説明

位相同期回路

【課題】デジタル型の位相比較器だけで構成しつつ、不感帯の影響を排除して出力信号の位相雑音を低減する。
【解決手段】制御電圧Vcに応じた周波数の出力信号Soを出力する電圧制御発振器4と、位相比較対象信号Sdおよび基準信号Srを入力して、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して遅れているときには両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の第1パルス信号S1を出力し、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して進んでいるときには両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の第2パルス信号S2を出力する位相比較器2と、両パルス信号S1,S2を入力すると共に両パルス信号S1,S2の差分を積分して制御電圧Vcを出力するループフィルタ3とを備え、両パルス信号S1,S2のうちの一方のパルス信号の信号電圧を他方のパルス信号の信号電圧と異なる電圧に規定する電圧規定部6を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力信号の位相を入力信号の位相に同期させる位相同期回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の位相同期回路として、下記特許文献1に開示された位相同期回路(PLL回路)が知られている。この位相同期回路は、電圧制御発振器(VCO)と、参照信号と電圧制御発振器の出力成分信号との周波数差および位相差をデジタル検出する位相周波数比較型の第1の位相比較器と、参照信号と電圧制御発振器の出力成分信号との周波数差および位相差をビート検出するアナログミキサ型の第2の位相比較器と、第2の位相比較器のビート出力を受け、ビート周波数が所定周波数より大きいか否かを判定する判定回路と、第1の位相比較器または第2の位相比較器の検出出力を受け、電圧制御発振器の出力成分信号を参照信号に同期させる方向にループの応答特性を決定するループフィルタと、判定回路で第2の位相比較器のビート出力が所定周波数より大きいと判定されたとき、第1の位相比較器の検出出力をループフィルタへ入力させ、ビート出力が所定周波数より小さいと判定されたとき、第2の位相比較器の検出出力をループフィルタに入力させる切換回路とを備えている。
【0003】
この場合、デジタル型の位相比較器を使用した位相同期回路には、キャプチャレンジが広いというメリットがある一方で、デジタル回路の遅延性による不感帯がロック付近(位相差0°付近)に生じており、ロック付近でのループ利得が著しく減少して、フィードバック系の安定性が劣化するというデメリットも存在している。このため、上記位相同期回路では、デジタル型の第1の位相比較器およびアナログ型の第2の位相比較器の双方を備え、参照信号と電圧制御発振器の出力成分信号との周波数差が所定周波数以上のときには、キャプチャレンジの広い第1の位相比較器を用いて、電圧制御発振器の出力成分信号の周波数を参照信号に近づく方向に引き込ませている。また、この引き込みに起因して、参照信号と電圧制御発振器の出力成分信号との周波数差が所定周波数以下になったときには、第2の位相比較器に切り換えて、その後は第2の位相比較器の検出出力により、電圧制御発振器の出力成分信号を参照信号にロックさせている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−139917号公報(第1−2頁、第1図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記の位相同期回路には、以下の解決すべき課題が存在している。すなわち、この位相同期回路には、デジタル型の位相比較器だけでなく、アナログ型の位相比較器や切換回路が必要となるため、その分だけ回路規模が大きくなる結果、製品コストが上昇するという解決すべき課題が存在している。
【0006】
