説明

伝熱プレート部材とこれを用いた熱交換器及びその製造方法

【課題】ろう材層自体も芯材層への腐食進行を抑制でき、ろう付性と耐食性の両立を図ることができ、かつ薄肉化が可能な犠牲腐食層、芯材層、ろう材層からなる伝熱プレート部材及びこれを用いた熱交換器を提供する。
【解決手段】アルミ材の芯材層1Aの片面にろう材層1Bを、他方の片面に犠牲腐食層1Cをクラッドした3層構造の板材をプレス成形して多数の凸部2,14を形成した伝熱プレート部材1,12を、ろう材層と犠牲腐食層とが交互に隣接するよう積層配置してろう付けすることによって、外部流体通路と内部流体通路とを有した熱交換器を形成する。この場合、ろう材層のろう材として低電位の材料を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、犠牲腐食層、芯材層、ろう材層の3層構造にクラッドしたアルミニウム板を用いて成形した伝熱プレート部材と、このプレート部材を積層して形成した熱交換器及び該熱交換器の製造方法に関するもので、例えば車両空調用蒸発器に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
従来の積層型熱交換器、例えば車両空調用蒸発器においては、2枚のプレート部材を最中状に接合して形成した偏平状チューブと、空気側の伝熱面積拡大のためのルーバ付きのコルゲートフィンとを交互に積層させることによって形成している。しかしながら、この種の積層型熱交換器は、コルゲートフィンの存在が熱交換器のコストの低減、及び小型化に対して大きな障害となっている。
【0003】
そこで、コルゲートフィン等のフィンを必要とせず、内部流体通路を構成する伝熱プレート部材だけで必要伝熱性能を確保できるようにした熱交換器が、特許文献1及び特許文献2等により、従来より知られている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−287580号公報
【特許文献2】特開2000−205785号公報
【0005】
しかしながら、特許文献1により公知の熱交換器は、伝熱プレート部材としてA3000系のアルミニウム芯材の両面にA4000系のアルミニウムろう材をクラッドした両面クラッド材を、伝熱プレート部材として使用したものである。そのため、両面をろう材でクラッドした伝熱プレート部材を使用した熱交換器では、凝縮液等の電解質の付着液が発生すると、表面処理などで十分な防食を施してある場合は問題ないが、防食処理が不十分であると腐食の厳しい環境下での使用は容易でないという問題がある。或いは、アルミニウム芯材に耐食性をもたせるために、芯材の板厚を厚くする必要があり、材料コストの上昇を招くという問題がある。
【0006】
また、特許文献2には、伝熱プレート部材1としてA3000系のアルミニウム芯材1Aの一方の片面にA4000系のアルミニウムろう材1Bを、他方の片面に犠牲腐食層1Cをそれぞれクラッドしたものが示されている。しかしながら、この一面をろう材で、他面を犠牲腐食層でクラッドした伝熱プレート部材1を使用した熱交換器においては、例えば図9に示すように犠牲腐食層1Cを大気側として構成し、ろう付けして接合する部分1aは、伝熱プレート部材1のろう材面が互いに向き合うように、タンク部2にて伝熱プレート部材1を互いにU字形に折り曲げ、この部分1aでろう付けを実施している。そのため、タンク部2のU字形加工は加工が容易でなく、製造コストが高価になり易いという問題がある。また、十分な耐食性を確保することができないという問題がある。
【0007】
更に、特許文献2には、図10に示すようにタンク部2にU字形加工を施さない熱交換器も示されているが、この場合においても、伝熱プレート部材1同志をろう材面が互いに向き合うように配置しているために、犠牲腐食層同志が向き合う個所が生じることになり、このような個所には、別部品として形成した両面をろう材でクラッドしたプレート部材3を介在させることによって、ろう付けを実施している。このため、別部品を必要とし、製造コストが高価になり易く、かつ部品点数の増加を招くという問題がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ろう材層自体も芯材層への腐食進行を抑制でき、ろう付性の確保を確実にし、かつ耐食性の向上を図ることができると共に、芯材の薄肉化、延いては伝熱プレート部材自体の薄肉化が可能な、犠牲腐食層、芯材層、ろう材層の3層構造をクラッドしたアルミニウム板を用いて成形した伝熱プレート部材、及びこの伝熱プレート部材を積層してろう付けにより形成した熱交換器とその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、特許請求の範囲の各請求項に記載の伝熱プレート部材、熱交換器及び熱交換器製造方法を提供する。
