説明

代謝調節型グルタミン酸受容体(MGLURS)の調節因子としてのテトラゾール誘導体

本発明は、式(I)、式中、R1は下記の通りである、の化合物、mGluR5受容体媒介障害の治療のための薬剤を製造するためのそれらの使用に関する。
【化1】


【化2】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物、治療におけるそれらの使用及び該新規化合物を含む医薬組成物を対象とする。
【背景技術】
【0002】
グルタミン酸は、哺乳動物中枢神経系(CNS)における主要な興奮性神経伝達物質である。グルタミン酸は、中枢ニューロンに対するその効果を、細胞表面受容体に結合し、そしてそれによって活性化することにより発揮する。これらの受容体は、受容体タンパク質の構造特性、受容体が細胞中へシグナルを伝達する手段、及び薬理学的特性に基づいて、イオンチャンネル型及び代謝調節型グルタミン酸受容体の2つの主要なクラスに分けられている。
【0003】
代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)は、グルタミン酸の結合後の様々な細胞内セカンドメッセンジャー系を活性化するGタンパク質結合受容体である。インタクト哺乳動物ニューロンにおけるmGluRの活性化は、1つ又はそれ以上の以下の反応を誘導する:ホスホリパーゼCの活性化;ホスホイノシチド(PI)加水分解の増加;細胞内カルシウム放出;ホスホリパーゼDの活性化;アデニルシクラーゼの活性化又は阻害;環状アデノシン一リン酸(cAMP)の形成増加又は減少;グアニリルシクラーゼの活性化;環状グアノシン一リン酸(cGMP)の形成増加;ホスホリパーゼA2の活性化;アラキドン酸放出の増加;並びに電位及びリガンド依存性イオンチャンネルの活性増加又は減少。非特許文献1、2、3、4。
【0004】
分子クローニングにより、mGluR1からmGluR8まで命名された8つの異なるmGluRサブタイプが同定されている。非特許文献5、3、6。更なる受容体多様性は、特定のmGluRサブタイプの選択的スプライシング型の発現を経由して起こる。非特許文献7、8、9。
【0005】
代謝調節型グルタミン酸受容体サブタイプは、アミノ酸配列相同性、受容体によって利用されるセカンドメッセンジャー系に基づいて、及びそれらの薬理学的特性によって、I群、II群、及びIII群mGluRの3群に細分することができる。I群mGluRは、mGluR1、mGluR5及びそれらの選択的スプライシング変異体を含む。これらの受容体へのアゴニストの結合は、ホスホリパーゼCの活性化及び細胞内カルシウムのその後の可動化をもたらす。
【0006】
神経障害、精神障害及び疼痛性疾患
I群mGluRの生理的役割を解明する試みは、これらの受容体の活性化が神経興奮を誘導することを示唆する。種々の研究の結果は、I群mGluRアゴニストが、海馬、大脳皮質、小脳、及び視床、並びに他のCNS領域のニューロンに適用時にシナプス後興奮を引き起こし得ることを示している。この興奮がシナプス後mGluRの直接活性化に因ることを明示しているが、シナプス前mGluRの活性化が起こって、神経伝達物質放出の増加をもたらすことも示唆されている。非特許文献10、2、3、11。
【0007】
代謝調節型グルタミン酸受容体は、哺乳動物CNSにおける多数の正常過程に関与している。mGluRの活性化が、海馬の長期増強及び小脳の長期抑圧の誘導に必要なことが示されている。非特許文献12、13、14、15。痛覚及び無痛覚におけるmGluR活性化の役割も実証されている。非特許文献16、17。加えて、mGluR活性化は、シナプス伝達、神経発達、アポトーシス性ニューロン死、シナプス可塑性、空間学習、嗅覚記憶、心臓活動の中枢調節、覚醒、運動調節及び前庭動眼反射の調節を含む様々な他の正常過程において調節性役割を果たしていることが示唆されている。非特許文献5、3、6。
【0008】
更に、I群代謝調節型グルタミン酸受容体及び特にmGluRは、CNSに影響を与える様々な病態生理学的過程及び障害において役割を果たすことが示唆されている。これらは、脳卒中、頭部外傷、酸素欠乏及び虚血性障害、低血糖症、てんかん、アルツハイマー病などの神経変性障害並びに疼痛を含む。非特許文献1、18、19、3、6、20、21、22。これらの病態における大部分の病状は、CNSニューロンの過剰グルタミン酸誘導興奮に因ると考えられている。I群mGluRは、シナプス後メカニズムを経由してグルタミン酸媒介神経興奮を増加させるように見え、そしてシナプス前グルタミン酸放出を増強させたことから、それらの活性化は恐らくその病状に寄与する。従って、I群mGluRの選択的アンタゴニストは、特に神経保護薬、鎮痛薬又は抗痙攣薬として治療上有益となり得る。
【0009】
一般的に代謝調節型グルタミン酸受容体、そして特にI群の神経生理学的役割の解明における最近の進歩は、これらの受容体を急性及び慢性神経及び精神障害並びに慢性及び急性疼痛性障害の治療における有望な薬剤標的として確立している。
【0010】
胃腸障害
下部食道括約筋(LES)は間欠的に弛緩しやすい。結果として、その時点で機械的バリアが一時的に失われることから、以後「逆流」と呼ばれる事象により胃液は食道を通過することができる。
【0011】
胃食道逆流疾患(GERD)は、最も一般的な上部消化管疾患である。最近の薬物療法は、胃酸分泌を低下させること、又は食道内の酸を中和することを目的としている。逆流での主要メカニズムは、低緊張性下部食道括約筋に依存すると考えられている。しかしながら、例えば、非特許文献23は、大部分の逆流エピソードが、一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)時、即ち、嚥下で誘発されない弛緩時に起こることを示している。胃酸分泌は、通常GERD患者で一般的なことも示されている。
【0012】
本発明に記載の新規化合物は、一過性下部食道括約筋弛緩(TLESR)の抑制、従って胃食道逆流疾患(GERD)の治療に有用と想定される。
【0013】
それらの生理学的及び病態生理学的重要性のため、mGluRサブタイプ、特にI群受容体サブタイプ、最も特別にはmGluR5に対して高選択性を示す新しい有効なmGluRアゴニスト及びアンタゴニストが必要とされている。また、反応性代謝物を導かず、そしてhERG相互作用を制限しているmGluR5アンタゴニストも必要とされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Schoepp et al., Trends Pharmacol. Sci. 14:13 (1993)
【非特許文献2】Schoepp, Neurochem. Int. 24:439 (1994)
【非特許文献3】Pin et al., Neuropharmacology 34:1 (1995)
【非特許文献4】Bordi and Ugolini, Prog. Neurobiol. 59:55 (1999)
【非特許文献5】Nakanishi, Neuron 13:1031 (1994)
【非特許文献6】Knopfel et al., J. Med. Chem. 38:1417 (1995)
【非特許文献7】Pin et al., PNAS 89:10331 (1992)
【非特許文献8】Minakami et al., BBRC 199:1136 (1994)
【非特許文献9】Joly et al., J. Neurosci. 15:3970 (1995)
【非特許文献10】Baskys, Trends Pharmacol. Sci. 15:92 (1992)
【非特許文献11】Watkins et al., Trends Pharmacol. Sci. 15:33 (1994)
【非特許文献12】Bashir et al., Nature 363:347 (1993)
【非特許文献13】Bortolotto et al., Nature 368:740 (1994)
【非特許文献14】Aiba et al., Cell 79:365 (1994)
【非特許文献15】Aiba et al., Cell 79:377 (1994)
【非特許文献16】Meller et al., Neuroreport 4: 879 (1993)
【非特許文献17】Bordi and Ugolini, Brain Res. 871:223 (1999)
【非特許文献18】Cunningham et al., Life Sci. 54:135 (1994)
【非特許文献19】Hollman et al., Ann. Rev. Neurosci. 17:31 (1994)
【非特許文献20】Spooren et al., Trends Pharmacol. Sci. 22:331 (2001)
【非特許文献21】Gasparini et al. Curr. Opin. Pharmacol. 2:43 (2002)
【非特許文献22】Neugebauer Pain 98:1 (2002)
【非特許文献23】Holloway & Dent (1990) Gastroenterol. Clin. N. Amer. 19, pp. 517-535
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、代謝調節型グルタミン酸受容体(mGluR)、特にmGluR5受容体において活性を示す化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、式I:
【化1】

