説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】長手方向のクリップ間隔の調整できない通常のテンターを用いて、光学特性領域の広い、より有用な位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】フィルム3をテンター2内に供給し、テンター2内で、フィルム3の両端部をテンターレール5、6の複数のクリップ10で把持してフィルム3の幅方向に延伸する位相差フィルムの製造方法において、フィルム3を幅方向への延伸が終了すると同時に、フィルム3の端部をクリップ10から開放し、開放すると同時にフィルムを冷却することを特徴とする位相差フィルムの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルムの製造方法に係り、特に、通常のテンター延伸により、光学特性領域の広い位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、熱可塑性フィルムを延伸し、面内のレターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させ、液晶表示装置の位相差フィルムとして使用し、視野角拡大を図ることが実施されている。
【0003】
熱可塑性フィルムを延伸する方法としては、縦(長手)方向に延伸する方法(縦延伸)や、横(幅)方向に延伸する方法(横延伸)、或いは縦延伸と横延伸を順に行う方法(逐次2軸延伸)が挙げられる。
【0004】
これらのうち、縦延伸は設備がコンパクトなため、従来から多く用いられてきた。通常、縦延伸は、2対以上のニップロールの間でフィルムをガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、入口側のニップロールの搬送速度より出口側の搬送速度を速くすることで縦方向に延伸する。
【0005】
また、横延伸はテンターを用いて幅方向に延伸する方法が知られている。幅方向に延伸することにより、光軸が幅方向になるため、偏光子との張り合わせがロールtoロールで行うことができるなどのメリットがある。
【0006】
しかし、テンターでの幅方向延伸では、Rth/Reが1以上となるため、Rth/Reが1未満の位相差フィルムを作成するには、幅方向に拘束しない自由端一軸延伸方法を用いるのが一般的であった。
【0007】
一方、下記の特許文献1には、長手方向のクリップ間隔を変更することが可能な同時二軸延伸装置を用いた位相差フィルムの製造方法が記載されている。このような装置を用いて製造することで、Rth/Reが1以下となる位相差フィルムの製造を行うことができる。
【0008】
また、下記の特許文献2には、テンターによって縦方向と横方向に同時二軸延伸を行うフィルムの製造方法が開示されている。この方法によれば、フィルムが開放部材を通過する際に、各クリップ10同士の間隔が搬送方向と幅方向に拡げる製造方法が記載されている。これにより、フィルムを縦方向、および横方向に同時に延伸を行うことができる。
【特許文献1】特開2007−108529号公報
【特許文献2】特開2006−69192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1、2に記載されている方法に用いられる装置は、大規模であり経済的に不利であった。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、通常のテンター(長手方向のクリップ間隔の調整できないテンター)を用いて、光学特性領域の広い、より有用な位相差フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1は、前記目的を達成するために、フィルムをテンター内に供給し、該テンター内で、該フィルムの両端部をテンターレールの複数のクリップで把持して該フィルムの幅方向に延伸する位相差フィルムの製造方法において、前記フィルムを幅方向への延伸が終了すると同時に、該フィルムの端部を前記クリップから開放し、該フィルムを冷却することを特徴とする位相差フィルムの製造方法を提供する。
【0012】
請求項1によれば、フィルムの幅方向への延伸が終了すると同時に、フィルムをクリップから開放している。テンターレールの幅方向の拡げ角をθ、テンター入口部でのフィルムの搬送速度(クリップ速度)をvとすると、幅方向に延伸している時のフィルムの長手方向の搬送速度は、v×cosθとなり、幅方向に延伸している前と比較し、長手方向の搬送速度が遅くなる。したがって、延伸方向と垂直な方向(長手方向)にフィルムを縮めることができるので、Rth/Reを1以下とした位相差フィルムを製造することができる。
【0013】
また、フィルムの冷却を、開放すると同時に行っている。フィルムは常に長手方向に搬送されているため、クリップが外れると走行方向に引っ張られるため、長手方向に延伸されてしまう。したがって、開放した直後に冷却することにより、フィルムを固化させ、フィルムの延伸を防止することにより、フィルムが長手方向に収縮した状態を維持することができる。
【0014】
請求項2は請求項1において、前記フィルムの端部の開放を、前記クリップを該フィルムから外す、または、該フィルムの端部を切断することにより行うことを特徴とする。
【0015】
請求項2によれば、クリップを外す、または、フィルムの端部を切断することで、フィルムを開放し、目的の光学特性を有するフィルムを製造することができる。したがって、クリップ間隔を変更できないテンター延伸装置を用いて製造を行うことができる。
【0016】
請求項3は請求項1または2において、前記テンターレールの拡げ角が5°以上40°以下であることを特徴とする。
【0017】
請求項3は、テンターレールの拡げ角を規定したものである。広げ角を上記範囲とすることにより、所望のRth/Reの位相差フィルムを製造することができる。テンターロールの拡げ角が、5°よりせまいと、フィルムの搬送速度が遅くならないため、走行方向の収縮がみられない。また、拡げ角が40°より大きいと、テンター内の開放部から急に幅方向に延伸されるため、好ましくない。なお、拡げ角とは、テンター内のフィルムの走行方向と、フィルムを幅方向に延伸するレールとのなす角である。
【0018】
請求項4は請求項1から3いずれかにおいて、前記フィルムの幅方向の延伸倍率が1.2倍以上2.5倍以下であることを特徴とする。
【0019】
請求項4は、フィルムの幅方向の延伸倍率を規定したものである。延伸倍率を上記範囲内とすることにより、良好な位相差フィルムを製造することができる。延伸倍率が1.2倍より低いと、拡げ角を充分に大きくとることができない。または、テンター内の幅方向への延伸部分が短く、走行方向の速度を低下させることができず、フィルムの長手方向への収縮が見られない。また、2.5倍を超える延伸を行うと、延伸時にフィルムを破断するおそれがあるため、好ましくない。
【0020】
請求項5は請求項1から4いずれかにおいて、前記延伸時の温度が、前記フィルムのガラス転移点をTgとしたとき、(Tg+5)℃以上(Tg+30)℃以下とすることを特徴とする。
【0021】
請求項5は幅方向延伸時の温度を規定したものであり、上記範囲とすることにより、延伸時のフィルムの流動性を維持し、幅方向の延伸を行うことができる。温度が上記範囲より低いと、フィルムが固化しているため、延伸するのが難しく、また、温度が上記範囲より高いと、フィルムの流動性が高すぎて、成形しづらく、また、延伸後の冷却に時間がかかるため、好ましくない。
【0022】
請求項6は請求項1から5いずれかにおいて、前記冷却は金属ロールにより行われ、該金属ロールは、前記フィルムのTg以下に温度制御されていることを特徴とする。
【0023】
請求項6によれば、フィルムの冷却を、フィルムのTg以下に温度制御された金属ロールを用いて行っているため、効率よく冷却を行うことが可能である。
【0024】
請求項7は請求項6において、前記金属ロールは、一定速度で回転速度を制御することが可能な駆動ロールであることを特徴とする。
【0025】
請求項7によれば、金属ロールが駆動ロールであるため、クリップ解放後に、フィルムが走行方向に延伸されることを、駆動ロールで制御することにより、防止することができる。
【0026】
請求項8は請求項6または7において、前記金属ロールの表面がハードクロムでメッキされ、鏡面仕上げされていることを特徴とする。
【0027】
請求項8によれば、金属ロールの表面がハードクロムでメッキされているため、フィルムを効率よく冷却することができ、また、ロールからフィルムを剥がし易くすることができる。
【0028】
請求項9は請求項1から8いずれかにおいて、下記式(1)、(2)で表されるRe、Rthの比(Rth/Re)が0.6以上0.9以下であり、かつ、Reが40nm以上300nm以下、Rthが25nm以上270nm以下であることを特徴とする
