説明

位置推定方法

【課題】監視対象が付帯するRFタグの位置を推定し、追跡する。
【解決手段】アドホックネットワーク100では、監視区域A内のアドホックセンサ2(4)、2(3)が、アクティブタグ1(n)の発信電波の規定周波数成分の振幅が基準振幅を超えていると判定した場合、その受信結果は、それぞれアドホック通信によってセンタコンピュータ3に伝送される。センタコンピュータ3では、各アドホックセンサ2(4)、2(3)からの受信結果をオペレータに提示する。オペレータは、提示される受信結果を比較して、最も振幅の高い電波を受信したアドホックセンサ2(4)の設置場所をアクティブタグ1(n)の位置として推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、監視対象が付帯するRF(Radio Frequency)タグから発信される規定周波数成分を含む電波を受信可能な複数のアドホックセンサをマルチホップ通信自在に間隔を空けて配置したアドホックネットワークを用いて、前記RFタグの位置を推定する位置推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広域な範囲で監視対象の位置を検知・追跡可能なシステムとしては、GPS(Global Positioning System)測位機能を搭載した携帯端末の位置を検知し、追跡するシステムが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、RFタグの受信装置を公道や各種設備に設置して、監視対象に付帯したRFタグの位置を検知し、追跡するシステムが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2005−309513号公報
【特許文献2】特開2006−119955号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、前記特許文献1に記載の技術では、携帯端末がGPS測位機能を備えている必要があるため、装置として小型化に適さず、安価なシステムの構築に支障があった。また、前記特許文献2に記載の技術では、10m〜100m程度の長距離通信が可能なRFタグであっても、通信に利用する電波が微弱であるため、周囲に強力なノイズ発生源があると、通信に支障を来す恐れがあった。
【0004】
そこで、本発明は、周辺ノイズを考慮した安価な通信システムを用いて、RFタグの位置を推定・追跡自在な位置推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、監視対象が付帯するRFタグから発信される規定周波数成分を含む電波を受信可能な複数のアドホックセンサをマルチホップ通信自在に間隔を空けて配置したアドホックネットワークを用いて、前記RFタグの位置を推定する位置推定方法であって、監視区域内の各前記アドホックセンサには、前記RFタグから発信される規定周波数の電波を判別するための同一の基準振幅を登録しておき、各前記アドホックセンサが受信した電波に含まれる前記規定周波数成分の振幅と前記基準振幅とを比較して、前記基準振幅を超えた前記規定周波数の成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサが設置された場所を前記RFタグの位置として推定するようにした。
【0006】
かかる構成によれば、RFID(Radio Frequency Identification)通信によって受信した電波に含まれる規定周波数成分の振幅と基準振幅とを比較して、その基準振幅を超える規定周波数成分を含む電波を受信したときに自らの場所をRFタグの位置としてマルチホップ通信によって、アドホックネットワークに接続する各種端末に報知することが可能になる。また、この構成によれば、同一の基準振幅が各アドホックセンサに登録されているため、各アドホックセンサからの監視対象のRFタグの位置を相対的に比較して、監視対象のRFタグがいずれのアドホックセンサに最も近いのかを把握できる。そのため、RFタグ、つまり、監視対象が、アドホックセンサの設置場所の近辺に存在するということを推定できる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、間隔を空けて配置された複数のアドホックセンサから規定周波数成分を含む電波を発信し、前記アドホックセンサのいずれかから発信された電波を受信したRFタグが応答としての規定周波数成分を含む電波を発信し、前記応答としての規定周波数成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサから他の前記アドホックセンサにマルチホップ通信するアドホックネットワークを用いて、前記RFタグの位置を推定する位置推定方法であって、監視区域内の各前記アドホックセンサには、前記RFタグから発信される規定周波数の電波を判別するための同一の基準振幅を登録しておき、各前記アドホックセンサが受信した電波に含まれる前記規定周波数成分の振幅と前記基準振幅とを比較して、前記基準振幅を超えた前記規定周波数の成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサが設置された場所を前記RFタグの位置として推定するようにした。
【0008】
かかる構成によれば、RFタグは、アドホックセンサから呼びかけがあったときにだけ応答として電波を発信すればよいため、呼びかけがないときにスリープ状態にすることができる。したがって、RFタグは必要以上に自らの存在を報知しなくてもよいため、これを付帯する監視対象のプライバシーの保護を図る上で有用である。また、RFタグがアクティブタグの場合には電池の長寿命化を図る上でも有用である。
【0009】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2において、前記基準振幅を、前記RFタグから発信される規定周波数の電波と周辺ノイズとを判別可能な同一の振幅とした。かかる構成によれば、アドホックセンサが、RFタグからの電波と周辺ノイズとを判別することができるため、監視対象のRFタグからの電波を確実にキャッチすることができる。
【0010】
また、請求項4に記載の発明は、請求項3において、監視区域内の複数の前記アドホックセンサが前記RFタグの検知前に受信したノイズの前記規定周波数における振幅の内のいずれか一つを前記基準振幅とした。かかる構成によれば、RFタグのいずれかが必ず受信するノイズにおける規定周波数の振幅を基準振幅とするため、監視区域内のノイズレベルの状況に応じてRFタグを検知することができるようになる。また、任意の値をあらかじめ設定しておく必要がないため、人手による設定作業を簡略化することができる。
【0011】
