説明

井戸及び井戸内の地下水の酸化を防止する方法、並びに非常用井戸の構築方法及びその方法で構築された非常用井戸

【課題】井戸を使用しないときに井戸内の地下水の酸化を防止する方法及びその方法が用いられる井戸を提供する。
【解決手段】井戸1は、地下水を内方に集水するための揚水管13と、揚水管13内の地下水よりも上部に不活性ガスを注入するための注入部と、揚水管13の上端に取り付けられ、揚水管13内に充満された不活性ガスを揚水管13内に封止するための封止部材であるキャップ10と、揚水管13内の酸素の濃度を測定するための濃度計9と、地盤内から発生し、爆発等の危険を有する又は人体に有害な気体を検出するための検出器15とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、井戸内の地下水の酸化を防止する方法及びその方法が用いられた井戸に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、開削工法にて地盤を掘削する際、水抜き用の井戸を構築して地下水を揚水し、地下水位を低下させることが行われている。特に近年においては、ソイルセメントやRC等の地中構造物内に水抜き用の井戸を設ける方法が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、先端に蓋を取り付けた鋼管を複数のソイルセメント柱からなる地中壁構造内に挿入し、この鋼管をガイドにして該鋼管の下端から所定の深さまで地盤を削孔して水抜き用の井戸を構築する方法が開示されている。この方法は、予め設計等により地中壁構造内に構築する井戸の位置を決定し、この位置のソイルセメント柱内に井戸を構築し、すべての工事が終了すると井戸内に土砂、セメント等を埋め戻して閉塞するものである。
【0004】
しかし、この閉塞には、材料費がかかるうえに、埋め戻し作業、充填確認作業等の手間がかかる。また、井戸の構築には、時間と費用がかかっているにもかかわらず、井戸を閉塞するのはもったいないという問題が有った。
【0005】
そこで、近年、地下水を生活用水として常時使用するのではなく、災害等の非常時に使用する水を確保するために、井戸をそのまま残置する場合が出てきた。
【特許文献1】特開2001−115458号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、井戸を常時使用せずに、非常時に使用するまで放置しておくと、地下水中に含まれている鉄分が空気中の酸素により酸化されて不溶性の水酸化鉄を生成し、井戸内に沈殿するので、非常時に地下水を揚水したときに、この水酸化鉄を含む赤水が揚水されてしまいその水を使用できない場合があるという問題点が有った。
【0007】
また、井戸を非常時に使用するまで放置しておくと、井戸を介して空気中の酸素が大量に地下水中に供給されるので、井戸を構築する前の酸素の供給が少ない状態で生息していた微生物の生態に悪影響を与えてしまう可能性が有るとともに、地中の生態系を変化させてしまう可能性が有るという問題点が有った。
【0008】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、井戸を使用しないときに井戸内の地下水の酸化を防止する方法及びその方法が用いられる井戸を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するため、本発明の井戸は、地下水を揚水するための井戸であって、地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管と、前記揚水管内の地下水よりも上部に不活性ガスを注入するための注入部と、前記揚水管に取り付けられ、前記注入部から前記揚水管内に注入された前記不活性ガスを前記揚水管内に封止するための封止部材とを備えることを特徴とする(第1の発明)。
【0010】
本発明による井戸によれば、地下水を集水するための揚水管と、不活性ガスを注入するための注入部と、不活性ガスを揚水管内に封止するための封止部材とを備えているので、揚水管内に不活性ガスを注入して、充満した状態を維持することができる。また、揚水管内は、不活性ガスが充満して酸素が存在しない還元状態なので、地下水中の鉄分が酸化したり、微生物の生態に悪影響を与えることがない。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記揚水管内の酸素の濃度を測定するための濃度計を更に備えることを特徴とする。
