説明

低圧タービンにおける溶接されたロータの製造方法

【課題】低圧タービンにおける最終段に対して問題なく高い強度の鋼を使用することができる、低圧タービンにおいて溶接されたロータの製造方法を提供すること。
【解決手段】低圧タービンにおける溶接されたロータ10の製造方法において、1)第1の鍛造部品12,13の最小降伏点を700MPaとするとともに、第2の鍛造部品11,14を鉄のほか、3.5%のNi、1.5%のCr、0.35%のMo、0.1%のV及び0.25%のCから成る熱処理された3.5NiCrMoV鋼で形成するステップと、2)溶接材料から成る塗布層20を第2の鍛造部品の表面19に塗布するステップと、3)溶接後、塗布層である溶接材料及び熱影響域を第1の応力除去焼なましによって軟化させるステップと、4)溶接箇所が形成されるように第1及び第2の鍛造部品を組み立て、溶接箇所を、溶接部15,16が形成されるよう溶接材料によって充填するステップと、5)溶接後、溶接部に第2の応力除去焼なましを施すステップとを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タービン技術の分野に属し、請求項1の上位概念による低圧タービンにおける溶接されたロータの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蒸気タービンのロータを複数の鍛造部品を溶接して製造することは以前からよく知られており、各鍛造部材はそれぞれ異なった温度で使用されるとともにそれぞれ異なった材料で形成されている。このような異なった材料から成る鍛造部品を溶接するために、過去に様々な方法が提案されてきた(例えば特許文献1〜4)。
【0003】
図1には、例えば非特許文献1において開示されているような低圧タービンにおける溶接されたロータの構成が示されている。ここで、ロータ10は4つの鍛造部品11〜14で組み立てられており、これら鍛造部品11〜14は、回転軸18に沿って溶接部15,16によって互いに結合されている。なお、このロータ10は、回転軸18に対して垂直な中央平面23に関して対称となっている。
【0004】
また、蒸気は、中央平面23へ流入した後、回転軸18に沿って両方向へ流通し、翼を貫流する。ここで、この翼の長さはロータ10の端部へ近づくほど大きく設定されており、最も長い翼は、翼配列固定部17によって外側の鍛造部品11,14に設けられている。
【0005】
そして、最終段における効率は、この最終段に対応した翼の長さを拡大することによって向上させることが可能となっている。また、ロータ10に固定された回転翼が増大する長さ及び力によって疲労(腐食)するため、鍛造部品の強度をこれに対応させる必要がある。
【0006】
上記のような低圧タービン用の溶接されたロータのための高強度の材料として、これまで、鉄(Fe)のほか、0.22%の炭素(C)、0.2%のマンガン(Mn)、2.3%のクロム(Cr)、2.2%のニッケル(Ni)及び0.72%のモリブデン(Mo)から成り、少なくとも700MPaの降伏点を有する2.3Cr2.2NiMo鋼が用いられてきた。仮に、回転翼が低圧タービンの最終段において100cmより大きく延長される必要がある場合には、外側の鍛造部品11,14に関してより強度の高い材料が必要となる。
【特許文献1】米国特許第4962586号明細書
【特許文献2】米国特許第6152697号明細書
【特許文献3】米国特許第6753504号明細書
【特許文献4】欧州特許出願公開第0694135号明細書
【非特許文献1】L. Busse著、“World's highest capacity steam turbosets for the lignite-fired Lippendorf power station”、ABB Review 6/1997、p. 14-15
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、溶接後の応力除去焼なましプロセス(PWHT:溶接後熱処理)を変更することなく2.3Cr2.2NiMo鋼をより強度の高い材料にすることは、熱影響域(HAZ)の硬さを高めることになり、応力腐食割れ(SCC)の危険性を高めることにつながってしまう。
【0008】
一方、熱影響域における硬さを抑えるために溶接後熱処理の温度を高くすると、鍛造部品及び溶接材料の強度が低下してしまうことになる。また、溶接部のための翼配列固定部の近傍において翼配列固定部が過熱されてしまうため、熱影響域における硬さの低減のために高い温度で溶接後熱処理(応力除去焼なまし)を行うことも不可能である。
【0009】
本発明は上記問題にかんがみてなされたもので、その目的とするところは、従来の方法における課題を解決し、低圧タービンにおける最終段に対して問題なく高い強度の鋼を使用することができ、かつ、最終段において長い回転翼を使用することができる、低圧タービンにおいて溶接されたロータの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、互いに溶接して形成された複数の低圧段落及び高圧段落それぞれのための第1の組成を有する鋼から成る第1の鍛造部品及び複数の低圧段落のための第2の組成を有する鋼から成る第2の鍛造部品を含んで構成された、低圧タービンにおける溶接されたロータの製造方法において、
