説明

低圧蒸気タービンシステムおよびその制御方法

【課題】負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービンに発生するランダム制御を抑制して、ランダム振動とフラッシュバックとの重畳による影響を少なくすること。
【解決手段】静翼3と動翼2とから構成される段落を複数有する低圧蒸気タービン1を有する低圧蒸気タービンシステム100であって、負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービン1にフラッシュバック振動が発生する所定時間の間、目標回転速度を所定値低く設定し、ロータ4が所定値低く設定した目標回転速度を所定時間維持するように、低圧蒸気タービン1に供給する蒸気量を調節する指令を蒸気流量調節弁10に出力するようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低圧蒸気タービンのロータの回転を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧蒸気タービンでは、無負荷時や低負荷時に復水器側からの蒸気の逆流により、動翼にランダム振動が発生することが知られている。この知見は低圧蒸気タービン動翼の設計に反映されている。ランダム振動については、非特許文献1や2に記載されている。
【0003】
【非特許文献1】ア・ヴェ・シェグリヤエフほか、池田監訳、永島訳、蒸気タービン理論と構造、三宝社、p340、 1982
【非特許文献2】M. Gloger 他 ADVANCED LP TURBINE BLADING; A RELIABLE AND HIGHLY EFFICIENT DESIGN PWR-VOL.18, STEAM TURBINE-GENERATOR DEVELOPMENTS FORTHE POWER GENERATION INDUSTRY, ASME 1992
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、効率向上のために低圧蒸気タービンが大型化しているが、本発明者等の検討によれば、低圧蒸気タービンが大型化した際のランダム振動については特別な配慮が必要であることが判明した。特に、低圧蒸気タービンから給水加熱器の給水加熱用の蒸気を抽気している場合、給水加熱器から低圧蒸気タービン内へのフラッシュバックによる振動(フラッシュバック振動)とランダム振動との重畳については特別に配慮する必要があることが判明した。
【0005】
本発明の目的は、負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービンに発生するランダム振動を抑制して、ランダム振動とフラッシュバック振動との重畳による影響を少なくすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービンにフラッシュバック振動が発生する所定時間の間、目標回転速度を所定値低く設定し、ロータが所定値低い目標回転速度を所定時間維持するように、低圧蒸気タービンに供給する蒸気量を調節する指令を蒸気流量制御手段に出力するようにした。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービンに発生するランダム制御を抑制することが可能となり、これにより、ランダム振動とフラッシュバック振動との重畳による影響を少なくすることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、適宜図を用いて詳細に説明する。
【0009】
先ず、本発明に至るまでの検討について説明する。
【0010】
従来、最終段の動翼の翼長が43インチ(約109cm)の低圧蒸気タービン(タービン回転速度1800rpm)では、ランダム振動(初負荷運転等の無負荷および低負荷時に発生する非定常流れによる流体加振力)の影響は、最終段(L−0段)とその前の段落(L−1段)と考えられ、これらの動翼はランダム振動の影響を加味して設計されている。しかし、最終段よりも2つ前の段落(L−2段)の動翼は、作りやすさ等の観点からテノンかしめ構造等の動翼構造が通常用いられている。
