説明

伝熱性弾性シート

【課題】新規な伝熱性電気絶縁剤を採用することにより、目的とするシート形状への成形を可能とするだけの操作性を確保しつつ、従来の金属酸化物に比して少ない配合量で伝熱性能を大幅に向上させることが出来る、新規な伝熱性弾性シートを提供すること。
【解決手段】シリコーンゴム等の高分子弾性材料からなる混合組成物をシート状に成形し、架橋して得られる伝熱性弾性シートにおいて、伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末を採用した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気絶縁性とゴム状弾性特性を確保しつつ優れた熱伝導性を実現することの出来る新規な伝熱性弾性シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワートランジスタやサイリスタ,整流器,トランス等の発熱性電気部品では、通電によって発生する熱を外部に効率的に逃がすことが重要となる。そこで、従来から、発熱性電気部品に放熱部品を装着するに際して、それら発熱性電気部品と放熱部品の間に伝熱性弾性シートを装着した構造が採用されている。
【0003】
すなわち、伝熱性弾性シートを介在させることにより、発熱性電気部品と放熱部品の重ね合わせ面における凹凸に起因する隙間を充填して接触熱抵抗を低減することが出来る。これにより、発熱性電気部品から放熱部品へ効率的に熱伝導させて、放熱部品による放熱効果をより有効に発揮させることが可能となるのである。
【0004】
また、近年では、液晶ディスプレイにおいて、それぞれ多数が直線状に並ぶ液晶パネル側の電極端子列と駆動回路側の配線端子列とをロウ接するに際して、それら両端子列と電気鏝の間に介在させるクッションシートとしても、同様な伝熱性弾性シートが採用されている。かかるクッションシートにおいても、両端子列と電気鏝の各形状に追従して効率的な熱伝達を実現することが要求される。
【0005】
ところで、このような伝熱性弾性シートとしては、一般に、耐熱性の高いシリコーンゴムを主体とし、その伝熱性能を向上させるために、酸化アルミニウムや酸化マグネシウム等の金属酸化物の粉末を配合した混合組成物を用い、それをシート状に成形したものが採用されている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、従来の伝熱性弾性シートでは、伝熱性能を向上させるために金属酸化物の配合量を増やすと、弾性シートの物性が低下してしまうという問題があった。具体的には、金属酸化物の配合量の増大によって、カレンダロール加工等の成形に支障を来したり、弾性シートを介して重ね合わせられる両部材への形状追従性が低下して重ね合わせ面に隙間が発生することにより充分な伝熱性能を安定して得ることが難しくなる等といった問題が発生するのである。
【0007】
それ故、従来の伝熱性弾性シートでは、要求される弾性特性を確保しつつ、高度な伝熱性能を実現することが、非常に難しかったのである。
【0008】
【特許文献1】特開昭47−32400号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、新規な伝熱性電気絶縁剤を採用することにより、目的とするシート形状への成形を可能とするだけの操作性を確保しつつ、従来の金属酸化物に比して少ない配合量で伝熱性能を大幅に向上させることが出来る、新規な伝熱性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために、本発明者が多くの実験と検討を重ねた結果、特定の粉末を高分子弾性材料に配合することにより、従来の金属酸化物を配合する場合に比して少ない配合量で伝熱性能を向上させることが出来、それ故、柔軟性や電気絶縁性,操作性等を充分に確保しつつ優れた伝熱性能を発揮し得る新規なゴム状弾性材を実現することを見い出したのであって、かかる知見に基づいて、本発明が完成され得たのである。
【0011】
すなわち、本発明の特徴とするところは、高分子弾性材料に伝熱性電気絶縁剤を配合した混合組成物をシート状に成形し、架橋して得られる伝熱性弾性シートにおいて、前記伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末を採用した伝熱性弾性シートにある。
【発明の効果】
【0012】