式中、R1
【化2】

並びにそれらの薬学的に許容される塩、水和物、イソ型及び/又はエナンチオマーである;
の化合物を対象とする。1つの実施態様では、式Iの化合物はR−エナンチオマーである。別の実施態様では、式Iの化合物はS−エナンチオマーである。
【0017】
別の実施態様は、有効性成分として治療有効量の式Iの化合物を、1つ又はそれ以上の薬学的に許容される賦形剤、医薬品添加物及び/又は不活性担体と併せて含む医薬組成物である。
【0018】
以下に更に詳細に記載するように、他の実施態様は、治療において、mGluR5媒介障害の治療において、mGluR5媒介障害の治療のための薬剤の製造において使用される、式Iの化合物に関する。
【0019】
更に他の実施態様は、式Iの化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、mGluR5媒介障害の治療法に関する。
【0020】
別の実施態様では、式Iの化合物の有効量で該受容体を含有する細胞を処理することを含む、mGluR5受容体の活性化を阻害する方法を提供する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の化合物は、治療において、特に、神経障害、精神障害、疼痛性障害、及び胃腸障害の治療に有用である。
【0022】
本発明のある種の化合物は、また、溶媒和した形態で、例えば、水和した形態で、及び非溶媒和の形態で存在し得ることは、当業者に理解されるであろう。更に、本発明が、式Iの化合物の全てのその様な溶媒和形態を包含することは、理解されるであろう。
【0023】
式Iの化合物の塩も、また、本発明の範囲内である。一般的に、本発明の化合物の薬学的に許容される塩は、当該技術分野でよく知られた標準的手順を用いて、例えば、十分に塩基性の化合物、例えば、アルキルアミンを、好適な酸、例えば、HCl又は酢酸と反応させて、薬学的に許容されるアニオンを有する塩を得ることによって得られる。また、カルボン酸又はフェノールなどの好適に酸性のプロトンを有する本発明の化合物を、1当量のアルカリ金属又はアルカリ土類金属のヒドロキシド若しくはアルコキシド(エトキシド又はメトキシドなど)、又は好適に塩基性の有機アミン(コリン又はメグルミンなど)と水性媒体中で処理し、次いで、従来の精製技法で精製することにより、対応するアルカリ金属(ナトリウム、カリウム又はリチウムなど)又はアルカリ土類金属(カルシウムなど)塩を作ることも可能である。更に、第四級アンモニウム塩は、アルキル化剤を、例えば、中性アミンに添加することにより製造することができる。
【0024】
本発明の1つの実施態様において、式Iの化合物は、その薬学的に許容される塩又は溶媒和物、特に、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、メタンスルホン酸塩又はp−トルエンスルホン酸塩などの酸付加塩に転換することができる。
【0025】
本発明の更なる実施態様において、式Iの化合物は、スルホン酸、1,2−エタンジスルホン酸(1:1及び2:1の両者)、エタンスルホン酸、硝酸、2−メシチレンスルホン酸、1,5−ナフタレンジスルホン酸(1:1及び2:1の両者)又はp−キシレンスルホン酸を用いて、薬学的に許容されるその塩又は溶媒和物へ転換することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
医薬組成物
本発明の化合物は、式Iの化合物又は薬学的に許容されるその塩又は溶媒和物を、薬学的に許容される担体又は賦形物と合わせて含む、従来の医薬組成物に処方することができる。薬学的に許容される担体は、固体又は液体であってもよい。固体形態の製剤としては、粉剤、錠剤、分散性顆粒剤、カプセル、カシェ剤及び坐薬が挙げられるが、それらに限定されない。
【0027】
固体担体は、1つ又はそれ以上の物質であってもよく、それは、また、希釈剤、香味剤、溶解剤、滑沢剤、懸濁剤、結合剤、又は錠剤崩壊剤として作用してよい。固体担体は、また、カプセル化材であってもよい。
【0028】
粉剤においては、担体は微粉化した固体であり、それは、微粉化された本発明の化合物、又は活性成分との混合物である。錠剤においては、活性成分は好適な割合で必要な結合特性を有する担体と混合され、そして所望の形状とサイズに圧縮される。
【0029】
坐薬組成物を調製する場合は、脂肪酸グリセリド及びココアバターの混合物などの低融点ワックスを初めに溶融し、そして活性成分を、例えば、撹拌によりその中に分散させる。溶融した均一な混合物は、次いで都合のよいサイズの型に注入し、そして冷却し固体化する。
【0030】
好適な担体としては、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ラクトース、糖類、ペクチン、デキストリン、澱粉、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウム・カルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、ココアバターなどが挙げられるが、それらに限定されない。
【0031】
用語「組成物」は、また、活性成分と担体としてのカプセル化材との製剤を含むことを意図しており、活性成分(他の担体の有り又は無しの状態の)が、そのように活性成分と一緒になっている担体によって囲まれているカプセルを提供する。同様に、カシェ剤も含まれる。
【0032】
錠剤、粉剤、カシェ剤及びカプセルは、経口投与に好適な固体の剤形として用いることができる。
【0033】
液体形態の組成物としては、溶液、懸濁液及び乳化液が挙げられる。例えば、活性化合物の滅菌水又は水−プロピレングリコール溶液は、非経口投与に好適な液体製剤であり得る。液体組成物は、また、ポリエチレングリコール水溶液中の溶液に処方することもできる。
【0034】
経口投与用の水溶液は、活性成分を水に溶解し、そして要求に応じて、好適な着色剤、香味剤、安定化剤及び増粘剤を添加することにより調製することができる。経口用としての水性懸濁液は、微粉化した活性化合物を、天然、合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、ナトリウム・カルボキシメチルセルロース、及び医薬処方技術で公知の他の懸濁剤などの粘稠物質と一緒に水中に分散させることにより作成することができる。経口用として意図する典型的な組成物は、1つ又はそれ以上の着色剤、甘味剤、香味剤及び/又は保存剤を含んでもよい。
【0035】
投与の様式に依存して、医薬組成物は、約0.05質量%〜約99質量%、又は約0.10質量%〜50質量%の本発明の化合物を含み、全ての質量%は、組成物の全重量を基準にしている。
【0036】
本発明を実施するための治療的有効量は、個々の患者の年齢、体重及び応答を含む公知の判定基準を用いて、通常の技術を有する当業者により決定することができ、そして治療すべき又は予防すべき疾病の状況内で解釈することができる。
【0037】
