説明

低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システム

【課題】ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングが小さい低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムを提供することを課題とする。
【解決手段】低酸素雰囲気用温度制御方法は、低酸素雰囲気において可燃性の揮発性ガスを放出する被処理物Wを焼成する際に、バーナー用の燃料ガスの流量の調整に加えて、焼成温度の上がりすぎを抑制する場合はバーナー用の酸素含有ガスの流量を小さくし、焼成温度の下がりすぎを抑制する場合はバーナー用の酸素含有ガスの流量を大きくすることを特徴とする。燃料ガス流量のみならず酸素含有ガス流量までも調整することにより、焼成温度のハンチングを小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば炭素材などの焼成に用いられる低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材は、例えば、まず炭素質原料にバインダーを配合して成形し、次に成形物を低酸素雰囲気において焼成しバインダーの揮発分を燃焼させ成形物を焼結固化させることにより製造される(例えば特許文献1〜3)。
【特許文献1】特開2001−354478号公報
【特許文献2】特開2006−329449号公報
【特許文献3】特開平7−118072号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
低酸素雰囲気における焼成は、熱処理炉で成形物を所定のヒートパターンに沿って加熱、冷却することにより行われる。また、焼成温度の調整は、バーナーにより行われる。具体的には、バーナーには、エアと、燃料ガスと、が供給されている。このうち、エアの流量を所定値に固定して、燃料ガスの流量を変更することにより、バーナーの熱量を変化させている。すなわち、焼成温度を調整している。
【0004】
焼成の過程で、バインダーは、可燃性の揮発性ガスとなって成形物から放出される。可燃性の揮発性ガスは、バーナーにより燃焼する。このため、揮発性ガスの燃焼により、設定されたヒートパターンに対して、炉内の温度の実測値が急激に上昇する場合がある。一方、急激に上昇した炉内の温度を下降させる際に、ヒートパターンに対して、過剰に炉内の温度が下がりすぎる場合がある。このように、従来は、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングが大きかった。
【0005】
本発明の低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングが小さい低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記課題を解決するため、本発明の低酸素雰囲気用温度制御方法(以下、適宜「温度制御方法」と略称する。)は、低酸素雰囲気において可燃性の揮発性ガスを放出する被処理物を焼成する際に、バーナー用の燃料ガスの流量の調整に加えて、焼成温度の上がりすぎを抑制する場合は該バーナー用の酸素含有ガスの流量を小さくし、該焼成温度の下がりすぎを抑制する場合は該バーナー用の該酸素含有ガスの流量を大きくすることを特徴とする(請求項1に対応)。
【0007】
つまり、本発明の温度制御方法は、燃料ガスの流量を調整するのみならず、酸素含有ガスの流量を調整することにより、焼成温度を制御するものである。本発明の温度制御方法によると、迅速に焼成温度を変化させることができる。このため、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0008】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記燃料ガスの流量が通常流量範囲内の場合、前記酸素含有ガスの流量を通常設定値に固定する通常モードと、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲未満の場合、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値未満の下方設定値に設定する温度上昇抑制モードと、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲を超える場合、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値を超える上方設定値に設定する温度下降抑制モードと、に切り替え可能な構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0009】
