説明

予備重合触媒成分の製造方法及びプロピレン系重合体の製造方法

【課題】生成するプロピレン系重合体中に含まれる微粉の量を十分に低減し、目的とするプロピレン系重合体を安定して製造できる予備重合触媒成分の製造方法を提供すること。
【解決手段】
プロピレン系モノマーの不存在下、有機アルミニウム化合物と、チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分とを接触させて接触処理物を調製する接触処理物調製工程と、接触処理物とプロピレン系モノマーとを接触させ、その後、プロピレン、系モノマーの存在下、接触処理物に、有機アルミニウム化合物を更に接触させて予備重合用触媒を調製する予備重合用触媒調製工程と、予備重合用触媒と電子供与体化合物とを接触させて、プロピレン系モノマーを重合して予備重合触媒成分を調製する予備重合触媒成分調製工程とを備える予備重合触媒成分の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予備重合触媒成分の製造方法及びプロピレン系重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、耐熱性、剛性に優れるため、バンパーやドアトリムなどの自動車部品、食品包装容器などの各種包装容器など、種々の用途に用いられている。該プロピレン系重合体の製造方法としては、マグネシウム、チタン、ハロゲン及び電子供与性化合物を含有する固体触媒成分に、有機アルミニウム、次いで電子供与体化合物を接触させて得られる予備重合用触媒を用いてプロピレンの予備重合を行った後、該予備重合により得られる固体触媒成分を重合触媒成分として用いて、プロピレンとエチレンとを共重合する方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献2では、プロピレンの存在下、マグネシウム、チタン及びハロゲンを含有する固体触媒成分と有機アルミニウム化合物とを接触させて予備重合を行い形成したプロピレン予備重合触媒を用い、プロピレンの重合を連続的に行うことが開示されている。さらに、特許文献3では、マグネシウム、チタン及びハロゲンを含有する固体触媒成分と電子供与体化合物とを接触させ、次いで、有機アルミニウム化合物を接触させて得られる予備重合用触媒を用いてプロピレンを予備重合させて作製される予備重合触媒成分を用いて、プロピレン系重合体を製造することが開示されている。
【特許文献1】特開平10−168142号公報
【特許文献2】特開平10−120720号公報
【特許文献3】特開2006−8921号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、予備重合により得られる固体触媒成分(以下、「予備重合触媒成分」と称する。)を重合触媒成分として用いた従来のプロピレン系重合体の製造では、重合条件によっては、リアクター内で微粉が多量に生成し、熱交換器のチューブに付着し重合熱の除熱効率を低下させたり、重合系内の小口径配管に付着堆積し、流体の流れを遮ったりして製造の安定運転を阻害することがある。
【0005】
そこで、本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生成するプロピレン系重合体中に含まれる微粉の量を十分に低減し、目的とするプロピレン系重合体を安定して製造できる予備重合触媒成分の製造方法、及び該製造方法により作製される予備重合触媒成分を用いたプロピレン系重合体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの不存在下、有機アルミニウム化合物と、チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分とを接触させて接触処理物を調製する接触処理物調製工程と、上記接触処理物とプロピレンとを接触させ、又は、上記接触処理物とプロピレン及びプロピレン以外のオレフィンとを接触させ、その後、プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの存在下、上記接触処理物に、有機アルミニウム化合物を更に接触させて予備重合用触媒を調製する予備重合用触媒調製工程と、上記予備重合用触媒と電子供与体化合物とを接触させて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを共重合して予備重合触媒成分を調製する予備重合触媒成分調製工程とを備え、接触処理物調製工程で用いられる有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の量が、固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、0.01〜0.5モルである予備重合触媒成分の製造方法を提供する。
【0007】
上記工程を備える製造方法により得られる予備重合触媒成分を用いて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを共重合することにより、生成ポリマー中に含まれる微粉の量を十分に低減し、目的とするポリマーを安定して製造できる。
【0008】
本発明の予備重合触媒成分の製造方法において、接触処理物調製工程及び予備重合用触媒調製工程でそれぞれ用いられる有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の総量が、固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、1.5〜10モルであることが好ましい。
【0009】
上記予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合の温度は20℃以下であることが好ましい。これにより得られる予備重合触媒成分は、生成ポリマー中に含まれる微粉の量をより一層低減することができる。
【0010】
本発明は、また、上記予備重合触媒成分の製造方法により得られる予備重合触媒成分を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備えるプロピレン系重合体の製造方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、上記予備重合触媒成分の製造方法により得られる予備重合媒成分に、有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物を更に接触処理してなる重合触媒を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備える、プロピレン系重合体の製造方法を提供する。
