説明

位置特定システム及び位置特定方法

【課題】 所定範囲の監視エリアにおける人や物の位置を低コストで特定できる位置特定システムを提供する。
【解決手段】 データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末と移動端末20を利用し、監視エリアAの適宜の位置に固定端末10を複数配設している。移動端末20が監視エリアAのいずれかに位置していると、当該移動端末20から、付近に設置された固定端末10に当該移動端末20のデータ(識別ID等)が伝送され、さらに、当該固定端末10から他の固定端末10にデータが順に伝送されていき、最終的に、監視装置本体30においてそのデータが受信される。これにより、当該移動端末20が、予め配設位置の特定されたいずれの固定端末10の近くに存在しているかがわかる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置特定対象である人や物の位置を特定する位置特定システム及び位置特定方法に関し、特に、限られた監視エリアにおける人や物の位置を特定する位置特定システム及び位置特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示されているように、車両等の位置を特定する手段としては、GPSを利用することが一般に普及している。車両等に付設されたGPS受信機によってGPS衛星からの電波を捉えて、当該車両等の現在位置を特定する。また、携帯電話にGPS機能を持たせ、当該携帯電話並びに使用者の位置を特定するものもある。
【特許文献1】特開2007−232690号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、GPSを利用するためには、GPS受信機を用いる必要があり、コストが高い。また、GPSを利用しただけでは、数十mの測定誤差が生じる場合もあり、精度を高めるために、特許文献1では、これを補正する装置を実装しているが、そのような装置はさらにコストが嵩む。位置特定対象の人や物の位置の移動範囲が数十km、数百kmといった広域である場合には、このようなGPSを利用することが必要であるが、予め限定された所定範囲の監視エリアにおける人や物の位置を特定するに過ぎない場合、例えば、数百m〜数km四方のイベント会場における人や物の位置を特定する場合には、GPSを利用するのはコスト的に得策ではない。
【0004】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、所定範囲の監視エリアにおける人や物の位置を低コストで精度よく特定できる位置特定システム及び位置特定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1記載の本発明では、監視エリアの適宜の位置に複数配設され、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末と、
前記固定端末と通信可能であり、少なくとも一つの位置特定対象に付帯され、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の移動端末と、
少なくともいずれか一つの固定端末と通信可能に設けられ、前記移動端末の位置を、前記固定端末との相互位置関係から特定する監視装置本体と
を備えてなることを特徴とする位置特定システムを提供する。
請求項2記載の本発明では、前記監視装置本体は、
送受信部と、
監視エリアの地図情報を記憶した地図情報記憶部と、
前記各固定端末の監視エリアにおける位置を記憶し、前記地図情報記憶部から読み出した監視エリアの地図情報中に、各固定端末の位置を表示させる固定端末位置表示手段と、
位置特定対象に付帯された前記移動端末との間の通信ルートを、前記固定端末及び前記移動端末の有する各識別IDを用いて特定する通信ルート特定手段と、
前記通信ルート特定手段により特定された通信ルートに利用された固定端末との相互位置関係から、位置特定対象に付帯された前記移動端末の位置を特定する移動端末位置特定手段と
を具備することを特徴とする請求項1記載の位置特定システムを提供する。
請求項3記載の本発明では、前記通信ルート特定手段は、移動端末からの通信ルートを複数抽出する構成であり、
前記移動端末位置特定手段が、抽出された複数の通信ルートに利用された固定端末との相互位置関係から、位置特定対象に付帯された前記移動端末の位置を特定する構成であることを特徴とする請求項2記載の位置特定システムを提供する。
請求項4記載の本発明では、前記移動端末が人又は物に付帯されており、当該人又は物の位置の特定に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の位置特定システムを提供する。