医学的用途
本発明の化合物は、mGluR5の興奮性活性化に関連する病態の治療、及びmGluR5の興奮性活性化によって引き起こされる神経損傷を抑制するのに有用である。本化合物は、ヒトを含む哺乳動物におけるmGluR5の阻害効果を誘導するのに使用することができる。
【0038】
mGluR5を含むI群mGluR受容体は、中枢及び末梢神経系並びに他の組織に高発現する。このように、本発明の化合物は、急性及び慢性神経障害及び精神障害、胃腸障害、並びに慢性及び急性疼痛性障害などのmGluR5媒介障害の治療に好適なことが期待される。
【0039】
本発明は、治療に用いるための前記した式Iの化合物に関する。
【0040】
本発明は、mGluR5媒介障害の治療に用いるための、前記した式Iの化合物に関する。
【0041】
本発明は、アルツハイマー病、老年性認知症、AIDS誘発認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病、片頭痛、てんかん、統合失調症、欝病、不安、急性不安、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障などの眼科障害、耳鳴などの聴覚神経障害、化学療法誘発神経障害、帯状疱疹後神経痛及び三叉神経痛、トレランス、依存症、脆弱X、自閉症、精神発達遅滞、及びダウン症候群の治療に用いるための、前記した式Iの化合物に関する。
【0042】
本発明は、片頭痛に関連する疼痛、炎症性疼痛、糖尿病性神経障害などの神経因性疼痛障害、関節炎及びリウマチ様疾患、腰痛、術後疼痛及び癌、アンギナ、腎又は胆石疝痛、月経、片頭痛及び痛風を含む種々の病態に関連する疼痛の治療に用いるための、上記した式Iの化合物に関する。
【0043】
本発明は、脳卒中、頭部外傷、酸素欠乏及び虚血性障害、低血糖症、心血管疾患及びてんかんの治療に用いるための、前記した式Iの化合物に関する。
【0044】
本発明は、また、I群mGluR受容体媒介障害及び上記したあらゆる障害の治療用薬剤の製造における、前記した式Iの化合物の使用にも関する。
【0045】
本発明の1つの実施態様は、胃腸障害の治療における式Iの化合物の使用に関する。
【0046】
本発明の別の実施態様は、一過性下部食道括約筋弛緩の抑制のための、GERDの治療のための、胃食道逆流の予防のための、逆流治療のための、喘息の治療のための、喉頭炎の治療のための、肺疾患の治療のための、成長不全の管理のための、過敏性腸症候群(IBS)の治療のための、及び機能性消化不良(FD)の治療のための、式Iの化合物に関する。
【0047】
本発明の別の実施態様は、一過性下部食道括約筋弛緩の抑制のための、GERDの治療のための、胃食道逆流の予防のための、逆流治療のための、喘息の治療のための、喉頭炎の治療のための、肺疾患の治療のための、成長不全の管理のための、過敏性腸症候群(IBS)の治療のための、及び機能性消化不良(FD)の治療のための薬剤を製造するための、式Iの化合物の使用に関する。
【0048】
本発明の別の実施態様は、過活動膀胱又は尿失禁治療用の式Iの化合物の使用に関する。
【0049】
用語「TLESR」、一過性下部食道括約筋弛緩は、本明細書においては、Mittal, R.K., Holloway, R.H., Penagini, R., Blackshaw, L.A., Dent, J., 1995; 「一過性下部食道括約筋弛緩」(Transient lower esophageal sphincter relaxation). Gastroenterology 109, pp. 601-610に従って定義される。
【0050】
用語「逆流」は、本明細書においては、機械的バリアがその時点で一時的に失われることから、食道を通過することができる胃液と定義される。
【0051】
用語「GERD」、胃食道逆流疾患は、本明細書においては、van Heerwarden, M.A., Smout A.J.P.M., 2000;「逆流疾患の診断」(Diagnosis of reflux disease). Bailliere's Clin. Gastroenterol. 14, pp. 759-774に従って定義される。
【0052】
本発明の更なる実施態様は、咳治療のための薬剤を製造するための、式Iの化合物の使用に関する。1つの実施態様では、治療すべき咳は慢性咳である。更なる実施態様では、治療すべき咳は急性咳である。用語「慢性咳」は、8週間より長く続く咳として、Kardos
P et al (「急性及び慢性咳の患者の診断及び治療のドイツ呼吸器学会ガイドライン」(The German Respiratory Society`s Guideline for the Diagnosis and Treatment of Patients with Acute and Chronic Cough) Medizinische Klinik 2004;99(8):468-75)に従って定義される。しかしながら、慢性咳は、3週間より長く続く咳として、又は2か月より長く続く咳としても定義することができる。用語「急性咳」は、また、8週間より少なく続く咳としても、上記文献に従って定義される。
【0053】
上記の式Iの化合物は、肥満又は過体重の治療又は予防(例えば、体重減少の促進及び体重減少の維持)、体重増加の予防又は反転(例えば、リバウンド、薬剤誘導又は禁煙後)、食欲及び/又は満腹、摂食障害(例えば、無茶食い、拒食症、過食症及び強迫観念の)及び渇望(薬物、たばこ、アルコール、いずれかの食欲をそそる主要栄養素又は非必須食品に対する)の調節に有用である。
【0054】
本発明は、前記の式Iの化合物の有効量を患者に投与することを含む、該病態に罹患し又はそのリスクを有する患者における、mGluR5媒介障害及び上記のいずれかの障害の治療法を提供する。
【0055】
特定の障害の治療又は予防的治療に必要な用量は、治療される当事者、投与経路及び治療する疾患の重症度に依存して、必要に応じて変動する。
【0056】
本明細書において、用語「療法」及び「治療」は、それと反対の特定の指示がない限り、予防又は予防法を含む。用語「治療の」及び「治療的に」は状況に応じて解釈すべきである。
【0057】
本明細書では、特に記述がない限り、用語「アンタゴニスト」及び「阻害薬」は、いずれにしても、部分的であれ完全であれ、リガンドによる反応の誘導に至る伝達経路をブロックする化合物を意味するものと考えることができる。
【0058】
用語「障害」は、特に明記しない限り、代謝調節型グルタミン酸受容体活性に関連するいずれの病態及び疾患をも意味する。
【0059】
非医学的用途
治療医学におけるそれらの使用に加えて、式Iの化合物、並びに当該化合物の塩及び水和物は、新しい治療薬の探索の一環として、ネコ、イヌ、ウサギ、サル、ラット及びマウスなどの実験動物におけるmGluR関連活性阻害薬の効果の評価に対し、インビトロ及びインビボ試験系の開発及び標準化における薬理学的ツールとして有用である。
【0060】
製造方法
中間体の合成
【化3】