本構成の場合、通常モードにおいては、酸素含有ガスの流量を通常設定値に固定して、燃料ガスの流量により、焼成温度を制御する。また、温度上昇抑制モードにおいては、燃料ガスの流量を通常流量範囲未満にして、かつ酸素含有ガスの流量を通常設定値未満の下方設定値に設定することにより、焼成温度の上昇を抑制する。また、温度下降抑制モードにおいては、燃料ガスの流量を通常流量範囲を超えるようにして、かつ酸素含有ガスの流量を通常設定値を超える上方設定値に設定することにより、焼成温度の下降を抑制する。本構成によると、酸素含有ガスの流量を、通常設定値(通常モード)と、下方設定値(温度上昇抑制モード)と、上方設定値(温度下降抑制モード)とに、適宜切り替えることにより、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0010】
(3)好ましくは、上記(2)の構成において、前記温度上昇抑制モードにおいて、前記通常流量範囲未満だった前記燃料ガスの流量が該通常流量範囲内の下限オフセット解除設定値を超えるまで復帰した場合に、前記酸素含有ガスの流量を前記下方設定値から前記通常設定値に変更し、該温度上昇抑制モードから前記通常モードに切り替える構成とする方がよい(請求項3に対応)。
【0011】
本構成の場合、通常流量範囲未満だった燃料ガスの流量が、通常流量範囲内に入っただけでは、温度上昇抑制モードから通常モードに切り替わらない。燃料ガスの流量が、下限オフセット解除設定値を超えて、はじめて通常モードに切り替わる。本構成によると、燃料ガスの流量が一瞬だけ通常流量範囲内に入り再び出てしまう場合であっても、酸素含有ガスの流量が下方設定値から通常設定値に変更されない。すなわち、酸素含有ガスの流量が、燃料ガスの流量変化に対して、過剰に反応しない。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0012】
(4)好ましくは、上記(2)または(3)の構成において、前記温度下降抑制モードにおいて、前記通常流量範囲を超えていた前記燃料ガスの流量が該通常流量範囲内の上限オフセット解除設定値未満になるまで復帰した場合に、前記酸素含有ガスの流量を前記上方設定値から前記通常設定値に変更し、該温度下降抑制モードから前記通常モードに切り替える構成とする方がよい(請求項4に対応)。
【0013】
本構成の場合、通常流量範囲を超えていた燃料ガスの流量が、通常流量範囲内に入っただけでは、温度下降抑制モードから通常モードに切り替わらない。燃料ガスの流量が、上限オフセット解除設定値未満になって、はじめて通常モードに切り替わる。本構成によると、燃料ガスの流量が一瞬だけ通常流量範囲内に入り再び出てしまう場合であっても、酸素含有ガスの流量が上方設定値から通常設定値に変更されない。すなわち、酸素含有ガスの流量が、燃料ガスの流量変化に対して、過剰に反応しない。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0014】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記燃料ガスの流量は、前記被処理物の前記焼成温度の実測値と目標値との差から演算される温度制御出力値を基に設定される構成とする方がよい(請求項5に対応)。本構成によると、焼成温度の実測値と目標値との差に基づいて、燃料ガスの流量を設定することができる。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0015】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記低酸素雰囲気の酸素濃度は0.1%以上10%以下である構成とする方がよい(請求項6に対応)。ここで、酸素濃度を0.1%以上に設定したのは、0.1%未満の場合、可燃性の揮発性ガスが燃焼しないおそれがあるからである。並びに、酸素濃度を10%以下に設定したのは、10%を超える場合、被処理物が酸化するおそれがあるからである。より好ましくは、低酸素雰囲気の酸素濃度を0.5%以上10%以下とする方がよい。こうすると、可燃性の揮発性ガスを、より確実に燃焼させることができる。
【0016】