本発明は、かかる課題を解決すべくなされたものであり、デジタル型の位相比較器だけで構成しつつ、不感帯の影響を排除して出力信号の位相雑音を低減し得る位相同期回路を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく請求項1記載の位相同期回路は、制御電圧に応じた周波数の出力信号を出力する電圧制御発振器と、前記出力信号および当該出力信号の分周信号のいずれか一方を位相比較対象信号として入力すると共に基準信号を入力して、当該位相比較対象信号の位相が当該基準信号の位相に対して遅れているときには当該両信号の位相差に応じたパルス幅の第1パルス信号を出力し、当該位相比較対象信号の位相が当該基準信号の位相に対して進んでいるときには当該両信号の位相差に応じたパルス幅の第2パルス信号を出力する位相比較器と、前記第1パルス信号および前記第2パルス信号を入力すると共に、当該両パルス信号の差分に基づいて前記制御電圧を生成して出力するループフィルタとを備え、前記両パルス信号のうちの一方のパルス信号の信号電圧を他方のパルス信号の信号電圧と異なる電圧に規定する電圧規定部を備えている。
【0008】
また、請求項2記載の位相同期回路は、請求項1記載の位相同期回路において、前記電圧規定部は、前記第1パルス信号の前記信号電圧を規定する電圧および前記第2パルス信号の前記信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源を備えている。
【0009】
また、請求項3記載の位相同期回路は、請求項1記載の位相同期回路において、前記電圧規定部は、前記一方のパルス信号の前記信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源と、当該電圧源から出力される当該電圧を分圧すると共に当該分圧した電圧で前記他方のパルス信号の前記信号電圧を規定する分圧部とを備えている。
【0010】
また、請求項4記載の位相同期回路は、請求項1から3のいずれかに記載の位相同期回路において、前記位相比較器は、前記両パルス信号を出力する出力段がオープンコレクタ出力に構成されている。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の位相同期回路では、位相比較器から出力される第1パルス信号および第2パルス信号のうちの一方のパルス信号の信号電圧を他方のパルス信号の信号電圧と異なる電圧に規定する電圧規定部を備えている。
【0012】
したがって、この位相同期回路によれば、両パルス信号の信号電圧の電圧差を調整することにより、位相比較器に入力される基準信号と位相比較対象信号との間に所定の位相差を持たせた状態でロック状態に移行させることができ、このため、不感帯から外れた領域(リニア領域)においてロック状態に移行させることができる。この結果、デジタル型の位相比較器を使用するメリット(キャプチャレンジが広いというメリット)を確保しつつ、デジタル型の位相比較器が有する不感帯に起因したフィードバック系についての安定性の劣化を回避して(不感帯の影響を排除して)、安定した位相同期を実現することができる。また、フィードバックループのループ特性(具体的には、ループフィルタのゲイン特性および位相特性)に影響を与えることなく安定して位相同期を行えるため、出力信号の位相雑音を十分に低減することができる。
【0013】
また、請求項2記載の位相同期回路によれば、第1パルス信号の信号電圧を規定する電圧および第2パルス信号の信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源、つまり2系統の電圧を独立して出力可能な電圧源を備えて電圧規定部を構成したことにより、第1パルス信号および第2パルス信号の信号電圧の双方を変更することが可能となり、信号電圧の設定の自由度を高めて、不感帯を避けたリニア領域でのロック状態に確実に移行させることができる。
【0014】
また、請求項3記載の位相同期回路によれば、第1パルス信号および第2パルス信号のうちの一方のパルス信号の信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源と、電圧源から出力される電圧を分圧すると共に分圧した電圧で第1パルス信号および第2パルス信号のうちの他方のパルス信号の信号電圧を規定する分圧部とを備えて電圧規定部を構成したことにより、電圧規定部の電圧源を1系統の電源で構成しつつ、分圧部で他方のパルス信号の信号電圧を一方のパルス信号の信号電圧と異ならせることができるため、不感帯を避けたリニア領域でのロック状態に確実に移行させつつ、製品コストの低減を図ることができる。
【0015】
また、請求項4記載の位相同期回路によれば、位相比較器における両パルス信号を出力する出力段をオープンコレクタ出力に構成したことにより、各パルス信号が出力される出力端子をプルアップする抵抗に印加する電圧を変更するという簡単な構成でありながら、各パルス信号の信号電圧を容易に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】位相同期回路1の構成図である。