【0061】
【化4】

【0062】
最終化合物の合成
【化5】

【0063】
一般的方法
全ての出発物質は市販されており、又は以前に文献に記載されたものである。1H及び13CNMRは、Bruker 300、Brucker DPX 400スペクトロメーターを使用し、1HNMRに対しては、300及び400MHzで操作し、参照用としてTMS又は残留溶媒シグナルを用い、特に指示のない限り、溶媒として重水素化クロロホルム中で測定した。報告された全てのケミカルシフトは、δスケールでのppm値、及び測定時に出現するシグナルの微細分裂構造(s:単一線、br s:広幅単一線、d:二重線、q:四重線、m:多重線)である。
【0064】
分析用インライン液体クロマトグラフィー分離とそれに続くマススペクトル検出は、Alliance 2795 (LC)、及びZQ単一四重極マススペクトロメーターより成るWater社のLCMSで測定した。マススペクトロメーターは、陽イオン及び/又は陰イオンモードで操作するエレクトロスプレーイオン源を備えていた。イオンスプレー電圧は±3kVであり、そしてマススペクトロメーターは、m/z=100〜700、走査時間0.8秒の条件で走査した。カラム、X-Terra MS、 Waters、C8、2.1×50mm、3.5mm、は、5%〜100%アセトニトリル/10mM酢酸アンモニウム(水溶液)又は0.1%TFA(水溶液)の線形グラジエントを適用した。分取型逆相クロマトグラフィーは、カラムとして、Xterra MS、C8、19×300mm、7mmを用い、ダイオード・アレー検出器を備えたGilson自動分取型HPLCで実施した。生成物の精製は、また、シリカ充填ガラスカラム中のフラッシュ・クロマトグラフィーで行った。
【0065】
略号リスト
Aq.: 水性;
mCPBA: メタ−クロロ過安息香酸;
Novozyme 435(登録商標): カンジダアンタルチカリパーゼ(candida antartica lipase)を結合したポリマーに対する登録商標名;
【実施例】
【0066】
〔実施例1〕
中間体の合成
(2Z)−クロロ[(3−メチルフェニル)ヒドラゾノ]酢酸エチル
【化6】

(2Z)−クロロ[(3−メチルフェニル)ヒドラゾノ]酢酸エチルは、Farmaco Ed. Sci. 1985, 40(4), 259-271に記載の通りに合成した。
【0067】
〔実施例2〕
(2Z)−アミノ[3−メチルフェニル)ヒドラゾノ]酢酸エチル
【化7】

水酸化アンモニウム水溶液(20%、768mL)を、テトラヒドロフラン(1024mL)中の(2Z)−クロロ[(3−メチルフェニル)−ヒドラゾノ]酢酸エチル(256g、1064mmol)の溶液に、撹拌しつつ50分間かけて加えた。40分後、石油エーテル(250mL)及び酢酸エチル(250mL)の溶媒混合物を加えた。15分間撹拌した後2層に分離し、水層を酢酸エチル(2×150mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(150mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、そして濃縮して、標題生成物(200g、85%)を得た。
1HNMR(400MHz):7.14(m,1H),6.98(m,1H),6.88(m,1H),6.74(m,1H),6.61(br.s,1H),4.38(m,4H),2.32(s,3H),1.39(m,3H)。
13CNMR(100MHz):162.3,145.2,139.1,135.9,129.0,122.1,114.8,111.4,62.3,21.5,14.2。
【0068】
〔実施例3〕
2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−カルボン酸エチル
【化8】