なお、特に、そのノイズの規定周波数における振幅の中でも、最大値を基準振幅とする場合には、監視区域内のすべてのアドホックセンサが、RFタグからの電波と周辺ノイズとを判別して、RFタグからの電波をキャッチすることができる。そして、この場合、各アドホックセンサで受信されたノイズに含まれる規定周波数成分の振幅のうち、最も高い振幅を基準振幅とするため、最もノイズレベルの高い環境に設置されたアドホックセンサと同一の基準でRFタグとノイズとを判別できる。また、ノイズレベルの低い環境に設置されたアドホックセンサでは、最もノイズの多い環境に設置されたアドホックセンサの検知範囲を超えた位置のRFタグが検知されなくなるため、監視区域内の各アドホックセンサが重複してRFタグを検知することを抑え、各種端末が収集する検知データを減らすことができる。そのため、検知データ同士を比較したり、演算したりする量が減るため、処理能力の向上を図ることができる。要するに、ノイズレベルの低い環境に設置されたアドホックセンサの受信感度が、最もノイズレベルの高い環境に設置されたアドホックセンサと同じになる。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項3又は請求項4において、監視区域内にある複数の前記アドホックセンサが前記RFタグの最初の検知前に受信したノイズの前記規定周波数における振幅の内のいずれか一つを前記基準振幅とした後に、2回目以降の前記RFタグの検知前に、一の前記アドホックセンサの位置を前記RFタグの位置として推定した場所に設置されている前記アドホックセンサと、当該アドホックセンサに隣接して設置されている他の前記アドホックセンサとの中で、前記規定周波数成分のノイズが最も高い振幅の値を前記基準振幅として、前記アドホックセンサに登録するようにした。
【0013】
かかる構成によれば、アドホックセンサが設置されている環境のノイズレベルに応じ、アドホックセンサの受信感度が調節されるため、その環境下でのアドホックセンサの受信能力を最大限に生かすことができる。
【0014】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項において、前記アドホックセンサを選択して、当該選択した前記アドホックセンサに同一の前記基準振幅を登録することで、前記監視区域を設定するようにした。かかる構成によれば、監視区域の設定作業が、アドホックセンサの選択という作業によって行えるようになる。
【0015】
また、請求項7に記載の発明は、請求項1から請求項6までのいずれか1項において、前記基準振幅を、変圧器又は信号機の近傍に設置された前記アドホックセンサが受信した周辺ノイズに含まれる前記周波数成分の振幅とするようにした。
【0016】
かかる構成によれば、振幅の高いノイズの発生源である変圧器又は信号機の近傍に設置されたアドホックセンサが受信する周辺ノイズに基づいた同一の基準振幅に従ってRFタグの位置を検知することが可能となる。
【0017】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1にから請求項7までのいずれか1項において、前記アドホックネットワークに接続された監視装置が、マルチホップ通信によって監視区域内に設置されている前記アドホックセンサに向けて前記基準振幅を送信するようにした。
【0018】
かかる構成によれば、監視装置が、監視区域内の各アドホックセンサに基準振幅を送信するため、各アドホックセンサは監視区域内で同一の基準振幅を登録することができる。
【0019】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1から請求項8までのいずれか1項において、前記アドホックネットワークに接続された監視装置が、マルチホップ通信によって監視区域内に設置されている少なくとも一つの前記アドホックセンサに向けて、前記基準振幅の演算司令を送信し、前記演算司令を受信した前記アドホックセンサは、受信電波の周波数成分の振幅を演算し、演算した周波数成分の振幅のうち、前記規定周波数における振幅を前記基準振幅として監視区域内の他の前記アドホックセンサにアドホック通信によって送信するようにした。
【0020】
かかる構成によれば、監視装置に演算司令を出されたアドホックセンサが、基準振幅を演算して、監視区域内の残りのアドホックセンサに基準振幅を送信するため、各アドホックセンサが同一の基準振幅を保持できる。
【0021】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1から請求項9までのいずれか1項において、前記アドホックセンサは、前記RFタグの位置が確認出来たら自身を識別する識別情報をマルチホップ通信で前記監視装置に送信するようにした。
【0022】
かかる構成によれば、監視装置は、RFタグを確認したアドホックセンサを識別する識別情報を取得することができるため、そのアドホックセンサの設置場所をRFタグの存在する位置として判別することができる。
【0023】
また、請求項11に記載の発明は、請求項1から請求項10までにおいて、前記アドホックセンサが検知した規定周波数成分の振幅の時間変化の増加又は減少に応じて、前記RFタグが前記アドホックセンサに向かって近づく移動又は離れる移動として推定するようにした。
【0024】
かかる構成によれば、RFタグからの受信電波の振幅の増加によって監視対象がアドホックセンサに近づいていると推定することができ、その減少によって監視対象がアドホックセンサから離れていっていると推定することができる。そのため、これらの移動の推定と各アドホックセンサの設置場所とから監視対象の移動方向を推定することができる。また、アドホックセンサからの距離と振幅との関係をあらかじめ求めておけば、時間と距離とが決定されるため、監視対象の移動距離を推定することもできる。
【発明の効果】
【0025】
したがって、本発明によれば、大型な施設や高価な機器を必要としない、RFID通信及びマルチホップ通信を利用して、RFタグの位置を推定し、追跡することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
[アドホックネットワーク]
まず、図1に示すアドホックネットワーク100の概念図に従って、本発明の位置推定方法の概略を説明する。
このアドホックネットワーク100は、監視対象Xが付帯するアクティブタグ(RFタグ)1(n)から発信される規定周波数成分を含む電波を受信可能な複数のアドホックセンサ2(n)をマルチホップ通信自在に間隔を空けて配置している。各アドホックセンサ2(n)は、電線5を掛け渡した電柱4に備えられている。
【0027】
また、ここでは、アドホックセンサ2(5)が設置される電柱4には、変圧器6が設置されている。この変圧器6は強いノイズを発生させるため、変圧器6の設置されていない他の電柱4の周辺に比べて、変圧器6が設置されている電柱4の周辺ノイズ強度が高くなっている。そこで、この実施形態では、後記するように、この変圧器6が設置されている電柱4に備えたアドホックセンサ2(5)が受信するノイズ電波に含まれる規定周波数成分の振幅を基準振幅として監視区域A内のアドホックセンサ2(1)〜2(8)、2(10)のそれぞれに設定されている。また、監視区域A外のアドホックセンサ2(9)、2(11)には、監視対象に応じて別の基準振幅が設定される。なお、基準振幅は、アドホックセンサ2(n)がアクティブタグ1(n)から発信される規定周波数の電波を判別するときの基準である。この基準振幅については、後記に改めて説明する。