【0012】
このようなプロピレン系重合体の製造方法を用いることにより、生成ポリマー中に含まれる微粉の量を十分に低減できる。そして、リアクター内で微粉が多量に生成し、熱交換器のチューブに付着することによる重合熱の除熱効率の低下や、重合系内の小口径配管に微粉が付着堆積し、液体の流れを遮ることを防ぐことができるため、安定したプロピレン系重合体の連続重合が可能となる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、生成するプロピレン系重合体中に含まれる微粉の量を十分に低減し、目的とするプロピレン系重合体を安定して製造できる予備重合触媒成分の製造方法、該製造方法により製造されてなる予備重合触媒成分を用いるプロピレン系重合体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0015】
[予備重合触媒成分の製造方法]
本発明の予備重合触媒成分の製造方法は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの不存在下、有機アルミニウム化合物と、チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分とを接触させて接触処理物を調製する接触処理物調製工程と、上記接触処理物とプロピレンとを接触させ、又は、上記接触処理物とプロピレン及びプロピレン以外のオレフィンとを接触させ、その後、プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの存在下、上記接触処理物に、有機アルミニウム化合物を更に接触させて予備重合用触媒を調製する予備重合用触媒調製工程と、上記予備重合用触媒と電子供与体化合物とを接触させて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを共重合して予備重合触媒成分を調製する予備重合触媒成分調製工程とを備えるものである。
【0016】
(電子供与体化合物)
電子供与体化合物としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体等の一般的に使用されるものを挙げることができる。これらの中でも、電子供与体化合物は、無機酸のエステル類又はエ−テル類であることが好ましい。
【0017】
上記無機酸のエステル類としては、下記一般式(1)で表されるケイ素化合物であることが好ましい。
Si(OR4−n …(1)
【0018】
式(1)中、Rは水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を示し、nは0〜3の整数を示す。このような無機酸のエステル類として、例えば、テトラブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシランが挙げられる。
【0019】
上記エ−テル類としては、ジアルキルエーテル及び下記一般式(2)で表されるジエーテル化合物が挙げられる。
【化1】

【0020】
式(2)中、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜20の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、脂環式炭化水素基、アリール基又はアラルキル基を示す。上記エーテル類の具体例としては、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパンが挙げられる。
【0021】
これらの電子供与体化合物のうち、下記一般式(3)で表されるケイ素化合物が特に好ましく用いられる。
Si(OR…(3)
【0022】
式(3)中、RはSiに隣接する炭素原子が2級又は3級の炭素数3〜20の炭化水素基を示す。Rとして具体的には、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基が挙げられる。また、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等挙げられる。さらに、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を示し、炭素数1〜5の炭化水素基であることが好ましい。
【0023】
一般式(3)で表されるケイ素化合物の具体例としては、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシランを挙げることができる。電子供与体化合物は、1種を単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0024】
(固体触媒成分)
チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分としては、一般にチタン・マグネシウム複合型触媒と呼ばれているものを使用することができ、チタン化合物、マグネシウム化合物及び電子供与体を接触させることにより得ることができる。
【0025】
上記チタン化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表されるチタン化合物を挙げることができる。
Ti(OR104−a…(4)
【0026】
式(4)中、R10は炭素数が1〜20の炭化水素基を示し、Xはハロゲン原子を示し、aは0〜4の整数を示す。このようなチタン化合物としては、例えば、四塩化チタン等のテトラハロゲン化チタン化合物;エトキシチタントリクロライド、ブトキシチタントリクロライド等のトリハロゲン化アルコキシチタン化合物;ジエトキシチタンジクロライド、ジブトキシチタンジクロライド等のジハロゲン化ジアルコキシチタン化合物;トリエトキシチタンクロライド、トリブトキシチタンクロライド等のモノハロゲン化トリアルコキシチタン化合物;テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン化合物が挙げられる。これらのチタン化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
