説明

二酸化マンガンを含む触媒の存在下でのカルボン酸ニトリルの加水分解によるカルボン酸アミドの製造方法

本発明は、二酸化マンガンを含む触媒の存在下でのカルボン酸ニトリルの加水分解によるカルボン酸アミドの製造方法であって、6.0〜11.0の範囲のpHを有する二酸化マンガンを含む触媒に反応混合物を加え、酸化剤の存在下で加水分解を実施することを特徴とする方法に関する。本発明は、更に、前記方法のような加水分解工程を有する、アルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化マンガンを含む触媒の存在下でのカルボン酸ニトリルの加水分解によるカルボン酸アミドの製造方法に関する。本発明は、更にアルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関する。
【0002】
二酸化マンガンを含む触媒の存在下でのカルボン酸ニトリルの加水分解によるカルボン酸アミドの製造方法は、長い歴史を有する先行技術である。工業において多くの場合、カルボン酸アミドは中間体として必要とされる。例えば、α−ヒドロキシイソブチルアミドは、メタクリル酸又はメタクリルエステル、特にメチルメタクリレートを製造する役割を果たし得る。
【0003】
多くの文献の具体例として、ドイツ特許第1593320号が参照される。ドイツ特許第1593320号は、二酸化マンガンを用いてニトリルをアミドに加水分解する方法を開示しており、脂肪族ニトリルにより90%を超える収率が達成されている。この方法は高速で良好な収率を与える。しかし、耐用年数が短いのが不都合である。従って、連続工程においては、触媒を交換するための短時間後に生産を中断しなければならない。この操作は非常に高いコストを伴い、全工程の生産性はその中断により低下する。
【0004】
日本国特開平09−104665号公報は、活性型δ−二酸化マンガンの製造を開示しており、表面積の大きさによりその活性を定義している。該公報に開示された触媒は非常に高活性である。しかし、前述した耐用年数が短いという問題は、該公報にもある。これは、特に広い表面積を有する触媒に特に当てはまる。
【0005】
加水分解に用いられる触媒の耐用年数を向上させるために、多くの努力が行われてきた。例えば、欧州特許出願第379111(A2)号は、高含有量のアルカリ金属を含む二酸化マンガン触媒の存在下におけるα−ヒドロキシカルボン酸ニトリルの加水分解を開示している。このアルカリ金属の高含有量の結果として、これらの触媒は、特に高い活性及び耐用年数を示す。加水分解は、特に4〜8の範囲のpHにおいて実施できる。しかし、この文献において詳細に記載される触媒を用いないと、この範囲内のpHは触媒の長い耐用年数をもたらさない(欧州特許出願第379111(A2)号、比較例1を参照されたい)。
【0006】
更に、欧州特許出願第545697(A1)号は、触媒の耐用年数を向上させるための特定のヘテロポリ酸の使用を開示している。触媒の耐用年数の更なる向上は、促進剤の使用によって実現することができる。反応中に系に化合物を加える。用いられるアセトンシアンヒドリンが触媒の耐用年数を短くするので、加水分解反応におけるpHは4未満であるべきである。4を超えるpH値では、用いられるアセトンシアンヒドリンは容易に分解し、触媒特性を損なう副生成物を形成することができる。この文献は、欧州特許出願第379111(A2)号の教示を明らかに否定している(欧州特許出願第545697(A1)号、第3頁3〜6行を参照されたい)。
【0007】
更に、欧州特許出願第433611(A1)号は、触媒を安定化させるための酸化剤の使用を開示している。同様に、欧州特許出願第945429(A1)号は、触媒の耐用年数を延長するための酸化剤の使用を開示しており、更なる向上は、少量のアミンの添加によって実現可能である。pHの所定値への調整は、欧州特許出願第433611(A1)号及び欧州特許出願第945429(A1)号のいずれにも開示されておらず、触媒の耐用年数の向上は、単に欧州特許出願第773212(A1)号によるアミンの使用により実現可能である。従って、欧州特許出願第945429(A1)号において開示される向上は、pHの調整に起因しないが、どちらかといえば、欧州特許出願第773212(A1)号及び欧州特許出願第433611(A1)号の教示の組み合わせに起因する。これに関連して、実施例中の詳細な実験データがおそらく酸性条件下で得られるように、特に、シアンヒドリンは、一般的に酸の添加により安定化されることに留意されたい。例えば、これは、前記で引用した欧州特許出願第379111(A2)号からも明らかである。従って、特定のpHは、欧州特許出願第433611(A1)号及び欧州特許出願第945429(A1)号に詳述されている実験から結論づけることはできない。
【0008】
既に詳述した文献の教示は、触媒特性における向上をもたらすが、触媒の耐用年数を向上し、更にプラントの連続運転における交換周期を延長し、触媒の交換費用を減少するための不変の要求がある。これに関連して、非常に大量の触媒が必要であることに留意されたい。
【0009】
従って、先行技術を考慮すると、本発明の目的は、高い収率を有し特に簡単かつ安価な方法で実施することのできるカルボン酸アミドの製造方法を提供することである。特定の問題は、特に、高速、低エネルギー変換かつ収率の損失が低く、特に触媒の耐用年数が長い方法を提供することである。
【0010】
この目的、及び特に示さないが本明細書の序論において議論した関連部分から誘導され、又は直ちに認識される他の目的は、請求項1の全ての特徴を有する方法によって達成される。本発明の方法の適切な改良法は従属請求項により保護される。アルキル(メタ)アクリレートの製造方法に関して、請求項23はこの目的の根底にある課題の解決法を提供する。
【0011】
7.0〜11.0の範囲のpHを有する、二酸化マンガンを含む触媒に反応混合物を加え、酸化剤の存在下で加水分解を実施することにより、特に簡単で安価かつ高収率で実施することのできる、二酸化マンガンを含む触媒の存在下でカルボン酸ニトリルを加水分解することによりカルボン酸アミドの製造方法を提供できる。
【0012】
同時に、本発明の方法は、一連の更なる利点を得ることができる。1つは、本発明の方法が触媒の耐用年数を驚くほど長くすることである。これは、プラントの連続工程において触媒の交換のための操作の中断をめったに必要としないので、特に効果的かつ安価に方法の実施を可能にする。
【0013】
本発明の方法は、カルボン酸アミドの効率的な製造を可能にする。この方法においては、通常、式−CNの置換基を有するカルボン酸ニトリルが特に用いられる。カルボン酸アミドは、式−CONH2の置換基を少なくとも1個含む。これらの化合物は技術分野において公知であり、例えば、CD−ROMによるRoempp Chemie Lexikon,CD−ROM第2版に開示されている。
【0014】
用いられる反応物質は、特に、脂肪族又は脂環式カルボン酸ニトリル、飽和又は不飽和カルボン酸ニトリル並びに芳香族及び複素環カルボン酸ニトリルであってもよい。反応物質として用いられるカルボン酸ニトリルは、1個、2個以上のニトリル基を有していてもよい。更に、芳香族又は脂肪族基中にヘテロ原子、特に、塩素、臭素、フッ素のようなハロゲン原子、酸素、硫黄及び/又は窒素原子を有するカルボン酸ニトリルを用いることも可能である。特に適切なカルボン酸ニトリルは、好ましくは2〜100個、好ましくは3〜20個、最も好ましくは3〜5個の炭素原子を含む。
【0015】
飽和又は不飽和炭化水素基をそれぞれ有する脂肪族カルボン酸ニトリルには、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、イソブチロニトリル、バレロニトリル、イソバレロニトリル、カプロニトリル及び他の飽和モノニトリル類;マロニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル及び他の飽和ジニトリル類;α−アミノプロピオニトリル、α−アミノメチルチオブチロニトリル、α−アミノブチロニトリル、アミノアセトニトリル及び他のα−アミノニトリル類;シアノ酢酸、及び各場合1個のカルボキシル基を有する他のニトリル類;アミノ−3−プロピオニトリル及び他のβ−アミノニトリル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル、シアン化アリル、クロトノニトリル、他の不飽和ニトリル類、及びシクロペンタンカルボン酸ニトリル及びシクロヘキサンカルボン酸ニトリル又は他の脂環式ニトリル類が含まれる。
【0016】
芳香族カルボン酸ニトリルには、ベンゾニトリル、o−、m−及びp−クロロベンゾニトリル、o−、m−及びp−フルオロベンゾニトリル、o−、m−及びp−ニトロベンゾニトリル、p−アミノベンゾニトリル、4−シアノフェノール、o−、m−及びp−トルニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、アニソニトリル、α−ナフトニトリル、β−ナフトニトリル及び他の芳香族モノニトリル類;フタロニトリル、イソフタロニトリル、テレフタロニトリル及び他の芳香族ジニトリル類;ベンジルシアニド、シンナモイルニトリル、フェニルアセトニトリル、マンデロニトリル、p−ヒドロキシフェニルアセトニトリル、p−ヒドロキシフェニルプロピオニトリル、p−メトキシフェニルアセトニトリル及びそれぞれ1個のアラルキル基を有する他のニトリル類が含まれる。
【0017】
複素環カルボン酸ニトリルには、特に、それぞれ5又は6員環を含み、ヘテロ原子として窒素原子、酸素原子及び硫黄原子からなる群から選択される少なくとも1個の原子を含む複素環基を有するニトリル化合物、例えば、2−チオフェンカルボン酸ニトリル、2−フロニトリル及びそれぞれヘテロ原子として硫黄原子又は酸素原子を有する他のニトリル類;2−シアノピリジン、3−シアノピリジン、4−シアノピリジン、シアノピラジン及びそれぞれヘテロ原子として窒素原子を含む他のニトリル類;5−シアノインドール及び他の縮合複素環類;シアノピペリジン、シアノピペラジン及び他の水素化複素環ニトリル類、及び縮合複素環ニトリル類が含まれる。
