説明

位置検出装置

【目的】既存のラック・アンド・ピニオン式の駆動機構に取り付け可能な位置検出器を提供する。
【構成】ラック(12)が磁性材料からなるラック・アンド・ピニオン式の駆動機構に取り付け可能な位置検出器である。ラックの移動に伴う磁束の変化を検出するセンサユニット(10)と、センサユニットに入力するための所定の入力波形を生成する発振回路およびセンサユニットから出力される出力波形を計測して前記ラックの移動量に対応する位相差を検出する位相差検出回路からなる変換器とを具備する。このセンサユニットは、ラック自体を被検出対象とする。センサユニットは磁気センサと永久磁石とで構成された磁気センサブロックを3組有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラック・アンド・ピニオン式駆動装置などに直接取り付け可能な磁気式位置検出器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、磁気センサを用いて磁束の変化を検知することにより変位を計測する位置検出器が知られている。一般に位置計測器には光学式と磁気式とがあるが、磁気式は光学式と比べ、振動や油或いは水分などで汚れやすい悪環境でも使用することができる利点がある。
【0003】
磁気式の位置検出器では、一般に磁気センサが磁束の変化を計測するために、被検出対象に等ピッチの溝又は凹凸を設けた磁性体板などを取付ける必要がある。ところが、歯車のように通常は磁性体で形成され、かつ等ピッチの凹凸が設けられている場合には、検出対象である「歯車そのもの」の磁束の変化を計測することで変位量を精密に測定することができる利点がある。
【0004】
例えば、特許文献1では、半導体磁気抵抗素子を用いて歯車状凹凸を有する磁性体の変位を精密に測定することができる「位置変位センサ」が開示されている(第17段落〜第23段落等参照)。この文献によると、「正弦変位又は余弦変位を含む分担電圧を生ずる半導体磁気抵抗素子の直並列回路への印加電圧Vとして正弦波交流電圧」を用い、「α相出力とβ相出力からなる2相出力を取出し、これら2相出力に三角関数の加法定理を適用」して解を得たのち、「いずれかのゼロクロス点と印加電圧のゼロクロス点との時間差をカウントすることにより、歯車そのもの又は歯車状凹凸を有する磁性体の変位を精密に測定する」としている。より具体的には、4つの磁気抵抗素子を用いて「電気的に直列接続された各一対の半導体磁気抵抗素子の配列間隔が歯車ピッチの二分の一に対応」するように配置して、「且つ前記半導体磁気抵抗素子における前記一対の配列と、隣接した一対の配列とが相互補完関係に置かれ」る構成を採用している(第16〜17段落、図2、図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−271423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述した特許文献1では、α相とβ相の2相位相差方式であるため、リップルが大きくなりやすく、検出結果の信頼性の点で問題があると考えられる。また、磁気センサとして、4個の半導体磁気抵抗素子からなる直並列回路(すなわち1つの「ブリッジ回路」)を用いていたため、取り付け精度の点でも信頼性が低いと考えられる。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、高速にかつ高分解能で計測できる信頼性の高い磁気式位置検出器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る位置検出器は、歯車であるピニオンと、ピニオンの歯と嵌合する歯が設けられピニオンの回転に応じて直線的に移動するラックとで構成され、ラックが磁性体からなるラック・アンド・ピニオン式の駆動機構に取り付け可能である。この位置検出器は、ラックの移動に伴う磁束の変化を検出するセンサユニットと、センサユニットに入力するための所定の入力波形を生成する発振回路およびセンサユニットから出力される出力波形を計測して前記ラックの移動量に対応する位相差を検出する位相差検出回路からなる変換器とを具備し、このセンサユニットは、ラック自体を被検出対象とすることを特徴とするというものである。
【0009】
望ましくは、センサユニットは、磁気センサと、磁気センサに対して略垂直に磁束が貫通するように配置された少なくとも1つの永久磁石とで構成された磁気センサブロックを3組有する。
【0010】
