説明

低走行音車両の走行警報装置

【課題】
電気自動車,ハイブリッド自動車等の走行音が低い車両に装備されて歩行者に車両が接近していることを警報する装置について、低走行音車両の低騒音性を損なうことなく低走行音車両の周囲の広範囲の歩行者に確実に注意を喚起できるようにする。
【解決手段】
車両Cの周囲の歩行者を検知する歩行者検知センサ1と、検知された歩行者に指向して警報を発信するスピーカ装置2,ライト装置3からなる警報器とを備えている。歩行者検知センサ1,スピーカ装置2,ライト装置3は、ユニット化されて車両のドアミラーに組込まれている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車,ハイブリッド自動車等の走行音が低い車両に装備されて歩行者に車両が接近していることを警報する装置に係る技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
最近、環境対策の要請等から、電気自動車,ハイブリッド自動車の普及が推進されている。これ等の電気自動車,ハイブリッド自動車は、エンジン音がないかまたは低いことから、風切音が低くなる低速では歩行者が車両の接近に気付かない程に走行音が低くなるという低騒音性を有している。
【0003】
このため、電気自動車,ハイブリッド自動車等の低走行音車両と歩行者との接触事故の多発が予想されている。そこで、低走行音車両に擬似的な走行音を発生させることが試みられるようになってきているが、常態的に擬似的な走行音を発生させることが低騒音性を消失させてしまうことになってしまい別の意味で環境対策の要請に反することにもなることから、必要時にのみ歩行者に警報することのできる技術の開発が要望されている。
【0004】
従来、必要時にのみ歩行者に警報することができるようにした技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが知られている。
【0005】
特許文献1には、車両の前方の歩行者を検知する歩行者検知センサと、歩行者検知センサが歩行者を検知した際に車両の前方に向けて擬似的な走行音を発生させるスピーカとを車両の前部に装備した低走行音車両の走行警報装置が記載されている。
【0006】
特許文献1に係る低走行音車両の走行警報装置は、具体的構成の開示がないものの、常態的ではなく必要時にのみ擬似的な走行音を発生させるという基本的な考えが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−2424号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に係る低走行音車両の走行警報装置では、歩行者に注意を喚起する程度に擬似的な走行音を発生させるとかなりの音量が周囲に拡散してしまうため、低走行音車両の低騒音性が損なわれてしまうという問題点がある。また、歩行者検知センサ,スピーカが車両の前部に装備されるため、歩行者の検知範囲やスピーカの擬似的な走行音の到達範囲が車体等に制約されて限定されてしまうという問題点がある。
【0009】
本発明は、このような問題点を考慮してなされたもので、低走行音車両の低騒音性を損なうことなく低走行音車両の周囲の広範囲の歩行者に確実に注意を喚起することのできる低走行音車両の走行警報装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前述の課題を解決するため、本発明に係る低走行音車両の走行警報装置は、特許請求の範囲の各請求項に記載の手段を採用する。
【0011】
即ち、請求項1では、車両の周囲の歩行者を検知する歩行者検知センサと、検知された歩行者に指向して警報を発信する警報器とが車両のドアミラーに組込まれていることを特徴とする。
【0012】
この手段では、警報器が歩行者に対して指向性をもつことで、警報が周囲に拡散することがなくなる。また、歩行者検知センサ,警報器が車体からサイド方向へ突出したドアミラーに組込まれることで、歩行者の検知範囲や警報器の警報の到達範囲が車体等に制約されて限定されることがなくなる。
【0013】
また、請求項2では、請求項1の低走行音車両の走行警報装置において、歩行者検知センサは両サイドのドアミラーにそれぞれ設置され、両歩行者検知センサには両サイドからの検知信号で歩行者の位置を演算して警報器に歩行者への指向を指示するコントローラが接続されていることを特徴とする。
【0014】
この手段では、歩行者検知センサが両サイドのドアミラーにそれぞれ設置された2基で構成され、コントローラが2基の歩行者検知センサの検知信号から三角測量の原理で歩行者の位置を演算することで、歩行者の位置が正確に確定される。
【0015】
また、請求項3では、請求項2の低走行音車両の走行警報装置において、歩行者検知センサは同時に複数の歩行者を検知可能であり、コントローラは検知された複数の歩行者に対して車両に近い位置にある者から順位付の処理を行い順位に従って警報器に歩行者への指向を指示することを特徴とする。
【0016】
この手段では、歩行者検知センサが検知した複数の歩行者に対して、コントローラが車両に近い位置にある者から警報するように指示することで、車両に接触するおそれの高い者から警報される。
【0017】
また、請求項4では、請求項1〜3のいずれかの低走行音車両の走行警報装置において、警報器は疑似的な走行音を発音するスピーカとスピーカを検知された歩行者に指向させるアクチュエータとからなるスピーカ装置であることを特徴とする。