【0029】
【数1】

【0030】
本発明の製造方法は、幅方向に延伸し、走行方向に収縮するように製造しているため、上記のような光学特性の位相差フィルムを製造することができる。
【0031】
請求項10は請求項1から9いずれかにおいて、前記フィルムが、セルロースアシレートまたは環状オレフィン系の樹脂からなることを特徴とする。
【0032】
請求項10によれば、フィルムの材料としてセルロースアシレートまたは環状オレフィンを用いている。セルロースアシレートまたは環状オレフィンは、延伸により適度なRe、Rth発現性を有している上、延伸むらが発現しにくいため、好ましく用いることができる。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、幅方向への延伸が終了すると同時に、フィルムの端部を開放しているため、クリップを開放した点においては、走行方向の速度が遅くなっている。したがって、幅方向に延伸し、走行方向に収縮した位相差フィルムを製造することができ、通常のテンター装置による延伸において、光学特性領域が広く、より有用な位相差フィルムの製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、添付図面により本発明の位相差フィルムの製造方法の好ましい実施の形態について詳説する。
【0035】
図1は、本発明の特徴部分である幅方向に延伸を行うためのテンター2の平面図である。同図に示すテンター2は、フィルム3を搬送方向Aに搬送しながら、幅方向Bに延伸し、走行方向Aに収縮する装置であり、二本のレール5、6と無端チェーン7、8を備えている。二本のレール5、6は、フィルム3を挟んで両側に配置されており、その間隔は、搬送方向Aの上流側よりも下流側が広くなるように形成されている。
【0036】
無端チェーン7、8はそれぞれ、テンター入口16側の原動スプロケット11、12と、幅方向にフィルムが拡流する拡流部17に設けられる従動スプロケット13、14との間に掛け渡されるとともに、レール5、6に案内されるようにして配置されている。そして、原動スプロケット11、12を駆動するようことによって、無端チェーン7、8がレール5、6に案内されながら周回走行するようになっている。
【0037】
無端チェーン7、8には、多数のクリップ10、10…が所定ピッチで多数取り付けられ、このクリップ10によってフィルム3の側縁部が把持される。クリップ10は無端チェーン7、8を走行させることによって、無端チェーン7、8とともに移動する。
【0038】
前述した原動スプロケット11、12にはそれぞれ開放部材21、22が取り付けられており、従動スプロケット13、14にはそれぞれ開放部材23、24が取り付けられている。開放部材21〜24は、クリップ10に備えられたフラッパを把持位置から開放位置に変位させる装置であり、これによって、フラッパによるフィルム3の把持、開放動作が自動的に行われる。
【0039】
上記のように構成されたテンター2において、無端チェーン7、8を走行させ、クリップ10、10…を周回移動させると、各クリップ10は、開放部材21、22の位置でフラップが開放位置になり、そして開放部材21、22を通過することでフラッパが把持位置になってフィルム3の両側縁部が把持される。フィルム3の両側縁部を把持した各クリップ10は搬送方向に進む過程で、クリップ10同士の間隔が幅方向Bに拡がる。これにより、フィルム3が横方向に延伸される。
【0040】
また、この時、テンターレールの広げ角をθ、クリップの速度をvとすると、フィルムの搬送速度は、幅方向に拡がる前まではvとなり、幅方向に延伸しているときは、v×cosθとなる。したがって、幅方向に延伸しているときは、搬送速度が遅くなるため、フィルム3は、搬送方向に収縮することになる。
【0041】
その後、幅方向に延伸している状態、つまり、搬送速度が遅くなった状態で、クリップ10を開放すると、フィルム3は、幅方向に延伸され、走行方向に収縮されたフィルムを形成することができる。
【0042】
フィルム3を開放したクリップ10は、上流側の開放部材21、22まで戻され、再びフィルム3を把持し、これを繰り返す。以上の動作を繰り返すことによって、フィルム3は縦方向に収縮され、横方向に延伸される。
【0043】
なおクリップ10の構成としては、特開2006−69192と同様の構成のものを用いることができる。
【0044】
また、クリップ10を開放すると同時に冷却手段(金属ロール)26によりフィルムの冷却を行う。フィルムは、長手方向に搬送されているため、常に長手方向に引っ張られていることになる。したがって、クリップ10がフィルム3を開放すると、長手方向に引っ張られ、フィルムが長手方向に延伸し、収縮させた意味がなくなってしまう。したがって、開放と同時に冷却することにより、フィルムを固化させ、走行方向に延伸することを防ぐことができる。
【0045】
冷却手段26としては金属ロール、セラミックロールを挙げることができる。なかでも金属ロールで冷却することが好ましい。冷却ロールで冷却することにより、効率よく冷却を行うことができる。また、冷却温度はTg以下の温度であることが好ましい。冷却温度をTg以下とすることにより、フィルムの固化を行うことができる。また、冷却ロールを用いて行う場合は、冷却ロールをTg以下の温度に制御して行うことができる。
【0046】
さらに、金属ロールの表面はメッキされ、鏡面仕上げされていることが好ましく、ハードクロムでメッキされていることが好ましい。金属ロールの表面をメッキすることにより、フィルムを冷却ロールから剥がし易くすることができる。
【0047】
金属ロール26は、一定速度で回転速度を制御できるように駆動ロールとすることが好ましい。本発明においては、走行方向に延伸することを防止するため、クリップ10がフィルム3を開放すると同時にフィルム3の冷却を行っている。しかし、フィルム3は長手方向に引っ張られているため、これだけでは、不充分であり、Reの低下やRth/Reの比が上昇する場合がある。したがって、金属ロール26を駆動ロールとし、フィルム3の搬送速度を制御することにより、フィルムの走行方向の延伸を防止することができる。回転速度は、フィルム3の搬送速度が、v×cosθの速度となるように回転速度を制御することが好ましい。
【0048】
また、金属ロール26と接するようにニップロール27を配置することが好ましい。金属ロール26とニップロール27でニップしながら冷却・搬送することにより、安定した速度でフィルム3を搬送することが可能である。また、熱風によりニップロール27が劣化しないように、ニップロール27中に冷却水を通して冷却することが好ましい。
【0049】
幅方向に延伸しているときの延伸温度は(Tg+5)℃以上(Tg+30)℃以下が好ましく、より好ましくは(Tg+10)℃以上(Tg+20)℃以下である。フィルムの加熱方法としては、熱風で加熱する方法が好ましく、他に、ヒーター加熱、マイクロ波加熱などの方法を用いてもよく、その他の加熱方法を用いてもよい。
【0050】
また、好ましい延伸倍率は幅方向に1.2倍以上2.5倍以下、より好ましくは、1.3倍以上2.0倍以下である。本発明の位相差フィルムの製造方法は、テンター内の幅方向の拡流部において拡流部の終点でクリップを開放することにより、行う。したがって、幅方向の延伸倍率が1.2倍より小さいと、拡げ角が小さく走行方向の速度変化が充分でなくなり、また、拡げ角が大きいと、急に幅方向に延伸されるため、好ましくない。また、延伸倍率が2.5倍を超えると、延伸によりフィルムを破断するおそれがあるため好ましくない。
【0051】
なお、テンター内のテンターレールの拡げ角は5°以上40°以下であることが好ましい。上記範囲とすることにより、走行方向の速度変化の差が顕著になり、フィルムを走行方向に収縮させることができる。また、拡げ角が5°より小さいと走行方向の速度変化の差があらわれず、走行方向の収縮がみられず、また、拡げ角が40°より大きいと、突然幅方向に延伸されるため好ましくない。なお、拡げ角とは、テンター内のフィルムの走行方向と、フィルムを幅方向に延伸するレールとのなす角であり、図中θで表す。
【0052】
上記のごとく延伸を行うことにより、レターデーションRe、Rthを発現させることができる。ReとRthの比(Rth/Re)が0.6以上0.9以下であることが好ましい。すなわち縦方向と横方向の配向の差が面内のレターデーションの差(Re)となるが、本発明の製造方法においては、フィルムの幅方向に延伸を行い、その垂直方向である走行方向に収縮を行っているため、縦横の配向の差が大きくなり、面内配向(Re)を大きくすることができる。
【0053】
また、Reは、40nm以上300nm以下が好ましく、より好ましくは45nm以上270nm以下である。一方、Rthは、25nm以上270nm以下がより好ましく、より好ましくは30nm以上240nm以下である。