請求項1に記載の伝熱プレート部材は、アルミニウム材よりなる芯材層1Aの片面に低電位のろう材層1Bを、他の片面に犠牲腐食層1Cをクラッドした3層構造をしていて、ろう材層1Bのろう材として、Al−Si合金、Al−Si−Zn合金又はAl−Si−Mn−Zn合金のいずれかの合金を採用し、犠牲腐食層1Cが、Al−Zn合金又はAl−Zn−Mn合金で構成されているものであり、これにより、ろう付け性と耐食性の両者を確保できると共に、ろう材自体も低電位であるので、ろう材面の芯材層1Bへの腐食進行を抑制することができる。また、ろう材の片面クラッドによる薄肉効果に加えて、犠牲腐食層1Cによる耐食性向上によって芯材層1Aを薄肉化できるため、伝熱プレート部材自体の板厚を薄くすることができる。
【0010】
請求項2に記載の熱交換器は、アルミニウム芯材層1Aの片面に低電位のろう材層1Bを、他の片面に犠牲腐食層1Cをクラッドした3層構造の板材を成形した伝熱プレート部材1,12を積層して形成した熱交換器10であって、伝熱プレート部材1,12には、外部流体OFの伝熱促進構造2,14と内部流体IFの流路構造2,14とが一体で成形加工されていて、この伝熱プレート部材1,12は犠牲腐食層1Cとろう材層1Bとが交互に隣接するように積層配置され、伝熱プレート部材1,12の外部流体伝熱面と隣接対向する他方の伝熱プレート部材1,12の外部流体伝熱面とが部分的に互いに接するように一方或いは両方の伝熱プレート部材1,12に凸形状2,14を形成したものであり、これによって、ろう付け性を確保でき、かつ耐食性が向上した熱交換器10を得ることができる。
【0011】
請求項3の熱交換器は、犠牲腐食層1CがAl−Zn合金又はAl−Zn−Mn合金で構成されることを特定したものである。これは、犠牲腐食層1CからのZnの飛来でろう材層1Bの耐食性を補佐するためでもある。
請求項4の熱交換器は、犠牲腐食層1Cの材料の化学成分を、Zn:1.5〜5.0質量%で、Mn:2.0質量%以下としたものである。これは、犠牲腐食層1CからZnをろう材層に飛ばすには、1.5〜5.0質量%のZnの添加が必要であることによる。
【0012】
請求項5の熱交換器は、ろう材層1Bのろう材として、Al−Si合金、Al−Si−Zn合金又はAl−Si−Mn−Zn合金のいずれかの合金を採用するようにしたものであり、このようにろう材を卑な自然電位にすることによって、ろう材層1B自体での耐食性の改善を図ることができる。
請求項6の熱交換器は、外部流体OFが通る部分にフィンを設けないようにしたものであり、本発明では、フィンレスタイプの積層型熱交換器に特に有効である。
【0013】
請求項7に記載の熱交換器の製造方法は、ろう材層1B、芯材層1A、犠牲腐食層1Cの3層構造の伝熱プレート部材1,12を積層して形成する熱交換器10の製造方法であって、伝熱プレート部材1,12に外部流体OFとの伝熱促進構造2,14と内部流体IFの流路構造2,14とを一体に成形加工する段階と、成形加工された伝熱プレート部材1,12を犠牲腐食層1Cとろう材層1Bとが互いに隣接するように積層配置し、得られた積層体を治具により仮保持する段階と、仮保持された積層体を加熱炉内に搬入して、加熱してろう付けする段階とを含むものである。これによって、ろう付け性を確保でき、かつ耐食性を向上できると共に、部品点数及び製造コストを低減することができる熱交換器を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面に従って本発明の実施の形態の伝熱プレート部材とこれを使用した熱交換器及びその製造方法について説明する。図1は、本発明の伝熱プレート部材のろう付け部分の拡大図であり、図2は、伝熱プレート部材の積層状態を示す図である。本発明の伝熱プレート部材1は、アルミニウム材(アルミニウム合金も含む)を芯材層1Aとして、その一方の片面にはろう材層1Bを、他方の片面には犠牲腐食層1Cをそれぞれクラッドした3層構造の板材よりなる。この伝熱プレート部材1には、プレス加工によって打ち出された複数の凸部2が形成されている。この凸部11が、外部流体OFとの伝熱促進構造となり、かつ内部流体IFの流路構造ともなる。