上記マグネシウム化合物としては、例えば、マグネシウム−炭素結合やマグネシウム−水素結合を持ち、還元能を有するマグネシウム化合物、あるいは、還元能を有さないマグネシウム化合物が挙げられる。還元能を有するマグネシウム化合物の具体例としては、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム等のジアルキルマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムクロライド等のアルキルマグネシウムハライド化合物;ブチルエトキシマグネシム等のアルキルアルコキシマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムハイドライド等のアルキルマグネシウムハイドライドが挙げられる。これらの還元能を有するマグネシウム化合物は、有機アルミニウム化合物との錯化合物の形態で用いてもよい。
【0028】
一方、還元能を有さないマグネシウム化合物の具体例としては、マグネシウムジクロライド等のジハロゲン化マグネシウム化合物;メトキシマグネシウムクロライド、エトキシマグネシウムクロライド、ブトキシマグネシウムクロライド等のアルコキシマグネシウムハライド化合物;ジエトキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム化合物;ラウリル酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウムのカルボン酸塩が挙げられる。これらの還元能を有さないマグネシウム化合物は、予め又は固体触媒成分の調製時に、還元能を有するマグネシウム化合物から公知の方法で合成したものであってもよい。
【0029】
上記電子供与体としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体;有機酸ハライド類を挙げることができる。これらの電子供与体のうち、無機酸のエステル類、有機酸のエステル類又はエーテル類を用いることが好ましい。
【0030】
無機酸のエステル類としては、下記一般式(5)で表されるケイ素化合物が好ましい。
11Si(OR124−b …(5)
【0031】
式(5)中、R11は水素原子又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、R12は炭素数1〜20の炭化水素基を示す。また、bは0〜3の整数を示す。一般式(5)表されるケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルエチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジ−t−ブチルジエトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ブチルエチルジエトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシランが挙げられる。
【0032】
有機酸のエステル類としては、モノ及び多価のカルボン酸エステルが好ましく、例えば、脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルが挙げられる。より具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチル等が挙げられる。有機酸のエステル類としては、メタクリル酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステル及びマレイン酸エステル等のフタル酸エステルであることが好ましく、フタル酸ジエステルであることがより好ましい。
【0033】
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルイソブチルエーテル等のジアルキルエーテルが挙げられる。この中でも、エーテル類は、ジブチルエーテル又はジイソアミルエーテルであることが好ましい。
【0034】
有機酸ハライド類としては、モノ及び多価のカルボン酸ハライド等が挙げられ、例えば、脂肪族カルボン酸ハライド、脂環式カルボン酸ハライド、芳香族カルボン酸ハライド等を用いることができる。有機酸ハライド類の具体例としては、アセチルクロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、吉草酸クロライド、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、アニス酸クロライド、コハク酸クロライド、マロン酸クロライド、マレイン酸クロライド、イタコン酸クロライド、フタル酸クロライドを挙げることができる。有機酸ハライド類は、塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、フタル酸クロライド等の芳香族カルボン酸クロライドであることが好ましく、フタル酸クロライドであることがより好ましい。
【0035】
上記固体触媒成分の調製方法としては、例えば、下記(1)〜(9)に示す方法を用いることができる。
(1)液状のマグネシウム化合物、又はマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物を析出化剤と反応させたのち、チタン化合物、又はチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。
(2)固体のマグネシウム化合物、又は固体のマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物を、チタン化合物、又はチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。
(3)液状のマグネシウム化合物と、液状チタン化合物とを、電子供与体の存在下で反応させて固体状のチタン・マグネシウム複合体を析出させる方法。
(4)上記方法(1)、(2)又は(3)で得られた反応生成物を、チタン化合物、又は電子供与体及びチタン化合物で更に処理する方法。
(5)Si−O結合を有する有機ケイ素化合物の共存下、アルコキシチタン化合物をグリニャール試薬等の有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物、エーテル化合物及び四塩化チタンで処理する方法。
(6)有機ケイ素化合物、又は有機ケイ素化合物及びエステル化合物の存在下、チタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物、次いで有機酸ハライド化合物の順で加えて処理したのち、該処理固体生成物をエーテル化合物と四塩化チタンとの混合物又はエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物との混合物で処理する方法。