本発明に従い、金属ケイ素を伝熱性電気絶縁剤として配合することにより、後述の実施形態や実施例の記載から明らかなように、従来の金属酸化物を伝熱性電気絶縁剤として採用した場合に比して、少ない配合量で伝熱性能が向上され得たシリコーンゴムを得ることが出来る。
【0013】
特に、従来の金属酸化物を伝熱性電気絶縁剤として採用する場合に比して、配合量を抑えることが出来ることから、シート形状への成形性や柔軟性も充分に実用レベルに維持することが可能となる。
【0014】
なお、伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素を採用したことでかくの如き格別の効果が発揮され得る理由は、未だ充分に解明されておらず、またその科学的解明が本発明の目的でもない。しかし、例えば、その理由の一つとして、金属ケイ素が有する熱伝導率の高さだけでなく、タップ密度等の物性が関係するものと推定される。
【0015】
すなわち、金属ケイ素は、タップ密度が約660であり、酸化アルミニウムや酸化マグネシウム等といった金属酸化物の800〜1320に比して小さい。それ故、シリコーンゴム材料等の高分子弾性材料と混合した際に、金属酸化物に比して金属ケイ素の粉末は、高分子弾性材料への混合状態下での分散性が良く、良好な混合状態が安定して発現されるものと推定される。
【0016】
しかも、金属ケイ素は、それ自体の熱伝導率を見ても168W/mK程度あり、これは酸化アルミニウムや酸化マグネシウム等といった金属酸化物の10〜60W/mKに比して非常に大きいのである。
【0017】
かくの如き、金属ケイ素に固有の物性が高分子弾性材料と好適にマッチングすることとなり、その結果、高分子弾性材料中に金属ケイ素を比較的に少ない配合量で全体に略均一に分散混合させることで、柔軟性や強度等といった弾性特性や成形性を有利に確保しつつ、目的とする伝熱性能が、弾性材の全体によって良好に且つ安定して発現され得ることになると考えられる。また、高分子弾性材として特にシリコーンゴムを採用した場合には、シリコーンゴム自体のゴム特性である粘着性も充分に維持され得ることから、シリコーンゴムを装着するに際して特別な粘着付与剤等も一般に必要とすることがなくなって優れた操作性が発揮され得るのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について説明する。
【0019】
先ず、本発明において用いられる高分子弾性材料としては、ゴム材料とエラストマー材料の何れも挙げることが出来る。具体的に例示すると、シリコーンゴムやエチレンプロピレンゴム、天然ゴム、イソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等のゴム材料の他、エチレン酢酸ビニルやエチレンメタクリレート共重合体、塩素化ポリエチレン等のエラストマー材料などをはじめとして、各種の公知のゴム材料やエラストマー材料が高分子弾性材料として、本発明において採用されることとなる。
【0020】
特に、高分子弾性材料としてシリコーンゴムが好適に採用され得るが、かかるシリコーンゴムは、公知のポリオルガノシロキサンを架橋させることによって得られるものであって、それ自体は、公知のとおり、架橋後において、電気絶縁性や耐熱性等に優れた物性を有するものであり、低硬度で柔軟性や形状追従性,加工性にも優れている。即ち、本発明では、従来から知られている各種のシリコーンゴムが、目的とする伝熱性弾性シートのマトリックス材料として、特に好適に採用され得る。
【0021】
具体的には、その架橋形態として、有機過酸化物によるラジカル反応型の他、ビニル基を含むポリオルガノシロキサンとケイ素原子に結合した水素原子を有するオルガノハイドロジェンと白金系触媒とによる付加反応型や、縮合反応型などが、限定されることなく挙げられる。またその組成としても、メチルビニルシラン系の他、メチルフェニルシラン系、ジメチルシラン系、メチルフルオロアルキルシラン系などが、限定されることなく挙げられる。これらのシリコーンゴムは、何れも、上述の如き物性を共通に備えているからである。
【0022】
ここにおいて、本発明では、特に、メチルビニルシラン系のシリコーンゴムを用いることが望ましい。それにより、金属ケイ素の配合量を比較的に多く設定した場合等においても、ゴムシートの柔軟性や成形性を一層有利に確保することが出来て、シートの利用範囲を広範に設定することも可能となる。
【0023】
また、本発明では、特に、金属ケイ素の配合の操作性を良好とし、更にマトリックス中への金属ケイ素の分散をより均一化するために、液状のシリコーンゴム材料が好適に採用され得る。