本発明による井戸によれば、濃度計を更に備えているので、濃度計にて揚水管内の酸素の濃度を定期的に測定し、酸素が検出された場合には、注入部を介して不活性ガスを揚水管内に注入することにより、長期間にわたって揚水管内を還元状態に維持することができる。
【0012】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、地盤内から発生し、爆発等の危険を有する気体又は人体に有害な気体を検出するための検出器を更に備えることを特徴とする。
本発明による井戸によれば、爆発等の危険を有する気体又は人体に有害な気体を検出するための検出器を更に備えているので、メタンガスや硫化水素ガス等が発生した場合には、すぐに検出することができる。したがって、安心して井戸を使用したり、メンテナンスすることができる。
【0013】
第4の発明は、第1〜第3のいずれかの発明において、地中構造物内に構築されていることを特徴とする。
本発明による井戸によれば、地下構造物を構築する際に、地下水位を低下させる目的で地中構造物内に構築した井戸をそのまま利用することができる。したがって、新たに井戸を構築する必要がない。
【0014】
第5の発明は、第4の発明において、前記揚水管の上端部の周囲に、マンホールが設けられていることを特徴とする。
本発明による井戸によれば、揚水管の上部の周囲にマンホールが構築されているので、封止部材の着脱、濃度の測定、不活性ガスの注入作業等を容易に行うことができる。また、揚水管がマンホール内に設置されているので、景観を乱さない。
【0015】
第6の発明は、第1〜5のいずれかの発明において、前記揚水管は、ステンレス管からなることを特徴とする。
本発明による井戸によれば、ステンレスからなるので、腐食等の損傷が生じにくく、井戸を長期間使用することができる。
【0016】
第7の発明の井戸内の地下水の酸化を防止する方法は、地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管内の酸素の濃度を測定しつつ、この揚水管内に不活性ガスを注入し、前記揚水管内の酸素量が低下して酸素が検出されなくなったら、前記揚水管内が前記不活性ガスで充満されたものとして前記不活性ガスが流出しないように前記揚水管を封止部材で封止して、不活性ガスを前記揚水管内に封止することを特徴とする。
【0017】
第8の発明の井戸内の地下水の酸化を防止する方法は、地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管内の酸素の濃度を測定しつつ、この揚水管内に不活性ガスを注入し、前記不活性ガスが揚水管に注入されるにともない前記揚水管内の空気を排出するための排出部から前記揚水管内の空気が排出されて、前記揚水管内の酸素量が低下して酸素が検出されなくなったら、前記揚水管内が前記不活性ガスで充満されたものとして前記不活性ガスが流出しないように前記排出部を封止部材で封止して、不活性ガスを前記揚水管内に封止することを特徴とする。
【0018】
第9の発明の非常用井戸の構築方法は、管が埋設された地中構造物であって、当該地中構造物の下方の地盤内における所定の深度まで到達する孔が当該管の内部に形成されている当該地中構造物を利用して井戸を構築する非常用井戸の構築方法において、地下水を集水するための揚水管を前記孔内に設置する設置工程と、前記揚水管内に不活性ガスを注入して、前記揚水管内が当該不活性ガスで充満されたら当該不活性ガスが流出しないように前記取水管を封止する注入工程とを備え、前記揚水管を井戸とすることを特徴とする。
本発明による非常用井戸の構築方法によれば、管の孔内に設置された揚水管内は、不活性ガスが充満して酸素が存在しない還元状態なので、地下水中の鉄分が酸化したり、微生物の生態に悪影響を与えることがない。
【0019】
第10の発明は、第9の発明において、前記管内の前記孔は、前記地中構造物の構築にともなう工事用井戸として使用されることを特徴とする。
本発明による非常用井戸の構築方法によれば、地中壁内に埋設されている管内の孔を工事用井戸として使用し、工事終了後は、その孔を利用して非常用の井戸を構築するので、工事用井戸を有効に利用できる。
【0020】
第11の発明の非常用井戸は、第9又は第10のいずれかの方法で構築されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の井戸内の地下水の酸化防止方法を用いることにより、井戸を使用しないときに井戸内の地下水の酸化を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の実施形態では地中構造物であるソイルセメント柱列壁内に井戸を構築する場合について説明するが、本発明は、RC等の地中構造物内に設置する場合も適用することができる。
