説明

位相同期回路

【目的】 入力信号のジッタのみに応じて適切なループフィルタ特性を適用可能なことを課題とする。
【構成】 入力信号INと発振出力OUTとの間の位相差を検出する位相比較器11と、該位相比較器の比較出力を積分するループフィルタ12と、該ループフィルタの出力に対応する周波数の前記発振出力を生成する発振回路13とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路であって、入力信号に位相同期し、十分に位相雑音の少ない基準信号PLを生成するPLL回路21と、入力信号と基準信号間の位相差を検出する位相比較器22と、該位相比較器の比較出力を積分するローパスフィルタ23と、該ローパスフィルタの出力を周波数解析して得られた周波数成分に基づき第1の周波数f1を求めると共に、該第1の周波数よりも低い一定の関係にある第2の周波数f2によってループフィルタ12の帯域幅を制御するフィルタ制御部24とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相同期回路に関し、更に詳しくは、入力信号と第1の発振出力との間の位相差を検出する第1の位相比較器と、該第1の位相比較器の比較出力を積分する第1のループフィルタと、該第1のループフィルタの出力に対応する周波数の前記第1の発振出力を生成する第1の発振回路とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路に関する。
【背景技術】
【0002】
位相同期回路は、通信装置等における入力信号(クロック信号)のジッタ抑圧や、クロック周波数の乗り換えの目的で使用される。入力信号のジッタは位相同期回路内のループフィルタによって抑圧されるが、位相同期回路が使用される環境(通信システムの特性等)に応じてループフィルタのカットオフ周波数(帯域幅)を適切に変更する必要がある。
【0003】
従来は、予め複数種帯域のル−プフイルタを設けておき、入力の基準信号とVCOの出力信号との間の位相差を比較して該比較信号のジツタ成分を監視すると共に、検出したジツタ成分を減少させるのに適したル−プフイルタを選択するPLL同期回路が知られている(特許文献1)。
【特許文献1】特開平04−096514(要約,図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来技術のように入力信号とVCO出力との間の位相差を監視する方式であると、監視対象のジッタは、入力信号のジッタのみならず、VCO出力のジッタにも同時に影響を受けることになるため、ループフィルタの適切な切替えを行えない。
【0005】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、その目的とする所は、入力信号のジッタのみに応じて適切なループフィルタ特性を適用可能な位相同期回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は例えば図1の構成により解決される。即ち、本発明(1)の位相同期回路は、入力信号INと第1の発振出力OUTとの間の位相差を検出する第1の位相比較器11と、該第1の位相比較器の比較出力を積分する第1のループフィルタ12と、該第1のループフィルタの出力に対応する周波数の前記第1の発振出力を生成する第1の発振回路13とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路であって、前記入力信号に位相同期し、該入力信号に比べて十分に位相雑音の少ない基準信号PLを生成するPLL回路21と、前記入力信号と基準信号間の位相差を検出する第2の位相比較器22と、該第2の位相比較器の比較出力を積分するローパスフィルタ23と、該ローパスフィルタの出力を周波数解析して得られた周波数成分に基づき第1の周波数f1を求めると共に、該第1の周波数よりも低い一定の関係にある第2の周波数f2によって前記第1のループフィルタ12の帯域幅(カットオフ周波数)を制御するフィルタ制御部24とを備えるものである。
【0007】
本発明(1)では、PLL回路21により低ジッタの基準信号PLを生成し、入力信号INのみからのジッタ成分を抽出可能な構成により、入力信号INの位相、周波数に速やかに追従すると共に、そのジッタ成分を十分に抑制可能なループフィルタ特性を容易に設
定可能となる。従って、位相同期回路の使用される様々な通信環境によらず、常に適切な応答特性で安定な出力信号OUTを生成できる。
【0008】
