説明

位置推定システム及び無線通信端末

【課題】近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末の位置を推定する。
【解決手段】複数の基準局110が設置されている所定エリア内を移動する移動無線機100は近距離無線通信機能を有しており、基準局の近隣を通過する際にその基準局の位置を特定するための位置特定情報を基準局から受信する。移動無線機は、受信した基準局の位置特定情報を受信時刻と関連付けて、交差履歴データとして記憶する。一方、別の移動無線機とすれ違う際には、相手の移動無線機との間で交差履歴データを交換する。そして、自機が通過した直近の基準局の位置、自機が直近の基準局を通過してから相手の移動無線機とすれ違うまでの時間、相手の移動無線機が通過した直近の基準局の位置、相手の移動無線機が直近の基準局を通過してから自機とすれ違うまでの時間に基づいて、2つの移動無線機がすれ違った位置を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信の機能を有する無線通信端末(移動無線機)の位置を推定するための位置推定システム及び無線通信端末に関し、特に、近距離無線通信の機能を有する近距離無線機の位置を推定するための位置推定システム及び無線通信端末に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、無線通信端末の位置特定方法として、例えば、無線通信端末がGPS(Global Positioning System)信号を受信することで、その位置を算出する方法が存在している。
【0003】
一方、例えば、下記の特許文献1には、PHS(Personal Handyphone System)端末が、複数のPHS基地局から受信する電波の強さ(電界強度)について、3点測量の手法を用いてその重心位置を算出し、算出された重心位置をPHS端末が現在存在している位置と推定する位置推定方法が開示されている。
【0004】
なお、特許文献1に開示されているような位置推定方法は、PHSだけではなく、無線LAN(Local Area Network)などの他の無線通信技術にも同様に適用可能である。この場合、PHS端末は無線LANの子機に対応し、PHS基地局は無線LANの親機(アクセスポイント)に対応する。
【0005】
以下、図8を参照しながら、従来の技術における3点測量の手法を用いた位置推定方法について説明する。図8には、従来の技術に係る位置推定方法で用いられている基本的な原理が模式的に示されている。
【0006】
従来の技術における3点測量の手法を用いた位置推定方法では、位置推定対象の無線通信端末が複数の基地局から電波を受信することができる場合、各基地局からの電波の電界強度と各基地局の位置から無線通信端末の位置を算出することが可能である。
【0007】
すなわち、図8において、例えば、複数の基地局(例えば、3つの基地局2001〜2003)から電波を受信することが可能な位置に存在する移動端末が、各基地局2001〜2003からの電波の受信強度に基づくパラメータk1〜k3と、各基地局2001〜2003の位置P1〜P3とを用いて、移動端末2000の位置P0を算出することが可能である。このとき例えば、下記の式を用いることによって、移動端末2000の位置P0が算出可能である。
【0008】
P0=Σkj×Pj/Σkj
ただし、jは各基地局を表し、Σは各基地局jの和を表す。
【0009】
また、下記の特許文献2には、IC(Integrated Circuit:集積回路)タグを用いて建設現場における各物品の位置を管理するための技術が開示されている。この技術では、建設現場の複数の固定位置のそれぞれにICタグ(固定タグ)が取り付けられるとともに、建設現場に搬入される各物品にICタグ(可動タグ)が取り付けられる。また作業者が、ICタグに接近した際にそのICタグの識別情報(タグID)を読み取る機能を有するICタグリーダ端末を携帯する。これにより、作業者が移動した場合、移動先でICタグリーダ端末が固定タグ及び可動タグのタグIDを読み取って、位置情報データベースに逐次アップロードすることで、ICタグリーダ端末が読み取った固定タグ及び可動タグのタグIDが蓄積され、固定タグのタグIDに基づいて可動タグの位置が計算される。
【特許文献1】特開平10−239416号公報
【特許文献2】特開2005−314886号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の3点測量の手法を用いた位置推定方法では、位置推定対象の無線通信端末が、複数の基地局(あるいは親機)の通信範囲(セル)内に位置している必要がある。さらに、位置推定対象の無線通信端末は、これらの複数の基地局の位置を把握している必要がある。すなわち、位置推定対象の無線通信端末にとって位置が既知の基地局が複数存在し、さらに、無線通信端末がこれらの複数の基地局からの電波を同時に受信できる場所に位置するという条件が満たされた場合のみ、位置推定が可能となり、その他の場合には、位置推定が不可能であるという問題がある。
【0011】
また、PHSのような広域で通信可能な無線通信技術を用いた場合、上述の3点測量の手法を用いた位置推定精度の誤差が大きくなるという問題がある。また、無線LANのような近距離で通信可能な無線通信技術を用いた場合、広域をカバーするためには、位置が既知の無線LANの親機を稠密に配置しなければならないという問題がある。
【0012】
また、従来の技術における位置推定方法は、ある無線通信端末の現在の状況に基づいて、その無線通信端末の現在位置を推定するものである。したがって、従来の技術における位置推定方法では、現在通信が不可能な状態の無線通信端末の現在位置を推定することは困難である。これは、無線通信端末がGPS機能を有する場合も同様である。
【0013】
また、GPSを用いた場合には、例えば、屋内などのGPS衛星からGPS信号を受信できない場所では位置特定が不可能であるという問題がある。さらに、GPSによって特定される位置は緯度及び経度の2次元座標であり、例えば、同一の緯度及び経度において無線通信端末がどのくらいの高さ(何階)にいるのかを特定することは容易ではないという問題がある。
【0014】
また、特許文献2に開示されている技術を用いた場合、作業者が情報を収集するために、位置情報データベースにタグIDをアップロードするための広域無線機を備えたICタグリーダ端末を携帯して移動しなければならず、また、多数のICタグリーダ端末(すなわち、このICタグリーダ端末を携帯する多数の作業者)を用意しなければならない。すなわち、特許文献2に開示されている技術では、広域無線機を備えたICタグリーダ端末及びこのICタグリーダ端末を携帯する作業者が多数必要となり、規模が大きくなるについて構築するシステムが大規模になってしまい、システムに要するコストも増大してしまうという問題がある。
