説明

二酸化炭素の固定化システム

【課題】大気など二酸化炭素の濃度が低い環境からも、二酸化炭素を炭酸塩として効率よく固定化できるようにした二酸化炭素の固定化システムを提供する。
【解決手段】金属を微粒子に粉砕する粉砕手段を備え、金属微粒子と水と二酸化炭素とを反応させ、炭酸塩を生成する反応容器10と、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素の濃度を高めて、前記反応容器に二酸化炭素を供給する濃縮装置14と、を組み合わせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の固定化システムに係り、特に、二酸化炭素の固定化だけでなく、固定化によって得られた炭酸塩や水素を有効に利用できる二酸化炭素の固定化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二酸化炭素の排出を抑制することが、産業界では大きな課題とされてきており、二酸化炭素を削減する技術や、空気中の二酸化炭素を固定する技術の研究開発が盛んに進められている。
【0003】
二酸化炭素の固定化技術としては、例えば、特許文献1に開示されているものが知られている。この特許文献1では、水の存在下で金属または低原子価の金属を含む物質の微粒子または微粒子の凝集体を接触させて、金属成分と二酸化炭素と水とを反応させ、二酸化炭素を炭酸塩として固定化する技術を提案している。
【特許文献1】特開2007−75773号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で提案された二酸化炭素の固定化技術は、当初から高濃度の二酸化炭素を供給して、これを固定化することを前提としている。そこで、例えば、大気中から二酸化炭素を固定化したり、二酸化炭素が低濃度の排ガス等から二酸化炭素を固定化する場合に、どのようにこの固定化技術を改良して実用化するかが課題となる。
【0005】
また、特許文献1の固定化技術では、二酸化炭素を固定するために金属を粉砕し、さらに水と撹拌する必要がある。この粉砕・撹拌に使うエネルギーを外部からの電力供給でまかなうということは、二酸化炭素を放出していることに他ならない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、前記従来技術の有する問題点を解消し、大気やプラント排ガスなど二酸化炭素の濃度が低い環境からも、二酸化炭素を炭酸塩として効率よく固定化できるようにした二酸化炭素の固定化システムを提供することにある。
【0007】
また、本発明の他の目的は、固定化に必要なエネルギーを外部から得ることなく、自己完結的にエネルギーを活用して二酸化炭素を固定化することができ、さらに、生成した炭酸塩や水素を統合的に有効活用することができる二酸化炭素の固定化システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するために、本発明は、金属を微粒子に粉砕する粉砕手段を備え、前記金属微粒子と水と二酸化炭素とを反応させ、炭酸塩を生成する反応容器と、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素の濃度を高めて、前記反応容器に二酸化炭素を供給する濃縮装置と、からなることを特徴とするものである。
【0009】
本発明では、前記濃縮装置は、化学吸収法、物理吸着法また膜分離法により、二酸化炭素を含むガス中から二酸化炭素の濃度を高める。
【0010】
また、本発明では、前記反応容器から水素が供給される燃料電池と組み合わせてシステムが構成される。
【0011】
さらに、本発明では、前記反応容器から供給される水素を貯蔵する手段や、前記燃料電池からの廃熱を利用して、生成した炭酸塩を金属と二酸化炭素に還元するとともに、前記金属と二酸化炭素を前記反応容器に再投入する還元装置と組み合わせてシステムを構成してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、大気など二酸化炭素の濃度が低い環境からも、二酸化炭素を炭酸塩として効率よく固定化でき、しかも、固定化に必要なエネルギーを外部から得ることなく、自己完結的にエネルギーを活用して二酸化炭素を固定化することができ、さらに、生成した炭酸塩や水素を統合的に有効活用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明による二酸化炭素の固定化システムの一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
第1実施形態