【0011】
しかし、本発明者等の検討によれば、最終段の動翼が52インチ(約132cm)以上の大型化した低圧蒸気タービン(タービン回転速度1800rpm)の場合、ランダム振動がL−2段まで及ぶことが判明した。低圧蒸気タービンがさらに大型化した場合には、3つ前の段落(L−3段)にもランダム振動が及ぶこともあり得ることが判明した。
【0012】
また、給水加熱器の給水加熱用として蒸気を低圧蒸気タービンから抽気しているが、負荷遮断時などの負荷急変時には、給水加熱器から低圧蒸気タービン内に熱水がフラッシュ(減圧沸騰)して逆流(フラッシュバック)することがある。すなわち、負荷遮断時などの負荷急変時には、低圧蒸気タービン内の圧力が急減し、低圧蒸気タービン内圧力と給水加熱器内圧力とが逆転(給水加熱器内圧力が低圧蒸気タービン内圧力より高くなる現象)し、蒸気の逆流が発生する。そして、給水加熱器内の圧力が更に低下し、給水加熱器内に残量している高温水がフラッシュ(減圧沸騰)し、タービンに音速に近い流速で流入する。この影響により、軸方向および周方向の不均一性が発生し、流体加振力(フラッシュバック振動)が発生する。
【0013】
このフラッシュバック振動は、抽気孔の場所に近い段落の動翼に対して影響が大きい。従来、L−1段の上流に抽気孔が設けられることが多かった。低圧蒸気タービンロータの軸長が短くなった等においては、L−2段の上流にも抽気孔が設けられることがある。
【0014】
本発明者等の検討によれば、これらのランダム振動とフラッシュバック振動が重畳することにより、大きな流体加振力が発生することが判明した。これを、図5を用いて説明する。
【0015】
図5は、フラッシュバック無およびフラッシュバック有のときの非定常流体力計算結果を示すものである。また、最終段の動翼が52インチ(約132cm)の低圧蒸気タービンで、低負荷(約5%負荷)のときの計算結果である(蒸気流量も定格の5%以下となっている。)。上図が流線、下図が流体力の時間変動を示す。左図はフラッシュバック無の結果であり、ランダム振動によるランダム流体加振力を示している。右図はフラッシュバック有の結果であり、ランダム流体加振力とフラッシュバック振動によるフラッシュバック流体加振力が重畳した場合の結果である。ランダム振動がL−2段まで及んでいることがわかる(渦がランダム振動を示す。L−0段の動翼根元側に大きな逆流域が、また先端部にも逆流域が見られ、L−2段の動翼根元側からL−1段を超えL−0段静翼にかけて大きな逆流域が見られる)。そして、ランダム流体加振力とフラッシュバック流体加振力の重畳により流体加振力が1.2ないし2.0倍(L−2段に対しては2.0倍)に増大していることがわかる。
【0016】
このフラッシュバック振動とランダム振動の重畳は、特に20%負荷遮断時に起こり得る。すなわち、20%負荷遮断時には、負荷遮断時に回転速度維持のために低負荷もしくは無負荷で運転される時間があり、このときに、ランダム振動が発生し、このランダム振動に負荷遮断によるフラッシュバック振動が重畳されることになる。
【0017】
従来、L−2段の動翼には大きな流体加振力が加わるとは考えられていなかったが、このように大きな流体加振力が加わり、また、動翼の構造上、流体加振力が加わった場合の影響は他の段落よりも大きい。したがって、低圧蒸気タービンが大型化し、抽気孔がL−2段のすぐ上流に設けられている場合には(L−2段のすぐ上流に抽気孔が設けられている場合には、L−2段のすぐ下流にも抽気孔が設けられている場合が多い)、L−2段の動翼の振動応力を低減させる手段が必要である。振動応力を低減させるには、動翼の構造を高減衰構造にするか、または、大きな流体加振力が加わらないように、すなわち、フラッシュバック振動とランダム振動との重畳を避けるようにすることが考えられる。
【0018】
また、実際の運転時には、起動の際に、20%負荷の運転時間帯が数時間あるため、そのときに落雷などで負荷遮断が発生することも考えられる。このようなときにL−2段までランダム振動が発生してしまうと、このランダム振動とフラッシュバック振動とが重畳し、低圧蒸気タービンの動翼に大きな流体加振力が加わる可能性がある。そこで、このように、20%負荷の運転時に、負荷遮断が発生して、フラッシュバック振動が発生しても、ランダム振動を抑制してフラッシュバック振動との重畳の影響を少なくすることが求められる。