【0015】
上記の問題を解決するため、本発明は、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、位置推定を実現することが可能な位置推定システム及び無線通信端末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明の位置推定システムは、所定エリア内を移動する複数の無線通信端末と、前記所定エリア内に固定設置された複数の基準局とを有する位置推定システムであって、
前記無線通信端末が、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
現在の時刻情報を出力する計時手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記計時手段から出力される前記時刻情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データ、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の前記交差履歴データ、前記計時手段から出力される現在の時刻情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを有し、
前記基準局が、
近隣に存在する前記無線通信端末と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を格納する位置特定情報格納手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記無線通信端末と通信可能な場合に、前記位置特定情報格納手段に格納されている前記位置特定情報を前記無線通信端末に送信する位置特定情報送信手段とを有する。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【0017】
また、上記の目的を達成するため、本発明の位置推定システムは、所定エリア内を移動する複数の無線通信端末と、前記所定エリア内に固定設置された複数の基準局とを有する位置推定システムであって、
前記無線通信端末が、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
自端末が移動した距離を表す移動距離情報を出力する移動距離情報出力手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記移動距離情報出力手段から出力される前記移動距離情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記移動距離情報出力手段から出力される現時点の移動距離情報と、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記移動距離情報との差分情報を算出する差分算出手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報とを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報とを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報、前記移動距離情報出力手段から出力される現在の移動距離情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを有し、
前記基準局が、
近隣に存在する前記無線通信端末と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を格納する位置特定情報格納手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記無線通信端末と通信可能な場合に、前記位置特定情報格納手段に格納されている前記位置特定情報を前記無線通信端末に送信する位置特定情報送信手段とを有する。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【0018】
また、上記の目的を達成するため、本発明の無線通信端末は、所定エリア内を移動する無線通信端末であって、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記所定エリア内に固定設置された基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
現在の時刻情報を出力する計時手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記計時手段から出力される前記時刻情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データ、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の前記交差履歴データ、前記計時手段から出力される現在の時刻情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを、
有する。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【0019】
さらに、本発明の無線通信端末は、上記の構成に加えて、前記位置推定処理手段は、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データから当該無線通信端末が通過した直近の基準局の位置特定情報とその通過時刻とを抽出するとともに、前記別の無線通信端末の前記交差履歴データから前記別の無線通信端末が通過した直近の基準局の位置特定情報とその通過時刻とを抽出し、前記抽出された2つの通過時刻のそれぞれから現在の時刻情報までの差分を用いて、当該無線通信端末及び前記別の無線通信端末のそれぞれが通過した2つの直近の基準局からの距離を概算することによって、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定するように構成されている。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【0020】
また、上記の目的を達成するため、本発明の無線通信端末は、所定エリア内を移動する無線通信端末であって、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記所定エリア内に固定設置された基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