(7)また、上記課題を解決するため、本発明の低酸素雰囲気用温度制御システム(以下、適宜「温度制御システム」と略称する。)は、低酸素雰囲気において可燃性の揮発性ガスを放出する被処理物を焼成する熱処理室と、酸素含有ガスと燃料ガスとを混合して燃焼させることにより該熱処理室を加熱するバーナーと、該熱処理室の温度を検出する温度センサーと、を有する熱処理炉と、該熱処理室のヒートパターンを設定すると共に、該温度センサーから入力される実測値と、該ヒートパターンと、を比較して、温度制御出力値を設定するプログラム温度調節計と、該ヒートパターンに応じた該酸素含有ガスの流量制御バルブの開度パターンを設定するプログラム開度設定器と、該プログラム温度調節計から入力される該温度制御出力値を基に該燃料ガスの流量制御バルブの開度出力値を演算すると共に、該温度制御出力値と該プログラム開度設定器から入力される該開度パターンとを基に該酸素含有ガスの該流量制御バルブの開度出力値を演算するPLCと、を備え、該温度制御出力値が通常出力範囲内の場合、該燃料ガスの流量が通常流量範囲内になるように該燃料ガスの流量制御バルブの開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量が通常設定値に固定されるように該酸素含有ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定する通常モードと、該温度制御出力値が該通常出力範囲未満になる場合、該熱処理室の温度の上昇を抑制するために、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲未満になるように該燃料ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値未満の下方設定値に設定する温度上昇抑制モードと、該温度制御出力値が該通常出力範囲を超える場合、該熱処理室の温度の下降を抑制するために、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲を超えるように該燃料ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値を超える上方設定値に設定する温度下降抑制モードと、に切り替え可能なことを特徴とする(請求項7に対応)。
【0017】
本発明の温度制御システムの場合、通常モードにおいては、酸素含有ガスの流量を通常設定値に固定して、燃料ガスの流量により、熱処理室の温度を制御する。また、温度上昇抑制モードにおいては、燃料ガスの流量を通常流量範囲未満にして、かつ酸素含有ガスの流量を通常設定値未満の下方設定値に設定することにより、熱処理室の温度の上昇を抑制する。また、温度下降抑制モードにおいては、燃料ガスの流量を通常流量範囲を超えるようにして、かつ酸素含有ガスの流量を通常設定値を超える上方設定値に設定することにより、熱処理室の温度の下降を抑制する。本発明の温度制御システムによると、酸素含有ガスの流量を、通常設定値(通常モード)と、下方設定値(温度上昇抑制モード)と、上方設定値(温度下降抑制モード)とに、適宜切り替えることにより、ヒートパターンに対する熱処理室の実際の温度のハンチングを小さくすることができる。
【0018】
また、本発明の温度制御システムによると、温度制御出力値は、温度センサーから入力される実測値と、予め設定されたヒートパターンと、の差に基づいて設定される。また、燃料ガスの流量制御バルブの開度出力値、つまり燃料ガスの流量は、この温度制御出力値を基に設定される。また、酸素含有ガスの流量制御バルブの開度出力値、つまり酸素含有ガスの流量は、温度制御出力値と、ヒートパターンに応じて予め決定されている開度パターンと、を基に設定される。
【0019】
このように、燃料ガスおよび酸素含有ガスの流量は、温度センサーから入力される実測値と予め設定されたヒートパターンとの差に基づいて、設定される。この点においても、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によると、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングが小さい低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムの実施の形態について説明する。
【0022】
[低酸素雰囲気用温度制御システムの構成]
まず、本実施形態の温度制御システムの構成について説明する。図1に、本実施形態の低酸素雰囲気用温度制御システムのブロック図を示す。図2に、同温度制御システムの熱処理炉の斜視透過図を示す。図3に、同熱処理炉の上方断面図を示す。図4に、同熱処理炉の側方断面図を示す。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の温度制御システム1は、熱処理炉2と、プログラム温度調節計3と、プログラム開度設定器5と、PLC6と、サーボコントローラー70a、70bと、燃料ガスコントロールモーター71aと、エアコントロールモーター71bと、を備えている。