【0018】
特に好ましいカルボン酸ニトリルには、α−ヒドロキシカルボン酸ニトリル類(シアンヒドリン類)、例えば、ヒドロキシアセトニトリル、2−ヒドロキシ−4−メチルチオブチロニトリル、α−ヒドロキシ−γ−メチルチオブチロニトリル(4−メチルチオ−2−ヒドロキシブチロニトリル)、2−ヒドロキシプロピオニトリル(ラクトニトリル)及び2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニトリル(アセトンシアンヒドリン)が含まれ、アセトンシアンヒドリンが特に好ましい。
【0019】
本発明によれば、カルボン酸ニトリルの加水分解は、二酸化マンガンを含む触媒の存在下で実施される。天然及び合成二酸化マンガンの化学量論的組成物は、他の原子価状態のマンガンの結晶格子への取り込みにより、好ましくはMnO1.7〜MnO2.0の範囲である。二酸化マンガンは、いくつかの同素体で存在する。それらは、触媒としての作用において非常に異なっている。最も安定な変態であるピロリサイト(β−二酸化マンガン)においては、結晶化度が最も顕著である。更なる変態の結晶化度はあまり特徴づけられておらず、α−又はδ−MnO2を含む非晶質産物まで及ぶ。変態を割り当てるためにX線回折を用いることができる。二酸化マンガンの化学的及び触媒的に特に活性形態のいくつかは水和され、更にヒドロキシル基を含む。
【0020】
二酸化マンガンを含む触媒は、更に化合物又はイオンを含んでいてもよい。それらには、特に、製造において結晶格子に取り込まれ、又は触媒表面に沈着するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオンが含まれる。好ましいアルカリ金属イオンには、特にリチウム、ナトリウム及び/又はカリウムイオンが含まれる。好ましいアルカリ土類金属イオンには、特にカルシウム及び/又はマグネシウムイオンが含まれる。アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の含有量は、好ましくはマンガン1原子あたり0.6原子未満である。マンガンに対するアルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属の原子比は、好ましくは0.01:1〜0.5:1であり、より好ましくは0.05:1〜0.4:1である。
【0021】
更に、二酸化マンガンを含む触媒は、同様に結晶格子に取り込まれ、又は触媒表面に沈着する促進剤を含んでいてもよい。好ましい促進剤には、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、Ga、In、Ge、Sn及びPtが含まれる。促進剤の含有量は、好ましくはマンガン1原子あたり0.3原子未満である。マンガンに対する促進剤の原子比は好ましくは0.001:1〜0.2:1であり、より好ましくは0.005:1〜0.1:1である。二酸化マンガンを含む触媒は、好ましくは0.01〜10質量%、より好ましくは0.1〜5質量%の促進剤を含んでもよく、このパラメータは金属又は金属イオンとして測定された質量に基づいている。
【0022】
更に、適切な触媒は例えば、欧州特許出願第0956898(A)号に詳述されているように、機械的安定性を向上させるために、少量のSiO2又は他のバインダーを含んでいてもよい。
【0023】
特に好ましい触媒は、例えば、
0.0〜25質量%、特に0.1〜2質量%のSiO2
0.1〜10質量%、特に0.2〜7質量%のK2O;
0.0〜5質量%、特に0.2〜4質量%のZrO2
75〜99質量%、特に85〜98%のMnO2を含む。触媒は、更に前述したような成分を含んでいてもよい。触媒の組成は、半定量的蛍光X線分析によって決定できる。
【0024】
好ましい、二酸化マンガンを含む触媒は、粉末として測定したX線スペクトル(XRD)において、32.0〜42.0°の範囲の少なくとも1個の反射を有する。X線スペクトルは、例えば、PanalyticalのXpartプロシステムを用いて得ることができる。32.0〜42.0°の範囲におけるこの反射は、より好ましくは20°〜65°の範囲に、更なる強度に関して、最大反射として測定される最も高い強度を有する。特に好ましい触媒は低い結晶化度を示し、これは、特にX線スペクトルから見られる。特に好ましい触媒の構造は、ICDD(国際回析データセンター)により示される構造44−0141又は72−1982に割り当てることができ、特に好ましいのは44−0141に従った構造を有する結晶である。
【0025】
アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属イオン及び促進剤は、触媒の製造において、例えば、塩の形態で加えてもよい。例えば、特に、前記物質のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、リン酸塩及び水酸化物を用いることが可能であり、水溶解性化合物の使用が好ましい。
【0026】
二酸化マンガンを含む触媒は、好ましくは少なくとも50質量%、より好ましくは少なくとも80質量%の実験式MnOx(式中、xは1.7〜2.0の範囲である)を有する二酸化マンガンを含む。
【0027】
本発明の特定の態様においては、二酸化マンガンを含む触媒は、50〜1000m2/g、より好ましくは100〜300m2/g、最も好ましくは150〜250m2/gの、試験法DIN66131により測定される比表面積(BET)を有していてもよい。
【0028】
反応器のタイプに依存し、例えば、触媒は粉末又は顆粒の形態で用いることができ、多くの場合、粒径は用いられる反応器に依存する。
【0029】
二酸化マンガンを含み、前述された触媒の製造はそれ自体公知であり、例えば、欧州特許出願第0379111(A)号、欧州特許出願第0956898(A)号、欧州特許出願第0545697(A)号及び欧州特許出願第0433611(A)号に詳述されている。二酸化マンガンを含み、本発明において用いられる触媒は、好ましくはMn2+塩、例えばMnSO4を、過マンガン酸塩、例えば過マンガン酸カリウムを用いて酸化することにより得ることができる(Biochem.J.,50p.43(1951)及びJ.Chem.Soc.,p.2189,1953を参照されたい)。更に、適切な二酸化マンガンは、水溶液中における硫酸マグネシウムの電解酸化により得ることができる。
【0030】
44−0141に従う構造を有する触媒は、例えば、70℃で、0.71モルのMn(II)SO4(溶液中に合計15質量%のMn2+)、0.043モルのZr(IV)(SO42、0.488モルの濃硫酸及び13.24モルの水を含む水溶液を、1.09モルのKMnO4の64.5モルの水中の溶液に急速に加えることにより得ることができる。上清水溶液を、形成した沈殿と一緒に90℃に3時間加熱する。次いで、沈殿をろ過し、1リットルの水で4回洗浄し、110℃で12時間乾燥する。
【0031】
本発明によれば、二酸化マンガンを含む触媒に添加された反応混合物は、6.0〜11.0、好ましくは6.5〜10.0、最も好ましくは8.5〜9.5の範囲のpHを有する。この関連で、pHは、オキソニウムイオン(H)の活性の負の対数として定義される。従って、このパラメータは、温度を含む要因に依存し、反応温度に基づいている。本発明の目的のため、多くの場合、このパラメータを、電気測定装置(pHメーター)を用いて測定することで十分であり、多くの目的においては、反応温度に代え、室温での測定で十分である。
【0032】
酸又は塩基を加えない場合、通常に用いられる反応物の混合物は、通常、3〜5.5のpHを有する。従って、反応混合物のpHを調整するためには、塩基性物質を加えることが好ましい。この目的のために、アルカリ土類金属又はアルカリ金属によって更に好ましく形成される水酸化物又は酸化物を用いることができる。これらには、Ca(OH)2及びMg(OH)2、MgO、CaO、NaOH、KOH、LiOH又はLi2Oが含まれる。本明細書において、LiOH又はLi2Oを用いることが非常に特に好ましい。理論的に、pHを調整するためにアミン類を用いることもできる。しかし、アミン類の使用が触媒の耐用年数に不都合な影響を及ぼすことがわかった。特に反応混合物内のpHを調整するためのアミン類の含有量は、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、最も好ましくは0.001質量%以下である。特定の態様においては、かなりの割合のアミンを、反応混合物のpHを調整するために加える。
【0033】
本明細書では、多くの場合、二酸化マンガンを含む触媒が両性特性を有するため、反応中の反応混合物pHが触媒のタイプ及び量に非常に影響されることに留意されたい。「二酸化マンガンを含む触媒に添加される反応混合物」なる表現は、pHが触媒の非存在下で測定されることを明らかにする。反応混合物の更なる成分には、例えば、溶媒、水、カルボン酸ニトリル等が含まれる。
【0034】
驚くべきことに、リチウムイオンの存在下における加水分解は、二酸化マンガンを含む触媒の特に長い耐用年数をもたらすことがわかった。従って、本発明の方法は、リチウム化合物、特に水溶性リチウム塩、例えば、LiCl、LiBr、Li2SO4、LiOH及び/又はLi2Oを、反応混合物に加えることにより更に改善することができる。リチウム化合物の濃度は、好ましくは0.001〜5質量%であり、より好ましくは0.01質量%〜1質量%である。添加は、加水分解反応中又は加水分解反応前に実施することができる。
【0035】