【0019】
本発明はこのような知見に基づきなされたものである。以下に本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。図1に示すように、低圧蒸気タービンシステム100は、低圧蒸気タービン1、復水器7、給水加熱器8(8a、8b)、圧力変動検出器9、蒸気流量調節弁10、復水ポンプ11(11a、11b)、抽気配管15、制御装置16、蒸気バイパス配管17、蒸気開閉弁17aを主要部として構成されている。また、低圧蒸気タービン1は、動翼2、静翼3、ロータ4、ケーシング5を主要部として構成され、抽気孔6がケーシング5に設けられている。
【0020】
図1に示すように、高圧蒸気タービン13から排気された蒸気は、湿分分離(加熱)器(図示省略)を通り、蒸気流量調節弁(蒸気流量制御手段)10を介して低圧蒸気タービン1に導入され、ロータ4に固定された動翼2とケーシング5に固定された静翼3の間を交互に通りながら膨張し、ロータ4を回転させる。ロータ4は高圧蒸気タービン13のロータと同一軸で構成されている。なお、低圧蒸気タービン1に導入される蒸気流量は、蒸気流量調節弁10によって調節される。そして、蒸気流量調節弁10を制御するために制御装置(弁制御装置)16が備わっている。低圧蒸気タービン1から排気された蒸気は、復水器7で凝縮されて水(給水)となった後、並設される2つの復水ポンプ(送水ポンプ)11a、11bで給水加熱器8に送り込まれ、給水加熱器8で加熱される。給水加熱器8で加熱された給水は、更に他の給水加熱器(図示省略)や高圧給水ポンプ(図示省略)などを経由して蒸気発生器14に導入される。そして、給水加熱器8での給水加熱用に、抽気孔6から蒸気が抽気され、抽気配管15を介して給水加熱器8に導入される。
【0021】
なお、給水加熱器8(8a、8b)の加熱用蒸気を低圧蒸気タービン1から抽気する抽気孔6は、低圧蒸気タービン1において静翼3と動翼2とから構成される1つ段落の直前直後に2つ配置されるものとする。この抽気孔6の配置は、給水加熱器8で要求される蒸気圧力と温度によって決められる。ちなみに、1つ段落の直前直後に2つ抽気孔が配置される構成となっている場合が動翼2へのフラッシュバック振動の影響が大きくなると考えられる。また、実施形態において、抽気孔6は、最終段よりも2つ前の段落の直前直後に配置されるものとする。また、給水加熱器8は、上流側に配置される給水加熱器を8a、下流側に配置される給水加熱器を8bとする。
【0022】
制御装置16は、各種演算をするためのCPU(Central Processing Unit)16a、制御装置16を動作させるプログラムや各種データ等が記憶されている記憶部16b、蒸気流量調節弁10と信号線で接続して、蒸気流量調節弁10に制御信号を送信したりする外部インターフェース部16c等で構成されている。なお、制御装置16と蒸気流量調節弁10とが蒸気流量制御手段に相当する。
【0023】
また、図1に示すように、抽気孔6には圧力変動検出器9が設置されている。圧力変動検出器9は、信号線で制御装置16の外部インターフェース部16cと接続されていて、検出した圧力を制御装置16に通知する機能を有する。
【0024】
さらに、低圧蒸気タービンシステム100には、高圧蒸気タービン13から出力された蒸気を、復水器7に直接導入する蒸気バイパス配管17が設けられていて、蒸気バイパス配管17には蒸気開閉弁17aが備わる。蒸気開閉弁17aは、定常時は閉じられている弁である。高圧蒸気タービン13から排気される蒸気は、蒸気開閉弁17aが閉じているときは、他の給水加熱器(高圧給水加熱器、図示省略)や給水ポンプ駆動用蒸気タービンにも導入されるが、これらの蒸気や湿分分離(加熱)器での湿分と少量の蒸気の減少を除いて全て低圧蒸気タービン1に導入される。なお、蒸気開閉弁17aは信号線で制御装置16の外部インターフェース部16cと接続され、制御装置16からの制御で開閉動作する。
【0025】