【0028】
このアドホックネットワーク100では、例えば、監視区域A内のアドホックセンサ2(4)、2(3)は、アクティブタグ1(n)の発信電波の規定周波数成分の振幅が基準振幅を超えていると判別し、予め構築されたネットワーク経路の経路情報に従って、その受信結果をアドホック通信する。アドホックセンサ2(4)の受信結果は、例えば、アドホックセンサ2(3)、2(2)、2(1)を順に通って、センタコンピュータ3に伝送される。また、アドホックセンサ2(3)の受信結果は、アドホックセンサ2(2)、2(1)を順に通って、センタコンピュータ3に伝送される。そして、センタコンピュータ3では、各アドホックセンサ2(4)、2(3)からの受信結果をオペレータに提示する。オペレータは、提示される受信結果を比較して、最も振幅の高い電波を受信したアドホックセンサ2(4)の設置場所をアクティブタグ1(n)の位置として推定することができる。
【0029】
なお、このように、センタコンピュータ3は、各アドホックセンサ2(n)からの受信結果を提示するだけでなく、アクティブタグ1(n)の位置の推定処理を実行することが好ましい。以下、この実施形態では、センタコンピュータ3が、アクティブタグ1(n)の位置の推定処理を実行し、その推定処理結果をオペレータに提示する場合を説明する。
【0030】
次に、図2に示すブロック図に従って、アクティブタグ1(n)、アドホックネットワーク100を構成するアドホックセンサ2(n)、センタコンピュータ3の構成及び動作について説明する。なお、アクティブタグ1(n)とアドホックセンサ2(n)との間の通信をRFID通信と呼び、アドホックセンサ2(n)同士又はアドホックセンサ2(n)とセンタコンピュータ3との間の通信をマルチホップ通信と呼んで、区別して説明する。
【0031】
[アクティブタグ]
アクティブタグ1(n)は、アドホックセンサ2(n)との間でRFID通信を行うものである。つまり、このアクティブタグ1(n)は、電波を受信することも可能であり、その電波を受け取ってから電波を発信することも可能になっている。このアクティブタグ1(n)は、監視対象Xに所持される。なお、ここでは、監視対象Xを人とするが、犬等の動物や自動車等の移動体であってもよい。このアクティブタグ1(n)は、処理部10と、通信部11と、記憶部12と、電源13と、アンテナ14とを備えている。なお、アンテナ14は、筐体から露出しているように示されているが、筐体に内蔵されていてもよい。
【0032】
処理部10は、通信部11を介してアドホックセンサ2(n)からの呼び出し要求を受信したり、記憶部12からタグID12aを読み出して、読み出したタグID12aを通信部11を介してアドホックセンサ2(n)に送信したりする処理等を実行する。なお、アドホックセンサ1(n)には、図示しないタイマ機能が備えられている。このタイマ機能は、電源13のオンから計時を開始し、タグID12aを送信するたびに計時をリセットすることとする。そのため、この処理部10は、呼び出し要求に応じてタグIDを送り出す他に、そのタイマ機能で計時された時間が通信時間か否かを判定することで、タグID12aを送り出す処理を実行する。
【0033】
通信部11は、アドホックセンサ2(n)との間の規定周波数の電波による通信を制御するものである。この通信部11は、図示しない高周波増幅器、周波数変換器、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、A/D変換器、クロック発信器等の電子回路で構成されている。なお、クロック発信器が発生するクロックを、処理部10に送り、処理部10がクロックを計時してタイマ機能を実現するようにしてもよい。
【0034】
記憶部12は、タグID12aを記憶するものである。このタグID12aは、アクティブタグ1(n)が製造されたときに付与されたものであり、アクティブタグ1(n)に固有な識別情報である。ここでは、タグID12aは、後記するように、C01等のように表すこととする。
【0035】
電源13は、処理部10、通信部11、記憶部12及びアンテナ14に電力を供給するものである。なお、電源13は、どのようなものでもよいが、ボタン型電池やコイン型電池や乾電池や充電式電池でよい。また、アクティブタグ1(n)が、例えば、腕時計のように人の肌に直接触れるように所持されたり、自動車のエンジン等の近傍に取り付けられたりする場合には、熱起電力を利用して蓄電するようにしたものでもよい。アンテナ14は、アドホックセンサ2(n)との規定周波数のRFID通信に適した形状になっている。
【0036】
[アドホックセンサ]
このアドホックセンサ2(n)は、アクティブタグ1(n)から発信される規定周波数の電波と周辺ノイズとを含む電波を受信し、自らが設置されている場所の近辺にアクティブタグ1(n)が存在することを検知するものである。このアドホックセンサ2(n)は、処理部20、通信部21、記憶部22、電源23、アンテナ24,25を備えている。
【0037】
処理部20は、通信部21を介してアクティブタグ1(n)に呼び出し要求を送信させたり、通信部21を介して規定周波数の電波に乗って送られてくるアクティブタグ1(n)のタグID12aを受け取ったり、記憶部22に経路情報22aや監視対象情報22b等のデータの読み書きを行ったり、通信部21を介して他のアクティブタグ1(n)やセンタコンピュータ3との間で経路情報22aや監視対象情報22bの送受信を行ったりする。
【0038】
通信部21は、アクティブタグ1(n)との間で行われる規定周波数の電波によるRFID通信の制御、及び、アドホックセンサ2(n)やセンタコンピュータ3との間で行われる電波によるマルチホップ通信の制御を実行するものである。この通信部21は、図示しない高周波増幅器、周波数変換器、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、A/D変換器、クロック発信器等の電子回路で構成されている。なお、クロック発信器が発生するクロックは、処理部20に送られる。
【0039】
記憶部22は、経路情報22aや監視対象情報22b等を記憶するものである。これらの経路情報22a及び監視対象情報22bは、監視対象X(図1参照)や監視区域A(図1参照)がセンタコンピュータ3から指示されるごとに、動的に変化するため、記憶部22は読み書き自在なフラッシュメモリ等によって構成される。
【0040】
なお、経路情報22aは、アドホックセンサ2(n)がセンタコンピュータ3と低コストで通信可能な経路(センサIDやIP(Internet Protocol)アドレス)を指定する情報である。ここで、コストには、価格の意味だけでなく、通信速度等の条件を含んだ総合的な意味で用いることとする。
【0041】
ところで、マルチホップ通信には、インターネット技術が応用されており、インターネットプロトコルが適用されている。そのため、マルチホップ通信は、パケット単位で通信が行われる。なお、経路情報22aをセンサIDで示した場合には、このセンサIDにIPアドレスを対応付けておけば、インターネットプロトコルに基づいた通信が行える。また、以下の説明においては、センサIDが、例えば、「AS000N」(Nは自然数)のように表されることとし、図1の場合、アドホックセンサ2(4)のセンサIDを「AS0004」とする。
