説明

二次電池、電池パック、電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システム

【課題】巻回時における正極の破断を抑制しつつ優れた電池特性を得ることが可能な二次電池を提供する。
【解決手段】内周側正極活物質層22の面積密度A(mg/cm2 )と外周側正極活物質層23の面積密度B(mg/cm2 )との比A/(A+B)、巻心開口部50の内径C(mm)、正極20の厚さD(μm)と正極集電体21の厚さE(μm)との比D/Eは、0.380≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87)(ただし、C=2.5mm〜mm,D/E=13.333〜20)で表される関係を満たす。また、片面活物質層形成領域20Zの長さF(mm)は、[0.3×(D/E)2 −7×(D/E)+45]≦F≦50で表される関係を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極および負極がセパレータを介して積層および巻回された巻回電極体を備える二次電池、ならびにそれを用いた電池パック、電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用端末機器などに代表される電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化、軽量化および長寿命化が求められている。これに伴い、電源として、電池、特に小型かつ軽量で高エネルギー密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。また、二次電池は、自動車などの大型用途への適用も検討されており、それ以外の用途への適用も広く検討されている。
【0003】
二次電池としては、キャリア(充放電時に正極および負極を行き来する物質)としてさまざまな元素を用いることが研究されている。中でも、キャリアとしてリチウムを用いる二次電池、具体的には充放電反応としてリチウムの吸蔵放出を利用するリチウムイオン二次電池は、大いに期待されている。鉛電池およびニッケルカドミウム電池よりも高いエネルギー密度が得られるからである。
【0004】
二次電池は、いわゆる電池素子である巻回電極体を備えており、その巻回電極体は、正極および負極がセパレータを介して積層および巻回されたものである。正極は、正極集電体に形成された正極活物質層を有しており、負極は、負極集電体に形成された負極活物質層を有している。
【0005】
ところで、最近では、電子機器などの急速な高性能化および多機能化に伴い、二次電池のさらなる性能向上、特に高容量化が強く求められている。これに伴い、正極および負極の充放電容量を増加させるために、負極活物質層に含まれる負極活物質として高容量材料を用いると、それに応じて正極活物質層の厚さを増加させる必要がある。また、二次電池内における正極および負極の占有体積を増加させるために、正極集電体およびセパレータなどの厚さを小さくすると、それに応じて正極活物質層および負極活物質層の厚さが増加することになる
【0006】
ところが、正極活物質層の厚さを増加させると、その正極活物質層の柔軟性が低下する。このため、巻回電極体の作製時において正極を負極などと一緒に巻芯棒を中心として巻回させると、曲率半径が小さい中心近傍で正極が破断しやすくなる。このような傾向は、特に、二次電池内における正極および負極の占有体積を増加させるために、巻芯棒の外径を小さくするほど顕著になる。
【0007】
そこで、巻回時における正極の破断を抑制するために、さまざまな対策および関連技術が提案されている。具体的には、正極板などを巻回させて、略直線部分および曲線部分からなる扁平型の巻回群を作製する際に、正極板のうちの曲線部分に相当する部分に溶剤を接触させて、その曲線部分の正極板密度を略直線部分の正極板密度よりも低くすることが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。シート状の電極を巻回する際に、集電体の外側に塗布された電極合剤の塗布厚みよりも、内側に塗布された電極合剤の塗布厚みを薄くすることが提案されている(例えば、特許文献2参照。)。正極活物質層に、フッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体を結着剤として所定量含有させることが提案されている(例えば、特許文献3参照。)。集電体の両面に設けられた合剤層(内周層および外周層)のうち、内周層の厚さよりも外周層の厚さを大きくして、内周層の活物質量よりも外周層の活物質量を多くすることが提案されている(例えば、特許文献4参照。)。1回以上の充電後における正極集電体について、巻回方向における破断までの伸び率を3%以上にすることが提案されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0008】
また、正極集電体の両面に設けられた外面正極活物質層および内面正極活物質層のうち、外面正極活物質層の厚さよりも内面正極活物質層の厚さを小さくすると共に、正極の巻回中心側におけるリードと重なる位置に、外面正極活物質層だけが設けられた外面活物質領域を設けることが提案されている(例えば、特許文献6参照。)。正極集電体に設けられた内側正極活物質層および外側正極活物質層のうち、外側正極活物質層の巻回中心側の端部と内側正極活物質層の巻回中心側の端部とが巻回中心に対してなす中心角を72°以上とし、内側正極活物質層の巻回中心側の端部からの巻回中心に対する中心角が巻回方向に30°以内および巻回方向と逆方向に30°以内の領域を回避するように正極リードを設けることが提案されている(例えば、特許文献7参照。)。負極の巻回中心側に、外周面側だけに負極活物質層と正極活物質層とが対向する外周側対向領域を2周以上3.25周以下の範囲内で設けることが提案されている(例えば、特許文献8参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−310617号公報
【特許文献2】特開平08−130035号公報
【特許文献3】特開2006−059771号公報
【特許文献4】特許第3131976号明細書
【特許文献5】特開2006−134762号公報
【特許文献6】特開2008−004531号公報
【特許文献7】特開2006−134763号公報
【特許文献8】特開2006−024464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
巻回時における正極の破断を抑制するためにさまざまな対策等が提案されているが、その場合には、当然ながら、正極の破断を抑制するだけでなく、電池容量およびサイクル特性などの電池特性を確保する必要がある。正極の破断を抑制できても、電池本来の性能が低下したのでは、二次電池のさらなる性能向上を求める要望に応えることができないからである。特に、さらなる高容量化を実現するためには、巻芯棒の外径を小さくして二次電池内における正極および負極の占有体積を増加させると共に、正極集電体の厚さを減少させて正極活物質層の厚さを相対的に増加させても、正極の破断を抑制できることが理想的である。
【0011】
なお、上記したように、正極活物質層に結着剤(共重合体)を含有させることが既に提案されている。しかしながら、この場合には、正極活物質層の柔軟性が向上するため、正極の破断を抑制できる反面、正極活物質層の厚さが増加すると正極集電体に対する密着性が低下するため、正極活物質層が正極集電体から脱落しやすくなる。一方、密着性を向上させるために結着剤の含有量を増加させると、正極活物質層の柔軟性が低下するため、正極の破断を招いてしまう。
【0012】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、巻回時における正極の破断を抑制しつつ優れた電池特性を得ることが可能な二次電池、電池パック、電子機器、電動工具、電動車両および電力貯蔵システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の二次電池は、正極および負極がセパレータを介して積層されると共にそれらが正極を負極よりも内周側に配置するように巻心開口部を中心として巻回された巻回電極体を備えている。正極は、正極集電体に形成された内周側正極活物質層および外周側正極活物質層を有する。また、正極は、内周側正極活物質層および外周側正極活物質層が形成された活物質層形成領域における内周側の端部に、正極集電体に外周側正極活物質層だけが形成された片面活物質層形成領域を有する。内周側正極活物質層の面積密度A(mg/cm2 )と外周側正極活物質層の面積密度B(mg/cm2 )との比A/(A+B)、巻心開口部の内径C(mm)、正極の厚さD(μm)と正極集電体の厚さE(μm)との比D/Eは、下記の式(1)で表される関係を満たす。また、片面活物質層形成領域の長さF(mm)は、下記の式(2)で表される関係を満たす。なお、本発明の電池パック、電子機器、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムは、上記した二次電池を用いるものである。
【0014】
0.380≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87) ・・・(1)
(ただし、Cは2.5≦C≦4、D/Eは13.333≦D/E≦20である。)
【0015】