また上記の課題は例えば図4の構成により解決される。即ち、本発明(2)の位相同期回路は、入力信号INと第1の発振出力OUTとの間の位相差を検出する第1の位相比較器11と、該第1の位相比較器の比較出力を積分する第1のループフィルタ12と、該第1のループフィルタの出力に対応する周波数の前記第1の発振出力を生成する第1の発振回路13とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路であって、前記入力信号を所定時間遅延させた遅延信号DLを出力する遅延回路31と、前記入力信号と遅延信号間の位相差を検出する第2の位相比較器22と、該第2の位相比較器の比較出力を積分するローパスフィルタ23と、該ローパスフィルタの出力を周波数解析して得られた周波数成分に基づき第1の周波数f1を求めると共に、該第1の周波数よりも低い一定の関係にある第2の周波数f2によって前記第1のループフィルタ12の帯域幅(カットオフ周波数)を制御するフィルタ制御部24とを備えるものである。
【0009】
本発明(2)では、入力信号と比較する基準信号(基準位相)の生成に遅延回路31を使用する構成により、位相同期回路を低コストで提供できる。
【0010】
本発明(3)では、上記本発明(1)又は(2)において、フィルタ制御部は、ローパスフィルタ出力を周波数解析して得られた1又は2以上の周波数成分のうち最大振幅のものに対応する第1の周波数f1に対して1/10〜1/100の範囲内の周波数を第2の周波数f2とするものである。従って、入力ジッタの主成分に応じた適正なループフィルタを設定できる。
【0011】
本発明(4)では、上記本発明(1)又は(2)において、フィルタ制御部は、ローパスフィルタ出力を周波数解析して得られた所定閾値を超える1又は2以上の周波数成分のうち最低周波数のものに対応する第1の周波数f1に対して1/10〜1/100の範囲内の周波数を第2の周波数f2とするものである。従って、入力ジッタの低周波成分を考慮した適正なループフィルタを設定できる。
【0012】
本発明(5)では、上記本発明(1)〜(4)において、第1のループフィルタ12をデジタルフィルタで構成したものである。
【発明の効果】
【0013】
以上述べた如く本発明によれば、位相同期回路の使用される様々な通信環境によらず、常に適切な応答特性で安定な出力信号OUTを生成できるため、位相同期回路の信頼性向上に寄与するところが大きい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、添付図面に従って本発明に好適なる実施の形態を詳細に説明する。なお、全図を通して同一符号は同一又は相当部分を示すものとする。
【0015】
図1は第1の実施の形態による位相同期回路のブロック図で、入力クロック信号のジッタ測定回路にPLL回路を使用した場合を示している。図において、11は入力のクロック信号INとVCO13の発振出力OUTとの間の位相差を検出する位相比較器、12は位相比較器11の比較出力(位相誤差)E1を積分するループフィルタ、13はループフィルタ12の出力信号V1に対応する周波数のクロック信号OUTを生成する電圧制御発振器(VCO)、20は入力信号INのジッタ成分を検出するジッタ測定回路、22は入力のクロック信号INとPLL回路21の発振出力PLとの間の位相差を検出する位相比較器、23は位相比較器22の比較出力を積分するローパスフィルタ、24はローパスフ
ィルタの出力信号を周波数分析し、その分析結果に応じてル−プフィルタ12の応答特性を切り替えるフィルタ制御部である。
【0016】
PLL回路21は入力信号INに位相同期し、該入力信号に比べて十分に位相雑音の少ない基準クロック信号PLを生成する。挿入図(a)にPLL回路21の構成を示す。図において、41は入力信号INとVCO43の発振出力PLとの間の位相を比較する位相比較器、42は位相比較器41の比較出力E3を積分するループフィルタ、43はループフィルタ42の出力信号V3に対応する周波数のクロック信号PLを生成する電圧制御発振器(VCO)である。
【0017】
このPLL回路21は、位相雑音特性に優れたVCO43を備えると共に、ループフィルタ42のカットオフ周波数(帯域)を想定される入力信号INのジッタに対して十分に低く設定してあるため、出力には入力信号INに位相同期したジッタの少ない基準クロック信号PLが得られる。
【0018】
図3に第1の実施の形態によるジッタ測定回路の動作タイミングチャートを示す。入力のクロック信号INにはジッタが含まれており、該クロック信号INの公称周波数に対応する周期を基準として、相対的な遅れ位相(周期が長い場合)を−1、基準位相を0、進み位相(周期が短い場合)を+1でそれぞれ表している。一方、PLL回路21の出力の基準信号PLは入力信号INに位相同期しており、ジッタ成分を殆ど含んでいない。この状態で、位相比較器22は入力信号INと基準信号PLとの間の位相を比較しており、入力信号INの位相が遅れた時は誤差信号E2=+1、同一位相の時はE2=0、進んだ時は誤差信号E2=−1の比較結果信号をそれぞれ出力する。ローパスフィルタ23では比較信号(位相誤差信号)E2を積分し、積分信号V2を出力する。この積分信号V2には入力信号INのジッタ成分が反映されている。