酢酸(207mL、3.62mol)を、テトラヒドロフラン(2170mL)中の(2Z)−アミノ[3−メチルフェニル)−ヒドラゾノ]酢酸エチルの溶液に撹拌しつつ加え、混合物を85℃に加熱した。水(226mL)中の亜硝酸ナトリウム(74.8g、1.08mol)溶液を3時間かけて加えた。20分間撹拌した後、混合物を室温に冷却した。混合物を濃縮し、そして残留物に酢酸エチル(750mL)及び飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(500mL)を加えた。層を分離し、水相を酢酸エチル(250mL)で抽出した。合わせた有機層をブライン(250mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、そして濃縮し、標題生成物(176g、84%)を得た。
1HNMR(400MHz):7.99(m,2H),7.44(t,1H),7.34(m,1H),4.56(q,2H),2.45(s,3H),1.48(t,3H)。13CNMR(100MHz):157.8,157.7,140.2,136.3,131.3,129.6,120.8,117.4,62.7,21.3,14.2。
【0069】
〔実施例4〕
1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル}エタノン
【化9】

トリエチルアミン(520mL、3.74mol)中のメチルマグネシウムブロミド(1070mL、1.50mol、テトラヒドロフラン/トルエン中1.4M)を、無水トルエン(1,000mL)中の2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−カルボン酸エチルの撹拌溶液に、滴下漏斗を経由して、−10℃で5時間かけて加えた。混合物の撹拌を、−10℃で終夜継続した。塩酸(37%、500mL)及び水(500mL)の冷却(+3℃)溶液を、2時間20分かけて加えた。層を分離し、そして有機層を水(500mL)及びブライン(2×250mL)で洗浄した。水層をトルエン(3×500mL)で抽出し、そしてトルエンをブライン(2×250mL)で洗浄した。合わせた有機抽出物を濃縮し、溶離液としてジクロロメタンを用いてシリカゲル上で精製した。濃縮した生成物の残渣を石油エーテルで粉砕し、濾過し、そして減圧下、室温で乾燥して、標題生成物(90.86g、60%)を得た。
1HNMR(400MHz):7.99(m,2H),7.45(t,1H),7.35(m,1H),2.83(m,3H),2.48(s,3H)。
13CNMR(100MHz):188.1,162.6,140.4,136.5,131.6,129.8,121.0,117.6,28.3,21.5。
【0070】
〔実施例5〕
1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エタノール
【化10】

メタノール(1,000mL)中の1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル}エタノン(96.89g、479mmol)を、氷/水浴で冷却した。ナトリウムボロヒドリド(29g、767mmol)を1時間30分かけて加えた。40分間撹拌した後、酢酸水溶液(70%、20mL)を加え、混合物を濃縮した。ジクロロメタン(400mL)を残渣に加え、そして炭酸水素ナトリウム飽和水溶液(500mL)で抽出した。水相をジクロロメタン(170mL)で抽出し、合わせた有機層を塩酸水溶液(0.5M、250mL)で洗浄し、次いで炭酸水素塩水溶液(280mL)で洗浄し、次いでブライン(500mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、濃縮して、標題生成物(95g、97%)を得た。
1HNMR(400MHz):7.88(m,2H),7.40(t,1H),7.28(m,1H),5.29(m,1H),3.15(m,1H),2.44(s,3H),1.74(m,3H)。
【0071】
〔実施例6〕
酢酸(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エチル
【化11】

無水トルエン(4,800mL)中の1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エタノール(93g、460mmol)及びNovozyme 435(登録商標)(10g)の混合物をゆっくり撹拌した。酢酸ビニル(39.2g、460mmol)を加え、混合物を室温で5時間撹拌した。Novozyme 435(登録商標)を濾過し、トルエン(100mL)で洗浄した。濾液を濃縮し、溶離液として石油エーテル/酢酸エチル(6:1)を用いてシリカゲル上で精製し、標題生成物(47.92g、42%)を得た。1HNMR(400MHz):7.89(m,2H),7.39(t,1H),7.26(m,1H),6.27(m,1H),2.44(s,3H),2.13(m,3H),1.77(m,3H)。
【0072】
〔実施例7〕
(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エタノール
【化12】

水酸化リチウム・一水和物(16.68g、400mmol)を、テトラヒドロフラン/水(1:1、750mL)中の酢酸(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エチル(46.6g、190mmol)の溶液に撹拌しつつ加えた。反応時間3時間後、混合物を半分の体積まで濃縮した。ブライン(100mL)を加え、混合物を酢酸エチル(3×100mL)で抽出した。合わせた有機層を硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過し、そして濃縮して、標題生成物(38.18g、99%)を得た。
1HNMR(400MHz):7.89(m,2H),7.42(t,1H),7.28(m,1H),5.29(m,1H),2.72(br.s,1H),2.46(s,3H),1.75(m,3H)。
13CNMR(100MHz):169.3,139.9,136.7,130.5,129.4,120.4,117.1,62.9,22.3,21.3。
【0073】
(4−メチル−5−メチルチオ−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)−アリールの製造
【化13】

方法1:
対応するアリールカルボン酸(n×mmol)をチオニルクロリド(n×1.05mL)に溶解し、4時間還流した。過剰のチオニルクロリドを減圧下で除去し、そしてピリジン(n×0.52mL)で置換した。氷浴上で冷却しながら、4−エチル−3−チオセミカルバジド(1当量、n×0.16mL/mmolジクロロメタンで濯ぎ/かき落す)を少しずつ加えた。氷浴を除去し、反応混合物を室温で24時間撹拌した。ピリジンを減圧下で除去し、そしてNaOH水溶液(1N、n×3.16mL)で置換し、得られた混合物を70〜80℃で4時間撹拌した。室温に冷却後、エタノール(n×0.42mL)中のメチルヨージド(1.5当量)を20分間かけて滴下しながら加えた。反応混合物を室温で16時間撹拌した。生成物をジクロロメタン(2×(n×4.2mL))で抽出した。溶媒を減圧下で除去し、フラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、3%メタノール/クロロホルム)で精製し、標題化合物を得た。
【0074】
以下の化合物を方法1により合成した。
【表1】