[0.3×(D/E)2 −7×(D/E)+45]≦F≦50 ・・・(2)
【発明の効果】
【0016】
本発明の二次電池によれば、内周側正極活物質層の面積密度Aと外周側正極活物質層の面積密度Bとの比A/(A+B)、巻心開口部の内径C、正極の厚さDと正極集電体の厚さEとの比D/E、片面活物質層形成領域の長さFは、式(1)および式(2)に示した関係を満たしている。この場合には、内径Cおよび厚さD,Eとの関係において面積密度A,B間の関係が適正化されると共に、厚さD,Eとの関係において長さFが適正化される。このため、二次電池内における正極の占有体積を増加させるために内径Cを小さくすると共に(C=2.5mm〜4mm)、正極における内周側正極活物質層および外周側正極活物質層の占有体積を増加させるために比D/Eを大きくしても(D/E=13.333〜20)、巻回時に正極が破断しにくくなると共に、電池容量およびサイクル特性が確保される。よって、巻回時における正極の破断を抑制しつつ優れた電池特性を得ることができる。また、上記した二次電池を用いた本発明の電池パック、電子機器、電動工具、電動車両または電力貯蔵システムにおいても、同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態の二次電池の構成を表す断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1および図2に示した巻回電極体の一部を表す断面図である。
【図4】図1および図2に示した正極および負極の一部を表す断面図である。
【図5】XPSによるSnCoC含有材料の分析結果を表す図である。
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明する順序は、下記の通りである。

1.二次電池
2.二次電池の用途
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0020】
<1.二次電池>
図1〜図4は、本発明の一実施形態の二次電池の構成を表している。このうち、図1は全体の縦断面、図2は図1に示した巻回電極体10のII−II線に沿った横断面、図3は図2に示した巻回電極体10の一部の断面をそれぞれ示している。また、図4は、図2および図3に示した負極30(A)および正極20(B)の一部の断面を示している。
【0021】
ここで説明する二次電池は、例えば、負極30の容量が電極反応物質であるリチウムの吸蔵放出により表されるリチウムイオン二次電池である。
【0022】
[二次電池の全体構成]
この二次電池は、図1に示したように、主に、円柱状の電池缶1の内部に、巻回電極体10および一対の絶縁板2,3が収納されたものである。この円柱状の電池缶1を用いた電池形状は、円筒型と呼ばれている。
【0023】
電池缶1は、例えば、一端部が閉鎖されると共に他端部が開放された中空構造を有する外装缶であり、鉄(Fe)、アルミニウム(Al)またはそれらの合金などの金属材料により形成されている。なお、電池缶1が鉄製である場合には、その電池缶1の表面にニッケル(Ni)などの金属材料が鍍金されていてもよい。一対の絶縁板2,3は、巻回電極体10を上下から挟むと共にその巻回周面に対して垂直に延在するように配置されている。
【0024】
電池缶1の開放端部には、電池蓋4、安全弁機構5および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient:PTC素子)6とがガスケット7を介してかしめられている。これにより、電池缶1の内部は密閉されている。電池蓋4は、例えば、電池缶1と同様の材料により形成されている。安全弁機構5および熱感抵抗素子6は、電池蓋4の内側に設けられており、その安全弁機構5は、熱感抵抗素子6を介して電池蓋4と電気的に接続されている。この安全弁機構5では、内部短絡、または外部からの加熱などに起因して内圧が一定以上になると、ディスク板5Aが反転して電池蓋4と巻回電極体10との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子6は、温度上昇に応じた抵抗増加を利用して、大電流に起因する異常な発熱を防止する機能を有する。ガスケット7は、例えば、絶縁材料により形成されており、その表面には、アスファルトが塗布されていてもよい。
【0025】
巻回電極体10は、図2〜図4に示したように、正極20および負極30と共にセパレータ41を含んでいる。正極20および負極30は、セパレータ41を介して積層されていると共に、その積層体は、正極20を負極30よりも内周側に配置するように巻心開口部50(内径C:mm)を中心として巻回されている。なお、巻回数は、任意に設定可能である。巻心開口部50は、巻回電極体10の中心部に形成された円柱状のスペースであり、その巻心開口部50には、センターピン51が挿入されていてもよい。このセンターピン51の外径は、巻心開口部50の内径Cにほぼ等しくなる。
【0026】
ここでは、例えば、巻回電極体10がさらに補助セパレータ42を含んでおり、正極20、セパレータ41、負極30および補助セパレータ42は、内周側からこの順に配置されるように積層および巻回されている。なお、巻回電極体10の外径は、例えば、12.8mm以上18.4mm以下である。
【0027】
正極20には、例えば、アルミニウムなどの導電性材料により形成された正極リード8が接続されており、その正極リード8は、安全弁機構5に溶接されていると共に、電池蓋4と電気的に接続されている。また、負極30には、例えば、ニッケルなどの導電性材料により形成された負極リード9が接続されており、その負極リード9は、電池缶1に溶接されている。
【0028】
[正極]
正極20(厚さD:μm)は、図2〜図4に示したように、帯状の正極集電体21(厚さE:μm)の内周側面および外周側面にそれぞれ内周側正極活物質層22(面積密度A:mg/cm2 )および外周側正極活物質層23(面積密度B:mg/cm2 )を有している。内周側面とは、正極集電体21が有する一対の対向面のうちの内周側に位置する一方の面であり、外周側面とは、外周側に位置する他方の面である。なお、厚さDは、例えば、200μm以上300μm以下である。
【0029】
正極集電体21は、例えば、アルミニウム、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23は、正極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能な正極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて正極結着剤または正極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。なお、厚さEは、例えば、12μm以上20μm以下である。面積密度Aは、例えば、26mg/cm2 以上51mg/cm2 以下であると共に、面積密度Bは、例えば、26mg/cm2 以上72mg/cm2 以下である。
【0030】
内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23は、例えば、正極集電体21の長手方向における中央領域(活物質層形成領域20X)に、その正極集電体21を介して対向するように形成されている。一方、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23が形成されていない端部領域(非活物質層形成領域20Y)では、正極集電体21が露出している。ただし、正極20は、活物質層形成領域20Xにおける内周側の端部に、正極集電体21に外周側正極活物質層23だけが形成された片面活物質層形成領域20Z(長さF:mm)を有している。
【0031】
非活物質層形成領域20Yにおける正極集電体21は、例えば、内周側および外周側の一方または双方において、セパレータ41および補助セパレータ42と一緒に1周または2周以上に渡って巻回されていてもよい。なお、正極集電体21の長手方向では、例えば、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23における外周側の端部同士の位置が互いに一致している。ただし、端部同士の位置は、ずれていてもよい。
【0032】
正極材料としては、リチウム含有化合物が好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。このリチウム含有化合物は、例えば、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有する複合酸化物や、リチウムと遷移金属元素とを構成元素として有するリン酸化合物などである。中でも、遷移金属元素としてコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)および鉄(Fe)のうちの少なくとも1種類を有する材料が好ましい。より高い電圧が得られるからである。その化学式は、例えば、Lix M1O2 またはLiy M2PO4 で表される。式中、M1およびM2は、1種類以上の遷移金属元素を表す。xおよびyの値は、充放電状態によって異なるが、通常、0.05≦x≦1.10、0.05≦y≦1.10である。
【0033】