【0054】
ここで、レターデーションRe、Rthは以下の式(1)、(2)により求めることができる。
【0055】
【数2】

【0056】
次に本実施の形態の作用について説明する。
【0057】
本発明においては、テンター2内で、クリップ10によって、フィルム3の側縁部を把持して横への延伸および縦への収縮を行うので、粘着跡を減少させることができる。よって位相差フィルムとして液晶表示装置に組み込んだ際に発生する微小な表示ムラを減少させることができる。このような効果は、特に熱可塑性フィルムとしてセルロースアシレートフィルム、或いは飽和ノルボルネン系フィルムを用いた場合に有効である。これらの樹脂は延伸に用いるニップロール上で粘着しやすいので、本発明の方法を用いると粘着跡を減少させることができるので、非常に有効である。
【0058】
また、本実施の形態では、テンター2において、幅方向への延伸時のレールの間隔を調節することにより横方向の延伸倍率を調節することができる。また、テンターレールの拡げ角を調節することにより、搬送速度を調節することができ、フィルム3の縦方向の収縮率を調節することができる。したがって、Re、Rthを任意の値にすることができ、所望の光学特性の位相差フィルムを製造することができる。
【0059】
なお、上述した実施の形態は、フィルム3からクリップ10を外すことにより、フィルム3を開放する方法について説明したが、クリップ10に把持されたフィルム3の側縁部を切断することにより開放することも可能である。切断方法としては、レーザー、カッターなどにより切断する方法を挙げることができる。
【0060】
以下、本発明に適した樹脂、製膜方法、フィルム加工方法について説明する。
【0061】
(1)熱可塑性樹脂
上述した延伸を行う熱可塑性樹脂は特に制限されないが、より好ましくはセルロースアシレートまたは環状オレフィン系の樹脂からなることが好ましく、環状オレフィン系の樹脂としては、飽和ノルボルネン系の樹脂であることが好ましい。これらは、延伸により適度なRe、Rth発現性を有している上、延伸むらが発現しにくく優れているためである。以下、セルロースアシレート樹脂と飽和ノルボルネン系樹脂について説明する。
【0062】
(セルロースアシレート樹脂)
本発明で用いるセルロースアシレートは以下の特徴を有するものが好ましい。アシレート基が、下記の置換度、
2.5≦A+B≦3.0
1.25≦B≦3
を満足することを特徴とするセルロースアシレートフィルム(Aはアセテート基の置換度、Bはプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を示す)。より好ましい置換度は、Bの1/2以上がプロピオネート基の場合に、
2.6≦A+B≦2.95
2.0≦B≦2.95
であり、Bの1/2未満がプロピオネート基の場合に、
2.6≦A+B≦2.95
1.3≦B≦2.5、である。さらに好ましい置換度は、Bの1/2以上がプロピオネート基の場合に、
2.7≦A+B≦2.95
2.4≦B≦2.9
であり、Bの1/2未満がプロピオネート基の場合に、
2.7≦A+B≦2.95
1.3≦B≦2.0、である。
【0063】
本発明においては、アセテート基の置換度を少なくし、プロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基の置換度の総和を多くすることが好ましい。これにより、延伸中に伸びむらが発生し難く、Re、Rthむらが発現しにくい上、結晶融解温度(Tm)を下げることができ、溶融製膜の熱による分解で発生する黄変を抑制することもできる。これらの効果は、なるべく大きな置換基を用いることで達成できるが、大きすぎるとガラス転移温度(Tg)や弾性率を低下させすぎるため好ましくない。このためアセチル基より大きなプロピオネート基、ブチレート基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基が好ましく、より好ましくはプロピオネート基、ブチレート基であり、さらに好ましくはブチレート基である。
【0064】
これらのセルロースアシレートの合成方法の基本的な原理は、右田他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。代表的な合成方法は、カルボン酸無水物−酢酸−硫酸触媒による液相酢化法である。具体的には、綿花リンターや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸で前処理した後、予め冷却したカルボン酸化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、ほぼ3.00)を合成する。上記カルボン酸化混液は、一般に溶媒としての酢酸、エステル化剤としての無水カルボン酸および触媒としての硫酸を含む。無水カルボン酸は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰の無水カルボン酸の加水分解およびエステル化触媒の一部の中和のために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩または酸化物)の水溶液を添加する。次に、得られた完全セルロースアシレートを少量の酢化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、50〜90℃に保つことによりケン化熟成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記のような中和剤を用いて完全に中和するか、あるいは中和することなく水または希硫酸中にセルロースアシレート溶液を投入(あるいは、セルロースアシレート溶液中に、水または希硫酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理によりセルロースアシレートを得る。
【0065】
本発明で好ましく用いられるセルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度200〜700、好ましくは250〜550、更に好ましくは250〜400であり、特に好ましくは粘度平均重合度250〜350である。平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)により測定できる。更に特開平9−95538号公報に詳細に記載されている。
【0066】
このような重合度の調整には低分子量成分を除去することでも達成できる。低分子成分が除去されると、平均分子量(重合度)が高くなるが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低くなるため有用である。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適当な有機溶媒で洗浄することにより実施できる。さらに重合方法でも分子量を調整できる。例えば、低分子成分の少ないセルロースアシレテートを製造する場合、酢化反応における硫酸触媒量を、セルロース100重量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。硫酸触媒の量を上記範囲にすると、分子量部分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。
【0067】
本発明で用いられるセルロースアシレートは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が1.5〜5.5のものが好ましく用いられ、特に好ましくは2.0〜5.0であり、更に好ましくは2.5〜5.0であり、更に好ましくは3.0〜5.0のセルロースアシレートが好ましく用いられる。
【0068】
これらのセルロースアシレートは1種類のみを用いてもよく、2種以上混合しても良い。また、セルロースアシレート以外の高分子成分を適宜混合したものでもよい。混合される高分子成分はセルロースエステルと相溶性に優れるものが好ましく、フィルムにしたときの透過率が80%以上、更に好ましくは90%以上、更に好ましくは92%以上であることが好ましい。
【0069】
本発明では、セルロースアシレートに可塑剤を添加することにより、セルロースアシレートの結晶融解温度(Tm)を下げることができる。本発明に用いる可塑剤の分子量は特に限定されるものではなく、低分量でもよく高分子量でもよい。可塑剤の種類は、リン酸エステル類、アルキルフタリルアルキルグリコレート類、カルボン酸エステル類、多価アルコールの脂肪酸エステル類などが挙げられる。それらの可塑剤の形状としては固体でもよく油状物でもよい。すなわち、その融点や沸点において特に限定されるものではない。溶融製膜を行う場合は、不揮発性を有するものを特に好ましく使用することができる。
【0070】