【0024】
なお、かくの如きシリコーンゴム材料や、上述のエチレンプロピレンゴム材料をはじめとする各種ゴム材料やエラストマー材料などの高分子弾性材料には、架橋剤の他、従来から公知の可塑剤や粘着剤、オイル、架橋遅延剤等の成形助剤、着色剤、耐熱向上剤などが、適宜に、必要に応じて配合され得る。また、従来から伝熱性電気絶縁剤として採用されていた酸化アルミニウムや酸化マグネシウムなども必要に応じて添加しても良い。更に、炭化ケイ素、グラファイト、補強用二酸化ケイ素、静電防止カーボン等を配合することも可能である。
【0025】
一方、かくの如き高分子弾性材料に配合される金属ケイ素は、熱伝導性と電気絶縁性に優れた公知のものであり、これを粉末にして、マトリックスとしての高分子弾性材料中に分散させる。金属ケイ素は、一般に珪石を原料として電気炉等で還元することによって得られたものであって、窒化ケイ素やニューセラミックス、耐火煉瓦などの材料として提供されていることから、市場において容易に入手することが出来るものである。特に本発明では、一般に入手できる金属ケイ素粉末で充分であり、高純度化処理する前のもの、即ち純度が95〜99%程度のものを採用可能である。
【0026】
この金属ケイ素の粉末は、平均粒径が20μm以下であることが望ましい。この粉末の金属ケイ素は、平均粒径を指定した粉末状態のものを市場において容易に入手することが出来る。
【0027】
金属ケイ素の平均粒径が20μmより大きいと、伝熱性能の向上は実現され得るものの、目的とする高分子弾性シートの特性によっては、強度や引裂強さ、耐久性、ゴム弾性(伸び)等に関して要求値を満足し難くなる。また、目的とする高分子弾性シートの厚さ寸法や、要求される密着性などによっては、シート表面の凹凸が問題となるおそれもある。
【0028】
特に、より良好なシート強度や耐久性、弾性等を得るためには、平均粒径が好ましくは20μm以下、より好ましくは10μm以下の金属ケイ素粉末を採用する。
【0029】
一方、金属ケイ素粉末の粒径が余り小さいと、粉末加工上の問題や取扱上の問題もあり、収率が低下してコスト高となる。それ故、好適には金属ケイ素粉末の平均粒径が2μm以上とされ、より好適には5μm以上の平均粒径の金属ケイ素粉末が採用される。
【0030】
さらに、このような金属ケイ素粉末の高分子弾性材料に対する配合量は、弾性シートの用途や要求特性等に応じて適当に設定されるものであって、特に限定されるものでない。しかし、一般的な電気部品と放熱部品の間への装着用途を考慮すると、金属ケイ素の配合量は、高分子弾性材料の100重量部あたり15〜300重量部とすることが望ましい。より好適には、高分子弾性材料の100重量部あたり50重量部以上、更に好ましくは100重量部以上、金属ケイ素粉末が配合されることとなる。また、より好適には、高分子弾性材料の100重量部あたり200重量部以下、更に好適には150重量部以下、金属ケイ素粉末が配合されることとなる。
【0031】
蓋し、金属ケイ素粉末の配合量が少なすぎると得られる高分子弾性シートにおいて目的とする熱伝導率の向上効果を十分に得ることが難しいからであり、反対に金属ケイ素の配合量が多すぎると得られる高分子弾性シートの弾性特性が低下してしまい、用途等によっては要求される柔軟性や伸びが得られ難く、形状追従性が悪くなって装着時の電気部品や放熱部品等への密着性が十分に得られ難くなるおそれがあるからである。
【0032】
なお、上記の配合量の算定基準となる高分子弾性材料は、弾性材原料単体でなく、それに適当な添加剤や更に架橋材を配合した高分子弾性体の成形材料である。具体的に例示すると、例えばシリコーンゴム材料であれば、ポリオルガノシロキサンの原料単体でなく、それに適当な添加剤や更に架橋剤を配合したゴム材料である。このような高分子弾性材料は、各材料毎に、或いはシリコーンゴム原料に適当な添加剤を予め配合したものとして、市場において複数の企業から提供されており、容易に入手することができる。また、金属ケイ素の配合量の算定基準を、このようにポリオルガノシロキサン等の高分子弾性材の原料単体でなく、それに適当な添加剤等を配合した弾性材料とすることは、単に入手や実施が容易であるというだけでなく、金属ケイ素の配合量によって発現される上述の如き熱伝導率の向上効果や弾性特性の変化が、金属ケイ素の分散状態に基づくものであって、シリコーンゴム原料単体等の高分子弾性体の原料単体を基準とするよりもシリコーンゴム材料等の高分子弾性材料を基準とした方が有意に把握され得るからである。