1)前記第1の鍛造部品の最小降伏点を700MPaとするとともに、前記第2の鍛造部品を鉄のほか、3.5%のニッケル、1.5%のクロム、0.35%のモリブデン、0.1%のバナジウム及び0.25%の炭素から成る熱処理された3.5NiCrMoV鋼で形成するステップと、
2)溶接材料から成る塗布層を前記第2の鍛造部品の表面に塗布するステップと、
3)溶接後、前記塗布層である溶接材料及びこれに付随する熱影響域を局所的な第1の応力除去焼なましによって軟化させるステップと、
4)溶接箇所が形成されるように前記第1及び第2の鍛造部品を組み立て、該溶接箇所を、溶接部が形成されるよう溶接材料によって充填するステップと、
5)溶接後、前記溶接部に第2の応力除去焼なましを施すステップと
を行うことを特徴としている。
【0011】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の製造方法において、前記第1の鍛造部品を鉄のほか、0.22%の炭素、0.2%のマンガン、2.3%のクロム、2.2%のニッケル及び0.72%のモリブデンから成る2.3Cr2.2NiMoで形成することを特徴としている。
【0012】
また、請求項3記載の発明は、請求項2記載の製造方法において、前記溶接箇所へ充填する溶接材料として、鉄のほか、0.13%の炭素、0,3〜0.8%のクロム、0.6〜2.5%のニッケル、0.4〜0.8%のモリブデン、最大0.15%のコバルト、最大0.15%のマンガン及び0.5%のケイ素を有するNiCrMo鋼を用いることを特徴としている。
【0013】
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載の製造方法において、前記第2の応力除去焼なましとして、溶接材料及び2.3Cr2.2NiMo鋼に対して標準的な応力除去焼なましを約590℃で施すことを特徴としている。
【0014】
また、請求項5記載の発明は、請求項1記載の製造方法において、前記第1の鍛造部品を、鉄のほか、3.5%のニッケル、1.5%のクロム、0.35%のモリブデン、0.1%のバナジウム及び0.25%の炭素から成る3.5NiCrMoV鋼とすることを特徴としている。
【0015】
さらに、請求項6記載の発明は、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法において、前記塗布層を前記表面の外縁部にのみ形成することを特徴としている。これにより、溶接後の応力除去焼なましに必要な時間を短縮することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従来の方法における課題を解決することが可能であるとともに、低圧タービンにおける最終段に対して問題なく高い強度の鋼を使用することができる上、最終段において長い回転翼を使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0018】
図2aには図1における鍛造部品14の一部を拡大した図が示されており、この鍛造部品14は、鉄(Fe)のほか、3.5%のニッケル(Ni)、1.5%のクロム(Cr)、0.35%のモリブデン(Mo)、0.1%のバナジウム(V)及び0.25%の炭素(C)を含有する焼もどしされた3.5NiCrMoV鋼から成り、リング状の接続面19を備えている。
【0019】
なお、このリング状の接続面19の特に外縁部には、まず、溶接材料から成る塗布層20が形成される(図2a)。
【0020】
この接続面19の外縁部における塗布層20を形成することで、溶接(PWHT)後における応力除去焼なましにかかる時間を大幅に短縮することができるという利点が得られる。
【0021】
しかして、塗布層20の形成後、該塗布層20の溶接材料及びこれに付随する熱影響域(HAZ)に応力除去焼なまし処理が施される。これは、図2bにおけるT>T0なる記載によって示唆されている。ここで、T0は標準の応力除去焼なまし温度である。
【0022】
そして、応力除去焼なまし後、互いに溶接される鍛造部材13,14は溶接箇所21を形成するように互いに突き合わせられる(図2c)。この溶接箇所21は、Feのほか、最大0.13%のC、0.3〜0.8%のCr、0.6〜2.5%のNi、0.4〜0.8%のMo、最大0.15%のコバルト(Co)、最大1.5%のマンガン(Mn)及び0.5%のケイ素(Si)を含有する標準のNiCrMo合金である溶接材料22によって充填される。これにより、鍛造部材14は、2.3Cr2.2NiMo鋼から成る鍛造部材13との溶接がなされることになる(図2d)。
【0023】
最後に、溶接材料及び2.3Cr2.2NiMo鋼が590℃で応力除去焼なましされる(図2e)。
【0024】
上記のような製造方法は以下のような特性及び利点を有している。
−鍛造部材を有するロータについて、最終的に最低でも800MPaの降伏点が得られる。
−溶接部の境界面において熱影響域についての十分な硬さが得られる(表面部下方での大きい硬さにより応力腐食割れの危険が回避される。)。
−鍛造部材及び溶接材料における強度低下が生じない。
【0025】