自端末が移動した距離を表す移動距離情報を出力する移動距離情報出力手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記移動距離情報出力手段から出力される前記移動距離情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記移動距離情報出力手段から出力される現時点の移動距離情報と、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記移動距離情報との差分情報を算出する差分算出手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報とを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報とを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報、前記移動距離情報出力手段から出力される現在の移動距離情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを、
有する。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【0021】
さらに、本発明の無線通信端末は、上記の構成に加えて、前記差分算出手段で算出された前記差分情報と前記別の無線通信端末から受信した前記差分情報とを用いて、当該無線通信端末及び前記別の無線通信端末のそれぞれが通過した2つの直近の基準局からの距離を概算することによって、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定するように構成されている。
この構成により、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、無線通信端末同士がすれ違った際の位置を推定することが可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上記の構成を有し、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって、位置推定を実現することが可能である。また、本発明は、近距離無線機での通信の双方向性を活用した位置推定を実現することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照しながら、本発明の第1及び第2の実施の形態について説明する。
【0024】
まず、図1を参照しながら、本発明の第1及び第2の実施の形態に共通するシステム構成について説明する。図1は、本発明の第1及び第2の実施の形態に共通するシステム構成を模式的に示す図である。
【0025】
図1には、複数の移動無線機(携行型の移動無線機)100、複数の基準局110が図示されている。
【0026】
移動無線機100は、近距離無線通信を行って、相手装置(他の移動無線機100や基準局110)との間で機器ID(自機を識別するための識別情報)を交換する機能を有している。すなわち、移動無線機100は、自身の機器IDを相手装置に送信するとともに、相手装置の機器IDを受信することが可能である。なお、移動無線機100は、例えば人間や移動体(車両など)と共に移動し、移動先ですれ違った別の移動無線機100や基準局110と機器IDの交換を行うことが可能である。さらに、移動無線機100は、自機が通過した直近の基準局110の機器ID又は位置情報をすれ違う別の移動無線機100に渡すとともに、その移動無線機100が通過した直近の基準局110の機器ID又は位置情報を受信し、受信した直近の基準局110の機器ID又は位置情報に基づいて、自機の位置を推定することが可能である。なお、移動無線機100は、別の移動無線機100からその移動無線機100が通過した直近の基準局110の機器IDを受信した場合には、その機器IDに対応する基準局110の位置を特定する必要がある。
【0027】
また、基準局110は、所定の場所に固定設置されており、近距離無線通信を行うことが可能な装置である。基準局110は、周辺を通過する移動無線機100に対して少なくとも自身の機器IDを近距離無線通信によって送信する機能を有しており、さらに、移動無線機100と同様に、相手装置(周辺を通過する移動無線機100)の機器IDを近距離無線通信によって受信して蓄積できるように構成されていてもよい。
【0028】
なお、すべての基準局110の設置場所が管理され、移動無線機100が自機の位置推定に必要となる基準局110の設置場所を把握できるようにする必要がある。移動無線機100は、すべての基準局110の設置場所を含む基準局位置情報をあらかじめ保持していてもよく、すべての基準局110の設置場所を把握している基準局位置情報管理装置と任意の通信媒体を通じて通信を行うことで、必要な情報(所望の基準局110の設置場所)を取得してもよい。また、例えば、各基準局110の機器IDをその設置場所の井戸及び経度の数値で構成するなど、各基準局110の機器IDにそれぞれの設置場所を特定する情報を挿入しておくことで、基準局110の機器IDからその設置場所を示す位置情報を取得できるようにしてもよい。
【0029】
なお、基準局110の設置場所は、例えば2次元座標(例えば緯度及び経度)や3次元座標などの任意の形式の位置データとして表される。また、基準局110は、例えばその通信範囲がオーバラップするように稠密に配置される必要はなく、所定のエリア(移動無線機100の位置の推定を行う範囲)内においてその通信範囲が互いに離れた状態(疎の状態)で配置されればよい。
【0030】
上述のように、本発明では、自身の機器IDを送信する基準局110(設置場所が固定及び既知)が所定のエリア内に配置される。また、この所定のエリア内を移動する移動無線機100は、基準局110の近くを通過した場合にその基準局110の機器IDを受信して、交差履歴データとして蓄積する。さらに、移動無線機100は、別の移動無線機100とすれ違うと、相互に自身の機器IDや直近の基準局110の機器ID又は位置情報などを交換し、自機が通過した直近の基準局110の位置情報や、別の移動無線機100から受信した基準局110の位置情報(別の移動無線機100が通過した直近の基準局の位置情報)などに基づいて、別の移動無線機100との交差地点の位置(交差後に即座に位置特定を行う場合には現在位置)を推定することが可能である。
【0031】
以下、本発明の第1及び第2の実施の形態について説明する。
【0032】
<第1の実施の形態>
まず、本発明の第1の実施の形態について説明する。本発明の第1の実施の形態では、移動無線機100が、位置が既知である基準局110から移動した時間に基づいて、自機の位置を把握する場合について説明する。
【0033】