【0024】
図2〜図4に示すように、熱処理炉2は、ハウジング20と、熱処理室21と、バーナー22と、熱電対23と、テーブル24と、を備えている。このうち、熱電対23は本発明の温度センサーに含まれる。
【0025】
ハウジング20は、直方体箱状を呈している。ハウジング20は、鋼製の外殻と、耐火物製の壁部と、からなる二層構造を呈している。熱処理室21は、ハウジング20の内部に区画されている。
【0026】
バーナー22は、ハウジング20の側壁を貫通して配置されている。バーナー22は、所定間隔ごとに離間して、合計四つ配置されている。各々のバーナー22には、燃料ガスとエアとが供給されている。このうち、エアは、本発明の酸素含有ガスに含まれる。バーナー22は、燃料ガスとエアとの混合ガスを燃焼させることにより、熱処理室21を加熱可能である。
【0027】
熱電対23は、ハウジング20の上壁を貫通して配置されている。熱電対23は、所定間隔ごとに離間して、合計三つ配置されている。熱電対23により、熱処理室21の温度を測定することができる。
【0028】
テーブル24は、耐火物製であって矩形板状を呈している。テーブル24は、ハウジング20の内部に、ちょうど間仕切りのように、配置されている。テーブル24の上面には、多数の被処理物Wが載置されている。被処理物Wは、まず炭素粉末にタールピッチを含浸させ、次にCIP(Cold Isostatic Press)成形などを用いて成形することで、作製される。被処理物Wは、アーク炉などに用いられる炭素電極の前駆体である。
【0029】
ハウジング20には、循環用ガスを供給するための循環用ガス供給筒90と、エジェクタに連結されたエジェクタ連結筒91と、排気ラインおよび循環ラインに連結された排気・循環筒92と、がそれぞれ接続されている。
【0030】
循環用ガス供給筒90からは、循環ラインから熱処理室21に、循環用のガスが供給される。排気・循環筒92からは、熱処理室21のテーブル24下方の排気が排出される。排気は、循環ラインおよび排気ラインに分岐して排出される。
【0031】
エジェクタ連結筒91は、合計六本配置されている。エジェクタ連結筒91の中には、蓄熱体が充填されている。六本のエジェクタ連結筒91は、三本ずつ、排気用、吸気用として、交互に切り替えられながら使用されている。任意のエジェクタ連結筒91が排気用として用いられている場合は、熱処理室21からの排気により、蓄熱体が加熱される。その後、同じエジェクタ連結筒91が吸気用に切り替えられる場合は、低温の吸気が高温の蓄熱体により、加熱される。このように、エジェクタ連結筒91を排気用および吸気用として切り替えながら使用することで、蓄熱体の吸熱および放熱により、熱処理室21の温度低下を抑制している。
【0032】
図1に戻って、PLC6は、プログラム温度調節計3と、プログラム開度設定器5と、サーボコントローラー70a、70bと、に電気的に接続されている。
【0033】
プログラム温度調節計3は、PLC6の他、熱電対23にも電気的に接続されている。サーボコントローラー70aは、PLC6の他、燃料ガスコントロールモーター71aにも接続されている。燃料ガスコントロールモーター71aは、バーナー22用の燃料ガスの流量制御バルブ(図略)を開閉可能である。サーボコントローラー70bは、PLC6の他、エアコントロールモーター71bにも接続されている。エアコントロールモーター71bは、バーナー22用のエアの流量制御バルブ(図略)を開閉可能である。
【0034】
[低酸素雰囲気用温度制御方法]
次に、本実施形態の低酸素雰囲気用温度制御方法について説明する。まず、本実施形態の温度制御方法の概要について説明する。図1に示すように、熱処理炉2の熱処理室21の温度の実測値は、熱電対23からプログラム温度調節計3に入力される。プログラム温度調節計3においては、熱処理室21のヒートパターンすなわち温度の目標値が設定される。プログラム温度調節計3は、実測値と目標値とを比較し、温度制御出力値を設定する。温度制御出力値は、プログラム温度調節計3からPLC6に入力される。並びに、PLC6には、プログラム開度設定器5から、ヒートパターンに応じたエアの流量制御バルブの開度パターンが入力される。
【0035】
PLC6は、入力された温度制御出力値を基に、燃料ガスの制御バルブの開度出力値を演算する。開度出力値は、PLC6からサーボコントローラー70aに出力される。サーボコントローラー70aは、開度出力値を基に、燃料ガスコントロールモーター71aを駆動する。燃料ガスコントロールモーター71aにより、燃料ガス用の流量制御バルブが開閉される。燃料ガス用の流量制御バルブは、無段階に開閉制御される。
【0036】
