説明

交互積層膜の製造方法および製造装置

【課題】 第1に高品質な交互積層膜を高効率で量産性よく製造する方法および装置を提供し、第2にロール・トゥ・ロールにより効率的に高品質な交互積層膜を製造することができる方法および装置の提供する。
【解決手段】 基材を垂直に立てて水平方向に搬送しつつ、該基材を前記正電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程と該基材を前記負電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程をそれぞれ、所定回数行うことを特徴とする交互積層膜の製造方法。壁にフィルム状又はシート状の基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、正又は負の電荷を有する物質を含む液を収容又は導入するための浸漬処理槽を含み、基材が通過可能な浸漬工程槽を備えてなる交互積層膜製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交互積層膜の製造方法および製造装置に関するものであり、特に、各種電子機器のディスプレイ用の光学素子、種々のセンサやフィルタなどを量産する際に利用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメータースケールの薄膜を溶液から形成する方法として、交互積層法(Layer−by−Layer Electrostatic Self−Assembly)が提案されている。交互積層法は、G.Decherらによって1992年に発表された有機薄膜を形成する方法である(非特許文献1参照)。この方法では、正電荷を有するポリマー電解質(ポリカチオン)と負電荷を有するポリマー電解質(ポリアニオン)の水溶液に、基材を交互に浸漬することで基板上に静電的引力によって吸着したポリカチオンとポリアニオンの組が積層して複合膜(交互積層膜)が得られるものである。
【0003】
交互積層法では、静電的な引力によって、基材上に形成された材料の電荷と、溶液中の反対電荷を有する材料が引き合うことにより膜成長するので、吸着が進行して電荷の中和が起こるとそれ以上の吸着が起こらなくなる。したがって、ある飽和点までに至れば、それ以上膜厚が増加することはない。一回あたりの吸着膜厚が薄いため、精度高い膜厚を、積層する回数によって制御することができるという優れた特長をもつので、ナノメータサイズの光学的な薄膜形成には適当な成膜方法と言える。さらに、真空設備も必要とせず、低コストで高精度な薄膜形成方法である。また、チューブ状の基材の内部や織物の繊維や発泡材の内部など、溶液が浸透する部分にはコーティングが可能という、他の方法にない特徴を持っている。
【0004】
Rubnerらによって、基板上にポリアクリル酸とポリアリルアミン塩酸塩との交互積層膜を作製した後、塩酸などのpHを調整された酸溶液に浸すことにより、静電吸着した結合部分を部分的に切断して空隙構造をつくるという報告があり(非特許文献2参照)、これを応用した反射防止膜が提案されている(特許文献1及び非特許文献3参照)。
【0005】
また、微粒子を積層することにより、多孔質膜を形成する方法が提案されている。Y.Lvovらは交互積層法を、微粒子に応用し、シリカやチタニア、セリアの各微粒子分散液を用いて、微粒子の表面電荷と反対電荷を有するポリマー電解質を交互積層法で積層する方法を報告している(非特許文献4参照)。しかし、この方法で形成された微粒子積層膜は、微粒子同士が主に水素結合のような弱い静電的引力によって吸着されているために、耐スクラッチ性に劣るという課題がある。
【0006】
こうして作成された交互積層膜は、有機EL(Electro−Luminescence)素子をはじめとする種々の電子デバイスへの利用が期待されており、更に、表面に交互積層膜を形成することにより親水性を制御することが可能になるため、コンタクトレンズ表面へのコーティング技術への応用や生体関連材料への応用も注目を集めている。
【0007】
この交互積層膜の製造装置としては、基材がロボットアームにより2つの水槽に交互に浸される構成の交互積層膜の自動製造装置が提案されている(非特許文献5参照)。この装置を用いれば、基材上に交互積層膜が自動的に成膜される。
【0008】
また、交互積層膜の製造装置として、正の荷電粒子を含む溶液と負の荷電粒子を含む溶液とに被成膜材料を交互に複数回浸すことにより、多層構造を有する交互吸着膜を製造する装置であって、一方の荷電粒子を含む溶液を収容するための第1の溶液槽と、他方の荷電粒子を含む溶液を収容するための第2の溶液槽と、前記第1の溶液槽内から直接または他の槽を介して間接的に前記第2の溶液槽内へと進み、前記第2の溶液槽から直接または他の槽を介して間接的に再び前記第1の溶液槽内へと戻る循環路に沿って、環状の被成膜材料の各部を搬送することにより、前記環状の被成膜材料を前記循環路に沿って回転させる搬送装置と、を備えることを特徴とする交互吸着膜の製造装置が提案されている(特許文献2参照)。上記搬送装置としては、各槽内に設けられた槽内ローラと、槽外の循環路上に設けられた槽外ローラが具体的に示される。
【0009】
また、ロールを用いる必要のない交互積層膜の製造装置として、正の電荷を有する正電荷物質と、負の電荷を有する負電荷物質とが被成膜材料表面に交互に積層されてなる交互吸着膜の製造装置であって、前記正電荷物質を含有する正電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する正電荷物質含有液塗布手段と、前記負電荷物質を含有する負電荷物質含有液を吐出することにより、被成膜材料の表面に液膜を形成するように塗布する負電荷物質含有液塗布手段とを少なくとも有し、得られる交互吸着膜が必要とする積層数を形成するために、前記正電荷物質含有液塗布手段および前記負電荷物質含有液塗布手段により、前記被成膜材料表面が複数回にわたり処理されるように構成されていることを特徴とする交互吸着膜の製造装置が提案されている(特許文献3参照)。
【0010】
【特許文献1】国際公開WO03/082481号公報
【特許文献2】特開2001−62286号公報
【特許文献3】特開2003−300274号公報
【非特許文献1】Thin Solid Films, 210/211, p831(1992)
【非特許文献2】Langmuir 16、p5017−5023(2000)
【非特許文献3】Nature Materials, Vol1 p59−63(2002)
【非特許文献4】Langmuir、Vol.13、(1997)p6195−6203
【非特許文献5】A.C.Fon, O.Onitsuka, M.Ferreira, B.R. Hsieh and M.F.Rubner: J. Appl. Phys. 79(10) 15 May 1996
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記した交互積層膜の成膜技術は、現段階ではまだ量産化の域に達しておらず、電子デバイス、粒子センサ、フィルタなど、交互積層膜を利用した製品を商業的に生産するためには、解決すべき課題が残されている。
【0012】
前記した非特許文献5の方法では、例えば1m四方の大きさの交互積層膜を製造する場合、少なくとも1m四方の水槽と、この水槽内から基材を高さ2m程度吊りあげることができるロボットアームが必要になり、非常に大掛かりな装置を用いた大掛かりな作業が必要になるといった問題があった。
【0013】
特許文献2に記載の装置は、このような問題点を解決するために提案されたものであるが、基材をロールで支持する必要があることから、基材上に形成された交互積層膜がロールに接触して破壊される可能性があるといった問題があるが、これに対しては、同特許文献に搬送ロールの両端を盛り上げた構造とすることが提案されている。しかし、この技術には、被成膜材料にしわを発生させる恐れがあると共に、基材が蛇行する可能性がある等、高品質な交互積層膜を安定に製造することが困難であった。また、この方法では、ロール状の基材を切り取って交互積層膜を形成することから、一度に交互積層膜が形成できる長さが10m程度であり、数十から数百mの長さで一挙に交互積層膜を形成することができないという問題があった。
【0014】