(7)金属酸化物、ジヒドロカルビルマグネシウム及びハロゲン含有アルコ−ルの接触反応物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに、電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。
(8)有機酸のマグネシウム塩、アルコキシマグネシウム等のマグネシウム化合物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに、電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。
(9)上記方法(1)〜(8)で得られる化合物を、ハロゲン、ハロゲン化合物又は芳香族炭化水素のいずれかで処理する方法。
【0036】
これらの固体触媒成分の調製方法のうち、方法(1)〜(6)を用いることが好ましい。なお、上記固体触媒成分の調製は、通常、全て窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で行われる。
【0037】
固体触媒成分の調製において、チタン化合物、有機ケイ素化合物及びエステル化合物は、適当な溶媒に溶解又は希釈して使用することが好ましい。溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロへキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物が挙げられる。
【0038】
固体触媒成分の調製において、有機マグネシウム化合物を用いる還元反応の温度は、通常、−50〜70℃であることが好ましい。触媒活性の向上及び製造コストの低減の観点から、上記還元反応温度は、−30〜50℃であることがより好ましく、−25〜35℃であることがさらに好ましい。還元反応において有機マグネシウム化合物を反応系中に滴下する場合の滴下時間は、特に制限されないが、通常30分〜12時間程度である。また、還元反応終了後、更に20〜120℃で後反応を行ってもよい。
【0039】
上記還元反応の際に、無機酸化物、有機ポリマー等の多孔質物質を共存させ、固体生成物を多孔質物質に含浸させてもよい。多孔質物質としては、細孔半径20〜200nmにおける細孔容積が0.3ml/g以上であり、平均粒径が5〜300μmであるものが好ましい。多孔質無機酸化物としては、例えば、SiO、Al、MgO、TiO、ZrO又はこれらの複合酸化物が挙げられる。また、多孔質ポリマーとしては、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等のポリスチレン系多孔質ポリマー;ポリアクリル酸エチル、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体等のポリアクリル酸エステル系多孔質ポリマー;ポリエチレン、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系多孔質ポリマーが挙げられる。これらの多孔質物質のうち、SiO、Al、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体が好ましい。
【0040】
(有機アルミニウム化合物)
有機アルミニウム化合物は、分子内に少なくとも1つのAl−炭素結合を有するものであり、例えば、下記一般式(6)及び(7)で表される化合物が挙げられる。
13AlY3−m …(6)
1415Al−O−AlR1617 …(7)
【0041】
式(6)及び(7)中、R13、R14、R15、R16及びR17はそれぞれ独立に炭素数1〜8の炭化水素基を示し、Yはハロゲン原子、水素原子又はアルコキシ基を示し、mは2又3である。R13、R14、R15、R16及びR17はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0042】
有機アルミニウム化合物の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムハライド;トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物のようなトリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物;テトラエチルジアルモキサン、テトラブチルジアルモキサン等のアルキルアルモキサンが挙げられる。これらの有機アルミニウム化合物のうち、トリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物、アルキルアルモキサンが好ましく、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、又はテトラエチルジアルモキサンがより好ましい。これらの有機アルミニウム化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
(接触処理物調製工程)
接触処理物調製工程では、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの不存在下、有機アルミニウム化合物と、チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分とを接触し接触処理物を調製する。
【0044】
接触処理物の調製において、有機アルミニウム化合物の接触処理量は、有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の量が、固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、0.01〜0.5モルであり、0.05〜0.4モルであることが好ましく、0.07〜0.2モルであることがより好ましい。活性を十分に発現させるという観点から、上記アルミニウム原子の量は、0.05モル以上が好ましい。一方、微粉の生成量を抑えるという観点から、上記アルミニウム原子の量は、0.4モル以下が好ましい。
【0045】
(予備重合用触媒調製工程)