また、PLC6は、温度制御出力値と開度パターンとを基に、エアの制御バルブの開度出力値を演算する。開度出力値は、PLC6からサーボコントローラー70bに出力される。サーボコントローラー70bは、開度出力値を基に、エアコントロールモーター71bを駆動する。エアコントロールモーター71bにより、エア用の流量制御バルブが開閉される。エア用の流量制御バルブは、三段階に開閉制御される。すなわち、エアの流量が、通常設定値と、下方設定値と、上方設定値と、の三段階に切り替わるように、エア用の流量制御バルブは制御される。
【0037】
例えば、ヒートパターン(目標値)に対して熱処理室21の温度の実測値の方が高温の場合、熱処理室21の温度を下げる必要がある。このため、プログラム温度調節計3の設定する温度制御出力値は、低い値になる。したがって、PLC6の設定する燃料ガスの制御バルブの開度出力値も、低い値となる。よって、燃料ガス用の流量制御バルブは閉方向に駆動され、燃料ガスの出力(つまり燃料ガスの流量。以下同じ。)は小さくなる。
【0038】
並びに、温度制御出力値つまり燃料ガスの出力が所定の出力値よりも低い場合は、PLC6の設定するエアの制御バルブの開度出力値も、低い値となる。よって、エア用の流量制御バルブは閉方向に駆動され、エアの出力(つまり燃料ガスの流量。以下同じ。)は、下方設定値に切り替わる。このように、熱処理室21の温度を下げる場合は、燃料ガスの出力およびエアの出力共に小さくなる(後述する温度上昇抑制モード)。
【0039】
一方、ヒートパターン(目標値)に対して熱処理室21の温度の実測値の方が低温の場合、熱処理室21の温度を上げる必要がある。このため、プログラム温度調節計3の設定する温度制御出力値は、高い値になる。したがって、PLC6の設定する燃料ガスの制御バルブの開度出力値も、高い値となる。よって、燃料ガス用の流量制御バルブは開方向に駆動され、燃料ガスの出力は大きくなる。並びに、温度制御出力値つまり燃料ガスの出力が所定の出力値よりも高い場合は、PLC6の設定するエアの制御バルブの開度出力値も、高い値となる。よって、エア用の流量制御バルブは開方向に駆動され、エアの出力は、上方設定値に切り替わる。このように、熱処理室21の温度を上げる場合は、燃料ガスの出力およびエアの出力共に大きくなる(後述する温度下降抑制モード)。
【0040】
次に、本実施形態の温度制御方法のフローチャートについて説明する。本実施形態の温度制御方法は、通常モードと温度上昇抑制モードと温度下降抑制モードとに切り替え可能である。
【0041】
通常モードは、熱処理室21の温度の実測値がヒートパターン(目標値)に対して所定範囲内にある場合に実行される。温度上昇抑制モードは、熱処理室21の温度の実測値がヒートパターン(目標値)に対して過度に高い場合に実行される。温度下降抑制モードは、熱処理室21の温度の実測値がヒートパターン(目標値)に対して過度に低い場合に実行される。
【0042】
図5に、本実施形態の低酸素雰囲気用温度制御方法のフローチャートを示す。所定のヒートパターン開始後(S1)、オフセット下限を使用する場合(S2)は、燃料ガス出力が下限制御出力値(30%)未満か否かが判断される(S3)。なお、燃料ガス出力は、燃料ガス用の流量制御バルブの開度により決定される。バルブ全閉が0%でありバルブ全開が100%である。
【0043】
燃料ガス出力<下限制御出力値(30%)の場合は、PLC6により燃料ガスの出力が30%未満にまで制限されていることになる。すなわち、熱処理室21の温度の実測値がヒートパターン(目標値)よりもかなり高いことになる。このため、熱処理室21の温度を下げるべく、エアの出力を通常設定値(50%)から下方設定値(47%)に切り替える(S4)。すなわち、通常モードから温度上昇抑制モードに切り替える。なお、エア出力は、エア用の流量制御バルブの開度により決定される。バルブ全閉が0%でありバルブ全開が100%である。
【0044】
エアの出力を47%に絞ると、燃料ガスの出力が30%未満であることとも相俟って、熱処理室21の温度が下がる。熱処理室21の温度が下がると、過剰な温度低下を抑制するために、PLC6が燃料ガスの出力を上昇させる。燃料ガス出力>下限オフセット解除出力値(40%)の場合(S5)、PLC6はエア出力を下方設定値(47%)から通常設定値(50%)に復帰させる(S6)。すなわち、温度上昇抑制モードから通常モードに切り替える。
【0045】
オフセット下限を使用しない場合(S2)、燃料ガス出力≧下限制御出力値(30%)の場合(S3)、燃料ガス出力≦下限オフセット解除出力値(40%)の場合(S5)、エア出力を下方設定値(47%)から通常設定値(50%)に復帰させた場合(S6)は、直ちにオフセット上限使用の有無が判断される(S7)。
【0046】