図2には、本発明の第1の実施の形態における移動無線機100の構成の一例が図示されている。図2に図示されている移動無線機100は、送信部101、受信部102、機器ID記憶部103、交差履歴格納部104、計時機能部105、基準位置情報取得部106、位置推定処理部107、制御部108を有している。なお、図2では、これらの各機能ブロックが内部バスを介して接続されている状態が模式的に図示されている。
【0034】
送信部101及び受信部102は、他の無線機(別の無線移動機100、基準局110)と無線通信を行うための機能を有している。本発明では、送信部101及び受信部102で利用される無線通信技術に近距離無線通信が適用される。なお、近距離無線通信とは、数十センチメートル〜数メートル程度の近距離の通信範囲を有する無線通信であり、例えばRFID(Radio Frequency Identification)の通信技術が利用可能である。
【0035】
また、機器ID記憶部103には、移動無線機100を識別するためのこの移動無線機100固有の機器ID(識別情報)があらかじめ記憶されている。
【0036】
また、交差履歴格納部104は、すれ違った別の移動無線機100や基準局110から受信したデータを交差履歴データとして記憶する機能を有している。なお、基準局110の近くを通過した際にその基準局110から受信する機器ID又は位置情報や、別の移動無線機100とすれ違った際にその移動無線機100から受信する機器IDやその移動無線機100がすれ違った直近の基準局110の機器ID又は位置情報が、計時機能部105から得られる時刻情報と関連付けられて交差履歴データとして交差履歴格納部104に格納される。交差履歴格納部104に格納される交差履歴データの一例については、後で図4A及び図4Bを参照しながら説明する。
【0037】
また、計時機能部105は、現在の時刻を時刻情報として出力機能を有している。計時機能部105から出力される時刻情報は、交差履歴格納部104への交差履歴データの格納の際に使用される。
【0038】
また、基準局位置情報取得部106は、位置推定処理部107における位置推定処理が行われる際に必要となる基準局110の設置場所(位置情報)を取得する機能を有している。基準局位置情報取得部106による基準局110の位置情報の取得方法は任意である。例えば、基準局位置情報取得部106は、移動無線機100内にあらかじめ格納されているすべての基準局110の基準局位置情報を参照し、すべての基準局110の基準局位置情報の中から、機器IDをキーとして所望の基準局110の位置情報を取得してもよい。また、近距離無線通信によって通信可能な基準局110に対して位置情報を要求することで、基準局110から位置情報を直接受信してもよい。また、任意の通信手段を用いてネットワーク(例えばインターネット)上の所定の基準局位置情報管理装置に対して、所望の基準局110の位置情報の問い合わせを行ってもよい。さらに、各基準局110の機器IDにその基準局110の位置情報が含まれるように設定しておき、基準局位置情報取得部106が、所望の基準局110の機器IDからその位置情報を取得してもよい。
【0039】
また、位置推定処理部107は、交差履歴格納部104に格納された交差履歴データを参照して、移動無線機100の現在位置(別の移動無線機100とすれ違った交差地点)を算出する機能を有している。なお、位置推定処理部107による位置推定方法については、後で説明する。
【0040】
また、制御部108は、移動無線機100の処理を制御する機能を有している。具体的には、制御部108は、送信部101から外部(他の無線機)へ機器IDやその他の必要な情報を送信する処理、他の無線機から受信したデータを計時機能部105が出力する時刻情報と関連付けて交差履歴格納部104に交差履歴データとして格納する処理、位置推定処理部107における位置推定を制御する処理などの各処理の制御を行う。
【0041】
また、本発明の第1の実施の形態における基準局110は、この基準局110に与えられている機器ID又は位置情報を、近隣(近距離無線通信の通信範囲内)を通過する移動無線機100に送信する機能を有している。なお、基準局110は、移動無線機100と同様に、近くを通過する移動無線機100から機器IDを受信し格納してもよい。これによって、基準局110には、その近くを通過した移動無線機100の通過履歴が残るようになる。
【0042】
次に、図3を参照しながら、本発明の第1の実施の形態における移動無線機100の動作の一例について説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態における移動無線機100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0043】
図3において、移動無線機100は、他の無線機(別の移動無線機100又は基準局110)が発見されるか否かを監視している(ステップS301)。そして、移動無線機100が移動して他の無線機と通信可能な距離まで近づいた場合や、この移動無線機100は移動せずに止まっている状態で別の移動無線機100が通信可能な距離まで近づいてきた場合などに、移動無線機100は他の無線機を発見し、その無線機に対して機器IDを要求して、相手装置(発見した無線機)と機器IDを交換する(ステップS303)。
【0044】
また、移動無線機100は、通信可能な距離に近づいた無線機の種別を判別する。すなわち、移動無線機100は、相手装置が、携行型の移動無線機100であるか、あるいは固定設置されている基準局110であるかを判別する(ステップS305)。なお、相手装置の種別を判別する方法は任意である。例えば、移動無線機100及び基準局110のそれぞれの種別を示すコードを機器IDに含ませておき、ステップS303で受信した機器IDから、その種別が分かるようにしてもよい。
【0045】
相手装置が携行型の場合には、移動無線機100は、自身の交差履歴データから直近の基準局情報(直近の基準局110の機器ID又は位置情報)を抽出し、この基準局情報を相手装置に送信する(ステップS307)。また、移動無線機100は、相手装置が記憶している基準局情報を相手装置から受信する(ステップS309)。そして、移動無線機100は、自身の交差履歴データに記憶されている直近の基準局情報(ステップS307で送信した基準局情報)と、相手装置から受信した基準局情報(ステップS309で受信した基準局情報)とに基づいて、自機の現在位置(相手装置との交差地点)を推定する処理を行う(ステップS311)。なお、このステップS311で使用可能な位置推定アルゴリズムの一例に関しては、後で詳細に説明する。また、ここでは、ステップS307において基準局情報が送信されてから、ステップS309において基準局情報が受信されているが、送信及び受信の順序は逆であってもよい。
【0046】
