説明

亜鉛鍍金鋼板の溶接方法

【課題】通常の簡単な溶接作業で、耐久性に優れた亜鉛鍍金鋼板の溶接方法を提供できるようにする。
【解決手段】表面を亜鉛鍍金処理により亜鉛鍍金層を形成した亜鉛鍍金鋼板を突き合わせた部分を電気溶接により溶接する亜鉛鍍金鋼板の溶接方法であって、突き合わせた部分を溶接する溶接棒にステンレス鋼のアーク溶接棒によって溶接するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は亜鉛鍍金による防錆処理を施した鋼板の溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、建築物や構築物で使用される鉄板等の鋼板は、防錆処理として溶融亜鉛の池に浸漬、いわゆるドブ漬けして表面に亜鉛鍍金層を形成してあり、これを溶接する場合、つき合わせた部分を母材に合わせた鉄系の溶接棒で電気溶接(アーク溶接)するようにしている。
【0003】
こうして電気溶接した場合、アークの温度が、亜鉛の融点(419℃)や蒸散温度(343℃)よりはるかに高い高熱(約15000℃)となることから、鍍金された亜鉛の層は瞬時にして蒸散するとともに、鉄系の溶接棒で溶接した部分が露出し、酸化して発錆しやすい状態となっている。
【0004】
このため、従来では上記の露出している溶接箇所に刷毛で塗装を施し防錆処理したり、特許文献1に開示されているような酸化防止具を用いたりしている。
ところが、塗料による酸化防止では、隅々まで塗布することが難しく、また、塗布した部分に他物が当るとはげたり、ピンホールを生じたり、さらには経年変化により塗装面が傷んだりすると、ここから酸化しやすくなることから、耐久性に問題があった。
【0005】
上記特許文献1に開示された酸化防止具を用いる場合、酸化防止部のために構造が複雑で高価になるだけでなく、その用途も限定されるという問題があった。
また、鉄製鋼板同士を溶接する場合、鉄用溶接棒で溶接した後、溶融亜鉛池に浸漬して亜鉛鍍金することにより、防錆処理をする方法もある。
ところが、こうした場合、溶接に加えて亜鉛鍍金処理をする手間を要することから、納期遅れの原因になったり、約450℃の高熱の溶融亜鉛池に浸漬することから製品に熱ひずみを生じて品質の低下を招いたりしてしまうという問題もあった。
【0006】
因みに、亜鉛鍍金鋼板の電気溶接では、鉄系のよう切望を用いて溶接する時に発生する亜鉛蒸気によるブローホールが発生するのを防止するために、高濃度の酸素を含有するシールドガスを用いるようにしたものが先に提案(特許文献2)されている。
ところが、こうしたものでは、亜鉛蒸気を酸化亜鉛にしてブローホールの発生を可及的に防止することができる半面、酸素による母材が酸化しやすいことから溶接部分の強度低下を招いてしまうという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−136286号公報
【特許文献2】特開平6−262362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題点に鑑み提案されたもので、通常の簡単な溶接作業で、耐久性に優れた亜鉛鍍金鋼板の溶接方法を提供できるようにすることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法は、表面を亜鉛鍍金処理により亜鉛鍍金層を形成した亜鉛鍍金鋼板を突き合わせた部分を電気溶接により溶接する亜鉛鍍金鋼板の溶接方法であって、突き合わせた部分を溶接する溶接棒にステンレス鋼のアーク溶接棒によって溶接するようにしたことを最も主要な特徴とするものである。
【0010】
本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法では、電気溶接するに当たり、10%未満の酸素を含んだシールドガスで溶接するようにしたことや、ステンレス鋼の被覆アーク溶接棒により溶接した部分ならびにその近傍部分に塗料を塗布したことも特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の亜鉛鍍金鋼板の溶接方法によれば、表面を亜鉛鍍金処理により亜鉛鍍金層を形成した亜鉛鍍金鋼板を突き合わせた部分を電気溶接により溶接するに際し、突き合わせた部分を溶接する溶接棒にステンレス鋼のアーク溶接棒により溶接するようにしてあるので、溶接した部分は、溶接に用いたアーク溶接棒のステンレス鋼が露出した状態となる。
【0012】
これにより、従来のように防錆用塗料の塗布の手間をなくして、通常の簡単な溶接作業するだけで、耐久性に優れた亜鉛鍍金鋼板の溶接を行うことができる利点がある。