オフセット上限を使用する場合(S7)は、燃料ガス出力が上限制御出力値(80%)を超えるか否かが判断される(S8)。燃料ガス出力>上限制御出力値(80%)の場合は、PLC6により燃料ガスの出力が80%を超えるまで開放されていることになる。すなわち、熱処理室21の温度の実測値がヒートパターン(目標値)よりもかなり低いことになる。このため、熱処理室21の温度を上げるべく、エア出力を通常設定値(50%)から上方設定値(52%)に切り替える(S9)。すなわち、通常モードから温度下降抑制モードに切り替える。
【0047】
エアの出力を52%まで開放すると、燃料ガスの出力が80%を超えることとも相俟って、熱処理室21の温度が上がる。熱処理室21の温度が上がると、過剰な温度上昇を抑制するために、PLC6が燃料ガスの出力を下降させる。燃料ガス出力<上限オフセット解除出力値(70%)の場合(S10)、PLC6はエア出力を上方設定値(52%)から通常設定値(50%)に復帰させる(S11)。すなわち、温度下降抑制モードから通常モードに切り替える。
【0048】
次に、本実施形態の温度制御方法を低酸素雰囲気における熱処理に実際に用いた場合について説明する。図6に、燃料ガス出力値およびエア出力値の時間変化をグラフで示す。図6に示すように、燃料ガス出力値が上限オフセット解除出力値(70%)未満になると(図6の点A、前出図5のS10)、エア出力値は上方設定値(52%)から通常設定値(50%)に切り替わる(前出図5のS11)。すなわち、温度下降抑制モードから通常モードに切り替わる。
【0049】
燃料ガス出力値が徐々に下降し、下限制御出力値(30%)未満になると(図6の点B、前出図5のS3)、エア出力値は通常設定値(50%)から下方設定値(47%)に切り替わる(前出図5のS4)。すなわち、通常モードから温度上昇抑制モードに切り替わる。
【0050】
燃料ガス出力値の下降が上昇に転じ、下限オフセット解除出力値(40%)を超えると(図6の点C、前出図5のS5)、エア出力値は下方設定値(47%)から通常設定値(50%)に切り替わる(前出図5のS6)。すなわち、温度上昇抑制モードから通常モードに切り替わる。
【0051】
燃料ガス出力値の上昇が下降に転じ、下限制御出力値(30%)未満になると、(図6の点D、前出図5のS3)、エア出力値は通常設定値(50%)から下方設定値(47%)に切り替わる(前出図5のS4)。すなわち、再び、通常モードから温度上昇抑制モードに切り替わる。
【0052】
燃料ガス出力値の下降が上昇に転じ、下限オフセット解除出力値(40%)を超えると(図6の点E、前出図5のS5)、エア出力値は下方設定値(47%)から通常設定値(50%)に切り替わる(前出図5のS6)。すなわち、温度上昇抑制モードから通常モードに切り替わる。
【0053】
燃料ガス出力値が徐々に上昇し、上限制御出力値(80%)を超えると(図6の点F、前出図5のS8)、エア出力値は通常設定値(50%)から上方設定値(52%)に切り替わる(前出図5のS9)。すなわち、通常モードから温度下降抑制モードに切り替わる。低酸素雰囲気での熱処理においては、このようにして温度制御が行われる。
【0054】
[作用効果]
次に、本実施形態の低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムの作用効果について説明する。本実施形態の温度制御方法によると、燃料ガスの出力を調整するのみならず、エアの出力を調整することにより、被処理物Wの焼成温度を制御している。このため、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0055】
また、本実施形態の温度制御方法によると、エア出力を、通常設定値(通常モード)と、下方設定値(温度上昇抑制モード)と、上方設定値(温度下降抑制モード)とに、適宜切り替えることにより、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0056】
また、本実施形態の温度制御方法によると、前出図6に示すように、通常流量範囲(30%以上80%以下)未満だった燃料ガス出力が、通常流量範囲内に入っただけでは(30%以上になっただけでは)、温度上昇抑制モードから通常モードに切り替わらない(図6の点G)。燃料ガス出力が、下限オフセット解除設定値を超えて、はじめて通常モードに切り替わる(図6の点C)。このため、燃料ガス出力が一瞬だけ通常流量範囲内に入り再び出てしまう場合であっても、エア出力が下方設定値(47%)から通常設定値(50%)に変更されない。すなわち、エア出力が、燃料ガスの出力変化に対して、過剰に反応しない。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0057】