【0023】
図1及び図2は、それぞれ本発明の第一実施形態に係る井戸1をソイルセメント柱列壁2に設置した状態を示す斜視図、縦断面図であり、図3は、図2のA部拡大図である。
【0024】
図1〜図3に示すように、ソイルセメント柱列壁2は、地下構造物等を構築するために開削工法にて掘削される掘削予定箇所5の周囲を取り囲むように構築され、その下端は地表層14を貫通して不透水層である粘土層3の上部に到達するように設置される。ただし、地層はこれらに限定されるものではなく、すべて砂層4からなるものであっても良い。
【0025】
ソイルセメント柱列壁2内には、井戸1用の孔17を削孔する際にガイドとして使用する筒状のガイド管18がソイルセメント柱列壁2内を深さ方向に貫通して、その下端がソイルセメント柱列壁2の下端から突出するように予め設置されている。また、ガイド管18は、ソイルセメント柱列壁2内に、横方向に並ぶように複数本設置されている。
【0026】
井戸1は、ガイド管18内を砂層4に到達するように鉛直に削孔された孔17内に設置され、地下水を内方に集水するための揚水管13と、揚水管13内の地下水よりも上部に不活性ガスを注入するための注入部と、揚水管13の上端に取り付けられ、揚水管13内に充満された不活性ガスを揚水管13内に封止するための封止部材であるキャップ10と、揚水管13内の酸素の濃度を測定するための濃度計9と、地盤内から発生し、爆発等の危険を有する又は人体に有害な気体を検出するための検出器15とを備えている。
【0027】
揚水管13は、孔17の内周及びガイド管18の内周との間に隙間を形成するように設置されている。この隙間の砂層4の部分であって、揚水管13の外周と孔17の内周との間には、地下水を通過させるための砂が充填されてなるフィルター部22が形成されている。また、フィルター部22の上面から上方で、かつ、隙間の粘土層3の部分であって、揚水管13の外周と孔17の内周との間及び揚水管13の外周とガイド管18との内周との間には、地下水の流入を防止するためのベントナイトが充填されてなる止水部19が形成されている。さらに、地震時等に揚水管13とガイド管18との接触を防止するための土砂が充填されてなる緩衝部20が、止水部19の上面から揚水管13の上部付近まで形成されている。この緩衝部20の上部に形成される空間は、マンホール6として利用され、平常時は、マンホール6の上端は蓋7で塞がれている。揚水管13は、ソイルセメント柱列壁2内に間隔をおいて複数本設置されている。
【0028】
揚水管13の下端部には、フィルター部22を通過した地下水が揚水管13内に流入できるようにスクリーン16が設けられている。
【0029】
揚水管13は、ステンレスからなり、腐食等が生じにくいので、長期間使用することができる。
【0030】
注入部は、揚水管13内に貯留する地下水よりも上の空間に不活性ガスを注入するための注入管8からなり、揚水管13の上部外周面に接続されている。この注入管8には、揚水管13内から外部への気体の流出を防止するためのチェック弁11が取り付けられており、このチェック弁11を介して不活性ガスを揚水管13内に注入する。
【0031】
キャップ10の外周下端部及び揚水管13の内周上端部にはそれぞれねじが切られており、キャップ10は揚水管13に螺合することにより揚水管13の上端に取り付けられる。また、キャップ10のねじ部分にはOリング12が取り付けられているので、揚水管13に取り付けた状態で揚水管13内に不活性ガスを封止することができる。
【0032】
濃度計9は、揚水管13の内部と連通するように揚水管13の上端部外周面に接続されている。なお、濃度計9は、注入管8よりやや上方に接続されている(後述する)。
【0033】
検出器15は、爆発等の危険を有するメタンガスや人体に有害に硫化水素等の気体を検出する機能を有する。この検出器15は、マンホール6内に設置され、揚水管13内及びマンホール6内を計測する。
【0034】
上述した構成からなる井戸1の揚水管13内の地下水よりも上の空間にチェック弁11及び注入管28を介して注入された不活性ガスが充満されることとなる。本実施形態においては、不活性ガスとしてアルゴンを用いた。アルゴンは、空気よりも重いので、注入管8から揚水管13内に供給されると地下水の水面付近まで沈降し、徐々に積層されて揚水管13の上端まで充満する。したがって、濃度計9で揚水管13内の酸素濃度を測定し、酸素が検出できなくなったら、濃度計9は注入管8の給気口8aよりも上方にあるので揚水管13内の酸素を含む空気がすべてアルゴンに置換されたと判断できる。そして、空気がすべてアルゴンに置換されたら、アルゴンの注入を停止し、キャップ10を揚水管13の上端に取り付けて、アルゴンを揚水管13内に封止する。