【0075】
方法2:
〔実施例8.3〕
2−メチル−5−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピラジン
【化14】

メタノール(25mL)を、メチルイソチオシアナート(1.052g、14.4mmol)及び5−メチルピラジン−2−カルボヒドラジド(2.192g、14.4mmol)の混合物に加えた。得られた混合物を60℃で1時間加熱し、減圧下で濃縮した。残留物を水酸化ナトリウム水溶液(0.8M、20mL、16mmol)に溶解し、得られた溶液を60℃で19時間加熱し、次いで室温に冷却した。水酸化ナトリウム水溶液(6M、2.6mL、15.6mmol)を加え、次いでエタノール(31mL)中のヨードメタン(1.24mL、19.8mmol)+追加の水(5mLリンス用)を加え、得られた混合物を室温で1時間撹拌した。生成物を水(30mL添加)及びジクロロメタン(300mL)の間で分配した。水層をジクロロメタン(4×100mL)で抽出した。合わせた有機層を水(75mL)及びブライン(75mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。減圧下で溶媒を除去し、次いでフラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、2〜3%メタノール/ジクロロメタン)での精製により、標題化合物(2.559g、80%)を得た。
1HNMR(300MHz):9.40(s,1H),8.46(s,1H),3.95(s,3H),2.80(s,3H),2.65(s,3H)。
【0076】
同様にして以下の化合物を合成した。
【表2】

【0077】
〔実施例8.5〕
3−(4−メチル−5−メチルチオ−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリジン
【化15】

3−(4−メチル−5−メチルチオ−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリジンを国際公開第2005/080379号に記載されたように合成した。
【0078】
[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]−アリールの製造
【化16】

方法1:
m−クロロ過安息香酸(77%、2.5当量)をジクロロメタン(n×6.25mL)中の対応する(4−メチル−5−メチルチオ−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)−アリール(n×mmol)の冷却した溶液に、20分間かけて少しずつ加え、反応混合物を室温で16時間撹拌した。飽和の重炭酸ナトリウム水溶液(n×6.25mL)を加え、そして生成物をジクロロメタン(2×(n×12.5mL))で抽出した。フラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、2%メタノール/クロロホルム)で精製し、標題化合物を得た。
【0079】
以下の化合物を方法1で合成した。
【表3】

【0080】
方法2:
〔実施例9.3〕
2−メチル−5−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピラジン
【化17】

水(95mL)中の過マンガン酸カリウム(3.38g、17.0mmol)の溶液を、氷酢酸(45mL)中の2−メチル−5−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピラジン(1.853g、11.52mmol)の溶液に加えた。得られた混合物を室温で終夜撹拌した。固体の硫酸水素ナトリウムを、暗色が消え、透明の無色の溶液となるまで、小分けして加えた。生成物をクロロホルム(350mL)及び水(50mL)の間で分配し、水層をクロロホルム(3×150mL)で抽出した。合わせた有機層をNaOH水溶液(40mL、6M)及び重炭酸ナトリウム飽和水溶液(250mL)で、ガスの発生が止み、pH=〜7になるまで中和した。有機層をブライン(100mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下で除去し、標題化合物(2.715g、93%、白色固体)を得た。
1HNMR(300MHz):9.44(s,1H),8.55(s,1H),4.36(s,3H),3.62(s,3H),2.69(s,3H)。
【0081】
同様にして、以下の化合物を合成した。
【表4】

【0082】
〔実施例9.5〕
3−(5−メタンスルホニル−4−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)−ピリジン
【化18】

3−(5−メタンスルホニル−4−メチル−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)−ピリジンを、国際公開第2005/080356号に記載されたように合成した。
【0083】
最終化合物の合成
〔実施例10.1〕
2−(4−メチル−5−{(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エトキシ}−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリミジン
【化19】

N,N−ジメチルホルムアミド(10mL)中の(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エタノール(251mg、1.23mmol)、2−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリミジン(239mg、1.00mmol)及び炭酸セシウム(911mg、2.80mmol)の混合物を、65℃で15時間撹拌した。室温に冷却した後、生成物を酢酸エチル(300mL)及び水(50mL)間で分配した。有機層を水(3×50mL)及びブライン(50mL)で洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を減圧下で濃縮した。フラッシュ・クロマトグラフィー(シリカゲル、2〜3%メタノール/ジクロロメタン)で精製し、標題化合物(265mg、73%、油状物質)を得た。
1HNMR(300MHz):8.85(d,2H);7.93(m,2H);7.42(t,1H);7.29(m,2H);6.68(q,1H);3.88(bs,3H);2.46(bs,3H);2.03(d,3H)。
LC−MS(M++1)364。
【0084】
同様にして、以下の化合物を合成した。
【表5】