このセンサユニットは、センサユニットにおける磁束を検知する部分が固定する部分に対して水平面内で回転可能に設けられていることが好ましい。これは、ラックのピッチが本来の最適値よりも若干小さい場合、取付部に対してセンシング部を回転させることで磁気センサブロックS1,S2,S3の間隔がラックに対して見かけ上小さくなり、ラックのピッチと合致してセンサの本来の精度が確保される効果があるためである。
【0011】
さらに、ラックの歯の形状を出力波形(例えばサインカーブなどの三角関数)と相似形に構成することで、磁気センサで検知する磁束の変化がsin状となり、三角関数の加法定理がより一層正確に満たされて、センサの精度が向上する。磁界強度は距離の2乗に反比例するため、ラックの歯の形状を√(sin x)と相似形に構成することで磁束の変化がラックの歯の変化と対応するため、読取精度は一層高められる。
【0012】
さらに、入力波形として三角関数波形の電圧振幅を与えたとき、磁気回路特性の変化が1ピッチ内で三角関数の電流振幅となるようにセンサユニットを配置することが好ましい。この方法には、具体的には、後述する実施形態で説明するように、センサユニットとラックとのギャップGを調整すること又は上述のようにセンサユニットを水平面内で回転させることで磁気センサブロックの間隔を見かけ上小さくすること等が考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によると、ラック自体を被検出対象とするため磁性体のスケールを別途設ける必要が無く、コストは低減され、かつ構造が簡単であり、読み取り精度の向上も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、本発明に係る位置センサの実施形態の一例を示す図である。
【図2】図2は、磁気センサ群11とラック12との位置関係を示す拡大図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に係る位置検出装置の全体構成図である。
【図4】図4(a)は、センサユニット10の側面図を、図4(b)は正面図である。
【図5】図5は、三角関数(Y=sin A)及び、関数Y=√(sin A)及びY=−√(sin A)の一部を表す図である。
【図6】図6は、センサユニット10とラック12との相対的な位置関係を表す図である。
【図7】図7は、磁束変化の様子を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(第1の実施形態)
始めに、図3を参照して本発明の実施形態に係る位置検出装置の全体構成を説明する。この装置は大きく分けて、ヘッドアンプ50と変換器20とで構成される。ヘッドアンプ50は磁束の変化を検知して電気信号に変換する3個の磁気センサと、差動増幅器を組み合わせてなる。変換器20は、ヘッドアンプ50への入力信号波形として3相交流信号(U相、V相、W相)を発生させるための発振回路30と、ヘッドアンプ50からフィードバックされる位相差信号を検出および計測する位相差検出回路40とで構成される。
【0016】
発振回路30は水晶発振器、CPU(中央処理装置)、D/A変換器などから構成され、3相交流(U相、V相、W相)の電圧波形を発生させる。それぞれの波形は以下の式1で表されるように、位相が2π/3(=120°)ずつ異なる正弦波の電圧波形からなる。
(式1)
=Vsinθ
=Vsin(θ+(2n+2/3)・π)
=Vsin(θ+(2n+4/3)・π)
(但し、V0は定数、nは整数とする)
また、前記磁気センサブロックS1,S2,S3の間隔がそれぞれ
S1−S2間: (N+1/3)・P
S1−S3間: (M+2/3)・P
(但し、N,Mは整数、Pは1ピッチの長さ)
の関係を満たすように配置されている。なお、θは角速度ωおよび時刻tを用いてθ=ω・tと表すこともできる。
【0017】
なお、4個(2対)の磁気センサとし、発振回路30において入力信号として2相交流信号を発生させるように構成することも可能であるが上述の3相式と比べ、読み取り精度が低下するだけでなく、センサユニットが4個必要となるため構成も複雑となる。2相式の場合、2つの入力信号の位相差をπ(=180°)とする。
【0018】
図1は、本発明に係る位置検出装置の一実施形態を示している。この図に示すように、本発明に係る位置検出装置は、「ラック・アンド・ピニオン」式の駆動機構に取り付けられる。センサユニット10,ラック12,ピニオン14は支持部材1,2,4によって取り付けられる。ピニオン14は回転歯車であり、モータなどの回転駆動源に接続される。ラック12はピニオン14の歯と嵌合する歯が設けられる。このため、ピニオン14の回転に応じてラック12が被駆動体3と共に直線的に移動することができる。
【0019】
