説明

低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板及びその製造方法

高炭素含有珪素鋼スラブを用いて方向性電気鋼板のゴス集合組職を向上させ、極薄圧延性とインヒビターの熱的安全性を向上させることで、極めて優れた磁気的特性を持つ低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板及びその製造方法を提供する。本発明は、方向性電気鋼板に関し、高炭素含有珪素鋼スラブを加熱して熱間圧延した後、熱延板の焼鈍と冷間圧延を実施し、脱炭及び硝化焼鈍を実施した後、2次再結晶焼鈍を実施して方向性電気鋼板を製造する方法であって、熱延板の焼鈍と同時に脱炭を行う、低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電機または変圧器の鉄心などの核心素材として使われる方向性電気鋼板の製造に関し、高炭素含有珪素鋼スラブから製造されてインヒビターの固溶安全性が確保され、熱延板焼鈍と同時に行われる脱炭によってゴス集合組職核生成が増加して、極めて優れた磁気的特性を持つ低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電気鋼板は圧延方向に対して鋼片の集合組職が{110}<001>であるゴス集合組職(Goss texture)を示しているので、一方向あるいは圧延方向に磁気的特性に優れた軟磁性材料である。このようなゴス集合組職を形成するためには、製鋼段階での成分制御、熱間圧延におけるスラブ再加熱及び熱間圧延工程の因子制御、熱延板の焼鈍、1次再結晶焼鈍、2次再結晶焼鈍などの色々の工程が非常に精密で厳格に管理されなければならない。
【0003】
一方、ゴス集合組職を形成する因子の一つであるインヒビター(Inhibitor)、つまり1次再結晶粒の無分別な成長を抑制し、2次再結晶発生の際、ゴス集合組職だけが成長するようにする結晶粒成長抑制剤の制御も非常に重要である。2次再結晶焼鈍の後に優れたゴス集合組職を持つ最終鋼板を得るためには、2次再結晶が起こる直前まですべての1次再結晶粒の成長が抑制されなければならない。このために、十分な抑制力を得るためには、インヒビターの量が充分に多くなければならなく、その分布も均一ではなければならない。また、高温の2次再結晶焼鈍(最終焼鈍)のうち2次再結晶が共に起こるようにするためには、インヒビターが熱的安全性に優れて容易に分解されてはいけない。2次再結晶は、最終焼鈍の際、インヒビターが適正温度区間で分解されるか抑制力を失うことにより発生する現象であり、この場合、ゴス結晶粒のような特定の結晶粒が比較的短時間内に急激に成長することになる。
【0004】
通常、方向性電気鋼板の品質は代表的磁気的特性である磁束密度と鉄損で評価されることができ、ゴス集合組職の精度が高いほど磁気的特性に優れる。また、品質に優れた方向性電気鋼板は、諸特性による高効率の電力器機の製造が可能であり、電力器機の小型化と共に高効率化を提供することができる。
【0005】
方向性電気鋼板の鉄損を低下させるための研究開発は、先に磁束密度を高めるための研究開発からなされている。初期の方向性電気鋼板はM. F. Littmanが提案したMnSを結晶粒成長抑制剤として使い、2回冷間圧延法で製造される。これによれば、2次再結晶は安定的に形成されたが、磁束密度はあまり高くなく、鉄損も高い。
【0006】
その後、タグチ(田口)、板倉によってAlN、MnS析出物を複合的に用い、冷間圧延率を80%以上、1回の強冷間圧延をする技術が提案されている。これによれば、強い結晶粒成長抑制剤と冷間圧延によって圧延方向への{110}<001>方位配向度を向上させて高磁束密度を得る技術であり、履歴損失が大幅に改善して低鉄損特性を得ることができる。
【0007】
一方、電気鋼板の珪素含量を増量することで、鋼板の比抵抗を高め、鋼板に流れる渦電流を抑制して鉄損を改善させる方法、2次再結晶後に鋼板に不要な不純物を除去する純化焼鈍を実施して鋼板の清浄性を高める方法、及び2次再結晶粒の大きさを適正大きさに制御して鉄損を減少させる方法が研究されている。
【0008】
珪素含量を増量する方法は、比抵抗の高い珪素を添加して鉄損改善効果を得ようとするものであるが、添加量が増加するほど鋼板の脆性は大きく増加して加工性が非常に落ち、脱炭焼鈍の際、SiO酸化層が緻密に形成されてベースコーティングの形成が難しくなる。
【0009】
また、不純物を除去する方法は、100%水素ガスを使って1200°で10時間以上純化焼鈍を実施して不純物の含量を減らすようにするものであるが、純化焼鈍は製造原価を大幅に上昇させる要因として作用する。
【0010】
そして、2次再結晶粒の粒度を制御する方法は結晶粒成長抑制剤と冷間圧延及び1次再結晶制御によって2次再結晶形成過程を調節しなければならない非常に複雑な工程であって、これまでも画期的な製造技術は開発されることができなかった実情がある。
【0011】
一方、2次再結晶粒の磁区を微細化する方法によって鉄損を改善する研究が進んで相当な技術発展がなされている。磁区を微細化する方法には、鋼板の表面にレーザーを照射して鋼板の表面に一時的な応力を付与して{110}<001>方位の磁区を微細化する方法と、鋼板の表面に一定の変形を付与して焼鈍熱処理を実施することで磁区の構造的な変化を誘導して磁区を微細化する方法とがある。このような磁区微細化方法は、最終の2次再結晶焼鈍が終わった後、最終製品に対して追加して磁区微細化処理を実施しなければならないので、製造原価を上昇させる負担が伴う。
【0012】
一般に、鋼板の厚さを減少させる技術は、冷間圧延の際に変形を引き起こして鉄損の代表的成分中の一つの渦電流損失を減らす方法である。しかし、この場合、結晶成長駆動力が増加することになり、元の結晶成長抑制剤によっては結晶成長駆動力を抑制することができなくて2次再結晶が不安定になる問題がある。
【0013】
このような結晶成長と結晶成長抑制力の均衡を取りながらも厚さを減らすためには、最終冷間圧延の際、適正の冷間圧延率で圧延しなければならないが、このような適正の冷間圧延率は結晶成長抑制剤の抑制力によって変わることになる。先にタグチが提案したAlN、MnS複合析出物を結晶成長抑制剤として用いるときには適正の冷間圧延率が約87%であり、Littmanが提案したMnSの析出物を結晶成長抑制剤として用いる場合には50〜70%の冷間圧延率が適正である。