【0033】
また、本発明において採用される金属ケイ素は、その粒子形状を特に限定されるものでない。例えば、球状、扁平状、顆粒状、塊状、繊維状、針状、鱗片状、ペレット状、ウィスカー状などとして市場に提供されているもの、或いは不定形とされているものであっても良い。なかでも、一般破砕形として市場に提供されているものは、比較的に安価且つ容易に入手できることから有効である。
【0034】
続いて、上述の如きシリコーンゴム等の高分子弾性材料をマトリックスとし、これに伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末を分散状態で配合せしめた混合組成物を成形材料とした、目的とする弾性シートを製造する工程について説明を加える。
【0035】
先ず、シリコーンゴム材料等の高分子弾性材料中に金属ケイ素粉末を配合する際には、金属ケイ素粉末を出来るだけ均一に分散させることが望ましい。かかる目的のために、例えばミキサー等を用いた混練工程が採用される。かかるミキサーとしては、回転形ミキサーやプラネタリミキサー等の公知のものが採用可能である。
【0036】
なお、高分子弾性材料中への金属ケイ素粉末の均一分散性をより向上させるために、例えば金属ケイ素粉末に適当な表面処理を施すことも可能である。この表面処理としては、例えばシランカップリング剤やアルミニウムカップリング剤、ケイ素化合物などを採用することができる。
【0037】
かくの如くして得られた成形材料を用いて目的とする弾性シートを得るには、目的とするシート形状やシート寸法、更には成形材料の特性などを考慮して、適当な成形方法が採用される。特に限定されるものでないが、例えば、カレンダー成形の他、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、射出成形、プレス圧延成形などが、採用可能である。なお、液状シリコーンゴム材料等の液状の高分子弾性材料を採用する場合には、塗工法や印刷法、ボンディング、ディッピングなどの成形方法も好適に採用され得る。また、成形と同時或いは成形後における架橋も、加熱と加圧によるものの他、電磁波や放射線によるものなども採用可能である。なお、何れの成形法や架橋方法による場合においても、原料や各種添加剤などの添加や追加配合などは、目的とする弾性シートの特性に問題を生じない限り、限定されることなく任意の工程で変更、設定可能である。また、エラストマー材料等の場合において、架橋処理が必ずしも必要でないことは言うまでもない。
【0038】
そして、このようにして得られた本発明に従う伝熱性弾性シートにおいては、伝熱性電気絶縁剤としての金属ケイ素粉末が、高分子弾性体中に均一に分散されてなる構造を有しているのであり、そのような特定物質の特定構造が実現されたことによって、従来の金属酸化物を伝熱性電気絶縁剤として採用した場合に比して、少ない配合量で伝熱性能が有利に向上され得るのである。
【0039】
特に従来の金属酸化物を伝熱性電気絶縁剤として採用する場合に比して、伝熱性電気絶縁剤としての金属ケイ素粉末の配合量を抑えつつ、優れた伝熱性能を得ることが可能となることから、高度の伝熱性能の実現とあわせて、伝熱性弾性シートにおける伸びや形状追従性を良好に得ることができるのであり、良好な実用性が発揮される。
【0040】
特に、高分子弾性材料100重量部に対する金属ケイ素粉末200重量部以下、或いは100重量部以下、或いは50重量部以下、或いは15重量部の少ない配合量であっても、高度な伝熱特性を実現可能である。このように少ない伝熱性電気絶縁剤の配合量で優れた伝熱特性が実現されることから、高度な熱伝導率を確保しつつ、充分な伸び特性や引張強さ及び硬さを有する弾性シートを有利に得ることが可能となる。
【実施例】
【0041】
以下、本発明の実施例および比較例を挙げることにより、本発明を更に具体的に明らかにする。なお、以下の実施例における具体的な記載や上述の実施形態における例示的な記載によって、本発明は、何等、限定的に解釈されるものでない。
【0042】
また、以下の実施例および比較例における熱伝導率の測定は、非定常熱線法の原理に基づくプローブ法を採用することにより、熱線法と同じ熱伝導率値を直接に求めることによって行なった。具体的には、京都電子工業株式会社製の「Kemtherm QTM−D3迅速熱伝導率計」(商品名)を用いて試料の熱伝導率を測定した。
【0043】