【図2】位相比較器2および電圧規定部6の回路図である。
【図3】位相同期回路1の動作を説明するための波形図である(Va=Vbの場合)。
【図4】位相同期回路1の動作を説明するための波形図である(Va>Vbの場合)。
【図5】図4の構成におけるロック状態での波形図である。
【図6】位相同期回路1の不感帯を説明するための説明図である。
【図7】他の電圧規定部6の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係る位相同期回路1の実施の形態について説明する。
【0018】
まず、位相同期回路1の構成について、図面を参照して説明する。
【0019】
位相同期回路1は、図1に示すように、デジタル型の位相比較器2、ループフィルタ3、電圧制御発振器(VCO)4、分周器5および電圧規定部6を備え、出力信号Soを分周したパルス信号としての分周信号である位相比較対象信号Sdの位相をパルス信号としての基準信号Srの位相に一致させる機能を備えている。
【0020】
位相比較器2は、一例として、図2に示すように、2つのフリップフロップ(本例では一例としてDフリップフロップ)11,12、1つのNAND素子13、および2つのNPN型バイポーラトランジスタ(以下、「トランジスタ」ともいう)14,15を備え、デジタル回路で構成されている。具体的には、各フリップフロップ11,12の入力端子(D)は、各フリップフロップ11,12の電源電圧Vccにプルアップされている。また、各フリップフロップ11,12の非反転出力端子(Q1)は、NAND素子13の入力端子に接続されている。また、各フリップフロップ11,12の非反転出力端子(Q1)は、トランジスタ14,15のベース端子にそれぞれ接続されている。また、各フリップフロップ11,12のクリア端子(リセット端子。CR)は、NAND素子13の出力端子に接続されている。また、フリップフロップ11のクロック端子には、基準信号Srが入力され、フリップフロップ12のクロック端子には、分周器5が出力信号Soを分周して生成した分周信号が位相比較対象信号Sdとして入力される。トランジスタ14,15は、各々のエミッタ端子がグランドに接続されると共に、各々のコレクタ端子が位相比較器2の2つの出力端子(不図示)に接続されて、オープンコレクタ型の出力段を構成する。
【0021】
この構成により、位相比較器2は、各トランジスタ14,15のコレクタ端子が抵抗を介して同一電圧にプルアップされ(図2に示す電圧Vaと電圧Vbが等しいとき)、かつ基準信号Srおよび位相比較対象信号Sdが入力されている状態において、図3における区間Taのように位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して遅れているときには、両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の第1パルス信号(パルス信号)S1を位相比較対象信号Sdの周期(基準信号Srの周期でもある)で出力する。具体的には、位相比較器2は、基準信号Srの立ち上がりに同期して「High」レベル(信号電圧Va。以下、「電圧Va」ともいう)から「Low」レベルに移行し、位相比較対象信号Sdの立ち上がりに同期して「Low」レベルから「High」レベルに移行する第1パルス信号S1(負極性のパルス信号)を出力する。また、図3における区間Tbのように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して進んでいるときには、位相比較器2は、両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の第2パルス信号(パルス信号)S2を位相比較対象信号Sdの周期(基準信号Srの周期でもある)で出力する。具体的には、位相比較器2は、位相比較対象信号Sdの立ち上がりに同期して「High」レベル(信号電圧Vb。以下、「電圧Vb」ともいう)から「Low」レベルに移行し、基準信号Srの立ち上がりに同期して「Low」レベルから「High」レベルに移行する第2パルス信号S2(負極性のパルス信号)を出力する。
【0022】
一方、図3における区間Tcのように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相と一致しているときには、位相比較器2は、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2のいずれも出力しない。つまり、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2は、「High」レベルに維持された状態となる。