【0019】
図1において、フィルタ制御部24は、ローパスフィルタ23の出力信号V2を不図示のFFT演算器等により周波数解析し、得られた1又は2以上の周波数成分(シーケンシ)に基づき該出力信号V2の周波数を代表するような第1の周波数f1を求めると共に、該第1の周波数f1よりも低い一定の関係にある第2の周波数f2によってループフィルタ12の帯域幅(カットオフ周波数)f2を制御する。
【0020】
図2(A)に一例のループフィルタ12の構成を示す。このループフィルタ12はラグ・リードタイプのアクティブフィルタからなっており、各素子R1,R2,Cの値を基準として、これらにスイッチ回路S1〜S3によりR11,R21,C11等を付加/削除することにより、位相同期回路の閉ループ伝達関数を変更可能となっている。
【0021】
即ち、参考文献(「PLL周波数シンセサイザ・回路設計法」小沢利行著:総合電子出版社)によれば、アクティブフィルタ12を使用した位相同期回路の閉ループ伝達関数M(s)=OUT(s)/IN(s)は、これを周波数特性の絶対|M(jω)|で表すと、(1)式、
【0022】
【数1】

【0023】
で与えられる。ここで、自然角周波数ωnは、
【0024】
【数2】

【0025】
で与えられ、またダンピングファクタζは、
【0026】
【数3】

【0027】
で与えられる。ここで、ループゲインKは、位相比較器のゲインKpとVCOの感度Kvとの積によって与えられる。
【0028】
図2(B)に位相同期回路の伝達関数|M(jω)|の周波数特性を示す。位相同期回路のカットオフ周波数(帯域幅)f2は|M(jω)|=1/√2(−3dB)を解くことにより、(4)式、
【0029】
【数4】

【0030】
で与えられる。即ち、位相同期回路のカットオフ周波数f2はダンピングファクタζの関数となっており、本実施の形態にでは、回路の応答速度とオーバシュートとを考慮して、例えばζ=0.707に選ばれる。
【0031】
従って、上記(3)式から所望のカットオフ周波数f2を得るためのR1,R2,Cの値を決定できる。本実施の形態では、所領のカットオフ周波数f2を得るためのR11,R12、R21,R22,C11,C12の組が予めテーブル化(不図示)されており、フィルタ制御部24は以下の方法により求めたカットオフ周波数f2でテーブルを参照してループフィルタ12の特性を切り替える。
【0032】
具体的には、今、入力信号INのジッタで支配的な周波数成分がf1であったとすると、位相同期回路のカットオフ周波数f2が、f2≪f1となるようにループフィルタ12を制御する。但し、このカットオフ周波数f2はあまり小さくし過ぎると入力信号INに
対する追従性が損なわれるので、f2≪f1の関係を満足した上で、できるだけ高くする。例えばf1の1/10〜1/100の範囲内でf2を決定する。
【0033】
この場合に、入力ジッタの支配的な周波数成分f1としては、例えばローパスフィルタ23の出力を周波数解析して得られた1又は2以上の周波数成分のうち最大振幅のものに対応する周波数を第1の周波数f1とする。或いは、ローパスフィルタ出力を周波数解析して得られた所定閾値を超える1又は2以上の周波数成分のうち最低周波数又は最高周波数のものに対応する周波数を第1の周波数f1とする。以上の構成により、入力のクロック信号INに位相同期した発振信号OUTを適正に出力できる。
【0034】
図4は第2の実施の形態による位相同期回路のブロック図で、入力信号のジッタ測定回路に遅延回路を使用した場合を示している。図において、30はジッタ測定回路、31は入力信号INを所定時間(公称周波数に対応する1周期)だけ遅延させる遅延回路である。その他の構成については上記図1で述べたものと同様で良い。本第2の実施の形態では基準クロック信号を持たないため入力ジッタの検出精度は劣るが、PLL21の内部で使用したような位相雑音特性の優れた発振器43が不要となるため、コストダウンが図れる。
【0035】
図5に第2の実施の形態によるジッタ測定回路の動作タイミングチャートを示す。入力のクロック信号INには上記図3で述べたものと同様のジッタが含まれている。遅延回路31は入力信号INを所定時間(公称周波数に対応する1周期分)だけ遅延する。この状態で、位相比較器22は入力信号INと遅延信号DLとの間の位相を比較しており、入力信号INの位相が進んだ時は誤差信号E2=−1、同一位相の時はE2=0、遅れた時は誤差信号E2=+1の比較結果信号をそれぞれ出力する。ローパスフィルタ23では比較信号(位相誤差信号)E2を積分し、積分信号V2を出力する。この積分信号V2には入力信号INのジッタ成分が反映されている。その他の構成についての動作は上記第1の実施の形態で述べたものと同様でよい。