【0014】
また一つの理由としては、2次再結晶が不均一に形成されることであり、さらに他の一つは静磁気エネルギー的な側面で厚さ減少による磁区幅が広くなって任意の交流磁場の印加の際に磁区移動が容易でないからである。
【0015】
一方、鋼板の厚さ0.1〜0.25mmの薄物方向性電気鋼板の製造において、熱延板厚の制約と最終圧延率適正化を解決するために、熱延板を10〜50%の予備冷延を実施した後、熱延板焼鈍及び冷間圧延を行う方向性電気鋼板の製造方法が提案されるが、この場合、2回の冷間圧延と2回の再結晶焼鈍によって製造原価が上昇する負担が生ずる。
【0016】
したがって、製造原価の負担を減らし、1回の強冷間圧延による結晶成長抑制力の弱化を補強するための目的でB、Tiを添加する技術が提案されている。
【0017】
しかし、Bを添加する技術の場合、微小量の添加のための製鋼段階での制御が極めて困り、添加後には鋼中に粗大なBNを形成しやすい。また、TiはTINとTiCを形成し、TINとTiCは固溶温度が1300℃より高くて2次再結晶の後にも残って鉄損をむしろ増加させる要因として作用することもある。
【0018】
結晶粒成長抑制力を向上させるためのさらに他の提案として、Sn及びSbを複合して添加し、1200℃以下の温度でスラブ加熱して熱延し、80%以上の冷間圧延と脱炭焼鈍の後にアンモニアガスを使って窒化処理する、0.23mm以下の薄物方向性電気鋼板の製造方法が提案されている。しかし、これは薄物方向性電気鋼板を製造するための非常に厳格な製造基準を提案することによって、実際の生産で1200℃スラブ加熱による熱間圧延の負担が伴い、脱炭と硝化焼鈍を分離することによって製造原価が上昇し、優れた磁気特性を確保するのに困難さがある。
【0019】
一方、鋼板の厚さが0.23mm以下であり、かつ低鉄損高磁束密度の方向性電気鋼板を製造するための合金成分系の調整と多段冷間圧延技術の外にも冷間圧延による増大した結晶成長駆動力を抑制するために微細なAlN、MnS析出物の分布を形成させることができる熱延板の焼鈍法が提案されている。この技術は酸可溶性アルミニウム含量による熱延板の加熱温度を制御しなければならないが、制御温度の範囲が非常に狭小で容易な製造に難しさがある。
【0020】
その外にも、0.23mm以下の方向性電気鋼板を製造する方法についての特許文献として、焼鈍分離剤であるMgOを静電塗布する方法と、3回の冷間圧延と3回の真空焼鈍技術、及び圧延厚さによるワークロール(Work roll)の直径変更による極薄材の製造方法について提案されている。しかし、このような技術は現在商用化されている製造技術に比べて追加の設備投資と操業ノウハウを新たに蓄積しなければならないためとても難しい技術であり、品質に対し経済性が低下する欠点がある。
【0021】
一方、方向性電気鋼板の製造において、スラブ加熱温度は、主に結晶粒成長抑制剤として用いられるAlN、MnS析出物の固溶温度に非常に密接な関係がある。
【0022】
例えば、高温スラブ加熱法は、スラブを1300℃以上の温度に加熱してAlNとMnS析出物が全て固溶されるようにする技術であり、これは全て固溶されたAlNとMnS析出物が、熱間圧延と以後の熱延板の焼鈍過程で微細に析出されるようにすることにより、強力な結晶成長抑制効果を発揮するように設計されたものである。
【0023】
これは純粋に3重量%の珪素を含む鋼板がフェライト相であると仮定したもので、この際のAlN固溶度はIWAYAMAが提案した次の式で表すことができる。
【0024】
【数1】

【0025】
これによれば、酸可溶性アルミニウムが0.028重量%、Nが0.0050重量%であると仮定した場合、IWAYAMA固溶度式による理論上の固溶温度は1258℃であり、このような電気鋼板のスラブを加熱するためには約1300℃に加熱しなければならない。
【0026】
しかし、スラブを1280℃以上の温度に加熱すれば、鋼板に低融点の珪素と基地金属の鉄化合物である鉄かんらん石(FeSiO;fayalite)が生成しながら鋼板の表面がとけるため、熱間圧延を行うことがとても難しくなり、溶けた溶融鉄のため加熱炉を補修しなければならない問題が発生する。
【0027】
このような問題を解決するために、1250℃以下の低温度でスラブを加熱する技術についての研究開発が進んでいる。例えば、スラブを1270℃以下の温度に加熱して結晶粒成長抑制剤のAlNを完全固溶させない状態に熱間圧延し、以後に熱延板の焼鈍で完全に析出させ、冷間圧延以後の工程で窒化処理を行って結晶粒成長抑制力を確保する技術が提案されている。
【0028】
このような低温スラブ加熱法は、スラブ及び熱延段階で存在する析出物を抑制剤として用いないで、後工程で窒化処理によって鋼中に入った窒素イオンが酸可溶性アルミニウムと反応して新たに析出されたAlNのみを結晶成長抑制剤として用いるため、結晶成長駆動力に比べて抑制力が劣る欠点がある。
【0029】
今まで論議した従来の技術をまとめれば、高磁束密度特性の確保のための結晶成長抑制剤の開発、及び低鉄損確保のための珪素含量、及び鋼板の清浄性を高めるための不純物除去純化焼鈍、及び最終製品に対する磁区微細化処理と、最終的な鋼板の厚さ減少、結晶成長抑制剤の補強のためのB、Ti、Sn、Sbの添加、スラブ加熱温度、及び熱延板の焼鈍制御技術が提案されているが、実際に提案された条件が厳格な生産条件であって生産工程の負担として作用し、製造原価上昇要因となり、低温スラブ加熱法の場合、結晶成長抑制力が低くて磁性の向上に限界が伴う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
本発明は、前述したような従来技術の諸般の問題点を解決するためになされたもので、高炭素含有珪素鋼スラブを用いて方向性電気鋼板のゴス集合組職を向上させ、極薄圧延性とインヒビターの熱的安全性を向上させることで、極めて優れた磁気的特性を持つ低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するための本発明の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法は、高炭素含有珪素鋼スラブを加熱して熱間圧延した後、熱延板の焼鈍と冷間圧延を実施し、脱炭及び硝化焼鈍を実施した後、2次再結晶焼鈍を実施して方向性電気鋼板を製造する方法であって、熱延板の焼鈍と同時に脱炭を行う。