次いで、予備重合用触媒調製工程では、上記接触処理物と、プロピレンとを接触させ、又は、上記接触処理物と、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンとを接触させる。その後、プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの存在下、上記接触処理物に、有機アルミニウム化合物を更に接触処理して予備重合用触媒を調製する。この際、上記モノマー成分であるプロピレンの単独重合又は、プロピレンとプロピレン以外のオレフィンとの共重合がおこる。
【0046】
予備重合用触媒調製時に存在させるプロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンは、接触処理物中の固体触媒成分1g当たり、0.1〜20gであることが好ましく、0.2〜10gであることがより好ましく、0.3〜5gであることが更に好ましい。
【0047】
予備重合用触媒の調製で用いられる有機アルミニウム化合物の接触処理量は、上記接触処理物の調製で用いられる有機アルミニウム化合物の量に応じて適宜調製することが好ましい。すなわち、接触処理物の調製及び予備重合用触媒の調製でそれぞれ用いられる有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の総量は、接触処理物中の固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、1.5〜10モルであることが好ましく、2〜6モルであることがより好ましく、2.5〜5モルであることが更に好ましい。単独重合又は共重合の際に、予備重合触媒の破砕や重合活性の低下を防ぐという観点から、アルミニウム原子の総量は2モル以上が好ましい。一方、微粉の生成量を抑え、重合活性の低下を抑えるという観点から、アルミニウム原子の総量は6モル以下が好ましい。
【0048】
予備重合用触媒の製造において、接触処理物と有機アルミニウム化合物との接触処理は、通常、−15〜70℃で行われ、−10〜30℃であることが好ましく、−5〜20℃であることがより好ましい。
【0049】
上記プロピレン以外のオレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン等の炭素数2〜12(ただし炭素数3を除く)のオレフィンが挙げられる。プロピレン以外のオレフィンは、エチレンであることが好ましい。
【0050】
(予備重合触媒成分調製工程)
そして、予備重合触媒成分調製工程では、上記予備重合用触媒と、電子供与体化合物とを接触させて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを共重合することによって、予備重合触媒成分を製造する。
【0051】
予備重合触媒成分の調製において、電子供与体化合物の接触処理量と予備重合用触媒の接触処理量との割合としては、固体触媒成分中のチタン原子1モル当たり、電子供与体化合物が0.01〜30モルであることが好ましく、0.02〜20モルであることがより好ましく、0.06〜10モルであることが更に好ましい。プロピレン系重合体の規則性の低下を防ぐという観点から、電子供与体化合物の割合は、0.01モル以上が好ましい。一方、重合活性の低下を防ぐ観点から、電子供与体化合物の割合は、30モル以下が好ましい。
【0052】
本発明の予備重合触媒成分の製造方法において、予備重合用触媒を用いたプロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合は、公知の重合方法を用いることができる。
【0053】
重合方法としては、例えば、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、イソペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン等の不活性飽和炭化水素を溶媒とした溶液重合法;塊状重合法;気相重合法を用いることができる。また、これら重合方法は、回分式でも、半回分式でもよく、連続式でもよい。溶媒を用いて予備重合を行う場合、溶媒単位体積当たりの有機アルミニウム化合物の使用量は、通常5〜100mmol/Lであることが好ましく、10〜80mmol/Lであることがより好ましく、15〜60mmol/Lであることが更に好ましい。
【0054】
予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合を開始する時に存在させるプロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンは、予備重合用触媒中の固体触媒成分1g当たり、0.1〜20gであることが好ましく、0.2〜10gであることがより好ましく、0.3〜5gであることが更に好ましく、0.4〜2gであることが特に好ましい。
【0055】
プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを重合槽系内へ投入する方法は、プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを回分的に供給しても、予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合が終了するまで連続的に供給し続けても構わない。ただし、予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合が終了するまで系内にプロピレン、又は、プロピレン以外のオレフィンを存在させることが望ましい。なお、プロピレン以外のオレフィンとしては、例えば、予備重合用触媒の調製工程で例示したものが挙げられる。
【0056】
予備重合触媒成分調製工程における予備重合触媒成分中のプロピレン系重合体の含有量は、予備重合用触媒中の固体触媒成分1g当たり、通常0.1〜200gであり、好ましくは0.5〜50g、より好ましくは1〜10g、更に好ましくは3〜5gである。予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合の圧力は、通常2MPa以下であり、好ましくは1MPa以下である。予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合の温度は、通常−20〜80℃であり、好ましくは−10〜40℃、更に好ましくは−10℃〜20℃である。また、予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合では、水素などの連鎖移動剤を用いてもよい。
【0057】