一方、相手装置が基準局110の場合には、移動無線機100は、基準局位置情報取得部107によってその基準局110の設置場所を示す位置情報を取得する(ステップS313)。なお、上述のように、基準局位置情報取得部107による位置情報の取得方法は任意である。そして、この基準局110の機器IDや位置情報と、計時機能部104から出力される時刻情報とを関連付けたデータが、交差履歴データとして交差履歴格納部105に格納される(ステップS315)。なお、交差履歴格納部105に格納された交差履歴データのうち、関連付けられている時刻情報が最も新しいものが直近の基準局情報となる。
【0047】
そして、上述のステップS311、S315のいずれかの処理を完了した移動無線機100は、再び、他の無線機を監視する状態(ステップS301における監視処理)に戻る。
【0048】
なお、ここでは、移動無線機100が基準局110に対しては機器IDを送信しない場合を一例に挙げているが、移動無線機100が、ステップS307と同様の処理を行って自身の機器IDを基準局110に送信してもよい。この場合、基準局110は、受信した機器IDと受信時刻とを交差履歴として格納することで、基準局110の近くを通過した移動無線機100の履歴が蓄積されるようになる。
【0049】
ステップS315において、移動無線機100の交差履歴格納部105に格納される交差履歴データには、図4Aや図4Bに図示されているような情報要素が含まれている。図4A及び図4Bは、本発明の第1の実施の形態における移動無線機が保持する交差履歴データの第1及び第2の例を示す図である。
【0050】
図4Aには、機器IDがID(M1)である移動無線機100の交差履歴データが図示されている。図4Aに図示されている移動履歴によれば、機器IDがID(M1)の移動無線機100は、時刻Taに機器IDがID(S1)であり位置がP(S1)である基準局110の近くを通過してその機器IDを受信し、時刻Tbに機器IDがID(S2)であり位置がP(S2)である基準局110の近くを通過してその機器IDを受信していることが分かる。
【0051】
また、図4Bには、機器IDがID(M2)である移動無線機100の交差履歴データが図示されている。図4Bに図示されている移動履歴によれば、機器IDがID(M2)の移動無線機100は、時刻Tcに機器IDがID(S3)であり位置がP(S3)である基準局110の近くを通過してその機器IDを受信し、時刻Tdに機器IDがID(S4)であり位置がP(S4)である基準局110の近くを通過してその機器IDを受信していることが分かる。
【0052】
なお、図4A及び図4Bに図示されている交差履歴データでは、直近の基準局110だけではなく、それよりも前に通過した基準局110に関する情報も格納されているが、直近の基準局110に関する情報のみが格納されていればよい。また、交差履歴データに、移動無線機100とすれ違った際に取得される情報(別の移動無線機100の機器IDや、別の移動無線機100が通過した直近の基準局110の機器ID又は位置情報)が格納されてもよい。また、図4A及び図4Bでは、交差履歴データに格納されている情報要素として機器ID及び位置情報が含まれているように図示されているが、機器IDと位置情報との対応関係は、基準局位置情報取得部106が参照可能な基準局位置情報によって把握できるようにしてもよい。
【0053】
次に、本発明の第1の実施の形態における位置推定処理部107で行われる位置推定処理(図3のステップS311における処理に対応)のアルゴリズムについて、図5A〜図5Dを参照しながら説明する。なお、図5A〜図5Dには、別々に移動している2つの移動無線機100a、100bがそれぞれ離れた場所に存在している状態からすれ違う状態までが時系列的に図示されている。
【0054】
図5Aには、2つの移動無線機100a、100bがそれぞれ離れた場所で移動している初期状態が図示されている。また、図5Bには、図5Aの状態から時間が経過し、一方の移動無線機100aが、機器IDがID(S2)である基準局110aの近くを通過して、基準局110aに係る交差履歴データを格納した状態が図示されている。なお、図5Bでは、移動無線機100aは、時刻Tbにおいて、機器IDがID(S2)であり位置がP(S2)である基準局110aのそばを通過し、図4Aに図示されている時刻Tbで特定される交差履歴データを格納する。
【0055】
また、図5Cには、図5Bの状態から時間が経過し、もう一方の移動無線機100bが、機器IDがID(S4)である基準局110bの近くを通過して、基準局110bに係る交差履歴データを格納した状態が図示されている。なお、図5Cでは、移動無線機100bは、時刻Tdにおいて、機器IDがID(S4)であり位置がP(S4)である基準局110bのそばを通過し、図4Bに図示されている時刻Tdで特定される交差履歴データを格納する。
【0056】
また、図5Dには、図5Cの状態から時間が経過し、2つの移動無線機100a、100bが接近して、互いの交差履歴データ(直近の基準局情報)を交換する状態が図示されている。なお、図5Dでは、時刻Tzにおいて、移動無線機100a、100bが交差している。
【0057】
このとき、移動無線機100aは、例えば、自身が保持する直近の基準局情報と、別の移動無線機100bから受信した直近の基準局情報とに基づいて、時刻Tzにおける自機の位置を算出することが可能である。具体的には、移動無線機100a自身が直近に通過した基準局の位置P(S2)と通過後の経過時間ΔTb=Tz−Tb、別の移動無線機100bが直近に通過した基準局の位置P(S4)と通過後の経過時間ΔTd=Tz−Tdから、下記の式(1)によって、時刻Tzにおける移動無線機100a(又は移動無線機100b)の位置P[Tz]を求めることが可能である。
式(1): P[Tz]={P(S4)−P(S2)}×ΔTb/(ΔTb+ΔTd)+P(S2)
【0058】
なお、移動無線機100bにおいても、上記の式(1)を用いて同様に、移動無線機100bとすれ違った位置P[Tz]を求めることが可能である。また、上記の式(1)の代わりに、下記の式(2)を用いた場合も同様に、時刻Tzにおける移動無線機100a(又は移動無線機100b)の位置P[Tz]を求めることが可能である。
式(2): P[Tz]={P(S2)−P(S4)}×ΔTd/(ΔTb+ΔTd)+P(S4)
【0059】
なお、上記の式(1)、(2)では、移動無線機100a、100bがそれぞれの直近の基準局の位置を結ぶ直線上を等速移動すると仮定して、移動無線機100a、100bの交差地点を推定しているが、例えば、直近の基準局だけではなく、それ以前に移動無線機100a、100bのそれぞれが通過した基準局の位置などを考慮して移動無線機100a、100bの移動軌跡を推定し、推定された移動軌跡から交差地点を求めてもよい。また、道路や施設などの情報を含む地図データを考慮し、2つの移動無線機100a、100bが道路や通路上を移動するように移動軌跡を推定してもよい。