【0015】
図1において、上側の伝熱プレート部材1は、ろう材層1B側から押し出す形で凸部2が形成されており、下側の伝熱プレート部材1は、犠牲腐食層1C側から押し出す形で凸部2が形成されている。即ち、2種類の伝熱プレート部材1が用意される。こうして、互いに凸部2同志が当接するようにして、2つの伝熱プレート1が重ね合わされてろう付けされる。したがって、犠牲腐食層1Cとろう材層1Bとが隣接する形で2種類の伝熱プレート部材1が重ね合わされる。
図2は、この2種類の伝熱プレート部材1を交互に積層して熱交換コアを形成した状態を示している。この場合、外部流体OF、例えば空気は、図面の上方から下方へと流れ、内部流体IF、例えば冷媒は紙面を表から裏へと貫通する方向に流れる。即ち、外部流体OFと内部流体IFとは直交流である。
【0016】
図3は、別の実施例の伝熱プレート部材(a)とその積層状態(b)を示している。この伝熱プレート部材1では、外部流体OF側と内部流体IF側の両方に複数の凸部2,3を形成している。この場合、図3(b)に示す積層状態にするために、凸部11,12を有さない、別の平板状の伝熱プレート部材1′が必要であり、凸部2,3を有する伝熱プレート部材1と平板状伝熱プレート部材1′とが交互に積層されて熱交換コアを形成している。この別の実施例においても、2種類の伝熱プレート部材1,1′は、それぞれろう材層1B、芯材層1A及び犠牲腐食層1Cの3層構造となっており、犠牲腐食層1Cとろう材層1Bとが隣接する形で積層される。また、各凸部2又は3間の間隔は、10mm以下とすることが好ましい。これによって、片面の犠牲腐食層1Cによる防食効果が、対向面にも及ぼすことができる。なお、この実施例では、内部流体IFと外部流体OFとは、対向流である。また、平板状の伝熱プレート部材1′に代えて、先の実施例のように凸部2,3が押し出される方向を変えた伝熱プレート部材とすることもできる。
【0017】
図4〜7は、本発明の伝熱プレート部材を使用した実施の形態の熱交換器を示すものであり、本発明を車両空調用蒸発器10に適用した例を示している。蒸発器10は、外部流体OFである空調用空気の流れ方向と内部流体IFである冷凍サイクルの冷媒の流れ方向とが直交する直交流型熱交換器として構成されている。蒸発器10は、空調用空気と冷媒との熱交換を行う熱交換コア11を、多数枚の同一形状の伝熱プレート部材12を積層してろう付けすることにより構成している。なお、ここで同一形状とは、同様の凸部が形成されたという程度の意味であり、図4から理解されるように、先に述べたように同様の凸部が形成された2種類の伝熱プレートを使用しているものである。
【0018】
伝熱プレート部材12は、アルミニウム材(アルミニウム合金も含む)の芯材層の一方の片面にはろう材層を、他方の片面には犠牲腐食層をそれぞれクラッドした3層構造の板材をプレス成形したものである。即ち、伝熱プレート部材12は平坦な基板部13から細長形状に打ち出し成形した多数の凸部14を有している。これらの凸部14は、外部流体OFである空調用空気の流れ方向に対して所定の角度傾いて形成されると共に、空調用空気の流れ方向の前後に2列に分けて形成され、2列の凸部群を構成している。
【0019】
2枚一組となる伝熱プレート部材12において、他方の伝熱プレート部材12の凸部14は、一方の伝熱プレート部材12の凸部14に対して、180度回動した(逆方向に傾斜)形で形成されている。こうして、2枚一組の伝熱プレート部材12が積み重ねられることによって熱交換コア11を形成している。この場合、各伝熱プレート部材12は、犠牲腐食層とろう材層とが交互に隣接するように配置されている。このようにして、伝熱プレート部材12の凸部14は、図5に示すように、内部流体IFである冷媒が流れるジグザグ状の内部流体通路を形成すると共に、外部流体OFである空調用空気が複雑に蛇行して流れる綾状の通路を形成する。したがって、伝熱プレート部材12の凸部14は、外部流体OFとの伝熱促進構造と内部流体IFの流路構造との両機能を有している。