【0023】
ループフィルタ3は、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2を入力すると共に、両パルス信号S1,S2の差分に基づいて制御電圧Vcを生成して出力する。本例では一例として、ループフィルタ3は、演算増幅器などを用いて積分器として構成されて、両パルス信号S1,S2の各平均レベルの差分を積分することにより、この差分に応じて電圧値が変化する制御電圧Vcを生成する。本例では、ループフィルタ3は、第1パルス信号S1の平均レベルが第2パルス信号S2の平均レベルよりも低いときには、制御電圧Vcの電圧値を上昇させ、また第1パルス信号S1の平均レベルが第2パルス信号S2の平均レベルよりも高いときには、制御電圧Vcの電圧値を低下させる。電圧制御発振器4は、制御電圧Vcに応じた周波数(fo)の出力信号Soを出力する。一例として、電圧制御発振器4は、制御電圧Vcの電圧値の上昇に伴い、出力信号Soの周波数(fo)を上昇させ、制御電圧Vcの電圧値の低下に伴い、出力信号Soの周波数(fo)を低下させる。分周器5は、設定された分周比(1/n:nは所定の正の実数)で出力信号Soを分周して、位相比較対象信号Sdとして出力する。
【0024】
電圧規定部6は、一例として、電圧源21、および2本の抵抗22,23を備えている。この場合、電圧源21は、2系統の電圧Va,Vbを独立して出力可能に構成されると共に、各電圧Va,Vbを個別に調整可能(例えば、+5ボルト〜+4ボルトの範囲内で調整可能)に構成されている。抵抗22は、電圧Va用の出力端子と位相比較器2のトランジスタ14のコレクタ端子(位相比較器2の一方の出力端子)との間に接続され、抵抗23は、電圧Vb用の出力端子と位相比較器2のトランジスタ15のコレクタ端子(位相比較器2の他方の出力端子)との間に接続されている。この構成により、電圧規定部6は、図2に示すように、位相比較器2の一方の出力端子(つまり、トランジスタ14のコレクタ端子)を抵抗22を介して電圧Vaにプルアップし、位相比較器2の他方の出力端子(つまり、トランジスタ15のコレクタ端子)を抵抗23を介して電圧Vbにプルアップする。
【0025】
次に、位相同期回路1の動作について説明する。なお、発明の理解を容易にするため、分周器5から出力される位相比較対象信号Sdの周波数(fo/n)と、基準信号Srの周波数(fr)とがほぼ同じ状態にあるものとする。
【0026】
後述するように各電圧Va,Vbを異なる電圧に規定した場合の位相同期回路1の動作の理解を容易にするため、最初に、電圧規定部6から出力される各電圧Va,Vbを同一電圧(Va=Vb)に規定した構成の位相同期回路1の動作について説明する。
【0027】
この構成において、図3に示す区間Taのように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して遅れているときには、位相比較器2は、両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の負極性の第1パルス信号S1を位相比較対象信号Sdの周期(基準信号Srの周期でもある)で出力すると共に、第2パルス信号S2の出力を停止する(第2パルス信号S2のレベルを電圧Vb(=Va)に維持する)。ループフィルタ3は、両パルス信号S1,S2の各平均レベルの差分を積分して制御電圧Vcを生成して出力する。この場合、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の「High」レベルが同一電圧値であり、かつ負極性の第1パルス信号S1のみが出力されている状態であるため、第1パルス信号S1の平均レベルが第2パルス信号S2の平均レベルよりも低くなる。このため、ループフィルタ3は、その制御電圧Vcの電圧値を上昇させる。電圧制御発振器4は、制御電圧Vcの電圧値の上昇に伴い、出力している出力信号Soの周波数(fo)を上昇させる。これにより、分周器5が出力信号Soを分周して出力する位相比較対象信号Sdの周波数も上昇して、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差が減少する。
【0028】