リチウムと遷移金属元素とを有する複合酸化物は、例えば、リチウムコバルト複合酸化物(Lix CoO2 )、リチウムニッケル複合酸化物(Lix NiO2 )、または式(10)で表されるリチウムニッケル系複合酸化物などである。リチウムと遷移金属元素とを有するリン酸化合物は、例えば、リチウム鉄リン酸化合物(LiFePO4 )またはリチウム鉄マンガンリン酸化合物(LiFe1-u Mnu PO4 (u<1))などである。高い電池容量が得られると共に、優れたサイクル特性も得られるからである。なお、正極材料は、上記以外の材料でもよい。例えば、Lix M1y 2 (M1はニッケルおよび式(1)に示したM(ニッケルおよびMを含む全金属元素)のうちの少なくとも1種類であり、xはx>1、yは任意である。)で表される材料などである。
【0034】
LiNi1-x x 2 …(10)
(Mはコバルト、マンガン、鉄、アルミニウム、バナジウム(V)、スズ(Sn)、マグネシウム(Mg)、チタン(Ti)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)、ジルコニウム(Zr)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、イッテルビウム(Yb)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、バリウム(Ba)、ホウ素(B)、クロム(Cr)、ケイ素(Si)、ガリウム(Ga)、リン(P)、アンチモン(Sb)およびニオブ(Nbのうちの少なくとも1種類である。xは0.005<x<0.5である。)
【0035】
この他、正極材料は、例えば、酸化物、二硫化物、カルコゲン化物または導電性高分子などでもよい。酸化物は、例えば、酸化チタン、酸化バナジウムまたは二酸化マンガンなどである。二硫化物は、例えば、二硫化チタンまたは硫化モリブデンなどである。カルコゲン化物は、例えば、セレン化ニオブなどである。導電性高分子は、例えば、硫黄、ポリアニリンまたはポリチオフェンなどである。
【0036】
内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23は、例えば、塗布法、焼成法(焼結法)、またはそれらの双方の方法により形成されている。塗布法とは、例えば、粒子状の正極活物質を正極結着剤などと混合したのち、有機溶剤などに分散させて塗布する方法である。焼成法とは、例えば、塗布法と同様の手順により塗布したのち、正極結着剤などの融点よりも高い温度で熱処理する方法である。焼成法としては、公知の手法を用いることができる。例えば、雰囲気焼成法、反応焼成法またはホットプレス焼成法などである。
【0037】
正極結着剤は、例えば、合成ゴムまたは高分子材料などのいずれか1種類または2種類以上である。合成ゴムは、例えば、スチレンブタジエン系ゴム、フッ素系ゴムまたはエチレンプロピレンジエンなどである。高分子材料は、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリル酸またはポリアクリル酸リチウムなどである。なお、正極活物質に対する正極結着剤の混合比は、例えば、重量比で2%以上5%以下(正極活物質=100に対して正極結着剤=2以上5以下)である。2%よりも少ないと、正極集電体21に対する内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の密着性が低下し、一方、5%よりも多いと、エネルギー密度の低下を招く可能性があるからである。
【0038】
正極導電剤は、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックまたはケチェンブラックなどの炭素材料のいずれか1種類または2種類以上である。なお、負極導電剤は、導電性を有する材料であれば、金属材料または導電性高分子などでもよい。
【0039】
ここで、内周側正極活物質層22の面積密度Aと外周側正極活物質層23の面積密度Bとの比A/(A+B)、巻心開口部50の内径C、正極20の厚さDと正極集電体21の厚さEとの比D/Eは、下記の式(1)で表される関係を満たしている。また、片面活物質層領域20Zの長さFは、下記の式(2)で表される関係を満たしている。なお、比A/(A+B)および比D/Eは、いずれも小数点第4位を四捨五入した値であり、長さFは、小数点第2位を四捨五入した値である。
【0040】
0.380≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87) ・・・(1)
(ただし、Cは2.5≦C≦4、D/Eは13.333≦D/E≦20である。)
【0041】
[0.3×(D/E)2 −7×(D/E)+45]≦F≦50 ・・・(2)
【0042】
比A/(A+B)が式(1)に示した関係を満たしているのは、内径Cおよび厚さD,Eとの関係において面積密度A,B間の関係が適正化されるため、巻回電極体10の作製工程において巻回時に正極20の破断が抑制されると共に、電池容量およびサイクル特性が確保されるからである。
【0043】
詳細には、比A/(A+B)が小さいと、巻心開口部50に近い側に位置する内周側正極活物質層22の絶対量が外周側正極活物質層23の絶対量に対して相対的に減少するため、巻回時に正極20が破断しにくくなる傾向がある。ところが、比A/(A+B)が小さすぎると、内周側正極活物質層22の絶対量と外周側正極活物質層23の絶対量とのバランスが悪くなるため、放電容量が低下すると共に、充放電を繰り返すと放電容量がより低下しやすくなる。一方、比A/(A+B)が大きすぎると、内周側正極活物質層22の絶対量が外周側正極活物質層23の絶対量に対して相対的に増加するため、巻回時に正極20が破断しやすくなる。これに対して、比A/(A+B)が式(1)に示した関係を満たしていると、正極20の破断および放電容量の低下を抑制する観点において比A/(A+B)が適正化される。このため、厚さDを厚さEに対して相対的に大きくして、二次電池内における内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の占有体積を増加させても、巻回時において正極20が破断しにくくなる。このように正極20が破断しにくくなる傾向は、特に、内径Cを小さくして、巻心開口部50の近傍で巻回される正極20の曲率半径を小さくしても、同様に得られる。しかも、面積密度Aを面積密度Bよりも小さくしつつ、面積密度A,Bの双方が十分に大きくなるため、高い放電容量が得られると共に、充放電を繰り返しても放電容量が低下しにくくなる。
【0044】
なお、内径Cが上記した範囲内であるのは、二次電池内でロススペースとなる巻心開口部50の占有体積をできるだけ減少させて、正極20および負極30の占有体積を増加させるためである。また、比D/Eが上記した範囲内であるのは、厚さEに対して厚さDを相対的に大きくして、正極20内における内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の占有体積を増加させるためである。
【0045】
長さFが式(2)に示した関係を満たしているのは、厚さD,Eとの関係において長さFが適正化されるため、巻回時において正極20の破断が抑制されると共に、電池容量およびサイクル特性が確保されるからである。
【0046】
詳細には、長さFが小さすぎると、巻回時の曲率半径が最も小さくなる巻心開口部50の近傍に内周側正極活物質層22が存在しすぎるため、正極20が破断しやすくなる。一方、長さFが大きすぎると、内周側正極活物質層22の存在範囲が減少しすぎるため、電池容量が低下してしまう。これに対して、長さFが式(2)に示した関係を満たしていると、正極20の破断を抑制すると共に電池容量を確保する観点において長さFが適正化されるため、厚さDを厚さEに対して相対的に大きくしても、巻回時において正極20が破断しにくくなると共に、高い放電容量が維持される。
【0047】
特に、長さFは、下記の式(3)で表される関係を満たしていることが好ましい。サイクル特性がより向上するからである。
【0048】
0.428≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87) ・・・(3)
【0049】
[負極]
負極30は、例えば、図2〜図4に示したように、帯状の負極集電体31の内周側面および外周側面にそれぞれ内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33を有している。なお、負極30の厚さは、例えば、66μm以上123μm以下である。
【0050】
負極集電体31は、例えば、銅、ニッケルまたはステンレスなどの導電性材料により形成されている。内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33は、負極活物質として、リチウムを吸蔵放出可能な負極材料のいずれか1種類または2種類以上を含んでおり、必要に応じて負極結着剤または負極導電剤などの他の材料を含んでいてもよい。充放電時にリチウム金属が析出することを抑制するために、負極材料の充電可能な容量は正極20の放電容量よりも大きいことが好ましい。なお、負極結着剤または負極導電剤に関する詳細は、例えば、それぞれ正極結着剤および負極導電剤と同様である。なお、負極集電体31の厚さは、例えば、12μm以上20μm以下である。内周側負極活物質層32の面積密度は、例えば、7mg/cm2 以上13mg/cm2 以下であると共に、外周側負極活物質層33の面積密度は、例えば、7mg/cm2 以上19mg/cm2 以下である。負極活物質に対する負極結着剤の混合比は、例えば、正極活物質に対する正極結着剤の混合比と同様である。