【0032】
前記珪素鋼スラブは、重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:2.0〜4.5%、Al:0.005〜0.040%、Mn:0.20%以下、N:0.010%以下、S:0.010%以下、P:0.005〜0.05%を含み、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含むことが好ましい。
【0033】
また、前記珪素鋼スラブは、Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01〜0.3重量%をさらに含むことがより好ましい。
【0034】
前記珪素鋼スラブの加熱温度は1050〜1250℃であることが好ましい。
【0035】
前記熱間圧延工程は、熱間圧延されたスラブを秒当たり15℃以上で冷却し、580℃以下の温度で巻き取る工程を含むことが好ましく、前記熱延板の焼鈍温度は900〜1200℃であることが好ましい。
【0036】
また、前記熱延板の焼鈍は、熱延板を900〜1200℃に加熱した後、湿潤雰囲気で900〜1100℃に維持して実施することが特に好ましい。
【0037】
前記熱延板の焼鈍は、熱延板焼鈍された鋼板を秒当たり15〜500℃の速度で冷却する工程を含むことがより好ましい。
【0038】
前記冷間圧延は、中間焼鈍を実施しない1回の強冷間圧延によって熱延板の焼鈍後の鋼板を板厚0.20mm以下に圧延することが好ましい。
【0039】
前記課題を解決するための本発明の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板は、高炭素含有珪素鋼スラブを加熱して熱延板の焼鈍した後、熱間圧延及び冷間圧延して製造される方向性電気鋼板であって、2次再結晶焼鈍後の平均結晶粒の粒度が10〜30mmである。
【0040】
前記珪素鋼スラブは、重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:2.0〜4.5%、酸可溶性Al:0.005〜0.040%、Mn:0.20%以下、N:0.010%以下、S:0.010%以下、P:0.005〜0.05%を含み、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含むことが好ましい。
【0041】
また、前記珪素鋼スラブは、Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01〜0.3重量%をさらに含むことがより好ましい。
【0042】
前記鋼板のβ角度は3°以下であることが好ましい。
【0043】
前記鋼板は、熱延板の焼鈍と同時に脱炭が行われて製造されることが好ましい。
【発明の効果】
【0044】
本発明によれば、高炭素含有珪素鋼スラブを用いてインヒビターの熱的安全性を強化することで、強力な結晶成長抑制力を持つようにするとともに熱延板の焼鈍と同時に脱炭を行って極めて配向度が高い{110}<001>方位の2次再結晶核を提供することにより、磁気特性に極めて優れた方向性電気鋼板を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0046】
本発明者らは、方向性電気鋼板の製造において、珪素鋼フェライト上での結晶粒成長抑制剤であるAlNあるいはMnS析出物が安定的に固溶及び析出されるようにする技術に対する多くの研究と実験を繰り返えしたところ、その結果として、3%珪素鋼は純粋なフェライト領域であるが炭素を添加する量が増加するほど所定の温度領域でオーステナイト相の分率が増加し、これによりオーステナイト相でのAlN固溶度がフェライト上での固溶度に比べて最小2倍以上に向上することができることを見出した。
【0047】
よって、本発明者らは、このような炭素のオーステナイト形成元素としての役目とAlNがオーステナイト相で固溶速度及び固溶量が高い点に着眼して研究した結果、スラブに炭素を通常の含量より高い範囲、つまり最小0.10重量%から最大0.30重量%まで添加した場合、スラブ加熱温度領域でのスラブ内オーステナイト相の分率が60%以上存在することになり(Al、Si、Mn)NまたはAlNのような窒化物がスラブの加熱中に十分に固溶されること、そして熱延板の焼鈍の際、脱炭を行い冷却過程を制御することによりゴス集合組職の核生成場所を増大させることで、極めて優れた磁気特性を持つ方向性電気鋼板を製造することができることを最初に見出した。
【0048】
オーステナイト相でのAlN固溶度の式は、次のようにDarken(Fe−0.1C−0.4Mn−0.01S)とLeslie(Al−killed鋼)によって求めることができる。
【0049】
【数2】

【0050】
これによれば、酸可溶性アルミニウムが0.028重量%、Nが0.0050重量%の場合、スラブ固溶温度はそれぞれ1112℃(Darken)、1002℃(Leslie)であり、フェライト相での固溶温度1258℃より非常に低い。
【0051】
このように、スラブ内のオーステナイト相が多いほどAlNの固溶温度は低くなるので、スラブに多量の炭素を添加してオーステナイト分率を高めれば、AlNの固溶を極大化して十分な結晶粒成長抑制力を確保することができる。
【0052】
結局、スラブ加熱と熱延板の焼鈍によってオーステナイト相の形成を促進させることで、冷延後の鋼板内部に微細なAlN析出物分布を得ることができることになり、磁束密度が高く、鉄損を低めるのに有利な2次再結晶粒を得ることができる。
【0053】
また、熱延板内の0.10重量%以上0.30重量%以下の炭素によって熱延板焼鈍中にオーステナイトの量が増加し、これにより、前工程の熱間圧延によって発生した不均質で圧延方向に長く延伸された熱間圧延組職の十分な再結晶が可能なので、不均質な熱間圧延微細組職は全量消滅し、全方向に微細な結晶粒で構成されて微細な基地組職に析出物が均質に分散析出され、冷間圧延性も改善されて、1回の強冷間圧延によって板厚0.20mm以下まで圧延することも可能になる。
【0054】