一方、図3に示す区間Tbのように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して進んでいるときには、位相比較器2は、両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅に規定された負極性の第2パルス信号S2を位相比較対象信号Sdの周期(基準信号Srの周期でもある)で出力すると共に、第1パルス信号S1の出力を停止する(第1パルス信号S1のレベルを電圧Vaに維持する)。ループフィルタ3は、両パルス信号S1,S2の各平均レベルの差分を積分して制御電圧Vcを生成して出力する。この場合、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の「High」レベルが同一電圧値であり、かつ負極性の第2パルス信号S2のみが出力されている状態であるため、第2パルス信号S2の平均レベルが第1パルス信号S1の平均レベルよりも低くなる。このため、ループフィルタ3は、その制御電圧Vcの電圧値を低下させる。電圧制御発振器4は、制御電圧Vcの電圧値の低下に伴い、出力している出力信号Soの周波数(fo)を低下させる。これにより、分周器5が出力信号Soを分周して出力する位相比較対象信号Sdの周波数も低下して、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差が減少する。
【0029】
位相同期回路1では、位相比較器2、ループフィルタ3、電圧制御発振器4および分周器5が上記の動作を繰り返すことにより、最終的には、位相比較器2から出力される両パルス信号S1,S2の平均レベルが一致した状態に移行する。この際には、図3に示す区間Tcのように、位相比較器2からの両パルス信号S1,S2の出力が停止した状態、すなわち、基準信号Srの位相に対して位相比較対象信号Sdの位相が一致した状態(位相差がゼロの状態)であり、ループフィルタ3から出力される制御電圧Vcが所定の電圧値で安定し、電圧制御発振器4から出力される出力信号Soの周波数(fo)が、基準信号Srの周波数(fr)のn倍の周波数で安定した状態(ロック状態)となる。しかしながら、このように電圧規定部6から出力される各電圧Va,Vbを同一電圧に規定した構成での位相比較器2は、従来の位相比較器と同様にして、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差がゼロの状態、つまり図6に示す不感帯内でのロック状態となるため、ループ利得が著しく減少して、フィードバック系の安定性が低下した状態となっている。
【0030】
次に、電圧規定部6から出力される各電圧Va,Vbを異なる電圧(一例としてVb<Va)に規定した構成での位相比較器2の動作について説明する。
【0031】
この構成においても、図4に示す区間Ta(図3の区間Taに対応する区間)のように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して遅れているときには、位相比較器2は、両信号Sd,Srの位相差に応じたパルス幅の負極性の第1パルス信号S1を位相比較対象信号Sdの周期(基準信号Srの周期でもある)で出力すると共に、第2パルス信号S2の出力を停止する(第2パルス信号S2のレベルを電圧Vbに維持する)。ループフィルタ3は、両パルス信号S1,S2の各平均レベルの差分を積分して制御電圧Vcを生成して出力する。この場合、第1パルス信号S1の「High」レベルよりも第2パルス信号S2の「High」レベルが低い電圧値であるが、第1パルス信号S1のパルス幅が所定幅よりも広いとき(つまり、両パルス信号S1,S2の位相差がα(位相同期回路1がロック状態のときの両パルス信号S1,S2の位相差)よりも大きいとき)には、第1パルス信号S1の平均レベルが第2パルス信号S2の平均レベルよりも低くなる。この場合には、ループフィルタ3は、その制御電圧Vcの電圧値を上昇させ、電圧制御発振器4は、制御電圧Vcの電圧値の上昇に伴い、出力している出力信号Soの周波数(fo)を上昇させる。これにより、分周器5が出力信号Soを分周して出力する位相比較対象信号Sdの周波数も上昇して、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差が減少する。
【0032】
一方、第1パルス信号S1の「High」レベルよりも第2パルス信号S2の「High」レベルが低い電圧値であるため、図4に示す区間Tdのように、第1パルス信号S1が出力されている状態であっても、そのパルス幅が所定幅未満(つまり、両パルス信号S1,S2の位相差がα未満)のときには、第1パルス信号S1の平均レベルが第2パルス信号S2の平均レベルよりも高くなる。この場合には、ループフィルタ3は、その制御電圧Vcの電圧値を低下させ、電圧制御発振器4は、制御電圧Vcの電圧値の低下に伴い、出力している出力信号Soの周波数(fo)を低下させる。これにより、分周器5が出力信号Soを分周して出力する位相比較対象信号Sdの周波数も低下して、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差が増加する。