リン酸エステルの具体例としては、例えばトリフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリナフチルホスフェート、トリキシリルオスフェート、トリスオルト−ビフェニルホスフェート、クレジルフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ビフェニルジフェニルホスフェート、1,4―フェニレンーテトラフェニル燐酸エステル等を挙げることができる。また特表平6−501040号公報の請求項3〜7に記載のリン酸エステル系可塑剤を用いることも好ましい。
【0071】
アルキルフタリルアルキルグリコレート類としては、例えばメチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等が挙げられる。
【0072】
カルボン酸エステルとしては、例えばジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートおよびジエチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル類、およびクエン酸アセチルトリメチル、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル等のクエン酸エステル類、ジメチルアジペート、ジブチルアジペート、ジイソブチルアジペート、ビス(2−エチルヘキシル)アジペート、ジイソデシルアジペート、ビス(ブチルジグリコールアジペート)等のアジピン酸エステル類、テトラオクチルピロメリテート、トリオクチルトリメリテートなどの芳香族多価カルボン酸エステル類、ジブチルアジペート、ジオクチルアジペート、ジブチルセバケート、ジオクチルセバケート、ジエチルアゼレート、ジブチルアゼレート、ジオクチルアゼレートなどの脂肪族多価カルボン酸エステル類、グリセリントリアセテート、ジグリセリンテトラアセテート、アセチル化グリセライド、モノグリセライド、ジグリセライドなどの多価アルコールの脂肪酸エステル類などを挙げることができる。またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、トリアセチン等を単独あるいは併用するのが好ましい。
【0073】
また、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートなどのグリコールと二塩基酸とからなる脂肪族ポリエステル類、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などのオキシカルボン酸からなる脂肪族ポリエステル類、ポリカプロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトンからなる脂肪族ポリエステル類、ポリビニルピロリドンなどのビニルポリマー類などの高分子量系可塑剤が挙げられる。可塑剤はこれらを単独もしくは低分量可塑剤と併用して使用することができる。
【0074】
多価アルコール系可塑剤は、セルロース脂肪酸エステルとの相溶性が良く、また熱可塑化効果が顕著に現れるグリセリンエステル、ジグリセリンエステルなどグリセリン系のエステル化合物やポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリアルキレングリコール、ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物などである。
【0075】
具体的なグリセリンエステルとして、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートミスチレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートノナネート、グリセリンジアセテートオクタノエート、グリセリンジアセテートヘプタノエート、グリセリンジアセテートヘキサノエート、グリセリンジアセテートペンタノエート、グリセリンジアセテートオレート、グリセリンアセテートジカプレート、グリセリンアセテートジノナネート、グリセリンアセテートジオクタノエート、グリセリンアセテートジヘプタノエート、グリセリンアセテートジカプロエート、グリセリンアセテートジバレレート、グリセリンアセテートジブチレート、グリセリンジプロピオネートカプレート、グリセリンジプロピオネートラウレート、グリセリンジプロピオネートミスチレート、グリセリンジプロピオネートパルミテート、グリセリンジプロピオネートステアレート、グリセリンジプロピオネートオレート、グリセリントリブチレート、グリセリントリペンタノエート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリンプロピオネートラウレート、グリセリンオレートプロピオネートなどが挙げられるがこれに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0076】
この中でも、グリセリンジアセテートカプリレート、グリセリンジアセテートペラルゴネート、グリセリンジアセテートカプレート、グリセリンジアセテートラウレート、グリセリンジアセテートミリステート、グリセリンジアセテートパルミテート、グリセリンジアセテートステアレート、グリセリンジアセテートオレートが好ましい
ジグリセリンエステルの具体的な例としては、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラバレレート、ジグリセリンテトラヘキサノエート、ジグリセリンテトラヘプタノエート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトラペラルゴネート、ジグリセリンテトラカプレート、ジグリセリンテトララウレート、ジグリセリンテトラミスチレート、ジグリセリンテトラパルミテート、ジグリセリントリアセテートプロピオネート、ジグリセリントリアセテートブチレート、ジグリセリントリアセテートバレレート、ジグリセリントリアセテートヘキサノエート、ジグリセリントリアセテートヘプタノエート、ジグリセリントリアセテートカプリレート、ジグリセリントリアセテートペラルゴネート、ジグリセリントリアセテートカプレート、ジグリセリントリアセテートラウレート、ジグリセリントリアセテートミスチレート、ジグリセリントリアセテートパルミテート、ジグリセリントリアセテートステアレート、ジグリセリントリアセテートオレート、ジグリセリンジアセテートジプロピオネート、ジグリセリンジアセテートジブチレート、ジグリセリンジアセテートジバレレート、ジグリセリンジアセテートジヘキサノエート、ジグリセリンジアセテートジヘプタノエート、ジグリセリンジアセテートジカプリレート、ジグリセリンジアセテートジペラルゴネート、ジグリセリンジアセテートジカプレート、ジグリセリンジアセテートジラウレート、ジグリセリンジアセテートジミスチレート、ジグリセリンジアセテートジパルミテート、ジグリセリンジアセテートジステアレート、ジグリセリンジアセテートジオレート、ジグリセリンアセテートトリプロピオネート、ジグリセリンアセテートトリブチレート、ジグリセリンアセテートトリバレレート、ジグリセリンアセテートトリヘキサノエート、ジグリセリンアセテートトリヘプタノエート、ジグリセリンアセテートトリカプリレート、ジグリセリンアセテートトリペラルゴネート、ジグリセリンアセテートトリカプレート、ジグリセリンアセテートトリラウレート、ジグリセリンアセテートトリミスチレート、ジグリセリンアセテートトリパルミテート、ジグリセリンアセテートトリステアレート、ジグリセリンアセテートトリオレート、ジグリセリンラウレート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンカプリレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンオレートなどのジグリセリンの混酸エステルなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0077】
この中でも、ジグリセリンテトラアセテート、ジグリセリンテトラプロピオネート、ジグリセリンテトラブチレート、ジグリセリンテトラカプリレート、ジグリセリンテトララウレートが好ましい。
【0078】
ポリアルキレングリコールの具体的な例としては、平均分子量が200〜1000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどが挙げられるがこれらに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0079】