特許文献3に記載の装置は、このような問題点を解決するために提案されたものである。この装置では、基材を水平面に対し90度以上180度未満に角度を設けて搬送することが好ましいとされるが、ロール・トゥ・ロールで搬送ロールを用いずに円滑に交互積層膜を製造するためには、水平面に対し90度ぐらいの角度で搬送することが必要であると考えられる。しかしながら、この場合、電荷物質を有する液を吐出することによって、交互積層膜を形成することから、吐出時の飛沫により作成した交互積層膜に膜厚ムラが発生する可能性があり、ロール・トゥ・ロールで数十から数百mの基材に高品質な交互積層膜を高効率で形成することが困難であった。
【0015】
そこで、本発明は、高品質な交互積層膜を高効率で量産性よく製造する方法および装置を提供することを第1の課題とする。また、本発明は、ロール・トゥ・ロールにより効率的に高品質な交互積層膜を製造することができる方法および装置の提供することを第2の課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、次のものに関する。
1. 正電荷を有する物質と負電荷を有する物質とを基材に交互に積層する交互積層膜の製造方法において、基材を垂直に立てて水平方向に搬送しつつ、該基材を前記正電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程と該基材を前記負電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程をそれぞれ、所定回数行うことを特徴とする交互積層膜の製造方法。
2. 各浸漬処理工程のそれぞれの後に、基材を洗浄するリンス工程を含む項1記載の交互積層膜の製造方法。
3. 各浸漬処理工程のそれぞれの後に、それぞれの浸漬処理工程で使用したのと同一の液を基材にその上部又は上方からかける工程を含む項1記載の交互積層膜の製造方法。
4. 各浸漬処理工程のそれぞれの後であって、各浸漬処理工程後のリンス工程の前に、それぞれの浸漬処理工程で使用したのと同一の液を基材にその上部又は上方からかける工程を含む項2記載の交互積層膜の製造方法。
5. 各浸漬処理工程を、前記正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質を含む液を収容した槽を、その槽に設けられた開口部から進入してその槽に設けられた別の開口部から退出するように、垂直に立てた基材を通過させることによって行う項1〜4のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
6. 各開口部が垂直方向に設けられたスリット状の開口である項5記載の交互積層膜の製造方法。
7. 各槽の各開口部において、前記開口部の槽内側近傍に1対の柱状部材を隔離して配置し、この1対の柱状部材の間を基材に通過させる項5又は6記載の交互積層膜の製造方法。
8. 1対の柱状部材を隔離するための構造が、その上部と下部にスペーサを挟み込むことにより柱状部材を隔離する構造である項8記載の交互積層膜の製造方法。
9. 浸漬処理工程において、基材を浸漬されるための前記正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質を含む液を循環使用する項1〜8のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
10. 基材の搬送が、最初の工程の前におけるロール状基材を巻き出し、最後の工程の通過後の基材をロール状に巻き取ることにより行われる項1〜9のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
11. 基材が、フィルム又は繊維材料の織布又は不織布である項1〜10のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
12. 壁にフィルム状又はシート状の基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、正又は負の電荷を有する物質を含む液を収容又は導入するための浸漬処理槽を含み、基材が通過可能な浸漬工程槽を備えてなる交互積層膜製造装置。
13. 浸漬工程槽を複数個有する項12記載の交互積層膜製造装置。
14. 壁に浸漬工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、洗浄液を収容又は導入するためのリンス工程槽を備えてなる項12又は13記載の交互積層膜製造装置。
15. 最後のリンス工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、乾燥機構を備える乾燥工程槽備えてなる項14記載の交互積層膜製造装置。
16. 垂直に立てられ、ロール状に巻回されているフィルム状又はシート状の基材を保持し、巻き出すことができる基材保持部材、
垂直に立てられ、巻き出された保持部材を浸漬処理工程槽に誘導するための案内ロール、
最後の槽を通過した基材を誘導する案内ロール
及び
案内ロールにより案内された基材を巻き取るための垂直に立てられた巻き取りロール
を備えてなる項12〜15のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
17. 巻き出された保持部材を浸漬処理工程槽に誘導するための案内ロール及び最後の槽を通過した基材を誘導する案内ロールによって、案内される基材が一直線上を移動可能なように、浸漬工程槽、リンス工程槽及び乾燥工程槽のスリット状開口部の位置を調節して各槽を配列してなる項16記載の交互積層膜製造装置。
18. 浸漬工程槽が浸漬処理槽のみからなる項12〜17のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
19. 浸漬工程槽が、浸漬処理槽の直前又は直後に、その基材が進入又は退出するためのスリット状開口部から流出する浸漬液を受けるための回収槽を有する項12〜17のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
20. 浸漬処理槽の各開口部において、該開口部の槽内側近傍に1対の柱状部材を隔離して配置し、この1対の柱状部材の間を基材に通過させる構造としてなる項18又は19記載の交互積層膜製造装置。
21. 1対の柱状部材を隔離するための構造が、その上部と下部にスペーサを挟み込むことにより柱状部材を隔離する構造である項20記載の交互積層膜製造装置。
22. 浸漬工程槽直後の回収槽が浸漬液を基材にその上部又は上方からかける機構を有する項19記載の交互積層膜製造装置。
23. 回収槽の底面又は側面に浸漬液の排出口を有する項19又は22記載の交互積層膜製造装置。
24. 回収槽の排出口から排出された浸漬液を浸漬処理槽に循環させる機構を有する項23記載の交互積層膜製造装置。
25. リンス工程槽が壁に浸漬工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、洗浄液を収容又は導入するためのリンス槽が1槽からなるか又は複数槽連ねてなるものである項12〜24のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
26. リンス槽がその底面又は側面に洗浄液の排出口を備えてなるものである項25記載の交互積層膜製造装置。
27. リンス槽の排出口から排出された洗浄液をリンス槽に循環させる機構を有する項26記載の交互積層膜製造装置。
【発明の効果】
【0017】
本発明における交互積層膜の製造方法及び製造装置では、基材を垂直に立てて水平方向に搬送し、電荷物質を含む液に浸漬する工程を施すようになっており、また、リンス工程をも同様に行うことができ、高品質の交互積層膜を効率的に量産性よく製造することができる。本発明においては、液中で基材を折り返す必要がないことから液中に搬送ロールを必要とせず、交互積層膜が濡れた状態で搬送ロールに接触することにより形成された交互積層膜が破壊される等の問題を生じることがない。また、搬送過程における基材の折り返しも少なくできることから、基材を安定して搬送することが容易である。更に、液中に搬送ロールやロール駆動部が無いことから異物混入による液の劣化を抑制することができる。
【0018】
本発明における交互積層膜の製造方法及び製造装置においては、浸漬処理槽に設けられた基材通過のための開口部の内側近傍に基材を挟むように1対の柱状部材を配置し、前記1対の柱状部材の上部と下部にスペーサを配置することにより基材が通過する隙間を確保することができ、開口部での傷発生を防止することができる。更に、柱状部材は、液圧によって開口部側壁に接触させるようにすることにより開口部側壁と柱状部材との間から液流出を抑制することもできる。