【0051】
内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33は、例えば、負極集電体31の長手方向における中央領域(活物質層形成領域30X)に、その負極集電体31を介して対向するように形成されている。一方、内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33が形成されていない端部領域(非活物質層形成領域30Y)では、負極集電体31が露出している。この活物質層形成領域30Xの長さ(内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33の形成長さ)は、例えば、活物質層形成領域20Xの長さ(内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の形成長さ)よりも、外周側および内周側の双方で大きくなっていることが好ましい。
【0052】
非活物質層形成領域30Yにおける負極集電体31は、例えば、外周側および内周側の一方または双方で、セパレータ41および補助セパレータ42と一緒に1周または2周以上に渡って巻回されていてもよい。なお、負極集電体31の長手方向では、例えば、内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33の外周側における端部同士の位置が互いに一致していると共に、内周側における端部同士の位置も互いに一致している。ただし、端部同士の位置は、ずれていてもよい。
【0053】
負極集電体31の表面は、粗面化されていることが好ましい。いわゆるアンカー効果により、負極集電体31に対する内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33の密着性が向上するからである。この場合には、少なくとも内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33と対向する領域で、負極集電体31の表面が粗面化されていればよい。粗面化の方法は、例えば、電解処理により微粒子を形成する方法などである。この電解処理とは、電解槽中で電解法により負極集電体31の表面に微粒子を形成して凹凸を設ける方法である。電解法により作製された銅箔は、一般的に、電解銅箔と呼ばれている。
【0054】
負極材料は、例えば、炭素材料である。リチウムの吸蔵放出時における結晶構造の変化が非常に少ないため、高いエネルギー密度および優れたサイクル特性が得られるからである。また、負極導電剤としても機能するからである。この炭素材料は、例えば、易黒鉛化性炭素、(002)面の面間隔が0.37nm以上の難黒鉛化性炭素、または(002)面の面間隔が0.34nm以下の黒鉛などである。より具体的には、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素繊維、有機高分子化合物焼成体、活性炭またはカーボンブラック類などである。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスまたは石油コークスなどが含まれる。有機高分子化合物焼成体は、フェノール樹脂またはフラン樹脂などを適当な温度で焼成して炭素化した材料である。この他、炭素材料は、約1000℃以下で熱処理された低結晶性炭素または非晶質炭素でもよい。なお、炭素材料の形状は、繊維状、球状、粒状または鱗片状のいずれでもよい。
【0055】
また、負極材料は、金属元素および半金属元素のいずれか1種類または2種類以上を構成元素として有する材料(金属系材料)であることが好ましい。高いエネルギー密度が得られるからである。この金属系材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料でもよい。なお、本発明における合金には、2種類以上の金属元素を有する材料に加えて、1種類以上の金属元素と1種類以上の半金属元素とを有する材料も含まれる。また、合金は、非金属元素を有していてもよい。その組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種類以上の共存物などがある。
【0056】
金属元素または半金属元素は、例えば、リチウムと合金を形成可能な金属元素または半金属元素であり、具体的には、以下の元素のいずれか1種類または2種類以上である。マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)または鉛(Pb)である。ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)である。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方が好ましい。リチウムを吸蔵放出する能力が優れているため、高いエネルギー密度が得られるからである。
【0057】
ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を有する材料は、ケイ素またはスズの単体、合金または化合物でもよいし、それらの2種類以上でもよいし、それらの1種類または2種類以上の相を少なくとも一部に有する材料でもよい。なお、単体とは、あくまで一般的な意味合いでの単体(微量の不純物を含んでいてもよい)であり、必ずしも純度100%を意味するわけではない。
【0058】
ケイ素の合金は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、以下の元素のいずれか1種類または2種類以上を有する材料である。スズ、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、酸素または炭素を有する材料である。なお、ケイ素の化合物は、例えば、ケイ素以外の構成元素として、ケイ素の合金について説明した元素のいずれか1種類または2種類以上を有していてもよい。
【0059】
ケイ素の合金または化合物の具体例は、以下の材料などである。SiB4 、SiB6 、Mg2 Si、Ni2 Si、TiSi2 、MoSi2 、CoSi2 、NiSi2 、CaSi2 、CrSi2 、Cu5 Si、FeSi2 、MnSi2 、NbSi2 またはTaSi2 である。VSi2 、WSi2 、ZnSi2 、SiC、Si3 4 、Si2 2 O、SiOv (0<v≦2)またはLiSiOである。なお、SiOv におけるvは、0.2<v<1.4でもよい。
【0060】
スズの合金は、例えば、スズ以外の構成元素として、以下の元素のいずれか1種類または2種類以上を有する材料などである。ケイ素、ニッケル、銅、鉄、コバルト、マンガン、亜鉛、インジウム、銀、チタン、ゲルマニウム、ビスマス、アンチモンまたはクロムである。スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、酸素または炭素を有する材料などである。なお、スズの化合物は、例えば、スズ以外の構成元素として、スズの合金について説明した元素のいずれか1種または2種以上を有していてもよい。スズの合金または化合物としては、例えば、SnOw (0<w≦2)、SnSiO3 、LiSnOまたはMg2 Snなどが挙げられる。
【0061】
特に、スズを構成元素として有する材料は、例えば、スズを第1構成元素とし、それに加えて第2および第3構成元素を含む材料が好ましい。第2構成元素は、例えば、以下の元素のいずれか1種類または2種類以上である。コバルト、鉄、マグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウムまたはジルコニウムである。ニオブ、モリブデン、銀、インジウム、セリウム、ハフニウム、タンタル、タングステン、ビスマスまたはケイ素である。第3構成元素は、例えば、ホウ素、炭素、アルミニウムおよびリンの1種類または2種類以上である。第2および第3構成元素を有することで、高い電池容量および優れたサイクル特性などが得られるからである。
【0062】
中でも、スズ、コバルトおよび炭素を有する材料(SnCoC含有材料)が好ましい。SnCoC含有材料の組成としては、例えば、炭素の含有量が9.9質量%〜29.7質量%、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))が20質量%〜70質量%である。この組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。
【0063】
SnCoC含有材料は、スズ、コバルトおよび炭素を含む相を有しており、その相は、低結晶性または非晶質であることが好ましい。この相は、リチウムと反応可能な反応相であり、その反応相の存在により、優れた特性が得られる。この相のX線回折により得られる回折ピークの半値幅は、特定X線としてCuKα線を用いると共に挿引速度を1°/minとした場合において、回折角2θで1°以上であることが好ましい。リチウムがより円滑に吸蔵放出されると共に、電解液との反応性が低減するからである。なお、SnCoC含有材料は、低結晶性または非晶質の相に加えて、各構成元素の単体または一部を含む相を含んでいる場合もある。
【0064】