ポリアルキレングリコールの水酸基にアシル基が結合した化合物の具体的な例として、ポリオキシエチレンアセテート、ポリオキシエチレンプロピオネート、ポリオキシエチレンブチレート、ポリオキシエチレンバリレート、ポリオキシエチレンカプロエート、ポリオキシエチレンヘプタノエート、ポリオキシエチレンオクタノエート、ポリオキシエチレンノナネート、ポリオキシエチレンカプレート、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンミリスチレート、ポリオキシエチレンパルミテート、ポリオキシエチレンステアレート、ポリオキシエチレンオレート、ポリオキシエチレンリノレート、ポリオキシプロピレンアセテート、ポリオキシプロピレンプロピオネート、ポリオキシプロピレンブチレート、ポリオキシプロピレンバリレート、ポリオキシプロピレンカプロエート、ポリオキシプロピレンヘプタノエート、ポリオキシプロピレンオクタノエート、ポリオキシプロピレンノナネート、ポリオキシプロピレンカプレート、ポリオキシプロピレンラウレート、ポリオキシプロピレンミリスチレート、ポリオキシプロピレンパルミテート、ポリオキシプロピレンステアレート、ポリオキシプロピレンオレート、ポリオキシプロピレンリノレートなどが挙げられるがこられに限定されず、これらを単独もしくは併用して使用することができる。
【0080】
可塑剤の添加量は、0〜20重量%とするものが好ましく、より好ましくは2〜18重量%、最も好ましくは4〜15重量%である。可塑剤の含有量が20重量%より多い場合、セルロースアシレートの熱流動性は良好になるもの、可塑剤が溶融製膜したフィルムの表面にしみ出したり、また耐熱性であるガラス転移温度Tgが低下する。
【0081】
更に、本発明におけるセルロースアシレートには、要求される性能を損なわない範囲内で、必要に応じて熱劣化防止用、着色防止用の安定剤を添加することができる。
【0082】
安定剤として、フォスファイト系化合物、亜リン酸エステル化合物、フォスフェイト、チオフォスフェイト、弱有機酸、エポキシ化合物等を単独または2種類以上混合して添加してもよい。フォスファイト系安定剤の具体例としては、特開2004−182979の段落〜[0039]に記載の化合物をより好ましく用いることが出来る。亜リン酸エステル系安定剤の具体例としては、特開昭51−70316号公報、特開平10−306175号公報、特開昭57−78431号公報、特開昭54−157159号公報、特開昭55−13765号公報に記載の化合物を用いることが出来る。
【0083】
本発明における安定剤の添加量は、セルロースアシレートに対し0.005〜0.5重量%であるのが好ましく、より好ましくは0.01〜0. 4重量%以上、さらに好ましくは0.05〜0. 3重量%である。添加量を0.005重量%未満の場合、溶融製膜時の劣化防止及び着色抑制の効果が不十分であるため、好ましくない。一方、0.5重量%以上の場合、溶融製膜したセルロースアシレートフィルムの表面にしみ出し、好ましくない。
【0084】
また、劣化防止剤及び酸化防止剤を添加することも好ましい。フェノール系化合物、チオエーテル系化合物、リン系化合物などは劣化防止剤もしくは酸化防止剤として添加することにより、劣化及び酸化防止に相乗効果が現れる。さらに、その他の安定剤としては、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)17頁〜22頁に詳細に記載されている素材を好ましく用いることができる。
【0085】
更に、本発明におけるセルロースアシレートには、紫外線防止剤を含有することができ、1種または2種以上の紫外線吸収剤を含有させてもよい。液晶用紫外線吸収剤は、液晶の劣化防止の観点から、波長380nm以下の紫外線の吸収能に優れ、かつ、液晶表示性の観点から、波長400nm以上の可視光の吸収が少ないものが好ましい。例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。特に好ましい紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物である。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物は、セルロースエステルセルロースアシレートに対する不要な着色が少ないことから、好ましい。
【0086】
好ましい紫外線防止剤として、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6−ヘキサンジオール−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、2,2−チオ−ジエチレンビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N’−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイトなどが挙げられる。
【0087】
また、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕が好ましい。また例えば、N,N′−ビス〔3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル〕ヒドラジンなどのヒドラジン系の金属不活性剤やトリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)フォスファイトなどの燐系加工安定剤を併用してもよい。これらの化合物の添加量は、セルロースエステルセルロースアシレートに対して質量割合で1ppm〜3.0%が好ましく、10ppm〜2%がさらに好ましい。
【0088】
これらの紫外線吸収剤は、市販品として下記のものがあり利用できる。
【0089】
ベンゾトリアゾール系としてはTINUBIN P(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 234(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 320(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 326(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 327(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、TINUBIN 328(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)、スミソーブ340(住友化学)などがある。また、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、シーソーブ100(シプロ化成)、シーソーブ101(シプロ化成)、シーソーブ101S(シプロ化成)、シーソーブ102(シプロ化成)、シーソーブ103(シプロ化成)、アデカスタイプLA−51(旭電化)、ケミソープ111(ケミプロ化成)、UVINUL D−49(BASF)などを挙げられる。オキザリックアシッドアニリド系紫外線吸収剤としては、TINUBIN 312(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)やTINUBIN 315(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ)がある。またサリチル酸系紫外線吸収剤としては、シーソーブ201(シプロ化成)やシーソーブ202(シプロ化成)が上市されており、シアノアクリレート系紫外線吸収剤としてはシーソーブ501(シプロ化成)、UVINUL N−539(BASF)がある。
【0090】
(飽和ノルボルネン系樹脂)
本発明で使用する飽和ノルボルネン系樹脂としては、例えば、(1)ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のごときポリマー変性を行なった後に、水素添加した樹脂、(2)ノルボルネン系モノマーを付加型重合させた樹脂、(3)ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーと付加型共重合させた樹脂などが挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0091】
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体、例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物;シクロペンタジエンの3〜4量体、例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン;等が挙げられる。
【0092】