【0042】
ここで、アドホックセンサ2(4)には、経路情報22aとして、「AS0004」「AS0003」「AS0002」「AS0001」「SC1」が登録される場合を説明する。なお、「SC1」は、センタコンピュータ3のIDとする。この場合、アドホックセンサ2(3)等は、経路情報22aに従って、自らのセンサID「AS0003」が指定されたデータを選択して受け取る。また、例えば、アドホックセンサ2(2)等は、自らのセンサIDが指定されていないデータを通信部21によって受信した場合(例えばアドホックセンサ2(5)がアドホックセンサ2(6)のセンサID「AS0006」を受信先として指定している場合)には、経路情報22aに従わないデータであるため、破棄する。したがって、経路情報22aが登録されていれば、確実にマルチホップ通信を行うことができる。
【0043】
また、経路情報22aには、最大ホップ数mが指定されていてもよい。この最大ホップ数mは、アドホックセンサ2(n)がデータをブロードキャストしたときに、センタコンピュータ3に届くまでにデータがホップする最小値とすればよい。例えば、図1を参照すると、経路は、アドホックセンサ2(3)、2(2)、2(1)、…、センタコンピュータ3なので、最大ホップ数は(4+α)で表される。ここで、αはアドホックセンサ2(1)とセンタコンピュータ3との間の図示しないノードの数(ホップ数)を表している。この場合、アドホックセンサ2(4)から送信されたデータは、アドホックセンサ2(8)等を通った場合、(4+α)回だけホップした後に、破棄すればよい。
【0044】
なお、経路情報22aは、センタコンピュータ3が、監視対象数や監視区域等を考慮して、最適な経路を決定し、各アドホックセンサ2(n)に登録されるようにすればよい。
【0045】
また、監視対象情報22bは、アドホックセンサ2(n)が監視する監視対象X(図1参照)に付帯するアクティブタグ1(n)のタグIDで表される。したがって、処理部20は、監視対象情報22bとして登録されていないタグIDを受信した場合には、これを破棄することができるため、マルチホップ通信量が増えることを防止することができる。
【0046】
なお、アドホックセンサ2(n)が、複数の監視対象Xをそれぞれの監視区域A内で監視する場合であっても、それぞれの経路情報22aと監視対象情報22bを記憶部22に保存してあれば、これらを参照してRFID通信とアドホック通信を行うことができる。
【0047】
電源23は、処理部20、通信部21、記憶部22及びアンテナ24,25に電力を供給するものである。この電源23は、使い切り蓄電池でよいが、太陽電池を利用してもよい。また、特に、変圧器6(図1参照)等のノイズの多い場所に設置されるアドホックセンサ2(5)の場合には、そのノイズの変動による電気エネルギを蓄電池に充電するようにしたものでもよい。また、電線5から電源を供給するようにしてもよい。アンテナ24は、アクティブタグ1(n)とのRFID通信に適した形状になっている。また、アンテナ25は、各アドホックセンサ2(n)同士、及び、センタコンピュータ3との周波数のマルチホップ通信に適した形状になっている。
【0048】
[センタコンピュータ(監視装置)]
センタコンピュータ3は、一般的なコンピュータにより構成され、位置推定のためのアプリケーションプログラムを実行することにより、後記するように、各アドホックセンサ2(n)からアクティブタグ1(n)の受信情報(タグID、受信電波の振幅等)を受け取り、監視対象X(図1参照)の位置を推定するものである。このセンタコンピュータ3は、処理部30、通信部31、記憶部32、入力部33、出力部34、電源回路35及びアンテナ(インタフェース)36を備えている。
【0049】
処理部30は、いわゆるCPU(Central Processing Unit)であり、OS(Operating System)や位置推定のためのアプリケーションプログラムを実行する。このアプリケーションプログラムには、実施形態においてセンタコンピュータ3の処理として説明するすべての処理のプログラムが含まれている。
【0050】
通信部31は、アドホックセンサ2(n)との間の電波によるマルチホップ通信を制御するものである。この通信部31は、図示しない高周波増幅器、周波数変換器、ローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、A/D変換器、クロック発信器等の電子回路で構成されている。
【0051】
記憶部32は、タグ情報32a、アドホックセンサ情報32b、経路情報(監視区域情報)32c等を記憶するものである。入力部33は、キーボードやポインティングデバイスである。出力部34は、ディスプレイやプリンタである。電源回路35は、家庭用電源から供給される電力を、処理部30、通信部31、記憶部32、入力部33、出力部34、及びアンテナ36に与えるものである。アンテナ36は、アドホックセンサ2(n)との周波数のマルチホップ通信に適した形状になっている。ここで、タグ情報32a及びアドホックセンサ情報32bについて説明する。
【0052】
[タグ情報]
図3の(a)に示すように、タグ情報32aには、アクティブタグ1(n)に付与されたタグID、アクティブタグ1(n)の所有者氏名、アクティブタグ1(n)ごとの監視区域情報(経路情報)、及び、経路情報の場合の所要時間が対応付けられている。監視区域情報としては、センサIDを示すことができる。なお、監視区域情報は、一人の所有者ごとに複数登録するようにしてもよい。また、所要時間とは、監視対象Xの経路が決められているときに、その経路を移動するのにかかる予想時間であって、例えば、監視対象Xの過去の平均を求めた時間であってもよいし、監視対象Xの監視者によって許容される時間であってもよい。
【0053】
[アドホックセンサ情報]
図3の(b)に示すように、アドホックセンサ情報32bには、アドホックセンサ2(n)のセンサID、アドホックセンサ2(n)を設置した住所を示す位置情報、その設置した住所のどこに設置したのかを示す設置場所、及び、後記する基準振幅設定処理を実行するアドホックセンサ2(n)の優先順位を定める基準候補等が対応付けられている。なお、位置情報は、住所に限らず、例えば、緯度・経度であってもよい。また、基準候補の「A」「B」「C」の順に優先度が低くなるものとする。また、このアドホックセンサ情報32bには、設置場所として「信号機」が示されている。図1に示す場合では、アドホックセンサ2(n)を電柱4に備えることとして説明しているが、このように、アドホックセンサ2(n)を「電柱」に限らず、「信号機」に備えるようにしてもよい。また、「電柱」「信号機」の他にも、アクティブタグ1(n)と通信可能なところであればどこでもよい。
【0054】
[基準振幅]