以上のようにして、予備重合触媒成分の製造が完了する。
【0058】
[プロピレン系重合体の製造方法]
本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、上記予備重合触媒成分の製造方法により得られる予備重合触媒成分を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備えるものである。
【0059】
また、本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、上記予備重合触媒成分に、有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物を更に接触処理してなる重合触媒を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備えることもできる。
【0060】
このような有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物としては、上述した化合物と同様のものを用いることができる。また、プロピレン以外のオレフィンとしては、例えば、予備重合用触媒の調製工程で例示したものを用いることができる。
【0061】
プロピレン系重合体の製造において、有機アルミニウム化合物の使用量は、予備重合触媒成分中の固体触媒成分に含有されるチタン原子1モル当たり、1〜1000モルであることが好ましく、5〜800モルであることがより好ましい。また、電子供与体化合物の使用量は、予備重合触媒成分中の固体触媒成分に含有されるチタン原子1モル当たり、0.03〜500モルであることが好ましく、1〜200モルであることがより好ましく、10〜100モルであることが更に好ましい。
【0062】
予備重合触媒成分と、有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物との接触処理は、通常−30〜150℃で行われる。上記温度は、−15〜120℃であることが好ましく、−15〜100℃であることがより好ましい。
【0063】
なお、予備重合触媒成分と、有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物とは、あらかじめ接触処理してから重合反応器に供給してもよく、各成分を個別に供給してもよく、又は、任意の成分をあらかじめ接触してから供給してもよい。
【0064】
プロピレン系重合体の製造方法としては、バルク重合法、溶液重合法、スラリー重合法および気相重合法が挙げられる。バルク重合法とは、液状のオレフィンをモノマー兼媒体として重合を行なう方法であり、溶液重合法又はスラリー重合法とは、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の不活性炭化水素溶媒中で重合を行なう方法である。また気相重合法とは、気体状態のモノマーを媒体として、その媒体中で気体状態のモノマーを重合する方法である。これらの重合法は任意に組合せてもよく、これらの重合法は、回分式、半回分式、連続式のいずれでもよい。また、重合温度は、0〜200℃であることが好ましく、20〜100℃であることがより好ましい。重合圧力は、通常、常圧〜10MPa程度であり、0.2〜8MPaであることが好ましい。なお、重合体の分子量を調整するために、水素などの連鎖移動剤を用いることができる。
【0065】
本発明のプロピレン系重合体の製造方法は、プロピレン単独重合体、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−1−ブテン共重合体、プロピレン−エチレン−1−ブテン共重合体等のプロピレンに基づくモノマー単位の含有量が重合体全体を100質量%として、50質量%以上であるプロピレン系重合体の製造に好適に用いることができる。プロピレン系重合体が共重合体である場合、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
【0066】
このようなプロピレン系重合体の製造方法により、生成ポリマー中に含まれる微粉の量を十分に低減でき、リアクター内で微粉が多量に生成し、熱交換器のチューブに付着することによる重合熱の除熱効率の低下や、重合系内の小口径配管に微粉が付着堆積し、液体の流れを遮ることを防ぐことができるため、安定した連続重合が可能となる。
【0067】
予備重合用触媒調製工程、予備重合触媒成分調製工程、及び、本重合工程において、プロピレン、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンのいずれを用いるかはいずれも任意であり、必ずしも3つの工程でそれぞれ同一にする必要はない。また、予備重合用触媒調製工程、予備重合触媒成分調製工程、及び、プロピレン系重合体の製造工程における2つ以上の工程で、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを混合して用いる場合に、プロピレン以外のオレフィンの種類や、プロピレン以外のオレフィンのプロピレンに対する割合をそれぞれ独立に設定してもよい。
【実施例】
【0068】
以下、本発明の好適な実施例について更に具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
実施例における物性測定及び評価は、下記の方法で行った。
(固体触媒成分中のチタン原子含有量の測定)
固体触媒成分約20mgに、2規定(2N)希硫酸約30mLを加え、攪拌、超音波処理を行った後、3%過酸化水素水約3mLと2N希硫酸約17mLを加え、攪拌、超音波処理を行い、液状試料を得た。液状試料を分光光度法により分析し、410nmの特性吸収からチタン原子含有量(単位:質量%)を求めた。
【0070】
(微粉含量の測定)
作製したプロピレン系重合体の粒度分布及び吸光度を島津サイエンス社製レーザー回折式粒度分布測定器「SALD−2200」を用いて測定し、プロピレン系重合体に含まれる微粉を算出した。以下に詳細に説明する(参考文献:裳華房 機器分析 田中誠之・飯田芳雄 著)。
【0071】
プロピレン重合体サンプルの濃度を調整し、吸光度と微粉濃度の検量線を作成して、それを用いて微粉の定量を行う。平均粒径が異なると吸光度も異なってくることも予想されるため、粒径の異なるポリプロピレン重合体を用いて粒径の違いも考慮に入れた検量線を作成する。ここで、粒子濃度が小さく、二次的散乱が起こらない場合にはある波長の光(強さIo)と透過光(強さI)との間に下記式(11)の関係が成り立つ。