図1は、本発明の実施形態による二酸化炭素の固定化システムの構成を示す。図1において、参照番号10は、金属と水と二酸化炭素とを反応させ、炭酸塩を生成する反応容器を示す。二酸化炭素は、この反応容器10で炭酸塩になって固定化される。参照番号12は、二酸化炭素を濃縮する濃縮装置を示す。この濃縮装置12は、大気、あるいは工場からの排出ガスなど、低濃度の二酸化炭素を含むガスを処理して二酸化炭素を濃縮し、濃縮された二酸化炭素を反応容器10に供給する。参照番号14は、燃料電池を示す。この燃料電池14は、反応容器10で発生した水素が供給される。
【0014】
次に、二酸化炭素の固定化システムを構成する上記各装置についてさらに説明する。
【0015】
まず、反応容器10には、金属粉、例えば、鉄粉と水が入れられる。反応容器10には、鉄粉をさらに微粒子化する粉砕手段として、遊星ボールミルが設けられている。この遊星ボールミルは、反応容器10をモータ15で自転させながら、反応容器10内で粉砕用ボール16を公転させる。これにより、粉砕用ボール16には撹拌運動が与えられ、鉄粉を微粒子化することができる。
【0016】
濃縮装置12としては、この実施形態では、二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素を濃縮・分離するのに化学吸収法を用いている。分離塔17には、吸収剤としてアミン類が用いられ、次の化学反応により、アミン類の水溶液にガス中の二酸化が吸収され、炭酸塩が生成する。
2RNH2+CO2+H2O→(RNH3)2CO3
【0017】
再生塔18では、炭酸塩を加熱して二酸化炭素を放散させ、二酸化炭素を濃縮して反応容器10に供給する。
【0018】
なお、濃縮装置12は、化学吸収法の他、物理吸着法または膜分離法により、ガス中から二酸化炭素を濃縮する装置であってもよい。
【0019】
燃料電池14は、反応容器10で発生した水素ガスが供給され、反応容器10の遊星ボールミルを駆動するモータ15に電力を供給する。
【0020】
本実施形態による二酸化炭素の固定化システムは、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
本実施形態による二酸化炭素の固定化システムでは、工場の排ガスなどは濃縮装置12に送られ、ここで二酸化炭素は濃縮されてから、反応容器10に供給される。反応容器10では、粉砕用ボール16によって鉄粉が微粒子化され、水と二酸化の存在下で次のような反応が起こる。
Fe+CO2+H2O→FeCO3+H2
この反応が進行することで、二酸化炭素は炭酸塩として固定される。また、発生した水素は、回収されて燃料電池14に供給される。燃料電池14で発生した電力で遊星ボールミルのモータ15が回されるので、反応容器10は外部からエネルギーを補給することなく、二酸化炭素の固定化を自己完結的に続けることができる。
【0021】
本固定化システムの場合、理論上は、1000グラムの二酸化炭素を炭酸塩として固定化することで、水素を46グラム得ることができる。そして、水素46グラムを燃料にして、燃料電池14は、発電効率を45%として、0.54kWh程度の電力が得られる。この燃料電池14では、1000グラムの二酸化炭素を固定するのに必要な鉄粉1268グラムと水409グラムを反応容器10で撹拌、微細化するのに必要な電力をまかなうことができる。
【0022】
他方、燃料電池14からは、熱が排出される。回収効率を40%とすると、燃料電池14から0.48kWh相当の熱エネルギーを回収することができる。濃縮装置12では、1000グラムの濃縮された二酸化炭素を得るのに必要なエネルギーはおよそ0.4kWhである。そうすると、燃料電池14の排熱から回収される熱エネルギーで濃縮装置12に必要なエネルギーをまかなうことができる。
【0023】
このように、本固定化システムでは、二酸化炭素固定化によって得られる水素を燃料電池14に供給することで、反応容器10の運転するエネルギーや、濃縮装置12を運転するエネルギーを燃料電池14で発電される電力でまかない、さらに燃料電池14から発生する熱エネルギーで濃縮装置12に必要なエネルギーをまかない、エネルギー自己完結的なシステムを構築することができる。
【0024】
第2実施形態
次に、図2は、本発明の第2実施形態による二酸化炭素固定化システムの構成を示す。
この第2実施形態では、第1実施形態の固定化システムに、水素貯蔵部20、蓄電部21を付加した実施の形態である。これら以外の構成要素は、第1実施形態と同一であり、同一の構成要素には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0025】