【0085】
【表6】

【0086】
生物学的評価
mGluRDを発現する細胞系におけるmGluR5アンタゴニズムの機能評価
本発明の化合物の特性は、薬理活性の標準分析法を用いて解析することができる。グルタミン酸受容体分析の例は、例えば、Aramori et al., Neuron 8:757 (1992), Tanabe et
al., Neuron 8:169 (1992), Miller et al., J. Neuroscience 15: 6103 (1995), Balazs, et al., J. Neurochemistry 69:151 (1997)に記載のように、当技術分野で周知である。これらの刊行物に記載の方法論は、参照することにより本明細書に組み入れられている。都合のよいことに、本発明の化合物は、mGluR5を発現する細胞中の細胞内カルシウム、[Ca2+iの可動化を測定する分析(FLIPR)、又はイノシトールリン酸ターンオーバーを測定する別の分析(IP3)を用いて検討することができる。
【0087】
FLIPR分析
国際公開公報第97/05252号に記載のヒトmGluR5dを発現する細胞を、黒色面を有するコラーゲン被覆透明底96ウェルプレートに100,000細胞/ウェルの密度で播種し、そして播種の24時間後に実験を行なった。すべての分析は、127mMのNaCl、5mMのKCl、2mMのMgCl2、0.7mMのNaH2PO4、2mMのCaCl2、0.422mg/mlのNaHCO3、2.4mg/mlのHEPES、1.8mg/mlのグルコース及び1mg/mlのBSAフラクションIV(pH7.4)を含有する緩衝液中で行なわれた。96ウェルプレート中の細胞培養液は、0.01%のpluronic acid (独自開発の非イオン界面活性剤ポリオール:CAS番号9003−11−6)中に4μMの蛍光カルシウム指示薬、フルオ−3のアセトキシメチルエステル型(Molecular Probes, Eugene, Oregon)、 を含有する上記の緩衝液中に60分間負荷した。負荷
時間の後、フルオ−3緩衝液を除去し、新鮮な分析緩衝液で置換した。FLIPR実験は、0.800Wのレーザーの設定及び0.4秒のCCDカメラシャッター速度、並びに励起及び発光波長がそれぞれ488nm及び562nmで実施した。各実験は、細胞プレートの各ウェルに存在する160μlの緩衝液を用いて開始した。アンタゴニストプレートから40μlを加え、その後アゴニストプレートから50μlを添加した。アンタゴニスト及びアゴニストの添加の間に30分の間隔をおいた。蛍光シグナルを1秒間隔で50回サンプリングし、その後各2回の添加の直後に5秒間隔で3試料を続けた。アゴニストへの応答のピーク高さからサンプリング時間内の蛍光バックグラウンドを差し引いた差として、応答を測定した。IC50の定量を線形最小二乗あてはめプログラムを用いて行なった。
【0088】
IP3分析
mGluR5dの更なる機能分析は、国際公開公報第97/05252号に記載されており、ホスファチジルイノシトール・ターンオーバーに基づいている。受容体活性化はホスホリパーゼC活性を刺激し、そしてイノシトール−1,4,5−トリスリン酸(IP3)の形成増加に導く。
ヒトmGluR5dを安定的に発現するGHEKを、1μCi/ウェル[3H]ミオイノシトールを含有する培地中、40×104細胞/ウェルで24ウェルポリ−L−リジン被覆プレート上に播種した。細胞を一夜(16h)インキュベートし、次いで3回洗浄し、そして1単位/mlのグルタミン酸ピルビン酸トランスアミナーゼ及び2mMのピルビン酸を補充して、HEPES緩衝食塩水(146mMのNaCl、4.2mMのKCl、0.5mMのMgCl2、0.1%のグルコース、20mMのHEPES、pH7.4)中、37℃で1時間インキュベートした。細胞をHEPES緩衝食塩水で1回洗浄し、10mMのLiClを含有するHEPES緩衝食塩水中で10分間プレインキュベートした。化合物を重複して37℃で15分間インキュベートし、次いでグルタミン酸(80M)か又はDHPG(30μM)を加え、そして更に30分間インキュベートした。反応は、氷上で0.5mlの過塩素酸(5%)を添加し、4℃で少なくとも30分インキュベーションして停止した。試料を15mlポリエチレンチューブに収集し、そしてイノシトールリン酸をイオン交換樹脂(Dowex AG1-X8 ギ酸塩型、200〜400メッシュ, BIORAD) カラムを用いて分離した。イノシトールリン酸分離は、先ず8mlの30mMのギ酸アンモニウムでグリセロホスファチジルイノシトールを溶離することにより行なった。次いで、総イノシトールリン酸を8mlの700mMギ酸アンモニウム/100mMギ酸で溶離し、そしてシンチレーションバイアルに収集した。次いで、この溶出液を8mlのシンチレーション剤と混合し、[3H]イノシトール取り込みをシンチレーション計数により測定した。重複試料のdpm数をプロットし、そしてIC50の定量を線形最小二乗あてはめプログラムを用いて行なった。
【0089】
略語
BSA: ウシ血清アルブミン
CCD: 電荷結合素子
CRC: 濃度反応曲線
DHPG: 3,5−ジヒドロキシフェニルグリシン
DPM: 壊変毎分
EDTA: エチレンジアミンテトラ酢酸
FLIPR:蛍光イメージングプレートリーダー
GHEK: GLAST含有ヒト胚腎臓
GLAST:グルタミン酸/アスパラギン酸輸送体
HEPES:4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジンエタンスルホン酸(緩衝剤)
IP3 イノシトールトリスリン酸
【0090】
一般的に、化合物は上記分析において活性であり、IC50値は10,000nM未満であった。本発明の1つの態様では、IC50値は1μM未満であった。本発明の更なる態様では、IC50値は100nM未満であった。
【表7】

【0091】
TLESRに対して活性な化合物のスクリーニング
パブロフスリングに立つように訓練した両性の成体ラブラドール・レトリーバを使用した。粘膜から皮膚への食道瘻造設術を行い、そしてイヌを完全に回復させてからあらゆる実験を行なった。
【0092】
運動測定
簡潔にいえば、自由飲水で約17時間の絶食後、胃、下部食道括約筋(LES)及び食道内圧を測定するために、マルチルーメン・スリーブ/側孔装置(Dentsleeve, Adelaide, South Australia) を、食道瘻造設術を介して導入した。この装置は、低コンプライアンス・マノメーター潅流ポンプ(Dentsleeve, Adelaide, South Australia)を用いて水で潅流した。空気潅流チューブを嚥下の測定のために口腔方向に通し、そしてLESの3cm上部でpHをアンチモン電極にてモニターした。すべての信号を増幅し、そして10Hzのパソコンにて取得した。
【0093】
空腹時の胃/LESフェーズIII運動活性のないベースライン測定が行われる場合、プラセボ(0.9%NaCl)又は試験化合物を、前脚静脈中に静脈内投与(i.v.、0.5ml/kg)した。i.v.投与の10分後、栄養食(10%ペプトン、5%D−グルコース、5%Intralipid、pH3.0)を、30mg/kgの最終量まで100ml/分で装置の中心ルーメンを通して胃内に注入した。栄養食の注入後に、10±1mmHgの胃内圧が得られるまで空気注入を続けた。次いで、更なる空気注入又は胃からの空気の通気のために注入ポンプを用いる実験の間中、圧力をこのレベルに維持した。栄養物注入の開始から胃内送気の終了までの実験時間は45分であった。この手順は、TLESRを誘引する確実な方法と認められている。
【0094】
TLESRは、>1mmHg/sの変化率での下部食道括約筋圧(胃内圧を基準にして)の減少と定義される。弛緩が嚥下誘導と分類される場合、弛緩はその発生の≦2s前に咽頭シグナルが先行することがない。LES及び胃との間の圧力差は2mmHg未満のはずであり、そして完全弛緩の持続は1sより長いものでなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式I:
【化1】