【0035】
アルゴンが充満して酸素が存在しない揚水管13内は還元状態なので、地下水中の鉄分が酸化したり、微生物の生態に悪影響を与えることがない。また、この状態の揚水管13内に何らかの原因で空気が入っても、空気はアルゴンよりも軽く、アルゴンとは分離した状態でアルゴンの上に積層されるので、空気中の酸素が地下水に接することはない。
【0036】
非常時に地下水が必要なときには、マンホール6の蓋7を開け、まず、検出器15でメタンガスや硫化水素が発生していないことを確認してから次に、キャップ10を外して揚水ポンプを揚水管13内に挿入して地下水を揚水する。
【0037】
また、定期点検時は、マンホール6の蓋7を開け、まず、検出器15でメタンガスや硫化水素が発生していないことを確認してから次に、揚水管13内の酸素の濃度を濃度計9で測定して、揚水管13内のアルゴンの充填状態を確認する。この測定で酸素が検出された場合は、キャップ10を取り外し、持ち運び可能なアルゴンの供給装置をチェック弁11を介して注入管8に接続し、アルゴンを揚水管13内に注入しつつ、酸素の濃度を測定する。そして、酸素が検出されなくなったら揚水管13内の酸素を含む空気はすべてアルゴンに置換されたものとしてアルゴンの注入を停止し、キャップ10を揚水管13に取り付けてアルゴンを封止する。
【0038】
ソイルセメント柱列壁2の厚さや設置深度、井戸1の径や設置深度等は、掘削予定箇所5周辺をボーリングし、地盤の地質や透水性等の水理状態を調査する水理調査後、この水理調査の結果に基づいて行う設計により予め決定される。
【0039】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。以下の説明において、上記の実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。本実施形態では、不活性ガスとしてヘリウムを用い場合について説明する。
【0040】
図4は、本発明の第二実施形態に係る井戸21をソイルセメント柱列壁2に設置した状態を示す縦断面図であり、図5は、図4のB部拡大図である。
【0041】
図4及び図5に示すように、井戸21は、その内部にヘリウムを注入するための注入管28と、濃度計9と、検出器15と、キャップ10と、排出部とを備える。
【0042】
注入管28は、揚水管13の外方から揚水管13の上部側面を貫通して、その下端の給気口28aが揚水管13内の地下水面よりやや上方に位置するように揚水管13に取り付けられている。
【0043】
注入管28の上端には、チェック弁11が取り付けられており、このチェック弁11を介してヘリウムを揚水管13内に注入する。
【0044】
濃度計9は、井戸21内の地下水の水面よりやや上方で、かつ、内管29bの下端の給気口28aよりも下方となる位置に設置される。この濃度計9は、地下水位の変動を考慮して、上下方向に移動可能である。
【0045】
排出部は、揚水管13内の空気を排出するための排気管29からなり、揚水管13の外方から揚水管13の上部側面を貫通して、その下端の吸入口29aが揚水管13内の地下水面よりやや上方に位置するように揚水管13に接続されている。
【0046】
注入管28内にヘリウムを注入すると、ヘリウムは、空気よりも軽いので、注入管28の給気口28aから揚水管13内に供給されるとヘリウムはキャップ10付近まで上昇し、徐々に積層されて地下水の水面付近まで充満する。ヘリウムが揚水管13内に供給されるとともに、揚水管13内の酸素を含む空気は排気管29を介して外部に排出される。したがって、濃度計9で揚水管13内の酸素濃度を測定し、酸素が検出できなくなったら、濃度計9は内管29bの給気口28aよりも下方にあるので揚水管13内の酸素を含む空気がすべてヘリウムに置換されたと判断できる。そして、空気がすべてヘリウムに置換されたら、ヘリウムの注入を停止する。
【0047】
ヘリウムが充満して酸素が存在しない揚水管13内は還元状態なので、地下水中の鉄分が酸化したり、微生物の生態に悪影響を与えることがない。
【0048】
非常時に地下水が必要なときには、第一実施形態と同様に、マンホール6の蓋7を開け、まず、検出器15でメタンガスや硫化水素が発生していないことを確認してから次に、キャップ10を取り外して揚水ポンプを井戸21内に挿入して地下水を揚水する。
【0049】