図2において、水素貯蔵部20は、反応容器10から供給される水素のうち、余剰分を一時的に貯蔵する手段を構成するもので、例えば、タンクのように水素そのものを直接蓄えるもの、あるいは水素吸蔵合金を利用して、水素を間接的に蓄えるものであってもよい。蓄電部21は、燃料電池14で発電された電力のうち、余剰の電力を一時的に蓄えるバッテリーから構成されている。
【0026】
以上のように構成される二酸化炭素固定化システムによれば、発生した水素を水素貯蔵部20に蓄えたり、燃料電池14で発生した電力を蓄電部21に貯蔵しておくことができる。これにより、システムで得られた余剰分の水素、電力を他のシステムのエネルギー源として供給することができる。
【0027】
第3実施形態
次に、図3は、本発明の第3実施形態による二酸化炭素固定化システムの構成を示す。
この第3実施形態では、第2実施形態の固定化システムに、さらに還元装置22を付加した実施の形態である。これら以外の構成要素は、第2実施形態と同一であり、同一の構成要素には、同一の参照番号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0028】
図3において、還元装置22は、燃料電池14からの排熱、あるいは自動車の廃熱等を利用して、反応容器10で生成した炭酸塩を再び鉄と二酸化炭素に還元する装置である。このとき還元された鉄は二酸化炭素とともに反応容器10に再投入されることで、再度、図2の第2実施形態のシステムのようして水素を利用することができる。
【0029】
以上のように構成される二酸化炭素固定化システムによれば、二酸化炭素の固定化によって得られた炭酸塩を熱で還元し、得られた鉄と二酸化炭素を反応容器10で再度反応させることにより水素を発生させ、この水素により発電することができる。つまり、熱から電気にエネルギー変換する装置が得られることになり、この時熱源に廃熱を用いれば、廃熱を利用して電気を発生させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1実施形態による二酸化炭素の固定化システムの構成説明図。
【図2】本発明の第2実施形態による二酸化炭素の固定化システムの構成説明図。
【図3】本発明の第3実施形態による二酸化炭素の固定化システムの構成説明図。
【符号の説明】
【0031】
10 反応容器
12 濃縮装置
14 燃料電池
15 モータ
16 粉砕用ボール
17 分離塔
18 再生塔
20 水素貯蔵部
21 蓄電部
22 還元装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を微粒子に粉砕する粉砕手段を備え、前記金属微粒子と水と二酸化炭素とを反応させ、炭酸塩を生成する反応容器と、
二酸化炭素を含むガスから二酸化炭素の濃度を高めて、前記反応容器に二酸化炭素を供給する濃縮装置と、
からなることを特徴とする二酸化炭素の固定化システム。
【請求項2】
前記濃縮装置は、化学吸収法により、前記ガス中から二酸化炭素を濃縮することを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項3】
前記濃縮装置は、物理吸着法または膜分離法により、前記ガス中から二酸化炭素を濃縮することを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項4】
前記反応容器から水素が供給される燃料電池をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項5】
前記燃料電池は、前記反応容器の粉砕ミルを駆動するモータに電力を供給することを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項6】
前記反応容器から供給される水素を貯蔵する手段をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項7】
前記燃料電池で発生する電力を蓄電する手段をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の二酸化炭素の固定化システム。
【請求項8】
生成された炭酸塩を熱によって金属と二酸化炭素に還元するとともに、前記金属と二酸化炭素を前記反応容器に再投入する還元装置をさらに備えることを特徴とする請求項4または7に記載の二酸化炭素の固定化システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−12392(P2010−12392A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−173521(P2008−173521)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(390039929)三桜工業株式会社 (106)
【Fターム(参考)】