また、本実施形態の温度制御方法によると、前出図6に示すように、通常流量範囲を超えていた燃料ガス出力が、通常流量範囲内に入っただけでは(80%以下になっただけでは)、温度下降抑制モードから通常モードに切り替わらない(図6の点H)。燃料ガス出力が、上限オフセット解除設定値未満になって、はじめて通常モードに切り替わる(図6の点A)。このため、燃料ガス出力が一瞬だけ通常流量範囲内に入り再び出てしまう場合であっても、エア出力が上方設定値(52%)から通常設定値(50%)に変更されない。すなわち、エア出力が、燃料ガスの流量変化に対して、過剰に反応しない。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。
【0058】
また、本実施形態の温度制御方法によると、燃料ガス出力は、被処理物Wの焼成温度の実測値と目標値との差から演算される温度制御出力値を基に設定されている。すなわち、燃料ガス出力の挙動と温度制御出力値の挙動とは、略一致している。本実施形態の温度制御方法によると、焼成温度の実測値と目標値との差に基づいて、燃料ガス出力を設定することができる。このため、さらに、ヒートパターンに対する実際の焼成温度のハンチングを小さくすることができる。また、本実施形態の温度制御方法によると、熱処理室21の酸素濃度は0.1%以上10%以下に設定されている。このため、被処理物Wが酸化するおそれが小さい。
【0059】
[その他]
以上、本発明の低酸素雰囲気用温度制御方法および低酸素雰囲気用温度制御システムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0060】
例えば、上記実施形態においては、本発明の温度制御方法および温度制御システムを、バッチ式の熱処理炉2に用いたが、流動式の熱処理炉(例えばロータリーキルン、ローラーハースキルンなど)に用いてもよい。
【0061】
また、上記実施形態においては、本発明の温度制御方法および温度制御システムを、炭素電極の焼成用として用いたが、他の炭素質製品(例えば黒鉛耐火物など)の焼成用として用いてもよい。
【0062】
また、被処理物Wの炭素質原料の材質は特に限定しない。炭素質原料として、コークス粉、黒鉛粉、炭素質原料にセラミックス原料(アルミナ、シリカなど)を添加したものなどを用いてもよい。また、被処理物Wのバインダーの材質も特に限定しない。また、被処理物Wの成形方法も特に限定しない。CIP成形の他、HIP(Hot Isostatic Press)成形などを用いてもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、燃料ガスの下限制御出力値を30%、上限制御出力値を80%、下限オフセット解除出力値を40%、上限オフセット解除出力値を70%に、それぞれ設定した。また、エアの通常設定値を50%、下方設定値を47%、上方設定値を52%に、それぞれ設定した。しかしながら、これらの設定値は勿論一例であって特に限定しない。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の一実施形態である低酸素雰囲気用温度制御システムのブロック図である。
【図2】同温度制御システムの熱処理炉の斜視透過図である。
【図3】同熱処理炉の上方断面図である。
【図4】同熱処理炉の側方断面図である。
【図5】本発明の一実施形態である低酸素雰囲気用温度制御方法のフローチャートである。
【図6】燃料ガス出力値およびエア出力値の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
1:温度制御システム。
2:熱処理炉、20:ハウジング、21:熱処理室、22:バーナー、23:熱電対(温度センサー)、24:テーブル。
3:プログラム温度調節計、5:プログラム開度設定器、6:PLC。
70a:サーボコントローラー、70b:サーボコントローラー、71a:燃料ガスコントロールモーター、71b:エアコントロールモーター。
90:循環用ガス供給筒、91:エジェクタ連結筒、92:循環筒。
W:被処理物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低酸素雰囲気において可燃性の揮発性ガスを放出する被処理物を焼成する際に、バーナー用の燃料ガスの流量の調整に加えて、焼成温度の上がりすぎを抑制する場合は該バーナー用の酸素含有ガスの流量を小さくし、該焼成温度の下がりすぎを抑制する場合は該バーナー用の該酸素含有ガスの流量を大きくする低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項2】
前記燃料ガスの流量が通常流量範囲内の場合、前記酸素含有ガスの流量を通常設定値に固定する通常モードと、