X線回折により得られた回折ピークがリチウムと反応可能な反応相に対応するものであるか否かは、リチウムとの電気化学的反応の前後におけるX線回折チャートを比較すれば容易に判断できる。例えば、リチウムとの電気化学的反応の前後で回折ピークの位置が変化すれば、リチウムと反応可能な反応相に対応するものである。この場合には、例えば、低結晶性または非晶質の反応相の回折ピークが2θ=20°〜50°の間に見られる。このような反応相は、例えば、上記した各構成元素を有しており、主に、炭素の存在に起因して低結晶化または非晶質化しているものと考えられる。
【0065】
SnCoC含有材料では、構成元素である炭素の少なくとも一部が他の構成元素である金属元素または半金属元素と結合していることが好ましい。スズなどの凝集または結晶化が抑制されるからである。元素の結合状態については、例えば、X線光電子分光(XPS:x-ray photoelectron spectroscopy)法で確認できる。市販の装置では、例えば、軟X線としてAl−Kα線またはMg−Kα線などが用いられる。炭素の少なくとも一部が金属元素または半金属元素などと結合している場合には、炭素の1s軌道(C1s)の合成波のピークは284.5eVよりも低い領域に現れる。なお、金原子の4f軌道(Au4f)のピークが84.0eVに得られるようにエネルギー較正されているものとする。この際、通常、物質表面には表面汚染炭素が存在しているため、表面汚染炭素のC1sのピークを284.8eVとし、それをエネルギー基準とする。XPS測定では、C1sのピークの波形が表面汚染炭素のピークとSnCoC含有材料中の炭素のピークとを含んだ形で得られるため、例えば、市販のソフトウエアを用いて解析して、両者のピークを分離する。波形の解析では、最低束縛エネルギー側に存在する主ピークの位置をエネルギー基準(284.8eV)とする。
【0066】
なお、SnCoC含有材料は、必要に応じて、さらに他の構成元素を有していてもよい。このような他の構成元素としては、ケイ素、鉄、ニッケル、クロム、インジウム、ニオブ、ゲルマニウム、チタン、モリブデン、アルミニウム、リン、ガリウムおよびビスマスの1種または2種以上が挙げられる。
【0067】
このSnCoC含有材料の他、スズ、コバルト、鉄および炭素を含む材料(SnCoFeC含有材料)も好ましい。このSnCoFeC含有材料の組成は、任意に設定可能である。例えば、鉄の含有量を少なめに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は9.9質量%〜29.7質量%であり、鉄の含有量は0.3質量%〜5.9質量%であり、スズおよびコバルトの含有量の割合(Co/(Sn+Co))は30質量%〜70質量%である。また、例えば、鉄の含有量を多めに設定する場合の組成は、以下の通りである。炭素の含有量は11.9質量%〜29.7質量%である。また、スズ、コバルトおよび鉄の含有量の割合((Co+Fe)/(Sn+Co+Fe))は26.4質量%〜48.5質量%であり、コバルトおよび鉄の含有量の割合(Co/(Co+Fe))は9.9質量%〜79.5質量%である。このような組成範囲で高いエネルギー密度が得られるからである。このSnCoFeC含有材料の物性(半値幅など)は、上記したSnCoC含有材料と同様である。
【0068】
この他、負極材料は、例えば、金属酸化物または高分子化合物などでもよい。金属酸化物は、例えば、酸化鉄、酸化ルテニウムまたは酸化モリブデンなどである。高分子化合物は、例えば、ポリアセチレン、ポリアニリンまたはポリピロールなどである。
【0069】
もちろん、負極材料は、上記以外の材料でもよい。また、上記した一連の負極材料を任意の組み合わせで2種類以上混合してもよい。
【0070】
内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33は、例えば、塗布法、気相法、液相法、溶射法、焼成法、またはそれらの2種類以上の方法により形成されている。気相法は、例えば、物理堆積法または化学堆積法などであり、具体的には、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、熱化学気相成長、化学気相成長(CVD:chemical vapor deposition )法またはプラズマ化学気相成長法などである。液相法は、例えば、電解鍍金法または無電解鍍金法などである。溶射法は、負極活物質を溶融状態または半溶融状態で吹き付ける方法である。
【0071】
[セパレータ]
セパレータ41および補助セパレータ42は、正極20と負極30とを隔離して、両極の接触に起因する電流の短絡を防止しながらリチウムイオンを通過させるものである。このセパレータ41および補助セパレータ42は、例えば、合成樹脂またはセラミックなどの多孔質膜であり、それらの2種類以上の多孔質膜の積層体でもよい。合成樹脂は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンなどである。なお、セパレータ41および補助セパレータ42の厚さは、例えば、16μm以上20μm以下である。
【0072】
セパレータ41および補助セパレータ42は、巻回電極体10の内周側および外周側の一方または双方で、1周または2周以上に渡って巻回されていてもよい。ただし、外周側におけるセパレータ41および補助セパレータ42の巻回状況は、電池缶1が機能を果たす電極端子の種類に応じて設定されることが好ましい。具体的には、電池缶1が外周側の電極(負極30)と同極の端子(負極端子)として機能する場合には、二次電池に釘などが刺さった場合などにおいて負極30と電池缶1とを意図的に接触させるために、セパレータ41および補助セパレータ42は、非活物質層形成領域30Yにおける負極集電体31よりも余分に巻回されていないことが好ましい。一方、電池缶1が外周側の電極(負極30)と異極の端子(正極端子)として機能する場合には、負極30と電池缶1とを積極的に接触させないために、セパレータ41および補助セパレータ42は、非活物質層領域30Yにおける負極集電体31よりも余分に巻回されていることが好ましい。
【0073】
[電解液]
セパレータ41および補助セパレータ42には、液状の電解質である電解液が含浸されている。この電解液は、溶媒および電解質塩を含んでおり、必要に応じて各種添加剤などの他の材料を含んでいてもよい。
【0074】
溶媒は、例えば、以下の非水溶媒(有機溶媒)のいずれか1種類または2種類以上である。炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ブチレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチルメチル、炭酸メチルプロピル、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタンまたはテトラヒドロフランである。2−メチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、1,3−ジオキサンまたは1,4−ジオキサンである。酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸メチル、イソ酪酸メチル、トリメチル酢酸メチルまたはトリメチル酢酸エチルである。アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピオニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリジノンまたはN−メチルオキサゾリジノンである。N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、燐酸トリメチルまたはジメチルスルホキシドである。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0075】
中でも、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルおよび炭酸エチルメチルのうちの少なくとも1種が好ましい。より優れた特性が得られるからである。この場合には、炭酸エチレンまたは炭酸プロピレンなどの高粘度(高誘電率)溶媒(例えば比誘電率ε≧30)と、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチルまたは炭酸ジエチルなどの低粘度溶媒(例えば粘度≦1mPa・s)との組み合わせがより好ましい。電解質塩の解離性およびイオンの移動度が向上するからである。
【0076】
特に、溶媒は、不飽和炭素結合環状炭酸エステル(1または2以上の不飽和炭素結合を有する環状炭酸エステル)でもよい。充放電時に負極30の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。不飽和炭素結合環状炭酸エステルは、例えば、炭酸ビニレンまたは炭酸ビニルエチレンなどである。なお、非水溶媒中における不飽和炭素結合環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上10重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0077】