メチルビニルシラン系のシリコーンゴム材料として東レ・ダウコーニング株式会社製の「SE1647U」(商品名)を用い、このシリコーンゴム材料100g(比重:1.18)に対して、伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末(タップ密度:659kg/m3 )を340cm3 を配合した。これに、架橋剤として東レ・ダウコーニング株式会社製の2・5ジメチル,2・5ジ(ターシャリブチルパーオキシ)ヘキサンを有効成分とする「RC−4」(商品名)を添加して、これを混練したことによって混合組成物としての成形材料を得た。なお、上記の市販のシリコーンゴム材料(SE1647U)には、予め二酸化ケイ素,静電防止カーボンが所定量だけ配合されている。すなわち、本実施例では、これらの市販のシリコーンゴム材料(SE1647U)と架橋剤(RC−4)により、高分子弾性材料が構成されている。
【0044】
得た成形材料をカレンダー成形で、厚さ0.3mmのシート状に成形した後、温度164℃×10分間で架橋した。
【0045】
このようにして得られた伝熱性弾性シートとしてのシリコーンゴムシートについて、熱伝導率を実測した結果を、実施例1として以下の〔表1〕に示す。
【0046】
また、上記金属ケイ素の粉末に代えて、伝熱性電気絶縁剤として、酸化アルミニウムの5種類と、酸化マグネシウムと、炭化ケイ素と、グラファイトを、それぞれ採用した場合について、何れも、同じ条件でシリコーンゴムシートを得た。これら計8種類の得られたシリコーンゴムシートについて、それぞれ、熱伝導率を測定した結果を、比較例1〜8として、〔表1〕に併せ示す。
【0047】
なお、伝熱性電気絶縁剤としてグラファイトを採用した比較例8では、高い熱伝導率が得られるものの、得られたゴムシートにおいて弾性が殆どなく、ゴム特性を殆ど示さないものであって、極めて容易にひびや割れが発生することから、到底、実用に供し得ないものであった。
【0048】
【表1】

【0049】
かかる〔表1〕に示す結果からも、シリコーンゴムにおいて、金属ケイ素粉末を配合することにより、従来から用いられていた伝熱性電気絶縁剤に比して、熱伝導率を優位に向上させることの出来ることが判る。
【0050】
次に、上記実施例と同じシリコーンゴム材料(SE1647U)および架橋剤(RC−4)を採用し、これに配合する伝熱性電気絶縁剤としての金属ケイ素粉末の配合量を種々異ならせて複数種類の成形材料を得た。これらの成形材料を用いて、上記実施例と同様にしてカレンダー成形で、厚さ0.3mmのシート状成形体を得、温度164℃で10分間の架橋を行なうことで、本発明に従うシリコーンゴムシートとして実施例2〜7を得た。
【0051】
これら実施例2〜7について、それぞれ、熱伝導率を測定すると共に、引張強さ(JIS K6251)を測定した。その結果を、以下の〔表2〕に示す。なお、〔表2〕中の金属ケイ素粉末の配合量は、高分子弾性材料の100重量部に対する配合重量で表す。
【0052】
また、上記実施例2〜7と同じ条件下で、金属ケイ素粉末を配合しない場合について、同じ条件でシリコーンゴムシートを得た。更にまた、実施例2〜7と同じ条件で、金属ケイ素粉末に代えて、従来から伝熱性電気絶縁剤として用いられていた酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを配合せしめた場合について、何れも、同じ条件でシリコーンゴムシートを得た。これら計3種類の得られたシリコーンゴムシートについて、それぞれ、熱伝導率等を同様に測定した結果を、比較例9〜11として、〔表2〕に併せ示す。
【0053】
【表2】

【0054】
かかる〔表2〕に示す結果からも、シリコーンゴム材料に対して金属ケイ素粉末を配合させることにより、かかる金属ケイ素粉末が伝熱性電気絶縁剤として有効に作用し得ることが確認できた。特に、メチルビニルシラン系のシリコーンゴム材料を採用したこれらの実施例から、シリコーンゴム材料の100重量部に対して金属ケイ素粉末を50重量部以上配合させることにより、1.0W/mK以上の優れた熱伝導率を備えたゴムシートを得ることを出来ることも確認できた。また、伝熱性電気絶縁剤として従来の酸化アルミニウムや酸化マグネシウムを添加した場合に比して、本発明に従い金属ケイ素粉末を添加することにより、得られるゴムシートにおける熱伝導率が有利に向上されることは勿論、引張強さや成形操作性(ハンドリング)などのゴム特性までも大幅に向上され得ることが認められる。
【0055】