本発明によれば、カルボン酸ニトリルのカルボン酸アミドへの加水分解は、酸化剤の存在下で実施される。適切な酸化剤は、当該技術分野において周知である。これらの酸化剤には、酸素ガス;過酸化物、例えば過酸化水素(H22)、過酸化ナトリウム、過酸化カリウム、過酸化マグネシウム、過酸化カルシウム、過酸化バリウム、過酸化ベンゾイル及び過酸化ジアセチル;過酸又は過酸の塩、例えば、過ギ酸、過酢酸、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウム;オキソ酸又はオキソ酸の塩、例えば、過ヨウ素酸、過ヨウ素酸カリウム、過ヨウ素酸ナトリウム、過塩素酸、過塩素酸カリウム、過塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム、臭素酸カリウム、ヨウ素酸ナトリウム、ヨウ素酸、次亜塩素酸ナトリウム、過マンガン酸塩、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガンナトリウム及び過マンガン酸リチウム、及びクロム酸の塩、例えば、クロム酸カリウム、クロム酸ナトリウム及びクロム酸アンモニウムが含まれる。
【0036】
広範囲の量の酸化剤が用いられるが、反応物質及び生成物は酸化剤により酸化されるべきでない。従って、これらの物質の酸化感受性は、酸化剤の使用を制限するかもしれない。下限は、達成すべき触媒の耐用年数の向上から得られる。カルボン酸ニトリルに対する酸化剤のモル比は、好ましくは0.001:1〜2:1であり、より好ましくは0.01:1〜1.5:1である。
【0037】
これらの酸化剤は、例えば、溶液として、及び/又はガスとして反応混合物に加えてもよい。用いられる酸化剤は、より好ましくは酸素を含むガスである。この場合、ガスは分子酸素(O2)又はオゾン(O3)を含んでいてもよい。更に、酸化剤として用いられるガスは、更なるガス、特に窒素又は希ガスのような不活性ガスを含んでいてもよい。特定の態様においては、ガスは、好ましくは50〜98容量%の不活性ガス及び2〜50容量%の分子酸素(O2)を含む。好ましいガスには、特に空気が含まれる。更に、20容量%未満、特には10容量%未満の分子酸素を含むガスを用いることも可能であり、これらのガスは、通常は少なくとも1容量%、好ましくは少なくとも2容量%の酸素を含む。
【0038】
酸素を含み、反応混合物を通過するガスの量は、二酸化マンガンを含む触媒1kgに対して、好ましくは1〜5000リットル/時、より好ましくは10〜1000リットル/時である。
【0039】
カルボン酸ニトリルを加水分解するのに必要な水は、多くの場合、溶媒として用いられる。水対カルボン酸ニトリルのモル比は、好ましくは少なくとも1であり;水対カルボン酸ニトリルのモル比は、より好ましくは0.5:1〜25:1であり、最も好ましくは1:1〜10:1である。
【0040】
加水分解に用いられる水は高い純度を有していてもよい。しかし、この特性は必須ではない。新鮮な水と同様、程度の差はあっても不純物を含むサービス水又はプロセス水を使用することも可能である。従って、再利用水を加水分解に使用することもできる。
【0041】
更に、カルボン酸ニトリルの加水分解のためには反応混合物中に更なる成分が存在していてもよい。これらには、アルデヒド及びケトン等のカルボニル化合物、特にカルボン酸ニトリルに優先して用いられるシアンヒドリンの製造に用いられているものが含まれる。例えば、アセトン及び/又はアセトアルデヒドが反応混合物中に存在してよい。これは、例えば、米国特許第4018829(A)号に開示されている。添加されるアルデヒド類及び/又はケトン類の純度は、一般的に特に重要ではない。従って、これらの物質は、不純物、特にアルコール類、例えばメタノール、水及び/又はメチル−α−ヒドロキシイソブチレート(MHIB)を含んでいてもよい。カルボニル化合物、特にアセトン及び/又はアセトアルデヒドの量は反応混合物中に広範囲に設定してよい。カルボニル化合物は、好ましくはカルボン酸ニトリル1モル当たり0.1〜6モル、好ましくは0.1〜2モルの量で用いられる。
【0042】
加水分解反応を実施する温度は、通常、10〜150℃、好ましくは20〜100℃、より好ましくは30〜80℃であってもよい。
【0043】
反応温度に依存し、加水分解反応は、減圧又は高圧下に実施することができる。この反応を、0.1〜10バール、より好ましくは0.5〜5バールで行うのが好ましい。
【0044】
加水分解反応の反応時間は、用いられるカルボン酸ニトリル、触媒の活性及び反応時間を含む要因に依存し、これらのパラメータは広範囲である。加水分解反応の反応時間は、好ましくは30秒間〜15時間、より好ましくは15分〜10時間、最も好ましくは60分間〜5時間である。
【0045】
連続工程においては、滞留時間は30秒〜15時間、より好ましくは15分〜10時間、最も好ましくは60分〜5時間である。
【0046】
カルボン酸ニトリルで用いる触媒の装填量は広範囲であってもよい。1時間あたり、触媒1gあたり0.01〜2.0g、より好ましくは0.05〜1.0g、最も好ましくは0.1〜0.4gのカルボン酸ニトリルの使用が好ましい。
【0047】
反応は、例えば、固定層反応器中、又は懸濁反応器内で実施することができる。酸化剤としてガスを用いる場合、特に、ガス、固体及び液体との良好な接触を可能にする、いわゆるトリクルベッド反応器を用いることができる。トリクルベッド反応器において、触媒は固定床の形態に配列される。この場合、トリクルベッド反応器は、同時又は向流モードで操作することができる。
【0048】
このようにして得られた反応混合物は、通常、所望のカルボン酸アミドに加え、他の成分、特に未変換カルボン酸ニトリル、及び用いられる任意のアセトン及び/又はアセトアルデヒドを含むことができる。従って、反応混合物を精製することができ、シアンヒドリンの製造に再度それらを用いるために、未変換シアンヒドリンをアセトン及びシアン化水素酸に分解する。同じことが、除去されたアセトン及び/又はアセトアルデヒドにも適用される。
【0049】
更に、カルボン酸アミドを含む精製反応混合物をイオン交換カラムにより精製し、更なる成分を除去することができる。
【0050】
この目的のため、特にカチオン交換体及びアニオン交換体を用いることができる。この目的のために適切なイオン交換体はそれ自体公知である。例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーのスルホン化により適切なカチオン交換体を得ることができる。塩基性アニオン交換体は、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーに共有結合している4級アンモニウム基を含む。
【0051】
α−ヒドロキシカルボン酸アミドの精製は、特に、欧州特許出願第0686623(A)号に詳述されている。
【0052】
加水分解に用いられるカルボン酸ニトリルは、どのような方法で得てもよい。本発明の方法においては、カルボン酸ニトリル、例えばシアンヒドリンの純度は、通常は重要でない。従って、精製又は未精製のカルボン酸ニトリルを加水分解反応に用いることができる。
【0053】
優先的に用いられるシアンヒドリンを製造するために、例えば、ケトン、特にアセトン、又はアルデヒド、例えばアセトアルデヒド、プロパナール、ブタナールと、シアン化水素酸とを反応させ、対応するシアンヒドリンを得ることが可能である。本明細書においては、通常の方法で、触媒として少量のアルカリ又はアミンを用いて、アセトン及び/又はアセトアルデヒドを反応させることが好ましい。この反応を触媒するために用いられるアミン類は、好ましくは塩基性イオン交換樹脂の形態で用いられる。
【0054】
従って、カルボン酸ニトリルは、好ましくは、塩基性触媒の存在下で、ケトン又はアルデヒドと、シアン化水素酸とを反応させることにより得られる。特定の実施態様においては、用いられる塩基性触媒はアルカリ金属水酸化物であってもよく、塩基性触媒の量は、好ましくは、加水分解反応に用いられる混合物のpHが、6.0〜11.0、好ましくは6.5〜10.0、最も好ましくは8.5〜9.5の範囲の値に調整されるように選択される。
【0055】
本発明の加水分解反応は、特に、(メタ)アクリル酸、特にアクリル酸(プロペン酸)及びメタクリル酸(2−メチルプロペン酸)及びアルキル(メタ)アクリレートの製造工程中の中間工程として役立つ。従って、本発明は、本発明の方法による加水分解工程を有するメチルメタクリレートの製造方法をも提供する。シアンヒドリンの加水分解工程を有し、(メタ)アクリル酸及び/又はアルキル(メタ)アクリレートを製造する方法は、特に欧州特許出願第0406676(A)号、欧州特許出願第0407811(A)号、欧州特許出願第0686623(A)号及び欧州特許出願第0941984(A)号に詳述されている。
【0056】
特に好ましい実施態様においては、下記工程を含む方法により、簡単かつ安価な方法で、カルボニル化合物、シアン化水素酸及びアルコール類からアルキル(メタ)アクリレートを得ることができる。
【0057】
A)少なくとも1種のカルボニル化合物とシアン化水素酸とを反応させることにより少なくとも1種のシアンヒドリンを形成する工程:
B)前記シアンヒドリン又は2種以上のシアンヒドリンを加水分解し、少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸アミドを形成する工程;
C)前記α−ヒドロキシカルボン酸アミド又は2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸アミドをアルコール分解し、少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを形成する工程;