本発明における交互積層膜の製造方法及び製造装置においては、浸漬処理槽の前後に回収槽を配置すると、浸漬処理槽から流出する浸漬液を効率よく回収することができ、また、この浸漬液を循環使用することができる。
本発明においては、基材の搬送をロール・トゥ・ロールで行うこともできるので、効率的に高品質な交互積層膜を製造することができる。
本発明おいて、浸漬液や洗浄液は、循環使用することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
(正電荷を有する物質および負電荷を有する物質)
本発明における正電荷物質としては、正の電荷を有するイオン性ポリマー、正の電荷を有する微粒子等を使用することができる。また、同様に本発明における負電荷物質としては、負の電荷を有するイオン性ポリマー、負の電荷を有する微粒子等を使用することができる。
上記正電荷物質及び負電荷物質は、媒体中に均一に溶解又は分散するものが好ましい。
【0020】
上記イオン性ポリマーとしては、荷電を有する官能基を主鎖または側鎖に持つ高分子を用いることができる。正の電荷を有するイオン性ポリマーとしては、一般に、4級アンモニウム基、アミノ基などの正荷電を帯びているか帯びることのできる官能基を有するもの、たとえば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリアリルアミン塩酸塩(PAH)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA)、ポリビニルピリジン(PVP)、ポリリジンなどを用いることができる。負の電荷を有するイオン性ポリマーとしては、一般的に、スルホン酸、硫酸、カルボン酸など負電荷を帯びているか帯びることのできる官能基を有するものであり、たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS)、ポリビニル硫酸(PVS)、デキストラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ポリアクリル酸(PAA)、ポリメタクリル酸(PMA)、ポリマレイン酸、ポリフマル酸などが用いられる。これらの有機高分子イオンは、多くのものが水溶性あるいは水とアルコール、アセトン等の水溶性有機溶媒との混合液に可溶であり、ここに例示したものはいずれもこのような媒体に可溶である。
【0021】
微粒子としては、無機微粒子又は有機高分子微粒子を使用することができる。
無機微粒子としては、フッ化マグネシウム(MgF)、フッ化アルミニウム(AlF)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ナトリウム(NaF)、シリカ(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ジルコニア(ZrO)、酸化チタン(TiO)、酸化ニオブ(Nb)、インジウムスズ酸化物(ITO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、セリア(CeO)、酸化イットリウム(Y)、酸化ビスマス(Bi)などが挙げられる。
【0022】
有機高分子微粒子としては、ポリエチレン、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、シリコンポリマー、フェノール樹脂、ポリアミド、天然高分子などが挙げられる。それらは液相から溶液噴霧法、脱溶媒法、水溶液反応法、エマルション法、懸濁重合法、分散重合法、アルコキシド加水分解法(ゾル−ゲル法)、水熱反応法、化学還元法、液中パルスレーザーアブレーション法などの製造方法で合成される。
【0023】
金属酸化物の微粒子の表面には部分的に水酸基が存在し、それが水溶液中でイオン化(−O又は−OH)して、プラス又はマイナスの電荷を持たせることができる。また、カルボキシル基、アミノ基などの極性基やイオン性を有する界面活性剤を微粒子に化学的又は物理的に吸着させて表面に電荷を持たせることもできる。高分子微粒子には、その原料のポリマーに上記極性基やイオン性を有するものを用いることで表面に電荷を持たせることができる。
【0024】
本発明により作製した交互積層膜を光学素子として使用するためには、交互積層膜が透明であることが好ましいが、正電荷又は負電荷を有する物質として微粒子を用いる場合、交互積層膜が透明性を得るために、本発明で用いる媒体に分散されている微粒子は、平均一次粒子径が2〜100nmであることが好ましい。平均一次粒子径が2nm未満であると膜成長に時間がかかりすぎるし、100nmを超えると、膜厚の制御がしにくく、また光を散乱しやすくなり交互積層膜の透明性を損なう。また、正電荷又は負電荷を有する物質として微粒子を用いる場合、媒体に分散している微粒子は一次粒子であっても一次粒子が凝集したタイプの二次粒子であっても良い。このとき、微粒子の平均一次粒子径や平均二次粒子径の測定は公知の方法を用いて行うことができる。一次粒子が凝集せずに媒体に分散している場合、平均一次粒子径を動的散乱法により測定することができる。ただし、一次粒子が凝集した二次粒子等の場合、動的散乱法により測定されるのは平均一次粒子ではなく、平均二次粒子径である。二次粒子における平均一次粒子径はBET法や電子顕微鏡法によって測定できる。BET法では、窒素ガスのように占有面積の分かった分子を粒子表面に吸着させ、その吸着量と圧力の関係から比表面積を求め、この比表面積を換算表から粒子径に変換をすることで粒子径を測定できる。また、電子顕微鏡法では、まず厚さ数十nmのアモルファスカーボン膜が形成された銅製メッシュ上で微粒子を微粒子分散液からすくい取る、もしくはアモルファスカーボン膜上に微粒子を吸着させる。その微粒子を透過型電子顕微鏡により観察し、次いで、撮影画像中の複数の微粒子の長さを測定しその相加平均を平均一次粒子径として求める。柱状粒子のように粒子の軸比が大きく異なる場合は、一般的に短軸の長さを測定し、その相加平均を平均一次粒子径とする。
【0025】
(基材)
基材としてはフィルム、繊維材料の織布又は不織布、ガラス繊維を織り込んだクロス等、ロール状に巻き取とることができる程度に可撓性のものであればよい。また、極端に疎水性、撥水性のものまたは表面にそのような膜がコートしていないものがよい。現時点における用途展開等を考慮すると、可撓性を有する樹脂製の透明フィルムが好適に用いられる。樹脂製の透明フィルムの材質として具体的には、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、アセテートブチレートセルロース、ポリエーテルサルホン、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトンなどが挙げられる。また、基材の表面に透明な樹脂膜や無機膜がコートされているものも本発明の基材に包含される。更に、表面に凹凸のあるフィルムも適応可能である。凹凸のあるフィルムの形成方法としては、サンドブラスト処理、紫外線、電子線等の活性エネルギー線の照射により硬化可能な光硬化性樹脂を表面に凹凸模様が形成された金型に押し当てて、紫外線、電子線等の活性エネルギー線を照射する方法等により製造することができるが、その方法に特に限定はない。
【0026】
基材上に交互積層膜を形成するためには、基材がその表面に極性基を有することが必要である。極性基としては、水酸基、カルボシキル基、カルボニル基、スルホナート基、アミノ基、4級アンモニウム塩、イソシアネート基等が挙げられる。それらは分子内分極またはイオン化によって、局所的にプラスまたはマイナスの電荷を有するため、それと反対の電荷を有する物質を吸着させる。したがって、表面水酸基を有するポリエチレンテレフタレート等の基材をそのまま用いるか、またはそれらの表面にコロナ放電処理、グロー放電処理、プラズマ処理、紫外線照射、オゾン処理、アルカリや酸などによる化学的エッチング処理、シランカップリング処理などによって極性を有する官能基を導入して基材の表面電荷をマイナスまたはプラスとする。基材表面へプラスの電荷を効率よく導入する方法としては、水溶液中でイオン化し、プラスの電荷を有する強電解質ポリマーであるポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド又はポリエチレンイミンを吸着させることによっても可能である〔アドバンスト マテリアル(Advanced Material)13巻52−54頁(2001年発行)参照〕。
【0027】
