範囲の外周部近傍の蒸気圧勾配を低減して蒸発速度を均一化することができる。また、溶媒蒸気付与手段として穴付きのパイプを設置する場合、塗布範囲の外周部からの距離及びパイプ内を通す溶媒蒸気の流量を制御するようにすれば、種々の液体材料の塗布膜に対して適切な量の蒸気を塗布範囲外周部に与えることができる。
【0020】
本発明において、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与する手法として、外周部近傍に液体材料もしくはその溶媒のみを染み込ませた部材を設置すると、液体材料もしくは溶媒からの蒸気で塗布範囲内の蒸発速度が均一化される。また、塗布範囲の外周部付近に液体材料もしくはその溶媒のみを染み込ませた部材を設置する際に、基板からの距離及び含ませる液体の量を制御するようにすれば、乾燥が進んだ段階でも蒸発速度を一定とするのに適した蒸気を塗布範囲外周部に与えることができる。
【0021】
本発明において、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させることで塗布範囲内での蒸発速度を均一化した状態で、非接触式または接触式の全面加熱手段を用いて蒸発を促進することが好ましい。すなわち、塗布範囲外周部近傍に溶媒蒸気を付与した状態では外部からの加熱等を行わなくても均一に蒸発は進むが、全面加熱を行うことで乾燥工程に必要な時間を短縮できる。特に接触式の全面加熱は加熱効率がよく、短時間での乾燥が可能となる。
【0022】
このように全面加熱手段により蒸発を促進する場合、全面加熱手段を設置する際の基板からの距離及び加熱温度を制御できるように構成すれば、塗布膜の急激な加熱による塗布膜表面でのひび割れや皺の発生を抑えることが可能な条件での加熱乾燥が可能となり、短時間で表面性の良い製品が得られる。また、全面加熱手段を、基板の上側もしくは下側に設置すると、基板上の塗布範囲全体の蒸発速度を加速することが可能になる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、液体材料を塗布した基板を乾燥させる際に、本来溶媒蒸気圧勾配が大きくて溶媒の蒸発速度が速い塗布領域の外周部に溶媒蒸気を外部から付与し、そこでの蒸気圧勾配を塗布領域の内部と均一化させるので、塗布領域内の蒸発速度差を低減させることができる。その結果、塗付領域内で乾燥が均一な速度で進むようになり、平坦性の良い基板を得ることができる。しかも、本発明は、小型で単純な装置によって実現可能であり、形状の異なった塗布膜にも対応し易く、安価に平坦性のよい基板を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明の乾燥方法(乾燥装置)を、カラーフィルタ用基板の製造工程のうち、インクを塗布した基板の乾燥工程に適用した場合の例を以下に説明する。
【0026】
−乾燥装置−
まず、本発明の乾燥装置の具体的な例を図1を参照しながら説明する。
【0027】
この例の乾燥装置は、カラーフィルタ用基板1を載置するステージ2、ステージ2上のカラーフィルタ用基板1をXY方向に移動する移動機構3a、ステージ2上のカラーフィルタ用基板1をZ軸廻りに回転する回転機構3b、これら移動機構3a及び回転機構3bの駆動を制御する制御装置4、ヒータなどの加熱手段5、加熱手段5を上下に移動させる高さ調整機構6、加熱手段5の温度を制御する温度制御装置7などによって構成されている。
【0028】
なお、この例において、ステージ2上に載置される基板1に溶媒蒸気を付与して蒸気圧勾配を低減するための溶媒蒸気付与手段8は、ステージ2上のカラーフィルタ用基板1の外周部に対向する位置に配置される(配置方法は後述する)。
【0029】
−カラーフィルタ用基板−
図2は、本発明の乾燥方法(乾燥装置)を適用するカラーフィルタ用基板の概略平面図である。また、図3はA−A′線概略断面図である。
【0030】
図2に示すように、カラーフィルタ用基板1には、インク配置領域1aとバンク1bとが多数隣接して配置されており、そのインク配置領域1aに、カラーフィルタ用液体材料を配置することによりカラーフィルタが作製される。また、バンク1bは、液体状態である液体材料がインク配置領域1aから外に流れ出すことを防ぐ部材であり、このバンク1bに囲まれた部分が液体材料の塗布領域である。その塗布領域の外周部に溶媒蒸気を付与するために、塗布領域外の領域(以下、インク配置領域9という)にもインク10を配置する。