【0018】
この手段では、警報器がスピーカ,アクチュエータからなるスピーカ装置で構成され、疑似的な走行音からなる警報がなされる。
【0019】
また、請求項5では、請求項1〜4のいずれかの低走行音車両の走行警報装置において、警報器は歩行者の少し手前の路面を照射するライトとライトを検知された歩行者に指向させるアクチュエータとからなるライト装置であることを特徴とする。
【0020】
この手段では、警報器がライト,アクチュエータからなるライト装置で構成され、歩行者の少し手前の路面への照射からなる警報がなされる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る低走行音車両の走行警報装置は、警報器が歩行者に対して指向性をもつことで、警報が周囲に拡散することがなくなるため、低走行音車両の低騒音性が損なわれなくなる効果がある。また、歩行者検知センサ,警報器が車体からサイド方向へ突出したドアミラーに組込まれることで、歩行者の検知範囲や警報器の警報の到達範囲が車体等に制約されて限定されることがなくなるため、低走行音車両の周囲の広範囲の歩行者に確実に注意を喚起することができる効果がある。
【0022】
さらに、請求項2として、歩行者検知センサが両サイドのドアミラーにそれぞれ設置された2基で構成され、コントローラが2基の歩行者検知センサの検知信号から三角測量の原理で歩行者の位置を演算することで、歩行者の位置が正確に確定されるため、警報器の歩行者に対する指向性に精度が確保される効果がある。
【0023】
さらに、請求項3として、歩行者検知センサが検知した複数の歩行者に対して、コントローラが車両に近い位置にある者から警報するように指示することで、車両に接触するおそれの高い者から警報されるため、低走行音車両と歩行者との接触事故が確実に防止される効果がある。
【0024】
さらに、請求項4として、警報器がスピーカ,アクチュエータからなるスピーカ装置で構成され、疑似的な走行音からなる警報がなされるため、聴覚的な警報で低走行音車両と歩行者との接触事故が確実に防止される効果がある。
【0025】
さらに、請求項5として、警報器がライト,アクチュエータからなるライト装置で構成され、歩行者の少し手前の路面への照射からなる警報がなされるため、視覚的な警報で低走行音車両と歩行者との接触事故が確実に防止される効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に係る低走行音車両の走行警報装置を実施するための形態の正面図(一部拡大を含む)である。
【図2】図1の平面図である。
【図3】図2の制御ブロック図である。
【図4】図2における歩行者の検知例を示す図である。
【図5】図2における歩行者への警報例を示す図である。
【図6】図2における他の歩行者への警報例を示す図である。
【図7】図3〜図4の制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る低走行音車両の走行警報装置を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0028】
この形態では、普通乗用自動車からなる車両Cに適用されるものを示してある。
【0029】
この形態は、図1,図2に示すように、車両Cの前部ドアにサイド方向へ突出するように設けられた両ドアミラーDのフロント側に歩行者検知センサ1,警報器(スピーカ装置2,ライト装置3)がユニット化されてそれぞれ組込まれ、2基ずつからなる歩行者検知センサ1,警報器(スピーカ装置2,ライト装置3)にコントローラ4が接続されている。
【0030】
歩行者検知センサ1は、音波,光波,電磁波等を発信して反射波を受信することで前進走行する車両Cの前方を歩行する複数の歩行者M1,M2を検知することができるものからなる。
【0031】
スピーカ2は、擬似的な走行音を発音するスピーカ21と、スピーカ21の向きを三次元で可変するアクチュエータ22とからなる。スピーカ21については、音が周囲に拡散しない指向性の高いものが選択され、人間の耳の平均的な高さ(0.8〜1.5m)に向けられるように設定される。アクチュエータ22については、小型モータとギア構造とが組合わされて構成される。
【0032】
ライト装置3は、光を照射するライト31と、ライト31の向きを三次元で可変するアクチュエータ32とからなる。ライト31については、光が周囲に拡散しない指向性の高いもの(例えば、LED)が選択され、歩行者M1,M2の歩行の少し手前(1m程度)の路面Rを照射するように設定される。アクチュエータ32については、小型モータとギア構造とが組合わされて構成される。
【0033】
コントローラ4は、図3に示すように、マイクロプロセッサ等からなる中央処理部41にスピーカ装置2のアクチュエータ22の駆動を制御するアクチュエータドライバ52とライト装置3のアクチュエータ32の駆動を制御するアクチュエータドライバ53とが接続されている。中央処理部41は、図4に示すように、両歩行者検知センサ1の検知信号を受信し、受信の角度a,b,c,dから三角測量の原理で歩行者M1,M2の位置(X軸,Y軸の座標)を演算し、複数の歩行者M1,M2を車両Cに近い位置にある者から順位付の処理を行う。そして、中央処理部41は、図5に示すように、車両Cに最も近い位置にある(第1位)歩行者M1に対して、スピーカ装置2のアクチュエータ22とライト装置3のアクチュエータ32とを駆動して、スピーカ装置2のスピーカ21の向きとライト装置3のライト31の向きとを三次元で可変して指向させ、擬似的な走行音を発音し光を照射するように指示する。