基材表面の極性基の量は、ゼータ電位で、絶対値が1〜35mVであることが好ましい。例えば、ガラスやポリエチレンテレフタレート等の基材表面のゼータ電位は−80から−30mV程度であり、前記基材にポリジアリルジメチルアンモニウムクロリドを吸着させた場合のゼータ電位は40〜60mV程度である。また、金属酸化物の微粒子のゼータ電位は、絶対値で1〜60mV程度である。ゼータ電位は、レーザーゼータ電位計ELS−8000(大塚電子株式会社製)等を用いて測定することができる。
【0028】
(交互積層膜の作製方法)
このように表面に極性基を有する基材を垂直方向に立てて水平方向に搬送し、この間に、正電荷物質を含む液および負電荷物質を含む液に交互に浸漬し、基材上に交互積層膜が作製される。基材の表面電荷がマイナスであればはじめに正電荷物質を含む液、基材の表面電荷がプラスであればはじめに負電荷物質を含む液に浸漬する工程を行う。基材は、適宜の形状で使用しておいてもよいが、条体のもの又は帯状のものが好ましく、これをロール状に巻いてある基材を巻き出して、上記の工程に従事するように搬送し、必要な工程を終えた後は、基材をロール状に巻き取るようにすることが好ましい。
【0029】
電荷物質を含む液中の溶解又は分散している電荷物質の濃度は、電荷物質及び媒体の種類や得られた交互膜の用途によって異なるが、0.1〜20重量%程度とすることが好ましい。
【0030】
上記の各浸漬処理工程における浸漬時間は、積層する物質、積層したい膜厚等によって適宜調整する。浸漬時間は、基材の搬送速度、浸漬するための浸漬槽の長さ等により調整でき、1回当たりの膜厚は、正電荷物質又は負電荷物質を含む液の濃度およびpHを調整することにより行うこともできる。例えば、正電荷物質又は負電荷物質が微粒子の場合、微粒子が沈殿しない程度にpHを中性に近づけることにより微粒子を凝集させ、凝集した微粒子を基材に吸着させることで、1回当たりの膜厚を厚くすることが可能となる。また、正電荷物質又は負電荷物質を含む液への浸漬時間は、膜厚制御を容易にするために、電荷物質の吸着が飽和する時間以上行うことが好ましい。電荷物質の吸着が飽和する時間は電荷物質を含む液によって異なるが、好ましくは20〜600秒程度である。電荷物質の吸着状態は、基材を浸漬する際に、水晶振動子を同時に浸漬し、水晶振動子の発振周波数の変化を確認することで確認することできる(国際公開WO00/13806号公報参照)。
【0031】
第一の浸漬処理工程のあと、上記と同様にして次の浸漬処理工程においては、反対の電荷を有する物質を含む液が使用される。順次、反対の電荷を有する物質を含む液を使用して浸漬処理工程が必要回数行われる。これらの各浸漬処理工程のあとリンスする工程を行うことが好ましい。電荷を有する物質は基材に静電的に吸着しているが、それを超える量の電荷を有する物質、その他の余剰の物質はこれによって洗い流すことができる。また、次の工程で使用する反対電荷物質を含む液に、溶解又は分散する物質を持ち込むことを防ぐためにもリンスすることは好ましい。これをしない場合は、持ち込みによって溶液内で正電荷物質と負電荷物質が混ざり、沈殿を起こすことがある。リンス工程は、リンス液への浸漬又はスプレー等によるリンス液の噴きかけにより実施することができる。本発明で用いられるリンス液は、用いられる電荷物質を含む液の種類によって、適宜選択されて用いられる。具体的には、イオン交換水もしくは超純水(比抵抗18MΩ・cm)、アルコール、アルコールと水の混合液などが適宜用いられる。リンス時間は用途や電荷物質を含む液に応じて、適宜選択される。具体的には、数秒以上から数十秒以下の程度の時間実施することが好ましく、リンス工程は引き続いて複数回実施しても良い。
【0032】
本発明においては、リンス工程の後に、乾燥工程を行っても良い。乾燥の有無により得られる膜の特性が異なる場合があり、膜の種類によっては乾燥が必要な場合があるからである。乾燥した基材と濡れている基材とで積層される膜厚が変化する場合があり、搬送過程において乾燥部と未乾燥部とが発生することにより交互積層膜にムラが発生する可能性あるからである。また、乾燥させることにより、次の浸漬処理槽への水の持ち込みを低減することで処理液の濃度やPHの変化を抑制することもできる。乾燥工程は、最後のリンス工程の後1回だけ行ってもよい。
【0033】
本発明においては、正電荷物質又は負電荷物質を含む液への浸漬処理工程の後、リンス工程を行うときはその前に、正電荷物質又は負電荷物質の薄膜を製膜した基材に、浸漬処理工程で使用した液と同一の液をかける工程を行うことが好ましい。浸漬処理工程において基材出口部から流出する電荷物質を有する液を回収するためには、リンス工程に入る前に流出する液を回収した方がよいが、そのために、槽浸漬処理工程とリンス工程の間に空搬送を必要とすることがある。この空搬送の間に、基材表面に余剰に付着している電荷物質を有する液が基材の上部から下部へと流れるため、搬送速度や空搬送距離によっては基材上部が乾燥し、余剰に付着した電荷物質が基材に付着することで膜厚ムラが発生する可能性がある。空搬送時に同一の液をかける工程を行うことにより、この膜厚ムラの発生を防止することができる。なお上記の流出する電荷物質を有する液を回収するために浸漬処理工程の前後に回収槽を設けることが、その液及び洗浄液の再利用の上で好ましい。浸漬処理工程の直後にリンス工程を実施することによっても基材上部の乾燥による膜厚ムラを防止することも可能であるが、この場合、浸漬工程において基材出口部から流出する電荷物質を有する液とリンス液が混ざるため、電荷物質を有する液を回収して再利用に際し、濃度調整等が必要になり、場合によっては、再利用せず、新たな液を供給使用することとなる。
【0034】
本発明においては、前述のような正電荷物質を含む液への浸漬工程および負電荷物質を含む液への浸漬処理工程、さらに必要に応じて 浸漬処理工程で使用した液と同一の液をかける工程及びリンス工程を、必要分繰り返した後乾燥を実施する。乾燥は、各リンス工程後に適宜行っても良い。最後の乾燥後は、交互積層膜が形成された基材をロール状に巻き取ることが好ましい。
【0035】
本発明の製造工程において、正電荷物質を含む液及び負電荷物質を含む液の種類は、各1種類に限定されるものではなく、上述したように得られる交互積層膜の用途・機能に応じて複数種類のものが用いられてもよい。したがって、このような正電荷物質を含む液への浸漬処理工程および負電荷物質を含む液への浸漬処理工程を行うための装置の数は、得られる交互積層膜に必要とされる機能・用途に応じて適宜変えられる。
【0036】
また、交互積層膜の積層回数は得られる交互積層膜に必要とされる機能・用途に応じて数十から数百となる場合がある。このような積層回数に見合った工程を行うだけの設備を用意することが困難な場合は、基材の巻き出しから巻取りまでの積層工程を数回から数十回にわたって繰り返すことにより、必要積層数を得ることもできる。
本発明よれば、基材の両面に同時に交互積層膜を形成することができるが、一方の面に極性基を存在させていない基材、たとえば、それ自身一方の面に極性基が存在しない基材、基材の一方の面に剥離可能性で表面に極性基を有しない保護フィルムを貼着するなどした基材などを使用することにより、片面にのみ交互積層膜を形成することも可能である。
【0037】
(交互積層膜の製造装置)
前述のような交互積層膜を製造するための装置について説明する。図1は、本発明に係る交互積層膜製造装置の一例を示す斜視図、図2はその平面図、図3はその正面図である。
【0038】
上記の装置は、ロール状に巻かれた条状又は帯状の基材を水平方向に伸ばし、基材の面を垂直に立てて搬送し、正電荷物質を含む液と負電荷物質を含む液への浸漬をそれぞれ1回づつ実施しロール状に巻取る装置である。本装置では、図1〜3に示すように、ロール状の基材1を保持し、巻き出すための基材巻き出し部2、交互積層膜が積層された基材1を巻き取り保持するための基材巻取り部3、及び、基材巻き出し部2と基材巻取り部3のあいだに位置し、基材1上に交互積層膜を形成するための加工部4とから構成されている。基材巻き出し部2は、ロール状の基材4を連続的に送り出すものであり、巻取り部3は、交互積層膜が形成された基材4を連続的にロール状に巻き取るものである。
【0039】
巻き出し部2は、ロール状に巻かれた基材1の面を垂直に立てて水平に送り出すためのアンコイラー21が設けられている。アンコイラー21と加工部4との間には、アンコイラー21から送り出された条状又は帯状の基材を一定の位置に送り出すための入口ロール22が設けられている。入口ロール12を過ぎた基材は、加工部2へ導入される。
【0040】