次に、図4に示すグラフを用いて、基準振幅について説明する。ここでは、変圧器6(図1参照)が設置されている電柱4の周辺ノイズから基準振幅を設定する場合を説明する。図4の(a)は、アドホックセンサ2(5)が一定時間受信した周辺ノイズをフーリエ変換して得られた振幅−周波数の周波数分布グラフである。また、図4の(b)は、アドホックセンサ2(5)の近くでアクティブタグ1(n)が規定周波数の電波を送信しているときに、アドホックセンサ2(5)が一定時間受信した電波をフーリエ変換して得られた振幅−周波数の周波数分布グラフである。なお、各グラフは、横軸に周波数、縦軸に振幅(dB)を示している。
【0055】
図4の(a)に示すように、線Tとして表れる周波数分布には、主に変圧器6(図1参照)が発生するノイズの周波数成分が表れている。なお、変圧器6から離れた位置に設置されているアドホックセンサ2(1)、2(2)等が受信する周辺ノイズは、変圧器6の他にノイズ発生源が無ければ、この線Tで示す周波数分布の振幅よりも全般に低くなることは明らかである。
【0056】
ところで、アドホックセンサ2(5)の近くにアクティブタグ1(n)が位置しているときには、図4の(b)に示すように、規定周波数の基準振幅よりも高いピーク線Pを含む線Sになる。ここで、規定周波数の振幅が、各アドホックセンサ2(n)とアクティブタグ1(n)との間の距離を示していることを考慮すると、基準振幅が、アクティブタグ1(n)の存在範囲(距離)を示す境界条件になることが分かる。つまり、規定周波数の振幅が基準振幅を超えている場合には、電柱4から一定距離(基準振幅によって定まる距離)の間にアクティブタグ1(n)が存在する。
【0057】
本実施形態では、各アドホックセンサ2(n)は、規定周波数の振幅が基準振幅よりも低いが、電波(基準振幅による距離よりも離れた位置のアクティブタグ1(n)からの電波)に乗った信号を破棄し、基準振幅よりも高い電波(基準振幅による距離よりも近い位置のアクティブタグ1(n)からの電波)に乗った信号をセンタコンピュータ3に送る。このようにすると、センタコンピュータ3では、比較データ量が少なくて済むため、効率よくアクティブタグ1(n)の位置を推定することができる。
【0058】
続いて、図5〜図8に示す各フローチャートに従って、アクティブタグ1(n)の処理、アドホックセンサ2(n)の処理及びセンタコンピュータ3の処理について説明する。なお、構成については、図1〜図4を適宜参照する。
【0059】
[アクティブタグの処理]
図5は、アクティブタグの処理を説明するフローチャートである。
電源13がオンになると(ステップSa1)、処理部10は通信部11を介してアドホックセンサ2(n)からの呼び出し(要求)の有無を確認する(ステップSa2)。なお、処理部10は、電源13のオン(ステップSa1)の後に通信時間の計時を開始していることとする。処理部10は、呼び出しが有った場合(ステップSa2のYes)ステップSa4に処理を移す。一方、処理部10は、呼び出しが無かった場合(ステップSaのNo)、通信時間か否かを確認する(ステップSa3)。そして、処理部10は、通信時間でない場合(ステップSa3のNo)、ステップSa2に処理を戻し、通信時間になった場合(ステップSa3のYes)、ステップSa4に処理を移す。
【0060】
そして、処理部10は、記憶部12からタグID12aを読み出して(ステップSa4)、タグID12aを通信部11に渡し、タグID12aは通信部11によってアンテナ14から送信される。次に、処理部10は、電源13のオフの司令が外部から入力されていなければ(ステップSa6のNo)、ステップSa2の処理に戻る。なお、電源13をオフする司令が外部から入力されていれば、ステップSa5のタグID12aの送信終了を待って、電源13がオフになり(ステップSa6のYes)、処理を終了する。
【0061】
[アドホックセンサの処理]
図6は、アドホックセンサの処理を説明するフローチャートである。
通信部21がマルチホップ通信されてくるセンタコンピュータ3からの動作司令を受信すると(ステップSb1)、処理部20はその動作司令を通信部21から受け取り、その動作司令に含まれている経路情報を経路情報22aとして記憶部22に書き込み、その動作司令に含まれているアクティブタグ1(n)のタグIDを監視対象として記憶部22の監視対象情報22bに書き込む(ステップSb2)。
【0062】
なお、監視区域が一本の経路として表せる場合、経路情報22a自体が監視区域を示すが、監視区域自体はセンタコンピュータ3で把握できればよいので、アドホックセンサ2(n)には、監視区域情報22aが設定されなくてもよい。
【0063】
次に、処理部20は、監視対象や監視区域に応じて基準振幅を設定し(ステップSb3)、記憶部22に書き込む。このステップSb3は、例えば、前記した場合、アドホックセンサ2(5)と、このアドホックセンサ2(5)を除くその他のアドホックセンサ2(n)との処理は異なる。アドホックセンサ2(5)は、周辺ノイズに基づいて基準振幅を算出し、その他のアドホックセンサ2(n)に送信する処理を実行するが、これについては図7のフローチャートを用いて詳細に説明する。一方、アドホックセンサ2(5)を除くアドホックセンサ2(n)は、アドホックセンサ2(5)から送られてくる基準振幅を記憶部22に書き込む。なお、アドホックセンサ2(n)は、ステップSb3の処理後、アクティブタグ1(n)からの電波の待ち受け状態となる。
【0064】
そして、通信部21は、アンテナ24を通して受信電波を一定時間受信して(ステップSb4)、ディジタル変換した信号として処理部20に渡す。処理部20は、通信部21からの信号に対してフーリエ変換等を施して周波数分布(図4の(a)の線T)を求め、規定周波数の振幅を算出する(ステップSb5)。続いて、処理部20は、算出した振幅が基準振幅を超えたか否かを判定する(ステップSb6)。その結果、処理部20は、基準振幅を超えていない場合(ステップSb6のNo)、ステップSb4に戻り、基準振幅を超えている場合(ステップSbのYes)、ステップSb7に処理を移す。
【0065】
そして、処理部20は、経路情報22aに従って、監視対象のタグID12aを受信したものを示す報知情報を生成する。ここで、報知情報は、アドホックセンサ2(n)がアクティブタグ1(n)を検知していることをセンタコンピュータ3に報知するための情報であり、タグIDや振幅やセンサIDや受信時刻情報を含むパケットとする。処理部20はその報知情報を通信部21に渡し、通信部21がD/A変換等を施してセンタコンピュータ3にマルチホップ通信する(ステップSb7)。
【0066】
なお、通信部21は、ステップSb2〜ステップSb7の処理中に、センタコンピュータ3から動作司令を受信した場合、処理部20の処理に割り込む。このとき、処理部20は、実行中の処理を一時中止して、図示しない一時記憶部に動作司令を記憶部22に保存し、中止した処理に戻る割り込み処理を実行するものとする。
【0067】
そして、処理部20は、動作司令を確認する(ステップSb8)。処理部20は、同一対象のアクティブタグ1(n)について再度検知する場合(ステップSb8の「同一対象」)、ステップSb4に戻り、異なる対象のアクティブタグ1(n)について検知する場合(ステップSb8の「異なる対象」)、ステップSb2に戻り、いずれでもない場合(ステップSb8の「待機」)、処理を終了する。