なお、図2a〜図2eにおいては、溶接部を2.3Cr2.2NiMo鋼から成る鍛造部材と3.5NiCrMoV鋼から成る鍛造部材の間に形成したが、両鍛造部材を3.5NiCrMoV鋼で形成し、これらの間に溶接部を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による方法の実施に適した低圧タービン用ロータの縦断面図である。
【図2a】本発明の方法における一ステップを示す部分拡大図である。
【図2b】本発明の方法における一ステップを示す部分拡大図である。
【図2c】本発明の方法における一ステップを示す部分拡大図である。
【図2d】本発明の方法における一ステップを示す部分拡大図である。
【図2e】本発明の方法における一ステップを示す部分拡大図である。
【符号の説明】
【0027】
11,12,13,14 鍛造部品
15,16 溶接部
17 翼配列固定部
18 回転軸
19 接続面
20 塗布層
21 溶接箇所
22 溶接材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに溶接して形成された複数の低圧段落及び高圧段落それぞれのための第1の組成を有する鋼から成る第1の鍛造部品(12,13)及び複数の低圧段落のための第2の組成を有する鋼から成る第2の鍛造部品(11,14)を含んで構成された、低圧タービンにおける溶接されたロータ(10)の製造方法において、
1)前記第1の鍛造部品(12,13)の最小降伏点を700MPaとするとともに、前記第2の鍛造部品(11,14)を鉄のほか、3.5%のニッケル、1.5%のクロム、0.35%のモリブデン、0.1%のバナジウム及び0.25%の炭素から成る熱処理された3.5NiCrMoV鋼で形成するステップと、
2)溶接材料から成る塗布層(20)を前記第2の鍛造部品(11,14)の表面(19)に塗布するステップと、
3)溶接後、前記塗布層(20)である溶接材料及びこれに付随する熱影響域を局所的な第1の応力除去焼なましによって軟化させるステップと、
4)溶接箇所(21)が形成されるように前記第1及び第2の鍛造部品(12,13;11,14)を組み立て、該溶接箇所(21)を、溶接部(15,16)が形成されるよう溶接材料(22)によって充填するステップと、
5)溶接後、前記溶接部に第2の応力除去焼なましを施すステップと
を行うことを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記第1の鍛造部品(12,13)を鉄のほか、0.22%の炭素、0.2%のマンガン、2.3%のクロム、2.2%のニッケル及び0.72%のモリブデンから成る2.3Cr2.2NiMo鋼で形成することを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記溶接箇所(21)へ充填する溶接材料として、鉄のほか、0.13%の炭素、0,3〜0.8%のクロム、0.6〜2.5%のニッケル、0.4〜0.8%のモリブデン、最大0.15%のコバルト、最大0.15%のマンガン及び0.5%のケイ素を有するNiCrMo鋼を用いることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記第2の応力除去焼なましとして、溶接材料及び2.3Cr2.2NiMo鋼に対して標準的な応力除去焼なましを590℃で施すことを特徴とする請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
前記第1の鍛造部品(12,13)を、鉄のほか、3.5%のニッケル、1.5%のクロム、0.35%のモリブデン、0.1%のバナジウム及び0.25%の炭素から成る3.5NiCrMoV鋼とすることを特徴とする請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記塗布層(20)を前記表面(19)の外縁部にのみ形成することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図2c】
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【図2d】
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【図2e】
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【公表番号】特表2009−520603(P2009−520603A)
【公表日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−546316(P2008−546316)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068235
【国際公開番号】WO2007/073976
【国際公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【出願人】(503416353)アルストム テクノロジー リミテッド (394)
【氏名又は名称原語表記】ALSTOM Technology Ltd
【住所又は居所原語表記】Brown Boveri Strasse 7, CH−5401 Baden, Switzerland
【Fターム(参考)】