また、酸化防止具を用いることもなく、従来どおりの簡単な方法で溶接することができ構造も簡単で安価に実施することができる利点もある。
【0013】
さらに、溶接棒にステンレス鋼のアーク溶接棒を使用することにより、溶接後に高熱の溶融亜鉛池に浸漬して亜鉛鍍金を施さなくてすむので、亜鉛鍍金処理をする手間をなくすことができる。
これにより、短期間で製品を生産することができ、納期遅れもなくすとともに、高熱の溶融亜鉛池に浸漬することによる製品の熱ひずみの発生を防止して高品質の製品を生産することができる利点がある。
また、本発明の亜鉛鍍金鋼板の溶接方法において、電気溶接するに当たり、10%未満の酸素を含んだシールドガス雰囲気中で溶接するようにしたものでは、母材の酸化を防止して強度に優れた亜鉛鍍金鋼板の溶接を行うことができる利点がある。
【0014】
加えて、ステンレス鋼のアーク溶接棒により溶接した部分ならびにその近傍部分に塗料を塗布すると、溶接した部分のステンレス鋼と他の亜鉛鍍金部分との材質の異なる部分を被覆して目立たなくすることができる。
因みに、ステンレス鋼のアーク溶接棒により溶接した部分に塗布し、その塗料を塗布した部分に他物が当たってピンホールが生じても、ここから錆を生じることもなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】は本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法を実施して溶接した鋼材の斜視図である。
【図2】は本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法を実施して溶接した鋼材の縦断正面図である。
【図3】は本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法における逆T字状に接合して溶接するときの開先角度を示す正面図である。
【図4】は本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法における突合せて平板状に接合して溶接するときの開先角度を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明にかかる亜鉛鍍金鋼板の溶接方法の最も好ましい実施の形態を図面に基づいて説明する。
【実施例】
【0017】
図1は、亜鉛鍍金鋼板の溶接方法を実施して溶接した亜鉛鍍金鋼板の斜視図、図2はその縦断正面図であって、図中符号1は溶接された亜鉛鍍金鋼板で形成した逆T字形の鋼材を全体的に示す。
この逆T字形の鋼材1は、ベースとなる下部の亜鉛鍍金鋼板2と、その下部の亜鉛鍍金鋼板2の上面中央部分から立ち上げられた状態に溶接された上部の亜鉛鍍金鋼板3とで逆T字状に形成したものである。
【0018】
これらの各亜鉛鍍金鋼板2・3は、肉厚の鉄板(母材)4を、溶融した亜鉛池に浸漬して表面に亜鉛鍍金層5を形成したもので、上部の亜鉛鍍金鋼板3が下部の亜鉛鍍金鋼板2に当接する角部(溶接部)は開先6が形成されている(図3参照)。
この開先6は、後述するオーステナイト系ステンレス鋼の被覆アーク溶接棒(例えばSUS304やSUS430があげられる)による溶接で溶融したステンレス鋼が流れこみやすくするために、図3に示すように、その開先6の角度θを本例のT形の接合では25度に形成してあるが、このようなT形を含むV形、Y形、レ形接合では、その開先6の角度θは、20度以上30度以下に設定することが望ましい。
【0019】
因みに、図4に示すように、平板の亜鉛鍍金鋼板7・7の突合せ溶接の場合では、開先6の角度θは60度以上80度以下にすることが望ましい。
この開先6の角度θを、T字形を含むV字形、Y字形、レ形接合では20度以上30度以下に設定する理由としては、20度以下では溶融したステンレス鋼が流れ込みにくくなり、30度を超える場合には、電気溶接時の高熱のアークにより、上部の亜鉛鍍金鋼板3の溶け出しがおおきく、下部の亜鉛鍍金鋼板2とのバランスが取れず、充分な溶接強度を得られなくなるためである。
【0020】
また、図4に示す平板の亜鉛鍍金鋼板7・7の突合せ溶接の場合の開先6の角度θを、60度以上80度以下に設定するのは、上述したのと同様に、60度以下では溶融したステンレス鋼が流れ込みにくく、80度を超える場合には、電気溶接時の高熱のアークにより、接合部分の平板の亜鉛鍍金鋼板7・7の溶け出しが広くなり無駄になるだけでなく、熱影響により充分な溶接強度を得られなくなるためである。
【0021】