D)前記α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステル又は1種以上のα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを、(メタ)アクリル酸とエステル交換し、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート及び少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸を形成する工程;
E)前記α−ヒドロキシカルボン酸又は2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸を脱水し、(メタ)アクリル酸を形成する工程。
【0058】
工程A)及びB)は前記で詳細に説明した。次の工程C)においては、このようにして得られたα−ヒドロキシカルボン酸アミドをα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルに変換することができる。これは、例えば、ギ酸アルキルの使用により実施することができる。特に適切な反応物質はギ酸メチル又はメタノールと一酸化炭素との混合物であり、この反応は、具体的に欧州特許出願第0407811(A)号に開示されている。
【0059】
好ましくは1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜5個の炭素原子を含むアルコールを用いて、アルコール分解によりα−ヒドロキシカルボン酸アミドを反応させるのが好ましい。好ましいアルコール類には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、具体的にはn−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、オクタノール、ノナノール及びデカノールが含まれる。用いられるアルコールは、より好ましくはメタノール及び/又はエタノールであり、非常に特に好ましくはメタノールである。カルボン酸アミドをアルコールと反応させてカルボン酸エステルを得ることは通常の知識である。
【0060】
α−ヒドロキシカルボン酸アミド対アルコールのモル比、例えばα−ヒドロキシイソブチルアミド対メタノールのモル比は、それ自体重要でなく、1:3〜20:1の範囲が好ましい。この比は、1:2〜15:1、より好ましくは1:1から10:1が非常に特に適切である。
【0061】
同様に、反応温度は広範囲であってもよく、反応速度は、一般に温度が上昇すると上昇する。温度の上限は、通常、用いられるアルコールの沸点である。反応温度は、好ましくは40〜300℃、より好ましくは160〜240℃の範囲である。反応は、反応温度に依存し、減圧下又は高圧下で実施してもよい。この反応は、好ましくは0.5〜200バール、特に適切には1〜100バール、より好ましくは50〜30バールで実施される。
【0062】
特定の実施態様において、α−ヒドロキシカルボン酸アミドとアルコールとの反応は圧力反応器内で実施することができる。これは、原則として、反応中、高圧を維持することを可能にする反応チャンバーを意味すると理解される。これに関連して、高圧は、大気圧よりも高い圧力、すなわち、具体的には1バールより高い圧力を意味する。圧力は、好ましくは1バールより高く100バールより低い。従って、α−ヒドロキシカルボン酸アミドの反応/アルコール分解の間、及び生成混合物からのアンモニアの除去の間の両者の圧力は、大気圧より高い、又は1バールより高い。従って、反応中に形成されたアンモニアは、1バールよりも高い圧力下で混合物から蒸留により除去することができ、アンモニアの蒸留除去用ストリッピングガス等の補助の使用を完全に省略することができる。
【0063】
生成混合物は、アンモニア中だけでなく、未変換アルコール中でも消費される。特に、アルコール分解にメタノールを用いる場合、結果は、特に、原則として互いに分離することが非常に困難な成分アンモニア及びメタノールを含む生成混合物である。最も簡単な場合、生成混合物は、アンモニア及びアルコール中で、前記2成分を生成混合物から物質の混合物として直接除去することにより消費される。次いで、2成分は分離操作、例えば精留される。更に、2成分、アルコール(メタノール)及びアンモニアは、1回の操作で生成混合物から分離することができ、2成分、アンモニア及びアルコール(メタノール)は同時に互いから分離することができる。
【0064】
反応工程及び生成混合物からのアンモニア/アルコールの除去は、互いに空間的に分離し、異なる装置で実施することができる。この目的のために、例えば、1個以上の圧力反応器を供給し、それらを圧力蒸留カラムに接続することができる。このシステムは、離れた領域のカラムの外側に配置される1個以上の反応器を含む。
【0065】
α−ヒドロキシカルボン酸エステル、アンモニア、未変換α−ヒドロキシカルボン酸アミド、並びにアルコール及び触媒を含む生成混合物を得るために、触媒の存在下でα−ヒドロキシカルボン酸アミド反応物質をアルコールと反応させる、α−ヒドロキシカルボン酸エステルを製造するための以下の連続工程を用いることが好ましい。
【0066】
a’)反応物質として、α−ヒドロキシカルボン酸アミド、アルコール及び触媒を含む反応物質流れを圧力反応器内に供給し;
b’)圧力反応器中、1〜100バールの圧力で、反応物質流れを互いに反応させ;
c’)工程b’)から得られ、圧力反応器からα−ヒドロキシカルボン酸エステル、未変換α−ヒドロキシカルボン酸アミド及び触媒を含む生成混合物を排出し;
d’)生成混合物をアルコール及びアンモニア中で消費し、アンモニアを、1バールよりも高く絶えず維持する圧力で蒸留する。
【0067】
この場合、特に適切な工程の変更法は、
b1)圧力反応器中、5〜70バールの圧力で、反応物質を互いに反応させ;
b2)工程b1)から得られた生成混合物の圧力を、圧力反応器中の圧力よりも低く1バールよりも高い圧力に低下させ;
c1)工程b2)から得られた減圧した生成混合物を蒸留カラム内に供給し:
c2)蒸留カラム内において、上端を通してアルコール及びアンモニアを蒸留により除去し、蒸留カラム中の圧力を1バールより高く10バールよりも低く維持し;
d1)アンモニア及びアルコール中で消費され、α−ヒドロキシカルボン酸エステル、未変換α−ヒドロキシカルボン酸アミド及びカラム由来の触媒を含む、工程c2)から得られる生成混合物を排出するによって供給され得る。
【0068】
この好ましい工程の変形においては、反応物質の反応及びアンモニア/アルコールの除去は2種の異なる空間的に離れた装置で実施する。言い換えると、反応器/反応チャンバー、及び生成混合物からのアンモニア/アルコールの除去のための分離装置は互いに離れている。反応物質の反応、及びそれに続くアンモニア/アルコールの除去のために、異なる圧力範囲を使用できることは有利である。圧力カラム中における分離工程よりも、高圧下での圧力反応器中における反応工程に工程は分離され、高圧下、すなわち1バールより高い圧力下で実施される両工程は、意外にも分離作用をもう一度有意に向上させ、アンモニア/アルコール混合液の除去の効率を向上させることを可能にする。
【0069】
言及される特性は、圧力反応器中で、分離カラム(圧力蒸留カラム)の底部でのアンモニア及びアルコール中で消費される生成混合物との1回以上の反応を繰り返すことによって更に向上させることができ、反応工程は、連続的に接続される複数の圧力反応器に移る。
【0070】
従って、この態様においては、e)工程d1)において排出された生成混合物を5〜70バールの圧力に圧縮し;f)工程e)の方法で圧縮された混合物を反応のための他の圧力反応器に供給して再度反応させ;g)工程b2)、c1)、c2)及びd1)を前記に従い繰り返すことを特徴とする工程の変形が非常に特に好ましい。
【0071】
アンモニア及びアルコール中で消費される混合物が第一蒸留カラムの底部上のトレイから回収され、蒸留カラム内での圧力よりも高い圧力に圧縮され、次いで第二圧力反応器に供給され、高圧及び高温の作用下での他の反応により2回反応した生成混合物を得た後、第二圧力反応器での圧力よりも低く、1バールよりも高い圧力に減圧し、次いでトレイ下の第一蒸留カラム中で再利用し、そこから第二圧力反応器への供給が達成されるが、第一蒸留カラムの底部の上には供給されず、アンモニア及びアルコールは上端から蒸留により再度除去され、アンモニア及びアルコール中で2回消費した混合物を得ることには特に興味深い。
【0072】
この工程段階は、所望の通りに繰り返すことができ;例えば、3〜4回の繰り返しが特に好ましい。この点において、圧力反応器内の反応、反応混合物の減圧、第一蒸留カラムへの供給、第一蒸留カラム内でのアンモニア及びアルコールの消費、消費した混合物の除去、消費した混合物の圧縮及び更なる圧力反応器への供給を、連続的に接続された圧力反応器の数nに依存し、圧力蒸留カラムの底部においてアンモニア及びアルコール内でn回消費される生成混合物を得るために、1回以上繰り返すことを特徴とする方法が特に好ましい。nはゼロより大きい正の整数であってもよい。nは、好ましくは2〜10である。
【0073】
適切な工程の変更法は、前述の定義された工程e)〜g)の1回以上の繰り返しと予想される。
【0074】
非常に特定の工程の変形には、アンモニア及びアルコール中で4回消費された生成混合物が得るための、連続的に接続された4個の圧力反応器を用いた4回の反応及び消費の実行が含まれる。従って、この工程の変形は、反応が、連続的に接続された、合計で少なくとも4個の圧力反応器内で実施されるように、工程e)からg)を少なくとも2回繰り返すことを特徴とする。
【0075】
特定の工程の変形について、カラム及び反応器中では異なる温度範囲が特に適していることがわかった。
【0076】