また、熱延板の焼鈍と同時に湿潤雰囲気での脱炭がなされて過剰炭素が除去されるとともに表層部に存在するゴス集合組職が深部に成長してゴス集合組職の分率が大幅に増加することになり、熱延焼鈍板を急冷させることで微細で均質なオーステナイトで構成された基地組職とオーステナイト結晶粒内または粒界に存在する微細分散された析出物を常温まで保存することができる。
【0055】
一方、オーステナイト相は急冷過程で強度が非常に高い硬質のベイナイトあるいはマルテンサイト相または両相の混合変態が起こる。この際、1回の強冷間圧延の際、基地組職であるフェライトより数等強度が高いベイナイトあるいはマルテンサイトの周りに変形応力が大きく増加して鋼板の内部にせん断変形帯が増加することになり、さらに脱炭焼鈍を伴った熱延板の焼鈍によって残留されていた炭素が冷間圧延の際に転位の固着をより活性化させてせん断変形帯が増加するので、ゴス集合組職の核生成増加を誘導する効果を現す。
【0056】
せん断変形帯の内部は2次再結晶の核である{110}<001>方位の結晶粒が容易に再結晶するので、1次再結晶集合組職において{110}<001>方位の集合組職が増加し、これにより2次再結晶された{110}<001>ゴス集合組職の集積度を増加させて高磁束密度を確保することができるようにし、2次再結晶粒の大きさを減少させて極低鉄損の磁気特性を確保することができる。
【0057】
このような本発明の方向性電気鋼板は、2次再結晶焼鈍の後の結晶粒が磁性に有利な10〜30mmの適正な大きさに形成され、ゴス集合組職の核生成場所の増大によって最終鋼板のβ角度は3°以下になって極めて優れた磁気的特性を得ることができる。
【0058】
以下、本発明の成分限定の理由について説明する。
【0059】
Siは電気鋼板の基本組成で、素材の比抵抗を増加させて鉄損(core loss)を低める役目をする。Si含量が2.0%未満の場合、比抵抗が減少して鉄損特性が劣化し、高温焼鈍の際、相変態区間が存在して2次再結晶が不安定になり、4.5%を超えて含有されれば、電気鋼板の脆性が増加して圧延中に板破断がひどくなり、2次再結晶の形成が不安定になる。したがって、Siは2.0〜4.5重量%に限定する。
【0060】
Alは、熱間圧延と熱延板の焼鈍の際、微細に析出されたAlNの外にも、冷間圧延以後の焼鈍工程でアンモニアガスによって導入した窒素イオンが鋼中に固溶状態で存在するAl、Si、Mnと結合して(Al、Si、Mn)N形態の窒化物を形成することにより、強力な結晶成長抑制剤の役目をすることになり、その含量が0.005%未満の場合には、抑制剤による十分な効果を期待することができなく、0.040%を超える場合には、粗大なAlNを形成することにより結晶成長抑制力が落ちることになる。したがって、Alの含量は0.005〜0.040重量%に限定する。
【0061】
MnはSiと同様に比抵抗を増加させて鉄損を減少させる効果もあり、Siとともに窒化処理によって導入する窒素と反応して(Al、Si、Mn)Nの析出物を形成することにより1次再結晶粒の成長を抑制して2次再結晶を引き起こすのに重要な元素である。しかし、0.20%を超えて添加されれば、鋼板の表面にFeSiO以外にMn Oxideが形成されて、高温焼鈍中に形成されるベースコーティングの形成を邪魔して表面の品質を低下させることになる。よって、Mnは0.20重量%以下にする。
【0062】
NはAlと反応してAlNを形成する重要な元素で、製鋼段階において0.010重量%以下で添加すること好ましい。0.01重量%を超えて添加されれば、熱延以後の工程で窒素拡散によるBlisterという表面欠陷をもたらすことになる。AlNを形成するためにさらに必要なNは冷間圧延以後の焼鈍工程でアンモニアガスを用いて鋼中に窒化処理を実施することで補強するようにする。
【0063】
Cは本発明において重要な元素で、0.10%以上0.30%以下の炭素を添加して鋼板内オーステナイト分率を60%以上含むようにすることができる。このような高分率のオーステナイト変態によって、前工程である熱間圧延によって形成された不均質で長く延伸された圧延組職の相変態及び再結晶を活発に誘導することができ、これにより熱延焼鈍板の組職を均質で微細に制御することができる。一方、熱延板の焼鈍と同時に脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板表層部のゴス集合組職が深部に成長することになり、1次再結晶焼鈍板のゴス結晶粒の分率を増加させて最終焼鈍板のゴス集積度を増加させ、結晶粒の粒度を減少させて高磁束密度及び極低鉄損を得ることができる。
【0064】
また、所定の冷却速度制御によってオーステナイト相を強度の高いベイナイト相またはマルテンサイト相に変態させることができ、急冷によって変態されたベイナイトあるいはマルテンサイトは熱延板の焼鈍工程でオーステナイト相の核生成場所を提供して、熱延板の焼鈍熱処理の際に組職の均質化を促進することで、微細で均質な微細組職を確保することができ、それによりAlN析出物を微細にすることができ、熱延板の焼鈍が終わってから急冷させたとき、ベイナイトあるいはマテンサイトの形成を促進して、冷間圧延時の変形応力集中による{110}<001>方向への配向度が非常に高いゴス集合組職を形成することができる。一方、熱延板の焼鈍熱処理の後、鋼板内に存在する残留炭素によって冷間圧延中の転位の固着を活性化させて、せん断変形帯を増加させてゴス核の生成場所を増加させ、1次再結晶焼鈍板のゴス結晶粒の分率を増加させることになる。このような効果を得るためには、0.10重量%以上の炭素をスラブ内に含まなければならない。しかし、脱炭焼鈍工程で脱炭を充分に実施しなければ、最終製品を電力器機に適用するとき、自己時効による磁気的特性の劣化現象をもたらすことになり、スラブに炭素を0.30%を超えて含むことになれば、熱延板の焼鈍の際、十分な脱炭のために消耗される時間が増加することになり、焼鈍の時間の増加とともに表面に厚い酸化層が形成されるだけでなく、これにより脱炭遅延現象が発生するため、十分な脱炭を行うことができなくなる。したがって、Cの含量は0.10〜0.30重量%に限定することが好ましい。
【0065】