請求項5記載の本発明では、前記移動端末を付帯させる物が、救護機器であることを特徴とする請求項4記載の位置特定システムを提供する。
請求項6記載の本発明では、監視エリアの適宜の位置に、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末を複数配設し、
データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなる前記固定端末と通信可能なアドホック型の無線式の移動端末を、少なくとも一つの位置特定対象に付帯させ、
少なくともいずれか一つの固定端末と通信可能に設けられた監視装置本体により、前記移動端末の位置を、前記固定端末との相互位置関係から特定することを特徴とする位置特定方法を提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末と移動端末を利用し、監視エリアの適宜の位置に固定端末を複数配設している。従って、移動端末が監視エリアのいずれかに位置していると、当該移動端末から、付近に設置された固定端末に当該移動端末のデータ(識別ID等)が伝送され、さらに、当該固定端末から他の固定端末にデータが順に伝送されていき、最終的に、監視装置本体においてそのデータが受信される。これにより、当該移動端末が、予め位置の特定されたいずれの固定端末の近くに存在しているかがわかる。位置特定対象の移動端末の特定は、複数の固定端末を経てその通信ルートから探索するものであるため、各固定端末及び移動端末自体は、近辺の端末同士で短距離通信可能なアドホック型のものでよい。アドホック型の固定端末及び移動端末は、データ中継機能を備えており、特別な中継装置を設ける必要がないため、位置特定システムを低コストで構築することができる。また、短距離通信が可能な端末同士で通信を行うため、精度よく位置特定ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて更に詳しく説明する。本実施形態の位置特定システムは、固定端末10、移動端末20及び監視装置本体30を有して構成される。固定端末10及び移動端末20は、アドホック型の無線通信方式に対応した端末装置であり、図1に示したように、データの中継機能を果たすデータ送受信部11(21)、及び、データ送受信部11(21)の駆動を制御する制御回路と制御プログラムが書き込まれる記憶部12a(22a)を備えた駆動制御部12(22)を備えている。記憶部12a(22a)には、固定端末10及び移動端末20のそれぞれを識別するための識別IDが書き込まれている。
【0008】
このような固定端末10及び移動端末20としては、ZigBee(商標)を用いることが好ましい。ZigBee(商標)は、アドホック型の短距離低速データ通信専用であり、消費電力が低く、低コストで入手可能である。また、駆動制御部12(22)の記憶部12a(22a)に記憶された制御プログラムを書き換えることにより、他の用途にも利用できるため、汎用性が高い。但し、ZigBee(商標)に限定されるものではなく、Bluetooth(商標)、UWB等に用いられる端末を利用することも可能である。
【0009】
固定端末10は、図3に示したように、監視エリアAの適宜位置(X1ポイント〜X12ポイント)に複数配置される。配置形態は任意であり、10〜40m程度の距離をおいて、網の目状や碁盤の目状等に配置される。移動端末20の位置は、固定端末10との位置関係から特定されるため、移動端末20と固定端末10の通信距離が短くなるように設定し、かつ固定端末20の配置密度を高くすれば、移動端末20の位置特定精度が高まるが、監視エリアAの大きさや形状を考慮して、また、デパートやショッピングセンター等の建物を監視する場合であれば、それらに加えて階数なども考慮して適宜に決定される。取り付け場所は、建物の壁部、樹木、路面上の邪魔にならない個所などであり、紐で吊り下げたり、接着剤や両面テープ等で接着等して取り付けられる。
【0010】
移動端末20は、位置特定対象である人や物に付帯される。例えば、祭り等のイベント会場を巡回している警備員、救護員、救護機器(例えば、AED)等に携行させたりすることができる。特に、AEDなどの救護機器は、限られた数しか準備されていないのが通常であり、予め決められた所定位置に戻す前に他の場所で必要となった場合等において、その存在位置を速やかに特定できれば、より迅速に救護にあたることができ、そのメリットは大きい。但し、位置特定対象の数は限定されるものではなく、複数の人や物に移動端末20を携行させるようにしてもよい。上記のように、移動端末20は、その記憶部22aに識別IDが書き込まれているため、移動端末20が複数であっても、識別IDを用いて各移動端末20を特定できる。
【0011】