例えば、圧力蒸留カラムは、好ましくは、通常約50℃〜約160℃の温度を有する。通常、正確な温度は、既存の圧力条件の関数として沸騰システムによって確立される。
【0077】
反応器中の温度は、好ましくは約120〜240℃の範囲である。反応器から反応器への温度を、例えば、3〜15℃の幅、好ましくは4〜10℃の幅、特に適切には5℃の幅で低下させることが特に適切である。これは、明らかに反応の選択性に影響を及ぼす。
【0078】
選択性を向上させる更なる手段は、反応器から反応器への反応器容量を減少させることを含む。変換の増加と共に反応器容量を減少すると同様に選択性が向上する。
【0079】
既に前述したように、カラムのある点で圧力蒸留カラムから排出される生成混合物を排出することが好ましい。これとの関連において、配向性について、相対的な位置の記載として、カラムの底部からの排出の距離が用いられる。特に適切には、本発明と関連したこの方法は、前記工程c1)の供給の供給点に基づいて蒸留カラムの底部により密接した圧力反応器中へのそれぞれの新規反応後に、工程c1)に従い減圧した生成混合物を供給する。
【0080】
前記変形に加え、α−ヒドロキシカルボン酸アミドのアルコールとの反応は、2個の空間的に分離されているが接続された装置中で得られた生成物であるアンモニアの除去により実施され、更なる工程の変更法においては、単一装置中で反応工程及び除去工程を実施することが好ましい。この場合、圧力反応器及び圧力蒸留カラムは、単一装置内にあり、効率的に同一の空間を占めると理解される。
【0081】
前述の本発明の変形において観察される、好ましくは反応器としての反応性蒸留カラム中の圧力範囲は、広範囲で変化し得る。本発明の好ましい実施態様は、5バール〜40バールの圧力における反応性蒸留カラム中で、工程a)〜c)を同時に実施することを含む。特に適切な工程は、工程a)及びc)が、10バール〜30バールの圧力で、反応性蒸留カラム中で同時に実施されることを特徴とする。
【0082】
この方法の好ましい変形においては、反応物質の反応は、圧力カラムとして設計された反応性蒸留カラム中で実施され、得られたアンモニアは反応中にカラムの上端を通して連続的に蒸留により除去される。これは、減圧する必要がなく非常に簡単な方法でアンモニアを除去することができ、高純度で回収することができるという驚くべき効果を達成する。特に興味深い他の変形は、カラムの上端を通って圧力下でアンモニアが蒸留により除去され、アルコールが底部を通って、又は副流を通ってカラムから除去されるものである。反応性蒸留カラムの適切に構成された分離作用の結果として、アンモニア及びアルコールの即時分離が達成される。
【0083】
本発明について、1種の変形においては、好ましくは2個以上の分離段階を有する、任意の多段階圧力抵抗反応性蒸留カラムを用いることができる。このような反応性スチルは工程D)に関連して詳細に説明されており、それらは、カルボン酸アミドとアルコールとの反応にも用いることができる。
【0084】
アンモニア中で消費された生成混合物は、特に所望のα−ヒドロキシカルボン酸エステルを含む。エステルを更に分離し精製するために、適切な工程の変更法において、反応性蒸留カラムの底部を通してアンモニア中で消費された生成混合物を取り除き、それを更なる第二蒸留カラムに供給することが可能であり、ここで、アルコールは、カラムの上端を通って蒸留により除去され、好ましくは反応器中で再利用され、アンモニア及びアルコールの両方の中で消費される混合物が得られる。
【0085】
アンモニア及びアルコール中で消費される混合物からα−ヒドロキシカルボン酸エステルを更に分離及び回収するため、アンモニア及びアルコール中で消費される混合物が他の蒸留カラムの底部を通って排出され、更に他の蒸留カラムに供給され、その中でα−ヒドロキシカルボン酸エステルが上端を通って蒸留により除去され、このようにして得られた、場合により更なる精製工程後のアンモニア、アルコール及びα−ヒドロキシカルボン酸エステル中で消費された混合物を、反応器中で再利用する方法が好ましい。カラムの上端を通って得られたα−ヒドロキシカルボン酸エステル生成物は非常に純粋であり、例えば、アルキル(メタ)アクリレートを得るための更なる反応工程に非常に有利に供給できる。
【0086】
概略したように、蒸留装置は、好ましくは、少なくとも1種の触媒が供給される、反応器として知られる少なくとも1つの領域を有する。上述のように、この反応器は、好ましくは蒸留カラム中にあってもよい。
【0087】
本発明については、反応相中に存在する10質量%以下、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下のアルコールが、ガス相を通って反応システムから除去される場合が好都合であろう。この測定は、反応が特に安価に実施されることを可能にする。
【0088】
この反応は、例えば塩基性触媒によって加速することができる。これらは、均一又は不均一触媒を含む。
【0089】
均一触媒は、アルカリ金属アルコキシド類、並びにチタン、スズ及びアルミニウムの有機金属化合物を含む。チタンアルコキシド又はスズアルコキシド、例えばチタンテトライソプロポキシド又はスズテトラブトキシドの使用が好ましい。不均一触媒は、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び前述したような塩基性イオン交換体を含む。
【0090】
本発明の方法の実施に非常に興味深い触媒は、耐水性ランタノイド化合物である。このタイプの均一触媒の使用は、特に驚くべき結果をもたらす。「耐水性」なる表現は、水の存在下に触媒がその触媒性能を保持することを意味する。従って、本発明の反応は、触媒の触媒性能を顕著に損なうことなく2質量%以下の水の存在下で実施することができる。これに関連し、「顕著に」なる表現は、反応速度及び/又は選択性が、水の非存在下における反応を基準とし、50%以下に減少することを意味する。
【0091】
ランタノイド化合物は、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho,Er、Tm、Yb及び/又はLuの化合物を意味する。好ましくは、ランタンを含むランタノイド化合物が用いられる。
【0092】
ランタノイド化合物は、25℃において、好ましくは少なくとも1g/L、好ましくは少なくとも10g/Lの水溶解性を有する。
【0093】
好ましいランタノイド化合物は、好ましくは酸化状態3において存在する塩である。
【0094】
特に好ましい耐水性ランタノイド化合物は、La(NO33及び/又はLaCl3である。これらの化合物は、塩として反応混合物に加えられるか、その場で形成される。
【0095】
特定の工程の変形は、触媒として、チタン及び/又はスズ並びにα−ヒドロキシカルボン酸アミドを含む溶解性金属錯体の使用を含む。
【0096】
本発明の他の特定の変更法は、触媒として、金属トリフルオロメタンスルホネートの使用を予想する。この場合、金属が周期表の1、2、3、4、11、12、13及び14族内の元素からなる群から選択される、金属トリフルオロメタンスルホネートの使用が好ましい。これらの中で、金属が1種以上のランタノイドに相当する、金属トリフルオロメタンスルホネートが好ましい。
【0097】
均一触媒の好ましい変形に加え、ある環境下では不均一触媒を用いる工程が適切である。首尾よく使用できる不均一触媒には、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び塩基性イオン交換体等が含まれる。
【0098】
例えば、触媒が、Sb、Sc、V、La、Ce、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Tc、Re、Fe、Co、Ni、Cu、Al、Si、Sn、Pb及びBiからなる群から選択される少なくとも1種の元素を含む不溶性金属酸化物である方法が好ましい。
【0099】
また、用いられる触媒が、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Co、Ni、Cu、Ga、In、Bi及びTeからなる群から選択される不溶性金属である方法が好ましい。
【0100】
通常、形成されるアンモニアは反応系から排出され、多くの場合、反応は沸点で実施される。
【0101】
アルコール分解中に放出されるアンモニアは、全工程に容易に再利用できる。例えば、アンモニアはメタノールと反応し、シアン化水素酸を与える。これは、例えば、欧州特許出願第0941984(A)号に詳述されている。更に、シアン化水素酸は、BMA又はAndrussow法により、アンモニア及びメタンから得ることができ、この方法は、"Inorganic Cyano Compounds",Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry,5th Edition on CD−ROMに開示されている。
【0102】
次の工程D)においては、α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを(メタ)アクリル酸と反応させ、アルキル(メタ)アクリレート及びα−ヒドロキシカルボン酸を得る。
【0103】
本発明の更なる態様においては、α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを(メタ)アクリル酸と反応させることができる。この目的のために用いることのできる(メタ)アクリル酸はそれ自体公知であり、市販されている。アクリル酸(プロペン酸)及びメタクリル酸(2−メチルプロペン酸)に加え、特に置換基を含む誘導体が含まれる。適切な置換基には、特に、塩素、フッ素及び臭素のようなハロゲン、好ましくは1〜10個、より好ましくは1〜4個の炭素原子を含むアルキル基が含まれる。それらには、β−メチルアクリル酸(ブテン酸)、α,β−ジメチルアクリル酸、β−エチルアクリル酸及びβ,β−ジメチルアクリル酸が含まれる。好ましくは、アクリル酸(プロペン酸)及びメタクリル酸(2−メチルプロペン酸)であり、メタクリル酸が特に好ましい。