【0036】
なお、上記角実施の形態ではループフィルタ12にラグ・リードタイプのアクティブフィルタを使用したが、これに限定されない。通常のラグフィルタ、ラグリードフィルタ等を使用しても良い。また、ループフィルタ12をデジタルフィルタで構成し、LSI化すれば、LSI内部のフィルタ係数の変更のみでループフィルタ12の特性を変えることができる。
【0037】
また、上記本発明に好適なる複数の実施の形態を述べたが、本発明思想を逸脱しない範囲内で各部の構成、制御、処理及びこれらの組合せの様々な変更が行えることは言うまでも無い。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】第1の実施の形態による位相同期回路のブロック図である。
【図2】実施の形態によるループフィルタを説明する図である。
【図3】第1の実施の形態によるジッタ測定回路の動作タイミングチャートである。
【図4】第2の実施の形態による位相同期回路のブロック図である。
【図5】第2の実施の形態によるジッタ測定回路の動作タイミングチャートである。
【符号の説明】
【0039】
11 位相比較器
12 ループフィルタ
13 電圧制御発振器(VCO)
20 ジッタ測定回路
21 PLL回路
22 位相比較器
23 ローパスフィルタ
24 フィルタ制御部
31 遅延回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号と第1の発振出力との間の位相差を検出する第1の位相比較器と、該第1の位相比較器の比較出力を積分する第1のループフィルタと、該第1のループフィルタの出力に対応する周波数の前記第1の発振出力を生成する第1の発振回路とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路であって、
前記入力信号に位相同期し、該入力信号に比べて十分に位相雑音の少ない基準信号を生成するPLL回路と、
前記入力信号と基準信号間の位相差を検出する第2の位相比較器と、
該第2の位相比較器の比較出力を積分するローパスフィルタと、
該ローパスフィルタの出力を周波数解析して得られた周波数成分に基づき第1の周波数を求めると共に、該第1の周波数よりも低い一定の関係にある第2の周波数によって前記第1のループフィルタの帯域幅を制御するフィルタ制御部とを備えることを特徴とする位相同期回路。
【請求項2】
入力信号と第1の発振出力との間の位相差を検出する第1の位相比較器と、該第1の位相比較器の比較出力を積分する第1のループフィルタと、該第1のループフィルタの出力に対応する周波数の前記第1の発振出力を生成する第1の発振回路とを備え、入力信号に位相同期した発振信号を出力する位相同期回路であって、
前記入力信号を所定時間遅延させた遅延信号を出力する遅延回路と、
前記入力信号と遅延信号間の位相差を検出する第2の位相比較器と、
該第2の位相比較器の比較出力を積分するローパスフィルタと、
該ローパスフィルタの出力を周波数解析して得られた周波数成分に基づき第1の周波数を求めると共に、該第1の周波数よりも低い一定の関係にある第2の周波数によって前記第1のループフィルタの帯域幅を制御するフィルタ制御部とを備えることを特徴とする位相同期回路。
【請求項3】
フィルタ制御部は、ローパスフィルタ出力を周波数解析して得られた1又は2以上の周波数成分のうち最大振幅のものに対応する第1の周波数に対して1/10〜1/100の範囲内の周波数を第2の周波数とすることを特徴とする請求項1又は2記載の位相同期回路。
【請求項4】
フィルタ制御部は、ローパスフィルタ出力を周波数解析して得られた所定閾値を超える1又は2以上の周波数成分のうち最低周波数のものに対応する第1の周波数に対して1/10〜1/100の範囲内の周波数を第2の周波数とすることを特徴とする請求項1又は2記載の位相同期回路。
【請求項5】
第1のループフィルタをデジタルフィルタで構成したことを特徴とする請求項1乃至4の何れか一つに記載の位相同期回路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−251571(P2007−251571A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−71788(P2006−71788)
【出願日】平成18年3月15日(2006.3.15)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】