【0060】
以上、説明したように、本発明の第1の実施の形態によれば、すれ違う移動無線機100同士が、直近に通過した基準局110の位置を特定するための情報や直近の基準局110から現在位置までの移動に要した時間情報を交換することによって、別の移動無線機100との交差地点の位置(交差後に即座に位置特定を行う場合には現在位置)を推定することが可能となる。
【0061】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。本発明の第2の実施の形態では、移動無線機100が、位置が既知である基準局110から移動した歩数(あるいは移動距離)に基づいて、自機の位置を把握する場合について説明する。
【0062】
図6には、本発明の第2の実施の形態における移動無線機100の構成の一例が図示されている。図6に図示されている移動無線機100は、送信部101、受信部102、機器ID記憶部103、交差履歴格納部104、歩数計測部605、基準局位置情報取得部106、位置推定処理部607、制御部108を有している。なお、図6では、これらの各機能ブロックが内部バスを介して接続されている状態が模式的に図示されている。
【0063】
図2に図示されている構成と比較して分かるように、本発明の第2の実施の形態における移動無線機100は、計時機能部105に代わって歩数計測部605を有している。歩数計測部605は、移動無線機100を持って移動する人間の歩数をカウントする機能を有しており、カウントされた歩数に人間の平均歩幅を積算することで大体の移動距離を計算することが可能である。歩数計測部605で計測された歩数(移動距離に相当)は、交差履歴の記録の際に用いられる。すなわち、本発明の第2の実施の形態では、基準局110から機器IDを受信した場合に格納される交差履歴データにおいて、時刻(受信時刻)の代わりに歩数(あるいは移動距離)が関連付けられて記憶される。
【0064】
なお、ここでは移動距離を求めるための機能として、簡素な構成で実装が楽な歩数計測部605を利用しているが、移動距離の計測を行うことが可能な任意の機能を実装させることが可能である。例えば、移動距離の計測に、車両などに設置されている走行距離の計測機能を利用することも可能である。
【0065】
また、位置推定処理部607は、上述の本発明の第1の実施の形態と同様に、交差履歴格納部104に格納された交差履歴データを参照して、別の移動無線機100との交差地点の位置(交差後に即座に位置特定を行う場合には現在位置)を算出する機能を有しているが、本発明の第2の実施の形態では、交差履歴データに歩数(あるいは移動距離)の情報が関連付けられるため、利用される位置推定アルゴリズムが異なる。なお、本発明の第2の実施の形態における位置推定アルゴリズムについては、図7を参照しながら後述する。
【0066】
また、図6に図示されているその他の機能(送信部101、受信部102、機器ID記憶部103、交差履歴格納部104、基準局位置情報取得部106、制御部108)は、基本的に図2に図示されているものと同一の機能を有しており、ここでは説明を省略する。
【0067】
次に、図7を参照しながら、本発明の第2の実施の形態における移動無線機100の動作の一例について説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態における移動無線機100の動作の一例を示すフローチャートである。
【0068】
図7において、移動無線機100は、他の無線機(別の移動無線機100や基準局110)が発見されるか否かを監視している(ステップS701)。そして、移動無線機100が移動して他の無線機と通信可能な距離まで近づいた場合や、この移動無線機100は移動せずに止まっている状態で別の移動無線機100が通信可能な距離まで近づいてきた場合などに、移動無線機100は他の無線機を発見し、その無線機に対して機器IDを要求して、相手装置(発見した無線機)と機器IDを交換する(ステップS703)。また、移動無線機100は、移動時には常に歩数(移動距離)の計測処理を行っている(ステップS702)。
【0069】
また、移動無線機100は、通信可能な距離に近づいた無線機の種別を判別する。すなわち、移動無線機100は、相手装置が、携行型の移動無線機100であるか、あるいは固定設置されている基準局110であるかを判別する(ステップS705)。なお、相手装置の種別を判別する方法は任意である。例えば、移動無線機100、基準局110、接続局120のいずれかのそれぞれの種別を示すコードを機器IDに含ませておき、ステップS703で受信した機器IDから、その種別が分かるようにしてもよい。
【0070】
相手装置が携行型の場合には、移動無線機100は、自身の交差履歴データから直近の基準局情報(直近の基準局110の機器ID又は位置情報)に関連付けられている歩数情のカウント値(後述のステップS717で関連付けられる歩数のカウント値)を抽出するとともに、現時点で歩数計測部605から出力される歩数のカウント値を取得し、これらのカウント値の差分を計算する(ステップS707)。なお、ステップS707で計算される歩数の差分は、この移動無線機100が通過した直近の基準局110から現在位置までの歩数情報(移動距離情報)として利用可能である。
【0071】
そして、移動無線機100は、ステップS707で計算した歩数の差分と、直近の基準局110の基準局情報とを相手装置に送信する(ステップS709)。また、移動無線機100は、相手装置が同様に送信してくる歩数の差分及び基準局情報を相手装置から受信する(ステップS711)。そして、移動無線機100は、自身の交差履歴データに記憶されている直近の基準局情報やステップS709で計算した歩数(ステップS709で送信した基準局情報及び歩数)と、相手装置から受信した基準局情報や歩数(ステップS711で受信した基準局情報及び歩数)とに基づいて、自機の現在位置(相手装置との交差地点)を推定する処理を行う(ステップS713)。なお、このステップS713で使用可能な位置推定アルゴリズムの一例に関しては、後で詳細に説明する。
【0072】
一方、相手装置が基準局110の場合には、移動無線機100は、基準局位置情報取得部107によってその基準局110の設置場所を示す位置情報を取得する(ステップS715)。なお、上述のように、基準局位置情報取得部107による位置情報の取得方法は任意である。そして、この基準局110の機器IDや位置情報と、現時点で歩数計測部604から出力される歩数情報とを関連付けたデータが、交差履歴データとして交差履歴格納部105に格納される(ステップS717)。なお、交差履歴格納部105に格納された交差履歴データのうち、歩数のカウント値が最も大きいものが直近の基準局情報となるが、交差履歴データの格納の際にその時点での時刻を同時に記録することで、直近の基準局情報(時刻情報が最も新しいもの)を容易に特定できるようにしてもよい。