【0020】
また、伝熱プレート部材12には、その長手方向(空調用空気の流れ方向と直交する方向)の両端部に、2列の凸部群に対応して、それぞれ2個ずつタンク部15〜18が形成されている。このタンク部15〜18は、円形状又は長円形状に形成され、凸部14と同一方向に打ち出し成形された椀状突出部からなり、その中央部には連通穴15a〜18aが開口している。この連通穴15a〜18aは、冷媒通路相互の連通を行うためのものである。
多数個の凸部14のうち、タンク部15〜18に隣接する両端部の凸部14は、その内部の凹部内間が各タンク部15〜18の凹部空間と連通する。伝熱プレート部材12は、その凸部14及びタンク部15〜18の凹面同志及び凸面同志が当接するように積層されて接合される。ここで、凸部が外側に向くように配置して凹面同志が当接する2枚一組の伝熱プレート部材12は、図5に示すように相互の細長形状の凸部14が逆方向に傾斜して交差した状態で接合される。
【0021】
この凸部14の交差部、即ち重合部で多数の凸部14の内部空間相互の間が連通状態となり、ジグザグ状の冷媒通路19,20を形成する。冷媒通路19は、空気流れ方向の下流側のタンク部15,16の間を連通させる空気下流側の冷媒通路であり、冷媒通路20は、空気流れ方向の上流側のタンク部17,18の間を連通させる空気上流側の冷媒通路である。従って、空気流れ方向の前後に位置する2列の凸部群によって、空気流れ方向と直交する方向に内部流体IFである冷媒を流す2列の冷媒通路19,20が構成される。2列の冷媒通路19,20間は、伝熱プレート部材12の幅方向の中央部Cに位置する基板部13同志の接合部により分離されている。
【0022】
冷媒通路19,20を構成する2枚一組の伝熱プレート部材12を、多数組積層して接合することにより熱交換コア11が構成される。伝熱プレート部材12の積層方向の両端側には、伝熱プレート部材12と同じ大きさの平板状のエンドプレート21,22が配設されている。図4において左側のエンドプレート21には、下側の空気下流側タンク部15に連通される冷媒入口パイプ23、及び上流の空気上流側タンク部18に連通される冷媒出口パイプ24が結合されている。
【0023】
また、図4の右側のエンドプレート22には、下側の空気下流側タンク部15に連通する連通穴22aと、上側の空気上流側タンク部18に連通する連通穴22bが形成されている。このエンドプレート22の外側の面にはサイドプレート25がさらに接合されている。このサイドプレート25は、凹形状にプレス成形されたものである。サイドプレート25がエンドプレート22に接合されることにより、図6,7に示すようにエンドプレート22との間に冷媒通路26が形成される。この冷媒通路26は、連通穴22a,22bを介して下側の空気下流側タンク部15と上側の空気上流側タンク部18との間を連通する。この場合、空気下流側タンク部15及び空気上流側タンク部18の中央部に仕切り部(図示せず)を設ける。これにより、空気下流側で逆U字形状に流れる冷媒通路が形成され、また空気上流側でU字形状に流れる冷媒通路が形成される。
【0024】
本実施形態の蒸発器10は、上記のように構成されており、その製造は以下のように行われる。まず、ろう材層、芯材層及び犠牲腐食層の3層構造よりなる伝熱プレート部材12に伝熱促進構造と流路構造の両機能をもつ凸部14をプレス成形により加工する。このとき、サイドプレート25も同様にプレス加工する。2枚一組となる伝熱プレート部材12を犠牲腐食層とろう材層とが交互に隣接するように積層配置すると共に、他の構成部品であるエンドプレート21,22やサイドプレート25等も組み付けて、この積層状態(組付状態)を適宜の治具により仮保持して、ろう付け用の加熱炉内に搬入する。加熱炉内で組付体(積層体)をろう材の融点まで加熱することにより、組付体を一体にろう付けする。加熱炉内から組付体を取り出し、治具を外す。これにより、蒸発器10の組付(製造)を完了できる。