また、併設される2つの復水ポンプ11a、11bは、ポンプ制御装置として機能する制御装置16の外部インターフェース部16cと信号線で接続される。そして、制御装置16から、復水ポンプ11a、11bに指令を与えて、動作を制御する構成とする。また、制御装置16が復水ポンプ11a,11bの送水量を調節することで、給水加熱器8内の温度を調節することも可能である。
【0026】
ロータ軸4には、ロータ軸4によって駆動される発電機Gが負荷として接続される。発電機Gで発電された電力は、負荷遮断機構12を介して電力系統へ送電される。例えば何らかの異常が発生したときには、電力系統と発電機Gとを切り離すこと(以下、負荷遮断と称する)が可能である。さらに、負荷遮断機構12は、負荷遮断したときに負荷遮断信号を出力する機能を有する。そして、負荷遮断機構12は制御装置16の外部インターフェース部16cと信号線で接続され、負荷遮断信号を制御装置16に入力する。なお、制御装置16が負荷遮断を検出する手段は特に限定されるものではない。
【0027】
以上のように構成される低圧蒸気タービンシステム100は、制御装置16に、負荷遮断機構12から負荷遮断信号が入力されて、制御装置16が、低圧蒸気タービン1が無負荷になったことを検出すると、後述の本発明の制御が適用されない場合、制御装置16は、蒸気流量調節弁10の開度を絞るように指令を出し、蒸気バイパス管17の容量(例えば20%負荷相当の蒸気流量)以下での負荷遮断(例えば、20%負荷運転時の負荷遮断)の場合には、タービンの回転を停止させず定格回転数を維持するために少量(例えば定格の約5%以下)の蒸気が供給されるように蒸気流量調節弁10を制御している。このような低蒸気流量でタービンを定格回転させると、図5の説明で述べたように、ランダム振動が発生する。また、このとき、制御装置16は、蒸気開閉弁17aに制御信号を送信して蒸気開閉弁17aを開いて、高圧蒸気タービン13から排気される蒸気を、蒸気バイパス配管17を経由して復水器7に導入する。また、蒸気バイパス配管の容量(30%負荷相当の蒸気流量)を超える負荷遮断(例えば、50%、75%、100%負荷遮断)では、タービンの回転を停止させるので、蒸気流量調節弁10が全閉される。このように、L―2段へのランダム振動とフラッシュバック振動の重畳は、バイパス配管の容量が例えば30%負荷相当の蒸気流量の場合、20%負荷遮断のときに発生するので、20%負荷遮断の際に後述の本発明の制御が適用される。なお、バイパス配管の容量が大きい場合には、50%負荷遮断に本発明の制御が適用される場合もある。バイパス配管の容量によって本発明の制御が適用される負荷遮断の際の負荷が決められる。以下、制御装置16によって実施される本発明の制御内容を説明する。
【0028】
図2は、本発明の実施形態の低圧蒸気タービンの制御ロジックシーケンスを説明するブロック図である。この制御ロジックシーケンスは、制御装置16のCPU16aが記憶部16bに記憶された制御プログラムを実行することによって実現される。以下、図1を適宜参照しつつ、図2のブロック図に従い、制御ロジックシーケンスを説明する。
【0029】
この制御ロジックシーケンスは、タイミング制御手段と、目標回転速度選択手段と、調節手段とに大きく分けられる。タイミング制御手段は、計測負荷が所定値以下で、かつ、負荷遮断信号を受け付けたときを条件とし、その負荷遮断信号の受付時点から所定時間の間、制御信号を出力する制御機能を有し、ステップS1〜S4を含んで実行する。
【0030】
目標回転速度選択手段は、タイミング制御手段によって制御信号(X1)が出力されている間(フラッシュバック振動が発生している間(発生し易い時間帯))、所定値低く設定した目標回転速度を選択し、その制御信号(X1)が出力されていないときに所定の目標回転速度を選択する制御機能を有し、ステップS5,S6を含んで実行する。ここで目標回転速度を所定値低く設定することによって、後記のように、低圧蒸気タービン1に発生するランダム振動を抑制することができるようになる。
【0031】
また、調節手段は、ロータ4の計測回転速度が、目標回転速度選択手段によって選択された目標回転速度となるように、蒸気流量調節弁10の開度を調節する主弁開度指令値(指令)を生成し、蒸気流量調節弁10にその主弁開度指令値を送る制御機能を有し、ステップS7〜S11を含んで実行する。
【0032】