また、定期点検時は、第一実施形態と同様に、マンホール6の蓋7を開け、まず、検出器15でメタンガスや硫化水素が発生していないことを確認してから次に、揚水管13内の酸素の濃度を濃度計9で測定して、揚水管13内のヘリウムの充填状態を確認する。このとき、濃度計9が水没していると測定不可能なので、まず、濃度計9が水没しているか否かを確認する。そして、濃度計9が水没していて測定が不可能なときは、濃度を測定しつつ、濃度計9を測定可能な状態まで引き上げて、つまり地下水の水面よりも上方に引き上げて、それから、できるだけ地下水の水面付近で酸素の濃度を測定する。この測定で酸素が検出された場合は、キャップ10を取り付けた状態で、持ち運び可能なヘリウムの供給装置を注入管28に接続して、酸素の濃度を測定しつつ、ヘリウムを揚水管13内に注入して揚水管13内をヘリウムで充満させる。そして、酸素が検出されなくなったら揚水管13の酸素を含む空気はすべてヘリウムに置換されたものとしてヘリウムの注入を停止する。
【0050】
以上説明した本実施形態における井戸1、21によれば、地盤内に設置され、地下水を内方に集水するための揚水管13と、アルゴン又はヘリウムを注入するための注入管8、28と、揚水管13内の酸素の濃度を測定するための濃度計9と、アルゴン又はヘリウムを揚水管13内に封止するためのキャップ10とを備えるので、揚水管13内にアルゴン又はヘリウムを充満した状態を維持することができる。また、揚水管13内は、アルゴン又はヘリウムが充満して酸素が存在しない還元状態なので、地下水中の鉄分が酸化したり、微生物の生態に悪影響を与えることがない。したがって、この井戸1、21を地震、火事等の非常時にのみ使用する非常用の井戸として利用してもよい。
【0051】
そして、濃度計9にて揚水管13内の酸素の濃度を定期的に測定し、酸素が検出された場合には、注入管8、28を介してアルゴン又はヘリウムを揚水管13内に注入することにより、長期間にわたって揚水管13内を酸素が存在しない還元状態に維持することができる。
【0052】
また、揚水管13は、ステンレス管なので、腐食等の損傷が生じにくく、井戸1、21を長期間使用することができる。
【0053】
さらに、マンホール6内に揚水管13の上部が設けられているので、濃度計9及びキャップ10の着脱、酸素濃度の測定、アルゴン又はヘリウムの注入作業等を容易に行うことができる。さらに、揚水管13、注入管8、28、濃度計9がマンホール6内に設置されているので、景観を乱さない。
【0054】
また、地盤内から発生し、爆発等の危険を有するメタンガスや人体に有害な硫化水素等の気体を検出するための検出器15を備えているので、安心して井戸1、21を使用したり、メンテナンスすることができる。
【0055】
そして、地下構造物を構築する際に、地下水位を低下させる目的でソイルセメント柱列壁2内に構築した工事用井戸をそのまま利用することができる。したがって、新たに井戸1、21を構築する必要がない。
【0056】
なお、上述した各実施形態において、注入管8、28及び濃度計9を揚水管13本体に取り付けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、例えば、アルゴンを充填する場合は図6に示すように、また、ヘリウムを充填する場合は図7に示すように、注入管8、28及び濃度計9をキャップ10に取り付けても良い。
【0057】
また、上述した各実施形態においては、不活性ガスとしてアルゴン、ヘリウムを用いた場合について説明したが、これらの気体に限定されるものではなく、例えば、ネオン、クリプトン、キセノン、ラドン等の気体を用いても良い。
【0058】
さらに、上述した各実施形態においては、注入管8、28を揚水管13に取り付けた場合について説明したが、これに限定されるものではなく、揚水管13に注入部として注入孔を設けておき、メンテナンス時等にその注入孔に接続可能な携帯注入管を取り付けて不活性ガスを注入しても良い。
【0059】
なお、上述した各実施形態においては、井戸1、21を鉛直に構築する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、ソイルセメント柱列壁2の側面から突出しない程度に斜めに構築してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の第一実施形態に係る井戸をソイルセメント柱列壁に設置した状態を示す斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る井戸をソイルセメント柱列壁に設置した状態を示す縦断面図である。
【図3】図2のA部拡大図である。
【図4】本発明の第二実施形態に係る井戸をソイルセメント柱列壁に設置した状態を示す縦断面図である。
【図5】図4のB部拡大図である。
【図6】注入管及び濃度計の配置方法の他の実施例を示す図である。