続いて、メチルフェニルシラン系のシリコーンゴム材料として東レ・ダウコーニング株式会社製の「SE955U」(商品名)を用いると共に、架橋剤として東レ・ダウコーニング株式会社製の「RC−4」(商品名)を採用した。すなわち、本実施例の、高分子弾性材料としてのシリコーンゴムは、これら市販のメチルフェニルシラン系シリコーンゴム材料(SE955U)と架橋剤(RC−4)により構成されている。これに伝熱性電気絶縁剤としての金属ケイ素粉末を採用し、高分子弾性材料100重量部に対して金属ケイ素粉末を194重量部配合して成形材料を得た。この成形材料を用いて、上記実施例2〜7と同様にしてカレンダー成形で、厚さ0.3mmのシート状成形体を得、温度164℃×10分間で架橋を行なうことで、本発明に従うシリコーンゴムシートとして実施例8を得た。
【0056】
かかる実施例8について、熱伝導率を測定すると共に、伸び(JIS K6251)、硬さ(JIS−A)の各値を測定した。その結果を、以下の〔表3〕に示す。
【0057】
また、上記ケイ素粉末に代えて、従来から伝熱性電気絶縁剤として用いられていた酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを配合せしめた場合について、何れも、同じ条件でシリコーンゴムシートの成形と、得られたゴムシートの特性測定を試みた。その結果を比較例12,13として、〔表3〕に併せ示す。
【0058】
【表3】

【0059】
かかる〔表3〕に示す結果からも、メチルフェニルシラン系のシリコーンゴム材料を採用する場合にも、本発明が有利に適用されることが明らかである。特に、伝熱性電気絶縁剤として従来の酸化アルミニウムや酸化マグネシウムを添加した場合に比して、本発明に従い金属ケイ素粉末を添加することにより、得られるゴムシートにおける熱伝導率を同等かそれ以上に実現するに際して、本発明に従う実施例では非常に優れた成形性やゴム特性が発現され得ることが認められる。
【0060】
次に、メチルビニルシラン系のシリコーンゴム材料として東レ・ダウコーニング株式会社製の「SH747U」(商品名)を用いると共に、架橋剤として東レ・ダウコーニング株式会社製の「RC−4」(商品名)を採用した。すなわち、本実施例では、これら市販のメチルビニルシラン系のシリコーンゴム材料(SH747U)と架橋剤(RC−4)により、高分子弾性材料が構成されている。これに伝熱性電気絶縁剤としての金属ケイ素粉末を採用し、高分子弾性材料100重量部に対して金属ケイ素粉末をそれぞれ10〜146重量部配合して、各成形材料を得た。これらの成形材料を用いて、上記実施例2〜7と同様にしてカレンダー成形で、厚さ0.3mmのシート状成形体を得、温度164℃×10分間で架橋を行なうことで、本発明に従うシリコーンゴムシートとして実施例9〜12を得た。
【0061】
これら実施例9〜12について、熱伝導率を測定すると共に、引張強さ(JIS K6251)を測定した。その結果を、以下の〔表4〕に示す。
【0062】
また、上記実施例9〜12と同じ条件下で、金属ケイ素粉末を配合しない材料を用いてシリコーンゴムシートを成形した。更にまた、実施例9〜12と同じ条件下で、金属ケイ素粉末に代えて、従来から伝熱性電気絶縁剤として用いられていた酸化アルミニウムまたは酸化マグネシウムを配合せしめた場合について、何れも、同じ条件でシリコーンゴムシートを得た。これら計3種類の得られたシリコーンゴムシートについて、それぞれ、熱伝導率等を同様に測定した結果を、比較例14〜16として、〔表4〕に併せ示す。
【0063】
【表4】

【0064】
かかる〔表4〕に示す結果からも、シリコーンゴム材料に対して金属ケイ素粉末を配合させることにより、かかる金属ケイ素粉末が伝熱性電気絶縁剤として有効に作用し得ることが確認できた。特に、メチルビニルシラン系のシリコーンゴム材料を採用したこれらの実施例から、高分子弾性材料の100重量部に対して金属ケイ素粉末を15重量部以上配合させることにより1.0W/mK以上の良好な熱伝導率を備えたゴムシートを得ることを出来ることが確認できた。また、伝熱性電気絶縁剤として従来の酸化アルミニウムや酸化マグネシウムを添加した場合に比して、本発明に従い金属ケイ素粉末を添加することにより、優れた熱伝導率を得ることが出来ると共に、得られるゴムシートにおける引張強さや成形操作性などのゴム特性が大幅に向上され得ることが認められる。
【0065】