【0104】
この目的のために用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルはそれ自体公知であり、エステルのアルコール基は、好ましくは1〜20個の炭素原子、特に1〜10個の炭素原子、より好ましくは1〜5個の炭素原子を含む。好ましいアルコール基は、特に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールに由来し、特にn−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール及び2−エチルヘキサノール、特に好ましくはメタノール及びエタノールである。
【0105】
エステル交換のために用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルの酸基は、好ましくは、α−ヒドロキシカルボン酸の脱水により得ることのできる(メタ)アクリル酸に由来する。例えば、メタクリル酸が用いられる場合、α−ヒドロキシイソ酪酸エステルが用いられる。例えば、アクリル酸が用いられる場合、α−ヒドロキシイソプロピオン酸を使用するのが好ましい。
【0106】
好ましく用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルは、メチルα−ヒドロキシプロピオネート、エチルα−ヒドロキシプロピオネート、メチルα−ヒドロキシイソブチレート及びエチルα−ヒドロキシイソブチレートである。
【0107】
反応物質に加え、反応混合物は、更なる成分、例えば、溶媒、触媒、重合阻害剤及び水を含んでいてもよい。
【0108】
アルキルヒドロキシカルボン酸エステルと(メタ)アクリル酸との反応は、少なくとも1種の酸又は少なくとも1種の塩基により触媒され得る。均一又は不均一触媒のいずれかを用いることができる。特に適切な酸性触媒は、特に無機酸、例えば、硫酸又は塩酸、並びに有機酸、例えば、スルホン酸、特にp−トルエンスルホン酸、並びに酸性カチオン交換体である。
【0109】
特に適切なカチオン交換樹脂には、特に、スルホン酸含有スチレン−ジビニルベンゼンポリマーが含まれる。特に適切なカチオン交換樹脂は、Rohm & HaasからAmberlyst(登録商標)の商品名で、LanxessからLewatit(登録商標)の商品名で市販されている。
【0110】
触媒の濃度は、用いられるα−アルキルヒドロキシカルボン酸エステル及び用いられる(メタ)アクリル酸の合計に対して、好ましくは1〜30質量%、より好ましくは5〜15質量%である。
【0111】
好ましく使用できる重合阻害剤には、フェノチアジン、tert−ブチルカテコール、ヒドロキノンモノメチルエーテル、ヒドロキノン、4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシル(TEMPOL)又はそれらの混合物が含まれ、これらの阻害剤の効果は、ある場合は酸素を用いることにより向上させることができる。重合阻害剤は、用いられるα−アルキルヒドロキシカルボン酸エステル及び用いられる(メタ)アクリル酸の合計に対して、0.001〜2.0質量%、より好ましくは0.01〜0.2質量%の濃度で用いることができる。
【0112】
反応は、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは70℃〜130℃、特には80℃〜120℃、最も好ましくは90℃〜110℃の温度で実施される。
【0113】
反応は、反応温度に依存し、減圧又は高圧下で実施することができる。この反応は、好ましくは0.02〜5バール、特には0.2〜3バール、より好ましくは0.3〜0.5バールで実施される。
【0114】
(メタ)アクリル酸対α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルのモル比は、好ましくは4:1〜1:4、特には3:1〜1:3、より好ましくは2:1〜1:2である。
【0115】
選択性は、好ましくは少なくとも90%、より好ましくは98%である。選択性は、変換したアルキルα−ヒドロキシカルボレート及び(メタ)アクリル酸の合計量に対して、形成されたアルキル(メタ)アクリレート及びα−ヒドロキシカルボン酸の合計量の比として定義される。
【0116】
本発明の特定の態様においては、水の存在下でエステル交換が実施できる。水分含有量は、用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルの質量に対して、好ましくは0.1〜50質量%、より好ましくは0.5〜20質量%、最も好ましくは1〜10質量%である。
【0117】
少量の水の添加は、驚くべきことに反応の選択性を向上させる。水の添加にもかかわらず、メタノールの形成は驚くべきことに低いままで維持することができる。用いられるα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルの質量に対して、10〜15質量%の水濃度において、120℃の反応温度、並びに5〜180分間の反応時間又は滞留時間で5質量%未満のメタノールが形成される。
【0118】
エステル交換は、バッチ式又は連続的に実施することができ、連続法が好ましい。エステル交換において、生成物は、好ましくは、反応の平衡を変化させるために反応物質から除去することができる。
【0119】
エステル交換の反応時間は、用いられるモル質量及び反応時間に依存し、これらのパラメータは広範囲であり得る。α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルと(メタ)アクリル酸とのエステル交換の反応時間は、好ましくは30秒〜15時間、より好ましくは5分〜5時間、最も好ましくは15分〜3時間である。
【0120】
連続法においては、滞留時間は、好ましくは30秒〜15時間、より好ましくは5分〜5時間、最も好ましくは15分〜3時間である。
【0121】
メチルα−ヒドロキシイソブチレートからメチルメタクリレートの製造において、温度は、好ましくは60〜130℃、より好ましくは80〜120℃、最も好ましくは90〜110℃である。圧力は、好ましくは50〜1000ミリバール、より好ましくは300〜800ミリバールである。メタクリル酸対メチルα−ヒドロキシイソブチレートのモル比は、好ましくは2:1〜1:2の範囲、特には1.5:1〜1:1.5である。
【0122】
特に好ましい実施態様においては、エステル交換は蒸留器中で実施することができる。この場合、触媒を蒸留器のあらゆる領域に加えることができる。例えば、触媒を、底部又はカラムの領域に供給することができる。しかし、同時に、反応物質を触媒と接触させるべきである。更に、触媒は蒸留器の別々の領域に供給してもよく、この場合、この領域は蒸留器の他の領域、例えば底部及び/又はカラムと接触している。触媒領域の別々の配置が好ましい。
【0123】
この好ましい実施態様は、反応の選択性を向上させるのに驚くほど成功する。これとの関連で、反応の圧力が、蒸留カラム中の圧力とは無関係に調整できることに留意されたい。これは、反応時間又は滞留時間に対応して増大させることなく、沸点を低いままに維持することを可能にする。更に、反応温度は広範囲で変化し得る。これは、反応時間を短くできる。更に、触媒の容量は、カラムの配列を考慮することなく、所望のように選択することができる。更に、例えば、追加の反応物質を加えることができる。これら全ての手段は、選択性及び生産性の向上に寄与し、驚くべき相乗効果が達成される。
【0124】
この方法においては、α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステル、例えば、メチルα−ヒドロキシイソブチレートが蒸留器に供給される。更に、(メタ)アクリル酸、例えば、メタクリル酸が蒸留器に供給される。蒸留条件は、好ましくは、正確に1種の生成物が蒸留により蒸留器から排出され、第二の生成物が底部に残留し、そこから連続的に除去されるように構成される。小さい炭素数を有するアルコール、特にエタノール又はメタノールを用いる場合は、好ましくはアルキル(メタ)アクリレートを蒸留により反応混合物から排出するのが好ましい。反応物質は、触媒領域を循環的に通過する。これは、アルキル(メタ)アクリレート及びα−ヒドロキシカルボン酸を連続的に形成する。
【0125】
蒸留器の好ましい実施態様を図1に概略的に示す。反応物質は、1本のカラムライン(1)を通って、又は2本のカラムライン(1)及び(2)を別々に通って蒸留カラム(3)に導入される。反応物質は、好ましくは別々のラインを通って添加される。反応物質は、同じ段階で、又はあらゆる場所でカラムに供給することができる。
【0126】
反応物質の温度は、供給材料中の熱交換器により調整することができ、この目的のために必要な装置は図1に示していない。好ましい変形においては、反応物質をカラム中に別々に測り入れ、低沸点の成分を高沸点の化合物の供給のための位置よりも下に測り入れる。この場合、低沸点成分は、好ましくは蒸気の形態で添加される。
【0127】
本発明のために、2個以上の別段階を有する、任意の多段式の蒸留カラム(3)を用いてもよい。本発明において用いられる別段階の数はトレイカラム中のトレイの数であり、又は構造化パッキング又はランダムパッキングを有するカラムの場合は理論的なプレートの数である。
【0128】