続いて、ステップS1〜S11の処理について説明する。CPU16aは、外部インターフェース部16cを介して負荷遮断機12から計測負荷の値や負荷遮断信号を入力している。このとき、CPU16aは、送られてくる計測負荷があらかじめ記憶部16bに設定されている低負荷の値か否かを判定している。この低負荷の値は、例えば、20%とする。これは、上述したように、負荷が20%のときの負荷遮断のときに、ランダム振動がL−2段まで発生することを確認しているからであり、このとき、フラッシュバック振動に重畳されるランダム振動を抑制するために必要な目標回転速度(例えば、定格回転数の約30%相当rpm。ランダム振動は回転数を下げることによって抑制される。この目標値は予め実験や計算等により求めておく。)が記憶部16bに設定されている。
【0033】
そして、CPU16aは、計測負荷がその低負荷の値以下で、かつ、負荷遮断信号の入力をAND成立条件として、フラグの値をLからHに遷移させる(S1)。なお、フラグの値は、計測負荷がその低負荷の値以下であること、および、負荷遮断信号の入力があることの両方を満たしていないときに、Lとする。
【0034】
また、CPU16aは、負荷遮断信号の入力が有って(NOT条件)から(S2)、遅れ時間t1を設定する(S3)。そして、CPU16aは、その遅れ時間t1の間は制御信号(負荷制御信号X1)を目標回転速度選択手段のスイッチに出力し(S4)、目標回転速度制御手段によってフラッシュバック振動が発生している間(発生し易い時間帯)、フラッシュバック振動に重畳されるランダム振動を抑制するための以下の制御を実行する。
【0035】
このとき、負荷遮断信号が入力されてから遅れ時間t1の間は、負荷遮断信号の入力がされていない状態として扱い、低圧蒸気タービン1の負荷遮断制御時のシーケンスへの移行を遅れ時間t1だけ遅らせることになる。なお、遅れ時間t1は、あらかじめ記憶部16bに設定された値である。その値は、あらかじめシミュレーションや実験によって求められる。
【0036】
なお、この負荷遮断制御時のシーケンスは、低圧蒸気タービンシステム100の原子力発電の通常制御を停止させ、低圧蒸気タービン1を安全な状態に保つために一般に知られた制御である。そのため、CPU16aは、負荷遮断制御時のシーケンスへの移行前に、本発明の特徴であるランダム振動を抑制するための以下の制御を実行する。
【0037】
それでは、ランダム振動を抑制するための制御について説明する。CPU16aは、制御信号X1がタイミング制御手段から送られている間(遅れ時間t1の間)、通常の目標回転速度(0rpmの減算制御)から(30%相当rpmの減算制御)へ移行させる移行指令値(ロータ4の回転速度を定格回転数の30%減となるように制御する値)に切り替える(S5)。なお、移行指令値の情報には負荷制御信号X1が付与されている。そして、CPU16aは、スクラム制御時の目標回転速度と移行指令値との差分を算出し、目標回転速度の値を切り替える(S6)。
つまり、目標回転速度から減算する回転速度が0rpmから30相当rpmに切り替わり(S5)、ステップS6においては、その切り替わった回転速度を目標回転速度から減算する。
【0038】
そして、CPU16aは、目標回転速度と、計測回転速度との差分(偏差)を算出する(S7)。この算出された差分は、ステップS8とステップS11に出力される。
一方、ステップS9では、目標負荷と計測負荷との差分(偏差)を算出する。この差分に調停率ゲインを適用して、負荷の差分を回転速度の差分に変換する(S10)。そして、ステップS7からの偏差とステップS10からの偏差とを加味した偏差、つまり回転速度と負荷とを加味した偏差を算出し(S11)、この偏差をステップS8のスイッチに出力する。
ステップS8のスイッチは、負荷遮断信号に基づいて、偏差の値を切り替えて後段の処理に出力する。これにより、偏差に基づいた主弁開度指令値が生成され、主制御弁、つまり図1の蒸気流量調節弁10の開度が、偏差が0になるように調節される。
【0039】
この制御では、負荷遮断信号が入力されるまでは、(1)目標回転速度と計測回転速度との偏差(S7)、および(2)目標負荷と計測負荷との偏差(S9)を回転速度に換算(調停)した偏差(S10)という、2つの偏差を加味した偏差に基づいて蒸気流量調節弁10の開度が調節される。