また、溶媒は、ハロゲン化鎖状炭酸エステル(1または2以上のハロゲン基を有する鎖状炭酸エステル)およびハロゲン化環状炭酸エステル(1または2以上のハロゲン基を有する環状炭酸エステル)のうちの少なくとも一方でもよい。充放電時に負極30の表面に安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応が抑制されるからである。ハロゲン基の種類は、特に限定されないが、中でも、フッ素基(−F)、塩素基(−Cl)または臭素基(−Br)が好ましく、フッ素基がより好ましい。より高い効果が得られるからである。ただし、ハロゲン基の数は、1つよりも2つが好ましく、さらに3つ以上でもよい。より強固で安定な被膜が形成されるため、電解液の分解反応がより抑制されるからである。ハロゲン化鎖状炭酸エステルは、例えば、炭酸フルオロメチルメチル、炭酸ビス(フルオロメチル)または炭酸ジフルオロメチルメチルなどである。ハロゲン化環状炭酸エステルは、4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンまたは4,5−ジフルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オンなどである。なお、非水溶媒中におけるハロゲン化鎖状炭酸エステルおよびハロゲン化環状炭酸エステルの含有量は、例えば、0.01重量%以上50重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0078】
また、溶媒は、スルトン(環状スルホン酸エステル)でもよい。電解液の化学的安定性が向上するからである。スルトンは、例えば、プロパンスルトンまたはプロペンスルトンなどである。なお、非水溶媒中におけるスルトンの含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0079】
さらに、溶媒は、酸無水物でもよい。電解液の化学的安定性がより向上するからである。酸無水物は、例えば、例えば、ジカルボン酸無水物、ジスルホン酸無水物またはカルボン酸スルホン酸無水物などである。ジカルボン酸無水物は、例えば、無水コハク酸、無水グルタル酸または無水マレイン酸などである。ジスルホン酸無水物は、例えば、無水エタンジスルホン酸または無水プロパンジスルホン酸などである。カルボン酸スルホン酸無水物は、例えば、無水スルホ安息香酸、無水スルホプロピオン酸または無水スルホ酪酸などである。なお、非水溶媒中における酸無水物の含有量は、例えば、0.5重量%以上5重量%以下である。電池容量を低下させすぎずに、電解液の分解反応が抑制されるからである。
【0080】
[電解質塩]
電解質塩は、例えば、以下のリチウム塩のいずれか1種類または2種類以上である。ただし、電解質塩は、リチウム塩以外の他の塩(例えばリチウム塩以外の軽金属塩)でもよい。
【0081】
リチウム塩は、例えば、以下の化合物などである。六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )、四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、過塩素酸リチウム(LiClO4 )または六フッ化ヒ酸リチウム(LiAsF6 )である。テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C6 5 4 )、メタンスルホン酸リチウム(LiCH3 SO3 )、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiCF3 SO3 )またはテトラクロロアルミン酸リチウム(LiAlCl4 )である。六フッ化ケイ酸二リチウム(Li2 SiF6 )、塩化リチウム(LiCl)または臭化リチウム(LiBr)である。優れた電池容量、サイクル特性および保存特性などが得られるからである。
【0082】
中でも、六フッ化リン酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム、過塩素酸リチウムおよび六フッ化ヒ酸リチウムのうちの少なくとも1種が好ましく、六フッ化リン酸リチウムがより好ましい。内部抵抗が低下するため、より高い効果が得られるからである。
【0083】
電解質塩の含有量は、溶媒に対して0.3mol/kg以上3.0mol/kg以下であることが好ましい。高いイオン伝導性が得られるからである。
【0084】
[二次電池の製造方法]
この二次電池は、例えば、以下の手順により製造される。
【0085】
まず、正極20を作製する。この場合には、正極活物質と、必要に応じて正極結着剤および正極導電剤などとを混合して正極合剤としたのち、有機溶剤などに分散させてペースト状の正極合剤スラリーとする。続いて、正極集電体21の両面に正極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23を形成する。最後に、必要に応じて加熱しながら、ロールプレス機などを用いて内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23を圧縮成型する。この圧縮成型により、面積密度A,Bを調整可能である。この場合には、圧縮成型を複数回繰り返してもよい。
【0086】
次に、上記した正極20と同様の手順により、負極30を作製する。この場合には、負極活物質と、必要に応じて負極結着剤および負極導電剤などとを混合した負極合剤を有機溶剤などに分散させて、ペースト状の負極合剤スラリーとする。続いて、負極集電体31Aの両面に負極合剤スラリーを塗布してから乾燥させて内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33を形成したのち、必要に応じて圧縮成型する。
【0087】
なお、正極20とは異なる手順により、負極30を作製してもよい。この場合には、例えば、蒸着法などの気相法を用いて負極集電体31の両面に負極材料を堆積させて、内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33を形成する。
【0088】
最後に、正極20および負極30を用いて二次電池を組み立てる。この場合には、正極集電体21に正極リード8を溶接などして取り付けると共に、負極集電体31に負極リード9を溶接などして取り付ける。続いて、正極20、セパレータ41、負極30および補助セパレータ42をこの順に積層したのち、それらを正極20が負極30よりも内周側に配置されるように巻回させて、巻回電極体10を作製する。続いて、巻回電極体10の巻心開口部50にセンターピン50を挿入したのち、その巻回電極体10を一対の絶縁板2,3で挟みながら電池缶1の内部に収納する。この場合には、正極リード8を安全弁機構5に溶接などして取り付けると共に、負極リード9を電池缶1に溶接などして取り付ける。続いて、電池缶1の内部に電解液を注入してセパレータ41および補助セパレータ42に含浸させる。最後に、ガスケット7を介して電池缶1の開口端部に電池蓋4、安全弁機構5および熱感抵抗素子6をかしめる。
【0089】
[二次電池の作用および効果]
この二次電池によれば、正極20および負極30がセパレータ41を介して積層されると共にそれらが正極20を負極30よりも内周側に配置するように巻心開口部50を中心として巻回された巻回電極体10を備えている。正極20は、正極集電体20に形成された内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23を有すると共に、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23が形成された活物質層形成領域20Xにおける内周側の端部に片面活物質層形成領域20Zを有している。特に、内周側正極活物質層22の面積密度Aと外周側正極活物質層23の面積密度Bとの比A/(A+B)、巻心開口部50の内径C、正極20の厚さDと正極集電体21の厚さEとの比D/E、片面活物質層形成領域20Zの長さFは、式(1)および式(2)に示した関係を満たしている。
【0090】
この場合には、上記したように、内径Cおよび厚さD,Eとの関係において面積密度A,B間の関係が適正化されると共に、厚さD,Eとの関係において長さFが適正化される。このため、二次電池内における正極20の占有体積を増加させるために内径Cを小さくすると共に(C=2.5mm〜4mm)、正極20内における内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の占有体積を増加させるために比D/Eを大きくしても(D/E=13.333〜20)、巻回電極体10の作製工程において巻回時に正極20の破断が抑制されると共に、電池容量およびサイクル特性が確保される。よって、巻回時における正極20の破断を抑制しつつ優れた電池特性を得ることができる。
【0091】
しかも、正極20の破断を抑制するために、背景技術で説明したように内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23に共重合剤(結着剤)含有させる必要がない。このため、正極20の破断を抑制しつつ、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の脱落も抑制できる。
【0092】
特に、長さFが式(3)に示した関係式を満たすようにすれば、サイクル特性をより向上させることができる。
【0093】
また、負極30の負極活物質として、高容量化に有利な一方で充放電時に膨張収縮しやすい金属系材料、特に、ケイ素およびスズのうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料を用いても、充放電時における負極活物質の膨張収縮に起因して正極20が破断することを抑制できる。
【0094】
<2.二次電池の用途>
次に、上記した二次電池の適用例について説明する。