Sは0.01%を超えて含有されれば、MnSの析出物がスラブ内に形成されて結晶粒成長を抑制することになり、鋳造時にスラブの中心部に偏析して、以後の工程での微細組職を制御しにくい。また、本発明においては、MnSを主な結晶粒成長抑制剤として使うものではないため、Sが不可避に添加される含量以上に添加されて析出されることは好ましくない。
【0066】
Snは結晶粒界偏析元素で、結晶粒界の移動を邪魔する元素であるため、結晶成長抑制剤として知られている。また、{110}<001>方位のゴス結晶粒の生成を促進して2次再結晶がうまく発達するように助ける。したがって、本発明のように方向性電気鋼板を製造するのにおいてSnの役目は結晶粒成長抑制剤としてのAlN、(Al、Si、Mn)N以外にも抑制力の補強に重要な元素である。
【0067】
SbはSnと同様に結晶粒界偏析元素で、結晶成長抑制の効果があり、2次再結晶時に形成される鋼板の表面酸化層の形成を抑制することで鋼板と酸化層の密着性を向上させて鉄損を改善する効果もある。本発明においては、Sn及びSbを単独であるいは複合で添加して結晶成長抑制効果を得て、{110}<001>方位のゴス結晶粒がより多く形成するように、Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01%〜0.3重量%添加すること好ましい。
【0068】
Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01重量%より少なく添加すれば、それによる効果を得にくいし、0.3重量%を超えて添加されれば、追加投入費用による効果が低いだけでなく、粒界偏析がひどく発生して鋼板の脆性が高くなることになる。したがって、Sn及びSbは単独であるいは複合で0.01〜0.3重量%添加することが好ましい。
【0069】
PはSn及びSbと類似した効果を示す元素で、結晶粒界に偏析して結晶粒界の移動を邪魔すると同時に結晶粒の成長を抑制する補助的な役目が可能であり、微細組職の側面で{110}<001>集合組職を改善する効果がある。Pの含量が0.005重量%未満であれば添加効果がなく、0.05重量%を超えて添加されれば、脆性が増加して圧延性が悪くなるので、0.005〜0.05重量%に限定することが好ましい。
【0070】
以下、本発明の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法について説明する。
【0071】
製鋼段階で柱状晶組織である鋳造組職を緩和させ、鋳造の後、常温まで凝固するうちに析出された粗大な析出物を再固溶させるあたり、炭素含量とスラブ再加熱条件は非常に重要である。一般的に、炭素含量が高いほど相変態が活発になって鋳造組職である柱状晶組織を緩和させる効果が向上する。また、スラブ再加熱温度及び熱間圧延作業は他の鋼種と類似した温度条件で製造することが生産性の側面で有利であり、よってスラブ加熱温度は1050〜1250℃に決めることが好ましい。
【0072】
一方、方向性電気鋼板の結晶粒の安全性を確保するために、酸可溶性Alと鋼窒素の含量が非常に重要である。酸可溶性Alと鋼窒素は凝固中に(Al、Si、Mn)NやAlNを析出させる重要な元素であり、次のような含量関係によって基地の内部に固溶されるか析出されることになる。すなわち、酸可溶性Alと鋼窒素は含量によって平衡定数Ksを有し、平衡定数において右側にかたよるほど析出が活発になり、左にかたよるほど基地の内部に固溶されることになる。また、スラブ再加熱温度が平衡定数Ksより低ければ、凝固中に析出された不安定な(Al、Si、Mn)NやAlNが基地内に再固溶されることができない。
【0073】
【数3】

【0074】
一方、スラブ再加熱温度があまり低くなれば、凝固時に生成された析出物があまりにも多くて圧延性を阻害することになる。したがって、酸可溶性Alと鋼窒素は必ず制御されなければならない。ここで、酸可溶性Alは0.005〜0.040%、鋼窒素は0.010%以下にしならなければならない。
【0075】
上記のような所定の温度にスラブを加熱した後、熱間圧延を実施する。熱間圧延された熱延板の厚さは1.5〜2.5mmに形成されるようにする。熱延板の厚さが2.5mmを超えれば、熱延後の急冷過程で冷却速度が落ちて粗大な炭化物が形成されて磁性が劣化する。また、1.5mm未満の厚さに熱間圧延することは圧延負荷の増加に難しさがあり、厚さの制御が困る。したがって、熱延板の厚さは1.5〜2.5mmに形成されることが好ましい。
【0076】
ついで、秒当たり15℃以上の冷却速度で冷却し、580℃以下の温度で巻き取る。秒当たり15℃未満の冷却速度で巻き取った場合、冷却過程で粗大な炭化物が形成されて磁性が劣化し、これとともに脆弱なセメンタイト(FeC)及びフェライトの層状構造であるパーライトが形成され、拡散変態のベイナイト及び無拡散変態のマルテンサイト変態が遅延されるため、熱延板の焼鈍におけるオーステナイト相の微細化及び組職の均質性の確保が容易でなくなる。したがって、熱間圧延の後、熱延板の冷却速度は秒当たり15℃以上にすることが好ましい。
【0077】
熱延された鋼板を580℃を超える温度で巻き取れば、やはり粗大な炭化物が形成されるので、巻取温度は580℃以下に限定することが好ましい。
【0078】
熱間圧延された熱延板内には応力によって圧延方向に延伸された変形組職が存在し、熱延中にAlNやMnSなどが析出することになる。したがって、冷間圧延前に均一な再結晶微細組職と微細なAlNの析出物分布を持つためにはもう一度スラブ加熱温度以下まで熱延板を加熱して変形組職を再結晶させ、また十分なオーステナイト相を確保してAlN及びMnSのような結晶粒成長抑制剤の固溶を促進することが重要である。したがって、熱延板の焼鈍温度はオーステナイト分率を最大に持つために900〜1200℃まで加熱すること好ましい。
【0079】
このように、熱延板を900〜1200℃まで加熱した後には900℃以上1100℃以下の温度で均熱処理を行うことが好ましい。均熱処理温度が900℃未満であれば、固溶された析出物が拡散することができなくて微細に析出され、均熱処理温度が1100℃を超えれば、析出物が均一化されなくて以後の冷却過程で析出される問題が発生することになる。したがって、900℃以上1100℃以下の温度で均熱処理を行って析出物の成長駆動を強化するようにする。
【0080】