【0068】
なお、アドホックセンサ2(n)は、待機状態にあるとき、電源23を省電力モードで運用されることが好ましい。また、監視対象がほとんどいないと考えられる時間帯では、電源23がオフになり、朝の特定の時間帯に省電力モードに移行するように制御する図示しない電源制御回路をアドホックセンサ2(n)に備えるようにしてもよい。この場合、各アドホックセンサ2(n)は、電源23を設定時刻ごとにオンにし、各アドホックセンサ2(n)同士が接続確認を行うようにしてもよい。また、このようにアドホックセンサ2(n)が接続確認を行う時や待機状態にある時に、センタコンピュータ3がマルチホップ通信によって、監視予定(監視対象のタグIDや経路情報や監視開始時刻など)を各アドホックセンサ2(n)に送信し、監視予定を記憶部22に記憶しておくようにしてもよい。
【0069】
[基準振幅設定処理]
図7は、図6に示す基準振幅設定処理を説明するフローチャートである。
処理部20は、アンテナ24を通して受信(ステップSc1)した周辺ノイズを通信部21から受け取り、フーリエ変換等の信号解析を行う(ステップSc2)。すると、処理部20は、図4の(a)に示したような周波数分布を出力結果として取得し(ステップSc3)、その周波数分布の振幅の中から、あらかじめ定められている規定周波数の値を求め、その値を基準振幅として記憶部22に記憶する(ステップSc4)。
【0070】
そして、処理部20は、その基準振幅を通信部21に渡し、通信部21が、経路情報22aに従って、監視区域内のすべてのアドホックセンサ2(n)にマルチホップ通信する(ステップSc5)。なお、監視区域が記憶部22に登録されていない場合には、処理部20は、その基準振幅を通信部21によってセンタコンピュータ3に送信させ、センタコンピュータ3の処理によって監視区域内のすべてのアドホックセンサ2(n)にマルチホップ通信するようにすればよい。
【0071】
[センタコンピュータの処理]
図8は、センタコンピュータの処理を説明するフローチャートである。
処理部30は、入力部33から入力される監視対象の氏名(アクティブタグ1(n)を所有する所有者氏名)を受け付けると、その所有者氏名をキーとして、記憶部32に記憶されているタグ情報32aを検索し、そのキーを含むレコードを読み出す。そして、処理部30は、そのレコードからタグIDを取り出し、監視対象を特定する(ステップSd1)。例えば、図3を参照すると、所有者氏名が「○○××」の場合、この「○○××」を含むレコードが読み出され、タグIDが「C01」が取り出される。これによって、アドホックセンサ2(n)が検知する監視対象のアクティブタグ1(n)が特定される。
【0072】
続いて、処理部30は、ステップS1で記憶部32から読み出したレコードから「監視区域情報(経路情報)」を取り出して監視区域を特定する(ステップSd2)。例えば、図3の場合、監視区域情報としてセンサID「ASP001」…「ASP010」が取り出される。このようにして監視区域内が特定されることで、監視区域に含まれるセンサIDも明らかになるため、処理部30は、センサIDによってアドホックセンサ2(n)を特定することになる(ステップSd3)。
【0073】
なお、監視区域情報(経路情報)がレコード中に含まれていない場合、処理部30は、記憶部32に記憶されている図示しない契約情報にアクセスし、所有者氏名の住所を抽出し、例えば、該当住所から半径数キロの範囲を監視区域として特定してもよい(ステップSd2)。この場合、処理部30は、記憶部32のアドホックセンサ情報32bにアクセスし、該当住所から半径数キロの範囲のセンサIDを抽出して、アドホックセンサ2(n)を特定するようにしてもよい(ステップSd3)。
【0074】
次に、処理部30は、ステップSd3で特定したアドホックセンサ2(n)のセンサIDをキーに、記憶部32のアドホックセンサ情報32bにアクセスし、前記した基準候補を取り出す。処理部30は、基準候補の中で最も優先度の高いセンサIDを特定し、そのセンサIDのアドホックセンサ2(n)に対して基準振幅の算出要求を、通信部31から送信させる(ステップSd3)。例えば、処理部30は、図3の(b)のアドホックセンサ情報32bからセンサID「AS0005」の基準情報「A」を取り出した場合、そのセンサID「AS0005」に基準振幅の算出要求を、通信部31から送信させる。以下、アドホックセンサ2(5)が基準振幅を算出する場合を例に説明する。
【0075】
これによって、前記したように、例えば、アドホックセンサ2(5)は、周辺ノイズから基準振幅を算出し、監視区域内のアドホックセンサ2(n)にマルチホップ通信することになる。そのため、処理部30は、そのアドホックセンサ2(5)からマルチホップ通信されてきた基準振幅を通信部31によって受信すると、その基準振幅として特定し(ステップSd4)、記憶部32に基準振幅32dとして保存しておく。
【0076】
処理部30は、同一の優先度の基準候補のセンサIDを抽出していた場合には、そのすべてのセンサIDのアドホックセンサ2(n)に基準振幅の算出要求を通信部31によって送信させておき、各アドホックセンサ2(n)から送信されてくる基準振幅を比較して、いずれかの基準振幅とするのかを特定することとする。この場合、処理部30は、最も高い基準振幅を選択する。
【0077】
また、処理部30は、アドホックセンサ2(5)から監視区域内への転送要求を受けた場合には、ステップSd2で特定した監視区域情報によって特定されるすべてのセンサIDのアドホックセンサ2(n)に対して、基準振幅をマルチホップ通信によって、転送する。なお、その転送先には、アドホックセンサ2(5)が含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
【0078】
次に、処理部30は、各アドホックセンサ2(n)への動作司令を生成し、通信部31がその動作司令をアンテナ36から送信する(ステップSd5)。この動作司令には、監視対象を示すタグID、経路情報(監視区域情報)又は待機状態への移行司令が含まれている。
【0079】
そして、処理部30は、各アドホックセンサ2(n)から報知情報(図6のステップSb6、ステップSb7参照)を受信すると(ステップSd6)、その報知情報を基にアクティブタグ1(n)の位置を推定する(ステップSd7)。この推定は、振幅が最も高い電波を受信したアドホックセンサ2(n)のセンサIDを特定し、アドホックセンサ情報32bを参照して住所を特定することで行える。
【0080】
次に、処理部30は、前回情報との比較を行う(ステップSd8)。この比較は、位置として推定するのに用いたアクティブタグ1(n)の受信強度の変化を見ることで行える。つまり、受信強度が小さくなっていれば、前回位置から離れていっていることを示し、受信強度が大きくなっていれば、前回位置に近づいていることを示している。また、処理部30は、アクティブタグ1(n)の受信強度の値についても同様に比較し、受信強度が大きくなっているアクティブタグ1(n)があれば、その方向に移動していることとして移動方向を推定する。なお、例えば、複数の受信強度が増加していれば、アドホックセンサ2(n)の設置位置(緯度・経度)を考慮して、ベクトル計算によって移動方向を算出するようにしてもよい。