そして、表面を亜鉛鍍金処理することにより、亜鉛鍍金層5を形成した亜鉛鍍金鋼板2・3・7・7を突き合わせた部分を溶接する電気溶接は、図示は省略したが、従来通りの一般的な電気溶接装置を用いて、その溶接棒をオーステナイト系ステンレス鋼の被覆アーク溶接棒を使用する。
【0022】
つまり、下部の亜鉛鍍金鋼板2にマイナス側に電極を接続し、プラス側の電極のステンレス鋼の被覆アーク溶接棒を開先部分に近接させ、アーク放電を開始させ、このアーク放電による15000℃の高熱でステンレス鋼の被覆アーク溶接棒を溶解して開先6部分に流し込み、上部の亜鉛鍍金鋼板3と下部の亜鉛鍍金鋼板2とを溶接する。
【0023】
このとき、発生した高熱のアークにより、下部の亜鉛鍍金鋼板2の表面に形成されている亜鉛鍍金層5はその蒸散温度が343℃と、アーク放電の温度よりはるかに低いことから、アーク放電が発生する部分の亜鉛鍍金層5は瞬時にして蒸散し、流れ込んできたステンレス鋼は、下部の亜鉛鍍金鋼板2の鉄板4と上部の亜鉛鍍金鋼板3の鉄板4との間で溶け合って合金が形成される。
これにより、下部の亜鉛鍍金鋼板2に上部の亜鉛鍍金鋼板3がしっかりと固定された状態に溶接される。
こうして溶接された溶接部分8は、その表面にはアーク溶接棒のステンレス鋼9が現れており、当該部分の酸化(発錆)が防止される。
【0024】
因みに、特開2009−39724号開示されているようにガスシールドアーク溶接方法を採用するに当たっては、そのシールド用のガスとしてアルゴンや炭酸ガス等の不活性ガスに微量の酸素を含んだものを使用する。この酸素量は10%未満にすることが望ましい。
つまり、亜鉛鍍金鋼板におけるシールドガス中に酸素を含ませるのは、溶接時に発生する亜鉛蒸気を酸化亜鉛に酸化させてブローホールの発生を防止するようにしたものであるが、後述するようにアーク放電の温度が亜鉛の蒸散温度の約44倍もあり、亜鉛蒸気は瞬時に蒸散する一方、アーク放電により溶融したステンレスは鉄製の溶接棒に比べて緩やかに流れ込む。
【0025】
これにより、ブローホールの発生を可及的に防止することができるので、酸素はシールドガス中に亜鉛蒸気を酸化させるだけの微量にすることができる。
因みに、本発明を実施するガスシールドアーク溶接では酸素が少量の2%(体積率)のアルゴンガスを使用することが最も望ましい。
また、上述のようにアーク放電により発生する亜鉛蒸気が溶接部分に与える影響が少ないことから、酸素量はゼロにすることもできるのはもちろんのことである。
【0026】
尚、上記表面に現れているステンレス鋼9部分にジンク塗料(図示せず)を塗布すると、周囲の亜鉛鍍金層5部分とよく馴染み違和感を無くすことができる。
また、ジンク塗料を表面に現れているステンレス鋼9部分に塗布する場合、塗装斑や他物が当たってピンホールが生じても、この部分から発錆することがなく、耐久性が向上するのであるが、このジンク塗料の塗布は省略することができる。
【0027】
本発明の上記実施例においては溶接棒をオーステナイト系ステンレス鋼の被覆アーク溶接棒を使用するようにしてあるが、こうしたものに限られず、他のステンレス鋼系の溶接棒を使用することの可能背あることはいうまでもないことである。
【符号の説明】
【0028】
1・・・逆T字形の鋼材
2・・・下部の亜鉛鍍金鋼板
3・・・上部の亜鉛鍍金鋼板
4・・・鉄板(母材)
5・・・亜鉛鍍金層
6・・・開先
7・・・平板の亜鉛鍍金鋼板
8・・・溶接部分
9・・・ステンレス鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面を亜鉛鍍金処理により亜鉛鍍金層を形成した亜鉛鍍金鋼板を突き合わせた部分を電気溶接により溶接する亜鉛鍍金鋼板の溶接方法であって、突き合わせた部分を溶接する溶接棒にステンレス鋼のアーク溶接棒によって溶接するようにしたことを特徴とする亜鉛鍍金鋼板の溶接方法。
【請求項2】
電気溶接するに当たり、10%未満の酸素を含んだシールドガスで溶接するようにしたことを特徴とする請求項1に記載の亜鉛鍍金鋼板の溶接方法。
【請求項3】
ステンレス鋼のアーク溶接棒により溶接した部分ならびにその近傍部分に塗料を塗布したことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の亜鉛鍍金鋼板の溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−35268(P2012−35268A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−174434(P2010−174434)
【出願日】平成22年8月3日(2010.8.3)
【出願人】(391046621)株式会社三木製作所 (17)
【Fターム(参考)】