均熱処理は湿潤雰囲気で行って脱炭を同時に行うことが好ましい。これは、ゴス集合組職の核生成の増加を誘導すると同時に鋼板内の残留炭素量を減らして自己時効による品質劣化を防止するためである。
【0081】
上記のように、熱延板を焼鈍熱処理してから冷却する際には急冷処理することが好ましい。徐冷されれば、AlN及びMnSなどのような結晶粒成長抑制剤の追加析出による酸可溶性アルミニウム量が減少し、相対的に強度の高いベイナイトやマルテンサイトのような相の代わりに粗大な層状構造のセメンタイト及びフェライトの混合組職であるパーライトが形成されて、以後の冷間圧延の際に加工硬化によるせん断変形帯の形成が弱くなる。また、パーライトに炭素がセメンタイトとして存在することになるだけでなく、結晶粒界に板状や球状の炭化物が単独で存在することになって組職不均一をもたらすことになる。しかし、冷却速度が秒当たり500℃を超えれば、オーステナイト相が全部強度の高いマルテンサイト相に変態されることにより、冷間圧延工程に負荷がかかり、冷間圧延板の品質が低下することになる。
【0082】
したがって、熱延板の焼鈍は、900℃以上1200℃以下の温度に加熱した後、900℃以上1100℃以下の温度で均熱処理、かつ湿潤雰囲気で脱炭焼鈍熱処理を行った後、秒当たり15℃以上500℃以下の冷却速度で冷却することが好ましい。この際、冷却法は、空冷、水冷または油冷の方式で行うことができ、あるいはこれらの中で2種以上の方式を組み合わせることも可能である。
【0083】
熱延板の焼鈍後には、リバース圧延機あるいはタンドム圧延機を用いて、0.10mm以上0.50mm以下の厚さに冷間圧延を実施する。この際、中間に変形された組職の焼鈍熱処理を行わず、初期熱延厚さからすぐ最終製品の厚さまで圧延する1回の強冷間圧延を行うことが好ましい。1回の強冷間圧延で{110}<001>方位の集積度の低い方位は変形方位に回転することになり、{110}<001>方位への配向度が高い2次再結晶核生成の場所を増加させることにより、磁性に有利なゴス結晶粒だけ冷間圧延板に存在することになる。2回以上の圧延方法においては、集積度が低い方位も冷間圧延板に存在して最終高温焼鈍の際に一緒に2次再結晶されるので、磁束密度と鉄損が劣化することになる。よって、冷間圧延は1回の強冷間圧延で冷間圧延率90%以上に圧延することが好ましい。
【0084】
このように冷間圧延された板は、脱炭、変形組職の再結晶及びアンモニアガスによる窒化処理を行って、熱延板の焼鈍の際に基材内に固溶された酸可溶性アルミニウムと窒素を反応させて強力な結晶粒成長抑制剤である、微細で均一な分布を持つ(Al、Si、Mn)N及びAlNなどの窒化物を多量析出させて、1次再結晶粒の結晶粒の成長を抑制する効果をより増加させる。
【0085】
本発明の方向性電気鋼板の製造において炭素の役目は非常に大きいが、最終製品に炭素が多く存在すれば、時間が経つにつれて微細な炭化物を形成して鉄損を大きく増加させる自己時効現象が現れるので、1次再結晶焼鈍工程で脱炭を行って炭素を一定の水準まで除去しなければならない。
【0086】
窒化処理は、アンモニアガスをもって鋼板に窒素イオンを導入することで、主析出物である(Al、Si、Mn)Nを形成することができる。このような窒化処理は脱炭及び再結晶の後に行われるかあるいは脱炭と同時に行われるようにアンモニアガスを同時に使用して行うことができ、いずれでも本発明の効果を発揮するのに問題がない。
【0087】
脱炭及び窒化処理において、鋼板の焼鈍温度は800〜950℃の範囲内で熱処理することが好ましい。鋼板の焼鈍温度が800℃より低ければ、脱炭に時間が長くかかり、鋼板の表面にSiO酸化層が緻密に形成してベースコーティング欠陷が発生する。反対に鋼板を950℃を超える温度に加熱すれば、再結晶粒が粗大に成長して結晶成長駆動力が低下するため、安定した2次再結晶が形成されない。
【0088】
最後に、通常の方向性電気鋼板の製造の際、鋼板にMgOを基にする焼鈍分離剤を塗布した後、長期間にわたって最終焼鈍して2次再結晶を引き起こすことで、鋼板の{110}面が圧延面に平行で、<001>方向が圧延方向に平行な{110}<001>集合組職を形成して、磁気特性に優れた方向性電気鋼板を製造する。最終焼鈍の目的は、大きく見れば、2次再結晶による{110}<001>集合組職の形成、脱炭時に形成された酸化層とMgOの反応によるガラス質被膜の形成による絶縁性付与、磁気特性を害する不純物の除去である。最終焼鈍の方法としては、2次再結晶が起こる前の昇温区間で窒素と水素の混合ガスを維持して粒子成長抑制剤である窒化物を保護することで、2次再結晶がよく発達するようにすることにより、2次再結晶が完了した後には100%水素雰囲気で長期間維持して不純物を除去する。
【実施例】
【0089】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。
【0090】
[実施例1]
重量%で、Si:3.3%、C:0.15%、Mn:0.090%、S:0.003%、N:0.004%、Sol.Al:0.028%、P:0.030%、Sb:0.10%を含み、残部Feとその他の不可避に含有される不純物を含むスラブを真空溶解した後、インゴットを製作し、ついで1200℃の温度で加熱した後、厚さ2.0mmに熱間圧延し、冷却速度秒当たり50℃で巻取温度580℃まで冷却した。このように得られた熱延板を焼鈍すると同時に湿潤雰囲気で脱炭を行った。この際、熱延板の焼鈍は、1050℃に加熱した後、950℃で180秒間維持することで実施し、熱延板焼鈍された鋼板を秒当たり50℃の冷却速度で急冷させた。急冷させた熱延焼鈍板は酸洗した後、0.20mm厚さに1回の強冷間圧延を行った後、850℃の温度で多湿な水素と窒素及びアンモニア混合ガス雰囲気中で180秒間維持して、窒素含量が200ppmとなるように脱炭及び窒化焼鈍を実施した。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布してコイル状に最終焼鈍を行った。最終焼鈍は、1200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷して最終鋼板を得て試験材とした。
【0091】
一方、比較のために、一部に対しては、熱延板の焼鈍の際、脱炭を行わず熱延板の焼鈍を湿潤雰囲気ではない窒素雰囲気で実施したことのみを異にし、その他の条件は上記試験材の製造時と同様にして最終鋼板を得て比較材とした。