続いて、オレフィン系ゴム材料としてのエチレンプロピレンゴムとして、JSR株式会社製の「EP33」(商品名)を採用して、これを主な成分とする高分子弾性材料100重量部に対して、伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末を、以下の〔表5〕に示すとおりに、それぞれ配合した。すなわち、エチレンプロピレンゴム材料(EP33)73.5重量部に、架橋剤として三井石油化学株式会社製の「Dicup40C」(商品名)を3.7重量部、添加オイルとして出光興産株式会社製の「ダイアナPW−50」を22.1重量部、界面活性剤として花王株式会社製の「ステアリン酸150」を0.7重量部、それぞれ添加して、各所定量の金属ケイ素粉末を添加し、更にこれを混練したことによって成形材料を得た。
【0066】
得られた成形材料を、厚さ略2.3mmで分出しして、架橋処理を施すことによって略2mm厚さのゴムシートを得た。なお、架橋条件は、温度170℃×15分である。
【0067】
このようにして得られた7種類のゴムシートについて、熱伝導率を実測した結果を、実施例13〜19として、以下の〔表5〕に示す。
【0068】
また、上記金属ケイ素の粉末に代えて、伝熱性電気絶縁剤として、酸化アルミニウムを採用した場合について、何れも、同じ条件でエチレンプロピレンゴムシートを得た。得られた4種類のゴムシートについて、それぞれ、熱伝導率と引張強さを測定した結果を、比較例17〜20として、〔表5〕に併せ示す。
【0069】
【表5】

【0070】
かかる〔表5〕に示す結果からも、エチレンプロピレンゴムにおいて、金属ケイ素粉末を配合することにより、従来から用いられていた伝熱性電気絶縁剤に比して、熱伝導率を優位に向上させることの出来ることが判る。特に、エチレンプロピレンゴム材料を採用したこれらの実施例から、高分子弾性材料100重量部に対して金属ケイ素粉末を100重量部以上配合させることにより0.6W/mK以上の良好な熱伝導率を備えたゴムシートを得ることが出来、更に金属ケイ素粉末を200重量部以上配合させることにより1.1W/mK以上の一層優れた熱伝導率を備えたゴムシートを得ることを出来ることが確認できた。また、伝熱性電気絶縁剤として従来の酸化アルミニウムや酸化マグネシウムを添加した場合に比して、本発明に従い金属ケイ素粉末を添加することにより、少ない添加量で大きな熱伝導率を効率的に得ることが出来ると共に、得られるゴムシートにおける引張強さなどのゴム特性が大幅に向上され得ることが認められる。
【0071】
因みに、上記実施例17〜19と比較例17〜20について熱伝導率の測定結果をグラフに表わしたものを、〔図1〕に示す。この〔図1〕から、伝熱性電気絶縁剤として従来から用いられていた酸化アルミニウムに比して、本発明に従い金属ケイ素を採用することにより、エチレンプロピレンゴムの伝熱性能が極めて効率的に向上され得ることを、より明瞭に認識することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の実施例17〜19における熱伝導率の測定結果を、比較例17〜20における熱伝導率の測定結果と併せて示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子弾性材料に伝熱性電気絶縁剤を配合した混合組成物をシート状に成形し、架橋して得られる伝熱性弾性シートにおいて、
前記伝熱性電気絶縁剤として金属ケイ素粉末を採用したことを特徴とする伝熱性弾性シート。
【請求項2】
前記金属ケイ素粉末の平均粒径が20μm以下である請求項1に記載の伝熱性弾性シート。
【請求項3】
前記金属ケイ素粉末の配合量が、前記高分子弾性材料の100重量部あたり15〜300重量部である請求項1又は2に記載の伝熱性弾性シート。
【請求項4】
前記高分子弾性材料がシリコーンゴムである請求項1乃至3の何れか一項に記載の伝熱性弾性シート。
【請求項5】
前記シリコーンゴムが、メチルビニルシラン系シリコーンゴムである請求項4に記載の伝熱性弾性シート。
【請求項6】
熱伝導率が1.0W/mK以上である請求項1乃至5の何れか一項に記載の伝熱性弾性シート。

【図1】
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【公開番号】特開2007−311628(P2007−311628A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140331(P2006−140331)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(591005006)クレハエラストマー株式会社 (37)
【Fターム(参考)】