【0033】
また、図4に示す区間Tb(図3の区間Tbに対応する区間)のように、位相比較対象信号Sdの位相が基準信号Srの位相に対して進んでいるときには、上記した各電圧Va,Vbを同一電圧とする構成と同様にして、位相比較器2、ループフィルタ3、電圧制御発振器4および分周器5が作動する。これにより、分周器5が出力信号Soを分周して出力する位相比較対象信号Sdの周波数が低下して、基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間の位相差が減少する。
【0034】
位相同期回路1では、位相比較器2、ループフィルタ3、電圧制御発振器4および分周器5が上記の動作を繰り返すことにより、最終的には、位相比較器2から出力される両パルス信号S1,S2の平均レベルが一致した状態に移行する。本例では、電圧Vaに対して電圧Vbが低い電圧値に規定されている。このため、位相同期回路1は、位相比較器2が、図5に示すように、所定幅で第1パルス信号S1を出力し、かつ第2パルス信号S2の出力を停止した状態、すなわち、基準信号Srに対して位相比較対象信号Sdが位相αだけ遅れた状態(位相差がαの状態)でロック状態となる。したがって、この位相差αが図6に示す不感帯を超えて(不感帯を外れて)リニア領域に達するように、各電圧Va,Vbの電圧差を規定することにより、位相同期回路1をこのリニア領域においてロック状態に移行させることができるため、ループ利得の低下が回避される。
【0035】
このように、この位相同期回路1では、位相比較器2から出力される第1パルス信号S1および第2パルス信号S2のうちの一方のパルス信号の信号電圧(電圧Va,Vbのうちの一方)を他方のパルス信号の信号電圧(電圧Va,Vbのうちの他方)と異なる電圧値に規定する電圧規定部6を備えている。したがって、この位相同期回路1によれば、各電圧Va,Vbの電圧差を調整することにより、位相比較器2に入力される基準信号Srと位相比較対象信号Sdとの間に所定の位相差αを持たせた状態でロック状態に移行させることができ、このため、不感帯から外れた領域(リニア領域)においてロック状態に移行させることができる。この結果、デジタル型の位相比較器2を使用するメリット(キャプチャレンジが広いというメリット)を確保しつつ、デジタル型の位相比較器2が有する不感帯に起因したフィードバック系についての安定性の劣化を回避して(不感帯の影響を排除して)、安定した位相同期を実現することができる。また、フィードバックループのループ特性(具体的には、ループフィルタ3のゲイン特性および位相特性)に影響を与えることなく安定して位相同期を行えるため、出力信号Soの位相雑音を十分に低減することができる。
【0036】
また、この位相同期回路1によれば、位相比較器2における第1パルス信号S1および第2パルス信号S2を出力する出力段をオープンコレクタ出力に構成したことにより、各パルス信号S1,S2が出力される出力端子をプルアップする抵抗22,23に印加する電圧Va,Vbを変更するという簡単な構成でありながら、各パルス信号S1,S2の信号電圧(「High」レベルの電圧)を容易に変更することができる。
【0037】
なお、上記の構成に限定されずに適宜変更が可能である。例えば、2系統の電圧Va,Vbを独立して出力可能な電圧源21を採用して、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の信号電圧(電圧Va,Vb)の双方を変更可能に構成することにより、信号電圧の設定の自由度を高めて、不感帯を避けたリニア領域で確実にロック状態に移行できるようにしているが、リニア領域でロック状態に移行させるためには、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の信号電圧のうちのいずれか一方の電圧値を変更可能に構成してもよい。このため、第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の信号電圧のうちのいずれか一方を位相同期回路1を構成する各デジタル回路の電源電圧Vccでプルアップし、残りの他方を抵抗を介して電圧規定部6から出力される電圧でプルアップする構成を採用することもできる。一例として、図2に示す電圧Vbに代えて、各デジタル回路の電源電圧Vccを抵抗23に印加し、抵抗22にのみ電圧規定部6から電圧Vaを印加する構成を採用することもできる。この構成によれば、電圧規定部6の電圧源21を1系統の電源で構成して電圧Va,Vbの電圧値を互いに異ならせることができるため、製品コストの低減を図ることができる。