【図7】注入管及び濃度計の配置方法の他の実施例を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
1 井戸、2 ソイルセメント柱列壁、3 粘土層、4 砂層、5 掘削予定箇所、
6 マンホール、7 蓋、8 注入管、8a 給気口、9 濃度計、
10 キャップ、11 チェック弁、12 Oリング、13 揚水管、
14 地表層、15 検出器、16 スクリーン、17 孔、18 ガイド管、
19 止水部、20 緩衝部、21 井戸、22 フィルター部、
28 注入管、28a 給気口、29 排気管、29a 吸入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下水を揚水するための井戸であって、
地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管と、
前記揚水管内の地下水よりも上部に不活性ガスを注入するための注入部と、
前記揚水管に取り付けられ、前記注入部から前記揚水管内に注入された前記不活性ガスを前記揚水管内に封止するための封止部材とを備えることを特徴とする井戸。
【請求項2】
前記揚水管内の酸素の濃度を測定するための濃度計を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の井戸。
【請求項3】
地盤内から発生し、爆発等の危険を有する気体又は人体に有害な気体を検出するための検出器を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の井戸。
【請求項4】
地中構造物内に構築されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の井戸。
【請求項5】
前記揚水管の上端部の周囲に、マンホールが設けられていることを特徴とする請求項4に記載の井戸。
【請求項6】
前記揚水管は、ステンレス管からなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の井戸。
【請求項7】
井戸内の地下水の酸化を防止する方法において、
地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管内の酸素の濃度を測定しつつ、この揚水管内に不活性ガスを注入し、
前記揚水管内の酸素量が低下して酸素が検出されなくなったら、前記揚水管内が前記不活性ガスで充満されたものとして前記不活性ガスが流出しないように前記揚水管を封止部材で封止して、不活性ガスを前記揚水管内に封止することを特徴とする井戸内の地下水の酸化を防止する方法。
【請求項8】
井戸内の地下水の酸化を防止する方法において、
地盤内に設置され、地下水を集水するための揚水管内の酸素の濃度を測定しつつ、この揚水管内に不活性ガスを注入し、
前記不活性ガスが揚水管に注入されるにともない前記揚水管内の空気を排出するための排出部から前記揚水管内の空気が排出されて、前記揚水管内の酸素量が低下して酸素が検出されなくなったら、前記揚水管内が前記不活性ガスで充満されたものとして前記不活性ガスが流出しないように前記排出部を封止部材で封止して、不活性ガスを前記揚水管内に封止することを特徴とする井戸内の地下水の酸化を防止する方法。
【請求項9】
管が埋設された地中構造物であって、当該地中構造物の下方の地盤内における所定の深度まで到達する孔が当該管の内部に形成されている当該地中構造物を利用して井戸を構築する非常用井戸の構築方法において、
地下水を集水するための揚水管を前記孔内に設置する設置工程と、
前記揚水管内に不活性ガスを注入して、前記揚水管内が当該不活性ガスで充満されたら当該不活性ガスが流出しないように前記揚水管を封止する注入工程とを備え、
前記揚水管を井戸とすることを特徴とする非常用井戸の構築方法。
【請求項10】
前記管内の前記孔は、前記地中構造物の構築にともなう工事用井戸として使用されることを特徴とする請求項9に記載の非常用井戸の構築方法。
【請求項11】
請求項9又は10のいずれかの方法で構築されたことを特徴とする非常用井戸。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−121062(P2009−121062A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−293546(P2007−293546)
【出願日】平成19年11月12日(2007.11.12)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】