【0031】
なお、この例において、カラーフィルタ用基板1のインク配置領域12aに配置される液体材料は、赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の各色の液体材料である。また、この例では、液体材料の塗布方法としてインクジェット方式を採用している。
【0032】
−乾燥方法の実施例−
次に、図1に示す乾燥装置を用いて、カラーフィルタ用基板1上に形成された塗布膜を乾燥させる方法について説明する。
【0033】
まず、ステージ2上にカラーフィルタ用基板1を載置してインクを配置する。この例では、前記したように、液体材料(インク)は赤色(R)、緑色(G)、青色(B)の三色である。
【0034】
また、それら三色のインクを吐出することが可能な吐出ヘッド(図示せず)がステージ2の上方に固定されており、その吐出ヘッドからインクを、ステージ2上のカラーフィルタ用基板1に向けて連続的に吐出させながら、カラーフィルタ用基板1をステージ2の移動機構3a及び回転機構3bによって移動することにより、カラーフィルタ用基板1のインク配置領域1a及びインク配置領域9にライン状にインクを配置する。具体的には、図2に示すように、カラーフィルタ用基板1上のインク配置領域9(塗布領域外の領域)に、溶媒蒸気付与手段としてインク10を配置し、その後に、塗布領域内のインク配置領域1aに三色のインクを交互に配置する。
【0035】
なお、インク配置領域9に配置するインク10の単位長さ当りの量は、各インク配置領域1aと等しくなるように設定している。また、この例では、図2に示すように、バンク1bを多数持つカラーフィルタ用基板1を対象としているので、インク配置領域9(塗布領域外の領域)はバンク1bの長さ方向の端部にのみ設定している。その理由は、バンク1bの幅方向に関してはインクの流動がバンク1bに妨げられて起こりにくく、通常の乾燥方法でも端部の盛り上がりは比較的少ないためである。
【0036】
ここで、単に、塗布領域内にインクを配置し、全面加熱等の方法で乾燥を行うと、乾燥後の形状として塗布膜の外周部に盛り上がりができることが確認されている。これは塗布領域の外周部では、それ以外の部分と比較して蒸発速度が速いことが原因である。蒸発速度は、その位置での蒸気圧勾配に比例することが知られており、蒸発速度を等しくするには蒸気圧勾配を均一にする必要があり、この実施例1では、塗布領域外にインク10を配置することで塗布領域内の蒸気圧勾配を均一化している。
【0037】
図4及び図5は、それぞれ、塗布領域外部にインクを配置しない場合と、インクを配置した場合について、蒸発速度分布シミュレーションにより算出した結果を示すグラフである。図4及び図5の各グラフにおいて、縦軸は塗布領域中央の蒸発速度を1とした際の蒸発速度比を表しており、横軸は塗布領域中央の位置を0とした際の基板上での位置(単位はmm)を表している。また、塗布領域の幅は60mmを想定しているため、横軸で30mm及び−30mmの位置が塗布領域の外周部となる。
【0038】
次に、乾燥方法のより具体的な例を説明する。
【0039】
まず、インク配置領域1a及びインク配置領域9にインクを配置したカラーフィルタ用基板1を上方にある加熱手段5により加熱することで塗布膜の乾燥を行った。塗布膜表面から加熱手段5までの距離は1cmとし、加熱手段5の温度を200℃に保つように設定した状態で15分の加熱乾燥を継続した。塗布領域のインク配置領域1aと塗布領域外のインク配置領域9との間の距離は0.5mmとした。
【0040】
そして、上記実施例の乾燥方法で乾燥を行ったカラーフィルタと、塗布領域外(インク配置領域9)にインクを配置せずに上面からの全面加熱で乾燥を行った場合(のカラーフィルタについて端部の平坦性を比較したところ、この実施例の乾燥結果は、塗布領域外にインクを配置しない場合と比べて、塗布膜外周部盛り上がりが三割以上小さくなっていることが確認できた。従って、上記実施例の方法で塗布膜を乾燥させることで、乾燥後の形状が向上することが明らかになった。また、上面からの全面加熱による乾燥方法のみでなく、ホットプレートによる下面からの接触式の全面加熱で比較した場合でも同様の結果が得られた。