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲内において、開環重合可能な他のシクロオレフィン類を併用することができる。このようなシクロオレフィンの具体例としては、例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個有する化合物が例示される。
【0093】
本発明で使用する飽和ノルボルネン系樹脂は、トルエン溶媒によるゲル・パーミエーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した数平均分子量が通常25000〜100000、好ましくは30000〜80000、より好ましくは35000〜70000の範囲のものである。数平均分子量が小さすぎると物理的強度が劣り、大きすぎると成形の際の操作性が悪くなる。
【0094】
本発明では、飽和ノルボルネン樹脂のガラス転位温度(Tg)は100℃以上250℃以下が好ましく、より好ましくは115℃以上220℃以下、さらに好ましくは130℃以上200℃以下である。
【0095】
本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、耐電防止剤、紫外線吸収剤などの各種添加剤を添加してもよい。特に、液晶は通常、紫外線により劣化するので、ほかに紫外線防護フィルターを積層するなどの防護手段を取らない場合は、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾル系紫外線吸収剤、アクリルニトリル系紫外線吸収剤などを用いることができ、それらの中でもベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、添加量は、通常10〜100000ppm、好ましくは100〜10000ppmである。また、溶液流延法によりシートを作製する場合は、表面粗さを小さくするため、レベリング剤の添加が好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤など塗料用レベリング剤を用いることができ、それらの中でも溶媒との相溶性の良いものが好ましく、添加量は、通常5〜50000ppm、好ましくは10〜20000ppmである。
【0096】
(2)製膜
これらの樹脂は溶液製膜、溶融製膜いずれでもフィルム化することができるが、飽和ノルボルネン樹脂の場合は溶融製膜法が好ましく、セルロースアシレート樹脂の場合はどちらも好ましい。以下、溶液製膜と溶融製膜について説明する。
【0097】
(溶液製膜)
セルロースアシレート樹脂の溶液製膜に用いる溶剤は、下記の(a)塩素系溶剤、(b)非塩素系溶剤のいずれも用いることができる。
【0098】
(a)塩素系溶剤
塩素系有機溶媒は、好ましくはジクロロメタン、クロロホルムである。特にジクロロメタンが好ましい。また、塩素系有機溶媒以外の有機溶媒を混合することも特に問題ない。その場合は、ジクロロメタンは少なくとも50質量%使用することが必要である。
【0099】
本発明の併用される非塩素系有機溶媒について以下に記す。すなわち、好ましい非塩素系有機溶媒としては、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテル、アルコール、炭化水素などから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を同時に有していてもよい。二種類以上の官能基を有する溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0100】
また塩素系有機溶媒と併用されるアルコールとしては、好ましくは直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第1級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。
【0101】
塩素系有機溶媒と併用される非塩素系有機溶媒については、特に限定されないが、酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサン、炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステル、炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれる。なお好ましい併用される非塩素系有機溶媒は、酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチル、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチル、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができる。
【0102】
本発明の好ましい主溶媒である塩素系有機溶媒の組み合わせとしては以下を挙げることができるが、これらに限定されるものではない(下記の括弧内の数字は質量部を示す)。・ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(72/9/9/4/6)
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/5)
・ジクロロメタン/酢酸メチル/ブタノール(80/10/10)
・ジクロロメタン/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5)
・ジクロロメタン/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5)
・ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール (60/20/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5)
・ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール (70/10/10/5/5)
・ジクロロメタン/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン (65/10/10/5/5/5)
・ジクロロメタン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5)
・ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5)
(b)非塩素系溶剤
好ましい非塩素系有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエステル、ケトン、エーテルから選ばれる溶媒が好ましい。エステル、ケトンおよび、エーテルは、環状構造を有していてもよい。エステル、ケトンおよびエーテルの官能基(すなわち、−O−、−CO−および−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も、主溶媒として用いることができ、たとえばアルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。2種類以上の官能基を有する主溶媒の場合、その炭素原子数はいずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であればよい。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが挙げられる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが挙げられる。炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが挙げられる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが挙げられる。
【0103】
さらに、本発明のセルロースアシレートの好ましい溶媒は、異なる3種類以上の混合溶媒であって、第1の溶媒が酢酸メチル、酢酸エチル、蟻酸メチル、蟻酸エチル、アセトン、ジオキソラン、ジオキサンから選ばれる少なくとも一種あるいは或いはそれらの混合液であり、第2の溶媒が炭素原子数が4〜7のケトン類またはアセト酢酸エステルから選ばれ、第3の溶媒として炭素数が1〜10のアルコールまたは炭化水素から選ばれ、より好ましくは炭素数1〜8のアルコールである。なお第1の溶媒が、2種以上の溶媒の混合液である場合は、第2の溶媒がなくてもよい。第1の溶媒は、さらに好ましくは酢酸メチル、アセトン、蟻酸メチル、蟻酸エチルあるいはこれらの混合物であり、第2の溶媒は、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、アセチル酢酸メチルが好ましく、これらの混合液であってもよい。