【0038】
また、位相比較器2における第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の各出力端子を1本の抵抗22,23でプルアップする構成に代えて、図7に示すように、抵抗24を介して所定の電圧(例えば電圧Va)を各出力端子のうちの1つに接続し、分圧部としての抵抗25,26で所定の電圧(同図では電圧Va)を分圧した電圧Va1を他の1つの出力端子に印加する構成を採用することもできる。この構成によれば、抵抗25,26の分圧比を変えることによって電圧Va1の電圧値を変更することができる。また、このように分圧した電圧Va1を1つの出力端子に印加する場合には、上記した所定の電圧として、電圧Vaに代えて各デジタル回路の電源電圧Vccを使用する構成を採用することもできる。この構成では、電圧源21を省いて、抵抗24〜26だけで電圧規定部6を構成することができる。
【0039】
また、位相比較器2を構成するフリップフロップ11,12にDフリップフロップを使用して構成しているが、これに限定されず、JKフリップフロップやRSフリップフロップを使用して構成することもできる。また、位相比較器2から出力される第1パルス信号S1および第2パルス信号S2の各出力段を1つのトランジスタを用いたオープンコレクタ出力段としているが、差動回路などを用いたオープンコレクタ出力段としてもよいのは勿論である。また、分周器5を用いて、任意の周波数(fo)の出力信号Soを生成可能とした例について上記したが、分周器5を省いて、位相比較対象信号Sdに代えて出力信号Soを位相比較器2に入力することにより、基準信号Srと同一周波数の出力信号Soを生成する構成を採用することもできる。
【符号の説明】
【0040】
1 位相同期回路
2 位相比較器
3 ループフィルタ
4 電圧制御発振器
6 電圧規定部
21 電圧源
22〜26 抵抗
S1 第1パルス信号
S2 第2パルス信号
Sd 位相比較対象信号
So 出力信号
Sr 基準信号

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御電圧に応じた周波数の出力信号を出力する電圧制御発振器と、
前記出力信号および当該出力信号の分周信号のいずれか一方を位相比較対象信号として入力すると共に基準信号を入力して、当該位相比較対象信号の位相が当該基準信号の位相に対して遅れているときには当該両信号の位相差に応じたパルス幅の第1パルス信号を出力し、当該位相比較対象信号の位相が当該基準信号の位相に対して進んでいるときには当該両信号の位相差に応じたパルス幅の第2パルス信号を出力する位相比較器と、
前記第1パルス信号および前記第2パルス信号を入力すると共に、当該両パルス信号の差分に基づいて前記制御電圧を生成して出力するループフィルタとを備え、
前記両パルス信号のうちの一方のパルス信号の信号電圧を他方のパルス信号の信号電圧と異なる電圧に規定する電圧規定部を備えている位相比較回路。
【請求項2】
前記電圧規定部は、前記第1パルス信号の前記信号電圧を規定する電圧および前記第2パルス信号の前記信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源を備えている請求項1記載の位相比較回路。
【請求項3】
前記電圧規定部は、前記一方のパルス信号の前記信号電圧を規定する電圧を出力する電圧源と、当該電圧源から出力される当該電圧を分圧すると共に当該分圧した電圧で前記他方のパルス信号の前記信号電圧を規定する分圧部とを備えている請求項1記載の位相比較回路。
【請求項4】
前記位相比較器は、前記両パルス信号を出力する出力段がオープンコレクタ出力に構成されている請求項1から3のいずれかに記載の位相比較回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−226327(P2010−226327A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−70279(P2009−70279)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000227180)日置電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】