【0073】
そして、上述のステップS713、S717のいずれかの処理を完了した移動無線機100は、再び、他の無線機を監視する状態(ステップS701における監視処理、ステップS702における歩数計測処理)に戻る。
【0074】
なお、ここでは、移動無線機100が基準局110に対しては機器IDを送信しない場合を一例に挙げているが、移動無線機100が、ステップS709と同様の処理を行って自身の機器IDを基準局110に送信してもよい。この場合、基準局110は、受信した機器IDと受信時刻とを交差履歴として格納することで、基準局110の近くを通過した移動無線機100の履歴が蓄積されるようになる。
【0075】
次に、本発明の第2の実施の形態における位置推定処理部607で行われる位置推定処理(図7のステップS713における処理に対応)のアルゴリズムについて説明する。本発明の第2の実施の形態における位置推定処理は、基本的に、本発明の第1の実施の形態において用いられているパラメータ“時刻”を“歩数(あるいは移動距離)”と適宜読み換えたものに等しい。
【0076】
以下、図5A〜図5Dに図示されている状態を本発明の第2の実施の形態に適用した場合について説明する。ここで、移動無線機100aが直近に通過した基準局の位置をP(S2)、その通過時の歩数のカウント値をCb、別の移動無線機100bとすれ違った際の歩数のカウント値をCvとし、移動無線機100bが直近に通過した基準局の位置をP(S4)、その通過時の歩数のカウント値をCd、別の移動無線機100aとすれ違った際の歩数のカウント値をCwとした場合、ΔCb=Cv−Cb、ΔCd=Cw−Cdと表すと、下記の式(3)又は(4)から移動無線機100a、100bの交差地点の位置Pを求めることが可能である。
式(3): P={P(S4)−P(S2)}×ΔCb/(ΔCb+ΔCd)+P(S2)
式(4): P={P(S2)−P(S4)}×ΔCd/(ΔCb+ΔCd)+P(S4)
【0077】
なお、上記の式(3)、(4)では、移動無線機100a、100bがそれぞれの直近の基準局の位置を結ぶ直線上を同一の速度で移動すると仮定して、移動無線機100a、100bの交差地点を推定しているが、例えば、直近の基準局だけではなく、それ以前に移動無線機100a、100bのそれぞれが通過した基準局の位置などを考慮して移動無線機100a、100bの移動軌跡を推定し、推定された移動軌跡から交差地点を求めてもよい。また、道路や施設などの情報を含む地図データを考慮し、2つの移動無線機100a、100bが道路や通路上を移動するように移動軌跡を推定してもよい。
【0078】
以上、説明したように、本発明の第2の実施の形態によれば、すれ違う移動無線機100同士が、直近に通過した基準局110の位置を特定するための情報や直近の基準局110から現在位置までの移動に要した歩数情報(移動距離情報)を交換することによって、別の移動無線機100との交差地点の位置(交差後に即座に位置特定を行う場合には現在位置)を推定することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、近距離通信機能を用いた簡単なシステム構成によって高精度の位置推定を実現するという効果や、近距離無線機での通信の双方向性を活用してより高精度の位置推定を実現するという効果を有し、無線通信端末の位置を推定するための位置推定技術に適用可能であり、特に、近距離無線通信の機能を有する近距離無線機の位置を推定するための位置推定技術に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】本発明の第1及び第2の実施の形態に共通するシステム構成を模式的に示す図
【図2】本発明の第1の実施の形態における移動無線機の構成の一例を示す図
【図3】本発明の第1の実施の形態における移動無線機の動作の一例を示すフローチャート
【図4A】本発明の第1の実施の形態における移動無線機の交差履歴データの一例を示す図
【図4B】本発明の第1の実施の形態において移動無線機の交差履歴データの別の一例を示す図
【図5A】本発明の第1の実施の形態において、離れた場所に存在している2つの移動無線機が移動して交差するまでの状態を示すものであり、その初期状態を示す図
【図5B】本発明の第1の実施の形態において、離れた場所に存在している2つの移動無線機が移動して交差するまでの状態を示すものであり、一方の移動無線機が基準局付近に存在する状態を示す図
【図5C】本発明の第1の実施の形態において、離れた場所に存在している2つの移動無線機が移動して交差するまでの状態を示すものであり、もう一方の移動無線機が基準局付近に存在する状態を示す図
【図5D】本発明の第1の実施の形態において、離れた場所に存在している2つの移動無線機が移動して交差するまでの状態を示すものであり、2つの移動無線機が交差している状態を示す図
【図6】本発明の第2の実施の形態における移動無線機の構成の一例を示す図
【図7】本発明の第2の実施の形態における移動無線機の動作の一例を示すフローチャート
【図8】従来の技術における3点測量の手法の概略を示す図
【符号の説明】
【0081】
100 移動無線機
101 送信部
102 受信部
103 機器ID記憶部
104 交差履歴格納部
105 計時機能部
106 基準局位置情報取得部
107、707 位置推定処理部
108 制御部
110 基準局
705 歩数計測部
2000 移動端末
2001−2003 基地局

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定エリア内を移動する複数の無線通信端末と、前記所定エリア内に固定設置された複数の基準局とを有する位置推定システムであって、
前記無線通信端末が、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
現在の時刻情報を出力する計時手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記計時手段から出力される前記時刻情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データ、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の前記交差履歴データ、前記計時手段から出力される現在の時刻情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを有し、
前記基準局が、
近隣に存在する前記無線通信端末と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を格納する位置特定情報格納手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記無線通信端末と通信可能な場合に、前記位置特定情報格納手段に格納されている前記位置特定情報を前記無線通信端末に送信する位置特定情報送信手段とを有する位置推定システム。