【0104】
第3の溶媒であるアルコールの好ましくは、直鎖であっても分枝を有していても環状であってもよく、その中でも飽和脂肪族炭化水素であることが好ましい。アルコールの水酸基は、第一級〜第三級のいずれであってもよい。アルコールの例には、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノールおよびシクロヘキサノールが含まれる。なおアルコールとしては、フッ素系アルコールも用いられる。例えば、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノールなども挙げられる。さらに炭化水素は、直鎖であっても分岐を有していても環状であってもよい。芳香族炭化水素と脂肪族炭化水素のいずれも用いることができる。脂肪族炭化水素は、飽和であっても不飽和であってもよい。炭化水素の例には、シクロヘキサン、ヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレンが含まれる。これらの第3の溶媒であるアルコールおよび炭化水素は単独でもよいし2種類以上の混合物でもよく特に限定されない。第3の溶媒としては、好ましい具体的化合物は、アルコールとしてはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、およびシクロヘキサノール、シクロヘキサン、ヘキサンを挙げることができ、特にはメタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノールである。
【0105】
以上の3種類の混合溶媒は、第1の溶媒が20〜95質量%、第2の溶媒が2〜60質量%さらに第3の溶媒が2〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜50質量%、さらに第3のアルコールが3〜25質量%含まれることが好ましい。また特に第1の溶媒が30〜90質量%であり、第2の溶媒が3〜30質量%、第3の溶媒がアルコールであり3〜15質量%含まれることが好ましい。なお、第1の溶媒が混合液で第2の溶媒を用いない場合は、第1の溶媒が20〜90質量%、第3の溶媒が5〜30質量%の比率で含まれることが好ましく、さらに第1の溶媒が30〜86質量%であり、さらに第3の溶媒が7〜25質量%含まれることが好ましい。以上の本発明で用いられる非塩素系有機溶媒は、さらに詳細には発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて12頁〜16頁に詳細に記載されている。
【0106】
本発明の好ましい非塩素系有機溶媒の組み合わせは以下挙げることができるが、これらに限定されるものではない(括弧内の数字は質量部を示す)。
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/ブタノール(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/エタノール/プロパノール(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン(75/10/5/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(82/10/4/4)
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(80/10/4/6)
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(80/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/イソプロパノール(75/8/8/4/5)
・酢酸メチル/シクロペンタノン/メタノール/イソプロパノール(80/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/ブタノール(85/10/5)
・酢酸メチル/シクロペンタノン/アセトン/メタノール/ブタノール(60/15/15/5/5)
・酢酸メチル/シクロヘキサノン/メタノール/ヘキサン(70/20/5/5)
・酢酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5)
・酢酸メチル/1、3ジオキソラン/メタノール/エタノール(70/20/5/5)
・酢酸メチル/ジオキサン/アセトン/メタノール/エタノール(60/20/10/5/5)
・酢酸メチル/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソブタノール/シクロヘキサン(65/10/10/5/5/5)
・ギ酸メチル/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/エタノール(50/20/20/5/5)
・ギ酸メチル/アセトン/酢酸エチル/エタノール/ブタノール/ヘキサン(65/10/10/5/5/5)
・アセトン/アセト酢酸メチル/メタノール/エタノール(65/20/10/5)
・アセトン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5)
・アセトン/1,3ジオキソラン/エタノール/ブタノール(65/20/10/5)
・1、3ジオキソラン/シクロヘキサノン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール(55/20/10/5/5/5)
さらに下記のように、溶解後、一部の溶剤をさらに追加添加し、多段で溶解することも好ましい(括弧内の数字は質量部を示す)。
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/8/7/4)でセルロースアシレート溶液を作製し、ろ過・濃縮後に2質量部のブタノールを追加添加
・酢酸メチル/アセトン/エタノール/ブタノール(81/10/4/2)でセルロースアシレート溶液を作製し、ろ過・濃縮後に4質量部のブタノールを追加添加
・酢酸メチル/アセトン/エタノール(84/10/6)でセルロースアシレート溶液を作製し、ろ過・濃縮後に5質量部のブタノールを追加添加
本発明では、塩素系、非塩素系溶剤いずれの場合でも、溶媒にセルロースアシレートを10〜40質量%溶解していることが好ましく、より好ましくは13〜35質量%であり、特には15〜30質量%である。溶解に先立ち、0℃〜50℃で0.1時間〜100時間膨潤させることが好ましい。なお、種々の添加剤は膨潤工程の前に添加しても良く、膨潤工程中あるいは後でもよく、さらには、この後冷却溶解中あるいは後でも構わない。
【0107】
本発明では、セルロースアシレートを溶解するために、冷却・昇温法を用いても良い。冷却・昇温法は、特開平11−323017号公報、特開平10−67860号公報、特開平10−95854号公報、特開平10−324774号公報、特開平11−302388号公報に記載のような方法を用いることができる。即ち、溶剤とセルロースアシレートを混合し膨潤させたものを、冷却ジャケットを付与したスクリュウ型混練機を用い溶解する。
【0108】
さらに本発明のドープは、濃縮,ろ過を実施することが好ましく、これらは発明協会公開技報(公技番号 2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)にて25頁に詳細に記載されているものを使用できる。
【0109】
(溶融製膜)
(a)セルロースアシレートフィルム
[乾燥]
樹脂は粉体のまま用いても良いが、製膜の厚み変動を少なくするためにはペレット化したものを用いるのがより好ましい。この樹脂は含水率を1%以下、より好ましくは0.5%以下にした後、溶融押出し機のホッパーに投入する。このときホッパーをTg−50℃以上Tg+30℃以下、より好ましくはTg−40℃以上Tg+10℃以下、さらに好ましくはTg−30℃以上Tg以下にする。これによりホッパー内での水分の再吸着を抑制し、上記乾燥の効率をより発現し易くできる。
【0110】
[混練押出し]
120℃以上250℃以下、より好ましくは140℃以上220℃以下、さらに好ましくは150℃以上200℃以下で混練し溶融する。この時、溶融温度は一定温度で行ってもよく、いくつかに分割して制御しても良い。好ましい混練時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。さらに、溶融押出し機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのも好ましい。
【0111】
[キャスト]