巻取り部3では、加工部4を通過して出てきた交互積層膜が形成された基材1が、それに誘導するための駆動ロール31を経てリコイラー32にロール状に巻き取って回収される。駆動ロール31は、交互積層膜が形成された基材1を一定の位置に保ちつつ、所定の速度でリコイラー3に送る役目を担っている。
本実施形態において、入り口ロール22及び駆動ロール31は、基材1が壁に接触することなく加工部2の複数のスリット状開口部を通過するように基材1を誘導案内する役目を担っている。
【0041】
加工部4では、第1浸漬工程槽410、第1リンス工程槽500、第2浸漬工程槽710、第2リンス工程槽800及び乾燥工程槽900が順次連なっている。
第1浸漬工程槽410では、回収槽411、正電荷物質又は負電荷物質を含む液が収容される浸漬処理槽412及び回収槽413が順次連なっており、第1リンス工程槽500では第1リンス槽510、第2リンス槽520及び第3リンス槽530が順次連なっている。第2浸漬工程槽710では、回収槽711、浸漬処理槽412に収容される液に含まれる電荷物質と反対電荷を有する電荷物質を含む液が収容される浸漬処理槽712及び回収槽713が順次連なっている。第2リンス工程槽800では第1リンス槽810、第2リンス槽820及び第3リンス槽830が順次連なっている。
上記の各槽において、それを介して槽が隣り合っている壁には、垂直に立てて搬送される基材が通過するための縦長のスリット状開口部が設けられている。回収槽411及びエアーナイフ乾燥槽900の隣接する槽が存在しない側の壁にも垂直に立てて搬送される基材1が通過するための縦長のスリット状開口部が設けられている。
【0042】
第1及び第2の浸漬工程槽において、浸漬処理槽412及び浸漬処理槽712の前後に配置される回収槽411、413、711及び713は、浸漬処理槽に設けられたスリット状開口部から流出する電荷物質を含む液を回収するための槽である。
【0043】
第1及び第2リンス工程槽の合計6個のリンス槽510、520、530、810、820及び830は、ノズルによりリンス液を噴出し、立てて搬送された基材にリンス液をかけることでリンスを実施するようになっている。リンス方法は、電荷物質を含む液と同様に、リンス液に浸漬する方法で実施しても良く、直接基材に触れるなど、基材や積層膜にダメージを与えない方法であれば特に限定されない。浸漬する方法により行うときには、前記の浸漬処理槽のための回収槽と同様の回収槽をリンス槽の前後に設けることとなる。
【0044】
乾燥工程槽900は交互積層膜が形成された基材1を乾燥するためのものである。
【0045】
このように、本実施形態による交互積層膜製造装置は、交互積層膜を形成する対象物であるロール状に巻かれた基材を垂直に立てて長手方向に搬送することにより、効率的に基材上に交互積層膜を形成することができる。さらには、加工部4において搬送ロールを必要としないことから、搬送ロール接触による交互積層膜の破壊やロール駆動部からの発塵による液の汚染といった問題が発生しない。
【0046】
次に、本実施形態による交互積層膜製造装置の各構成要素についてさらに詳述する。
(1)基材巻き出し部2
アンコイラー21は、ロール状に巻かれた条状又は帯状の基材1をその面が垂直になるように立てて保持しつつ長手方向に送り出し、基材1は、入口ロール22を経て、加工部2に導入される。入口ロール22は基材1の巻き径が変化しても基材1のパスラインを一定に保つためのロールであり、基材1が加工部4の複数のスリット状開口部のほぼ中心を通過するようにセットされている。基材巻き出し部2には、アンコイラー21と入口ロール22の間に張力を一定に保つためのアキューム装置を設けてもよい。
【0047】
(2)加工部4
(a)浸漬工程槽
図4は第1浸漬工程槽410の平面図、図5は第1浸漬工程槽410の正面図である。図6は図5のC−C断面図、図7は図4のD−D断面図である。これらは、図3のA部に対応する。
第1浸漬工程槽410は、底板421、側壁422、423、前方壁424及び後方壁425により構成され、二つのしきり壁426、427により3槽に区切られており、前方から順に回収槽411、浸漬処理槽412、回収槽413が隣接して一つの浸漬工程槽を形成している。
浸漬処理槽412は、基材1に電荷物質を吸着させるために、電荷物質を含む液に浸漬するための槽であり、槽内には電荷物質を有する液が収容される。
基材1が最初に通過する回収槽411の前方壁424、回収槽411と浸漬処理槽412で共有するしきり壁426、浸漬処理槽411と回収槽413で共有するしきり壁427及び回収槽413の後方壁425には、それぞれ、垂直に立てた基材1が通過するための縦長のスリット状開口部431、432、433、434が順次設けられている。
浸漬処理槽412に収容された電荷物質を含む液は、スリット状開口部432及び433から放物線状に絶えず流出する。回収槽411、413に流出した液は、排出口441,442から排出される。浸漬処理槽411から回収槽411、413に放射状に流出する液は、その大部分が直接排出口に441,442に流入するように配置することが好ましい。また、回収槽411、413に流出した液が別のスリット状開口部431、434からさらに流出しないようにスリット状開口部の高さ、回収槽の長さ等が調整されることが好ましい。
浸漬処理槽412から流出する電荷物質を含む液を回収し、第一リンス槽510への液持ち込みを少なくするために、回収槽411、413のサイズは、搬送方向で電荷物質を含む液の流出距離より長くすることが好まし。例えば、スリット状開口部522、523の長さが150mm程度であれば、回収槽411、413の長さは搬送方向に対して150mm程度であることが好ましく、スリット状開口部432、433の長さが300mm程度であれば、回収槽411、413の長さは搬送方向で250mm程度であることが好ましい。
浸漬処理槽412からは電荷物質を含む液が絶えず流出するため、浸漬処理槽412の槽内に電荷物質を含む液を十分な量だけ常に収容するためには流出する分の液を補充する必要がある。本装置においては、液供給システムにより、それが行われる。液供給システムは、タンク451に溜めておいた液を送液ポンプ452により送液配管453を介して、浸漬処理槽412の底部に設けられたノズル454の排出口455から浸漬処理槽412に送液する構造になっている。
送液を続けるためにはタンク451に液を補充する必要があり、このために前もって調製した電荷物質を含む液を絶えず補充するようにしてもよいが、本装置においては、回収槽411、413に流出した液を排出口441、442に接続されている回収配管456、457を介してタンク451に送液することで液を回収して補充し、送液ポンプ452によって循環させる構造になっている。
【0048】
浸漬処理槽412のスリット状開口部432,433においては、液の流出を低減するために流出する隙間が少ないことが好ましいが、前述したとおり交互積層膜は比較的耐スクラッチ性に劣ることから、形成した交互積層膜の破壊防止のためにスリット状開口部432、433での接触を抑制することが好ましい。そのための構造を図面を用いて説明する。
図8は図4のE−E断面図、図9は図4のF−F断面図である。図10(a)は浸漬処理槽を液で満たした場合の図8のG−G断面図(浸漬処理槽開口部付近)、図10(b)は図8に対応した平面図である。
浸漬処理槽412のしきり壁426には、縦長のスリット状開口部432が設けられている。縦長のスリット状開口部432は、しきり壁426の最下部まで開口していてもよいが、必ずしもその必要性はなく、適当な高さの位置、例えば20〜100mm程度の位置で開口されている。
スリット状開口部432付近には、それに平行して直立するように2本の柱状部材461、462が支持部材470、480により支えられている。支持部材470は、スリット状開口部432の下部又は下方に、前板471,側板472、473と底板474により囲むようにしきり壁426に取り付けられている。支持部材480はスリット状開口部432の上部に前板481及び側板482、483で上下に開通して囲むようにしきり壁426に取り付けられている。2本の柱状部材461、462は支持部材480から支持部材470の底板474に至るように挿入されている。そして、2本の柱状部材461と462が接触しないように棒状のスぺーサ475、485により隔離されている。スペーサ475は前板471にスリット状開口部432に対向するように、スペーサ485は前板481にスリット状開口部432に対向するように、支持されている。両者は同一形状であっても異なった形状でもよい。各柱状部材461、462は完全には固定されておらず、前板471、481、側板472、473、482、483、底板474及びスペーサ475、485で制限された範囲でフリーな状態となっている。スペーサ475、485の位置は、スリット状開口部の平面図による中心に対向しており、この中心線にほぼ沿って基材1が通過したときにも、基材1と柱状部材461と462が接触しないように十分な幅を有するスペーサ475、485が使用される。浸漬処理槽412内に液が収容されると液圧により、柱状部材461、462がしきり壁426およびスペーサ475、485に押し付けられてスペーサと同じ幅のスリットが形成され、液の流出を低減することができる。