【0025】
次に本実施形態の蒸発器10の作用を説明する。内部流体IFである冷凍サイクル低圧側の気液2相冷媒が、上記した通路構成に従って、まず空気下流側冷媒通路19内をジグザグ状に、かつ全体として逆U字状に流れ、サイドプレート25の冷媒通路26で反転して、空気上流側冷媒通路20内をジグザグ状に、かつ全体としてU字状に流れる。一方、外部流体OFである空調空気は、図7に示すように熱交換コア11の伝熱プレート部材12の外面側に突出している凸部14の間に形成される間隙を波状に蛇行しながら流れる。この空気の流れから冷媒は蒸発潜熱を吸熱して蒸発するので、空調空気は冷却され、冷風となる。
【0026】
この際、空調空気の流れ方向に対して、空気下流側に冷媒入口側熱交換部を、また空気上流側に冷媒出口側熱交換部をそれぞれ区画形成するとともに、冷媒入口側熱交換部と冷媒出口側熱交換部において冷媒の流れ方向を一致させている。このような冷媒通路構成とすることで、気液2相冷媒の液相冷媒と気相冷媒とが冷媒通路19,20に対してある程度不均一に分配されても、空調空気の蒸発器の吹出空気温度を蒸発器10の全域に渡って均一化できる。また、冷媒は冷媒通路19,20内をジグザグ状でかつU字状に3次元的に方向転換した流れを形成して、その流れを乱すので、冷媒側の熱伝達率を高めることができる。
【0027】
一方、空気側においては、細長状の凸部14が直交状にクロスした伝熱面を形成しているので、空気はこの直交状にクロスした伝熱面に沿って流れ、直進を妨げられる。このため、空気流は図5に示すように伝熱プレート部材12の平面方向に複雑に蛇行した流れを形成する。同時に、図7に示すように伝熱プレート部材12の積層方向にも空気OFは波状に蛇行した流れを形成する。この結果、伝熱プレート部材12の凸部14による外面側へ凸面の間隙からなる空気通路を空気OFは3次元的に方向転換した流れを形成して、その流れを乱すので、空気流れが乱流状態となり、空気側の熱伝達率を飛躍的に向上することができる。
【0028】
本発明においては、3層構造の伝熱プレート部材の材料の化学成分を変えて、図4〜7に示される実施形態の熱交換器(蒸発器)を弗化物フラックスを用いるろう付け法で製作した種々の熱交換器のサンプルを使用して腐食試験を行った。その評価結果が図8の表に示されている。
この腐食試験は、以下のような条件で行った。
浸漬液としては、Clイオン6000ppm+SO4イオン200ppm+Cuイオン10ppmを含む液を使用し、噴霧液としては、Clイオン3000ppm+SO4イオン1360ppmを含むpH3の液を使用した。また、熱交換器の伝熱プレート部材は、板厚0.2mm、クラッド率として犠牲腐食層20%、ろう材層15%のものを使用している。
試験方法としては、まず上記浸漬液に24時間浸漬後、上記噴霧液によるサイクル噴霧試験を実施した。
サイクル試験条件は、噴霧50℃1.5h→乾燥50℃1h→湿潤50℃1.5hである。
この試験結果(評価結果)が図8の表に示される。この表において、化学成分の残部は、Al+不純物である。
【0029】
この表から、犠牲腐食層面は、評価したサンプルはいずれも良好な耐食性を示した。また、ろう材層面は、ろう材にZnの添加があれば良好な耐食性を示したが、Znが添加されない場合は犠牲腐食層からのZnの飛来に依存するので、犠牲腐食層のZnは、1.5〜5.0質量%の添加が必要であった。
このことから、本発明では、犠牲腐食層の材料としては、Al−Zn合金又はAl−Zn−Mn合金が採用可能であり、その化学成分としては、Znが1.5〜5.0質量%、Mnが2.0質量%以下のものが好ましい。
また、ろう材層の材料としては、卑な低電位することが好適であり、Al−Si合金、Al−Si−Zn合金、Al−Si−Mn−Zn合金等が採用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施の形態による伝熱プレート部材のろう付け部分の拡大図である。
【図2】伝熱プレート部材を積層した状態を示す図である。
【図3】別の実施形態の伝熱プレート部材(a)とその積層状態(b)を示す図である。