一方、負荷遮断信号が入力されると、ステップS8のスイッチにおいて、ステップS7の偏差が選択され、つまり上記(1)の目標回転速度と計測回転速度との偏差が選択され、この偏差に基づいて蒸気流量調節弁10の開度が調節される。
そして、負荷遮断信号により、ステップS7の偏差が選択される状況にて、ステップS4の条件が成立しているときは、つまりフラッシュバック振動が発生しやすい時間帯においては、ステップS5のスイッチにより30%相当rpmが選択され、ステップS6において、目標回転速度がダンピング(減算)される。このため、蒸気流量調節弁10の開度が絞られてロータ4の回転速度が低減される。よって、後記するように(図4(a)参照)、フラッシュバック振動が発生しやすい時間帯において回転数が低減して、ランダム振動が抑制され、たとえフラッシュバック振動が発生したとしても、フラッシュバック振動とランダム振動との重畳が防止される。
なお、フラッシュバック振動が発生しやすい時間帯が経過すると、ステップS5において選択される回転速度の減算量が0rpmとなり、目標回転速度(例えば1800rpm)が保持される。
【0040】
次に、図3に従って、図2を参照しつつ、ステップS1のAND条件成立の判定信号(A)、ステップS3の遅れ時間設定(NOT条件信号(B)と呼ぶ)、および、ステップS4のAND条件成立の判定信号(C)の関係を説明する。図3は、図2に示したタイミング制御手段での信号のタイミングを説明するグラフである。図3中、それぞれ、横軸に時間、縦軸に電圧(信号レベル、フラグ)を採っている。
【0041】
ここで、CPU16aが負荷遮断信号を時刻T0に受け付けたものとする。このとき、判定信号(A)(C)はLからHに遷移する。一方、NOT条件信号(B)は、Hの状態を維持している。そして、遅れ時間t1の経過後、時刻T1では、判定信号(A)はHの状態を維持するが、NOT条件信号(B)はHからLに遷移する。このNOT条件信号(B)の遷移を条件として、判定信号(C)がHからLに遷移する。つまり、遅れ時間t1だけ、目標回転速度選択手段のスイッチングを遅らせることができる。
【0042】
次に、図4に従って、この実施形態の制御例(制御例(図4の(a))と、従来の制御例(比較例(図4の(b)))との違いについて説明する。なお、図4の(a)および図4の(b)のそれぞれは、横軸に時間、縦軸に回転数の値を採ったグラフを示している。
【0043】
図4の(a)に示すように、実施形態の制御例では、時刻T0で負荷遮断が発生した時に、前記のように制御してロータ4の回転速度を下げ、遅れ時間t1の経過後の時刻T1に、元の値まで復帰させた後に、実線のように回転数を減少させるように、低圧蒸気タービン1の運転を制御するか、破線のように定格回転数を維持させ連続運転に対応できるようにする。このとき、時刻T0から時刻T1の間の遅れ時間t1では、ランダム振動が抑制される。
【0044】
一方、図4の(b)に示すように、従来の比較例では、時刻T0から時刻T1までの間の遅れ時間t1では、本発明の実施形態のように、ロータ4の回転速度に関しての何ら制御がされていないため、ランダム振動が発生する。このとき、給水加熱器8からフラッシュバックが生じているため、低圧蒸気タービン1にはフラッシュバック振動も生じている。そのため、ランダム振動とフラッシュバック振動とが重畳し、動翼2に大きな流体加振力が加わる。
【0045】
以上、説明したように、実施形態では、負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、低圧蒸気タービンに発生するランダム制御を抑制して、ランダム振動とフラッシュバック振動との重畳による影響を少なくすることができるようになる。
【0046】
なお、前記実施形態では、蒸気流量調節弁10の開度を調節する場合を説明したが、高圧蒸気タービン13側の図示しない調節弁等を制御して、低圧蒸気タービン1に流入する蒸気量を調節するようにしてもよい。
【0047】