例えば、スリット状開口部432のスリット幅を10mm、スペーサ475、485の幅を1mmとし、柱状部材461、462は、直径10mmのガラス丸棒を用いている。前板471、481としきり壁426との間隔は12mm、スペーサ475、485と側板472,482の間隔、スペーサ475、485と側板473、483の間隔も12mmとしている。
交互積層膜を形成する基材の厚みにもよるが、厚みが100μm程度であれば、スペーサによって形成されるスリット幅は0.5〜2mmであることが好ましい。このスリット幅が狭すぎると基材4と柱状部材461、462とが接触し、形成した交互積層膜が破壊される可能性があり、広すぎるとスリット部からの液流出が多くなるため、送液ポンプ452の容量も大きなものが必要となり、また、回収槽411、413のサイズを大きくすることが必要になることがある。
【0049】
本発明における柱状部材は、外形が同様の筒状部材を包含する。本発明における柱状部材の断面形状は円形、楕円形、四角形、五角形等の多角形などがあるが、基材や形成した積層膜に傷が発生することを抑制するためには、鋭角な部分が無く、液の流出の乱れが少ないと考えられる円形又は楕円形が好ましい。また、柱状部材は、電荷物質を有する液によって影響を受けない材質で液圧によって破損することがなく、反りの発生が少ないものが好ましい。例えば、ガラス、ステンレス等の金属が挙げられる。スペーサとしては、ステンレス等の金属性の棒や板、ポリプロピレン、PVC等の樹脂製の板や棒などがあり、電荷物質を含む液によって影響を受けない材質がよい。
【0050】
基材が通過するスリットの形成方法としては、浸漬処理槽412内の壁426に直接柱状部材461、462を固定する方法もある。この他にも柱状部材の上端と下端をその中間よりも大きくする構造がある。この場合、柱状部材の中間部のサイズの小さい部分は浸漬処理槽412の壁426と接触しないため、壁426と柱状部材の間に隙間が発生し液の流出が増加する。この流出を抑制するために柱状部材の中間部と壁426の隙間に板状の部材を挟み込む等により隙間を低減することが好ましい。
壁427のスリット開口部433付近にも上記と同様の柱状部材、支持部材及びスペーサが設置される。
【0051】
回収槽413においては、タンク451に溜められた浸漬処理で使用する液と同一の電荷物質を有する液が配管453とこれから分岐する配管491、さらにこれから分岐する送液配管492、493を通してノズル494、495に供給され、基材1上方から噴きかけて、基材1の搬送過程における基材1上部の乾燥を防止し、膜厚ムラの発生を防止するようになっている。図11に本装置で使用する液噴きかけ用ノズルの一例を斜視図で示す。送液配管492又は493にポリ塩化ビニルの配管部材496が水平に接続され、これに水平にスリット状の開口497を設けてカーテン状に電荷物質を有する液を噴出することで、基材上部から下部にかけて液を流すことにより乾燥防止を図ることができる。上記ノズルは、スリット状の開口を設けたポリ塩化ビニル製の配管継手チーズの両端を塞ぎ、配管パイプと組み合わせることで作製することができるが、材質は電荷物質を含む液やリンス液によって影響を受けない材質であれば特に限定されない。また、ノズル形状は、形成した交互積層膜にダメージを与える等の問題が発生しなければ特に限定されない。
【0052】
第2浸漬工程槽710の構成は、第1浸漬工程槽410と同様である。浸漬処理槽712は、基材4に電荷物質を吸着させるために、電荷物質を有する液に浸漬するための槽であり、浸漬処理槽412に収容される液中の電荷物質と反対電荷の電荷物質を含む液が収容される。浸漬処理槽712の前後には回収槽711、713が隣接している。回収槽711、浸漬処理槽712及び回収槽713の構成は前記した回収槽411、浸漬処理槽412及び回収槽413の構成と同様である。ただし、回収槽711の浸漬処理槽712と反対側は、第1リンス工程槽の第3リンス槽530と隣接する点が、回収槽411には対応する隣接槽がない点で異なるが、この点の詳細は下記の記載から明らかである。
また、第2浸漬工程槽710における液供給システムは、第1浸漬工程槽410における液供給システムと同様である。なお、第2浸漬工程槽710における液供給システムにおけるタンク751、送液ポンプ752、配管753、配管756及び配管757は、それぞれ、第1浸漬工程槽410における液供給システムにおけるタンク451、送液ポンプ452、配管453、配管456及び配管457に対応している。
【0053】
(b)リンス工程槽
本装置における第1リンス工程槽500は第1リンス槽510、第2リンス槽520及び第3リンス槽530の三槽一組、第2リンス工程槽800は第1リンス槽810、第2リンス槽820及び第3リンス槽830の三槽一組からなる。どちらの構成も同様であるので、第1リンス工程槽500について説明する。
図12は第1リンス槽221を含む前後の平面図、図13はそれの正面図である。図14は図13のH−H断面図、図15は図12のI−I断面図、図16は図12のJ−J断面図である。これらは、図3のB部に対応する。
第1リンス工程槽500は、前記した浸漬工程槽410のように底板、側壁、前方壁及び後方壁により構成され、二つのしきり壁により3槽に区切られている。すなわち、第1リンス工程槽22は、底板611、側壁612、613、前方壁614及び後方壁(図示せず)により構成され、しきり壁616ともう一つのしきり壁(図示せず)により3槽に区切られており、前方から順に第1リンス槽510、第2リンス槽520、第3リンス槽530が連なっている。
第1リンス槽510、第2リンス槽520及び第3リンス槽530は互いに隣接する槽の間でしきり壁を共有している。それらの壁には、基材1が通過するためのスリット状開口部が浸漬処理槽におけるのと同様に形成されている。第1リンス槽510のもう一方の対向する前方壁614には、その隣接する回収槽413の壁(後方壁425)と接しており、スリット状開口部がちょうど重なるように構成されている。
第1リンス槽510には、基材1にリンス液を噴きかけるためのリンス液噴霧システムが組み込まれている。リンス液噴霧システムは、タンク511に溜めておいた液を送液ポンプ512により送液配管513及びそれに接続する分岐配管514、515を介して、第1リンス槽510の上部に設けられたノズル516、517からリンス液を噴射するようになっている。噴射されたリンス液は、第1リンス槽510の底部の排出口518から送液配管519によりタンク511に送液する構造になっている。
ノズル516、517は、前述の浸漬処理の後に実施する液噴きかけ用ノズルと同様なスリット状の開口を設けた構造をしたノズルがセットされている。
第2リンス槽520及び第3リンス槽530はそれぞれ、第1リンス槽510と同様に構成される。また、第2リンス槽520におけるリンス液噴霧システム及び第3リンス槽530のリンス液噴霧システムは、それぞれ、第1リンス槽510におけるリンス液噴霧システムと同様に構成される。
第1リンス槽510におけるタンク511、送液ポンプ512、送液配管513及び送液配管519は、それぞれ、第2リンス槽520のタンク521、送液ポンプ522、送液配管523及び送液配管529、第3リンス槽530のタンク531、送液ポンプ532、送液配管533及び送液配管539に対応している。
【0054】
(c)反対電荷の吸着
次いで、浸漬工程槽410において基材1に吸着させた電荷物質と反対電荷を有する電化物質を浸漬工程槽710で吸着させることにより正電荷を有する物質と負電荷を有する物質を1層ずつ積層することが可能となる。
【0055】
(d)乾燥工程槽900
乾燥工程槽900は、たとえば、エアーナイフ乾燥槽を採用することができ、これは1対のエアーナイフが基材1を挟むように配置して設けられ、ブロア(図示せず)により空気を送風することで基材1に形成された交互積層膜を乾燥する。乾燥方法は、熱風や超乾燥空気を使用しても良く、形成された交互積層膜が破壊される等の問題が発生しない方法であれば特に限定されない。