【0095】
二次電池の用途は、その二次電池を駆動用の電源あるいは電力蓄積用の電力貯蔵源などとして用いることが可能な機械、機器、器具、装置あるいはシステム(複数の機器または装置などの集合体)などであれば、特に限定されない。二次電池が電源として用いられる場合、その二次電池は、主電源(優先的に使用される電源)でもよいし、補助電源(主電源に代えて、あるいは主電源から切り換えて使用される電源)でもよい。この主電源の種類は、二次電池に限られない。
【0096】
二次電池の用途としては、例えば、以下の用途などが挙げられる。ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、携帯電話機、ノートパソコン、コードレス電話機、ヘッドホンステレオ、携帯用ラジオ、携帯用テレビあるいは携帯用情報端末(PDA:Personal Digital Assistant)などの電子機器である。ただし、電子機器は、上記した携帯用途の電子機器に限られず、非携帯用途(据置型)の電子機器でもよい。電気シェーバなどの生活用器具である。バックアップ電源あるいはメモリーカードなどの記憶用装置である。電動ドリルあるいは電動のこぎりなどの電動工具である。ペースメーカーあるいは補聴器などの医療用機器である。電池パックなどの電源である。電気自動車(ハイブリッド自動車を含む)などの電動車両である。非常時などに備えて電力を蓄積しておく家庭用バッテリシステムなどの電力貯蔵システムである。
【0097】
中でも、二次電池は、電池パック、電子機器、電動工具、電動車両あるいは電力貯蔵システムなどに適用されることが有効である。二次電池について優れた特性(電池容量およびサイクル特性など)が要求されるため、本発明の二次電池を用いることにより、有効に特性向上を図ることができるからである。なお、電池パックは、例えば、二次電池と共に、その二次電池を制御する制御手段と、その二次電池を内包する外装とを備えたものである。電子機器は、二次電池を駆動用の電源として作動し、各種機能を実行するものである。電動工具は、二次電池を駆動用の電源として可動部(例えばドリルなど)を可動させるものである。電動車両は、二次電池を駆動用電源として作動(走行)するものであり、上記したように、二次電池以外の駆動源も併せて備えた自動車(ハイブリッド自動車など)でもよい。電力貯蔵システムは、二次電池を電力貯蔵源として用いるシステムである。例えば、家庭用の電力貯蔵システムでは、電力貯蔵源である二次電池に電力が蓄積されており、その二次電池に貯蔵された電力が必要に応じて消費されることにより、家庭用電気製品などの各種機器が使用可能になる。
【実施例】
【0098】
本発明の実施例について詳細に説明する。
【0099】
(実験例1〜35)
以下の手順により、図1〜図4に示した円筒型の二次電池(リチウムイオン二次電池)を作製した。
【0100】
最初に、正極20(厚さD:表1〜表3)を作製した。この場合には、炭酸リチウム(Li2 CO3 )と炭酸コバルト(CoCO3 )とをLi2 CO3 :CoCO3 =0.5:1のモル比で混合したのち、空気中で焼成(900℃×5時間)してリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO2 )を得た。続いて、正極活物質(LiCoO2 )91質量部と、正極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)3質量部と、正極導電剤(グラファイト)6質量部とを混合して正極合剤としたのち、溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させてペースト状の正極合剤スラリーとした。最後に、バーコータを用いて帯状の正極集電体21(厚さEのアルミニウム箔:表1〜表3)の両面に正極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23を形成した。この場合には、活物質層形成領域20Xにおける内周側の端部に片面活物質層形成領域20Z(長さF(実験値):表1〜表3)を形成した。続いて、ロールプレス機を用いて内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23を圧縮成型した(面積密度A,Bおよび比A/(A+B)(実験値):表1〜表3)。なお、表1に示した比A/(A+B)および長さFの理論値は、それぞれ式(1)および式(2)に示した関係から導き出される値である。
【0101】
次に、負極30を作製した。この場合には、コバルト粉末とスズ粉末とを合金化してコバルト・スズ合金粉末としたのち、炭素粉末を加えて乾式混合した。続いて、伊藤製作所製の遊星ボールミルの反応容器中に、混合物20gを鋼玉(直径=9mm)400gと一緒に投入した。続いて、反応容器中をアルゴン雰囲気に置換したのち、運転(回転速度=250回転/毎分および運転時間=10分間)と休止(休止時間=10分間)とを運転時間の合計が30時間になるまで繰り返した。続いて、反応容器を室温まで冷却して反応物(SnCoC含有材料)を取り出したのち、ふるい(280メッシュ)を通して粗粉を取り除いた。
【0102】
得られたSnCoC含有材料の組成を分析したところ、スズの含有量=49.9質量%、コバルトの含有量=29.3質量%、炭素の含有量=19.8質量%であった。この場合には、スズおよびコバルトの含有量に関しては誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)発光分析法、炭素の含有量に関しては炭素・硫黄分析装置をそれぞれ用いた。また、X線回折法を用いてSnCoC含有材料を分析したところ、回折角2θ=20°〜50°の範囲内に半値幅を有する回折ピークが観察された。さらに、XPS法を用いてSnCoC含有材料を分析したところ、図5に示したように、ピークP1が得られた。このピークP1を解析すると、表面汚染炭素のピークP2と、それよりも低エネルギー側(284.5eVよりも低い領域)にSnCoC含有材料中におけるC1sのピークP3とが得られた。この結果から、SnCoC含有材料中の炭素は他の元素と結合していることが確認された。
【0103】
SnCoC含有材料を得たのち、負極活物質(SnCoC含有材料)60質量部と、負極結着剤(ポリフッ化ビニリデン)10質量部と、負極導電剤(人造黒鉛およびカーボンブラック)30質量部(人造黒鉛=28質量部,カーボンブラック=2質量部)とを混合して負極合剤としたのち、溶剤(N−メチル−2−ピロリドン)に分散させてペースト状の負極合剤スラリーとした。続いて、バーコータを用いて帯状の負極集電体31(厚さ=15μmの電解銅箔)の両面に負極合剤スラリーを均一に塗布してから乾燥させて、内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33を形成した。最後に、ロールプレス機を用いて内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33を圧縮成型した。この場合には、正極20において内周側正極活物質層22および外周側正極活物質層23の面積密度A,Bが異なることに伴い、対向する正極20と負極30との間において充放電容量のバランスが同じになるように内周側負極活物質層32および外周側負極活物質層33の面積密度をそれぞれ調整した。また、満充電時において負極30にリチウム金属が析出しないように、その負極30の充放電容量を正極20の充放電容量よりも大きくした。
【0104】
次に、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸ジメチル(DMC)とを混合したのち、電解質塩として六フッ化リン酸リチウムを溶解させて電解液を調製した。この場合には、溶媒の組成(EC:DMC)を体積比で30:70、電解質塩の濃度を1mol/dm3 と(=1mol/l)とした。
【0105】
最後に、正極20、負極30および電解液を用いて二次電池を組み立てた。この場合には、正極20(正極集電体21)にアルミニウム製の正極リード8を溶接すると共に、負極30(負極集電体31)にニッケル製の負極リード9を溶接した。続いて、正極20と、セパレータ41(厚さ=20μmの微孔性ポリエチレンフィルム)と、負極30と、補助セパレータ42(セパレータ41と同様の微孔性ポリエチレンフィルム)とをこの順に積層した。続いて、積層体を正極20が負極30よりも内周側に配置されるように巻芯棒(外径=巻心開口部50の内径C)を中心として数周に渡って巻回させたのち、その巻芯棒を取り除いて巻心開口部50(内径C:表1〜表3)を形成して、巻回電極体10(外径=17.1mm)を作製した。続いて、巻心開口部50にセンターピン51を挿入したのち、ニッケル鍍金された鉄製の円柱状の電池缶1(直径18mm×高さ65mm)の内部に、巻回電極体10を一対の絶縁板2,3で挟みながら収納した。続いて、正極リード8を安全弁機構5に溶接すると共に、負極リード9を電池缶1に溶接した。最後に、減圧方式により電池缶1の内部に電解液を注入してセパレータ41に含浸させたのち、ガスケット7を介して電池蓋4を電池缶1にかしめた。
【0106】
実験例1〜35の二次電池について巻回状況および電池特性(電池容量およびサイクル特性を調べたところ、表4および表5に示した結果が得られた。
【0107】