【0081】
[実施形態の効果]
以上説明したように、この実施形態によれば、RFID通信及びマルチホップ通信を利用して、アクティブタグ1(n)の位置を推定し、移動方向を推定して、監視対象Xを追跡することができる。
【0082】
また、RFタグ1(n)は、アドホックセンサ2(n)から呼びかけがあったときにだけ応答として電波を発信すればよいため、呼びかけがないときにスリープ状態にすることができる。したがって、RFタグ1(n)は必要以上に自らの存在を報知しなくてもよい。もしもRFタグ1(n)が必要以上に頻繁に電波を送信した場合にはアドホックネットワークに接続していないアドホックセンサ2(n)以外の受信機の受信機会も増えて、RFタグ1(n)を付帯する監視対象Xの存在が知られる機会が増えてしまう。しかし、この実施形態ではRFタグ1(n)が必要以上に電波を発信しないから監視対象Xのプライバシーの保護を図る上で有用である。また、RFタグ1(n)がアクティブタグの場合にも、必要以上に電波を送信しないため、電池の長寿命化を図る上でも有用である。
【0083】
[変形例]
なお、実施形態では、アドホックセンサ2(n)とセンタコンピュータ3との間の通信もマルチホップ通信により行うこととして説明したが、少なくとも1つのアドホックセンサ2(n)とセンタコンピュータ3とが他の通信規約に従って通信できるようにしたものでもよい。例えば、赤外線通信やUSB(Universal Serial Bus)を用いた通信であってもよい。
【0084】
また、実施形態では、アドホックセンサ2(n)同士のマルチホップ通信は、無線である場合を説明したが、有線であってもよい。
【0085】
また、実施形態では、RFタグとして、アクティブタグ1(n)を例示して説明したが、電源を内蔵しないパッシブタグを用いてもよい。このパッシブタグは、受信電波を電力源としている点を除きアクティブタグと同じなので、説明を省略する。なお、パッシブタグの場合、このパッシブタグの発信する電波を携帯電話等に受信させ、携帯電話回線網等を介してセンタコンピュータ3に伝送するようにしてもよい。また、RFタグの機能を携帯電話等の携帯型通信電子機器に持たせてもよい。
【0086】
また、実施形態では、基準振幅を、RFタグ1(n)から発信される規定周波数の電波と周辺ノイズとをするための基準として説明したが、その電波を判別できるのであれば、どのように設定してもよい。特に、実施形態では、基準振幅を、監視区域内のアドホックセンサが受信する周辺ノイズの中でも、最も高いノイズの発生源の変圧器の近くに設置されたアドホックセンサが受信した周辺ノイズを基準として説明したが、RFタグから発信される規定周波数の電波と周辺ノイズとを判別可能な同一の振幅としてもよい。
【0087】
また、実施形態では、RFタグ1(n)の位置を一回だけ推定する場合を説明したが、監視区域内のRFタグ1(n)の移動に伴い位置の変化を追跡するときには、前記した処理を繰り返して、移り変わる位置を順次推定するようにしてもよい。この場合、例えば、図1を参照すると、m回目のRFタグ1(n)の検知前に、m−1回目に推定した位置に設置されているアドホックセンサ2(4)と、そのアドホックセンサ2(4)に隣接して設置されている他のアドホックセンサ2(3)、2(7)、2(8)との中で、前記規定周波数成分のノイズが最も高い振幅の値を基準振幅として、アドホックセンサ2(3)、2(4)、2(7)、2(8)に登録するようにしてもよい。
【0088】
また、実施形態では、特定された監視区域内に設置されているアドホックセンサ2(n)に同一の基準振幅を設定することとして説明したが、同一の基準振幅の設定処理自体によって監視区域が特定されるようにしてもよい。この場合、センタコンピュータ3のオペレータが、同一の基準振幅をアドホックセンサ2(n)に登録することで、監視区域を特定することができる。
【0089】
また、アクティブタグ1(n)の移動をドップラー効果を考慮して、次のように推定するようにしてもよい。例えば、監視対象Xが自動車等に乗って高速に移動する場合、アクティブタグ1(n)が送信する規定周波数の電波は、ドップラー効果の影響で規定周波数からずれた周波数になってアドホックセンサ2(n)に受信される。そのため、そのずれに応じて、アドホックセンサ2(n)は、アクティブタグ1(n)の移動を推定することができる。
【0090】
また、実施形態では、監視対象ごとにあらかじめ決められた監視区域に基づいて、監視対象の位置を推定するようにした場合を説明したが、監視対象の移動に伴って、監視区域を変更するようにしてもよい。この場合、センタコンピュータ3は、アクティブタグ1(n)の移動方向に位置するアドホックセンサ2(n)のセンサIDを、記憶部32のアドホックセンサ情報32bを参照して取得し、監視区域情報に加え、また、監視区域内のアドホックセンサ2(n)のうちで、離れる方向に位置するセンサIDを選択し、監視区域情報から削除することで、監視区域情報を更新することができる。
【0091】
また、実施形態では、アドホックセンサ2(n)は受信電波の規定周波数が基準振幅を超えたときにタグIDや振幅などを含むパケットとして報知情報をセンタコンピュータ3にマルチホップ通信し、センタコンピュータ3が報知情報に基づいてアクティブタグ1(n)の位置を推定する場合を説明したが、アドホックセンサ2(N)がアクティブタグ1(n)からの電波を一定時間ごとに受信のみ行って、受信した波形信号をセンタコンピュータ3に送信し、センタコンピュータ3がその他すべての処理を実行するようにしてもよい。
【0092】
また、実施形態において、センタコンピュータ3が設置されている電力制御所は、一般に配電変電所と呼ばれているところに相当する。しかし、センタコンピュータ3が設置される場所は、オフィスビルや一般的な民家であってもよい。
【0093】
また、この実施形態では、RFタグ1(n)はアドホックセンサ2(n)から呼び出されたときに応答することとして説明したが、一定時間ごとにタグIDを乗せた規定周波数の電波を発信するアクティブタグであってもよい。この場合、センタコンピュータ3は、RFタグ1(n)からのタグIDを乗せた信号の待ち受け状態で待機している。そして、RFタグ1(n)が電源オンの後に発信を開始すると、実施形態の場合と同様に、受信圏内のアドホックセンサ2(n)が受信し、センタコンピュータ3にアドホック通信する。そのため、RFタグ1(n)からの送信後の処理は、実施形態の場合と同様に行えるため、その詳細な説明を省略する。
【0094】