【請求項2】
所定エリア内を移動する複数の無線通信端末と、前記所定エリア内に固定設置された複数の基準局とを有する位置推定システムであって、
前記無線通信端末が、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
自端末が移動した距離を表す移動距離情報を出力する移動距離情報出力手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記移動距離情報出力手段から出力される前記移動距離情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記移動距離情報出力手段から出力される現時点の移動距離情報と、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記移動距離情報との差分情報を算出する差分算出手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報とを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報とを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報、前記移動距離情報出力手段から出力される現在の移動距離情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを有し、
前記基準局が、
近隣に存在する前記無線通信端末と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を格納する位置特定情報格納手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記無線通信端末と通信可能な場合に、前記位置特定情報格納手段に格納されている前記位置特定情報を前記無線通信端末に送信する位置特定情報送信手段とを有する位置推定システム。
【請求項3】
所定エリア内を移動する無線通信端末であって、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記所定エリア内に固定設置された基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
現在の時刻情報を出力する計時手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記計時手段から出力される前記時刻情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データ、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の前記交差履歴データ、前記計時手段から出力される現在の時刻情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを、
有する無線通信端末。
【請求項4】
前記位置推定処理手段は、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データから当該無線通信端末が通過した直近の基準局の位置特定情報とその通過時刻とを抽出するとともに、前記別の無線通信端末の前記交差履歴データから前記別の無線通信端末が通過した直近の基準局の位置特定情報とその通過時刻とを抽出し、前記抽出された2つの通過時刻のそれぞれから現在の時刻情報までの差分を用いて、当該無線通信端末及び前記別の無線通信端末のそれぞれが通過した2つの直近の基準局からの距離を概算することによって、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定するように構成されている請求項3に記載の無線通信端末。
【請求項5】
所定エリア内を移動する無線通信端末であって、
近隣に存在する別の無線通信端末、前記所定エリア内に固定設置された基準局と通信を行う近距離無線通信手段と、
前記近距離無線通信手段を介して前記基準局と通信可能な場合に、前記基準局の位置を特定するための位置特定情報を前記基準局から受信する基準局情報受信手段と、
自端末が移動した距離を表す移動距離情報を出力する移動距離情報出力手段と、
前記基準局情報受信手段で受信した前記位置特定情報を、前記移動距離情報出力手段から出力される前記移動距離情報と関連付けて、交差履歴データとして記憶する交差履歴データ記憶手段と、
前記別の無線通信端末に接近して前記近距離無線通信手段を介して前記別の無線通信端末と通信可能となった場合に、前記移動距離情報出力手段から出力される現時点の移動距離情報と、前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記移動距離情報との差分情報を算出する差分算出手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報とを前記別の無線通信端末に送信するとともに、前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報とを前記別の無線通信端末から受信する交差履歴データ交換手段と、
前記交差履歴データ記憶手段に記憶されている前記交差履歴データの前記位置特定情報と前記差分算出手段で算出された前記差分情報、前記別の無線通信端末から受信した前記別の無線通信端末の交差履歴データの位置特定情報と差分情報、前記移動距離情報出力手段から出力される現在の移動距離情報を利用して、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定する位置推定処理手段とを、
有する無線通信端末。
【請求項6】
前記差分算出手段で算出された前記差分情報と前記別の無線通信端末から受信した前記差分情報とを用いて、当該無線通信端末及び前記別の無線通信端末のそれぞれが通過した2つの直近の基準局からの距離を概算することによって、前記別の無線通信端末と前記近距離無線通信手段を介して通信を行った位置を推定するように構成されている請求項5に記載の無線通信端末。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−36692(P2009−36692A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−202544(P2007−202544)
【出願日】平成19年8月3日(2007.8.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】