【0041】
以上の結果から、従来の乾燥方法つまり簡易で効率の良いホットプレートによる加熱乾燥では平坦性の良い基板は得られにくかったが、この実施例1のように、塗布領域での蒸気圧勾配を均一化することにより、簡易な装置によって短時間で平坦性の良い基板が得られることがわかる。
【0042】
なお、インク配置領域9を設定する位置は任意であり、インク配置機構(インク吐出ヘッド等)の配置精度のマージンに入る限り、インク配置領域9を塗布領域側に近づけることが可能である。インク配置領域9の位置と塗布領域との距離は近い方が、塗布領域の外周部に付与される溶媒蒸気の圧力は高くて外周部の蒸発速度を抑える効果が大となる。また、インク配置領域9をさらに近づければ、塗布領域の外周部の盛り上がりはさらに小さくできると考えられる。
【0043】
なお、以上の実施例では、塗布領域外(インク配置領域9)に塗布領域内と同質のインクを配置しているので、塗布領域外に液体材料の固形成分である顔料が残るが、製品品質に影響しないので問題はない。また、液体材料の固形成分が残ると製品品質が低下するという場合は、液体材料の溶媒のみを配置すればよい。すなわち、溶媒のみを配置した場合でも、溶媒蒸気圧を付与するという効果を達成することができ、しかも、乾燥後には溶媒は全て蒸発して後には何も残らなくなる。
【0044】
以上の実施例によれば、一般的に行われているような基板への液体材料の配置と加熱乾燥という単純な工程のみで、基板側及び加熱手段側に特別な加工を要することなく、材料配置工程で塗布範囲外にも材料を配置するだけで平坦性を向上させることができる。また、平坦性のよい塗布膜を得るために減圧による乾燥方法が採用される場合もあるが、本実施例では、減圧乾燥のように基板全体を密閉し減圧するような大きな装置も不要であり、減圧工程に長い時間がかかることもない。従って、簡易な装置によって短時間で平坦性良く塗布膜を乾燥させることができる。
【実施例2】
【0045】
本発明の乾燥方法(乾燥装置)を、カラーフィルタ用基板の製造工程のうち、インクを塗布した基板の乾燥工程に適用した場合の他の例を以下に説明する。
【0046】
まず、この例では、カラーフィルタ用基板1の配置領域1aへ三色のインクを配置していくが、この例で実施するインク配置領域1aへのインクの配置方法は、前記した実施例1に示した方法と同一であるので、その詳細な説明は省略する。
【0047】
この例では、溶媒蒸気付与手段として、図6に示すような貫通穴12が側面に加工されたパイプ11を用いる点に特徴がある。その具体的な実施例を以下に説明する。
【0048】
この実施例では、カラーフィルタ用基板1の配置領域1aにインクを配置した後に、塗布領域外側に溶媒蒸気付与手段として前記したパイプ11を配置し、そのパイプ11内に溶媒蒸気を流す。なお、この例でも、前記した実施例1と同様に、インク配置領域1aの長さ方向の両端のみに、溶媒蒸気付与手段としてのパイプ11を設置する。
【0049】
以上の設置状態で、カラーフィルタ用基板1の上面から加熱手段(ヒータ)5を用いて加熱乾燥を行う。パイプ11の設置位置は、パイプ側面の貫通穴12と塗布範囲外周部との間の距離が1cmとなるように設定した。加熱手段5の温度は200℃、加熱乾燥時間は15分とした。
【0050】
ここで、乾燥工程中においてパイプ11の内部に溶媒蒸気を流すと、パイプ側面の貫通穴12から溶媒蒸気が噴出し、その溶媒蒸気の噴出により、通常では溶媒蒸気圧が塗布領域内の他の部分と比較して低い塗布領域外周部に溶媒蒸気が付与され、塗布領域内での蒸気圧勾配が均一化される。このように蒸気圧勾配が均一化されることは、塗布領域内での蒸発速度分布が均一化されることと等しい。
【0051】
なお、この実施例2のように、溶媒蒸気付与手段として貫通穴12付きのパイプ11を用いる場合、前記した実施例1の場合と比較して、装置の形状寸法・コストはともに増大するが、貫通穴12付きのパイプ11を使用した場合、乾燥工程中において付与する溶媒蒸気の量を制御できるという利点がある。
【0052】