監視装置本体30は、移動端末20の位置を特定して出力するコンピュータから構成される。監視装置本体30は、図2に示したように、送受信部31を備え、少なくともいずれか一つの固定端末10と通信可能に設定されており、その記憶部には、地図情報記憶部32が設定されていると共に、固定端末位置表示手段33、通信ルート特定手段34、移動端末位置特定手段35等のコンピュータプログラムが設定されている。
【0012】
地図情報記憶部32は、少なくとも監視エリアAを含む地図情報を記憶している。固定端末位置表示手段33は、各固定端末10の監視エリアAにおける位置を記憶し、この位置を、地図情報記憶部32から読み出した監視エリアAの地図情報中に表示させる。通常は、監視装置本体30のディスプレイに地図情報と共に、監視エリアAに配置した各固定端末10の位置(図3のX1ポイント〜X12ポイント)を表示させる。
【0013】
通信ルート特定手段34は、位置特定対象に付帯された移動端末20の通信ルートを特定する。すなわち、移動端末20が監視エリアAのいずれかの位置に存在しているとすると、当該移動端末20から発信されるデータは、最寄りの固定端末10によって受信された後、他のいくつかの固定端末10を経て送受信部31まで伝送される。通信ルート特定手段34は、このデータの伝達経路を各固定端末10及び移動端末20の識別IDを基に、抽出して特定する。
【0014】
移動端末位置特定手段35は、通信ルート特定手段34により特定された上記通信ルートから、位置特定対象の移動端末20の近くに存在する固定端末10を特定して、当該固定端末10の近辺に移動端末20が存在することを判断する。
【0015】
本実施形態の作用は次のとおりである。例えば、図3に示したように、監視エリアAに略碁盤の目状に、X1〜X12の12ポイントに固定端末10を配置するとする。そして、例えば、救護員Aさんに付帯された移動端末20の位置が図3のY1ポイントに位置しているとする。この場合においては、当該移動端末20から発信される電波は、その最寄りに位置するX12ポイントに配置された固定端末10によってキャッチされ、当該移動端末20の識別IDを含むデータを受信する。そして、固定端末10同士において、例えば、X12、X9、X6、X5、X2、X1の順で通信が行われ、監視装置本体30の送受信部31には、X1ポイントに配置された固定端末10から、各識別IDを含むデータが送信される。
【0016】
送受信部31において上記データを受信すると、通信ルート特定手段34は、受信したデータを分析し、そのデータに含まれる各識別IDから、移動端末20の識別IDを含む情報が、X12、X9、X6、X5、X2、X1に配置された各固定端末10の順で送信されたことを特定する。次に、移動端末位置特定手段35により、通信ルート特定手段34により特定された上記通信ルートから、位置特定対象の移動端末20が、X12ポイントに配置された固定端末10の近くに存在することを特定する。なお、X12ポイント近辺に存在するといっても、一つの通信ルートだけでは、厳密な位置は特定し難いため、X12ポイントを中心とした、移動端末20の通信可能距離を半径とする円(図3のBエリア)内にいるという位置特定になる。
【0017】
移動端末20の位置が特定されると、移動端末位置特定手段35は、固定端末位置表示手段33によってディスプレイに表示されている監視エリアAの地図上に、当該移動端末20の位置(Bエリア)を表示する。これにより、移動端末20すなわち救護員AさんがBエリアにいることが特定されるため、例えば、監視装置本体30を管理する管理者に、X12付近でのけが人の発生が携帯電話等で通知された場合、その管理者は監視装置本体30によって、X12に最も近い救護員Aさんを特定し、この救護員Aさんに、X12付近でけが人が発生したことを、携帯電話等により即座に連絡できる。これにより、救護に向かうまでの時間を短縮できる。
【0018】
なお、上記した説明では、移動端末20がY1ポイントに存在する場合に、X12ポイントを経由した通信ルートを特定し、その通信ルートによってのみ移動端末20の位置を特定しているが、例えば、Y1ポイントには、X11ポイントも近いし、X9ポイントとも比較的近い。従って、移動端末20の電波が、X12ポイントに位置する固定端末10だけに到達するのではなく、X11ポイントやX9ポイントに位置する固定端末10にも到達する場合もある。この場合には、移動端末20の電波が、最初にX9ポイントの固定端末10によって中継されて監視装置本体30まで到達する通信ルートと、最初にX11ポイントの固定端末10によって中継された監視装置本体30まで到達する通信ルートも存在する。そこで、通信ルート特定手段34は、このように、複数の通信ルートを抽出する構成とすることにより、移動端末位置特定手段35では、移動端末20が、X9、X11、X12の3つのポイントの固定端末10によって受信可能な範囲に位置しているという特定ができ、移動端末20の位置特定精度が向上する。