−log(I/Io)=−logT=At=τb …(11)
式(11)中、Atは濁りの吸光度すなわち濁度を表し、τは濁度係数、bはセルの長さである。τは粒子の濃度・大きさ・形、入射光の波長、粒子と溶媒の屈折率、測定器の構造による。他の条件を一定とすれは、ある範囲内で下記式(12)が成り立つ。
τ=k’c …(12)
ここでcは粒子濃度を示す。次に、式(12)を式(11)に代入すると、下記式(13)が得られる。
At=k’cb …(13)
bはセル長であり一定であることから、下記式(14)となり、粒子濃度と吸光度は直線関係が成り立つ。
At=kc …(14)
次に、係数kの粒径依存性を調べるために、粒径以外の因子(形状、屈折率等)を等しいと仮定し、粒径の異なるプロピレン重合体のサンプル4種類について粒子濃度と吸光度の関係を実験により求めた。結果を下記表1に示す。
【0072】
【表1】

【0073】
表1に基づき、各平均粒径とkとの関係をプロットし4点の近似線から平均粒径と係数kの関係を求めると、下記式(15)が得られる。
k=229.37Dp−1.5246 …(15)
ここでDpは平均粒径であり、近似線から乖離の少ない体積基準の平均粒径を用い、式(15)を式(14)に代入・変形し、検量線式となる下記式(17)が得られる。
c=0.0043Dp1.5246 …(17)
【0074】
測定用試料の調製方法は以下の通りに実施し、レーザー回折式粒度分布測定器を用いて微粉濃度を求めた。
1.プロピレン系重合体とエタノール溶液とでスラリーを作製(スラリー濃度0.3g/mL)する。
2.上記スラリーを超音波洗浄器(発振周波数38kHz)にて10分間処理し、微粉を分散させる。
3.10分間静置し、上澄み液をシリンジで採取し、125μm目開きのふるいで濾過する。
4.濾液をレーザー回折式粒度分布測定器で測定(吸光度測定)する。
5.吸光度から上記で求めた検量線式(17)を用い、溶液中の微分濃度を算出する。
6.溶液中の微粉濃度からプロピレン系重合体の中の微粉濃度を算出する。
【0075】
[重合体生成量]
ポリプロピレンの生成量(単位:g/g)を、予備重合触媒成分の固体触媒成分の単位質量当たりの量として表した。
【0076】
[極限粘度の測定]
ウベローデ型粘度計を用いて、テトラリン溶媒中、135℃の条件で、濃度0.1、0.2及び0.5g/dLの3点について還元粘度を測定した。次に、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版会社刊)第491頁に記載の計算法に従い、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって極限粘度(単位:dL/g)を求めた。
【0077】
実施例1
[固体触媒成分の準備]
200Lの攪拌機付きSUS製反応容器を窒素で置換した後、脱水・脱気処理したヘキサン80L、テトラブトキシチタン6.55モル、フタル酸ジイソブチル2.8モル及びテトラエトキシシラン98.9モルを投入し均一溶液とした。次に、濃度2.1モル/Lのブチルマグネシウムクロリドのジイソブチルエーテル溶液51Lを、反応容器内の温度を5℃に保ちながら5時間かけて徐々に滴下した。滴下終了後、室温で1時間攪拌し、固液分離した後、トルエン70Lで3回洗浄を行った。次いで、スラリー濃度が0.2kg/Lになるようにトルエンを加えた後、フタル酸ジイソブチル47.6モルを加え、95℃で30分間反応を行なった。反応後、固液分離し、トルエンで2回洗浄を行なった。次いで、フタル酸ジイソブチル3.13モル、ブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン274モルを加え、105℃で3時間反応を行なった。反応終了後、105℃のまま固液分離し、105℃でトルエン90Lでの洗浄を2回行なった。次いで、スラリー濃度を0.4kg/Lに調製した後、ブチルエーテル8.9モル及び四塩化チタン137モルを加え、105℃で1時間反応を行なった。反応終了後、105℃で固液分離し、105℃でトルエン90Lでの洗浄を3回行なった後、さらにヘキサン70Lで3回洗浄し、減圧乾燥して固体触媒成分11.4kgを得た。固体触媒成分のチタン原子含有量は2.0質量%であった。
【0078】
[予備重合触媒成分の製造]
3Lの攪拌機付きSUS製オートクレーブに、攪拌しながら、脱水・脱気処理したn−ヘキサン1Lを仕込み、液温度を25℃に保ち、トリエチルアルミニウム1.0mmolを添加し、更に上記固体触媒成分16g(チタン原子換算で6.68mmol)を添加し、トリエチルアルミニウムと上記固体触媒成分とを接触処理した。次に、プロピレンを6.4g供給した後、トリエチルアルミニウム19.0mmolを更に添加し上記プロピレンを重合した(予備重合用触媒の調整)。その後、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン2.0mmolを添加し、温度が重合熱で一旦上昇したが、急上昇がないことを確認しプロピレンの更なる供給を開始し予備重合を行った。プロピレンを連続的に供給し、液温度を25〜29℃に保ちながらトータルで40gを21分かけて供給した。30分間エージングを実施し、予備重合触媒成分(a)のスラリーを得た。スラリーから予備重合触媒成分(a)の一部を取り出して脱灰処理して、予備重合触媒成分(a)中のポリプロピレンの割合を求めたところ、ポリプロピレン/固体触媒成分は2.5g/gであった。
【0079】
[本重合]
200Lの攪拌機付きSUS製反応容器内をプロピレンで置換し、その後、重合系内を70℃に保ちながら、プロピレンを40kg/時間(h)、水素を230L/h、トリエチルアルミニウムを41.5mmol/h、シクロヘキシルエチルジメトキシシランを4.12mmol/hを連続的に供給し、系内の液レベルを50Lに設定しダミー運転を開始した。重合系内が安定したところで、上記予備重合触媒成分(a)のスラリーを予備重合触媒成分(a)として4.20g/hを連続的に供給した。滞留時間は0.56時間で、圧力は3.40MPaであり、重合によりポリプロピレンを7.3kg/hで得た。得られたポリプロピレンの物性およびポリプロピレン中の微粉含量を表2に示す。
【0080】
比較例1
[予備重合触媒成分の製造]