巻回状況を調べる場合には、巻回電極体10を作製するために、内径Cと同様の外径を有する巻心棒を中心として正極20等を巻回させてからしばらく放置したのち、その巻回体をばらして正極20における破断の有無を黙視で確認した。この結果、破断が生じなかった場合を「○」、破断が生じた場合を「×」と評価した。
【0108】
電池容量を調べる場合には、23℃の雰囲気中で1サイクル充放電して放電容量を測定したのち、実験例23で測定された放電容量の値を基準(100)として規格化した値(放電容量比)を求めた。充放電条件としては、1Cの電流で上限電圧4.2Vまで定電流定電圧充電したのち、0.2Cの電流で終止電圧2.5Vまで定電流放電した。「1C」および「0.2C」とは、それぞれ理論容量を1時間および5時間で放電しきる電流値である。
【0109】
サイクル特性を調べる場合には、23℃の雰囲気中で、1サイクル充放電して放電容量を測定したのち、サイクル数の合計が300サイクルとなるまで充放電を繰り返して放電容量を測定した。その結果から、容量維持率(%)=(300サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100を求めた。充放電条件は、放電時の電流値を1Cに変更したことを除き、電池容量を調べた場合と同様である。
【0110】
なお、正極20が破断しなかった場合には放電容量比および容量維持率を求めることができたが、正極20が破断した場合には二次電池が充放電不能であったため、放電容量比および容量維持率を求めることができなかった。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】

【0115】
【表5】

【0116】
比A/(A+B)および長さFがそれぞれ式(1)および式(2)に示した関係を満たしている場合(実験例1〜22)には、それらの関係を満たしていない場合(実験例23〜35)と比較して、良好な結果が得られた。具体的には、前者の場合には、内径Cを小さくすると共に比D/Eを大きくしても(C=2.5mm〜4mm,D/E=13.333〜20)、正極20の破断が抑制されると共に、高い放電容量比および容量維持率が得られた。この場合には、特に、長さFが式(3)に示した関係を満たしていると、容量維持率がより高くなった。
【0117】
(実験例36〜43)
負極活物質としてSnCoC含有材料に代えてケイ素(Si)を用いると共に、表6に示したように諸条件を設定したことを除き、実験例1〜35と同様の手順により二次電池を作製して巻回状況および電池特性を調べたところ、表7に示した結果が得られた。なお、電池容量を調べる場合には、実験例39で測定された放電容量の値を基準(100)として放電容量比を求めた。
【0118】
【表6】

【0119】
【表7】

【0120】
負極活物質の種類を変更しても、表1〜表5と同様の結果が得られた。具体的には、比A/(A+B)および長さFがそれぞれ式(1)および式(2)に示した関係を満たしている場合(実験例36〜38)には、その関係を満たしていない場合(実験例39〜43)と比較して、正極20の破断が抑制されると共に、高い放電容量比および容量維持率が得られた。
【0121】
上記した表1〜表7の結果から、本発明の二次電池では、面積密度A,B、内径C、厚さD,Eおよび長さFが式(1)および式(2)に示した関係を満たしていると、負極活物質の種類に依存せずに、巻回時における正極20の破断が抑制されると共に、優れた電池特性が得られることが確認された。
【0122】
以上、実施形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は実施形態および実施例で説明した態様に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、本発明の二次電池は、負極の容量がリチウムの吸蔵放出による容量とリチウムの析出溶解に伴う容量とを含み、かつ、それらの容量の和により表される二次電池についても同様に適用可能である。この場合には、負極活物質としてリチウムを吸蔵放出可能な負極材料が用いられると共に、負極材料の充電可能な容量が正極の放電容量よりも小さくなるように設定される。
【0123】
また、実施形態および実施例では、電池構造が円筒型である場合を例に挙げて説明したが、これに限られず、角型などの他の電池構造を有する場合についても同様に適用可能である。
【0124】
また、実施形態および実施例では、キャリアの元素としてリチウムを用いる場合について説明したが、これに限られない。このキャリアは、例えば、ナトリウム(Na)あるいはカリウム(K)などの他の1族元素でもよいし、マグネシウムあるいはカルシウムなどの2族元素でもよいし、アルミニウムなどの他の軽金属でもよい。本発明の効果は、キャリアの元素の種類に依存せずに得られるはずであるため、その元素の種類を変更しても同様の効果を得ることができる。
【0125】
また、実施形態および実施例では、比A/(A+B)の範囲について、実施例の結果から導き出された適正範囲を説明している。しかしながら、その説明は、比A/(A+B)が上記した範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記した適正範囲は、あくまで本発明の効果を得る上で特に好ましい範囲であるため、本発明の効果が得られるのであれば、比A/(A+B)が上記した範囲から多少外れてもよい。このことは、長さFについても同様である。
【符号の説明】
【0126】
1…電池缶、10…巻回電極体、20…正極、20Z…片面活物質層形成領域、21…正極集電体、22…内周側正極活物質層、23…外周側正極活物質層、30…負極、31…負極集電体、32…内周側負極活物質層、33…外周側負極活物質層、41…セパレータ、42…補助セパレータ、50…巻芯開口部、51…センターピン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極がセパレータを介して積層されると共にそれらが前記正極を前記負極よりも内周側に配置するように巻心開口部を中心として巻回された巻回電極体を備え、
前記正極は、正極集電体に形成された内周側正極活物質層および外周側正極活物質層を有すると共に、前記内周側正極活物質層および前記外周側正極活物質層が形成された活物質層形成領域における内周側の端部に、前記正極集電体に前記外周側正極活物質層だけが形成された片面活物質層形成領域を有し、
前記内周側正極活物質層の面積密度A(mg/cm2 )と前記外周側正極活物質層の面積密度B(mg/cm2 )との比A/(A+B)、前記巻心開口部の内径C(mm)、前記正極の厚さD(μm)と前記正極集電体の厚さE(μm)との比D/Eは、下記の式(1)で表される関係を満たし、
前記片面活物質層形成領域の長さF(mm)は、下記の式(2)で表される関係を満たす、
二次電池。
0.380≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87) ・・・(1)
(ただし、Cは2.5≦C≦4、D/Eは13.333≦D/E≦20である。)
[0.3×(D/E)2 −7×(D/E)+45]≦F≦50 ・・・(2)
【請求項2】
下記の式(3)で表される関係を満たす、請求項1記載の二次電池。
0.428≦A/(A+B)≦[0.593−0.007×(D/E)]×(0.03×C+0.87) ・・・(3)
【請求項3】
前記負極は、電極反応物質を吸蔵放出可能な負極活物質を含み、その負極活物質は、ケイ素(Si)およびスズ(Sn)のうちの少なくとも一方を構成元素として含む材料である、請求項1記載の二次電池。
【請求項4】
前記負極は、電極反応物質を吸蔵放出可能な負極活物質を含み、
その負極活物質は、スズとコバルト(Co)と炭素(C)とを構成元素として含み、炭素の含有量が9.9質量%以上29.7質量%以下、スズとコバルトとの合計に対するコバルトの割合が20質量%以上70質量%以下であると共に、X線回折により得られる回折ピークの半値幅が1°以上(回折角2θは20°以上50°以下)の材料である、
請求項1記載の二次電池。
【請求項5】
リチウムイオン二次電池である、請求項1記載の二次電池。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載した二次電池と、前記二次電池を制御する制御手段と、前記二次電池を内包する外装とを備えた、電池パック。
【請求項7】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載した二次電池を電源として作動する、電子機器。
【請求項8】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載した二次電池を電源として可動する、電動工具。
【請求項9】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載した二次電池を電源として作動する、電動車両。
【請求項10】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載した二次電池を電力貯蔵源として用いる、電力貯蔵システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−128956(P2012−128956A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−276716(P2010−276716)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】