センサユニット10は、磁気センサと、前記磁気センサに対して略垂直に磁束が貫通するように配置された少なくとも1つの永久磁石とで構成される。磁気センサはホール素子や磁気抵抗素子4つの直並列回路からなるブリッジ回路、GMR(Giant Magneto Resistive Head)など、磁束の変化を検出する機能を備える素子であればよい。
【0020】
図1に示すように、センサユニット10はラック12の歯列に対向して非接触でわずかに離間して設けられている。離間する距離は磁束の強さによって変わるものである。一方、ラックは通常、金属(特に常磁性或いは強磁性を持つもの)で構成される。このため、ラック12が移動すると歯列の凹凸に応じてセンサユニット10の永久磁石からの磁束が変化する。この変化がセンサユニット10で検知され電気信号に変換される。ただし、ラック12自体が自発分極を持つものでない限り、センサユニット10側において永久磁石を持つ必要がある。ラック12自体が磁化されている場合は、センサユニット10の永久磁石を省略することができる。
【0021】
図4(a)は、センサユニット10の側面図を、図4(b)は正面図を表している。この図に示すように、センサユニット10はセンサユニットにおける磁束を検知する部分が固定する部分に対して図に示す点Oを回転中心として水平面内で回転可能に設けられるように構成してもよい。これは、ラックのピッチが本来の最適値よりも若干小さい場合、取付部に対してセンシング部を回転させることで磁気センサブロックS1,S2,S3の間隔がラックに対して見かけ上小さくなり、ラックのピッチと合致してセンサの本来の精度が確保される効果があるためである。
【0022】
センサユニット10への入力電圧として三角関数波形(サイン波形)を印加してセンサユニット10からの出力電流波形を検知することで歯列の凹凸が位相変化(時間変化)に変換される。従って、変換器20の位相検出回路40でゼロクロスを検出し、計数回路でカウントすることでラックの変位量をデジタル的に表すことができる位置検出器として動作させることができる。
【0023】
図2は、磁気センサ群11とラック12との位置関係を示すために拡大した図である。この図に示すように、ラックのピッチをPとしたとき、隣接する3個の磁気センサを(P+P/3)および(2P+2P/3)ずつ離して配置する。
【0024】
このように配置して、入力信号波形として上述の三角関数の3相交流信号を印加し、位相差検出回路によってゼロクロスを検出することで高速性を保ちながら1ピッチの2の13乗〜2の16乗分の1程度もの高い分解能を得ることができる。
【0025】
本発明の実施形態にかかる位置検出器は1ピッチの長さが1/2ピッチのラックに対して1種類のセンサユニットで対応することができる。
【0026】
なお、上記の実施形態では入力信号を電圧波形、出力信号を電流波形として説明したが、電流、電圧のいずれに対しても励磁可能であるので入力信号を電流波形、出力信号を電圧波形としてもよい。
【0027】
(第2の実施形態)
図5は、三角関数(Y=sin A)の1周期と、関数Y=√(sin A)及びY=−√(sin A)を表している。ラックの歯の形状を出力波形(例えばサインカーブなどの三角関数)と相似形に構成することで、磁気センサで検知する磁束の変化がsin状となり、三角関数の加法定理がより一層正確に満たされて、センサの精度が向上する。磁束の変化は距離の2乗に反比例するためラックの歯の形状を√(sin x)と相似形にすれば、一層精度は高められると考えられる。
【0028】
図6は、センサユニット10とラック12との相対的な位置関係を表している。また、図7は、センサユニット10とラック12との距離Gが、小さい場合と、大きい場合の磁束変化の様子と、三角関数(cos関数)のグラフの一部を表している。この図は、センサユニット10とラック12との距離Gは磁束変化に影響を及ぼすことを表している。距離Gが小さい方が、大きい場合よりも、cos関数(又はsin関数)のカーブに近い形状となっていることがわかる。すなわち、距離Gを適切に微調整すれば読取精度が向上することを意味している。相対的な位置関係の微調整には、距離G、すなわち垂直距離の調整と、図4を用いて説明したセンサユニット10の水平面内での回転による調整の両方を含み、このようなセンサユニット10とラック12との相対位置関係を微調整するための機構を備えることで読取精度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、現在広く普及している既存のラック・アンド・ピニオン式駆動装置の「ラック」に非接触でセンサユニットを取付けることでラックの変位量から位置を正確に特定できるため、産業上の利用可能性はきわめて大きい。