トレイを有する多段式蒸留カラムには、バブルキャップトレイ、網目板、トンネルキャップトレイ、バルブトレイ、スロットトレイ、細長い穴の開いた網目板、バブルキャップ網目板、ジェットトレイ、遠心トレイのようなものが含まれ;ランダムパッキングを有する多段式蒸留カラムには、ラシヒリング、レッシングリング、ポールリング、バールサドレス、インタロクスサドルのようなものが含まれ;構造化パッキングを有する多段式蒸留カラムには、Mellapak(Sulzer)、Rombopak(Kuehni)、Montz−Pak(Montz)及び触媒ポケットを有する構造化パッキング、例えばKata−Pakのようなものが含まれる。
【0129】
トレイ領域、ランダムパッキング領域又は構造化パッキング領域の組み合わせを有する蒸留カラムを同様に用いてもよい。
【0130】
カラム(3)は、内部構造を備えていてもよい。カラムは、好ましくは蒸気を液化するための冷却器(12)及びボトムエバポレータ(18)を有する。
【0131】
蒸留装置は、好ましくは、以下、反応器として称される、少なくとも1種の触媒が供給される少なくとも1つの領域を有している。この反応器は、蒸留カラム中にあってもよい。しかし、この反応器は、好ましくは別領域内のカラム(3)の外側に配置されており、これらの好ましい実施態様の1つを図1において詳細に説明する。
【0132】
別の反応器(8)中でエステル交換反応を実施するために、カラム内で、収集器を用いて下方に流れる液相の一部を収集し、それを副流(4)としてカラム外に送ることが可能である。収集器の位置は、個々の成分のカラム中における濃度プロフィールにより決定される。濃度プロフィールは、温度及び/又は還流により調整することができる。収集器は、好ましくは、カラムから導出される流体が両方の反応体、より好ましくは十分に高濃度の反応物質を含み、最も好ましくは酸:エステルのモル比=1.5:1〜1:1.5であるように位置させる。更に、複数の収集器を蒸留カラムの種々の位置に設置してもよく、この場合、排出される反応物質量を用いてモル比を調整することができる。
【0133】
更に、交差エステル交換反応における酸/エステル生成物比を調整し、又は選択性を向上させるために、他の反応物質、例えば、水を、カラムから導出される流体内に計量投入することも可能である。水は、ライン(図1中に図示せず)を介して外部より供給、又は相分離器(13)から排出することができる。次いで、水を多く含む流体(5)の圧力を、圧力上昇のための手段(6)、例えばポンプにより上昇させることができる。
【0134】
圧力の上昇は、反応器、例えば、固定床反応器中の流体の形成を減少又は防止することができる。これは、反応器中の均一な流れ及び触媒粒子の湿潤を可能にする。流体は熱交換器(7)を介して導入することができ、反応温度を調節する。流体は必要に応じて加熱又は冷却することができる。更に、反応温度によってエステル対酸生成物比を調整することが可能である。
【0135】
エステル交換反応は、固定床反応器(8)内の触媒全体にわたって起こる。反応器を通過する流れは下方又は上方であってもよい。生成物及びある程度未変換の反応物質を含む反応器の出力流体(9)は、反応廃棄流体中の成分含有量が滞留時間、触媒質量、反応温度及び反応物質比及び添加した水分量に依存するものとなり、最初に熱交換器(10)を通過し、蒸留カラム内への導入に好都合な温度に調節される。流体の導入位置における蒸留カラム内の温度に相当する温度に設定することが好ましい。
【0136】
反応器から出力される流体がカラム内に戻る位置は、反応器供給材料の回収位置の上方又は下方であってもよいが、好ましくは上方である。カラム内で再利用される前に、流体をバルブ(11)を介して圧縮してもよく、これは、好ましくはカラムと同じ圧力レベルを達成する。これに関連して、蒸留カラムは好ましくは、より低い圧力を有する。この構造は、分離すべき成分の沸点が低下し、その結果として蒸留をより低温レベルで実施することができ、その結果、エネルギーを節約し、熱的に穏やかであるという利点を与える。
【0137】
次いで、蒸留カラム(3)において、生成混合物を分離する。低沸点溶剤、好ましくはエステル交換において形成されたエステルを上端を介して除去する。蒸留カラムは、好ましくは、固定床反応器の上流で添加された水が同様に上端生成物として除去されるように操作する。上端で除去された蒸気流をコンデンサ(12)内で凝縮させ、次いでデカンタ(13)内で、水相及び生成物エステル含有層に分離される。水相は、ライン(15)を通して後処理に排出されるか、又はライン(17)を通して完全又は部分的に反応に戻すことができる。エステル含有層の流れは、カラムへの還流物(16)として部分的にライン(14)を通して誘導されるか、又は蒸留器から部分的に排出される。高沸点溶剤、好ましくは交差エステル交換において形成される酸は、底部流体としてカラム(19)から排出される。
【0138】
反応から得られるα−ヒドロキシカルボン酸、例えば、ヒドロイソ酪酸は、更なる工程E)において、公知の方法で脱水することができる。一般に、α−ヒドロキシカルボン酸、例えば、α−ヒドロキシイソ酪酸を、少なくとも1種の金属塩、例えば、アルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属塩の存在下、160〜300℃、より好ましくは200〜240℃の温度まで加熱し、通常、(メタ)アクリル酸及び水を得る。適切な金属塩には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム、亜硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム及びリン酸二水素ナトリウムが含まれる。
【0139】
α−ヒドロキシカルボン酸の脱水は、好ましくは0.05バール〜2.5バール、より好ましくは0.1バール〜1バールの圧力で実施することができる。
【0140】
α−ヒドロキシカルボン酸の脱水は、例えば、ドイツ特許公開第1768253(A)号に開示されている。
【0141】
このようにして得られた(メタ)アクリル酸は、次にアルキル(メタ)アクリレートの製造に用いることができる。更に、(メタ)アクリル酸は市販されている製品である。従って、驚くべきことに、アルキル(メタ)アクリレートの製造方法は、同様に(メタ)アクリル酸を製造する役割を果たすことができ、この場合、アルキル(メタ)アクリレート対(メタ)アクリル酸の生成物比は、α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルのエステル交換における水の濃度により、及び/又は反応温度により容易に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0142】
【図1】図1は、蒸留器の好ましい実施態様を示す。
【0143】
実施例及び比較例を参照し、本発明を以下において詳細に説明する。
【0144】
比較例1
ビーカー中で、水800gを60℃まで加熱した。撹拌しながら、Zr(SO42・4H2O 3.27gを溶解した。約230m2/gのBET表面積を有し、ICDDによる44−0141の構造番号を有し、そのX線スペクトル(XRD)が32°〜42°で最大強度を有する反射を示す、市販の二酸化マンガン100gをゆっくりとこの溶液に加えた。得られた組成物を60℃で2時間撹拌した。次いで、二酸化マンガンを除去し、110℃で乾燥した。乾燥した触媒は、X線蛍光スペクトル(XFA)において0.08のZr/Mn原子比を示した。
【0145】
反応器内で、アセトンシアンヒドリン、水及びアセトン混合物を、60℃の温度及び標準圧力で、前述の二酸化マンガン触媒と反応させた。反応混合物を撹拌した。アセトンシアンヒドリン/アセトン/水成分の混合比は、1/1.5/15であった。触媒の装填は、触媒1gあたり、1時間あたり、アセトンシアンヒドリン約0.32〜0.36gであった。
【0146】
反応混合物を、約4.1のpHを有する触媒に加えた。更に、1分あたり約100mLの空気を、約1バールの圧力で反応混合物を通過させ、触媒の量は約50gであった。この実験で達成された寿命は約8日であり、寿命は、変換が開始時の変換の50%未満に低下するまでの時間として定義される。
【0147】
比較例2
触媒に添加した反応混合物が9.3のpHを有していた以外は基本的に比較例1を繰り返した。この場合、pHはLiOHを加えることにより調整した。更に、空気に代え、反応混合物に窒素を通過させた。
【0148】
この実験において達成された寿命は約9日であった。
【0149】
実施例1
触媒に添加した反応混合物が9.3のpHを有していた以外は基本的に比較例1を繰り返した。このケースにおいては、pHはLiOHを加えることにより調整した。
【0150】
この実験において達成された寿命は約32日であった。
【0151】
実施例2
KOHを用いることによりpHを調整した以外は基本的に実施例1を繰り返した。この実験において達成された寿命は約25日であった。
【0152】
比較例3
トリクルベッド反応器中、アセトンシアンヒドリン、水及びアセトンの混合物を、50℃の温度及び標準圧力で、顆粒に圧縮され、約230m2/gのBET表面積を有し、ICDDによる44−0141の構造番号を有し、そのX線スペクトル(XRD)が32°〜42°で最大強度を有する反射を示す市販のMnO2触媒と反応させた。アセトンシアンヒドリン/アセトン/水成分の混合比は1/1.5/6であった。触媒の装填は、触媒1gあたり、1時間あたり、アセトンシアンヒドリン約1.55〜1.60gであった。
【0153】
反応混合物を、約4.1のpHを有する触媒に加えた。更に、約1バールの圧力で1分あたり約300mLの空気を用い、触媒の量は約50gであった。この実験で達成された寿命は約26日であった。
【0154】
実施例3
触媒に添加した反応混合物が9.3のpHを有していた以外は基本的に比較例3を繰り返した。この場合、pHはLiOHを加えることにより調整した。
【0155】
この実験において達成された寿命は約58日であった。
【0156】
比較例4
ジエチルアミンを用いてpHを調整した以外は基本的に比較例2を繰り返した。寿命は約5日であった。この比較例は、アミンの使用が不利益な効果をもたらすことを示す。