【0092】
また、スラブにCを0.05%含むものと、熱延板の焼鈍を窒素雰囲気で実施したことのみを異にし、その他の条件は上記試験材の製造時と同様にして最終鋼板を得て従来材とした。
【0093】
それぞれの条件に対して磁気的特性を測定して表1に示した。
【0094】
【表1】

【0095】
表1に示すように、0.15%の高炭素含有スラブを用いて熱延板の焼鈍の際に脱炭を行った試験材の場合、C:0.05%含有スラブを用い、熱延板の焼鈍の際脱炭を行わなかった従来材に比べ、鉄損と磁束密度が非常に優れた。
【0096】
比較材の場合、0.15%の高炭素含有スラブを用いたが、熱延板の焼鈍の際に脱炭を行わなかったため、最終焼鈍板の残留Cが高くて磁束密度と鉄損が劣化した。
【0097】
[実施例2]
重量%で、Si:3.2%、C:0.080〜0.321%、Mn:0.090%、S:0.003%、N:0.004%、Sol.Al:0.030%、P:0.028%、Sn+Sb:0.10%を含み、残部Feとその他の不可避に含有される不純物を含むスラブを真空溶解した後、インゴットを製作し、ついで1200℃の温度に加熱した後、厚さ2.0mmに熱間圧延し、秒当たり50℃の冷却速度で冷却した後、580℃温度で巻き取った。熱間圧延された熱延板は1050℃の温度に加熱した後、950℃で180秒間維持して熱延板の焼鈍を行い、熱延板の焼鈍と同時に湿潤雰囲気で脱炭を行った。焼鈍された鋼板は秒当たり50℃の冷却速度で急冷させ、急冷された熱延焼鈍板は酸洗した後、0.20mm厚さに1回の強冷間圧延を行った。冷間圧延された板は850℃の温度で多湿な水素と窒素及びアンモニア混合ガス雰囲気で180秒間維持して窒素含量が200ppmになるようにすると同時に脱炭窒化焼鈍を行った。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布してコイル状に最終焼鈍を行った。最終焼鈍は、1200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100%水素雰囲気で10時間以上維持した後に炉冷した。それぞれの条件に対して磁気的特性と最終鋼板平均結晶粒の粒度、最終鋼板のβ角度を測定して下記表2に示した。
【0098】
【表2】

【0099】
表2に示すように、炭素含量を本発明の範囲に属する0.1〜0.3重量%に制御した発明材は、鉄損が0.90(W17/50)以下、磁束密度が1.92(B10)以上で、本発明の範囲から外れる比較材に比べて磁気的特性が非常に優秀である。特に、炭素含量が0.3重量%を超える比較材の場合、磁気的特性が相当に劣化することが分かる。これは、過剰炭素含量によって脱炭が充分に起こらなくて最終製品の磁気的特性が劣化するからである。
【0100】
このように、炭素0.1〜0.3重量%を含むスラブを用い、熱延板の焼鈍と同時に脱炭されて製造された鋼板は、2次再結晶後の平均結晶粒が磁性に有利な10〜30mmの適正な大きさに形成された。2次再結晶後の平均結晶粒の粒度が10mm未満の場合、磁束密度が極めて低くて鉄損が非常に高くなり、平均結晶粒の粒度が30mmを超える場合においても磁束密度と鉄損が劣化した。
【0101】
さらに、炭素0.1〜0.3重量%を含むスラブを用いて熱延板の焼鈍と同時に脱炭されて製造され、2次再結晶後の平均結晶粒が10〜30mmの適正大きさに形成された発明材の場合、ゴス集合組職の核生成場所の増大効果によってゴス方位から外れた程度を示す最終鋼板のβ角度は3°未満で、従来の方向性電気鋼板に比べて数等配向性が向上、これにより極めて優れた磁気特性を持つ方向性電気鋼板を製造することができることが確認された。
【0102】
[実施例3]
重量%で、Si:3.1%、C:0.25%、Mn:0.10%、S:0.003%、N:0.004%、Sol.Al:0.028%、P:0.027%、Sn:0.10%を含み、残部Feとその他の不可避に含有される不純物を含むスラブを真空溶解した後、インゴットを製作し、ついでさまざまな温度に加熱した後、厚さ2.0mmに熱間圧延し、多様な冷却速度で冷却し、巻取温度を異にして巻き取った。熱間圧延された熱延板は多くの条件の温度で加熱して焼鈍し、冷却速度を変化させた。急冷された熱延焼鈍板は、酸洗した後、0.20mm厚さに1回の強冷間圧延を行った。冷間圧延された板は850℃の温度で多湿な水素と窒素及びアンモニア混合ガス雰囲気で180秒間維持して窒素含量が200ppmになるように脱炭及び窒化焼鈍を行った。この鋼板に焼鈍分離剤であるMgOを塗布してコイル状に最終焼鈍を行った。最終焼鈍は、1200℃までは25%窒素+75%水素の混合雰囲気で行い、1200℃に到達した後には100%水素雰囲気で10時間以上維持した後、炉冷した。それぞれの条件に対して磁気的特性を測定して下記表3に示した。
【0103】
【表3】

【0104】
表3に示すように、スラブを1250℃より高い温度に加熱した試験材Kは熱間圧延を行いにくく、1050℃より低い温度に加熱した試験材Hの場合、インヒビターの固溶が十分でなくて磁性が劣化した。
【0105】
熱間圧延されたスラブを秒当たり15℃未満で冷却した試験材Gは粗大な炭化物形成と組職の均質性低下によって磁性が劣化し、熱間圧延された鋼板を580℃を超える温度で巻き取った試験材Cはやはり粗大な炭化物形成によって磁性が劣化した。
【0106】
また、熱延板の焼鈍温度が900℃未満の試験材Aは十分なオーステナイト相が確保されないで結晶粒成長抑制剤の固溶度が低くなって磁性が劣化した。熱延板の焼鈍温度が1200℃を超過した試験材Kは冷間圧延性が落ち、磁性も劣化した。
【0107】
そして、熱延板焼鈍された鋼板を秒当たり15℃未満の速度で冷却した試験材Fにおいては、粗大な層状構造であるセメンタイトとフェライトの混合組職であるパーライトが形成されてせん断変形帯の形成が弱くなり、パーライトに炭素がセメンタイトとして存在するだけでなく、結晶粒界に板状や球状の炭化物として単独で存在することになって、組職不均一を引き起こして磁性が劣化した。熱延板焼鈍された鋼板を秒当たり500℃を超える速度で冷却した試験材Hの場合、冷間圧延が容易でなく、冷間圧延板の品質が劣化した。
【0108】