【符号の説明】
【0030】
1,2,4 支持部材
3 被駆動体
10 センサユニット
11 磁気センサ群
12 ラック(歯車直径が無限大の歯車)
14 ピニオン(回転歯車)
20 変換器
30 発振回路
40 位相差検出回路
50 ヘッドアンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車であるピニオンと、前記ピニオンの歯と嵌合する歯が設けられ前記ピニオンの回転に応じて直線的に移動するラックとで構成され、
前記ラックが磁性体からなるラック・アンド・ピニオン式の駆動機構に取り付け可能な位置検出器であって、
前記位置検出器は、前記ラックの移動に伴う磁束の変化を検出するセンサユニットと、前記センサユニットに入力するための所定の入力波形を生成する発振回路および前記センサユニットから出力される出力波形を計測して前記ラックの移動量に対応する位相差を検出する位相差検出回路からなる変換器とを具備し、
前記センサユニットは、前記ラック自体を被検出対象とすることを特徴とする位置検出器。
【請求項2】
前記センサユニットは、磁気センサと、前記磁気センサに対して略垂直に磁束が貫通するように配置された少なくとも1つの永久磁石とで構成された磁気センサブロックを3組有することを特徴とする請求項1記載の位置検出器。
【請求項3】
前記センサユニットは、検出面が前記ラックの歯列に対して略水平に対向して配置され、前記ラックの歯の山と谷との繰り返し1周期分を1ピッチとしたとき、
前記1ピッチ内における前記ラックと前記磁気センサブロックとの間隔の変化に起因する磁気回路特性の変化を検出することを特徴とする請求項2記載の位置検出器。
【請求項4】
前記入力波形として三角関数波形の電圧又は電流振幅を与えたとき、
前記磁気回路特性の変化が1ピッチ内で三角関数の電流又は電圧振幅となるように前記センサユニットを配置することを特徴とする請求項3記載の位置検出器。
【請求項5】
前記センサユニットは、3組の磁気センサブロックS1,S2,S3のブリッジ回路の入力端子間に各々
=Vsinθ
=Vsin(θ+(2n+2/3)・π)
=Vsin(θ+(2n+4/3)・π)
(但し、V0は定数、nは整数とする)
の交流電圧波形又はこれと相似形である交流電流波形が印加され、
前記磁気センサブロックS1,S2,S3の間隔がそれぞれ
S1−S2間: (N+1/3)・P
S1−S3間: (M+2/3)・P
(但し、N,Mは整数、Pは1ピッチの長さ)
の関係を満たすように配置されていることを特徴とする請求項4記載の位置検出器。
【請求項6】
前記N,Mがいずれも0であることを特徴とする請求項5記載の位置検出器。
【請求項7】
前記磁気センサは、ブリッジ回路を構成する1組の磁気抵抗素子又はホール素子からなることを特徴とする請求項2記載の位置検出器。
【請求項8】
前記センサユニットは、前記センサユニットにおける磁束を検知する部分が固定する部分に対して水平面内で回転可能に設けられていることを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項に記載の位置検出器。
【請求項9】
前記ラックは、前記出力波形となるような形状を有することを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の位置検出器。
【請求項10】
歯車であるピニオンと、前記ピニオンの歯と嵌合する歯が設けられ前記ピニオンの回転に応じて直線的に移動するラックとで構成され、
前記ラックが強磁性体からなるラック・アンド・ピニオン式の駆動機構に取り付け可能な位置検出器であって、
前記位置検出器は、前記ラックの移動に伴う磁束の変化を検出するセンサユニットと、前記センサユニットに入力するための所定の入力波形を生成する発振回路および前記センサユニットから出力される出力波形を計測して前記ラックの移動量に対応する位相差を検出する位相差検出回路からなる変換器とを具備し、
前記センサユニットは、前記ラック自体を被検出対象とし、かつ、前記センサユニット内に永久磁石を有しないことを特徴とする位置検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−223595(P2010−223595A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68098(P2009−68098)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(595112258)株式会社リベックス (16)
【Fターム(参考)】