次ぎに、中央処理部41は、図6に示すように、車両Cに次ぎに近い位置にある(第2位)歩行者M2に対して、スピーカ装置2のアクチュエータ22とライト装置3のアクチュエータ32とを駆動して、スピーカ装置2のスピーカ21の向きとライト装置3のライト31の向きとを三次元で可変して指向させ、擬似的な走行音を発音し光を照射するように指示する。この歩行者M1,M2に対する警報は、数回繰返される。なお、中央処理部41には、スピーカ装置2のスピーカ21が発音する擬似的な走行音が記憶されるとともに、歩行者M1,M2の位置(距離)に対応して音量を増幅調整する音量調整機能が備えられている。また、中央処理部41には、歩行者M1,M2の位置(距離)に対応してライト装置3のライト31の光量を調整する光量調整機能が備えられるとともに、ライト31を点滅させる機能が備えられている。
【0034】
この形態によると、走行中に歩行者M1.M2を検知すると、コントローラ4の指示によって歩行者M1.M2に対して指向性のある音,光によって警報が行われる。従って、車両Cと歩行者M1,M2との接触事故が確実に防止される。しかも、音,光の警報が無用に周囲に拡散することがないため、低走行音車両の低騒音性が損なわれることがない。なお、光の警報については、聴覚について障害のある人に有効であるとともに、照射が歩行中の目線先に相当する1m程度の手前とされて視認しやすく設定されている。
【0035】
また、歩行者検知センサ1,スピーカ装置2,ライト装置3が車体からサイド方向へ突出した両サイドのドアミラーDに組込まれることで、歩行者M1,M2の検知範囲やスピーカ装置2,ライト装置3の警報の到達範囲が車体等に制約されて限定されることがなくなるため、低走行音車両の周囲の広範囲の歩行者M1,M2に確実に注意を喚起することができる。
【0036】
さらに、この形態によると、ドアミラーDに歩行者検知センサ1,スピーカ装置2,ライト装置3がユニット化されて組込まれるため、車両Cへの装備が容易である。また、既存の車両Cについて、簡単に改造実施することもできる。
【0037】
なお、歩行者検知センサ1,スピーカ装置2,ライト装置3のドアミラーDへの組込み箇所を変更すれば、車両Cが後進走行する際の後方を歩行する歩行者M1,M2を検知することもできる。また、車両Cの前進走行,後進走行の双方において、前方,後方の双方を歩行する歩行者M1,M2を検知するようにすることもできる。
【0038】
以上、図示した形態の外に、スピーカ装置2,ライト装置3を片側のドアミラーDにのみ組込むようにすることも可能である。
【0039】
さらに、歩行者M1,M2が3名以上であっても当然に対応が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明に係る低走行音車両の走行警報装置は、普通乗用自動車以外の各種の車両に適用することが可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 歩行者検知センサ
2 スピーカ装置(警報器)
21 スピーカ
22 アクチュエータ
3 ライト装置(警報器)
31 ライト
32 アクチュエータ
4 コントローラ
C 車両
D ドアミラー
M1,M2 歩行者
R 路面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周囲の歩行者を検知する歩行者検知センサと、検知された歩行者に指向して警報を発信する警報器とを車両のドアミラーに組込んだことを特徴とする低走行音車両の走行警報装置。
【請求項2】
請求項1の低走行音車両の走行警報装置において、歩行者検知センサは両サイドのドアミラーにそれぞれ設置され、両歩行者検知センサには両サイドからの検知信号で歩行者の位置を演算して警報器に歩行者への指向を指示するコントローラが接続されていることを特徴とする低走行音車両の走行警報装置。
【請求項3】
請求項2の低走行音車両の走行警報装置において、歩行者検知センサは同時に複数の歩行者を検知可能であり、コントローラは検知された複数の歩行者に対して車両に近い位置にある者から順位付の処理を行い順位に従って警報器に歩行者への指向を指示することを特徴とする低走行音車両の走行警報装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかの低走行音車両の走行警報装置において、警報器は疑似的な走行音を発音するスピーカとスピーカを検知された歩行者に指向させるアクチュエータとからなるスピーカ装置であることを特徴とする低走行音車両の走行警報装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの低走行音車両の走行警報装置において、警報器は歩行者の少し手前の路面を照射するライトとライトを検知された歩行者に指向させるアクチュエータとからなるライト装置であることを特徴とする低走行音車両の走行警報装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−218826(P2011−218826A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86362(P2010−86362)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(509203854)
【Fターム(参考)】