また、この実施形態では、アドホックセンサ2(n)が室外に設置されている場合を説明したが、室内や地下街のような場所にアドホックセンサ2(n)を設置して、室内等でのRFタグ1(n)の位置を推定する場合にも同様に適用することができる。この場合、高いノイズを発生する電子機器の周辺に設置するアドホックセンサ2(n)が受信した周辺ノイズの規定周波数成分の振幅を基準振幅として、室内等の監視区域内のアドホックセンサ2(n)に登録すればよいため、詳細な説明を省略する。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の実施形態の位置推定方法を実現するアドホックネットワークの概念図である。
【図2】図1に示したアクティブタグ、アドホックセンサ及びセンタコンピュータの機能を示すブロック図である。
【図3】図2に示したタグ情報(a)及びアドホックセンサ情報(b)を示すテーブルである。
【図4】基準振幅を説明するグラフである。
【図5】図1に示したアクティブタグの処理を示すフローチャートである。
【図6】図1に示したアドホックセンサの処理を示すフローチャートである。
【図7】図6に示した基準振幅設定処理を示すフローチャートである。
【図8】図1に示したセンタコンピュータの処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0096】
100 アドホックネットワーク
1(n) アクティブタグ(RFタグ)
2(n) アドホックセンサ
3 センタコンピュータ(監視装置)
A 監視区域
X 監視対象

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視対象が付帯するRFタグから発信される規定周波数成分を含む電波を受信可能な複数のアドホックセンサをマルチホップ通信自在に間隔を空けて配置したアドホックネットワークを用いて、前記RFタグの位置を推定する位置推定方法であって、
監視区域内の各前記アドホックセンサには、前記RFタグから発信される規定周波数の電波を判別するための同一の基準振幅を登録しておき、
各前記アドホックセンサが受信した電波に含まれる前記規定周波数成分の振幅と前記基準振幅とを比較して、前記基準振幅を超えた前記規定周波数の成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサが設置された場所を前記RFタグの位置として推定すること、
を特徴とする位置推定方法。
【請求項2】
間隔を空けて配置された複数のアドホックセンサから規定周波数成分を含む電波を発信し、前記アドホックセンサのいずれかから発信された電波を受信したRFタグが応答としての規定周波数成分を含む電波を発信し、前記応答としての規定周波数成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサから他の前記アドホックセンサにマルチホップ通信するアドホックネットワークを用いて、前記RFタグの位置を推定する位置推定方法であって、
監視区域内の各前記アドホックセンサには、前記RFタグから発信される規定周波数の電波を判別するための同一の基準振幅を登録しておき、
各前記アドホックセンサが受信した電波に含まれる前記規定周波数成分の振幅と前記基準振幅とを比較して、前記基準振幅を超えた前記規定周波数の成分を含む電波を受信した前記アドホックセンサが設置された場所を前記RFタグの位置として推定すること、
を特徴とする位置推定方法。
【請求項3】
前記基準振幅を、前記RFタグから発信される規定周波数の電波と周辺ノイズとを判別可能な同一の振幅とすること、
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の位置推定方法。
【請求項4】
監視区域内にある複数の前記アドホックセンサが前記RFタグの検知前に受信したノイズの前記規定周波数における振幅の内のいずれか一つを前記基準振幅とすること、
を特徴とする請求項3に記載の位置推定方法。
【請求項5】
監視区域内にある複数の前記アドホックセンサが前記RFタグの最初の検知前に受信したノイズの前記規定周波数における振幅の内のいずれか一つを前記基準振幅とした後に、2回目以降の前記RFタグの検知前に、一の前記アドホックセンサの位置を前記RFタグの位置として推定した場所に設置されている前記アドホックセンサと、当該アドホックセンサに隣接して設置されている他の前記アドホックセンサとの中で、前記規定周波数成分のノイズが最も高い振幅の値を前記基準振幅として、前記アドホックセンサに登録すること、
を特徴とする請求項3又は請求項4に記載の位置推定方法。
【請求項6】
前記アドホックセンサを選択して、当該選択した前記アドホックセンサに同一の前記基準振幅を登録することで、前記監視区域を設定することを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の位置推定方法。
【請求項7】
前記基準振幅を、変圧器又は信号機の近傍に設置された前記アドホックセンサが受信した周辺ノイズに含まれる前記周波数成分の振幅とすること、
を特徴とする請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載の位置推定方法。
【請求項8】
前記アドホックネットワークに接続された監視装置が、マルチホップ通信によって監視区域内に設置されている前記アドホックセンサに向けて前記基準振幅を送信するようにしたこと、
を特徴とする請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載の位置推定方法。
【請求項9】
前記アドホックネットワークに接続された監視装置が、マルチホップ通信によって監視区域内に設置されている少なくとも一つの前記アドホックセンサに向けて、前記基準振幅の演算司令を送信し、
前記演算司令を受信した前記アドホックセンサは、受信電波の周波数成分の振幅を演算し、演算した周波数成分の振幅のうち、前記規定周波数における振幅を前記基準振幅として監視区域内の前記他のアドホックセンサにアドホック通信によって送信するようにしたこと、
を特徴とする請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載の位置推定方法。
【請求項10】
前記アドホックセンサは、前記RFタグの位置が確認出来たら自身を識別する識別情報をマルチホップ通信で前記監視装置に送信するようにしたこと、
を特徴とする請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載の位置推定方法。
【請求項11】
前記アドホックセンサが検知した規定周波数成分の振幅の時間変化の増加又は減少に応じて、前記RFタグが前記アドホックセンサに向かって近づく移動又は離れる移動として推定すること、
を特徴とする請求項1から請求項10までのいずれか1項に記載の位置推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−193626(P2008−193626A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−28710(P2007−28710)
【出願日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【出願人】(000206211)大成建設株式会社 (1,602)
【Fターム(参考)】