また、塗布膜の蒸発速度に大きく影響する塗布膜表面近傍の溶媒蒸気分布は、時間の経過とともに変化していく。前記した実施例1で示したように、塗布領域外にインクを配置する手法では、インク配置時に配置するインクの量を変えることでしか付与する蒸気の大きさを制御できなかったのに対し、この実施例2では乾燥工程中において付与する溶媒蒸気の量を自由に制御できる点で優位である。ただし、時間経過に伴う蒸気圧分布及び蒸気圧勾配の変化を把握する必要がある。
【0053】
ここで、この実施例2の乾燥方法においでカラーフィルタ用基板を乾燥させた場合の結果と、パイプから溶媒蒸気付与を行わずに上面からの全面加熱のみで乾燥させた場合の結果の平坦性を比較したところ、この実施例2の乾燥方法により乾燥を行ったカラーフィルタ用基板においては、塗布領域内の外周部での盛り上がりが、溶媒蒸気付与を行わず乾燥を行った基板と比較して三割程度低減されることがわかった。また、上面からの全面加熱による乾燥方法のみでなく、ホットプレートによる下面からの接触式の全面加熱で比較した場合でも同様の結果が得られた。
【0054】
以上の結果から、従来の乾燥方法つまり簡易で効率の良いホットプレートによる加熱乾燥では平坦性の良い基板は得られにくかったが、この実施例2のように、塗布領域での蒸気圧勾配を均一化することにより、簡易な装置によって短時間で平坦性の良い基板が得られることがわかる。
【0055】
なお、以上の実施例では、パイプと塗布膜表面の間の距離を1cmに設定したが、これを縮めることにより、さらに乾燥後の外周部の盛り上がりを小さくすることも可能であると考えられる。
【実施例3】
【0056】
本発明の乾燥方法(乾燥装置)を、カラーフィルタ用基板の製造工程のうち、インクを塗布した基板の乾燥工程に適用した場合の別の例を以下に説明する。
【0057】
まず、この例では、カラーフィルタ用基板1の配置領域1aへ三色のインクを配置していくが、この例で実施するインク配置領域1aへのインクの配置方法は、前記した実施例1に示した方法と同一であるので、その詳細な説明は省略する。
【0058】
この実施例では、溶媒蒸気付与手段として、図7に示すような棒状部材22に浸透性部材23を固定した溶媒保持機構21を用いる点に特徴がある。その具体的な実施例を以下に説明する。
【0059】
この例では、カラーフィルタ用基板1の配置領域1aへのインクの配置の後に、塗布領域外側に溶媒蒸気付与手段として前記した溶媒保持機構21を設置する。この例では溶媒保持機構21の浸透性部材23として布を用いている。その布には、あらかじめ液体材料の溶媒のみを染み込ませておき、前記した実施例1及び実施例2と同様にインク配置領域1aの長さ方向の両端に設置する。
【0060】
ここで、前記した実施例1では溶媒をカラーフィルタ用基板1上に配置し、その水平面内での配置位置を変えることが可能であるのに対し、この実施例3では、溶媒保持機構21の設置位置及びその高さを変えることで、塗布領域外への溶媒配置位置を水平方向及び垂直方向に任意に設定することができる。なお、設置位置の調整は位置調節機構24にて行う。
【0061】
そして、この実施例において、溶媒保持機構21を塗布領域近傍に設置した状態で上面からの全面加熱により乾燥を行った。この乾燥方法による乾燥結果と、溶媒を塗付領域近傍に保持せずに上面から全面加熱した乾燥結果とを比較したところ、この実施例3での乾燥結果の方が外周部の盛り上がりを二割程度低減できることがわかった。また、加熱方法をホットプレートによる下面からの接触式の全面加熱で比較した場合でも同様の結果が得られた。
【0062】
以上の結果から、従来の乾燥方法つまり簡易で効率の良いホットプレートによる加熱乾燥では平坦性の良い基板は得られにくかったが、この実施例3のように、塗布領域での蒸気圧勾配を均一化することにより、簡易な装置によって短時間で平坦性の良い基板が得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、カラーフィルタ用基板の製造工程などにおいて、基板上に塗布された液体材料の塗布膜を加熱により乾燥させるのに有効に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の乾燥装置の一例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明の乾燥方法を適用するカラーフィルタ用基板の概略平面図である。