また、前記実施形態では、CPUが処理プログラムを実行するものとして説明したが、IC(Integrated Circuit)を含む電子部品によって個別の機能を実現するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の実施形態にかかる低圧蒸気タービンシステムを示す図である。
【図2】本発明の実施形態の低圧蒸気タービンの制御ロジックシーケンスを説明するブロック図である。
【図3】図2に示したタイミング制御手段での信号のタイミングを説明するグラフである。
【図4】本発明の制御と従来の制御とを比較するグラフである。
【図5】フラッシュバック無およびフラッシュバック有のときの非定常流体力計算結果を示す図である。
【符号の説明】
【0049】
1 低圧蒸気タービン
2 動翼
3 静翼
4 ロータ
6 抽気孔
7 復水器
8 給水加熱器
9 圧力変動検出器
10 蒸気流量調節弁
11a、11b 復水ポンプ
12 負荷遮断機構
15 抽気配管
16 制御装置
100 低圧蒸気タービンシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静翼と動翼とから構成される段落を複数有し、外部から供給される蒸気によって、前記動翼を固定したロータを回転させて駆動される低圧蒸気タービンと、
前記低圧蒸気タービンに流入させる蒸気の量を調節して前記ロータの回転速度を制御する蒸気流量制御手段と、
前記低圧蒸気タービンから排出される前記蒸気を凝縮して給水を生成する復水器と、
前記生成される給水を加熱する給水加熱器と、を含んで構成され、
前記低圧蒸気タービンは、前記給水加熱器の熱源となる給水加熱用蒸気を抽気する抽気孔を、前記複数の段落の中の少なくとも1つの段落の直前直後に有し、
前記低圧蒸気タービン内を流れる蒸気の一部が前記抽気孔を介して、前記給水加熱用蒸気として前記給水加熱器に導入される構造を有する低圧蒸気タービンシステムであって、
負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、前記低圧蒸気タービンにフラッシュバック振動が発生または発生しやすい所定時間の間、目標回転速度を所定値低く設定し、
前記ロータが所定値低く設定した目標回転速度を所定時間維持するように、前記低圧蒸気タービンに供給する蒸気量を調節する指令を前記蒸気流量制御手段に出力する制御装置を備える
ことを特徴とする低圧蒸気タービンシステム。
【請求項2】
前記制御装置は、
計測負荷が所定値以下で、かつ、負荷遮断信号を受け付けたときを条件とし、当該負荷遮断信号の受付時点から所定時間の間、制御信号を出力するタイミング制御手段と、
前記タイミング制御手段によって当該制御信号が出力されている間、前記低圧蒸気タービンにフラッシュバック振動が発生または発生しやすい所定時間の間、所定値低く設定した目標回転速度を選択し、当該制御信号が出力されていないときに所定の目標回転速度を選択する目標回転速度選択手段と、
前記ロータの計測回転速度が、前記目標回転速度選択手段によって選択された目標回転速度となるように、前記蒸気流量制御手段を調節する指令を生成し、前記蒸気流量制御手段に当該指令を送る調節手段とを備える
ことを特徴とする低圧蒸気タービンシステム。
【請求項3】
静翼と動翼とから構成される段落を複数有し、制御装置によって外部から供給される蒸気によって、前記動翼を固定したロータを回転させて駆動される低圧蒸気タービンを備えた低圧蒸気タービンシステムの制御方法であって、
前記制御装置は、
負荷遮断時に、計測負荷が所定値以下のときに、前記低圧蒸気タービンにフラッシュバック振動が発生または発生しやすい所定時間の間、目標回転速度を所定値低く設定し、
前記ロータが所定値低く設定した目標回転速度を所定時間維持するように、前記低圧蒸気タービンに供給する蒸気量を調節する指令を前記蒸気流量制御手段に出力する
ことを特徴とする低圧蒸気タービンシステムの制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−75580(P2008−75580A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−256525(P2006−256525)
【出願日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】