一方、本発明の範囲のように、スラブを1050〜1250℃に加熱し、熱間圧延されたスラブを秒当たり15℃以上で冷却し、580℃以下の温度で巻取し、熱延板を900〜1200℃温度で焼鈍し、熱延板焼鈍された鋼板を秒当たり15〜500℃の速度で冷却した試験材B、D、E、I、Jの場合、鉄損は0.90(W17/50)以下、磁束密度は1.92(B10)以上であって、磁気的特性が非常に優秀であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炭素含有珪素鋼スラブを加熱して熱間圧延した後、熱延板の焼鈍と冷間圧延を実施し、脱炭及び硝化焼鈍を実施した後、2次再結晶焼鈍を実施して方向性電気鋼板を製造する方法であって、熱延板の焼鈍と同時に脱炭を行う、低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項2】
前記珪素鋼スラブはC:0.10〜0.30重量%を含む、請求項1に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項3】
前記珪素鋼スラブは、重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:2.0〜4.5%、Al:0.005〜0.040%、Mn:0.20%以下、N:0.010%以下、S:0.010%以下、P:0.005〜0.05%を含み、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む、請求項1に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記珪素鋼スラブは、Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01〜0.3重量%さらに含む、請求項3に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記珪素鋼スラブの加熱温度は1050〜1250℃である、請求項1から4のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記熱間圧延工程は、熱間圧延されたスラブを秒当たり15℃以上で冷却し580℃以下の温度で巻き取る工程を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記熱延板の焼鈍温度は900〜1200℃である、請求項1から4のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板の焼鈍は、熱延板を900〜1200℃に加熱した後、湿潤雰囲気で900〜1100℃に維持して実施する、請求項1から4のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延板の焼鈍は、焼鈍された鋼板を秒当たり15〜500℃の速度で冷却する工程を含む、請求項8に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記冷間圧延は、中間焼鈍を実施しない1回の強冷間圧延である、請求項1から4のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記冷間圧延は、焼鈍された鋼板を板厚0.20mm以下に圧延する、請求項10に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板の製造方法。
【請求項12】
高炭素含有珪素鋼スラブを加熱して熱延板焼鈍した後、熱間圧延及び冷間圧延して製造される方向性電気鋼板であって、2次再結晶焼鈍の後の平均結晶粒の粒度が10〜30mmである、低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項13】
前記珪素鋼スラブはC:0.10〜0.30重量%を含む、請求項12に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項14】
前記珪素鋼スラブは、重量%で、C:0.10〜0.30%、Si:2.0〜4.5%、酸可溶性Al:0.005〜0.040%、Mn:0.20%以下、N:0.010%以下、S:0.010%以下、P:0.005〜0.05%を含み、残部Fe及びその他の不可避な不純物を含む、請求項12に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項15】
前記珪素鋼スラブは、Sn及びSbを単独であるいは複合で0.01〜0.3重量%さらに含む、請求項14に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項16】
前記鋼板のβ角度は3°以下である、請求項12から15のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項17】
前記鋼板は熱延板の焼鈍と同時に脱炭が行われて製造された、請求項12から15のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項18】
前記鋼板の板厚は0.20mm以下である、請求項12から15のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。
【請求項19】
前記鋼板の鉄損(W17/50)は0.90W/Kg以下、磁束密度(B10)は1.92T以上である、請求項12から15のいずれか一項に記載の低鉄損高磁束密度方向性電気鋼板。

【公表番号】特表2013−505365(P2013−505365A)
【公表日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−530776(P2012−530776)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【国際出願番号】PCT/KR2010/006396
【国際公開番号】WO2011/040723
【国際公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【出願人】(592000691)ポスコ (130)
【Fターム(参考)】