該燃料ガスの流量が該通常流量範囲未満の場合、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値未満の下方設定値に設定する温度上昇抑制モードと、
該燃料ガスの流量が該通常流量範囲を超える場合、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値を超える上方設定値に設定する温度下降抑制モードと、
に切り替え可能な請求項1に記載の低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項3】
前記温度上昇抑制モードにおいて、前記通常流量範囲未満だった前記燃料ガスの流量が該通常流量範囲内の下限オフセット解除設定値を超えるまで復帰した場合に、前記酸素含有ガスの流量を前記下方設定値から前記通常設定値に変更し、該温度上昇抑制モードから前記通常モードに切り替える請求項2に記載の低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項4】
前記温度下降抑制モードにおいて、前記通常流量範囲を超えていた前記燃料ガスの流量が該通常流量範囲内の上限オフセット解除設定値未満になるまで復帰した場合に、前記酸素含有ガスの流量を前記上方設定値から前記通常設定値に変更し、該温度下降抑制モードから前記通常モードに切り替える請求項2または請求項3に記載の低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項5】
前記燃料ガスの流量は、前記被処理物の前記焼成温度の実測値と目標値との差から演算される温度制御出力値を基に設定される請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項6】
前記低酸素雰囲気の酸素濃度は0.1%以上10%以下である請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の低酸素雰囲気用温度制御方法。
【請求項7】
低酸素雰囲気において可燃性の揮発性ガスを放出する被処理物を焼成する熱処理室と、酸素含有ガスと燃料ガスとを混合して燃焼させることにより該熱処理室を加熱するバーナーと、該熱処理室の温度を検出する温度センサーと、を有する熱処理炉と、
該熱処理室のヒートパターンを設定すると共に、該温度センサーから入力される実測値と、該ヒートパターンと、を比較して、温度制御出力値を設定するプログラム温度調節計と、
該ヒートパターンに応じた該酸素含有ガスの流量制御バルブの開度パターンを設定するプログラム開度設定器と、
該プログラム温度調節計から入力される該温度制御出力値を基に該燃料ガスの流量制御バルブの開度出力値を演算すると共に、該温度制御出力値と該プログラム開度設定器から入力される該開度パターンとを基に該酸素含有ガスの該流量制御バルブの開度出力値を演算するPLCと、を備え、
該温度制御出力値が通常出力範囲内の場合、該燃料ガスの流量が通常流量範囲内になるように該燃料ガスの流量制御バルブの開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量が通常設定値に固定されるように該酸素含有ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定する通常モードと、
該温度制御出力値が該通常出力範囲未満になる場合、該熱処理室の温度の上昇を抑制するために、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲未満になるように該燃料ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値未満の下方設定値に設定する温度上昇抑制モードと、
該温度制御出力値が該通常出力範囲を超える場合、該熱処理室の温度の下降を抑制するために、該燃料ガスの流量が該通常流量範囲を超えるように該燃料ガスの該流量制御バルブの該開度出力値を設定し、該酸素含有ガスの流量を該通常設定値を超える上方設定値に設定する温度下降抑制モードと、
に切り替え可能な低酸素雰囲気用温度制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−14229(P2009−14229A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−174926(P2007−174926)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(390008431)高砂工業株式会社 (53)
【Fターム(参考)】