式中、R1は、
【化2】

の化合物、並びに薬学的に許容されるその塩、水和物、イソ型及び/又はエナンチオマー。
【請求項2】
化合物がS−エナンチオマーである、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
化合物がR−エナンチオマーである、請求項1記載の化合物。
【請求項4】
2−(4−メチル−5−{(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エトキシ}−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリミジン;
5−(4−メチル−5−{(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エトキシ}−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリミジン;
2−メチル−5−(4−メチル−5−{(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エトキシ}−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピラジン;
2−メチル−4−(4−メチル−5−{(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エトキシ}−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル)ピリジン;及び
3−{4−メチル−5−[(1R)−1−(2−(3−メチルフェニル−2H−テトラゾール−5−イル)−エトキシ]−4H−[1,2,4]トリアゾール−3−イル}−ピリジン;
から選択される請求項1に記載の化合物、並びに薬学的の許容されるその塩、水和物、イソ型及び/又はエナンチオマー。
【請求項5】
治療に使用するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項6】
薬理学的に及び薬学的に許容される担体と一緒に、活性成分として請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物を含む医薬組成物。
【請求項7】
mGluR5受容体媒介障害の治療のための薬剤を製造するための、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物、又はその薬学的に許容される塩若しくは光学異性体の使用。
【請求項8】
障害が神経障害である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
障害が精神障害である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
障害が胃腸障害である、請求項7に記載の使用。
【請求項11】
請求項7に記載の使用であって、障害が、胃食道逆流疾患、IBS、機能性消化不良、咳、肥満、アルツハイマー病、老年性認知症、AIDS誘発認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病、片頭痛、てんかん、統合失調症、欝病、不安、急性不安、強迫性障害、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障などの眼科障害、耳鳴などの聴覚神経障害、化学療法誘発神経障害、帯状疱疹後神経痛及び三叉神経痛、トレランス、依存症、嗜癖及び渇望障害、脆弱Xを含む神経発生障害、自閉症、精神発達遅滞、及びダウン症候群、片頭痛に関連する疼痛、炎症性疼痛、糖尿病性神経障害などの神経因性疼痛障害、関節炎及びリウマチ様疾患、腰痛、術後疼痛、アンギナ、腎又は胆石疝痛、月経、片頭痛及び痛風を含む種々の病態に関連する疼痛;脳卒中、頭部外傷、酸素欠乏及び虚血性障害、低血糖症、心血管疾患及びてんかんのいずれか1つである使用。
【請求項12】
障害が慢性疼痛性障害である、請求項11に記載の使用。
【請求項13】
障害が急性疼痛性障害である、請求項11に記載の使用。
【請求項14】
障害が不安である、請求項11に記載の使用。
【請求項15】
障害が欝病である、請求項11に記載の使用。
【請求項16】
害がパーキンソン病である、請求項11に記載の使用。
【請求項17】
該疼痛性障害が神経因性疼痛障害である、請求項11に記載の使用。
【請求項18】
疼痛性障害が片頭痛である、請求項11に記載の使用。
【請求項19】
疼痛性障害が炎症性疼痛である、請求項11に記載の使用。
【請求項20】
障害が胃食道逆流疾患である、請求項11に記載の使用。
【請求項21】
障害が咳である、請求項11に記載の使用。
【請求項22】
mGluR5受容体媒介障害の治療又は予防のための方法であって、請求項1〜4のいずれか1項に記載の化合物の有効量を当該治療又は予防を必要とする対象者に投与する方法。
【請求項23】
障害が神経障害である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
障害が精神障害である、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
請求項22に記載の方法であって、障害が、胃食道逆流疾患、IBS、機能性消化不良、咳、肥満、アルツハイマー病、老年性認知症、AIDS誘発認知症、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症、ハンチントン舞踏病、片頭痛、てんかん、統合失調症、欝病、不安、急性不安、強迫性障害、網膜症、糖尿病性網膜症、緑内障などの眼科障害、耳鳴などの聴覚神経障害、化学療法誘発神経障害、帯状疱疹後神経痛及び三叉神経痛、トレランス、依存症、嗜癖及び渇望障害、脆弱Xを含む神経発生障害、自閉症、精神発達遅滞、及びダウン症候群、片頭痛に関連する疼痛、炎症性疼痛、糖尿病性神経障害などの神経因性疼痛障害、関節炎及びリウマチ様疾患、腰痛、術後疼痛、アンギナ、腎又は胆石疝痛、月経、片頭痛及び痛風を含む種々の病態に関連する疼痛;脳卒中、頭部外傷、酸素欠乏及び虚血性障害、低血糖症、心血管疾患及びてんかんのいずれか1つである方法。
【請求項26】
障害が慢性疼痛性障害である、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
障害が急性疼痛性障害である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
障害が不安である、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
障害が欝病である、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
障害がパーキンソン病である、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
疼痛性障害が神経因性疼痛障害である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
疼痛性障害が片頭痛である、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
疼痛性障害が炎症性疼痛である、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
障害が胃食道逆流疾患である、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
障害が咳である、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
(2Z)−アミノ[3−メチルフェニル)ヒドラゾノ]酢酸エチル;
2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−カルボン酸エチル;
1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル}エタノン;
酢酸(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エチル;
(1R)−1−[2−(3−メチルフェニル)−2H−テトラゾール−5−イル]エタノール;
2−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリミジン;
5−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリミジン;
2−メチル−5−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピラジン;
2−メチル−4−[4−メチル−5−(メチルチオ)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリジン;
2−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリミジン;
5−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリミジン;
2−メチル−5−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピラジン;及び
2−メチル−4−[4−メチル−5−(メチルスルホニル)−4H−1,2,4−トリアゾール−3−イル]ピリジン;
から選択される化合物。

【公表番号】特表2011−500673(P2011−500673A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529900(P2010−529900)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【国際出願番号】PCT/SE2008/051170
【国際公開番号】WO2009/051556
【国際公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(391008951)アストラゼネカ・アクチエボラーグ (625)
【氏名又は名称原語表記】ASTRAZENECA AKTIEBOLAG
【Fターム(参考)】