【0056】
上記加工部4において、一つの浸漬工程槽及び一つのリンス工程槽を一組として、二組の繰り返しを有するが、適宜この組を増設することができる。この場合、組数は複数組にするのが交互積層膜を作製する上で好ましい。
【0057】
(3)巻取り部3
駆動ロール31は、加工部2において交互積層膜が形成された基材1をリコイラー32に送るものである。リコイラー32はそれ自体、一定の速度で回転するよう制御できる機構を有している。リコイラー32は、基材1が加工部2の各スリット状開口部の中心を通過するようにセットされ、基材1のパスラインを一定としている。リコイラー32は、駆動ロール31より垂直に立てて送られた基材1をロール状に巻き取って回収するものである。
【0058】
本実施態様においては、正電荷物質を有する液への浸漬と負電荷物質を有する液への浸漬をそれぞれ1回ずつ実施することで、正電荷物質と負電荷物質を1層ずつ積層する装置構成となっている。交互積層膜が必要とする膜厚を得るために、複数回積層する必要がある場合には、巻き出しから巻取りまでの処理を必要とする膜厚となるまで繰り返し実施する必要がある。また、本実施態様においては、浸漬処理工程槽とリンス工程槽をさらに増設することにより、上記の繰り返し回数を低減することができることはいうまでもない。
【0059】
正電荷物質を含む液として、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロリド(PDDA、平均分子量100000、アルドリッチ製)水溶液、シリカ微粒子分散水溶液(ST−PS−S、日産化学製、コロイダルシリカ、スノーテックスPS−S、平均粒子径20nm)を用いた。基材として、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡績株式会社製、150mm×10000mm×125μm厚)を用いた。
【0060】
図1〜3に示すような装置において、タンク451に0.3重量%のPDDA水溶液をタンク751に0.3重量%のST−PS−S水溶液と溜めておき、浸漬処理槽412および712に送液することで、浸漬処理槽内を液で満たした状態とした。浸漬処理槽内からその前後の回収槽に流出する液は、タンクに回収され循環使用される。
帯状のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(基材1)をロール状に巻いたものを垂直に立てて巻き出し部2から加工部2の各スリット状開口部を通して、巻取り部3に搬送し巻き取る間に、PDDA水溶液への浸漬処理とST−PS−S水溶液への浸漬処理を実施することで交互積層膜を形成した。
まず、浸漬工程槽410においてPDDAの膜を基材1に形成した。基材1は、回収槽411を通過後浸漬処理槽412でPDDA水溶液への浸漬処理に供され、回収槽413で乾燥防止のためにノズル494、495によりPDDA水溶液を基材の上方及び上部から噴きかけられた。次に、リンス工程槽500にて基材1はその上方及び上部からノズルによりリンス用の超純水(18MΩ)を噴きかけられるリンス工程にリンス槽510、520,530の3槽により3回供された。
次に、浸漬工程槽710において、浸漬工程槽410と同様にして、ST−PS−S膜が基材1のPDDAの膜の上に形成された。水溶液への浸漬処理、乾燥防止のための液噴きかけ、引き続く超純水によるリンス工程は上記と同様である。加工部4における最後の工程は、乾燥工程槽900による乾燥工程である。乾燥工程槽900は、垂直に立てて搬送された基材1を挟むように1対のエアーナイフを立てて配置し、ブロアでエアーを送風することにより乾燥を行う機構のものとした。加工部4を通過した基材1は、巻き取り部3により、ロール状に巻き取られた。この巻き出しから巻取りまでの作業を4回繰り返し、PDDA膜とST−PS−S膜が交互にそれぞれ4層積層された交互積層膜を形成した。形成された交互積層膜は、目視で確認できる外観ムラ及び傷の発生がなった。
【0061】
上記において加工部4の全長は2000mm程度であり、幅150mm、高さ250mmとした。
浸漬処理槽412および712は、搬送方向に対して長さ100mm、回収槽411、413、711、713は、搬送方向に対して長さ150mmとした。
各層のスリット開口部は、それが設けられる壁の中央(平面図)に、その上端から長さ200mmで幅10mmとした。浸漬処理槽412および712のスリット開口部に配置する柱状部材として、直径10mmのガラス丸棒を使用し、スペーサとしては0.9mmのステンレス棒を使用した。
回収槽413及び713の液噴きかけ用ノズル並びにリンス槽510、520、530、810、820、830のリンス用ノズルとして、図11に示すようなノズルでそのスリット長さを50mmのものを用いた。ノズルスリットの噴出し口は、フィルム上端から3mm程度高く、フィルムから20mm程度離れた位置に配置した。
基材1(PETフィルム)は、0.2m/分の速度で搬送し、各浸漬処理槽での基材が浸漬されている時間を30秒とした。
浸漬処理槽412を電荷物質を含む液(PDDA又はST−PS−S)で満たすために補充するために50〜60リットル/分の流速で送液可能なポンプを用い、浸漬処理後の液噴きかけは、10〜20リットル/分の流速で送液可能なポンプを用いた。また、リンス液を循環し、噴きかけるために、10〜20リットル/分の流速で送液可能なポンプを用いた。
乾燥槽の長さは150mmとし、1対のエアーナイフをフィルムの良サイドに配置し、ブロアにより空気を送風することで乾燥を行った。
【0062】
比較例1
ロール状のPETフィルムを垂直に立てて巻き出し部から巻取り部に搬送し巻き取る間に、0.3重量%のPDDA水溶液および0.3重量%のST−PS−S水溶液をフィルム上部から噴きかけることで交互積層膜を形成した。まず、PDDA水溶液を図11のノズルを用いてフィルム上部から噴きかけ、次に、フィルム上部からノズルによりリンス用の超純水(18MΩ)を噴きかけるリンス工程を3回実施した。同様に、ST−PS−S水溶液の噴きかけ、リンスを実施し、1対のエアーナイフにより乾燥を行いロール状に巻き取った。この巻き出しから巻取りまでの作業を4回繰り返し、PDDAとST−PS−Sがそれぞれ4層積層された交互積層膜を形成した。形成された交互積層膜には、目視で確認できる斑点状の外観ムラが発生した。
【0063】
比較例2
ロール状のPETフィルムを横にしてウレタン製の搬送ロールにフィルムを接触させながら巻き出し部から巻取り部に搬送する。搬送路には、0.3重量%のPDDA水溶液が溜められた容器、0.3重量%のST−PS−S水溶液及びリンス用の超純水(18MΩ)が溜められた容器が溜められた容器を配置し、搬送ロールによりフィルムを各容器内にフ送ることで浸漬させて交互積層膜を形成した。まず、巻き出したフィルムを搬送ロールによりPDDA水溶液を溜めた容器内に送り浸漬させ、次に、超純水を溜めた容器に送り浸漬させるリンス工程を3回実施した。同様にして、ST−PS−S水溶液への浸漬及びリンスを実施し、1対のエアーナイフにより乾燥を行いロール状に巻き取った。この巻き出しから巻取りまでの作業を4回繰り返し、PDDAとST−PS−Sがそれぞれ4層積層された交互積層膜を形成した。形成された交互積層膜には、目視で確認できる点状の凹みが発生した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明おける交互積層膜は、反射防止膜などの各種電子機器のディスプレイ用の光学素子、種々のセンサやフィルタなどを量産する際に利用可能な技術である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明に係る交互積層膜製造装置の一例を示す斜視図。
【図2】図1の交互積層膜製造装置の平面図。
【図3】図1の交互積層膜製造装置の正面図。
【図4】図1の浸漬処理槽前後の平面図。
【図5】図1の浸漬処理槽前後の正面図。
【図6】図5のC−C断面図。
【図7】図4のD−D断面図。
【図8】図4のE−E断面図。
【図9】図4のF−F断面図。
【図10】浸漬処理槽開口部付近の断面図及び平面図。
【図11】ノズルの一例を示す斜視図。
【図12】第1リンス槽前後の平面図。
【図13】第1リンス槽前後の正面図。
【図14】図13のH−H断面図。
【図15】図12のI−I断面図。
【図16】図12のJ−J断面図。
【符号の説明】
【0066】
1・・・基材
2・・・巻き出し部
3・・・巻取り部
4・・・加工部
21・・・アンコイラー
22・・・入口ロール