【0019】
また、上記した例では、救護員がAさんのみであるが、複数の救護員や警備員がいてそのそれぞれに移動端末20を携行させている場合でも、各救護員の現在位置は、監視装置本体30のディスプレイにほぼリアルタイムで表示されるため、緊急事態発生現場に近い救護員や警備員の選定を速やかに行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、各種イベント会場、デパート、ショッピングセンター、遊園地などにおける警備員、救護員、救護機器の位置を迅速に特定するために用いることができるほか、移動端末を子供に携行させることにより、遊園地などにおける迷子発見等にも利用できる。また、イベント会場等への来場者に移動端末を携行させることにより、当該イベント会場等における来場者の移動経路、関心の高い施設などの迅速な把握や分析に役立てることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一の実施形態に係る固定端末及び移動端末の概略構成を示した図である。
【図2】上記実施形態に用いる監視装置本体の概略構成を説明するためのブロック図である。
【図3】上記実施形態の作用を説明するための図である。
【符号の説明】
【0022】
10 固定端末
11 データ送受信部
12 駆動制御部
20 移動端末
21 データ送受信部
22 駆動制御部
30 監視装置本体
31 送受信部
32 地図情報記憶部
33 固定端末位置表示手段
34 通信ルート特定手段
35 移動端末位置特定手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
監視エリアの適宜の位置に複数配設され、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末と、
前記固定端末と通信可能であり、少なくとも一つの位置特定対象に付帯され、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の移動端末と、
少なくともいずれか一つの固定端末と通信可能に設けられ、前記移動端末の位置を、前記固定端末との相互位置関係から特定する監視装置本体と
を備えてなることを特徴とする位置特定システム。
【請求項2】
前記監視装置本体は、
送受信部と、
監視エリアの地図情報を記憶した地図情報記憶部と、
前記各固定端末の監視エリアにおける位置を記憶し、前記地図情報記憶部から読み出した監視エリアの地図情報中に、各固定端末の位置を表示させる固定端末位置表示手段と、
位置特定対象に付帯された前記移動端末との間の通信ルートを、前記固定端末及び前記移動端末の有する各識別IDを用いて特定する通信ルート特定手段と、
前記通信ルート特定手段により特定された通信ルートに利用された固定端末との相互位置関係から、位置特定対象に付帯された前記移動端末の位置を特定する移動端末位置特定手段と
を具備することを特徴とする請求項1記載の位置特定システム。
【請求項3】
前記通信ルート特定手段は、移動端末からの通信ルートを複数抽出する構成であり、
前記移動端末位置特定手段が、抽出された複数の通信ルートに利用された固定端末との相互位置関係から、位置特定対象に付帯された前記移動端末の位置を特定する構成であることを特徴とする請求項2記載の位置特定システム。
【請求項4】
前記移動端末が人又は物に付帯されており、当該人又は物の位置の特定に用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の位置特定システム。
【請求項5】
前記移動端末を付帯させる物が、救護機器であることを特徴とする請求項4記載の位置特定システム。
【請求項6】
監視エリアの適宜の位置に、データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなるアドホック型の無線式の固定端末を複数配設し、
データ中継機能を備えると共に、記憶部に識別IDが書き込まれてなる前記固定端末と通信可能なアドホック型の無線式の移動端末を、少なくとも一つの位置特定対象に付帯させ、
少なくともいずれか一つの固定端末と通信可能に設けられた監視装置本体により、前記移動端末の位置を、前記固定端末との相互位置関係から特定することを特徴とする位置特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−92423(P2009−92423A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−261145(P2007−261145)
【出願日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【出願人】(505041391)株式会社知財戦略研究所 (6)
【Fターム(参考)】