【図3】図2のA−A’線概略断面図である。
【図4】塗布領域外にインクを配置しない場合の蒸発速度分布を示すグラフである。
【図5】塗布領域外にインクを配置した場合の蒸発速度分布を示すグラフである。
【図6】本発明に用いる溶媒蒸気噴霧用のパイプの斜視図である。
【図7】本発明に用いる溶媒保持機構の概略構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0065】
1 カラーフィルタ用基板
1a インク配置領域
1b バンク
2 ステージ
3a 移動機構
3b 回転機構
4 制御装置
5 加熱手段
6 高さ調整機構
7 温度制御装置
8 溶剤蒸気付与手段
9 塗布領域外のインク配置領域
10 塗布領域外のインク
11 パイプ(溶媒蒸気噴霧用)
12 貫通穴
21 溶媒保持機構
22 棒状部材
23 浸透性部材
24 位置調節機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に塗布された液体材料を乾燥させる際に、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させ、塗付範囲内での蒸発速度を均一化することを特徴とする乾燥方法。
【請求項2】
基板上に塗布された液体材料を乾燥させるのに用いられる乾燥装置であって、塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させるとともに、前記塗布範囲内での蒸発速度を均一化する手段を備えていることを特徴とする乾燥装置。
【請求項3】
前記溶媒蒸気付与の方法として塗布範囲の外側近傍に液体材料またはその溶媒のみを塗布することで塗布範囲内での蒸発速度を均一化することを特徴とする請求項1記載の乾燥方法または請求項2記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記溶媒蒸気付与において塗布範囲の外側近傍に液体材料またはその溶媒のみを配置するにあたりその量及び塗布範囲からの距離を制御することを特徴とする請求項3記載の乾燥方法または乾燥装置。
【請求項5】
前記溶媒蒸気付与の方法として塗布範囲の外周部付近に、微小な複数の穴が側面に形成されたパイプを設置し、そのパイプ内に溶媒蒸気を通すことにより前記塗布範囲内での蒸発速度を均一化することを特徴とする請求項1記載の乾燥方法または請求項2記載の乾燥装置。
【請求項6】
前記溶媒蒸気付与の方法として塗布範囲の外周部付近に設置するパイプの塗布範囲からの距離及びパイプ内に通す溶媒蒸気の流量を制御することを特徴とする請求項5記載の乾燥方法またはそのような機能を備えた乾燥装置。
【請求項7】
前記溶媒蒸気付与の方法として塗布範囲の外周部近傍に、液体材料またはその溶媒のみを染み込ませた部材を設置することを特徴とする請求項1記載の乾燥方法または請求項2記載の乾燥装置。
【請求項8】
前記溶媒蒸気付与において塗布範囲の外周部付近に設置する部材の基板からの距離及びその部材に含ませる液体または溶媒の量を制御することを特徴とする請求項7記載の乾燥方法またはそのような機能を備えた乾燥装置。
【請求項9】
塗布範囲の外周部に液体材料の溶媒蒸気を付与しながら乾燥させ、前記塗布範囲内での蒸発速度を均一化した状態で、非接触式または接触式の全面加熱手段を用いて蒸発を促進することを特徴とする請求項1記載の乾燥方法または請求項2記載の乾燥装置。
【請求項10】
前記乾燥方法において全面加熱手段を設置する際の前記基板からの距離及び加熱温度を制御することを特徴とする請求項9記載の乾燥方法または乾燥装置。
【請求項11】
前記全面加熱手段が前記基板の上側または下側に設置することを特徴とする請求項9記載の乾燥方法または乾燥装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−223988(P2006−223988A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−40803(P2005−40803)
【出願日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】