31・・・駆動ロール
32・・・リコイラー
410・・・第1浸漬工程槽
411・・・回収槽
412・・・浸漬処理槽
413・・・回収槽
432・・・スリット状開口部
451・・・タンク
454・・・浸漬処理槽412の底部に設けられたノズル
461,462・・・柱状部材
470・・・支持部材
475・・・スペーサ
480・・・支持部材
485・・・スペーサ
494、495・・・液ふきかけようのノズル
500・・・第1リンス工程槽
510・・・第1リンス槽
511・・・タンク
516、517・・・ノズル
520・・・第2リンス槽
521・・・タンク
530・・・第3リンス槽
531・・・タンク
710・・・第2浸漬工程槽
711・・・回収槽
712・・・浸漬処理槽
713・・・回収槽
751・・・タンク
800・・・第2リンス工程槽
810・・・第1リンス槽
811・・・タンク
820・・・第2リンス槽
821・・・タンク
830・・・第3リンス槽
831・・・タンク


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正電荷を有する物質と負電荷を有する物質とを基材に交互に積層する交互積層膜の製造方法において、基材を垂直に立てて水平方向に搬送しつつ、該基材を前記正電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程と該基材を前記負電荷を有する物質を含む液に浸漬する浸漬処理工程をそれぞれ、所定回数行うことを特徴とする交互積層膜の製造方法。
【請求項2】
各浸漬処理工程のそれぞれの後に、基材を洗浄するリンス工程を含む請求項1記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項3】
各浸漬処理工程のそれぞれの後に、それぞれの浸漬処理工程で使用したのと同一の液を基材にその上部又は上方からかける工程を含む請求項1記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項4】
各浸漬処理工程のそれぞれの後であって、各浸漬処理工程後のリンス工程の前に、それぞれの浸漬処理工程で使用したのと同一の液を基材にその上部又は上方からかける工程を含む請求項2記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項5】
各浸漬処理工程を、前記正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質を含む液を収容した槽を、その槽に設けられた開口部から進入してその槽に設けられた別の開口部から退出するように、垂直に立てた基材を通過させることによって行う請求項1〜4のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項6】
各開口部が垂直方向に設けられたスリット状の開口である請求項5記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項7】
各槽の各開口部において、前記開口部の槽内側近傍に1対の柱状部材を隔離して配置し、この1対の柱状部材の間を基材に通過させる請求項5又は6記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項8】
1対の柱状部材を隔離するための構造が、その上部と下部にスペーサを挟み込むことにより柱状部材を隔離する構造である請求項8記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項9】
浸漬処理工程において、基材を浸漬されるための前記正電荷を有する物質又は負電荷を有する物質を含む液を循環使用する請求項1〜8のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項10】
基材の搬送が、最初の工程の前におけるロール状基材を巻き出し、最後の工程の通過後の基材をロール状に巻き取ることにより行われる請求項1〜9のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項11】
基材が、フィルム又は繊維材料の織布又は不織布である請求項1〜10のいずれかに記載の交互積層膜の製造方法。
【請求項12】
壁にフィルム状又はシート状の基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、正又は負の電荷を有する物質を含む液を収容又は導入するための浸漬処理槽を含み、基材が通過可能な浸漬工程槽を備えてなる交互積層膜製造装置。
【請求項13】
浸漬工程槽を複数個有する請求項12記載の交互積層膜製造装置。
【請求項14】
壁に浸漬工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、洗浄液を収容又は導入するためのリンス工程槽を備えてなる請求項12又は13記載の交互積層膜製造装置。
【請求項15】
最後のリンス工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、乾燥機構を備える乾燥工程槽備えてなる請求項14記載の交互積層膜製造装置。
【請求項16】
垂直に立てられ、ロール状に巻回されているフィルム状又はシート状の基材を保持し、巻き出すことができる基材保持部材、
垂直に立てられ、巻き出された保持部材を浸漬工程槽に誘導するための案内ロール、
最後の槽を通過した基材を誘導する案内ロール
及び
案内ロールにより案内された基材を巻き取るための垂直に立てられた巻き取りロール
を備えてなる請求項12〜15のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
【請求項17】
巻き出された保持部材を浸漬工程槽に誘導するための案内ロール及び最後の槽を通過した基材を誘導する案内ロールによって、案内される基材が一直線上を移動可能なように、浸漬工程槽、リンス工程槽及び乾燥工程槽のスリット状開口部の位置を調節して各槽を配列してなる請求項16記載の交互積層膜製造装置。
【請求項18】
浸漬工程槽が浸漬処理槽のみからなる請求項12〜17のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
【請求項19】
浸漬工程槽が、浸漬処理槽の直前又は直後に、その基材が進入又は退出するためのスリット状開口部から流出する浸漬液を受けるための回収槽を有する請求項12〜17のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
【請求項20】
浸漬処理槽の各開口部において、該開口部の槽内側近傍に1対の柱状部材を隔離して配置し、この1対の柱状部材の間を基材に通過させる構造としてなる請求項18又は19記載の交互積層膜製造装置。
【請求項21】
1対の柱状部材を隔離するための構造が、その上部と下部にスペーサを挟み込むことにより柱状部材を隔離する構造である請求項20記載の交互積層膜製造装置。
【請求項22】
浸漬工程槽直後の回収槽が浸漬液を基材にその上部又は上方からかける機構を有する請求項19記載の交互積層膜製造装置。
【請求項23】
回収槽の底面又は側面に浸漬液の排出口を有する請求項19又は22記載の交互積層膜製造装置。
【請求項24】
回収槽の排出口から排出された浸漬液を浸漬処理槽に循環させる機構を有する請求項23記載の交互積層膜製造装置。
【請求項25】
リンス工程槽が壁に浸漬工程槽を通過した基材が進入するための垂直に設けられたスリット状開口部及びその基材が退出するための垂直に設けられたスリット状開口部を有し、洗浄液を収容又は導入するためのリンス槽が1槽からなるか又は複数槽連ねてなるものである請求項12〜24のいずれかに記載の交互積層膜製造装置。
【請求項26】
リンス槽がその底面又は側面に洗浄液の排出口を備えてなるものである請求項25記載の交互積層膜製造装置。
【請求項27】
リンス槽の排出口から排出された洗浄液をリンス槽に循環させる機構を有する請求項26記載の交互積層膜製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−152247(P2007−152247A)
【公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−352116(P2005−352116)
【出願日】平成17年12月6日(2005.12.6)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】