【図4】更に別の実施形態の伝熱プレート部材を使用した本発明の実施の形態の熱交換器を示す分解斜視図である。
【図5】図4の熱交換器を用いる2枚の伝熱プレート部材の重合状態を示す図である。
【図6】図5のX−X断面図である。
【図7】図5のY−Y断面図である。
【図8】伝熱プレート部材を変えて、弗化物フラックスを用いるろう付け法で製作した種々の熱交換器サンプルを使用して腐食試験を行った評価結果を示す表である。
【図9】従来の伝熱プレート部材を使用した熱交換コアを示す図である。
【図10】従来の伝熱プレート部材を使用した熱交換コアを示す図である。
【符号の説明】
【0031】
1,12 伝熱プレート部材
1A 芯材層
1B ろう材層
1C 犠牲腐食層
2,14 凸部
10 熱交換器(蒸発器)
OF 外部流体(空調用空気)
IF 内部流体(冷媒)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム材よりなる芯材層(1A)の片面に低電位のろう材層(1B)を、他の片面に犠牲腐食層(1C)をクラッドした3層構造の伝熱プレート部材(1,12)において、
前記ろう材層(1B)のろう材として、Al−Si合金か、Al−Si−Zn合金又はAl−Si−Mn−Zn合金のいずれかの合金を採用し、
前記犠牲腐食層(1C)が、Al−Zn合金又はAl−Zn−Mn合金で構成されていることを特徴とする伝熱プレート部材。
【請求項2】
アルミニウム材よりなる芯材層(1A)の片面に低電位のろう材層(1B)を、他の片面に犠牲腐食層(1C)をクラッドした3層構造の板材を成形した伝熱プレート部材(1,12)を積層して形成した熱交換器(10)において、
前記伝熱プレート部材(1,12)には、外部流体(OF)の伝熱促進構造(2,14)と内部流体(IF)の流路構造(2,14)とが一体で成形加工されていて、前記伝熱プレート部材(1,12)は、前記犠牲腐食層(1C)と前記ろう材層(1B)とが交互に隣接するように積層配置され、前記伝熱プレート部材(1,12)の外部流体伝熱面と隣接対向する他方の前記伝熱プレート部材(1,12)の外部流体伝熱面とが部分的に互いに接するように一方或いは両方の前記伝熱プレート部材(1,12)に凸形状(2,14)を形成したことを特徴とする熱交換器。
【請求項3】
前記犠牲腐食層(1C)が、Al−Zn合金又はAl−Zn−Mn合金で構成されることを特徴とする請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記犠牲腐食層(1C)の材料の化学成分が、Zn:1.5〜5.0質量%で、Mn:2.0質量%以下であることを特徴とする請求項3に記載の熱交換器。
【請求項5】
前記ろう材層(1B)のろう材が、Al−Si合金か、Al−Si−Zn合金又はAl−Si−Mn−Zn合金のいずれかの合金を採用したことを特徴とする請求項2,3又は4に記載の熱交換器。
【請求項6】
前記外部流体(OF)が通る部分にフィンが設けられていないことを特徴とする請求項2〜5のいずれか一項に記載の熱交換器。
【請求項7】
アルミニウム材よりなる芯材層(1A)の片面に低電位のろう材層(1B)を、他の片面に犠牲腐食層(1C)をクラッドした3層構造の伝熱プレート部材(1,12)を積層して形成する熱交換器(10)の製造方法が、以下の段階、
前記伝熱プレート部材(1,12)に外部流体(OF)との伝熱促進構造(2,14)と内部流体(IF)の流路構造(2,14)とを一体に成形加工する段階と、
成形加工された前記伝熱プレート部材(1,12)を、犠牲腐食層(1C)とろう材層(1B)とが交互に隣接するように積層配置し、得られた積層体を治具により仮保持する段階と、
仮保持された前記積層体を加熱炉内に搬入して、加熱してろう付けする段階と、
を含むことを特徴とする熱交換器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−127306(P2007−127306A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318541(P2005−318541)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】