3Lの攪拌機付きSUS製オートクレーブに、攪拌させながら、脱水・脱気処理したn−ヘキサン1Lを仕込み、液温度を25℃に保ち、トリエチルアルミニウム20.0mmol、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン2.0mmolを添加した。次に、上記固体触媒成分16g(チタン原子換算で6.68mmol)を添加し接触処理した。その後、プロピレンを供給し予備重合を行った。プロピレンは連続的に供給され、液温度を25〜29℃に保ちながらトータルで40gを39分かけて供給された。30分間エージングを実施し、予備重合触媒成分(c)のスラリーを得た。スラリーから予備重合触媒成分(c)の一部を取り出して脱灰処理して、予備重合触媒成分(c)中のポリプロピレンの割合を求めたところ、ポリプロピレン/固体触媒成分は2.5g/gであった。
【0081】
[本重合]
200Lの攪拌機付きSUS製反応容器内をプロピレンで置換し、その後、重合系内を70℃に保ちながら、プロピレンを40kg/h、水素を230L/h、トリエチルアルミニウムを41.4mmol/h、シクロヘキシルエチルジメトキシシランを4.15mmol/hを連続的に供給し、系内の液レベルを50Lに設定しダミー運転を開始した。重合系内が安定したところで、上記予備重合触媒成分(c)のスラリーを予備重合触媒成分(c)として3.78g/Hを連続的に供給した。滞留時間は0.56hで、圧力は3.27MPaであり、重合によりポリプロピレンを7.7kg/hで得た。得られたポリプロピレンの物性及びポリプロピレン中の微粉含量を表2に示す。
【0082】
比較例2
[予備重合触媒成分の製造]
3Lの攪拌機付きSUS製オートクレーブに、攪拌させながら、脱水・脱気処理したn−ヘキサン1Lを仕込み、液温度を25℃に保ち、上記固体触媒成分16g(チタン原子換算で6.68mmol)を添加し、次にプロピレンを6.4g供給した。その後トリエチルアルミニウム25.0mmol、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン2.5mmolを添加し予備重合を開始した。温度が重合熱で一旦上昇したが、急上昇がないことを確認しプロピレンの供給を開始し、液温度を25〜29℃に保ちながらトータルで40gを25分かけて供給した。30分間エージングを実施し、予備重合触媒成分(d)のスラリーを得た。該スラリーから予備重合触媒成分(d)の一部を取り出して脱灰処理して、予備重合触媒成分(d)中のポリプロピレンの割合を求めたところ、ポリプロピレン/固体触媒成分は2.5g/gであった。
【0083】
[本重合]
200Lの攪拌機付きSUS製反応容器内をプロピレンで置換し、その後、重合系内を70℃に保ちながら、プロピレンを40kg/h、水素を205L/h、トリエチルアルミニウムを41.3mmol/h、シクロヘキシルエチルジメトキシシランを4.26mmol/hを連続的に供給し、系内の液レベルを50Lに設定しダミー運転を開始した。重合系内を安定させたところで、上記予備重合触媒成分(d)のスラリーを予備重合触媒成分(d)として3.22g/hを連続的に供給した。滞留時間は0.52hで、圧力は3.35MPaであり、重合によりポリプロピレンを5.4kg/hで得た。得られたポリプロピレンの物性及びポリプロピレン中の微粉含量を表2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
表2から、実施例で得られたポリプロピレン中の微粉量は、比較例で得られたポリプロピレン中の微粉量より十分に少ないことがわかる。よって、本発明の予備重合触媒成分の製造方法により作製した予備重合触媒成分を用いることにより、生成ポリマー中に含まれる微粉の量を十分に低減し、目的とするポリマーを安定して製造できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの不存在下、有機アルミニウム化合物と、チタン、マグネシウム及びハロゲンを含有する固体触媒成分と、を接触させて接触処理物を調製する接触処理物調製工程と、
前記接触処理物と、プロピレンとを接触させ、又は、前記接触処理物と、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンとを接触させ、その後、前記プロピレン、又は、前記プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの存在下、前記接触処理物に、有機アルミニウム化合物を更に接触させて予備重合用触媒を調製する予備重合用触媒調製工程と、
前記予備重合用触媒と、電子供与体化合物とを接触させて、プロピレンを単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンを共重合して予備重合触媒成分を調製する予備重合触媒成分調製工程と、
を備え、
前記接触処理物調製工程で用いられる前記有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の量が、前記固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、0.01〜0.5モルである、
予備重合触媒成分の製造方法。
【請求項2】
前記接触処理物調製工程及び前記予備重合用触媒調製工程でそれぞれ用いられる前記有機アルミニウム化合物に含有されるアルミニウム原子の総量が、前記固体触媒成分に含有されるチタン原子1モルに対して、1.5〜10モルである、請求項1記載の予備重合触媒成分の製造方法。
【請求項3】
前記予備重合触媒成分調製工程における単独重合又は共重合の温度が20℃以下である、請求項1又は2記載の予備重合触媒成分の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる予備重合触媒成分を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備える、プロピレン系重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法により得られる予備重合触媒成分に、有機アルミニウム化合物及び電子供与体化合物を更に接触処理してなる重合触媒を用い、プロピレンの単独重合、又は、プロピレン及びプロピレン以外のオレフィンの共重合を行う工程を備える、プロピレン系重合体の製造方法。

【公開番号】特開2010−31148(P2010−31148A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195103(P2008−195103)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】