【符号の説明】
【0157】
1 カラムライン、 2 カラムライン、 3 蒸留カラム、 4 副流、 5 水を多く含む流体、 6 圧力上昇のための手段、 7 熱交換器、 8 固定床反応器、 9 反応器の出力流体、 10 熱交換器、 11 バルブ、 12 冷却器、 13 デカンタ、 14 ライン、 15 ライン、 16 カラムへの還流物、 17 ライン、 18 ボトムエバポレータ、 19 カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
二酸化マンガンを含む触媒の存在下にカルボン酸ニトリルの加水分解によりカルボン酸アミドを製造する方法であって、二酸化マンガンを含む触媒に添加される反応混合物が、6.0〜11.0のpHを有し、酸化剤の存在下に加水分解を実施することを特徴とする方法。
【請求項2】
酸化剤として酸素を含むガスを用いることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ガスが分子酸素(O2)又はオゾン(O3)を含むことを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ガスが、50〜98容量%の不活性ガス及び2〜50容量%の分子酸素(O2)を含むことを特徴とする、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸素を含むガスが、二酸化マンガンを含む触媒1kgに対して、10〜1000リットル/時の濃度で用いられることを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
二酸化マンガンを含む触媒に添加される反応混合物が、6.5〜10.0のpHを有することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
水酸化物又は酸化物を加えることによりpHを調整することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
pHの調整にアミンを用いないことを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
二酸化マンガンを含む触媒に添加される反応混合物中のアミンの割合が高くても0.001質量%であることを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
リチウムイオンの存在下に加水分解を実施することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
水酸化リチウムを加えることによりpHを調整することを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
二酸化マンガンを含む触媒が、少なくとも50質量%の実験式MnOx(式中、xは1.7〜2.0の範囲である)を有する二酸化マンガンを含むことを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
二酸化マンガンを含む触媒が、Ti、Zr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、Ga、In、Ge、Sn及びPtから選択される少なくとも1種の促進剤を含むことを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
二酸化マンガンを含む触媒が、0.01〜10質量%の促進剤を含むことを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
二酸化マンガンを含む触媒が、1gあたり50〜1000m2/gの比表面積を有することを特徴とする、請求項1から14までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記方法で用いられるカルボン酸ニトリルがα−ヒドロキシカルボン酸ニトリルであることを特徴とする、請求項1から15までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記α−ヒドロキシカルボン酸ニトリルが2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオニトリル又は2−ヒドロキシプロピオニトリルであることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
カルボン酸ニトリル化合物の存在下に加水分解反応を実施することを特徴とする、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記カルボニル化合物の濃度が、カルボン酸ニトリル1モルあたり0.1〜6モルであることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
水対カルボン酸ニトリルのモル比が0.5:1〜25:1であることを特徴とする、請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
10〜150℃の温度で加水分解反応を実施することを特徴とする、請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
0.1バール〜10バールの圧力で加水分解反応を実施することを特徴とする、請求項1から21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
トリクルベッド反応器中で加水分解反応を実施することを特徴とする、請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
二酸化マンガンを含む触媒が、粉末として測定したX線スペクトル(XRD)において、32.0〜42.0°の反射を有することを特徴とする、請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
二酸化マンガンを含む触媒が、
0.0〜25質量%のSiO2
0.1〜10質量%のK2O;
0.0〜5質量%のZrO2;及び
75〜99質量%のMnO2
を含むことを特徴とする、請求項1から24までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記カルボン酸ニトリルが、塩基性触媒の存在下でのケトン又はアルデヒドとシアン化水素酸との反応により得られることを特徴とする、請求項1から25までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
前記塩基性触媒がアルカリ金属水酸化物であり、アルキル金属水酸化物の量が、加水分解に用いられる反応混合物が6.0〜11.0のpHを有するように選択されることを特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
請求項1から27までのいずれか1項に記載の方法による加水分解工程を有することを特徴とする、アルキル(メタ)アクリレートの製造方法。
【請求項29】
下記工程:
A)少なくとも1種のカルボニル化合物とシアン化水素酸とを反応させることにより少なくとも1種のシアンヒドリンを形成する工程:
B)前記シアンヒドリン又は2種以上のシアンヒドリンを加水分解し、少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸アミドを形成する工程;
C)前記α−ヒドロキシカルボン酸アミド又は2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸アミドをアルコール分解し、少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを得る工程;
D)前記α−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステル又は2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸アルキルエステルを、(メタ)アクリル酸とエステル交換し、少なくとも1種のアルキル(メタ)アクリレート及び、少なくとも1種のα−ヒドロキシカルボン酸を形成する工程;
E)前記α−ヒドロキシカルボン酸又は2種以上のα−ヒドロキシカルボン酸を脱水し、(メタ)メタアクリル酸を形成する工程
を含むことを特徴とする、請求項28記載の方法。
【請求項30】
メチルメタクリレートが製造されることを特徴とする、請求項28又は29に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2010−510276(P2010−510276A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537571(P2009−537571)
【出願日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際出願番号】PCT/EP2007/059041
【国際公開番号】WO2008/061822
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(390009128)エボニック レーム ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (293)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Roehm GmbH
【住所又は居所原語表記】Kirschenallee,D−64293 Darmstadt,Germany
【Fターム(参考)】