熔融した樹脂をギヤポンプに通し、押し出し機の脈動を除去した後、金属メッシュフィルター等でろ過を行い、この後ろに取り付けたT型のダイから冷却ドラム上にシート状に押し出す。押出しは単層で行ってもよく、マルチマニホールドダイやフィードブロックダイを用いて複数層押出しても良い。この時、ダイのリップの間隔を調整することで幅方向の厚みむらを調整することができる。
【0112】
この後キャスティングドラム上に押出す。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、キャスティングドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。
【0113】
キャスティングドラムは60℃以上160℃以下が好ましく、より好ましくは70℃以上150℃以下、さらに好ましくは80℃以上150℃以下である。この後、キャスティングドラムから剥ぎ取り、ニップロールを経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。
【0114】
製膜幅は1m以上5m以下、さらに好ましくは1.2m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フイルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0115】
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として又は異なる品種のフィルム用原料として再利用してもよい。また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。
【0116】
(b)飽和ノルボルネンフィルム
飽和ノルボルネン樹脂のペレットを熔融押出し機に入れ、100℃以上200℃以下で1分以上10時間以下脱水した後、混練押出しする。混練は1軸あるいは2軸の押出し機を使用できる。
【0117】
溶融温度を240〜320℃、より好ましくは250〜310℃、さらに好ましくは260〜300℃にし、キャスティングドラムの温度を80〜170℃、より好ましくは90℃以上160℃以下、さらに好ましくは100℃以上150℃以下とする以外は、上記セルロースアシレートフィルムと同様に製膜することができる。
【0118】
上記方法で製膜した熱可塑性フィルムの厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%以上2%以下が好ましく、より好ましくは0%以上1.5%以下、さらに好ましくは0%以上1%以下であり、これらを上記方法で延伸し、本発明の熱可塑性フィルムを得ることができる。
【実施例】
【0119】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0120】
≪実施例1≫
フィルムの原反であるTACフィルムは、レターデーション発現剤を5%添加して、溶液製膜により作成した。フィルム作製後、図1に示すテンターを用いて幅方向に延伸を行った。フィルムの搬送速度は5m/minとし、クリップは、図1に示すように、延伸直後に開放した。その後、ロールを駆動させながら、鏡面ロールにより冷却を行った。装置のテンターレールの拡げ角は、15°とし、幅方向の延伸倍率が1.5倍となるように、延伸を行った。また、延伸時の温度は150℃(TACフィルムのTg:140℃)とした。結果を図2に示す。なお、図中の光学特性は、以下の基準により判断した。
【0121】
[光学特性]
◎・・・Reが40nm以上300nm以下、Rthが25nm以上270nm以下であり、Rth/Re<0.7である。
○・・・Reが40nm以上300nm以下、Rthが25nm以上270nm以下であり、Rth/Re<0.8である。
△・・・Reが40nm以上300nm以下、Rthが25nm以上270nm以下であり、Rth/Re≦0.9である。
×・・・Reが40nmより低いまたは300nm高い、Rthが25nmより低いまたは270nmより高い、またはRth/Re>0.9である。
【0122】
≪実施例2〜8≫
装置の条件、延伸条件を図2に示す条件に変更して、実施例1と同様の方法によりフィルムの製造を行った。なお、実施例8については、フィルムの原反にTOPASフィルムを用いた。TOPASフィルムは市販のTOPAS6013(ポリプラスチック(株)製)の樹脂を溶融製膜し作製した。
【0123】
≪比較例1、2≫
テンターを、特開2006−69192号公報の図1に示すような通常のテンターを用いて幅方向に延伸を行い、フィルムの冷却後にクリップの開放を行った。フィルムの冷却は、フィルムに冷風を吹くことで行った。装置の条件、延伸条件については、図2に示す条件により行った。結果を図2に示す。
【0124】
≪結果≫
図2に示すように、クリップの開放を冷却後に行った比較例1、2は、長手方向に収縮しておらず、Rth/Reが0.9を超えていた。しかしながら、クリップの開放を延伸直後に行い、その後、冷却した実施例1から8においては、長手方向の延伸を抑え、Rth/Reを0.9以下にすることができた。特に、鏡面ロールを駆動ロールとし、テンターレールの拡げ角を5°以上40°以下、延伸温度を150℃とし、フィルムのTgに対して(Tg−5)℃以上(Tg−20)℃以下とした実施例1、8において、特に良好な結果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の製造方法に用いられるテンターの平面図である。
【図2】実施例の試験条件、結果を示す表図である。
【符号の説明】
【0126】
2…テンター、3…フィルム、5、6…レール、7、8…無端チェーン、10…クリップ、11、12…原動スプロケット、13、14…従動スプロケット、16…テンター入口、17…拡流部、21、22、23、24…開放部材、26…冷却手段(金属ロール)、27…ニップロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムをテンター内に供給し、該テンター内で、該フィルムの両端部をテンターレールの複数のクリップで把持して該フィルムの幅方向に延伸する位相差フィルムの製造方法において、
前記フィルムを幅方向への延伸が終了すると同時に、該フィルムの端部を前記クリップから開放し、該フィルムを冷却することを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムの端部の開放を、前記クリップを該フィルムから外す、または、該フィルムの端部を切断することにより行うことを特徴とする請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記テンターレールの拡げ角が5°以上40°以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記フィルムの幅方向の延伸倍率が1.2倍以上2.5倍以下であることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記延伸時の温度が、前記フィルムのガラス転移点をTgとしたとき、(Tg+5)℃以上(Tg+30)℃以下とすることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記冷却は金属ロールにより行われ、該金属ロールは、前記フィルムのTg以下に温度制御されていることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記金属ロールは、一定速度で回転速度を制御することが可能な駆動ロールであることを特徴とする請求項6記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記金属ロールの表面がハードクロムでメッキされ、鏡面仕上げされていることを特徴とする請求項6または7に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項9】
下記式(1)、(2)で表されるRe、Rthの比(Rth/Re)が0.6以上0.9以下であり、かつ、Reが40nm以上300nm以下、Rthが25nm以上270nm以下であることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。
【数1】

【請求項10】
前記フィルムが、セルロースアシレートまたは環状オレフィン系の樹脂からなることを特徴とする請求項1から9いずれかに記載の位相差フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−192723(P2009−192723A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−32014(P2008−32014)
【出願日】平成20年2月13日(2008.2.13)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】